2018年6月9日掲載。
ワンポイント:コルカタ大学(Calcutta University)・助教授。2018年4月19日(40歳?)、3日前に退学した院生のジェイタ・バルア(Jayita Barua、女性)がフェイスブックでユーキルのネカト行為を告発した。損害額の総額(推定)は1億円。ユーキル事件は、フェイスブックでネカト者を告発している点が新しい。この方式が新動向になるのでしょうか?
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
アニンディタ・ユーキル(Anindita Ukil、写真出典)は、インドのコルカタ大学(Calcutta University)・助教授で医師ではない。専門は免疫学(内臓リーシュマニア症)だった。
2018年4月19日(40歳?)、3日前に退学した元・院生のジェイタ・バルア(Jayita Barua)がフェイスブックでユーキルのネカト行為を告発した。
コルカタ大学は調査を始めた。
2018年5月30日現在(40歳?)、コルカタ大学の調査が終了したかどうか不明である。
このユーキル事件は、フェイスブックでネカト者を告発している点が新しい。この方式は新動向になるでしょうかね?
コルカタ大学(Calcutta University、University of Calcutta)は、NIRFの2018年大学ランキングでインド第21位である。「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第64位である。(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。
コルカタ大学(Calcutta University)・生化学科。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ジャダプール大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。2003年にインド国立化学生物学研究所から最初の論文(第2著者)を発表している。2報目(第1著者)の論文は2005年で、これが博士論文と考え、この時を27歳とした
- 現在の年齢:46 歳?
- 分野:免疫学
- 最初の不正論文発表:
- 発覚年:2018年(40歳?)
- 発覚時地位:コルカタ大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ研究室のジェイタ・バルア院生(Jayita Barua)で、フェイスブックで公表し、所属する生化学科のプラサンタ・クマール・バッグ学科長、コルカタ大学、インドの研究助成機関に公益通報
- ステップ2(メディア): 「Nature India」、「Telegraph India」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Journal of Biological Chemistry」・編集部。②コルカタ大学・調査委員会は調査中
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中(ー)
- 大学の透明性:調査中(ー)。
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:複数論文と思われる。撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの初期から(推定)
- 損害額:総額(推定)は1億円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害が1人1000万円で、損害額は1000万円。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(大学と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。0報撤回なので損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 処分: なし
- 日本人の弟子・友人:不明
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。2003年にインド国立化学生物学研究所から最初の論文(第2著者)を発表している。2報目(第1著者)の論文は2005年で、これが博士論文と考え、この時を27歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- xxxx年(xx歳):インドのコルカタ大学(Calcutta University)で修士号取得:化学
- 2003年(25歳?):インド国立化学生物学研究所(Indian Institute of Chemical Biology)から最初の論文(第2著者)を発表
- 2005年(27歳?):インドのジャダプール大学(Jadavpur University)で研究博士号(PhD)を取得
- xxxx年(xx歳):インドのコルカタ大学(Calcutta University)・助教授
- 2018年4月(40歳?):研究室の院生にネカトが告発された
- 2018年5月30日現在(40歳?):大学はネカト調査中
受賞
- 2010 Dr Anindita Ukil : Young Scientist Award by National Academy of Sciences, (NASI) India
- 2013 Dr Anindita Ukil : SERB Women Excellence Award by SERB-DST, India
- 2014 Dr Anindita Ukil : Prof. B.K. Bachhawat Memorial Young Scientist Lecture , (NASI), India
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2014年(36歳?)、アニンディタ・ユーキル助教授(Anindita Ukil)の研究室に、ジェイタ・バルア(Jayita Barua)が院生として入ってきた。
それから4年後。
2018年3月(40歳?)、ユーキル助教授は、学術誌「Journal of Biological Chemistry」に原稿を送付した。
2018年4月12日(40歳?)、ユーキル助教授が指導していた院生のジェイタ・バルア(Jayita Barua、写真出典)が、学術誌「Journal of Biological Chemistry」に現在投稿中の論文はねつ造データが含まれているので、自分の名前を共著者から外してほしいとメールした。
また、バルア院生は、所属する生化学科のプラサンタ・クマール・バッグ学科長(Prasanta Kumar Bag)、コルカタ大学、インドの研究助成機関( Department of Science and Technology and Department of Biotechnology)にユーキル助教授のネカトを告発した。
「Journal of Biological Chemistry」編集部の依頼に応じて、バルア院生は、投稿原稿のねつ造部分を示したデータを送付した。
