イエス・レムス(Jesús Lemus)(スペイン)

2023年2月10日掲載 

ワンポイント:スペインの科学研究高等評議会(Consejo Superior de Investigaciones Científicas:CSIC)のドニャーナ生物研究所(Estación Biológica de Doñana)・ポスドクだったレムスは、2011年12月23日(38歳?)、上司と同僚にネカト疑念を告発された。3か月後の2012年3月13日(39歳?)(この年月日、不正確かも)、高等科学研究評議会・倫理委員会はネカト調査の結果、レムスをクロと発表した。2015年6月18日、レムスは12報撤回で「撤回論文数」世界ランキング第28位(番号は29番)にランク入りしていた。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus、Jesús Ángel Lemus、Jesús Ángel Lemus Loarte、 ORCID iD:?、写真出典)は、スペインの科学研究高等評議会(Consejo Superior de Investigaciones Científicas:CSIC)のドニャーナ生物研究所(Estación Biológica de Doñana)・ポスドクで、専門は獣医学(鳥類)だった。

2023年2月9日現在、「撤回論文数」世界ランキング(第30位以内)にリストされるには撤回論文数が27報以上必要である。しかし、8年前の2015年6月18日、イエス・レムス(Jesús Lemus)は12報撤回で第28位(番号は29番)にランク入りしていた。 → 2015年6月18日版のThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

2011年12月23日(38歳?)、レムスの鳥類の研究結果を再現できなかったため、ドニャーナ生物学研究所のレムスの上司と同僚が、高等科学研究評議会・倫理委員会(Ethics Committee of the Higher Council for Scientific Research)に研究データのネカト疑念を告発した。

2012年3月13日(40歳?)(この年月日、不正確かも)、高等科学研究評議会・倫理委員会はネカト調査の結果、レムスをクロと発表した。

2006~2011年(33~38歳?)に出版された13論文が、2013~2015年(40~42歳?)に撤回された。

ドニャーナ生物研究所(Estación Biológica de Doñana)。写真出典

  • 国:スペイン
  • 成長国:スペイン
  • 獣医師免許取得:マドリード・コンプルテンセ大学
  • 研究博士号(PhD)取得:ドニャーナ生物研究所
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1991年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:51歳?
  • 分野:獣医学
  • 不正論文発表:2006~2011年(33~38歳?)
  • 発覚年:2011年(38歳? )
  • 発覚時地位:ドニャーナ生物研究所・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はドニャーナ生物学研究所のレムスの複数の同僚。高等科学研究評議会・倫理委員会に公益通報
  • ステップ2(メディア):ラファエル・メンデス(Rafael Méndez)記者の「EL PAÍS」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①科学研究高等評議会・倫理委員会(Ethics Committee of the Higher Council for Scientific Research)
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 研究所の透明性:不明(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:13論文が2013~2015年(40~42歳?)に撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:雇用契約の更新なし。解雇処分と同等とした
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Jesús Ángel Lemus Loarte | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1991年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 1991~2003年(18~30歳?):マドリード・コンプルテンセ大学(Universidad Complutense de Madrid)で学士号取得:獣医学。獣医師免許取得
  • 2003年9月~2010年6月(30~37歳?):同大学で獣医学の名誉協力者
  • 2005年8月~2009年7月(32~36歳?):スペインの科学研究高等評議会(CSIC)の国立自然科学博物館(Museo Nacional de Ciencias Naturales)・博士号取得前研究員
  • 2006年6月(33歳?):撤回論文としては最古の「2006年6月のJournal of Applied Ecology」論文を出版
  • 2007~2010年(34~37歳?):科学研究高等評議会(CSIC)のドニャーナ生物研究所(Estación Biológica de Doñana)・院生
  • 2009年(36歳?):同研究所(Estación Biológica de Doñana)で研究博士号(PhD)を取得:博士論文は「Enfermedades emergentes y residuos de fármacos en aves salvajes: Aspectos sanitarios e inmunitarios asociados en dos modelos de aves rapaces
  • 2010~2012年6月(37~39歳?):同研究所・ポスドク
  • 2011年12月(38歳?):不正研究が発覚
  • 2012年3月13日(39歳?)(この年月日、不正確かも):高等科学研究評議会・倫理委員会はレムスをクロと発表
  • 2017年6月~現在(44~50歳?):初等中等教育や大学で教員職についている

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★元世界ランク者

「撤回監視(Retraction Watch)」は2010年8月に活動を開始したが、2012~2013年に10回以上もイエス・レムス(Jesús Lemus)事件の記事を掲載している。

