リ・ワン(Li Wang)(米)

2018年9月28日掲載

ワンポイント:2018年8月28日、研究公正局は、コネチカット大学(University of Connecticut)・教授のワン(53歳?)の研究費申請書に改ざんデータがあったと発表した。1年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は1億1,500万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

リ・ワン(Li Wang、写真出典)は、中国・広東省の中山(ちゅうざん)大学(Sun Yat-sen University)で研究博士号(PhD)を取得後、韓国でポスドクをし、米国の数大学を経て、コネチカット大学(University of Connecticut)・教養学部(College of Liberal Arts and Sciences)・生理学・神経生物学科(Physiology and Neurobiology)・教授になった。医師ではない。専門は細胞生物学(慢性肝疾患の核内受容体制御)である。

2018年8月28日(53歳?)、研究公正局は、ワンの研究費申請書に改ざんデータがあったと発表し、2018年8月14日から1年間の締め出し処分を科した。受領した研究費でのネカトではなかったので、研究費の損害はなかった。それで、1年間の締め出しという最も軽い処分になった。

コネチカット大学(University of Connecticut)写真 By Global Jet – https://www.flickr.com/photos/global-jet/1028134843/, CC BY 2.0, Link

コネチカット大学(University of Connecticut)・教養学部(College of Liberal Arts and Sciences)・生理学・神経生物学科(Physiology and Neurobiology)のリ・ワン(Li Wang)教授と研究室風景。出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:中国の中山(ちゅうざん)大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1998年に最初にポスドクになった時を33歳とした
  • 現在の年齢:53 歳?
  • 分野:細胞生物学
  • 最初の不正:2017年(52歳?)?
  • 発覚年:2017年(52歳?)?
  • 発覚時地位:コネチカット大学・教授
  • ステップ1(発覚):研究費審査員が見つけた?
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コネチカット大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:研究費申請書でのデータ改ざん
  • 不正数:9件の研究費申請書
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に発覚時の研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分: NIHから1年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億1,500万円。内訳 ↓

  • ①研究者になるまで5千万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ③外部研究費。NIH研究費として約8億円の助成を受けた。ただ、助成した研究費でネカトをしていないので、損害額は0円。
  • ④調査経費。第一次追及者の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円、研究公正局など公的機関は1件200万円。小計で1,500万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は0報なので損害額は0円。
  • ⑦アカハラ・セクハラではない。損害額は0円。
  • ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑨健康被害:不明なので損害額は0円とした。

●2.【経歴と経過】

そこそこ不明。

  • 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。1998年に最初にポスドクになった時を33歳とした
  • 19xx年(xx歳):xxxx大学で学士号取得
  • 19xx年(xx歳):xxxx大学・講師、6年間
  • 19xx年(xx歳):中国・広東省の中山(ちゅうざん)大学(Sun Yat-sen University)で研究博士号(PhD)を取得:神経内分泌学
  • 1998-2000年(33-35歳?):韓国の全南(ちょんなむ)大学(Chonnam National University)・ホルモン研究センター(Hormone Research Center)でポスドク:分子内分泌学
  • 2000-2004年(35-39歳?):米国のベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)でポスドク:分子細胞生物学
  • 20xx年(xx歳):米国のカンザス大学医学センター(University of Kansas Medical Center)・助教授
  • 20xx年(xx歳):米国のユタ大学(University of Utah)・準教授
  • 2014年(49歳?):コネチカット大学(University of Connecticut)・教授
  • 2018年8月28日(53歳?):研究公正局がネカトでクロと発表。締め出し期間は1年間

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
研究インタビュー動画:「核内受容器と肝臓(Li Wang, PhD, FAASLD & Wendong Huang, PhD | Nuclear Receptors and Liver) – YouTube」(英語)3分39秒。
WebsEdgeHealthが2017/10/21 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★NIH研究費

リ・ワン(Li Wang)は、コネチカット大学(University of Connecticut)の教授として、NIHから2014‐2018年の5年間に13件のグラント(以下の表)、$4,196,906(約4億1969万円)を受給していた。それ以前の所属を含めると27件のグラント(以下の表にはない)を受給していた。白楽は総額を把握していないが、27件で約8億円だろう。

リ・ワン(Li Wang)は、研究費の獲得がとても上手である。同僚にも手ほどきしていた。表をクリックすると表は2段階で大きくなる。本ブログの図表は基本的に全部拡大できる。

★ネカト発覚の経緯

ネカト発覚の経緯は報道されていないが、論文ではなくNIH研究費申請書のネカトなので、研究費審査員が見つけたと思われる。

★研究公正局

2017年(52歳?)?、コネチカット大学・調査委員会は、リ・ワン(Li Wang)の調査を終え、ネカトをクロと判定し、研究公正局に伝えた。

2018年8月28日(53歳?)、研究公正局は、リ・ワン(Li Wang)が9件のNIH研究費申請書で改ざんしていたと発表し、2018年8月14日から1年間の締め出し処分を科した。

