ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)(米)

2022年6月5日掲載 

ワンポイント:研究公正局が設立される前の1980年前後のネカト事件。アロノウは、ロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)・医師だった。1979年(49歳?)、1974~1978年の4年間の臨床試験データのねつ造・改ざんが、食品医薬品局、その後、環境保護庁(EPA)に摘発された。アロノウは厳しい処分を受けなかったので、事件後、研究者として生きのび、ニューヨーク医科大学(New York Medical College)・教授となり、心臓病の臨床医学者の重鎮になった。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow、Wilbert S. Aronow、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)・医師で心臓病部門の責任者だった。専門は心臓病学である。

1979年の夏(49歳?)、食品医薬品局がアロノウの臨床試験を監査することにした。

実は、アロノウは、それまでファイザー社(Pfizer)の心臓病薬の臨床試験をしていたが、その臨床試験でデータねつ造・改ざんをしていた。

パニックになったアロノウは、調査官が監査する前日、データねつ造・改ざんをしていました、と自分で食品医薬品局に告白した。

しかし、結局、監査は行なわれた。すると、告白したネカト以外にもデータねつ造・改ざんが見つかり、1974~1978年の4年間の複数の臨床試験で複数のネカトが発覚した。

1982年(52歳?)、アロノウは、ロングビーチ退役軍人省病院を辞職した。

1983年(53歳?)、アロノウのネカト事件を「ワシントン・ポスト」新聞が報道した。

その新聞報道で、アロノウの不正行為を知った環境保護庁(Environmental Protection Agency (EPA))は、低レベルの一酸化炭素(CO)の人体への影響に関するアロノウの臨床試験にもデータねつ造・改ざんがあるのではないかと疑った。

環境保護庁(EPA)は、空気中の一酸化炭素(CO)濃度の許容値を改訂中だったのだ。

1983年6月7日(53歳?)、環境保護庁(EPA)のネカト調査委員会はアロノウのCO濃度臨床試験にもネカトがあったと結論したが、アロノウは自分たちの研究は「正確で科学的に有効」だと反駁した。

2022年6月4日現在、事件から約40年経ったが、結局、アロノウはほとんど処罰されず、研究者として生きのび、その後、ニューヨーク医科大学(New York Medical College)・教授となり、心臓病の臨床医学者の重鎮になった。

論文は、データねつ造・改ざんでは1報も訂正・撤回されていない。ネカト論文による健康被害者の状況は調査されていない。

2022年6月4日現在の視点では、アロノウ事件はかなりハッキリしたデータねつ造・改ざん事件である。

VA Long Beach Healthcare Systemロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:ハーバード大学医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1930年1月1日生まれとする。1957年に医師免許取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:92歳?
  • 分野:心臓医学
  • 不正論文発表:1974~1978年(44~48歳?)の5年間
  • 発覚年:1979年(49歳?)
  • 発覚時地位:ロングビーチ退役軍人省病院・医師で心臓部門の責任者
  • ステップ1(発覚):食品医薬品局の監査前日に食品医薬品局に自分で告白
  • ステップ2(メディア):「Nature」、主要な一般新聞の「Washington Post」「New York Times」「Los Angeles Times」など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①食品医薬品局・監査の調査官。②環境保護庁(Environmental Protection Agency (EPA))・調査委員会
  • 病院・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 病院の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文はデータねつ造・改ざんでは0報だが、データねつ造・改ざん論文は2桁数と思われる
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:ほぼなし。特別な許可なしに医薬品の臨床試験を行なわないと食品医薬品局と約束
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1930年1月1日生まれとする。1957年に医師免許取得した時を27歳とした
  • 1957年(27歳?):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)で医師免許取得
  • 1964~1982年夏(34~52歳?):ロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)・医師で心臓部門の責任者
  • 1974~1978年(44~48歳?):不正論文発表
  • 1979年(49歳?):不正が発覚
  • 1982年(52歳?):クレイトン大学医科大学院(Creighton University Medical School)・教授(?)
  • 2001年(71歳?)(推定):ニューヨーク医科大学(New York Medical College)・教授、ウェストチェスター病院(Westchester Medical Center)・臨床教授
  • 2022年6月4日現在(92歳?):上職を維持:Wilbert S. Aronow, M.D. | New York Medical College、(211215保存版