2018年4月16日(40歳?)、「Journal of Biological Chemistry」編集部は投稿原稿を掲載不可と決定した。
2018年4月16日(40歳?)、バルア院生は、大学院を退学した。
3日後、2018年4月19日(40歳?)、バルア院生は何年にもわたって何度もねつ造・改ざんデータを使って論文を作成することを強要されていたとフェイスブックで暴露した。
以下の文書をクリックすると、該当するフェイスブックでが別窓で開きます。
フェイスブックの内容を、一部紹介しよう。
バルア院生は既にネカトに協力してきたのに、なぜ今になってネカトを告発したのか自問している。
ユーキル研究室の論文に惹かれてユーキル研究室に入ったが、研究室は論文工場で、科学研究というより評判の良い学術誌に論文を掲載するのが主目的の研究文化だった。この考え方を不快に感じ、良心がむしばまれていった。
2016年、大学院を辞めたいとユーキル助教授に伝えたが丸め込まれて、院生を続けた。
2017年5月、間違いを犯した。スペインで開催のリーシュマニア症世界会議(World Congress on Leishmaniasis)でネカトデータをポスター発表してしまった。学術誌に出版した論文でなくてポスター発表だと自分をなぐさめたが、これは間違っていた。
そして、共著者として学術誌に出版する論文原稿を作成した。このとき、もう一度データねつ造に同意した。
そして、良心の痛み、キャリア上の心配、博士号取得の心配、ユーキル助教授と上級教員からの怒りなどが語られている。
このフェイスブックは、「いいね!909件」「コメント159件」「シェア500件」と、大きな反響を呼んだ。
なお、ユーキル助教授はネカトを否定している。「ネイチャー・インディア」紙記者に「ネカトの申し立ては全くデタラメナです」と返事している。
コルカタ大学のソナリ・チャカルバルティ・バナージェ学長(Sonali Chakarvarti Banerjee、写真出典)は、ネカト調査のための2人委員会を設置した。委員はマドハスダン・ダス・科学部長(Madhusudan Das)とディパック・カー学術担当副学長(Dipak Kar)である。
2018年6月8日現在(40歳?)、2人委員会の調査が終了したかどうか不明である。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
不明
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年5月30日現在、パブメド(PubMed)で、アニンディタ・ユーキル(Anindita Ukil)の論文を「Anindita Ukil [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2018年の16年間の20論文がヒットした。
20論文の内17論文がインド国立化学生物学研究所のピジャス・ダス(Pijush K Das、写真出典)と共著である。
「Ukil A[Author]」で検索すると、1945~2017年の73年間の38論文がヒットした。実質は24論文である。というのは、25論文以降は1953年以前の出版なので、本記事で問題にしている研究者の論文ではない。
24論文の内19論文がPijush K Dasと共著である。
ジェイタ・バルア(Jayita Barua)が共著者になった論文は2報あった。
- Leishmania donovani inhibits inflammasome-dependent macrophage activation by exploiting the negative regulatory proteins A20 and UCP2.
Gupta AK, Ghosh K, Palit S, Barua J, Das PK, Ukil A.
FASEB J. 2017 Nov;31(11):5087-5101. doi: 10.1096/fj.201700407R. Epub 2017 Aug 1. - IRAK-M regulates the inhibition of TLR-mediated macrophage immune response during late in vitro Leishmania donovani infection.
Srivastav S, Saha A, Barua J, Ukil A, Das PK.
Eur J Immunol. 2015 Oct;45(10):2787-97. doi: 10.1002/eji.201445336. Epub 2015 Jul 21.
2018年5月30日現在、「Ukil A[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2018年5月30日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アニンディタ・ユーキル(Anindita Ukil)の論文のコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》院生が教員のネカトに気が付いたら
ネカト事件は世界中で起こっている。
一般的に告発者は自分の素性を隠して、匿名で告発する。告発すると、被告発者から強く反撃されるからだ。告発を受け付ける大学・機関は、告発者の保護も重要な義務である。
ユーキル事件は、研究室の院生であるジェイタ・バルア(Jayita Barua)が、フェイスブックでネカト者を告発した点が新しい。SNSで告発とは現代的だ。この方式が新動向になるでしょうか?
バルア院生はフェイスブックで告発する3日前に大学院を退学した。つまり、かなりの犠牲を払っている。実名で告発するにはナカナカ大変である。
では、院生は、教員のネカトに気が付いたらどうすべきなのでしょう。
告発しないで、ネカトに協力して院生を終え、博士号を取得する。実利的であるが、しかし、これでは精神が歪んでしまう。
ネカト教員の指導下に入った院生は、なかなか厳しい人生になる。
日本の加藤茂明事件(東京大学)では、加藤茂明・教授の他に、10人の教員・研究員・院生がネカトで処分された。もし、加藤茂明研究室に入ってしまったら、どうするのが正解なのだろうか?
冷静に考えれば、気が付いた時点で研究室を変えることだ。その後、匿名で告発する。
しかし、バルア院生のように、研究室で既に4年も過ごし、3年目に自分もネカトに加担していたら、黙っているのも告発するのも、難しいだろう。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 2018年4月25日のビプラブ・ダス(Biplab Das)記者とサブラ・プリヤドシシーニ(Subhra Priyadarshini)記者の「Nature India」記事:PhD researcher quits citing data forgery by seniors – Nature India
② 2018年4月28日のムドゥル(G.S. Mudur)記者の「Telegraph India」記事:CU teacher under data fraud scanner – Telegraph India
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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