2017年9月9日掲載。
ワンポイント:インド第705位のカルパガム大学の博士院生・クマール(男性、29歳?)がインドの別の大学の論文を全文盗用し、2012年に出版した。被盗用者がすぐに盗用を見つけた。2012年、カルパガム大学は博士院生・クマールを退学処分、指導教授のヘマラータ(女性、48歳?)にも何らかの処分をした。1論文が撤回。損害額の総額(推定)は9200万円。この事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル:2013年1月10日」の第6位である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ロメン・クマール(Romen Kumar、男性、写真出典)、エム・ヘマラータ(M Hemalatha、女性、氏名の名は「M」以外不明、写真出典)は、インドのカルパガム大学(Karpagam University)の博士院生とその指導教授で、専門は情報工学だった。
2012年(34歳)、同じコーヤンブットゥール(Coimbatore)市にあるアムリータ大学(Amrita University)の研究者(著者の1人は学長)が発表した論文を、著者の名前を変えただけの全文を盗用し、「International Journal of Advances in Engineering and Technology」に出版した。
被盗用者はすぐ盗用に気が付き、抗議した。
クマール院生とヘマラータ教授は陳謝し、論文を撤回した。
2012年、カルパガム大学はクマール院生(29歳?)を退学処分した。ヘマラータ教授(女性、48歳?)も処分をしたが、処分内容は不明である。
クマール事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル:2013年1月10日」の第6位である。
なお、「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)で調べると、盗用したカルパガム大学(Karpagam University)はインド第705位の大学である。被盗用者が所属するアムリータ大学(Amrita University)はインド第17位の大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。
カルパガム大学(Karpagam University)。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド
- 研究博士号(PhD)取得:ク院生ない。ヘ教授あり
- 男女:ク院生男性、ヘ教授女性
- 生年月日:ク院生は、仮に1983年1月1日生まれとする。2005年の大学卒業時を22歳とした。ヘ教授は仮に1964年1月1日生まれとする。2004年の準教授就任時を40歳とした。
- 現在の年齢:ク院生は41 歳?。ヘ教授は60 歳?
- 分野:情報工学
- 最初の不正論文発表:2012年(ク院生29歳?、ヘ教授48歳?)
- 発覚年:2012年(ク院生29歳?、ヘ教授48歳?)
- 発覚時地位:カルパガム大学・博士院生と教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者で、盗用者の大学に公益通報
- ステップ2(メディア): 「Times of India」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カルパガム大学が当局だが調査委員会は設けなかった
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:盗用
- 不正論文数:撤回論文は1報
- 時期:ク院生は研究キャリアの初期から、ヘ教授は研究キャリアの中期
- 損害額:総額(推定)は9200万円。内訳 → ①ク院生が研究者になるまで5千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧ヘ教授の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 結末:ク院生は退学。ヘ教授の処分内容は不明だが研究キャリアを継続できた
●2.【経歴と経過】
★ロメン・クマール(Romen Kumar)
詳細不明
- 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2005年の大学卒業時を22歳とした。
- 2005年(22歳?):インドのxx大学を卒業
- 2008年(25歳?):インドのxx大学で修士号取得
- 2008年(25歳?):カルパガム大学(Karpagam University)・博士院生
- 2012年1月(29歳?):盗用論文を発表
- 2012年2月?(29歳?):論文盗用が発覚
- 2012年3月?(29歳?):退学処分
★エム・ヘマラータ(M Hemalatha)
詳細不明
- 生年月日:不明。仮に1964年1月1日生まれとする。2004年の準教授就任時を40歳とした。
- xxxx年(xx歳):インドのxx大学を卒業
- xxxx年(xx歳):インドのxx大学で研究博士号(PhD)を取得した
- 2004年12月–2011年12月(40–47歳?):カルパガム大学(Karpagam University)・準教授
- 2011年1月(47歳?):同・教授。2012年の間違い?