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「ウィルバート・アロノウ」と自己紹介。
自分自身の研究紹介動画:「International Academy of Cardiology: Wilbert S. Aronow, M.D.: HIGHLIGHTS FROM THE 2017 ACC/AHA – YouTube」(英語)8分28秒。
Cardiology Online チャンネル登録者数 603人が2019/07/30に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚の経緯

1979年の夏(49歳?)、ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)はロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)・医師で心臓部門の責任者だった。

アロノウはファイザー社(Pfizer)の心臓病薬・商品名ミニプレス(Minipres)(prazosin 、プラゾシン – Wikipedia)の臨床試験を行なった。

ミニプレス(Minipres)は降圧薬としてすでに市場に出回っていたが、ファイザー社(Pfizer)は、うっ血性心不全の治療薬としても販売できるように食品医薬品局(FDA)の承認を求めていた。

アロノウの報告した治療効果はとても優れていた。

食品医薬品局の調査官は、治療効果が高すぎる報告に疑念を抱き、ミニプレス(Minipres)の臨床試験のデータを監査することにした。

監査通知を受けて、アロノウは、パニックに陥った。というのは、データねつ造・改ざんをしていたのである。

食品医薬品局の調査員が到着するという前日、アロノウは、食品医薬品局の新薬評価部門のマリオン・フィンケル副部長(Marion Finkel、写真出典)に電話をかけ、プラゾシンともう1つの薬のX線データをねつ造したと告白した。

フィンケル副部長の残した会話メモには、「アロノウがスポンサーであるファイザー社(Pfizer)に提出した報告書は、放射線科医のX線データの解釈とは異なっていた。アロノウはこのデータ改ざんが発覚することを恐れ、とても動転していた。印象として、彼は二度と決して、そのようなネカトをしないだろう」とある。

監査は予定通りに実施され、さらにデータの不一致が見つかった。

食品医薬品局の調査官が調べた10件のX線データのうち、1件しかアロノウの症例報告と一致しなかった。

そして、アロノウは、自分ではX線データを調べず、薬が有効であるとする「結果ありき」に合致するようにX線データを症例報告に書きこんだことを認め、宣誓供述書に署名した。

★別の薬:チモロール(timolol)

アロノウは自分でプラゾシンの臨床試験でデータねつ造・改ざんを告白したにも関わらず、監査では、告白した以外のプラゾシンのデータねつ造・改ざんが見つかった。

事前告白は、一見、正直風である。しかし、他のデータねつ造・改ざんをごまかすために正直を装ったとも受け取れる。

そして、プラゾシンとは別の薬であるチモロール(timolol)でもデータねつ造・改ざんが発覚した。

チモロール(timolol)は、狭心症の発作を減らす薬で、その有効性をテストする臨床試験だった。

この臨床試験では、より深刻なネカトをしていた。

被験者は頻繁に狭心症発作を起こす患者だったが、実際には、被験者の内の5人には薬を投与しなかったか、臨床試験前に1回投与しただけだった。

ところが、 アロノウは、被験者へ薬を投与し、薬が十分な効果があると報告した。

このデータを記載したハズの臨床試験記録が見つからなかった。

アロノウは、臨床試験のべての記録を2年間保持するという法的規則があることを知っていたにもかかわらず、ネカトがバレるのを恐れ、臨床試験記録を破棄したことを認めた。

結局、1974~1978年の4年間、4つの異なる薬物の5つ臨床試験研究でデータねつ造・改ざんが見つかった。

食品医薬品局(FDA)の調査官は「見つかったすべてのデータねつ造・改ざんは、薬が有効であることを支持する側の数値になっていた」と報告した。

★アロノウの翻意と抵抗

1979年の夏(49歳?)、アロノウは食品医薬品局の調査官が来る前日に自分のネカトを告白し、宣誓供述書に署名した、と前述した。

しかし、翌年、自分の告白を撤回している。

1980年(50歳?)、食品医薬品局の担当者との会合で、彼は「放射線科の報告は信用できない」と述べ、放射線科の報告と自分が報告したデータが一致していないのは、放射線科のデータがおかしいから別の解釈をしただけだと弁解した。