問題視したNIH研究費申請書は以下の9件である。

  • NIDDKへの研究費申請書「1 R01 DK118645-01A1」「1 R01 DK116203-01」「1 R01 DK114804-01」「2 R01 DK080440-09A1」の4件。
  • NIGMSへの研究費申請書「1 R01 GM125140-01」「1 R01 GM126685-01.」の2件。
  • 審査前だったので取り下げた研究費申請書「1 R01 DK114804-01」「1 R01 DK116203-01」「1 R01 DK118645-01A1」の3件。

これら9件の研究費申請書の内、6件は既に採択されていた。しかし、研究費が支給される前に、ネカトが発覚し、申請書の審査などの経費は無駄になったものの、研究費そのものの損害はなかった。それで、1年間の締め出しという最も軽い処分になった。

研究公正局の発表では、ウエスタンブロット画像(Western blot bands)と共焦点レーザー顕微鏡画像(confocal images)が改ざんされていた。しかし、研究費申請書は、外部の人は見ることができないので、どのように改ざんされていたのか、図を示して、具体的に説明することはできない。

【異常データの具体例】

研究公正局の報告書には発表論文でのネカトに言及がない。つまり、発表論文にネカトがないと判断したと思える。

しかし、パブピアではデータの異常性が指摘されている論文がある。

★「2008年のHepatology」論文

2018年8月31日、図3B の電気泳動バンドがおかしいと、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)が指摘した「commented August 31st, 2018 1:05 PM and accepted August 31st, 2018 1:05 PM」。

指摘は、研究公正局の報告書発表の3日後である。研究公正局の報告書を見て調べたと思われる。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/80916603D7E2A5489B61D58C9A1BF3

NIHMS512054.html

図3B の最下段のβ‐アクチン(b-actin)の電気泳動バンドはレーンが1つ足りないとブルックスが指摘した。バンドのレーンの区切りがわかりにくいが、ブルックスの指摘の通りだと、ズサンなデータ提示になる。ねつ造・改ざんではない(多分)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年9月27日現在、パブメド(PubMed)で、リ・ワン(Li Wang)の論文を「Li Wang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、6379論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文以外の論文が多数含まれていると思われる。

コネチカット大学(University of Connecticut)に所属している条件「(Li Wang [Author]) AND University of Connecticut[Affiliation]」で検索すると、2015~2018年の4年間の35論文がヒットした。

ユタ大学(University of Utah)に所属している条件「(Li Wang [Author]) AND University of Utah[Affiliation]」で検索すると、2008~2018年の11年間の36論文がヒットした。

カンザス大学医科大学(University of Kansas Medical Center)に所属している条件「(Li Wang [Author]) AND University of Kansas Medical Center[Affiliation]」で検索すると、2005~2016年の12年間の12論文がヒットした。

2018年9月27日現在、パブメドの論文撤回リストを検索すると、カンザス大学医科大学(University of Kansas Medical Center)に所属していた時の「2006年のMol Endocrinol.」論文、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2018年9月27日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リ・ワン(Li Wang)の10論文以上にコメントしている。但し、本記事で問題にしている研究者の論文以外の論文が多数含まれていると思われる。:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》過去の研究費申請書や発表論文

http://www.scbasociety.org/Hepatology/Hepatology.html

研究公正局は、リ・ワン(Li Wang)の9件のNIH研究費申請書にデータ改ざんがあったと発表した。

9件のNIH研究費申請書にデータ改ざんが見つかったが、研究費を使用する前だった。

27件もNIH研究費を受領しているのに、それらの研究費申請書にデータねつ造・改ざんはなかったのだろうか? また、発表論文にデータねつ造・改ざんはなかったのだろうか?

データねつ造・改ざんが指摘してされていないので、過去の研究費申請書や発表論文にネカトはなかったと受け取れる。

にわかには信じがたい。

ネカト研究者は若い時からネカトを繰り返すのが通例である。教授になっていて、既にたくさんの研究費申請が採択されている研究者が、53歳になって初めてネカトをするとは考えにくい。

また、研究費申請書でネカトをした研究者は、論文でもネカトをするのが普通である。

まさか、研究公正局は過去の研究費申請書や論文のネカトを調査しなかったということはないのでしょうね。

《2》研究職を続ける

リ・ワン(Li Wang)の締め出し処分は1年間である。

研究公正局がクロと発表してから約1か月後の2018年9月27日現在、リ・ワンはコネチカット大学(University of Connecticut)・教授に在職し、辞職していない(解雇されていない)。
→ Faculty | Physiology and Neurobiology

多分、研究公正局でクロと判定された後でも研究職を続けられた数少ない研究者の1人になるだろう。
→ 研究ネカト者が研究を続けた | 研究倫理(ネカト)

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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https://wanglab.pnb.uconn.edu/photo/

●8.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2018年8月28日:Case Summary: Wang, Li | ORI – The Office of Research Integrity、(2)2018年8月31日:Federal Register :Findings of Research Misconduct、(3)2018年9月6日:NOT-OD-18-230: Findings of Research Misconduct
② 2018年8月30日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:UConn prof “recklessly” used false data in NIH grant applications, says Federal watchdog – Retraction Watch
③ 2015年11月4日のクリスチン・バックリー(Christine Buckley)記者の「コネチカット大学」記事:Liver physiologist Li Wang joins UConn | College of Liberal Arts and SciencesNovember 4, 2015
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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