アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández)(米)

2015年6月28日掲載、2026年6月23日(火)更新

長文注意】。フェルナンデスはアルゼンチン出身の研究者である。米国のイェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得後、大阪大学を含む数か国の研究機関を経て、2006年(49歳)に米国のライス大学(Rice University)の教授に就任した。

2009年(52歳)、研究不正が発覚し、ライス大学が調査を実施。翌2010年、大学はクロと認定し、研究公正局(ORI)に調査報告書を送付した。しかし、ライス大学は、不正を正式には公表しないという条件でフェルナンデスと和解を結び、その一環として2011年(54歳)に彼は同大を退職した。

その後11年間は進展がなかったが、2022年(65歳)、研究公正局は一度終結したとみられていた本件の調査を再開した。2026年4月30日(69歳)、研究公正局はフェルナンデスが「12報の論文、4本の未発表原稿、1件のプレゼンテーション、3件の研究費申請書」においてデータを捏造・改ざんしていたと公式に発表し、15年間の資格停止処分を科した。

11年後のネカト調査再開には異様な背景があると噂されている。フェルナンデスは2021年5月の論文で、「米国政府が支援し、中国の研究所で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を作せた」と指摘していた。フェルナンデスのこの指摘を隠蔽・おとしめ、フェルナンデスを迫害する目的で、11年前の研究不正(ネカト)を公表したという「国家的な陰謀」という噂である。というのは、ライス大学との「完全和解」、ライス大学・元学部生による「調査不正」の証言、健康福祉省(HHS)の行政法裁判官(administrative law judge)絡みでの調査再開など、不自然なことが多いからである。もちろん、研究公正局はこれらの関連を否定している。一連の事案による国民の損害額(社会的・経済的損失)は、10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.導入
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚・調査の経緯
 《1》人生
 《2》研究不正発覚と調査:2009年
 《3》数報の不正論文
 《4》研究公正局の再調査:2022~2025年
 《5》「国家の陰謀」説
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【導入】

アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez、https://orcid.org/0000-0002-5102-4294、写真出典)はアルゼンチン出身で米国のイェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、日本の大阪大学を含め、アルゼンチン、ドイツ、米国の数か所の大学・研究所を転々とした後、2006 年(49歳)に米国のライス大学(Rice University)・教授になった。

専門は化学だが、細目は医薬デザイン学で生命科学との関係が深い。

2015年6月28日に白楽記事として掲載した時は、。「「生命科学」(除・米国・日本)一覧表」のアルゼンチン枠で扱ったが、2026年4月30日、米国の研究公正局がクロと判定したので、更新版では「「生命科学」(米国)一覧表」に記載した。「「生命科学」(除・米国・日本)一覧表」のアルゼンチン枠での記載も更新し、残した。

フェルナンデスは医師ではない。タンパク質の相互作用を引き起こす脱水元(デハイドロンdehydron)の概念を確立し、医薬デザインに適用し、複数の有力な特許を持っている。300報以上の学術論文を発表している。

2026年4月30日(69歳)、ライス大学の調査をもとに、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ライス大学・教授だったアリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)が、「12 報の論文、4 本の未発表の原稿、1件のプレゼンテーション、3 件の研究費申請書」でデータを捏造・改ざんしたと発表した。

2026 年 3 月 25 日から15年間の締め出し処分を科した。15年間の処分は極めて重い処分である。

ライス大学(Rice University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:アルゼンチン、米国
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のイェール大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1957年4月8日
  • 現在の年齢:69歳
  • 分野:医薬デザイン学
  • 不正期間:2005~2009年(47~52歳)の5年間
  • 不正時地位:ライス大学・教授
  • 発覚年:2009年(52歳)
  • 発覚時地位:ライス大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は院生のアビナフ・ティワリ(Abhinav Tiwari)で、盗用をライス大学に通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ライス大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書(92ページのライス報告書)のウェブ上での公表:なし。なお、調査内容の詳細は公表されている: Office of Research Integrity, DAB CR6690 (2025) | HHS.gov
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:捏造・改ざん・盗用
  • 不正論文数:1論文が撤回。他の11論文の訂正または撤回を研究公正局が要請。「パブピア(PubPeer)」では1988~2021年(31~64歳)の31論文にコメントがある
  • 時期:研究キャリアの初期・中期・後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった。移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:ライス大学と和解して退職
  • 対処問題:①研究公正局の2022年の再調査は異常。②マーガレット・ブレイクブッシュ行政法裁判官(Margaret G. Brakebusch)の2025年の判決も異常
  • 特徴:①ライス大学が調査を終えた2009年から17年後に研究公正局の正式発表。②フェルナンデスの指摘を隠蔽・おとしめ、フェルナンデスを迫害するための「国家の陰謀」? ③ 詳細な調査内容が公表され、調査の実態がわかりやすい: Office of Research Integrity, DAB CR6690 (2025) | HHS.gov(28ページ)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:(1)Ariel Fernandez | LinkedIn、(2)Ariel Fernandez Stigliano CV、(3)Ariel Fernández Stigliano, Ph. D.* Curriculum Vitae、(4)Ariel Fernandez Stigliano CV