そして、彼は、食品医薬品局のフィンケル副部長にネカトを告白し、そのネカトを認め、宣誓供述書に署名したとき、実は、深刻な精神疾患を抱えていたために間違った署名をしてしまったのだとも主張した。アロノウは、過去数年間、精神分析医の治療を受けていたという事実に繰り返し述べた。

とはいえ、食品医薬品局の告発を否定する一方で、アロノウは、食品医薬品局の承認なしにさらなる薬物の臨床研究に参加しないことを再び約束していた。 深刻な精神異常状態だったとは思えない冷静な対応だった。

食品医薬品局の文書によると、食品医薬品局の担当者は明らかに不満だったが、「特別な許可なしには、今後、医薬品の臨床研究に参加しない」という約束を受け入れ、アロノウへの正式な失格手続きを取り下げた。

食品医薬品局(FDA)の臨床調査部門長のアラン・リスック(Alan Lisook、写真出典、リンク切れ)によると、食品医薬品局は他の7つのケースでも同様の同意・和解をしていた。

アラン・リスックは、公式な失格手続きは3年以上かかるので面倒である。一方、同意契約は手間が少ない「近道」だと説明した。

アロノウへのプラゾシン(prazosin)研究は「Circulation」に論文が掲載されていた。しかし、ねつ造・改ざんデータとは別のデータが論文全体の結論を裏付けているため、アラン・リスックは、論文撤回を要求しなかった。

★環境保護庁(EPA)

食品医薬品局でのネカト発覚を受けて、環境保護庁(Environmental Protection Agency (EPA))は心臓病患者に対する低レベルの一酸化炭素(CO)の影響についてのアロノウの臨床試験を疑った。

環境保護庁(EPA)は、空気中の一酸化炭素(CO)濃度の許容値を改訂中だったのだ。

この許容値の改訂は自動車やトラックから排出される一酸化炭素濃度の制限を緩和するかどうかという、かなり重要な環境問題に関連していた。

ただ、環境保護庁(EPA)は、食品医薬品局からの連絡を受けて調査したのではなく、1983年3月23日の「ワシントン・ポスト」新聞の記事で、初めて食品医薬品局(FDA)の調査を知ったのである。

環境保護庁(EPA)は、 4人の専門家からなる委員会を設置し、アロノウの臨床試験を調査した。

1983年6月7日(53歳?)、環境保護庁(EPA)は、委員会の調査結果を次のように述べた。

「データの改ざんについてはシロかクロか判定できませんでした。しかし、アロノウの臨床試験報告書についてはかなりの疑念点がありました。生データが失われたか破棄され、適切な記録は保存されておらず、利用可能なデータの質は低く、データは全く管理されていない、あるいは、まったく不十分でした。さらに、患者の診断に関して、意見の相違がありました」。

アロノウの臨床研究は「二重盲検」で行なっていなかった。委員会はこの点も問題視した。

委員会は、「私たちが指摘した懸念を考慮し、環境保護庁(EPA)は、アロノウのデータを根拠に一酸化炭素(CO)濃度の許容値を改訂してはなりません」と結論した。

委員会は、環境保護庁(EPA)はこの問題に関して別の臨床試験を追加で行なうことを推奨した。

「New York Times」紙の新聞記者が、環境保護庁(EPA)の発表について、電話でアロノウに取材すると、アロノウは、一酸化炭素に関する自分たちの研究は「正確で科学的に有効」だと主張した。データの質が低いという委員会の報告書の主張を「ナンセンス、たわごと、でたらめ(baloney)」と一蹴し、環境保護庁(EPA)のネカト調査報告書は間違いだらけだと批判した。

★論文撤回

食品医薬品局(FDA)の臨床調査部門長のアラン・リスック(Alan Lisook)は、「Circulation」に掲載されたアロノウへのプラゾシン(prazosin)論文の撤回を要求しなかった。

学術誌「Circulation」のエリオット・ラパポート編集長(Elliot Rapaport、写真出典)は、食品医薬品局(FDA)の臨床調査部門長のアラン・リスック(Alan Lisook)の処置に反発した。なお、ラパポート編集長カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)・教授でもある。

