企業:学術業(academic business):ワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology)(トルコ)

2018年11月28日掲載

ワンポイント: 2003年にトルコ人のジェマル・エイディル(Cemal Ardil、トルコ語読み。英語読みだとセマル・アーディル)が2003年に捕食学術業の会社を設立し、2007年、現在の名称であるワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology、ワールド・アカデミー・オブ・サイエンス・エンジニアリング・アンド・テクノロジー)に変えた。娘のイブル(Ebru)、息子のボラ(Bora)との共同運営で、事務所の所在地を明かさず、多数の捕食会議を世界中で開催している。また、多数の捕食学術誌を出版している。日本関連では、2019年に東京で9回、大阪で5回、京都で2回、捕食会議を開催予定である。日本人研究者が優秀論文賞を受賞したことを公式サイトで自慢している大学がある。どこの大学でしょう? 無知も甚だしい。税金を無駄使いするな! 多分、数千人の日本人研究者が、知ってか知らずか、餌食になっている。損害額の総額(推定)は100億(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

ワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology、ワールド・アカデミー・オブ・サイエンス・エンジニアリング・アンド・テクノロジー)は捕食学術で、2003年にトルコ人のジェマル・エイディル(Cemal Ardil、トルコ語読み。英語読みだとセマル・アーディル)がトルコに会社を設立し、2007年、現在の名称に変えた。

娘のイブル(Ebru)、息子のボラ(Bora)との共同運営で、事務所の所在地を明かさず、多数の捕食会議を世界中で開催している。また、多数の捕食学術誌を出版している。

2012年(推定)、米国のコロラド大学デンバー校(University of Colorado Denver)の准教授で司書だったジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が、ワセット社を捕食学術社と認定していた。
→ 7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い

2018年、ドイツの公共放送局(NDR)と韓国のニュースタパは、それぞれ、ワセット社の捕食学術を暴くドキュメンタリーを制作し、放映した。

日本関連では、2019年に東京で9回、大阪で5回、京都で2回、捕食会議を開催予定である。日本人研究者が優秀論文賞を受賞したことを公式サイトで自慢している大学がある。どこの大学でしょう? 無知も甚だしい。税金を無駄使いするな! 多分、数千人の日本人研究者が、知ってか知らずか、ワセット社を捕食学術で発表している。日本の大学・学術界・メディアは事態を理解していない。

2018年11月27日現在、日本を含め世界のどの国も、詐欺的な捕食学術をしたワセット社を、また発表した研究者を逮捕・裁判にかけていない。

ワセット社の建物が見つからない。2018年10月10-11日の米国・シカゴでの会議の写真。写真出典

  • 国:トルコに拠点がある世界企業
  • 集団名:ワセット社
  • 集団名(英語):WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology
  • ウェブサイト(英語):www.waset.org
  • 集団の概要:ジェマル・エイディル(Cemal Ardil、トルコ語読みにした。英語読みだとセマル・アーディル)が2003年に設立し、2007年、現在の名称であるワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology)に変えた。、従業員数は不明。2015年の収入は2千万ユーロ(約24億円)。
  • 事件の首謀者:ジェマル・エイディル(Cemal Ardil)と、娘のイブル(Ebru)、息子のボラ(Bora)。
  • 分野:学術業
  • 不正年:2003年(推定)
  • 発覚年:2012年(推定)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は特定しにくい。有力な人物として、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が捕食学術と指摘した。
  • ステップ2(メディア): ドイツの公共放送局(NDR)、韓国のニュースタパなど多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①
  • 不正:捕食学術業
  • 不正数:数百の学術誌、約4万報の論文、数千の学術集会が捕食的(推定)
  • 被害(者):数万人の研究者(推定)
  • 損害額:総額(推定)は100億(大雑把)