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アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)、写真出典不明
  • 1957年4月8日:アルゼンチンで生まれる
  • 1979年(22歳):アルゼンチンのナシオナル・デル・スール大学(Universidad Nacional del Sur)で学士号:化学
  • 1980年(23歳):アルゼンチンのナシオナル・デル・スール大学(Universidad Nacional del Sur)で学士号:数学
  • 1981~1984年(24~27歳):米国のイェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得した:化学物理学。指導教授はトルコ人理論化学者のオクタイ・シナノグル(Oktay Sinanoğlu)で、博士論文のタイトルは「Structural Stability of Chemical Systems at Critical Regimes」だった。
  • 1984年(27歳):ドイツのマックス・プランク生物物理化学研究所(Max Planck Institute for Biophysical Chemistry)・研究員。ボスは、1967年ノーベル化学賞受賞者のマンフレート・アイゲン(Manfred Eigen)。
  • その後、米国のマイアミ大学(University of Miami)、アルゼンチンのナシオナル・デル・スール大学(Universidad Nacional del Sur)、ドイツのマックス・プランク生化学研究所(Max Planck Institute of Biochemistry)、米国のシカゴ大学(University of Chicago)、日本の大阪大学(Osaka University)、米国のインディアナ大学医科大学院(Indiana University School of Medicine)、米国のモーグリッジ研究所(Morgridge Institute for Research)、台湾の国立清華大学(National Tsing Hua University)などで研究を続けた
  • 1988~2021年(31~64歳):この5年間の31論文に「パブピア(PubPeer)」のコメントがある
  • 2005~2009年(47~52歳):この5年間の論文や研究費申請書などが、後に不正都認定された
  • 2005 年12 月(48歳):3か月後に撤回される「2006年1月のProc. Natl. Acad. Sci. USA」論文を出版
  • 2006 年(48歳):米国のライス大学(Rice University)・教授
  • 2006 年3月14日(48歳):「2006年1月のProc. Natl. Acad. Sci. USA」論文が撤回
  • 2009年5 月(52歳):研究不正が発覚し、ライス大学が調査を始めた
  • 2010 年(53歳):ライス大学が調査を終えた
  • 2010 年(53歳):医薬品・バイオテクノロジー関連のコンサルティング会社であるAF Innovation社を設立し、社長に就任。同社の研究部門であるDaruma Institute for Applied Intelligenceの責任者
  • 2010年6月30日(53歳):研究公正局は、ライス大学のネカト調査報告書を受領
  • 2010 年7月15日(53歳)、ライス大学とフェルナンデスは和解した
  • 2011 年5月15日(54歳)以前:和解に基づき、ライス大学はフェルナンデスの処罰を保留し、ライス大学は24 万ドル(約2400万円)をフェルナンデスに払い、フェルナンデスは退職した
  • 2020年3月11日~2023年5月:コロナウィルスのパンデミック
  • 2021 年5月(64歳):フェルナンデスは、「2021 年5月のACS Med Chem Lett.」論文で、コロナウィルス(SARS-CoV-2)は、実験室で遺伝子操作して作成されたと報告
  • 2022 年(65歳):研究公正局は、
  • 2022 年(65歳):研究公正局はフェルナンデスが「12 報の論文、4 本の未発表の原稿、1つのプレゼンテーション、3 件の研究費申請書」でデータを捏造・改ざんしたと判断
  • 2026年4月30日(69歳):研究公正局が研究ネカトを発表
  • 2026年6月22日(69歳)現在:AF Innovation社・社長。同社の研究部門であるDaruma Institute for Applied Intelligenceの責任者

★褒章リスト
2006年:Elected Fellow of the American Institute for Medical and Biological Engineering
1995年:Guggenheim fellowship
1991年:Camille and Henry Dreyfus Teacher-Scholar
1989年:Camille and Henry Dreyfus Distinguished New Faculty

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。 

【動画1】
動画:「Ariel Fernandez: Science at the rescue of the pharmaceutical industry– YouTube」(英語)8分48秒。
Ariel Fernandez (チャンネル登録者数 19人)が2013/11/23 に公開

【動画2】
動画:「Biophysicist Ariel Fernandez revisits human evolution from a molecular perspective– YouTube」(英語)19分29秒。
Ariel Fernandez(チャンネル登録者数 19人)が2013/10/01 に公開

●5.【発覚・調査の経緯】

《1》人生

★研究人生

アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez、写真出典)は、はアルゼンチン出身で、米国のイェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、日本の大阪大学を含め、アルゼンチン、ドイツ、米国の数箇所の研究機関を転々とした後、2006 ~2011年(49~54歳)の5年間、米国のライス大学(Rice University)・教授だった。

アルゼンチンと米国の二重国籍を持っている。

★獲得研究費

アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)は、NIHから2005~2008年の4年間に4件、計1,163,736ドル(約1億1600万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Ariel Fernandez

以下にその4件の具体例を示す(出典は上記)。しかし、これらは15年間もの資格停止(締め出し)処分を科されるほど、膨大な金額とは言い難い。これについては後述の「《5》「国家の陰謀」説」で詳しく検証するが、果たしてフェルナンデスは国家的な陰謀に巻き込まれたのだろうか?

《2》研究不正発覚と調査:2009年

★ 院生のアビナフ・ティワリ(Abhinav Tiwari)

アビナフ・ティワリ(Abhinav Tiwari、写真出典)はインドの大学の学部を卒業後、2007年、米国のライス大学の大学院に進学した。

フェルナンデスとの共著論文は以下の「2009年1月のDrug Discov Today」論文が1報あるだけだ。

2009 年5 月(52歳)、フェルナンデスと院生のティワリは、抗がん剤の併用療法による治療効果に関する論文原稿(『Trends in Pharmacological Sciences』誌に投稿予定)の修正作業を行なっていた。その際、ティワリは当時海外に滞在していたフェルナンデスから、論文に挿入する図表のパワーポイントファイルを受け取った。

図表の割り振り作業を進める中、ティワリは画像がコピー&ペースト(流用)されていることに気がついた。さらに、論文の仮説と矛盾する別の画像も見つかった。

ティワリがこの問題をメールで指摘すると、フェルナンデスは「論文原稿に書いてある結果は正しいので、そのまま原稿提出作業を進めるよう」指示した。

フェルナンデスは、図表の実験を行なったのは「彼ら」という共著者以外の第三者だと説明した。

以前、フェルナンデスから「実験は製薬大手のイーライ・リリー社(Eli Lilly)で行なわれた」と聞いていたティワリは、「彼ら」とは同社の研究者のことだと解釈した。

しかし、不審に思ったティワリが他の図表も精査したところ、多くの図表が、異なる研究者によって発表された無関係な論文から盗用していたことがわかった。

なお、フェルナンデスはこれとほぼ同じ内容の原稿を同年(2009 年)に「Nature Biotechnology」誌に投稿し、不採択となっていた。

ティワリはさらに数値の捏造も発見し、ライス大学・生物工学科長のジェニファー・ウェスト教授(Jennifer West、写真出典)に「フェルナンデスが他人の論文画像を盗用している」と相談した。

事態を重く見たウェスト教授が、同大の研究公正官(RIO)で研究担当副学長であるジェームズ・コールマン(James Coleman)に報告した。それで、ライス大学は公式なネカト調査を開始した。

★ ネカト調査

2009年5月19日頃(52歳)、フェルナンデスは依然として海外出張中であったが、コールマン研究公正官は学内の情報セキュリティ部門に対し、フェルナンデスの研究室およびオフィスのコンピュータに保存されているデータが削除・改変されないよう、保全措置(デジタルフォレンジック)するよう指示した。

