フスン・キリック(Fusun Kilic)(米)

2021年2月27日掲載 

ワンポイント:キリックはアーカンソー医科大学(University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS))・教授だが、講義を受けた院生が画像の重複使用に気がついて大学に告発した。2019年5月(61歳)、アーカンソー医科大学は、内部調査の結果、ネカト行為があったと結論した。その前年、キリックは大学を辞職した。2021年2月26日現在、研究公正局が調査中と思われる。2007~2016年(49~58歳)出版の7論文が2019~2020年に撤回された。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

フスン・キリック(Fusun Kilic、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0003-3408-5543、写真出典)は、カナダ(トルコ?)育ちで米国のアーカンソー医科大学(University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS))・教授になった。医師免許はもっていない。専門は神経生物学(セロトニン)である。

フスン・キリック(Fusun Kilic)という名前はトルコ系なので、出自はトルコと思われる。

2018年(60歳?)頃、キリック教授の講義を受けた院生が、キリックの論文に画像の重複使用があると気がついて大学に告発した。

2019年5月(61歳)、アーカンソー医科大学は、内部調査の結果、ネカト行為があったと結論した。その前年、キリックは大学を辞職し、マーセド大学(Merced College)・教授(パート)に移籍していて、アーカンソー医科大学は、懲戒処分を科さなかった。

2007~2016年(49~58歳)に出版した7論文が2019~2020年に撤回された。

2021年2月26日(63歳)現在、研究公正局が調査中と思われる。

アーカンソー医科大学(University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS))。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:カナダまたはトルコ(?)
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのウェスタンオンタリオ大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日、トルコ(推定)生まれとする。2019年5月19日の新聞記事に61歳と書いてあった
  • 現在の年齢:66 歳?
  • 分野:神経科学
  • 最初の不正論文発表:2007年(49歳)
  • 不正論文発表:2007~2016年(49~58歳)に出版された7論文が2019~2020年に撤回された。
  • 発覚年:2018年(60歳)?
  • 発覚時地位:アーカンソー医科大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はキリック教授の講義を受けた院生(詳細不明)で、大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アーカンソー医科大学・調査委員会。②研究公正局?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2007~2016年に出版された7論文が2019~2020年に撤回された
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:処分なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:①(23) Fusun Kilic, Ph.D. | LinkedIn、②Fusun Kilic | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日、トルコ(推定)生まれとする。2019年5月19日の新聞記事に61歳と書いてあった
  • 19xx年(xx歳):トルコ(推定)のxx大学(xx)で学士号取得
  • 1988年 – 1990年(30 – 32歳):カナダのウェスタンオンタリオ大学(University of Western Ontario)で修士号取得:生化学・細胞生物学
  • 1990年 – 1995年(32 – 37歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:生化学・細胞生物学
  • 1995年8月 – 1997年12月(37 – 39歳):米国のイースト・テネシー州立大学・クイレン医科大学 (East Tennessee State University – Quillen College of Medicine)・ポスドク
  • 1998年1月 – 2001年12月(40 – 43歳):米国のイェール大学医科大学院(Yale University Medical School)・ポスドク
  • 2002年(44歳):アーカンソー医科大学(University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS))・準教授
  • 2017年(59歳):同大学・教授
  • 2018年(60歳)?:ネカトが発覚
  • 2018年11月(60歳):アーカンソー医科大学を辞職
  • 2018年12月(60歳):マーセド大学(Merced College)・教授(パート)
  • 2019年5月(61歳):アーカンソー医科大学は内部調査の結果、キリックのネカト行為を発見したと発表した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★グラントと学術集会

フスン・キリック(Fusun Kilic、写真出典)は2006~2014年にNIHから11件計約250万ドル(約2億5千万円)のグラントを受領していた(Grantome: Search)。以下に7件を示す。

また、撤回論文に絡む研究費として、アメリカ心臓協会(American Heart Association)から2006年に$143,000(約1430万円)の助成金も受領していた。

キリックはまた、2017年11月12—15日開催のキーストーン・シンポジウム「Frontiers of Serotonin Beyond the Brain (T5)」のオーガナイザーを務め、この分野では重要は研究者だった。 → Keystone Symposia | Scientific Conferences on Biomedical and Life Science Topics

