カール・ボウ(Carl Baugh)(米)

2021年7月21日掲載

ワンポイント:ボウは創造論の中の「若い地球説(Young Earth creationism)」の宗教活動家で、1980年代(68歳)にテキサス州のパラクシー川の近くで恐竜の足跡と並んで人間の足跡を発見したと主張している。科学界は彼の主張をニセ科学だと見なしている。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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白楽の研究者倫理
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

カール・ボウ(Carl Baugh、ORCID iD:?、写真出典)は、米国の創造証拠資料館(Creation Evidence Museum)・設立者・館長で、宗教活動家(創造論者)で、学術研究者とは言い難い。

考古学の発掘調査をし、主張は進化論とも関係するので、本記事では専門を考古学とし、生命科学の枠で扱ったが、「人文・社会科学・他」一覧表にもリストした。

ボウは、14冊の著書を出版している。 → Amazon.com : Carl Baugh

『Footprints and the Stones of Time』(1994)は、南山宏が日本語に翻訳し、『恐竜のオーパーツ』(1998年)として出版した。(本の表紙出典はアマゾン)。

『恐竜のオーパーツ』は以下のように紹介されている。

なぜ恐竜の足跡に人類の足跡が重なっているのか? 進化論への新たな挑戦状。恐竜と人類は共存していた、太古の人類は巨人だった、世界規模の洪水が生物を死滅させた…。地球史を覆す発見を次々と突きつける驚愕のリポート。(出典:アマゾン

1980年代、ボウは、テキサス州のパラクシー川の近くで恐竜の足跡と並んで人間の足跡を発見したと主張している。

科学界は彼の主張をニセ科学だと見なしている。

また、ボウは複数の博士号を取得していると主張しているが、その学位はすべて非認定大学から取得した学位である。

例えば、1989年(53歳)、ミズーリ州スプリングフィールド(Springfield, Missouri)にある太平洋大学院大学(Pacific International University – Wikipedia)で研究博士号(PhD)を取得した。この大学は非認定大学で、しかも、ボウが設立した大学である。ボウは卒業生となっているが、学長でもある。

学歴詐称ではないが、非認定大学の研究博士号(PhD)はまともに評価されない。学術研究者の世界とは別の世界である。

創造証拠資料館(Creation Evidence Museum)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:太平洋大学院大学(非認定大学)
  • 男女:男性
  • 生年月日:1936年10月21日
  • 現在の年齢:88 歳
  • 分野:考古学
  • 不正論文発表:1980年代(48歳)
  • 発覚年:1980年代(48歳)
  • 発覚時地位:創造証拠資料館・館長
  • ステップ1(発覚):
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

出典:Carl Baugh – CreationWiki,

  • 1936年10月21日:米国のテキサス州ケネディ(Kenedy)で生まれる
  • 1959年(23歳):バプティスト・バイブル・カレッジ(Baptist Bible College)卒業:神学
  • 1961年(25歳):バートン・カレッジ(Burton College)で学士号取得:文学
  • 1968年(32歳):イリノイ州イーストセントルイスにカルバリー・ハイツ・バプテスト教会(Calvary Heights Baptist Church)を設立
  • 1970年(34歳):国際バプテスト大学(International Baptist College)を設立
  • 1980年(44歳):太平洋大学院大学(Pacific College of Graduate Studies)を設立
  • 1984年(48歳):太平洋大学院大学(Pacific College of Graduate Studies)(非認定大学)で修士号取得:考古学
  • 1984年(48歳):創造証拠資料館(Creation Evidence Museum)開所
  • 1987年(51歳):太平洋大学院大学(Pacific College of Graduate Studies)(非認定大学)を太平洋国際大学(Pacific International University)に吸収
  • 1989年(53歳):太平洋国際大学(Pacific International University)(非認定大学)で研究博士号(PhD)を取得:教育学

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「カール・ボウ」と自己紹介。
講演動画。話が上手:「01 Carl Baugh – Creation Science (Hard Questions for a Creationist) – YouTube」(英語)28分00秒。
JehTodayが2013/06/06に公開

https://www.youtube.com/watch?v=J3b26LOB12E

【動画2】
「カール・バー」と紹介。
講演動画:「Guest Speaker: Dr. Carl Baugh PT. 1 – January 10, 2019 – YouTube」(英語)50分54秒。
Charis Bible Collegeが2019/01/11に公開

●4.【日本語の解説】

★2017年08月29日:ビジネスジャーナル:水守啓(ケイ・ミズモリ)/サイエンスライター:「かつて地上には長寿の楽園があった?:人類、寿命1000年だった可能性」

出典 → ココ、(保存版) 

20世紀の終わり頃、米テキサス州のカール・ボウ博士は、ノアの大洪水以前の酸素濃度、気圧、磁気レベルなどを再現した「高圧生物圏(Hyperbaric Biosphere)」と呼ばれる密閉空間をつくり出し、その中でさまざまな生物を育ててみる実験を行っている。その結果、ショウジョウバエの寿命は3倍に伸び、ピラニアの成長は2年半で5cmから40cm超へと加速した。さらに驚いたことには、アメリカマムシの毒液が分子レベルで変化して、毒性が消える傾向すら現れたのだった。