また、フェルナンデスが帰国した際のノートパソコンに保存されているデータも同じように保全措置するよう指示した。

2009年5月から2010年4月にかけて、ライス大学の情報セキュリティ部門は、ミラーリングされたデータやライス大学のサーバーやネットワークのバックアップから、フェルナンデスおよび一連の不正に関連する電子データをすべて収集した。

さらに調査の一環として、コールマン研究公正官 は、 2007年9月以降にフェルナンデスとティワリ、イーライ・リリー社(Eli Lilly)、フェルナンデスと共同研究していたMDアンダーソンがんセンターとの間で交わされたすべてのメールのコピーを確保した。

2009 年 6 月 1 日頃(52歳)、コールマン研究公正官はフェルナンデスに書簡を送り、『Nature Biotechnology』『Cancer Research』『Trends in Pharmacological Sciences』などの主要誌に投稿・掲載された論文に研究不正の疑いがあると通告し、実験記録やその他の関連資料の提出を求めた。

2009 年 9 月 8 日(52歳)、ライス大学のユージン・レヴィ(Eugene H. Levy)学長は、フェルナンデスの複数の著作物においてデータの改ざん、捏造、盗用の疑いがあるとして、公式な研究不正調査委員会を設置した。

委員長は同大学の生化学・細胞生物学部のセイイチ・マツダ教授(Seiichi Matsuda、日系2世?、写真出典)だった。

翌2010 年(53歳)、ライス大学・調査委員会は調査の結果、「フェルナンデスが意図的に研究内容を捏造・改ざん、盗用していた」と結論した。

2010年6月30日(53歳)、研究公正局は92ページに及ぶライス大学のネカト調査報告書を受領した。そこには、研究不正行為が反復的かつ意図的に行なわれていた事実が克明に記載されていた。

2010年8月(53歳)、ライス大学はフェルナンデスの調査で収集したすべてのデータ(ハードディスクに保存されていて保全措置したファイル)を研究公正局(ORI)に提供した。

★ 和解

2010年7月15日(53歳)、ライス大学とフェルナンデスは突如として和解した。

開示された和解文書によると、大学側は「フェルナンデスが不正を認めていないこと」を了解した上で、研究不正調査を終結させ、追加の調査結果の非公表、教員懲戒手続きの停止、および解雇勧告を含む最終報告書の学長への提出を見送ることを決定した。つまり、大学側はこれ以上の追及を放棄し、フェルナンデスの責任を全面的に免除する形をとったのである。

ただし、この和解が成立した時、大学側はすでに最終調査報告書を研究公正局に提出してしまっていた。そのため、和解書には「研究公正局が独自に調査や措置を講じる権利を妨げない」旨が、ライス大学とフェルナンデスの合意事項として書き添えられていた。

その後、2011年5月15日までに、和解条件に基づきライス大学は24万ドル(約2400万円)の解決金をフェルナンデスに支払い、フェルナンデスはライス大学を退職した。

なお、フェルナンデスは、「化合物の合成データを捏造したのはティワリであり、ティワリが大学関係者と共謀して自分を陥れた」と主張し続けた。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得た和解文書(2010年7月15日サイン)の冒頭部分(出典:同)。全文(9ページ)は → 
https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2026/03/SETTLEM-FERNANDEZ-RICE_Redacted.pdf

★シーン・セッセル(Sean Sessel)の生々しい証言

大学側の結論とは真逆に、当時フェルナンデス研究室の学部生だったショーン・セッセル(Sean Sessel、写真出典)は、大学側の調査が「政治的な意図を持った不当な迫害である」とする生々しい証言(宣誓供述書)(2023年2月24日~2010年6月16日)を遺している。

セッセルはその後、学術界を去り、最後に証言した2023年時点では、金融・コンサルティング分野の起業家として活動していた。

ショーン・セッセル(Sean Sessel)はフェルナンデスと2報の共著論文がある。1番目の「2009 年8月のTrends Pharmacol Sci.」論文は、2026年4月30日(69歳)に研究公正局が12報のネカト論文としたその12番目の論文である。

  1. Selective antagonism of anticancer drugs for side-effect removal.
    Fernández A, Sessel S.
    Trends Pharmacol Sci. 2009 Aug;30(8):403-10.
    doi: 10.1016/j.tips.2009.06.001.
    PMID: 19595465
  2. Selectivity filters to edit out deleterious side effects in kinase inhibitors.
    Sessel SFernández A.
    Curr Top Med Chem. 2011;11(7):788-99.
    doi: 10.2174/156802611795165089.
    PMID: 21291393 Review.

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得たショーン・セッセル(Sean Sessel)の証言集(最初の日付けは2023年2月24日とあるが、4ページ目は2013年8月29日、8ページ目は2010年6月16日などいくつもある)の冒頭部分(出典:同)。全文(8ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2026/03/R.-Ex.-37-WITNESS-SEAN-SESSEL-TESTIMONY-AFFIDAVIT.pdf

セッセルは当時、ライス大学の学部生でフェルナンデスの研究チームで研究していた。

院生のティワリが問題視した論文原稿の実験は「ティワリ、自分(セッセル)、フェルナンデス」の3名のみで進められていたと明言した。

共著者としての義務を果たすため、セッセルは論文の出版準備段階でデータの妥当性を検証していた。その状況で、「実験データの実務を担当していたのはティワリである」とし、「ティワリがデータをでっち上げ、フェルナンデスを陥れた」とするフェルナンデス側の主張を全面的に支持した。

ライス大学がフェルナンデスに対して行なった調査は、一部の大学関係者がフェルナンデスを嫌っていたことが調査の背景にあったためだと、セッセルは述べている。つまり、フェルナンデスのネカト調査は「政治的な目的」で行なわれた不当な調査だと大学の調査委員会を痛烈に批判した。

以下、セッセルの証言を少し細かく見ていこう。

「この研究プロジェクトにおいて、フェルナンデス博士自らが実験を行なうなどということは、私が理解している研究分担の観点からはあり得ません。大学の調査委員会でこの件について尋ねられたときにもそう証言したが、彼らは私の言葉を完全に無視しました」

「私は大学の調査姿勢に激しい憤りを覚えています。これは私の短い研究者人生で経験した最悪の腐敗行為で、私がアカデミアを去った決定的な理由です。調査委員会は私の証言を変えさせよう・歪めようとしました。私は強要さえ受けました。ライス大学調査委員会との面談記録(R. Ex. 32、C. L. Ex. 108)や、ライス大学の様々な関係者との面談後、私が送ったフォローアップの手紙をご覧いただければ明らかです。また、これらの面談で、私は元研究公正局の職員が関与する腐敗行為を目撃しました。」