★発覚の経緯

2018年(60歳?)頃と思われる。フスン・キリック(Fusun Kilic)が講義で、学術誌に発表した自分のいくつかの論文のデータを使った。この講義に出席した院生がそのデータ中のウェスターンブロット像が重複使用されていることに気がつき、データねつ造・改ざんではないかとアーカンソー医科大学に通報した。

副学長のレスリー・テイラー(Leslie Taylor、写真出典)が対応し、ネカト調査を開始した。

2019年5月(61歳)、内部調査の過程で、キリックは論文の図の元データを提出しなかった。それで、アーカンソー医科大学は、ネカト行為があったと結論したと発表した。

ただ、キリックはこの発表前の2018年11月に大学を辞任した。それで、大学は懲戒処分を科さなかった。辞任前の年俸は$119,650(約1,196万円)だった。

アーカンソー医科大学はキリック事件を研究公正局に報告したと述べている。テイラー副学長は研究公正局での調査が進行中かどうかを肯定も否定もしなかった。

2021年2月26日(63歳?)現在、研究公正局は沈黙を保っているが、いずれ、クロと発表するだろう。

なお、キリックは「画像を間違えただけで、意図的なねつ造・改ざんではありません。私は辞任しましたが、ネカトとの結論を受け入れたわけではありません」と不正を否定している。

【ねつ造・改ざんの具体例】

アーカンソー医科大学(University of Arkansas for Medical Sciences (UAMS))も研究公正局も調査結果を公表していない。

つまり、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。

仕方がないので、パブピアで探った。

★「2007年5月のJ Neurochem」論文

「2007年5月のJ Neurochem」論文の書誌情報を以下に示す。2020年4月、撤回された。

2019年3月29日、アンドロレピス・スキネリ(Androlepis Skinneri)は、図7のウェスターンブロット像が重複使用されていると指摘した「Androlepis Skinneri (commented March 29th, 2019 7:30 PM and accepted March 30th, 2019 4:18 PM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E361E85941D240521EA4E9EBAEBFB2#1

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年2月26日現在、パブメド(PubMed)で、フスン・キリック(Fusun Kilic)の論文を「Fusun Kilic [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2019年の17年間の32論文がヒットした。

「Kilic F」で検索すると、1991~2021年の31年間の177論文がヒットした。ここには、「Furkan Umut KiliÇ」、「Fatih Kilic」など別人の論文が含まれている。

2021年2月26日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、7論文が撤回されていた。

2007~2016年に出版された7論文が2019~2020年に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年2月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでフスン・キリック(Fusun Kilic)を「Fusun Kilic」で検索すると、 0論文が訂正、3論文が懸念表明、7論文が撤回されていた。

2007~2016年に出版された7論文が2019~2020年に撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2021年2月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、フスン・キリック(Fusun Kilic)の論文のコメントを「Fusun Kilic」で検索すると、9論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》珍しい 

フスン・キリック(Fusun Kilic)は学術誌に発表した自分の論文データを講義で使った。この講義を受講した院生がデータ中のウェスターンブロット像が重複使用されていることに気がついて、データねつ造・改ざんではないかとアーカンソー医科大学に通報した。

講義を受けた院生が不正を見つけ大学に通報したという、とても珍しい例。白楽が解説したネカト事件では初めてのケース。

《2》珍しくない 

フスン・キリック(Fusun Kilic、写真出典)事件はウェスターンブロット像を重複使用したという、ネカト事件としては珍しくない事件である。

マー、折角の教授職を辞任とは、もったいないですね。

とはいえ、大学は懲戒処分しないで、60歳のキリックの辞職を認めている。こういう無処分はどうなんでしょう。「ネカトした方が得」という文化を助長していると思うのですが。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2019年5月19日のハイメ・アダム(Jaime Adame)記者の「Arkansas Democrat-Gazette」記事:Professor’s research flagged at UAMS
② 2019年3月19日のレスリー・ルートレッジ(Leslie Rutledge)アーカンソー州・検事総長の「Arkansas Attorney General」記事:2019-023 | Arkansas Attorney General
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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