★2018年12月27日:デビッドG.ブロムリー(日本語訳者不記載):「創造証拠博物館」

出典 → ココ、(保存版) 

創造証拠博物館はまた、聖書の人物が何百年もの間住んでいたという主張や、神の起源の行為(Duncan 2009:25-31)など、他の問題のある聖書の説明も取ります。 Baughは、大洪水の前は、地球はより小さくより稠密な大気を持っていたと主張しています。

★2019年10月03日:Remember:「進化論と創造論」

出典 → ココ、(保存版) 

アメリカの創造論者(Creationist)カール・E・ボウ(Carl Edward Bough)博士は、ノアの大洪水以前の酸素濃度、気圧、磁気レベルを再現した「高圧生物圏(Hyperbaric Biosphere)」という密閉空間の実験室を作り、その中でさまざまな生物を育てる実験を行いました。

その結果、ショウジョウバエの寿命は3倍に伸び、ピラニアは2年半で体長が5cmから40cmに巨大化しました。そして、NASAの男性研究員3人が1~3ヶ月間その実験室で過ごした結果、白髪や小じわが減り、精力が増進したという研究データが残されています。

★20xx年x月xx日:著者不記載:「パラクシー川の足跡化石 足跡の中の足跡(後編)」

出典 → ココ、(保存版) 

1982年6月、カール・ボウ達の発掘チームが、マスコミの前でマクファイル・サイトの発掘を行なった。チームには、オーストラリアから呼ばれたクリフォード・ウィルソンが参加していた。発掘は成功裡に終わり、“人間の足跡”が次々と発掘される様子が、カメラに収められた。そして、マスコミが「先端に丸い窪みがある細長い足痕」を報じると、パラクシー論争は再燃する事になった。

カール・ボウは現在もパラクシー川流域に創造証拠博物館を構え、時代遅れの主張を繰り返している。そして、それはテレビ、ラジオ、新聞などで度々取り上げられている。1996年にも、NBCが「人間の謎めいた起源(The Mysterious Origins of Man)」というカール・ボウ寄りの番組を放映し、全米に反響を呼んだ。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★カール・ボウ(Carl Baugh)という人

カール・ボウ(Carl Baugh)は、創造論の中の「若い地球説(Young Earth creationism)」の信者である。進化論を認めていないが、物理学や化学の科学的事実を取り入れるグループである。他の特徴は以下のようだ。

若い地球説(わかいちきゅうせつ、英語: Young Earth creationism、略称:YEC)とは、創造論のうち、神による天と地とすべての生命の創造が短い間になされたとする説。現代科学の長い年代を否定し、紀元前数千年前から一万年前の間に、聖書の創世記にある通り、24時間の6日間で世界が創造されたとする。特殊創造説とも呼ばれる。(若い地球説 – Wikipedia

1984年(48歳)、ボウは、考古学的な資料を収集し、テキサス州グレンローズ(Glen Rose)に創造証拠資料館(Creation Evidence Museum)を創設した。

創造証拠資料館には、恐竜が生息していたとする洪水前の大気条件を再現する「高圧生物圏(Hyperbaric Biosphere)」が設置されている(写真はボウの左側に高圧生物圏がある。写真出典)。

この「高圧生物圏」内で生物を飼育すると、生物は大きく育ち、かつ、長生きする。それで、当時の人間は巨人だったと述べている。

ボウは、複数の博士号を取得していると主張している。しかし、その学位はすべて非認定大学からの学位である。

例えば、1989年(53歳)、ミズーリ州スプリングフィールド(Springfield, Missouri)にある太平洋大学院大学(Pacific College of Graduate Studies)で研究博士号(PhD)を取得したが、この大学は非認定大学である。しかも、ボウが設立した大学でボウは卒業生で学長でもある。

カール・ボウ(Carl Baugh)は大学・大学院で学術的研究の訓練を受けていない。研究論文も発表していない。

★経緯

以下の写真は、ランス・ホール(Lance Hall)がテキサス州グレンローズの東側で発見した恐竜の足跡の化石である(2009年10月30日発見、2010年1月13日撮影)。

dinosaur tracks (“Joanna’s Tracks”)。出典:http://northtexasfossils.com/glenrose.htm

上記の化石が見つかったグレンローズ層(Glen Rose Formation)は以下のようだ。

グレンローズ層は、白亜紀前期の浅い海から海岸線までの地層で、テキサス州中南部から中北部までの広い範囲で露出している。この地層は、テキサス州グレンローズの町の近くにあるダイナソーバレー州立公園(Dinosaur Valley State Park)で発見された恐竜の足跡と踏み固められた道の化石が最も広く知られている。(グーグル日本語訳。出典:Glen Rose Formation – Wikipedia

ボウは、テキサス州のパラクシー川(Paluxy River – Wikipedia)の近くで恐竜の足跡と並んで人間の足跡を発見したと主張している。

創造論者のグループ「アンサーズ・イン・ジェネシス(Answers in Genesis)」と「アンサーズ・イン・クリエーション」は、彼の主張は間違っているか、または虚偽だと見なしている。

