マイケル・ブリッグス(Michael Briggs)(豪)

2015年1月24日掲載、2023年11月20日更新

ワンポイント:40年前の1978~1986年の事件。ブリッグスは、ディーキン大学(Deakin University)の看板教授で、経口避妊薬の世界的権威だった。1978年(43歳)、同じ大学のマーク・ウェルキヴィスト教授(Mark Wahlqvist)がブリッグスのデータねつ造を指摘した。しかし、ブリッグスは否定し、最高決定者の視学官もブリッグスに不正はないと結論した。思い余った倫理委員会・委員長のジム・ロシター教授(Jim Rossiter)は、1985年6月(49歳)、ブリッグスのネカトを学術誌で指摘した。それで、オーストラリアのメディアが大騒ぎし、ブリッグスの不正が社会的に公知となった。ディーキン大学を辞職したブリッグスは、その1年6か月後、スペインで病死した。享年51歳。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。この事件は、白楽指定の重要事件である。権威者がシロと判定したのをメディアがひっくり返した、メディアのこの威力を日本のメディアは見習ってほしい。また、40年前の事件なのに、事件の詳細をメルボルン大学が記録・保存・公開している点は、見事である。日本の大学も見習ってほしい。

ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント 
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●1.【概略】

マイケル・ブリッグス(Michael Briggs、Michael H. Briggs、写真出典)は、英国に生まれ、米国で博士号を取得し、オーストラリアのディーキン大学(Deakin University)の看板教授(生化学者)として、妻・マキシーン(Maxine)と2人3脚で経口避妊薬の研究をしていた。

経口避妊薬の効果についての世界的権威で、世界保健機関(World Health Organisation)の特別顧問を務め、ディーキン大学の目玉教授だった。製薬企業から、約100万ドル(約1億円)の研究資金を得ていた。

1978年(43歳)、ディーキン大学・人間生物学部・教授の時、同大学のマーク・ウェルキヴィスト教授(Mark Wahlqvist)にデータねつ造が指摘された。

ブリッグスは否定した。

ディーキン大学はネカト予備調査委員会の設置でもめた。

1984年9月(49歳)、視学官として来学したビクトリア州総督(Governor of Victoria)のブライアン・マレイ卿(Admiral Sir Brian Murray)は、采配を振るい、ブリッグスに不正はないと結論した。

困り果て、思い余った倫理委員会・委員長のジム・ロシター教授(Jim Rossiter)は、1985年6月(49歳)、ブリッグスのネカトを学術誌で指摘した。

この指摘で、オーストラリアのメディアが大騒ぎし、ブリッグスの不正を世間一般が知るところとなった。

1985年9月(50歳)、ブリッグスはディーキン大学を辞職した。

1986年9月28日(51歳)、ブリッグスはネカトを自白。「サンデー・タイムズ」紙がブリッグス事件を大きく報道した。

1986年12月(51歳)、辞職1年後、ブリッグスはスペインで病死した。

150119 geelong-campusディーキン大学・ジーロングキャンパス 写真出典

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:英国
  • 研究博士号取得:米国・コーネル大学(Cornell University)
  • 男女:男性
  • 生年月日:1935年8月20日
  • 没年:1986年12月。享年51歳
  • 分野:生化学(経口避妊薬)
  • 不正論文発表:19xx~1983年(xx ~47歳)
  • 不正論文発表時の地位:ディーキン大学・教授
  • 発覚年:1978年(43歳)
  • 発覚時地位:ディーキン大学・教授
  • ステップ1(発覚):①第一次追及者は同じ大学のマーク・ウェルキヴィスト教授(Mark Wahlqvist)。②ディーキン大学倫理委員会委員長のジム・ロシター教授(Jim Rossiter)も追及した
  • ステップ2(メディア):「Contraception」、「サンデー・タイムズ」など多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①視学官として、ビクトリア州総督(Governor of Victoria)のブライアン・マレイ卿(Admiral Sir Brian Murray)。②ディーキン大学・倫理委員会・委員長のジム・ロシター教授(Jim Rossiter)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。当時、ウェブ技術はなかった
  • 大学の透明性:該当せず(ー)。発表はないけど隠蔽もなし(印象)。
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:撤回論文なし。当時、ネカト論文を撤回する習慣はなかった。かなりの論文・研究発表がネカトと思われる
  • 時期:研究キャリアの中期に発覚だが、研究キャリアの初期からと思われる
  • 結末:辞職
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