●2.【日本語の解説】

ワールド・アカデミー・オブ・サイエンス・エンジニアリング・アンド・テクノロジー – Wikipedia

ワールド・アカデミー・オブ・サイエンス・エンジニアリング・アンド・テクノロジー(World Academy of Science, Engineering and Technology)またはWASETは、ハゲタカ(搾取的)出版社の一つで、多種多様な科学的および技術的対象に関する数多くのオープンアクセスジャーナルを発行している。WASETは毎年数千もの科学会議を企画していると主張しており、12年先まで計画されている。これらの会議の名称は、名声が確立した科学グループによって企画された会議の名称と同様である。数百の会議が同じ日に同じ場所で開催される予定になっている場合もある(例えば、2016年9月12-13日、ベルリンのホテルで313の会議が開催される)。このような方法が会議の質的低下を招くという懸念もある。

WASETはトルコに拠点を置いており、そのドメイン名はアゼルバイジャンで登録されている。WASETを運営しているのは元科学教師のCemal Ardilで、彼の娘のEbruと息子のBoraが協力している。Cemar ArdilはWASETのウェブサイト上で最も論文を発表している人物でもある。

★2018年8月17日:財経新聞「トルコの科学出版社「WASET」、査読プロセスや開催の国際会議に疑義」

出典 → ココ 保存済 (保存版)

あるAnonymous Coward曰く、昨年、ドイツのジャーナリストSvea Eckert氏などが率いるチームが「Inside the Fake Science Factory(偽科学工場の内幕)」というドキュメンタリー番組のため、偽科学出版社や科学会議に関する調査を行った。ここで取り上げられた出版社は「WASET」と名乗り、数多くのオープンアクセスジャーナルを発行しているとされる。しかし、その実態は単なる印刷工場にすぎないのだという。この組織はトルコに拠点を置いており、偽の会議やジャーナルを通じて4百万ドル以上の収入を得たと推定されている。

一見すると、WASETは正当な組織であるように見える。そのWebサイトには世界中の数千もの学会があり、2031年までスケジュールが組まれている。内容についても、オープン・サイエンス、ピア・レビュー、学際的、月単位、国際宇宙工学から栄養学まで網羅している。しかし、査読プロセスに精通している科学者から見ると、WASETのサイトには数多くの間違いがあるという(Deutschlandfunk、Boing Boing、Slashdot)。

★2018年8月17日:中央日報日本語版「韓国科学界、「偽国際学術大会事態」で衝撃」

出典 → ココ (保存版)

韓国科学技術界が窮地に立たされている。偽国際学術大会への参加や研究費の横領などが次々と明るみになっているためだ。科学技術界は謝罪声明発表はもちろん、最大で合計700人に達する研究者に対する調査と懲戒まで行う見込みだ。

特に、最近の偽国際学術大会関連では、研究者の中にソウル大やKAIST(韓国科学技術院)など韓国名門校の教授や学生、科学技術界代表研究機関である韓国科学技術研究院(KIST)の研究者が多数含まれたことが分かり、衝撃が広がっている。

国家科学技術研究会(NST)によると、政府外郭研究所研究者のうち、WASETに参加した人は過去10年間で75人に達することが明らかになった。また、審査過程なく論文掲載を承認するWASET関連国内研究は380件余りに達することも分かった。NSTは今回の調査を通じて、虚偽学術団体に参加したことが確認された研究者に対して警告や懲戒などの人事措置を取ることを該当公共研究所に勧告する計画だ。

NSTのウォン・グァンヨン理事長は「研究者の虚偽学術団体参加は明白な研究倫理違反で、国民の税金で研究する政府出捐研究機関(以下、出捐研)の場合、その深刻性はさらに致命的だ」とし「関連者は断固として処罰するよう所管出捐研に勧告する」と述べた。

●3.【事件の経過と内容】

★創業

トルコ人のジェマル・エイディル(Cemal Ardil、トルコ語読みにした。英語読みだとセマル・アーディル、写真出典)は、1959年、ブルガリアで生まれ(推定)、ブルガリアで育った。

