2018年5月10日掲載。
ワンポイント:メキシコで育ちメキシコ国立自治大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国のマサチューセッツ総合病院・健康研究所(MGH Institute of Health Professions)・講師になった。2017年8月(41歳?)、バレンシアの「2013年のHum Mol Genet.」論文が撤回された。理由は、データねつ造・改ざんである。マサチューセッツ総合病院と研究公正局は調査に関して何も発表していない。損害額の総額(推定)は4200万円。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
アントニオ・バレンシア(Antonio Valencia、写真出典)は、メキシコで育ちメキシコ国立自治大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国のマサチューセッツ総合病院・健康研究所(MGH Institute of Health Professions)・講師になった。医師ではない。専門は神経生物学(ハンチントン病)だった。
2017年8月(発行は2017年11月)(41歳?)、バレンシアの「2013年のHum Mol Genet.」論文が撤回された。理由は、データねつ造・改ざんだった。
2018年5月9日(42歳?)現在、マサチューセッツ総合病院と研究公正局は調査に関して何も発表していない。
マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)。写真はパブリック・ドメイン, Link
- 国:米国
- 成長国:メキシコ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:メキシコ国立自治大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。2003年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 現在の年齢:48 歳?
- 分野:神経生物学
- 最初の不正論文発表:2013年(37歳?)
- 発覚年:2017年(41歳?)
- 発覚時地位:マサチューセッツ総合病院・健康研究所・講師
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②マサチューセッツ総合病院は調査委員会を設けたかどうか不明
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 所属機関の透明性:発表なし(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 時期:研究キャリアの中期から
- 損害額:総額(推定)は4200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生は不明。損害額はゼロ円とした。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費は調査していないのでゼロ円とした。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:なし
●2.【経歴と経過】
(4) Antonio Valencia, Ph.D. | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1976年1月1日生まれとする。2003年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 19xx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- 1998年-2003年(22-27歳?):メキシコ国立自治大学(Universidad Nacional Autónoma de México、英語でNational University of Mexico)で研究博士号(PhD)を取得:神経生物学
- 2003年-2005年?(27-29歳?):メキシコ国立自治大学・細胞生理学研究所(Institute of Cell Physiology, National University of Mexico, Mexico)・ポスドク(?)
- 2005年?-2011年(29-35歳?):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)とマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・ポスドク(?)
- 2011年1月-2014年1月(35-38歳?):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・インストラクターとマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・助手
- 2012年8月-2016年8月(36-40歳?):マサチューセッツ総合病院・健康研究所(MGH Institute of Health Professions)・講師
- 2014年1月-2017年7月(38-41歳?):バイオジェン社(Biogen)・薬理科学者
- 2017年8月(41歳?):ネカトが発覚し、「2013年のHum Mol Genet.」論文が撤回
- 2017年9月-現(41-42歳?): Pyramid Biosciences社.・科学者
- 2017年11月-現(41-42歳?):Cell Signaling Technoloty社・上級科学者
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★不正発覚の経緯
不正発覚の経緯は不明である。
2017年8月(41歳?)、バレンシアの「2013年のHum Mol Genet.」論文が撤回された(学術誌の発行は2017年11月)。
- Retracted: Elevated NADPH oxidase activity contributes to oxidative stress and cell death in Huntington’s disease.
Valencia A, Sapp E, Kimm JS, McClory H, Reeves PB, Alexander J, Ansong KA, Masso N, Frosch MP, Kegel KB, Li X, DiFiglia M.
Hum Mol Genet. 2017 Nov 1;26(21):4314. doi: 10.1093/hmg/ddx303. No abstract available.
PMID:28973680
論文撤回の理由は、第1著者のアントニオ・バレンシアが図1A–Dと図9C・Fのデータをねつ造・改ざんしたためである。このねつ造・改ざんで、ハンチントン病ではNADPH活性が上昇するという誤った結論を導いた。
論文の結果を導く元データがいくつも欠落していて、報告された方法または代替の方法を使用しても研究結果を再現できなかった。
→ Retracted: Elevated NADPH oxidase activity contributes to oxidative stress and cell death in Huntington’s disease | Human Molecular Genetics | Oxford Academic
ボスはマサチューセッツ総合病院のマリアン・ディフィリア教授である(Marian DiFiglia、写真出典)。
★不正の具体的内容
学術誌の撤回公告によると、「2013年のHum Mol Genet.」論文の図1A–Dと図9C・Fのデータがねつ造・改ざんされた。
しかし、論文閲覧は有料である。
研究機関と研究公正局は調査結果を発表していない。イヤ、調査しているのかどうかもわからない。
また、パブピアも不正点を指摘していない。
それで、白楽には、不正の具体的内容はわかりません。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年5月9日現在、パブメド(PubMed)で、アントニオ・バレンシア(Antonio Valencia)の論文を「Antonio Valencia [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004~2017年の14年間の20論文がヒットした。
「Valencia A[Author]」で検索すると、1969~2018年の50年間の602論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる
2018年5月9日現在、「Valencia A[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。「2013年のHum Mol Genet.」論文が2017年11月に撤回された。
- Retracted: Elevated NADPH oxidase activity contributes to oxidative stress and cell death in Huntington’s disease.
Valencia A, Sapp E, Kimm JS, McClory H, Reeves PB, Alexander J, Ansong KA, Masso N, Frosch MP, Kegel KB, Li X, DiFiglia M.
Hum Mol Genet. 2017 Nov 1;26(21):4314. doi: 10.1093/hmg/ddx303. No abstract available.
PMID:28973680
★パブピア(PubPeer)
2018年5月9日現在、「パブピア(PubPeer)」はアントニオ・バレンシア(Antonio Valencia)の1論文にコメントしている。この論文は撤回されたというだけのコメントである:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》調査の分岐点
アントニオ・バレンシア(Antonio Valencia)は、大学の研究者だった。そして、ネカトが理由で2017年11月に論文が撤回された。しかし、大学は正式なネカト調査をしていない。それで、研究公正局も調査していない。学術界から排除されたが、企業の研究職を転々とし、研究界から排除されていない。
大学が調査に入る・入らないの分岐点は何なのだろう?
NIHから研究費を受給しているか・いないかだろうか?
イエイエ、バレンシアの撤回論文「2013年のHum Mol Genet.」は、「This research was supported by NIH Grant GM 30955 (IEK)」とあって、NIHから研究費を受給していた。
2017年11月に論文撤回なので、まだ半年しか経過していない。実は、2018年5月9日現在は調査中で、いずれ研究公正局がクロと発表するということなのか?
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●8.【主要情報源】
① 2017年9月6日のアンドリュー・ハン(Andrew P. Han)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Data fabrication by ex-Harvard researcher takes down paper on Huntington’s disease – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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