「彼らは、私がフェルナンデス博士の無実を支持する発言をすると、その文脈を勝手に変更し、私が自己矛盾しているかのように仕立て上げました。矛盾しているのは、私の発言ではなく、彼らの邪推な解釈の方です。私は自己矛盾などしていません。矛盾は、私が誰を指しているかを彼らが勝手に変えようとしたことから生じているのです。」

「さらに、極めて偏った尋問(客観的な調査をする調査委員というより、証人を操作しようとする検察官に近いもの)に直面しました。証明できないことを認めざるを得なかった際にも、彼らは歪曲しました(そもそも証明できないことなのにです)。そして、私が提供した証拠を排除する手段として、それらを利用したのです」。

「この調査自体が滑稽極まる全くばかげた調査です。フェルナンデス博士が治療の概念(理論)を開発し、ティワリがそれを裏付ける実験を行なうという役割分担は、私の目の前で割り当てられました。私は、フェルナンデス博士がティワリと私にその役割を割り当てたのを、インタビューで何度も述べた通り、直接目撃しました。これは、インタビューの35ページの最初の段落で述べた通りです。ティワリ自身も『自分が実験を行なっており、博士は行なっていない』と何度も口にしていました。」

「それなのに、今のティワリは『自分は一切データを取っていない』と主張しています。少し考えてください、ティワリは実験をせずにどうやって博士号を取るつもりだったのか?  この辻褄を合わせるのには、何らかの陰謀があったとしか考えられません」

「ティワリは、生物工学科長のジェニファー・ウェスト博士や調査委員会と結託して嘘をついている。ウェスト博士がフェルナンデス博士の研究グループのメンバーを集めて各メンバーの研究役割を確認すれば、この問題は数分で解決したはずです。ティワリがプロジェクトに関与していないと答えた時、ウェスト博士が当然尋ねるべき質問は、『では、あなたはライス大学で何をしていたのですか?』だったはずだ。」

「あらゆる状況から見て、内部告発者(ティワリ)が嘘をついている。追及されるべき事案など存在せず、今すぐこの調査を終結させ、共謀者たちを訴追すべきだ。」

セッセルのこの驚くような証言が採用されていない。この証言が事実であれば、ライス大学の調査そのものが「捏造」だったことになる。

[白楽の感想:一般的に、証言が採用されていないと不満を述べる記述は多い。①調査員が意図的に操作(曲解、捏造、改ざん)した。②証言者の主張を認められない妥当な理由がある。どちらなのか、わからない]

★ 後述する

後述するように、研究公正局が最終的にフェルナンデスの研究不正を公式発表し、15年間の締め出し処分を下したのは2026年4月30日である。ライス大学が調査を終えた2010年から、実に16年もの歳月が経過している

一般的に研究公正局の調査には数年を要することが多く、「対応が遅すぎる」という批判は絶えない。しかし、大学の報告書受領から最終処分までに16年を費やしたケースは、米国の研究不正史上でも極めて異例、あるいは最長記録と言える。

というか、異常である。

このあまりにも長すぎる空白期間は、単なる行政の遅滞という枠を超えており、背後に何らかの「意図」や「力学」が働いていたのではないかという疑念を抱かせるのに十分な「異常」である。

《3》数報の不正論文

《3》数報の不正論文」はスキップしても問題ナシ。

ストーリーは途中だけど、ここで、不正と指摘されたアリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez、写真出典不明)の数報の論文のことを書いておこう。

(1)二重出版:2005年

2005 年12 月(48歳)、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)は、「2006年1月のProc. Natl. Acad. Sci. USA」論文を出版した。

フェルナンデスの所属は、①ライス大学、②米国のインディアナ大学医科大学院(Indiana University School of Medicine)、③米国のシカゴ大学(University of Chicago)の3箇所だった。

この論文は、出版3か月後の 2006年2月27日に撤回された。 → 撤回公告

撤回理由は、論文の図表と本文の内容が「2005 年 12 月のStructure」論文と 大きく重複していた。つまり、二重出版だった。

(2)「2011年12月のBMC Genomics」論文:2013年騒動

2013年4月17日(56歳)、「BMC Genomics」誌はフェルナンデスの「2011年12月のBMC Genomics」論文に対して「訂正:懸念表明(Erratum to: Expression of concern)」を発表した。 → 訂正:懸念表明告示

フェルナンデスの所属は、①アルゼンチンのアルベルト・カルデロン数学研究所(Instituto Argentino de Matematica “Alberto P. Calderon”)、② 米国のシカゴ大学(University of Chicago)、③米国のモーグリッジ研究所(Morgridge Institute for Research)の3箇所だった。

訂正:懸念表明の理由は、フェルナンデスの所属機関が複数記載されているが、所属機関の1つでは論文結果が再現できないが、他の2つの所属機関では不正疑惑はない。所属機関の間で矛盾があるので研究記録を信頼できない。  → 訂正:懸念表明告示

どうして、「BMC Genomics」誌の編集委員が上記のことに気が付いたか? 明確な記述はない。推察するに、フェルナンデスが所属した研究機関の研究者が「結果が再現できない」と公益通報したのだろう。

2013年4月19日(56歳)、「撤回監視(Retraction Watch)」が上記の「懸念表明(expression of concern)」を記事にした。 → 2013年4月19日記事:“Conflicting investigations” prompt expression of concern in BMC Genomics – Retraction Watch

2013年4月22日(56歳)、フェルナンデスは、「懸念表明(expression of concern)」は論文撤回ではないので、サイトから自分の記事を削除するように、「撤回監視(Retraction Watch)」に要求した。

そして、もし、明日の午前 10 時までに、中傷的な発言や嘘を削除しない場合、警告なしで民事裁判所および刑事裁判所に訴えると、脅かした。 → 2013年4月22日記事: Retraction Watch threatened with legal action…again – Retraction Watch

「撤回監視(Retraction Watch)」は、「懸念表明は論文撤回ではないことはわかっています。自分たちは、事実を報告しただけです。間違っているなら、喜んで修正します。それで、間違っている点を具体的に知らせてください。なお、gmailアドレスだと本人だと確認しにくいので、所属機関のアドレスから送信してください」と返事している。

白楽の感想:「撤回監視(Retraction Watch)」を脅迫したことで、「雉が鳴いて」しまい、注目を集めてしまった。それも、フェルナンデス自身が望まない方向にである。フェルナンデスはポイントを外しました】