理由は良くわからないが、「撤回監視(Retraction Watch)」はレムス事件に大きな関心を抱いたようだ。

「撤回監視(Retraction Watch)」の活動が軌道に乗った時期の事件だと推察する。

2023年2月9日現在、「撤回論文数」世界ランキング(第30位以内)にリストされるには撤回論文数が27報以上必要である。しかし、8年前、イエス・レムス(Jesús Lemus)は12報撤回で第28位(番号は29番)にランク入りしていた。 → 2015年6月18日版のThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

白楽ブログでは随分前からレムス事件を記事にする予定で、記事予定フォルダーに格納していたが、他の事件が続々と出てきて、記事にするのは遅くなってしまった。今回、在庫整理がらみで記事にした。

★発覚の経緯

2011年12月23日(38歳?)、レムスの鳥類の研究結果を再現できなかったため、ドニャーナ生物学研究所のレムスの上司と同僚が、高等科学研究評議会・倫理委員会(Ethics Committee of the Higher Council for Scientific Research)にレムスの複数の論文に異常なデータがあると、ネカト疑念を告発した。

例えば、以下の2論文である。

高等科学研究評議会・倫理委員会はネカト調査をした。しかし、レムスは自己弁護し、ネカトの事実を認めなかった。

2012年6月(39歳?)、科学研究高等評議会(CSIC)はレムスが正常な職務を果たしていないという理由で(形式上のためか、ネカトが理由ではない)、レムスとの雇用契約を更新しないとした。早い話、解雇した。

★調査結果

2012年3月13日(39歳?)(この年月日、不正確かも)、高等科学研究評議会・倫理委員会はレムスのネカト調査の結果を発表した。

倫理委員会によると、研究を実際に行なったという事実を示す記録が見つからなかった。つまり、データねつ造が見つかった(具体例は後述)。

また、レムス論文の共著者の何人かの所属は虚偽または不明だった。

具体的には、6報の論文の共著者である「ハビエル・グランデ(Javier Grande)」は、実在しない架空人物だったということがわかった。

倫理委員会は、2007~2012年にドニャーナ生物学研究所で研究していたレムスが、17学術誌に掲載した 24報の論文で「ねつ造・改ざん」または「間違い」をしたと結論付けた。論文の訂正または撤回をするよう要請した。

スペインの科学研究高等評議会(CSIC)のエミリオ・ローラ=タマヨ議長(Emilio Lora-Tamayo – Wikipedia, la enciclopedia libre、写真出典) は、米国の学術誌「PLoS ONE」「PNAS」、英国の学術誌「Biology Letters」などの 17学術誌に、レムスのネカト調査結果を書面で通知した。

レムス論文の共著者たちは、論文出版前にはレムスの不正行為に気がつかなかったと述べた。

ローラ=タマヨ議長は、論文の全共著者に連絡し、学術誌が論文の訂正または撤回の承認を求めてくるので、承認するよう要請した。

その後、2013~2015年(40~42歳?)、2006~2011年(33~38歳?)に出版された13論文が撤回された。要請した24論文・全論文の撤回には至らなかった。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2011年1月のScience」論文

「2011年1月のScience」論文の書誌情報を以下に示す。2023年2月9日現在、撤回されていない。

図3Aと図3Cは、猛禽類の2つの巣を示している。

上図の出典:http://web.archive.org/web/20121116115119/http://www.science-fraud.org/?p=408

図3Aの巣は3歳の鳥用で、図3Cは22歳の鳥用で、調査は2005年から2010 年の間に行なわれた。従って、これら2つの画像は別の巣のハズである。ところが、実際には、同じ巣を少し異なる角度から撮影した2枚の異なる写真だった。巣の地衣類の模様を見れば2つの画像に写っている木が同じことが分かる。

画像不正は、2012年12月に閉鎖したポール・ブルックス(Paul Brookes)が指摘した。 → 1‐5‐11 サイエンス・フラウド(Science Fraud) | 白楽の研究者倫理

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年2月9日現在、パブメド(PubMed)で、イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus、Jesús Ángel Lemus)の論文を「Jesús Lemus [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の34論文がヒットした。

2023年2月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、11論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年2月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでイエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus、Jesús Ángel Lemus)を「Jesús A. Lemus」で検索すると、1論文が訂正、2論文が懸念表明、13論文が撤回されていた。

2006~2011年(33~38歳?)に出版された13論文が、2013~2015年(40~42歳?)に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年2月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus、Jesús Ángel Lemus)の論文のコメントを「Jesús A. Lemus」で検索すると、14論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》元世界ランク者 