1970年代後半(10代後半)に、ブルガリアからトルコに移住した。

2003年(44歳)、トルコの高校で科学教師だったジェマル・エイディル(Cemal Ardil)はチャナッカレ大学(Canakkale University)で情報科学の講師になった。

2003年(44歳)、エイディルは捕食学術業のイニフォマティカ社(ENFORMATIKA)を創設した。

2004年2月(45歳)、エイディルは詐欺(データねつ造・改ざん? 論文盗用? 博士号が偽とバレた? イニフォマティカ社での事件?)で大学を解雇された。

なお、イニフォマティカ社はトルコを拠点としつつも、バレるのを恐れ、トルコ国内では捕食会議を開催しなかった。

2007年(48歳)、ジェマル・エイディルは、イニフォマティカ社の名前をワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology)と変えた。娘のイブル(Ebru、1982年11月5日生まれ)、息子のボラ(Bora、1980年代後半生まれ)を運営に参加させ、捕食学術業を発展させた。

エイディル一家。写真出典:https://wasetmania.wordpress.com/2015/08/18/what-is-waset/

2015年の時点で、ワセット社は約4万報の論文を出版し、2千万ユーロ(約24億円)の収入を得たと指摘された。

2018年11月27日現在、講演要旨は56,075報、論文は29,024報も集積している。
→ Abstracts
→ World Academy of Science, Engineering and Technology

2018年に183会議を予定し、参加者は60,123人以上である。平均で328人/会議となる。参加費は、講演者は450ユーロ(約5万4千円)、講演なしは350ユーロ(約4万2千円)である。

★動画

【動画1】 秀逸
2018年7月23日放映。ドイツの公共放送局(NDR)のドキュメンタリー動画「偽科学(Exclusiv im Ersten: Fake Science – Die Lügenmacher | Das Erste) – YouTube」(ドイツ語)(英語の字幕付き)29分00秒。女性はスヴィー・エカート(Svea Eckert)、男性はティル・クラウゼ(Till Krause)
ARDが2018/07/23 に公開

【動画2】
2018年8月11日の米国・ラスベガスの「DEF CON 26」で、上記のドキュメンタリーを制作した2人(女性はスヴィー・エカート(Svea Eckert)、男性はティル・クラウゼ(Till Krause))が講演した。
「偽科学工場の内部(DEF CON 26 – Svea, Suggy, Till – Inside the Fake Science Factory)) – YouTube」(英語)1時間56分07秒。
DEFCONConference が2018/09/17 に公開

【動画3】 秀逸
2018年9月(?)放映。韓国のニュースタパ(KCIJ-Newstapa、調査報道を行う韓国のニュースサイト)のドキュメンタリー動画。何千もの韓国人の教授と研究者が、デタラメな研究論文を受け入れる捕食国際会議に出席していたことが分かった。韓国のニュースタパは、ドイツの公共放送局NDRと国際調査プロジェクトを組み、より深く掘り下げた。
「偽科学工場の秘密(The Secret of ‘Fake Science’ Factory(KCIJ | NEWSTAPA)) – YouTube」(韓国語)(英語の字幕付き)43分25秒。
newstapaが2018/09/11 に公開

【日本のカモ・ネギ】

★日本でも開催

来年の2019年に日本で開催予定の国際会議だけを以下に示す。2018年以前も同じように開催していたと思われる。
→ 出典:World Academy of Science, Engineering and Technology

2019年、2月、7月、8月の観光に適さない月を除き、毎月、つまり9回、東京で開催予定だ。。以下の画面をクリックすると画面は大きくなります。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できます。

大阪では5回開催。

観光なので、勿論、京都でも開催します。

★日本人研究者の講演要旨・論文発表

ワセット社の講演要旨サイトで、検索語に「japan」と入れ講演要旨を検索すると、200要旨がヒットした。
→ Abstracts

200番から196番まで著者が外国人風なので、飛ばして、195番を以下に示す。以下の画面をクリックすると画面は大きくなります。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できます。