2013年10月17日(56歳)、「撤回監視(Retraction Watch)」は、「フェルナンデスが複数の論文の訂正を行なった」という記事を発表した。 →  2013年10月17日記事:Researcher who threatened Retraction Watch with lawsuit corrects funding source for several papers – Retraction Watch

(3)「2011年5月のNature」論文:2014年

2014年12月18日(57歳)、「Nature」誌もフェルナンデスの「2011年5月のNature」論文に対して、「懸念表明(expression of concern)」を発表した(Editorial Expression of Concern: Non-adaptive origins of interactome complexity : Nature : Nature Publishing Group)。

共著者のマイケル・リンチ(Michael Lynch)は、本論文のデータに信頼を置けないので、共著者から自身の名前を削除してほしいと希望した。フェルナンデスが独自の統計分析を行ない、データは妥当だと述べている。両者の見解の相違は解釈の違いに起因するとフェルナンデスは主張している。

(4)「2008年1月のPLOS Genetics」論文:2015年

2015年1月(57歳)、「PLOS Genetics」誌も「2008年1月のPLOS Genetics」論文の調査を始めた。

そして、 2015年9月14日、データと結論の信頼性に問題があると、懸念表明を付けた。 → 懸念表明公告

★ その他

2016年1月23日(58歳)、フェルナンデスは、「過去数年間に私の4論文が批判された。しかし、不正なデータだという証拠は報告されていない」と表明した(Ariel Fernandez Disclaimer)。
白楽の感想:そんなこと、わざわざ言うことないのに】

2016年5月2日当時(59歳)、フェルナンデスの20報以上がパブピアで問題視されていた(2026年6月22日現在は31報)。

なお、研究資金に関して、フェルナンデスは、2012年以降、大学や研究所に所属していないし、NIHからの助成金も受領していない。となると、どこから研究資金を得ていたのか?

フェルナンデスは、アリエル・フェルナンデス・コンサルタント社(Ariel Fernandez Consultancy)など、自分が起業した複数の組織を持っていて、特許収入で研究開発している。こうなると、優秀な特許を開発できれば、怖いものナシ。

patent医薬デザインの有力な特許の1つ。出典

《4》研究公正局の再調査:2022~2025年

前述したように、2009年(52歳)、ライス大学・調査委員会は調査の結果、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez、写真出典が意図的に研究内容を捏造・改ざん、および盗用したと結論した。

翌2010年6月30日(53歳)、研究公正局は92ページに及ぶライス大学のネカト調査報告書を受領した。

それから12年後[白楽注:2年の間違いではない]の2022 年(65歳)、研究公正局は、同報告書に基づき独立した調査を行ない、フェルナンデスが「12 報の論文、4 本の未発表原稿、1件のプレゼンテーション、3 件の研究費申請書」でデータを捏造・改ざんしていたと認定した。

研究公正局は、健康福祉省(HHS)に対し、フェルナンデスに15 年間の研究活動禁止処分を科すよう提案した。

2022年11月9日(65歳)、フェルナンデスは研究公正局からこの決定を通知する書面を受け取った。その通知書には、研究公正局が認定した以下の不正行為の詳細が記されていた。

不正の対象となったのは、彼が研究していた「Entropy Jolt」「SUDE(スニチニブ由来の酵素)」「Wrapper 1」「Wrapper 2」「化合物 9」「化合物 10」という6種類の新規化合物に関する研究結果である。

具体的には、分光光度法による動態解析、キノームスキャン、細胞増殖試験、吸着・脱着試験、ATP生成量測定などのデータで捏造・改ざんだった。さらに、ウェスタンブロットや共焦点顕微鏡の画像についても、複製、加工、再ラベル付けといった手法によるデータの捏造・改ざんも指摘した。

また、研究公正局の通知書は、対象となった12報の論文のうち、すでに撤回されていた1報を除く11報について、撤回または訂正を行なうよう関連する学術雑誌に求める内容となっていた。

これに対しフェルナンデスは、2022年12月6日に口頭審理の開催請求と30点の証拠資料(R. Exs. 0-29)を提出した。さらに同年12月19日には、追加の主張と4点の証拠資料(R. Exs. 30-33)を提出して争う姿勢を示した。

なお、本案件は行政法裁判(DAB)へと持ち込まれ、2年間のうちに健康福祉省(HHS)の3人の行政法裁判官(administrative law judge:ALJ)が入れ替わりで担当した。

まず、2022年12月7日、キャロリン・コザッド・ヒューズ裁判官(Carolyn Cozad Hughes)が本案件の担当に任命された。 → 2022 年 12 月 7 日:NOTICE OF ALJ APPOINTMENT AND ORDER SCHEDULING INITIAL PREHEARING CONFERENCE

その後、カレン・ロビンソン裁判官(Karen Robinson)に引き継がれ、最終的に2024年12月4日、マーガレット・ブレイクブッシュ裁判官(Margaret G. Brakebusch)へと引き継がれた。 → 2024 年 12 月 4 日: Judge_Robinson_TRANSFER-LETTER-December-4-2024.pdf

そして、2025年5 月22日(68歳)、マーガレット・ブレイクブッシュ行政法裁判官(Margaret G. Brakebusch)は、口頭審理は「不要」と判断し、次の判決を下した。

判決では、研究公正局の報告書は反論の余地のない事実によって裏付けられていると指摘し、フェルナンデスがライス大学の教授在任中に、論文や研究助成金申請書などで研究結果を捏造・改ざんしていたと結論した(以下はその文書の冒頭部分)。 → Office of Research Integrity, DAB CR6690 (2025) | HHS.gov(28ページ)

ブレイクブッシュ裁判官は、フェルナンデスのこれら一連の不正行為により、NIHの公的資金が無駄になったと言及し、健康福祉省(HHS)に対して2022年に研究公正局が提案した制裁措置を承認するよう勧告した。

この制裁には、アルゼンチン出身の化学者であるフェルナンデスに対する、15年間の連邦政府資金(研究費など)の提供禁止処分が含まれていた。

このように、2022年になって12年前の調査結果を持ち出し、後述するように2026年になってようやく研究公正局が正式な「クロ判定」を発表した。

極めて異例である。

なぜ12年もの間放置されていた案件が、2022年になって再調査されたのかは大きな疑問が残る。

この背景については、次節の「《5》「国家の陰謀」説」で詳しく述べるが、フェルナンデスが国家的な陰謀に巻き込まれた可能性は否定できない。

次節に入る前に、研究公正局が公式に発表したフェルナンデスのネカト行為の具体的内容を次項に整理しておこう。

★研究公正局の発表

2026年4月30日(69歳)、研究公正局は、以下のように、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)に関する研究不正を公式に発表した。 → 2026年4月30日:Case Summary: Fernandez, Ariel | ORI – The Office of Research Integrity