経歴出典

  • 1935年8月20日:英国で生まれる
  • 1956年(21歳):英国・リバプール大学(Liverpool University)・卒業
  • 1956~1959年(21~24歳):米国・コーネル大学(Cornell University)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1959~1962年(24~27歳):ニュージーランド・ヴィクトリア大学(Victoria University)・講師。博士号(DSc) 取得
  • 1962~1966年(27~31歳):米国・カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)のシニア・フェロー
  • 1966~1970年(31~35歳):英国のシェリング化学社(Schering Chemicals)・研究員
  • 1970年(35歳):ザンビアのザンビア大学(University of Zambia)・教授(生化学)
  • 1973年(38歳):豪・メルボルンのアルフレッド病院(Alfred Hospital)・生化学部長
  • 1975年(40歳):豪・ゴードン工科大学(Gordon Institute of Technology)・応用科学部長(Head of the School of Applied Sciences)
  • 1976年(41歳):ゴードン工科大学が発展的解消し、ディーキン大学(Deakin University)になるのに伴い、ディーキン大学・人間生物学部・教授、科学計画学部長
  • 1978年(43歳):データねつ造が発覚
  • 1981~1985年11月(46~49歳):ネカト調査する・しないなど、一進一退
  • 1985年6月(49歳):ジム・ロシター教授(Jim Rossiter)らがブリッグスのネカトを学術誌・「Contraception」に発表
  • 1985年6月(49歳)以降:ブリッグスのネカトをマスメディアが報道。オーストラリア学術界の大事件となる
  • 1985年9月(50歳):ディーキン大学辞職
  • 1986年9月28日(51歳):ブリッグスはネカトを自白。「サンデー・タイムズ」紙がブリッグス事件を大きく報道。
  • 1986年12月(51歳):スペインにて、病気で死亡。妻・マキシーン(Maxine)(旧姓Staniford)と、最初の結婚でもうけた2人の子供をのこして

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★経口避妊薬

医薬品は一般に、リスクと利益のバランスで判断する。経口避妊薬の摂取にもリスクと利益がある。

1960~70年代、世界の製薬企業、政府、医師が、経口避妊薬のリスク問題で最も信頼したのが、ブリッグスの研究成果だった。

一般社団法人 日本家族計画協会の2014年12月28日保存記事 によると、「経口避妊薬(ピル)の副作用」は以下の通りだ。

ピルの服用開始時期にみられる症状の多くは、妊娠初期に起こるものと似ています。低用量ピルでは、副作用はきわめて少ないとはいえ、気持ちが悪くなる、吐く、めまい、乳房が張る、体重が増える、頭痛、性器からの出血、消退出血、ゆううつ感などが指摘されています。これら症状の多くは、二、三周期で消失しますが、症状が続く場合には、他のピルに変更することが必要です。

ホルモン用量の高いピルの時代には、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症、脳血栓、高血圧など心循環器系疾患、肝機能障害、乳房や子宮頸部、肝臓のガンなどの発生率を高めることが話題になっていました。低用量ピルを服用しての副作用については、現在大々的な疫学調査がWHOによって実施され、徐々に明らかにされつつあります。(一般社団法人 日本家族計画協会)

ブリッグスに多額の研究資金を提供し、ブリッグスの研究に依存して、経口避妊薬の安全性を主張してきた会社は、ドイツのシェーリングAG社(Schering AG、現・バイエル社(Bayer AG))、米国のワイス社(Wyeth、現・ファイザー社(Pfizer Inc.))である。

1986年の記事(主要情報源③)によると、経口避妊薬は、英国ではロギノン(Logynon)とトリノーディアル(Trinordial)、米国ではトリレブレン(TriLevlen)とトリフェージル(Triphasil)などの製品名で市販されていた。

ブリッグスの研究結果だけに基づいたわけではないが、1976年以前から、これらの経口避妊薬を英米両政府は医薬品として認可していた。

マイケル・ブリッグス(Michael Briggs)。出典:https://blogs.deakin.edu.au/article/the-briggs-affair-part-1/

★ネカト疑惑

1978年(43歳)、ディーキン大学・栄養学科長に新たに任命されたマーク・ウェルキヴィスト教授(Mark Wahlqvist、写真出典)は、上司であるブリッグス学部長の研究結果はねつ造ではないかと疑念を抱いた。