著者の稲垣久美子 (イナガキ クミコ)はWASETに合計4報出版している。明治大学・政治経済学部の特任准教授である(【魚拓】明治大学 教員データベース)。

今度は論文を検索してみよう。

ワセット社の論文サイトで、検索語に「japan」と入れ論文を検索すると、194論文がヒットした。
World Academy of Science, Engineering and Technology

194番目の論文を以下に示す。

著者はTadayuki Kyoutani, Shigeyuki Haruyama, Ken Kaminishi, Zefry Darmawanで、「Tadayuki Kyoutani(京谷忠幸)」はWASETに合計6報出版している。山口大学・技術経営研究科の論文で、第1著者の京谷は院生である。最後から2番めの著者は上西 研(かみにし けん)教授である(山口大学 大学院 技術経営研究科(MOT専門職大学院) | 教員紹介)。

★日本人研究者の受賞者

捕食会議で受賞したことを自慢している日本人研究者たちがいる。この人たちは、捕食会議だと知ってか知らずか、白楽はわからない。以下、2例を示す。

【2016年10月12日:山梨大学「教育学部の岡林春雄教授が国際会議WASETのICPS2016においてベストプレゼンテーション賞を受賞」】

出典 → ココ、(保存版)。以下の画面をクリックすると画面は大きくなります。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できます。

平成28年9月21日(水)から22日(木)、ドバイ(アラブ首長国連邦)にて行われた国際会議WASETのICPS2016において、本学教育学部の岡林春雄教授の発表した「The Relationship between Fluctuation of Biological Signal: Finger Plethysmogram in Conversation and Anthropophobic Tendency(生体信号の変動との関係性―会話と対人恐怖症における指尖脈波)」がベストプレゼンテーション賞を受賞しました。

また、岡林教授はこの大会でセッションの議長としても活躍しています。

【2018年5月24日:高知大学「愛媛大学大学院連合農学研究科博士課程2年生のRana Birendra Bahadurさんを筆頭著者とする論文が、国際学会のProceedingsにおけるBest Paper Award(論文賞)を受賞しました」】

出典 → ココ、(保存版

愛媛大学大学院連合農業研究科博士課程2年生のRana Birendra Bahadurさんを筆頭著者とする論文が、WORLD ACADEMY OF SCIENCE, ENGINEERING AND TECHNOLOGYという国際学会・国際誌の運営機関が開催した国際学会“19th International Conference on Agronomy and Plant Breeding”から出版されたProceedings (論文集)において、Best Paper Award(論文賞)を受賞しました。

●4.【白楽の感想】

《1》早急に対処すべき

捕食問題を何度も記事にしているが、調べるたびに、「唖然」とする。日本の学術界は早急に対処すべきだ。

【捕食学術の情報リスト】

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:World Academy of Science, Engineering and Technology – Wikipedia
② 2015年8月17日の「WASETmania」記事:Who are Cemal Ardil, Ebru Ardil, Bora Ardil ? | WASET = Turkish Fraudsters Cemal Ebru Bora Ardil
③ 2015年8月18日の「WASETmania」記事:What is WASET ? | WASET = Turkish Fraudsters Cemal Ebru Bora Ardil
④ 「WASET Watch」記事:WASET Watch – “The World Academy of Science, Engineering and Technology or WASET is a predatory publisher”
⑤ PLAGIARISM IN TURKEY WITH CEMAL ARDIL – EBRU ARDIL – BORA ARDIL — TÜRKİYE’DE BİLİM SAHTECİLİĞİ: A-020-02) Tansu KÜÇÜKÖNCÜ-nün – bilim sahteciliği iddialarıyla haklarında şikayetçi olması üzerine üniversitelerin işten atmak zorunda kaldığı kişiler、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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