1982 年から1984 年にかけて、数人の科学者(J.R. コール、L.R. ゴッドフリー、R.J. ヘイスティングス、S.D. シャーファーズマンなど)がボウの主張を調査した。

3年間の調査の後、人間の足跡とされた化石の多くは「人間の特徴が欠けていた」。それで、科学者たちは、ボウが主張した「人間の足跡」という証拠はないと結論した。

その頃から現在まで、科学界は彼の主張をニセ科学だと見なしている。

上記のランディー・ムーア(Randy Moore)の2014年の論文から、人間の足跡とされた化石の写真を以下に3点示す。

白楽は1枚目の写真では「人間の足跡」が認識できた。しかし、2枚目と3枚目の写真では、どこが「人間の足跡」なのか、白楽は判別できない。

そして、20xx年x月xx日:著者不記載:「パラクシー川の足跡化石 足跡の中の足跡(後編)」によると

創造論者の主張したパラクシー川の巨人の足跡とは、主に恐竜が中足骨で歩いた跡である。他に、尻尾、鼻先などの跡、自然の窪みなどが含まれる。そして、人間の指(足痕?)とされた小さな丸い窪みは、何者かが刻んだ彫刻である。

恐竜の足痕の中の人間の足痕は、ズサンな、あるいは故意の不完全な発掘作業により現れた、不明瞭な浅い窪みにすぎず、何ら人間の特徴を有していない。

ボウの発見は宗教の話なので、科学的観点からは、ねつ造・改ざん、があってもおかしくない。それで、以下、

割愛

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年7月20日現在、パブメド(PubMed)で、カール・ボウ(Carl Baugh)の論文を「Carl Baugh[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の0論文がヒットした。

「Baugh C[Author]」で検索すると、1955~2020年の66年間の268論文がヒットした。全部、本記事で問題にしている研究者以外の論文だと思われる。

2021年7月20日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年7月20日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカール・ボウ(Carl Baugh)を「Carl Baugh」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年7月20日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カール・ボウ(Carl Baugh)の論文のコメントを「Carl Baugh」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》宗教 

宗教上の真実と科学上の事実は異なることがかなりあった。その両者を正確に比較する作業は必要だったし、これからも必要だろう。

しかし、宗教絡みの話を科学的観点で「ねつ造・改ざん」と糾弾する作業は、あまり、有益とは思えない。最初から土俵が異なる。

https://alchetron.com/Carl-Baugh

《2》創造論と進化論 

現代の科学技術文明の中で、「多くの日本人にとって、「エッいまだに?」と驚いてしまうことが米国で続いている。米市民の10人中4人が、人間が神によって創造されたといまだに信じているのだ」(2019年7月26日の堀田佳男の「日経ビジネス電子版」記事:米国で進化論を信じる人が過半数超え

「キリスト教社会は、進化論を否定してきた」。そのキリスト教の教義の影響で、米国人の多くは創造論を信じ、進化論を否定してきた、とある。

白楽が思うに、創造論と進化論の対比は、「通常の生活感覚」と「非日常の科学的結果」の対比だと思う。

例えば、通常の生活感覚では地球は平らである。ところが、科学的結果では地球は丸い。飛行機が無い時代、地球を丸いと考えるのは、非日常で異常だし、非現実的だ。

温度の華氏(ファーレンハイト、°F)と摂氏(セルシウス、°C)でも、「通常の生活感覚」と「非日常の科学的結果」の対比がある。

華氏の方が通常の生活感覚に合う。通常の生活では、とても寒い時を0度としたい。華氏0度は摂氏ではマイナス17.8度で、通常の生活で、とても寒い温度に合う。逆に通常の生活で、とても暑い時を100度としたい。華氏100度は摂氏37.8度である。通常の生活で、とても暑い温度に合う。

摂氏ではそれぞれ、マイナス17.8度と37.8度である。この数値はいかにも人工的というか、人間性を無視した「非日常の科学的結果」である。

華氏の方が通常の生活感覚に合っている。だから、米国では通常の生活で華氏を使うのはとても納得できる。日本では華氏を使わないが、それで生活してきたので違和感がない。しかし、華氏の世界で育った人は、摂氏の世界を異常だと思うだろう。

創造論はキリスト教の影響ではあるが、「通常の生活感覚」にあっている。進化論は「非日常の科学的結果」で、「通常の生活感覚」にあってない。

「僕の祖父さんのそのさらに先祖はサルだった。その先祖はナメクジウオだった」って、「通常の生活感覚」 にはないし、違和感も嫌悪感も強い。

ナメクジウオ © Hans Hillewaert, CC 表示-継承 4.0。写真出典 

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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Carl Baugh – Wikipedia
② 1981 年秋版の「Creation/Evolution Journal | Volume 2 | No. 4」:Paluxy Man — The Creationist Piltdown | National Center for Science Education
③ 1985 年冬版の「Creation/Evolution Journal | Volume 5 | No. 1」:Introduction | National Center for Science Education
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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