- 2012年2月?(48歳?):論文盗用が発覚
- 2017年9月8日現在(53歳?):ラジャラクシミ人文科学大学(Dr.SNS Rajalakshmi College of Arts and Science)・学部長 → ココ
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★被盗用論文
インド第17位のアムリータ大学(Amrita University)の3人の研究者は2006年~2009年の4年間、欧州委員会(European Commission)の研究助成を受けたWINSOCプロジェクトの研究成果を論文として発表した。
→ WINSOCプロジェクト:WINSOC – Wireless Sensor Networks with Self-Organization Capabilities for Critical and Emergency Applications | Amrita Vishwa Vidyapeetham (Amrita University)
論文は査読付きの学術誌ではないが、以下の論文である。
→ PDF:Maneesha V. Ramesh, Sangeeth Kumar, and P. Venkat Rangan, Wireless Sensor Network for Landslide Detection
3人の研究者はマニーシャ・ラメシュ教授(Maneesha V Ramesh、女性、写真出典)、ベンカット・ランガン学長(P Venkat Rangan、男性、写真出典)、サンギーツ・クマール研究員(Sangeeth Kumar、男性)である。
★論文盗用
2012年1月、インド第705位のカルパガム大学(Karpagam University)の院生・ロメン・クマール(Romen Kumar)とエム・ヘマラータ教授(M Hemalatha)が、上記論文を盗用して、「International Journal of Advances in Engineering and Technology」に発表した。
両大学は、インド南部のタミル・ナードゥ州で2番目に大きな人口160万人の都市・コーヤンブットゥール(Coimbatore)にある。
被盗用者のマニーシャ・ラメシュ教授が盗用にすぐに気が付いた。
盗用論文は、カルパガム大学ソフトウェアシステム部門のエム・ヘマラータ教授の指導下のロメン・クマール博士院生が、著者の名前を変えただけの全文を盗用した論文だった。
2012年2月24日、被盗用者のアムリータ大学のベンカット・ランガン学長は、「盗用された研究成果は数多くの国際会議で発表したものです。カルパガム大学・学長はこの件を適切に処置していただきたい」、と2人の盗用者とカルパガム大学・学長に、謝罪と論文撤回を要求する法的通知をした。
カルパガム大学のロメン・クマール院生とエム・ヘマラータ教授は謝罪したが、学長はすぐには正式な対応を表明しなかった。
しばらくして、カルパガム大学のラマサミー学長(K Ramasamy、写真同)は、「ロメン・クマール院生を退学処分に科した。指導教授についても何らかの処分を検討している。論文は撤回し、掲載学術誌に謝罪した。この件で、アムリータ大学の教員に謝罪する。事件が学長室に報告されるまで、私たちは事件を知りませんでした」、と謝罪と処分と論文撤回を表明した。
●7.【白楽の感想】
《1》詳細不明
この事件は詳細不明である。カルパガム大学は調査委員会を設置した気配がないので、当然、調査報告書もない。
ヘマラータ教授が盗用にどれだけ関与したのか、それともクマール院生の単独犯なのか、明確には示されていない。
クマール院生には退学処分が科された。しかし、ヘマラータ教授の処分内容が示されていない。
なお、2017年9月8日現在(38歳)、ヘマラータ教授はラジャラクシミ人文科学大学(Dr.SNS Rajalakshmi College of Arts and Science)・学部長なので、学者としてはキャリアアップしている。ヘマラータ教授は盗用にほとんど関与していなかったと判断されたのだろう。
しかし、2人には、他にも盗用論文があるのか? 動機は何なのか? を含め、事件の詳細は不明である。
それにしても、欧州委員会(European Commission)の研究助成を受けたWINSOCプロジェクトの研究成果の論文を、プロジェクトに関係のない研究者が論文にしたら、どう見ても、おかしいと思うハズだ。盗用者は、こんな単純なこともわからなくなるのだろうか。
さらに、人口160万の都市とは言え、同じ都市にある2つの大学の同じ分野の研究者(著者の1人は学長)の論文を盗用したら、すぐバレると思うが、盗用する時は、バレないと思うんでしょうかねえ。
《2》ランキング入り
クマール事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル:2013年1月10日」の第6位である。
ランキング者の記載がないので、誰がランキングしたのか不明だが、クマール事件をどうして、「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」の第6位にランクしたのか?
盗用事件として何か新しい手法が使用されたわけでも、有名人の盗用事件でも、社会的に大きな影響を与えた事件でもない。
どうやら、ほぼ全文盗用だったことが理由で、ランク入りしたらしい。全文盗用は大胆過ぎてランクした人には珍しいと思ったかもしれないが、盗用率80%以上(盗用ページ率100%)は、結構いる。以下に数例あげておこう。
- エリアス・アルサブティ (Elias Alsabti)(米)
- 盗博VP74:ヨルゴ・トリアンタフィロー(Georgios Triantafyllou)(ドイツ)
- 盗博VP92:アニタ・リソウスキー(Anita Lisowski)(ドイツ)
- 盗博VP113:アレキザンダー・モシュコビッシュ(Alexander Moschkowitsch)(ドイツ)
- ロシア下院議員のイゴール・イゴシン(Igor Nikolaevich Igoshin)の博士論文(7-8.ロシアの盗用博士論文:アンドレイ・ロストフツェフ(Andrei Rostovtsev)、2016年3月1日)
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●8.【主要情報源】
① 2012年4月2日のビノイ・バルサン(Binoy Valsan)記者の「Times of India」記事:Karpagam University caught in plagiarism scandal – Times of India、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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