1981年(45歳)、ウェルキヴィストは、マックス・チャールズワース代理学長(Max Charlesworth)に相談した。

1982年(46歳)、ビクトリア州の著名な医学研究者であるブライアン・ハドソン(Bryan Hudson)、ヘンリー・バーガー(Henry Burger)も、ブリッグスの研究結果はねつ造ではないかと、ディーキン大学・学長のフレデリック・ジェボンズ(Frederic Jevons、写真左出典)に問いただした。

ジェボンズ学長はブリッグスに説明を求め、ブリッグスの説明にジェボンズ学長は納得し、不正はないと返答した。

1982年(46歳)、ディーキン大学・倫理委員会・委員長のジム・ロシター(Jim Rossiter、写真出典)も、ブリッグスが研究ネカトをしているとの公益通報を受けていた。

研究ネカト疑惑の理由は以下のようだ。

  • ディーキン大学は、ブリッグスが論文に記載している研究を実施できる設備を持っていない。それらを実施する研究費を支給していない。
  • 論文に記載しているホルモン・ディソジェストレル(desogestrel)は、オーストラリアでは認可されていない。どこで入手したのか? それとも、入手していないのに使用したというデータを記載したのか?
  • 表と本文が矛盾している。
  • 論文に記載してあるヒトに使用した測定法は、羊に使用する測定法である。
  • 論文ではビーグル犬で実験したとあるが、ディーキン大学にはビーグル犬はいない。

1983年11月(48歳)、ロシターは、ブリッグスに説明を求める手紙を出した。1979年と1980年の経口避妊薬の効果に関する論文に関して、女性治験者の募集やデータ分析に疑念があると書いた。

ロシターは、ブリッグスから満足する返事が得られなかった。それで、ディーキン大学・学長のフレデリック・ジェボンズ(Frederic Jevons)に状況を伝えた。

★ネカト予備調査委員会

フレデリック・ジェボンズ学長は、ネカト調査を検討する予備調査委員会を設置しようとした。

しかし、ブリッグスが反対した。

ブリッグスはさらに意表を突く行動にでた。ヴィクトリア州最高裁判所に予備調査委員会設置の差し止め命令を申請したのである。

ジェボンズ学長は、後に、「この事件で起こったことだが、裁判所が科学研究の調査を止めさせたのは、歴史上初めてだったと思う。また、それまで私はブリッグスを擁護しようと思っていたが、これが分岐点だった」と述べている。

異常事態に陥ったディーキン大学は、事態を保留し、大学行政に絶対的な権力をもつ視学官(The Visitor)の来訪を要請した。視学官制度は、英連邦の大学群の通常の制度である。

1984年9月(49歳)、視学官として、ビクトリア州総督(Governor of Victoria)のブライアン・マレイ卿(Admiral Sir Brian Murray、写真出典)が来学した。

1985年2月(49歳)、ところがナント、ブライアン・マレイ卿は、ブリッグスに不正はないと結論した。ブリッグスを支持し、ジェボンズ学長の運営の不手際を指摘・非難したのである。

ジェボンズ学長は視学官の見解を否定したが、視学官が下した結論を覆す方法はない。

ディーキン大学のネカト調査は、ここで頓挫したかにみえた。

★打開策

ブリッグスのネカト調査は行き詰ったかに見えた。

倫理委員会委員長のロシターは別の手段に訴えた。

1985年6月(49歳)、ジム・ロシター(Jim Rossiter)は、ビクトリア州の著名な医学研究者であるブライアン・ハドソン(Bryan Hudson、写真左出典)、ヘンリー・バーガー(Henry Burger 、写真右出典)とともに、ブリッグスの不正研究の疑念を医学誌・「Contraception」に発表した。

白楽は、この1985年6月の論文がどの論文なのか掴めなかった。同じ3人の著者の、翌1986年4月の以下の論文はみつかった。

1985年6月の論文発表でブリッグスのデータねつ造が表沙汰になった。

マスメディアは群がって報道したことで、ブリッグスの不正は世間の大スキャンダルとなった。

オーストラリア学術界の大事件となったのである。

★不正を白状

1985年10月(50歳)、不正が表沙汰になった4か月後、ブリッグスはディーキン大学を辞任し、オーストラリアを去り、スペイン南部に移住した。

1986年9月(51歳)、ブリッグスは、ジャーナリストのブライアン・ディア記者(Brian Deer、写真出典:Brian Deer – briandeer.com)に以下の不正を白状した。