2023年2月9日現在、「撤回論文数」世界ランキング(第30位以内)にリストされるには撤回論文数が27報以上必要である。しかし、8年前の2015年6月18日、イエス・レムス(Jesús Lemus)は12報撤回で第28位(番号は29番)にランク入りしていた。 → 2015年6月18日版のThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

ということで、白楽ブログでは随分前からレムス事件を記事予定フォルダーに格納していた。

今回、在庫整理がらみで記事に取り上げた。

《3》不可解要素多し

「在庫整理がらみで記事に取り上げた」と書いたが、レムス事件はなかなかわかりにくい。

ポスドクという地位の研究者が、なんで、13論文もの撤回論文があるのか?

13論文も撤回論文があるということは、少なくとも、13論文以上出版しているハズだ。

鳥類の研究でポスドクで13論文発表って、とても多い。どこか、間違えている?

それに、経歴が1991~2003年(18~30歳?)に、マドリード・コンプルテンセ大学(Universidad Complutense de Madrid)で学士号と獣医師免許を取得とあるが、12年間も大学に在籍するって、どこか、間違えている?

12年間も大学に在籍するのは、日本ではとてもマレである。スペインでもマレだと思う。

それで、少し調べてはヘンだと思い、記事執筆を中断していた。

今回、腹をくくり、いろいろ調べた。

すると、イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus)は、資産家でかなりの金持ちだとあった。貧乏人の白楽の感覚とは大きく異なり、どうやら、「趣味で鳥類の研究をできる」金持ちだったようだ。

金持ちの趣味なので12年間の大学在籍はおかしくない。

ポスドクっても、39歳(?)なので、13論文発表もおかしくない。

《3》博士号剥奪?

イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus)が2006~2011年(33~38歳?)に出版した13論文が、2013~2015年(40~42歳?)に撤回された。

2009年(36歳?)に研究博士号(PhD)を取得しているけど、博士論文は、ネカト論文だらけの時期と重なる。

研究博士号(PhD)は剥奪されたと思うが、白楽は確かめていない。スペインはネカト処分がいい加減なので、剥奪されていないかも。

イエス・レムス(Jesús Lemus、Jesús A. Lemus)。写真出典

ーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●9.【主要情報源】

① 2012年2月25日のラファエル・メンデス(Rafael Méndez)記者の「EL PAÍS」記事:El CSIC investiga si un científico de Doñana alteró estudios | Sociedad | EL PAÍS
② 2012年3月13日のラファエル・メンデス(Rafael Méndez)記者の「EL PAÍS」記事:El investigador investigado inventó seis estudios en su currículo académico | EL PAÍS
③ 2012年3月13日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Spanish veterinary researcher under suspicion of creating “ghost” author, fabricating data – Retraction Watch
④ 2012年3月18日のフランシスコ・ヴィラトロ(Francisco R. Villatoro)記者の「La Ciencia de la Mula Francis」記事:El “caso Lemus” destapado por El País salpica al CSIC – La Ciencia de la Mula Francis
⑤ 2012年8月13日の「Science Fraud」記事:Extreme Makeover, Bird’s Nest Edition [UPDATED] | Science Fraud
⑥ 2012年9月10日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Carrion, my wayward son: Vulture paper from Spanish researcher suspected of misconduct retracted – Retraction Watch
⑦ 2012年10月10日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Walk (back) an Egyptian (vulture): Another paper by Spanish vet under scrutiny retracted – Retraction Watch
⑧ 2012年10月12日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Feeling sheepish: Another retraction for Lemus, of study of whether livestock can spread chlamydia to birds – Retraction Watch
⑨ 2012年11月13日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A pair of expressions of concern in PLOS ONE over vet science papers – Retraction Watch
⑩ 2012年11月27日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Not immune: Jesús A. Lemus earns another Expression of Concern – Retraction Watch
⑪ 2013年2月14日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Not in my journal: Two editors take stock of misconduct in their fields — and don’t find much – Retraction Watch
⑫ 2013年3月12日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Jesús Lemus notches his eighth retraction – Retraction Watch
⑬ 2013年5月21日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Ephemeral nature” of samples — and co-author — leads to ninth Jesús Lemus retraction – Retraction Watch
⑭ 2013年5月23日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Tenth retraction appears for Jesús Lemus, this one in PLOS ONE – Retraction Watch
⑮ 2015年10月9日のロス・キース(Ross Keith)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:13th retraction issued for Jesús Ángel Lemus – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します

Subscribe
更新通知を受け取る »
guest
0 コメント
Inline Feedbacks
View all comments