2018年10月29日掲載
ワンポイント:イラク帰還兵の大佐で陸軍の英雄が、2007年(46歳)、陸軍に在職のまま、アーミー・ウォー大学(United States Army War College)で修士号を取得した。2014年2月9日に53歳でモンタナ州の上院議員(民主党)になったが、5か月後の2014年7月、ニューヨークタイムズ紙に盗修が暴露された。盗用ページ率は100%で盗用文字率は約70%である。大学は修士号をはく奪した。イラクの英雄から陸軍の恥さらしに転落し、次期上院議員に立候補できず、その後、不動産屋になった。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ジョン・ウォルシュ(John Walsh、写真出典)は、米国・モンタナ州の上院議員(2014年2月9日 –2015年1月3日)(民主党)で、2007年(46歳)にアーミー・ウォー大学(United States Army War College)で政治学の修士号を取得していた。
ウォルシュは、33年間モンタナ州陸軍(Montana Army National Guard)に勤務し、イラク戦争に参加し、ブロンズ・スターメダル(Bronze Star Medal)を受章した陸軍の英雄で、イラク帰還兵として初めて上院議員になった人物だった。
2014年7月23日(53歳)、ところが、上院議員就任5か月目、ニューヨークタイムズ紙がウォルシュ議員の盗修を暴露した。情報源は共和党で、共和党のx氏が盗修を見つけ、ニューヨークタイムズ紙にリークしたのだ。
2014年8月8日(53歳)、盗修発覚16日後、ウォルシュは、盗修スキャンダルで評判が悪く、上院議員の次期選挙に立候補しないとした。
アーミー・ウォー大学(United States Army War College)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 修士号取得:アーミー・ウォー大学
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1960年11月3日
- 現在の年齢:64歳
- 分野:国防
- 最初の不正論文発表:2007年(46歳)
- 発覚年:2014年(53歳)
- 発覚時地位:上院議員
- ステップ1(発覚):第一次追及者は詳細不明だが、共和党に伝え、共和党が「NYTimes」紙にリークした。ジョナサン・マーチン記者(Jonathan Martin)が「NYTimes」紙の記事を掲載した
- ステップ2(メディア): 「NYTimes」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①「NYTimes」紙。②アーミー・ウォー大学・調査委員会。
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報
- 修士論文タイトル:The Case for Democracy as a Long Term National Strategy
(日本語訳):長期国家戦略としての民主化事例 - 修士論文ページ数:14頁
- 修士論文審査教授: ?
- 盗用ページ率:100%
- 盗用文字率:約70%
- 修士号はく奪状況:はく奪。
- 時期:キャリアの中期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)。学位取消(Ⅹ)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。内訳 ↓
- ⑩損害額(大雑把)の場合:盗博をした政治家・学長は、その国と政界・大学の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させた。普通の国の現職大統領・首相は1000億円、閣僚または学長は100億円、知事または議員は10億円(大雑把)。それで、損害額は10億円(大雑把)
●2.【経歴と経過】
- 1960年11月3日:米国・モンタナ州・ビュート(Butte)で生まれる
- 1979年(18歳):地元のビュート高校(Butte High School)卒業
- 1979‐2012年(18‐51歳):モンタナ州兵(Montana Army National Guard)に33年間勤務。イラク戦争に参加し、ブロンズ・スターメダル(Bronze Star Medal)受章。辞職前の地位は大佐(Colonel)。
- 19xx年(xx歳):アメリカ陸軍指揮幕僚大学(United States Army Command and General Staff College)・卒業
- 19xx年(xx歳):ジャネット(Janet)と結婚。後に子供2人もうける
- 1990年(29歳):モンタナ州のキャロル大学(Carroll College)で学士号取得:科学
- 2007年(46歳):アーミー・ウォー大学(United States Army War College)で修士号を取得:政治学
- 2012年(51歳):モンタナ州兵(Montana Army National Guard)・辞職
- 2013年1月7日‐2014年2月9日(52‐53歳):モンタナ州副知事 (Lieutenant Governor of Montana)
- 2014年2月9日(53歳):州知事の指名で、モンタナ州の上院議員(民主党)に就任
- 2014年7月(53歳):盗修が発覚。上院議員の次期選挙で立候補しないとした
- 2015年1月3日(54歳):上院議員の任期が来て、退職
●3.【動画】
【動画1】
ニュース動画:「民主党のジョン・ウォルシュ盗用上院議員のための新たな呼びかけ(New Calls For Plagiarizing Democrat Senator John Walsh To Drop Out Of Race )- The Kelly File – YouTube」(英語)6分4秒。
Mass Tea Party – Wake Up America!が2014/08/06 に公開
【動画2】
ニュース動画:「上院議員の修士論文の盗用を調査する大学(College to conduct plagiarism inquiry into senator’s master’s thesis) – The Kelly File – YouTube」(英語)2分27秒。
CNNが2014/07/25 に公開