  • 経口避妊薬の効果を大規模な治験で証明したとしたが、実際は治験をしていなかった。治験は別人のデータ(誰のかを明言しなかった)を流用した。
  • 動物実験をしたことになっているが、動物実験は一度もしていない。
  • 論文では生化学データを混用した。元データをどこで得たのか、どの国で実験した時に得たのかさえもわからない。

記事は、1986年9月28日、「サンデー・タイムズ」紙に発表された(下記の紙面)。Michael Briggs and a pharmaceutical fraud, by Brian Deer
150119 michael-briggs[1]

1986年10月3日、別の記者によるマイケル・ブリッグス事件の記事が、「Age」新聞に掲載された(以下出典)。

★末路

1986年12月(51歳)、不正が表沙汰になって1年6か月後、新聞は、マイケル・ブリッグスがスペインで病気で死亡したと報道した。妻・マキシーン(Maxine)(旧姓Staniford)と、最初の結婚でもうけた2人の子供をのこして。

1987年(没0年後)、ブリッグスが亡くなる直前、ディーキン大学はネカト「本調査」委員会を設立していた、と発表した。ブリッグスの共同研究者の不正を調査することと、ディーキン大学の悪評を回復するためだった。

調査委員会は、その後、ブリッグスの論文にデータねつ造があったこと、共同研究者に不正がなかったことを結論した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2023年11月19日現在、パブメド(PubMed)で、マイケル・ブリッグス(Michael Briggs、Michael H. Briggs)の論文を「Michael Briggs[Author]」で検索すると、2002年~2023年の22年間の126論文 論文がヒットした。ブリッグスは 1986年没なので、全部、本記事のマイケル・ブリッグスとは別人である。

「Briggs M」 で検索すると、1947年~2023年の77年間の908論文 論文がヒットした。本記事のマイケル・ブリッグスとは別人の論文が多数含まれていると思われる。

2023年11月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。2021年の論文なので、本記事のマイケル・ブリッグスとは別人の論文である。

ーーーー

パブメド(PubMed)で、マイケル・ブリッグス(Michael H. Briggs)の問題論文を探った。

1979年に3報ある。これら全部または一部がネカト論文だろう。全論文、妻・マキシーン(Maxine)だけが共著者である。

1981年にも1報ある。これもネカト論文だろう。「Free PMC Article」なので無料で閲覧できる。

なお、ブリッグスは査読付き論文として研究成果を発表したのではなく、国際シンポジウムで発表し、製薬企業がそれを配布用パンフレットとして使用した。だから、問題の発表(論文)は上記ではないかもしれない。

ブリッグスは1979~1983年に以下の3つの重要な発表した。これらは上記と重複しない。これらが問題の発表なのかもしれない。

  • 1979年、Recent Biological Studies in Relation to Low Dose Hormonal Contraceptives
  • 1980年、Progestogens and Mammary Tumours in the Beagle Bitch
  • 1983年、Comparative Metabolic Effects of Oral Contraceptives Containing levonorgestrel or Desogestrel
そして、ブリッグスの論文は、2023年11月19日現在、1報も撤回されていない。
 

★撤回監視データベース

2023年11月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマイケル・ブリッグス(Michael Briggs、Michael H. Briggs)を「Michael H. Briggs」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年11月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マイケル・ブリッグス(Michael Briggs、Michael H. Briggs)の論文のコメントを「Michael H. Briggs」で検索すると、3論文にコメントがあった。 2015年以降の論文なので、本記事のマイケル・ブリッグスとは別人の論文である。

●7.【白楽の感想】

《1》外国の大事件 

本記事のマイケル・ブリッグス(Michael Briggs)事件は、オーストラリアでウィリアム・マクブライドと並ぶ大事件だったそうだ。しかし、日本では全く知られていない。

ウィリアム・マクブライド(William McBride)(豪)