発表によると、フェルナンデスはライス大学在籍中に「12報の論文、4本の未発表原稿、1件のプレゼンテーション、3件の研究費申請書」でデータを捏造・改ざんしていた。

その内容は、6種類の新規化学物質に関するデータの捏造・改ざんや、ウェスタンブロットおよび共焦点顕微鏡画像の人工加工(捏造・改ざん)だった。

そして、研究公正局は、フェルナンデスに対して2026年3月25日から15年間の追放処分(連邦政府資金受給資格の停止)を科すとともに、掲載された11本の論文を撤回または訂正するよう学術誌へ要請することを決定した。

以下は、不正が認定された具体的な対象リストである。

12 報の論文:2005~2009年、(以下は研究公正局の発表のほぼそのまま)
「撤回監視(Retraction Watch)」がまとめた撤回または訂正が必要な11 本の論文リスト。 → Works by Ariel Fernandez involved in research misconduct allegations by ORI

  1. Structure 2005;13:1829-36. doi: 10.1016/j.str.2005.08.018 (hereafter referred to as “Struct05”). Notice of addendum and supporting information: Structure 2006;14:947.  doi: 10.1016/j.str.2006.05.006 (“Struct05 Addendum”).
  2. この論文だけ撤回済:Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006;103:323-8. doi: 10.1073/pnas.0509351102 (hereafter referred to as “PNAS06”). Retraction in: Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006;103:4329.  doi: 10.1073/pnas.0601034103.
  3. J. Med. Chem. 2006;49:3092-100. doi: 10.1021/jm060163j (hereafter referred to as “JMC06”).
  4. Biomol. Eng. 2006;23:307-15. doi: 10.1016/j.bioeng.2006.09.004 (hereafter referred to as “BioE06”).
  5. Cancer Res. 2007;67:4028-33. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-07-0345 (hereafter referred to as “CR07”). Correction in: Cancer Res. 2013;73:6375. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-13-2601.
  6. Front. Biosci. 2007;12:3617-27. doi: 10.2741/2338 (hereafter referred to as “FBS07”).
  7. J. Phys. Chem. B 2007;111:13987-92. doi: 10.1021/jp074479u (hereafter referred to as “JPCB07”).
  8. Mol. Pharm. 2008;5:430-7. doi: 10.1021/mp700148h (hereafter referred to as “MP08”).
  9. J. Med. Chem. 2008;51:4890-8. doi: 10.1021/jm800453a (hereafter referred to as “JMC08”).
  10. ACS Nano 2008;2:61-8. doi: 10.1021/nn700239j (hereafter referred to as “NANO08”). Correction in: ACS Nano 2012;6:6525. doi: 10.1021/nn302352t.
  11. Drug Discov. Today 2009;14:1-5. doi: 10.1016/j.drudis.2008.10.008 (hereafter referred to as “DDT09”).
  12. Trends Pharmacol. Sci. 2009;30:403-10. doi: 10.1016/j.tips.2009.06.001 (hereafter referred to as “TiPS09”).

4 本の未発表の原稿:2006~2009年、(以下は研究公正局の発表のまま)

  1. Engineering drug selectivity through a packing-based kinase classifier. Original manuscript submitted to Journal of Molecular Biology in 2006 (hereafter referred to as “JMBsub06”).  
  2. Editors of anticancer kinase inhibitors for side-effect removal. Original manuscript submitted to Cancer Research in 2009 (hereafter referred to as “CRsub09”).  
  3. Editors of anticancer kinase inhibitors for side-effect removal. Original manuscript submitted to Nature Biotechnology in 2009 (hereafter referred to as “NBTsub09”).  
  4. Selective antagonism of anticancer drugs for side-effect removal. Original manuscript submitted to Trends in Pharmacological Sciences in 2009 (hereafter referred to as “TiPSsub09”).

1件のプレゼンテーション(以下は研究公正局の発表のまま)

  1. Selectivity filter for drug discovery: Evolutionary insights into the control and personalization of drug specificity. PowerPoint presentation at the Morgridge Institute for Research (hereafter referred to as the “Morgridge PowerPoint”).

3 件の研究費申請書(ライス大学在籍中) 2006~2008年、3件とも不採択:(以下は研究公正局の発表のまま)

  1. X02 RR023858-01, “Molecular theranostic engineering,” submitted to the National Center for Research Resources, NIH on April 14, 2006, unfunded. 
  2. R01 CA138431-01, “Kinome-wide atlas of specificity-promoting features for anticancer drug therapy,” submitted to the National Cancer Institute, NIH, on May 8, 2008, unfunded.  
  3. R01 LM010169-01, “Bioinformatics platform to control drug cross reactivity,” submitted to the National Library of Medicine, NIH, on December 18, 2008, unfunded.

《5》「国家の陰謀」説

★なぜ16年後に正式発表されたのか?

研究公正局(ORI)によるアリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández / Ariel Fernandez 、写真出典)への一連の対応には、いくつかの違和感が指摘されている。

  • ライス大学は2010年の時点で調査を終えていた。しかし、研究公正局が最終的にフェルナンデスを「クロ(研究不正あり)」と正式に発表したのは、それから16年が経過した2026年のことである
  • 科された「15年間の研究活動禁止(締め出し)処分」は、過去の事例に照らして異例に重い処分ではないかという見方である

この不可解なタイムラグと処分の重さについて、背景を探る2つの対照的な記事が存在する。「記事1」はこれが「国家の陰謀」であると訴え、「記事2」は政府機関の証言をもとにその陰謀説を否定する内容である。

  1. 2026年3月28日のワイシ・メン(Weishi Meng)記者の「Science Transparency」記事: NIH’s case against Ariel Fernandez in the Covid-19 Cover-up
  2. 2026年4月13日のアリシア・ガレゴス()記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Scientist who alleged COVID cover-up circulated a faked NIH email, agency says – Retraction Watch

【注意】 記事1の著者である「ワイシ・メン」は素性が不明である。「撤回監視」がフェルナンデスに確認した際、フェルナンデスは関与を否定したものの、フェルナンデス自身が「ワイシ・メン」という架空の記者になりすまして執筆した可能性が燻っている。