●4.【日本語の解説】
ネカト事件の日本語解説はみつからなかった。
★2014年3月31日(月):赤旗:イラク・アフガン 帰還兵1日22人自殺防止へ米で法案 自らも従軍 上院議員が提出
出典 → ココ (保存版)
【ワシントン=島田峰隆】イラクとアフガニスタンの戦争から帰還した退役米兵がうつ病など「心の病気」にかかり自殺する例が止まらない中、イラクで従軍し、このほど上院議員になったジョン・ウォルシュ氏(民主党)が退役軍人への支援を強める法案を上院に提出しました。
西部モンタナ州出身のウォルシュ氏は2004年から05年にかけてイラクに派遣され、歩兵大隊を指揮しました。昨年から州副知事を務めていましたが、同州選出のボーカス上院議員が駐中国大使に転出。残りの任期をまっとうする上院議員は州知事が任命できることから、今年(2014年)2月、上院議員に指名されました。イラク帰還兵が上院議員になるのは初めてのことです。
以下略
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚
ウォルシュは、モンタナ州陸軍(Montana Army National Guard)に勤務し、2004 -2005年、イラクで歩兵大隊を指揮した。
帰国後の2007年(46歳)、アーミー・ウォー大学(United States Army War College)で政治学の修士号を取得した。
2013年1月7日(52歳)、33年間務めたモンタナ州陸軍を辞め、モンタナ州副知事 (Lieutenant Governor of Montana)になった。
米国のルールとして、前任者の上院議員が辞め時、残任期間の上院議員は州知事が任命できる。
2014年2月9日、モンタナ州知事は、ウォルシュを米国・モンタナ州の上院議員(民主党)に指名した。
2014年7月23日(53歳)、ところが、上院議員就任半年後、ニューヨークタイムズ紙はウォルシュの盗修を暴露した。情報源は共和党で、共和党のx氏が盗修を見つけ、ニューヨークタイムズ紙にリークしたのだ。
上院議員の任期は2015年1月3日にくるのだが、盗修が暴露された丁度その時、上院議員の次期選挙キャンペーンが始まっていた。
2014年8月8日(53歳)、盗修発覚16日後、ウォルシュは、盗修スキャンダルで評判が悪いので、上院議員の次期選挙に立候補しないとした。
2014年10月10日(53歳)、アーミー・ウォー大学はウォルシュの修士号をはく奪した。
→ 2014年10月10日記事:Army War College revokes Sen. John Walsh’s degree over plagiarism – The Washington Post
2015年1月3日(54歳)上院議員の任期が来て、ウォルシュは上院議員を失職した。
★反応
ウォルシュは、新聞記者に「私は何も意図して悪いことをしたわけではありません。他人の文章を盗用したことを覚えていません」と述べてている。
記者がさらに、盗用したかどうかを直接尋ねたところ、ウォルシュは、「自分が盗用したのを自分が信じられません」と答えている。また、「私は盗修をイラク戦争での心的外傷後ストレス障害(PTSD)のせいにするつもりはありませんが、心的外傷後ストレス障害が要因だったかもしれません」とも述べている。
★事件後の人生
2015年1月3日(54歳)、盗修発覚の半年後、結局、上院議員を失職せざるを得なかった。
2016年2月(55歳)、米国農務省のモンタナ州農村開発部門の長官になった。
2017年(56歳)、上記の職を辞職した。 その後、不動産販売業をしている。
陸軍の英雄で、またイラク帰還兵としては初めての上院議員だったのに、盗修ですべての地位と栄誉が消滅し、イラクの英雄から陸軍の恥さらしに転落した。
●【盗用の具体例】
ジョン・ウォルシュ(John Walsh)の修士論文は「The Case for Democracy as a Long Term National Strategy。(日本語訳):長期国家戦略としての民主化事例」である。
ページ数はわずか14頁である。修士論文ではなく、日本の大学に例えると、授業で提出するようなレポートだという説もある。
修士論文の盗用を右に具体的に示す。長方形1つが修士論文の1ページに該当する。盗用は2種類あり、1種類(ピンク)は出典を記載しないで文章を流用した部分。もう1種類(黄色)は不適切な出典を記載して文章を流用した部分。無色は盗用ではない部分である。
盗用ページ率は100%で、盗用文字率は、着色程度から判断して約70%である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》わかりません
陸軍のそれなりの地位の人が、46歳で、どうして修士号を取得しようと思ったのか? 修士号を取得するのはどういう状況だったのか? そして、どうして盗用したのか? よくわかりません。
軍人の学位論文に盗用が多いという話がある。しかし、本当のところ、軍人の学位論文に盗用が多いのかどうかわかりません。
一般的に、軍人の学位論文の盗用は公表されない。ジョン・ウォルシュ(John Walsh)は上院議員にならなければ、修士論文の盗用は発覚しなかっただろう。つまり、軍人の学位論文に盗用が多いのか、少ないのか、よくわかりません。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:John Walsh (U.S. senator) – Wikipedia
② 2014年7月23日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:U.S. senator appears to have plagiarized his master’s thesis – Retraction Watch
③ 2014年7月23日のジョナサン・マーチン(Jonathan Martin)の「NYTimes」記事:How Senator John Walsh Plagiarized a Final Paper – NYTimes.com、(保存済)
④ 2014年7月24日のジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)記者の「Plagiarism Today」記事:The Senator John Walsh Plagiarism Scandal – Plagiarism Today、(保存版)
●コメント