外国で著名な事件が日本では全く知らていない、この現実に困惑する。外国の事情が特殊なフィルターを通してしか日本に入ってこない。

日本の情報収集力の低さ、国民への周知力の低さは、昔も現在も変わらない日本の欠点である。

外国のネカト事件を解説していると、日本語で流布されているネカト関連情報がかなり偏っていることに直面する。

基本姿勢から変えないと、無理なんだろうけど、ネカト知識・対処は、かなりの部分、「日本の常識・世界の非常識」である。

白楽がそれを指摘しても、在日日本人は、現在の日本がまともで、白楽がヘンと思っているようだ。だから、日本のネカト状況を変えようとはしない。コマッタなあ。

《2》調査記録が秀逸 

主要情報源②に調査記録が整理されている。

40年前なのに事件の詳細が記録され、それをルボルン大学が保存・公開している点は見事である。日本の大学は見習ってほしい。

今まで調べた「研究上の不正行為」事件の中で、この記録の整理・保存・公開はトップクラスである。

左から、マイケル・ブリッグス(Michael Briggs)、 ディーキン大学・学長のフレデリック・ジェボンズ(Frederic Jevons)、  ディーキン大学・総長(名誉職)のジャスティス・アッシュ( Justice Asche)。写真出典

《3》医薬品の事件 

ヒトは医薬品を摂取する。助成金バイアスがかかり研究ネカトをした論文の医薬品は、必ず、助成金支給企業に都合の良い結果を発表している。しかし、そのことで、ヒトの健康を損なう実害が生じる。

しかも、健康被害の調査を十分にしない。被害者は一般大衆で泣き寝入りである。

不正研究者にもっと強いペナルティを課さないと、ズル研究者が後を絶たない。なんとかしないと。

《4》大学院・研究初期 

ネカトの法則:「ネカト癖は院生時代に形成されることが多い」。

大学院の初期段階で、研究のあり方を習得するときに、研究規範をしっかり習得させるべきだ。

ブリッグスの場合、英国・リバプール大学(Liverpool University)の指導教員、または、研究博士号(PhD)を授与した米国・コーネル大学(Cornell University)の指導教員が研究規範をしっかり躾けていれば、「研究上の不正行為」をしない研究人生を過ごしたかもしれない。

《5》不正の初期 

「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。

ブリッグスの場合、ディーキン大学で研究ネカトが発覚しているが、多分、それ以前から不正をしていたと思われる。

その不正を初期段階で見つけて処分しておけば、①改心して、以後、不正をしない。②あるいは、不正者はあまり出世しないので不正行為の影響が少ない。のどちらかになった公算が高い。

「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響が大きくなる。

《6》不正を100%見つけ100 %厳罰を科する仕組みにする 

人間はどうして飲酒運転をするか? 

警察官、裁判官、教師も飲酒運転をする。

犯罪だと知っているのに飲酒運転をする。

人生を破滅させるかもしれないと知っているのに飲酒運転をする。

「今まで、見つかっていないので、今度も見つからない」からするのである。

「研究上の不正行為」も同じである。悪いこと、研究人生を破滅させるかもしれないと知っているのに不正をする。

だから、研究者に研究倫理の講習や研修を義務化しても、効果は薄い。なぜなら、「してはいけないこと」「悪いこと」を承知していて、するのだから、「してはいけないこと」「悪いこと」と教えても意味がない。

しかし、必ず見つかり、必ず厳罰を科されれば、しない。

だから、現在のネカト対処システムを変えて、「研究上の不正行為」は100%(約98%でも可)見つかる仕組みにする。そして、100%(約98%でも可)厳罰を科す。

ーーーーーーー
日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の協力もあり、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

① ◎1989年秋のブライアン・マーチン(Brian Martin)の論文「Thought and Action (The NEA Higher Education Journal), Vol. 5, No. 2, Fall 1989, pp. 95-102」:Fraud and Australian academics
② ◎The University of Melbourne eScholarship Research Centre:Guide to the Records of Dr Jan Sapp Regarding the Briggs Affair
③ ◎1986年9月28日、ブライアン・ディア(Brian Deer)の「サンデー・タイムズ」の記事:Michael Briggs and a pharmaceutical fraud, by Brian Deer
④ 1992年8月26日のキャンベラタイムズ(The Canberra Times)の記事「THE TRIALS OF A WHISTLEBLOWER
⑤ 1986年10月3日のジオフ・マスレン(Geoff Maslen)とフィリップ・マッキントシュ( Philip McIntosh)の「The Age」記事:The Age – Google News Archive Search
⑥ ブリッグス事件3部作:(1)The Briggs Affair Part 1: An academic scandal – Article、(2)The Briggs Affair Part 2: The push for a University inquiry – Article、(3)The Briggs Affair Part 3: Fallout – Article
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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