記事1が主張する「国家の陰謀」の核心は、驚くべきことに新型コロナウイルス(COVID-19)の起源をめぐる問題だった。

コロナウィルスの発生源についての公式な発表に、異議を唱えた最初の人物がフェルナンデスだった。

フェルナンデス側は、ウイルスの発生源に関する米国政府の公式見解に異議を唱えたことで、米国政府 はNIHを介して報復的な攻撃をしてきたと主張している。

フェルナンデスによれば、彼自身の過去の研究不正問題は、2021年に彼が『ACS Medicinal Chemistry Letters』誌にSARS-CoV-2に関する論文を発表するまでは、10年以上にわたり「解決済みの問題」として扱われていたという。

なお、フェルナンデスは、「ACS Medicinal Chemistry Letters」にSARS-CoV-2に関する論文を以下の4報発表している。

  1. Artificial Intelligence Deconstructs Drug Targeting In Vivo by Leveraging a Transformer Platform.
    Fernández A.
    ACS Med Chem Lett. 2021 Jun 7;12(7):1052-1055. doi: 10.1021/acsmedchemlett.1c00237. eCollection 2021 Jul 8.PMID: 34267868
  2. Molecular Biology Clues Portray SARS-CoV-2 as a Gain-of-Function Laboratory Manipulation of Bat CoV RaTG13.
    Fernández A.
    ACS Med Chem Lett. 2021 May 27;12(6):941-942. doi: 10.1021/acsmedchemlett.1c00274. eCollection 2021 Jun 10.PMID: 34141073
  3. Targeted Disassembling of SARS-CoV-2 as It Gets Ready for Cell Penetration.
    Fernández A.
    ACS Med Chem Lett. 2020 Nov 12;11(11):2055-2057. doi: 10.1021/acsmedchemlett.0c00548. eCollection 2020 Nov 12.PMID: 33214807
  4. Structural Impact of Mutation D614G in SARS-CoV-2 Spike Protein: Enhanced Infectivity and Therapeutic Opportunity.
    Fernández A.
    ACS Med Chem Lett. 2020 Aug 17;11(9):1667-1670. doi: 10.1021/acsmedchemlett.0c00410. eCollection 2020 Sep 10.PMID: 32934770
 
他の学術誌に発表したARS-CoV-2に関するフェルナンデスの論文を含めると、2000~2001年に8報も発表しているので、当時、大きな影響を与えていただろう。
 

2025年11月7日(68歳)、フェルナンデスは米国の研究公正局の上位機関である健康福祉省・監査総監室(DHHS-OIG)に対して、この経緯を文書で告発した。

以下は、「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法(FOIA)を通じて入手したフェルナンデスの告発文書(2025年11月7日)の冒頭部分(出典:同)。全文(5ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2026/04/ARIEL-FERNANDEZ-OIG-DHHS-11.7.2025.pdf

★コロナウィルスの発生源をめぐる対立

ここで、新型コロナウイルス(COVID-19)をめぐる当時のタイムラインを簡潔に振り返る。

  • 2019年12月:中国・武漢市で原因不明の肺炎患者が相次ぎ発症。「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)と命名された。

  • 2020年1月16日:厚生労働省が日本国内で最初の感染者を確認したと発表。

  • 2020年2月5日:クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」船内で集団感染が発生、横浜沖で2週間の隔離措置が取られた。

  • 2020年3月11日〜2023年5月:世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言から、5類移行(日本国内)までの世界的な大流行期。

SARS-CoV-2の起源については、大きく分けて①自然発生説と、②実験室での遺伝子操作による作成説の2つが対立してきた。フェルナンデスは、2021年5月に発表した以下の「2021 年5月のACS Med Chem Lett.」論文で明確に「②実験室作成説」を主張した。

「②実験室で遺伝子操作され、それが流出した」という説は、米国政府にとって国家的に秘匿したい不都合な真実である可能性が高い。

当時、国際NGO「エコヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)」の代表だったピーター・ダザック(Peter Daszak 、写真出典)は、NIHから研究助成(つまり米国の国家資金)を受け、中国の武漢ウイルス研究所と共同でコロナウイルスの研究を行なっていた。

仮に、NIHの資金援助を受けた研究の過程で「②実験室で遺伝子操作による作成」をしたコロナウイルスが漏洩し、パンデミックを引き起こしたのだとすれば、米国政府もその社会的・政治的責任を免れ得ないからである。

フェルナンデスの「2021 年5月のACS Med Chem Lett.」論文が出版されると、ダザックは即座に猛烈な反論を展開した。

彼はメディアを通じ、同論文を「根拠のないくだらない論文」「誹謗中傷に満ちた内容」「陰謀論的な疑似科学」と激しく非難し、フェルナンデスの科学者としての社会的信用を失墜させようと動いた。 → ① Peter Daszakの2021年6月5日のX、② 2021年11月17日記事: ‘We’ve done nothing wrong.’ EcoHealth leader fights charges that his research helped spark COVID-19 | Science | AAAS

ダザックがなぜ激しくフェルナンデスの論文を攻撃したのか?

フェルナンデスは、ダザックの過剰な攻撃は、論文内で指摘された「ある不都合な事実」を隠蔽するためだったと主張している。 → アリエル・フェルナンデスWill Peter Daszak tell the truth on the origin of COVID-19 to the US Congress? Doubtful. – Science Transparency

★脅迫メールの存在と、NIHによる否定(捏造疑惑)

フェルナンデスが「SARS-CoV-2実験室起源説」を唱えたことで圧力を受けたとする最大の証拠は、NIHの研究者であるジョシュア・チェリー(Joshua Cherry)から2021年6月に送られてきたとされる以下のメール(PDF形式で提示されたもの)である。

このメールには、「もし2021年5月の論文を撤回しなければ、ライス大学時代の研究不正事件(ネカト)を再調査して社会的に破滅させる」という趣旨の脅迫めいた内容が記されていた。

なお、フェルナンデスは、チェリーのメールをPDF 形式で示すが、メールの原本(電子データそのもの)は保存していなかったとのことだ。

しかし、「2026年4月13日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事」によると、フェルナンデスのこの主張は信憑性に欠けるとした。NIHの広報担当者は次のように述べ、フェルナンデス側による「メールの捏造」であると結論づけている。 →  2026年4月13日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Scientist who alleged COVID cover-up circulated a faked NIH email, agency says – Retraction Watch

「米国の連邦記録管理規定に基づき、NIHでは作成・受信された電子メールを7年間保存する決まりになっています。しかし、今回の主張を受けて徹底的な内部調査を行なった結果、該当するメールの記録は一切見つかりませんでした。したがって、提示されたメールは本物ではない(偽造されたものである)と考えられます」

「撤回監視」の記者は、渦中の人物であるNIHフォガーティ国際センターの研究者、ジョシュア・チェリー本人にもコメントを求めたが、 2026年4月13日現在まで返信は得られていない。

なお、ジョシュア・チェリーは、かつて論文検証サイト「パブピア(PubPeer)」において、科学的議論(※フェルナンデス事件とは別の事案)を精力的に長文で展開していた人物として知られている。

論戦を厭わないタイプであるはずの彼が、この件に関して完全に沈黙を保っている点も、この事件の不透明さを際立たせる一因となっている。

【ネカトの具体例】

2026年4月30日(69歳)、研究公正局(ORI)は、フェルナンデスが、「12 報の論文、4 本の未発表の原稿、1件のプレゼンテーション、3 件の研究費申請書」でデータを捏造・改ざんしたと発表した。 → 2026年4月30日:Case Summary: Fernandez, Ariel | ORI – The Office of Research Integrity

それらは、6 種類の新規化学物質に関するデータを捏造・改ざんや、ウェスタンブロットや共焦点顕微鏡の画像の人工加工(捏造・改ざん)だった。

その発表で、捏造・改ざんは箇所を「文章」で具体的に示している。「文章」なので、わかりにくいこともあり、今回はネカトの具体例を省略した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2026年6月22日現在、パブメド(PubMed)で、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernandez、Ariel Ariel Fernández)の論文を「Ariel Fernandez [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2026年の25年間の156論文がヒットした。

2026年6月22日現在、1論文が撤回されている。本記事で書いた「2006年1月のProc. Natl. Acad. Sci. USA」論文が論文出版2か月後の3月14日に撤回された。

★撤回監視データベース

2026年6月22日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアリエル・フェルナンデス(Ariel Fernandez、Ariel Ariel Fernández)を「Fernandez, Ariel」で検索すると、「2006年1月のProc. Natl. Acad. Sci. USA」論文を含む2論文が撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2026年6月22日現在、「パブピア(PubPeer)」で、アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernandez、Ariel Ariel Fernández)の論文のコメントを「authors:”Ariel Fernandez”」で検索すると、1988~2021年の31論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》何かヘン

アリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez、写真出典)をめぐる一連の事件は、通常の研究不正事案の枠には収まらない、数々の「異常な不可解さ」に満ちている。主な疑問点を整理すると、以下の通りである。

  • 16年という異常なタイムラグ
    ライス大学は2010年に調査を終えていたにもかかわらず、なぜ研究公正局(ORI)はその16年後である2026年になって、突如として「クロ判定」の正式発表を行なったのか。

  • 大学との「完全和解」の存在
    2010年7月15日(53歳)、ライス大学とフェルナンデスはすでに和解が成立している。大学側は研究不正調査を終了し、フェルナンデスの責任を全面的に免除した。つまり、当事者間では10年以上も前に「解決済みの問題」となっていたはずである。

  • 元学部生による「調査不正」の証言
    当時、フェルナンデス研究室の学部生であったショーン・セッセル(Sean Sessel)が、むしろライス大学側の「調査自体に不正があった」と証言している点も奇妙である。

  • 10年以上の空白期間
    研究公正局(ORI)がフェルナンデスの過去の不正を再び問題視し始めたタイミングは、彼が2021年に『ACS Medicinal Chemistry Letters』誌でSARS-CoV-2に関する実験室起源説の論文を発表した時期と合致する。それまでの10年間、国当局側には何の動きもなかった。

このように、事件のタイムラインや周囲の証言には明らかな不自然さが生じている。

こうした状況から、米国の研究公正局(ORI)はその名の通りの「公正さ」を欠いているのではないかという疑念が浮かび上がる。

トランプ政権への忖度があるのか、あるいは別の政治的圧力が働いているのか、米国の学術界全体はこの異常事態をあえて問題視しようとはしない。

また、論文不正を監視するメディアである「撤回監視(Retraction Watch)」も、中立的な立場を保っているように振る舞いながら、この事件が内包するプロセスの異常さについては深く踏み込んで指摘しない。

2026年になって、米国の研究公正局が過去の和解を覆してまでフェルナンデスを厳罰に処した本当の狙いは、一体どこにあったのだろうか。

sang-and-arielアリエル・フェルナンデス(Ariel Fernández、Ariel Fernandez)とイーライ・リリー社(Eli Lilly)の副社長・広報担当者であるサンテ・キム(Sangtae Kim)。写真出典不明

《2》AI川柳

  • 16年 蒸し返されて クロ判定
    (ライス大学との和解から16年も経った2026年に、突如として処分が下された奇妙さ)
  • ウイルスの 作製隠して ネカト出す
    (2021年にコロナ実験室起源説を発表した途端、10年以上前の不正問題が急に再燃した因果関係を風刺)
  • 「公正」の 文字が泣くよ おー、あーるあい
    (研究公正局(ORI)の政治的な思惑や学術界の沈黙に対し、その「公正」さに疑問を投げかける)

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Ariel Fernandez – Wikipedia, the free encyclopedia
②  研究公正局の報告:(1)2026年4月30日:Case Summary: Fernandez, Ariel | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2026年5月5日の連邦官報PDF版:FRN 2026-08675.pdf。(3)2026年5月5日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct(4)2026年5月5日 :NOT-OD-xx xxx: Findings of Research Misconduct
③  「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:ariel fernandez Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
④ 2026年3月26日のアリシア・ガレゴス()記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Judge upholds 15-year debarment against scientist who once threatened to sue Retraction Watch – Retraction Watch
⑤ 2026年4月13日のアリシア・ガレゴス()記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Scientist who alleged COVID cover-up circulated a faked NIH email, agency says – Retraction Watch
⑥ 2026年3月28日のワイシ・メン(Weishi Meng)記者の「Science Transparency」記事: NIH’s case against Ariel Fernandez in the Covid-19 Cover-up
⑦ 2026年5月7日、レベッカ・トレーガー記者(Rebecca Trager)の「Chemistry World」記事: Physical chemist banned from US receiving federal funding for 15 years over research misconduct | Chemistry World
⑧ ◎2025年5 月22日、行政法裁判官(administrative law judge)のマーガレット・ブレイクブッシュ文書:Office of Research Integrity, DAB CR6690 (2025) | HHS.gov
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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