ラパポート編集長はアロノウ論文のネカトについて、食品医薬品局(FDA)から連絡を受けていなかった。環境保護庁(EPA)と同じように、「ワシントン・ポスト」新聞の報道で初めて知った。

ラパポート編集長は「論文のデータに誤りがあったのに、そのことを私たちに通知しない。これでは、食品医薬品局(FDA)は誠に不適切だと、言わざるを得ない」と憤慨した。

結局、2022年6月4日現在、アロノウの「Circulation」論文は撤回されていない。

【ねつ造・改ざんの具体例】

1974~1978年の4年間、4つの異なる薬物の5つ臨床試験研究でデータねつ造・改ざんが見つかったとあるが、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表はない。ただ、1974~1978年の4年間にウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)は21報の臨床試験論文を出版していた。

臨床試験論文のタイトルに「プラゾシン(prazosin)」「チモロール(timolol)」「一酸化炭素(carbon monoxide)」とあった論文を以下にリストした。これらの論文にデータねつ造・改ざんがあったハズだ。

論文を並べてみると、全部、アロノウが第一著者である。

★プラゾシン(prazosin)の臨床試験論文

プラゾシン(prazosin)の臨床試験論文は「1978年のAm J Med.」論文と「1979年のCirculation」論文の2報ある。2022年6月4日現在、訂正も撤回もされていない。

  1. Efficacy of trimazosin and prazosin therapy on cardiac and exercise performance in outpatients with chronic congestive heart failure.
    Aronow WS, Danahy DT.
    Am J Med. 1978 Jul;65(1):155-60. doi: 10.1016/0002-9343(78)90704-0.
  2. Effect of prazosin vs placebo on chronic left ventricular heart failure.
    Aronow WS, Lurie M, Turbow M, Whittaker K, Van Camp S, Hughes D.
    Circulation. 1979 Feb;59(2):344-50. doi: 10.1161/01.cir.59.2.344.

★チモロール(timolol)の臨床試験論文

チモロール(timolol)でもデータねつ造・改ざんがあったとされている。

チモロール(timolol)の臨床試験論文は以下の4報がある。2022年6月4日現在、4報は訂正も撤回もされていない。

  1. Effect of timolol versus propranolol on hypertension and hemodynamics.
    Aronow WS, Ferlinz J, Del Vicario M, Moorthy K, King J, Cassidy J.
    Circulation. 1976 Jul;54(1):47-51. doi: 10.1161/01.cir.54.1.47.
  2. Effect of timolol plus hydrochlorothiazide plus hydralazine on essential hypertension.
    Aronow WS, Van Herick R, Greenfield R, Alimadadian H, Burwell D, Mann W.
    Circulation. 1978 May;57(5):1017-21. doi: 10.1161/01.cir.57.5.1017.
  3. The effect of timolol vs placebo on angina pectoris.
    Aronow WS, Turbow M, Van Camp S, Lurie M, Whittaker K.
    Circulation. 1980 Jan;61(1):66-9. doi: 10.1161/01.cir.61.1.66.
  4. Exercise duration to angina at two and twelve hours after timolol.
    Aronow WS, Plasencia G, Wong R, Landa D.
    Clin Pharmacol Ther. 1981 Feb;29(2):155-9. doi: 10.1038/clpt.1981.25.

★一酸化炭素(carbon monoxide)の臨床試験論文

一酸化炭素(carbon monoxide)でもデータねつ造・改ざんがあったとされている。

一酸化炭素(carbon monoxide)の臨床試験論文は以下の3報がある。2022年6月4日現在、3報は訂正も撤回もされていない。

  1. Carbon monoxide effect on exercise-induced angina pectoris.
    Aronow WS, Isbell MW.
    Ann Intern Med. 1973 Sep;79(3):392-5. doi: 10.7326/0003-4819-79-3-392.
  2. Effect of carbon monoxide on maximal treadmill exercise. A study in normal persons.
    Aronow WS, Cassidy J.
    Ann Intern Med. 1975 Oct;83(4):496-9. doi: 10.7326/0003-4819-83-4-496.
  3. Effect of carbon monoxide on exercise performance in chronic obstructive pulmonary disease.
    Aronow WS, Ferlinz J, Glauser F.
    Am J Med. 1977 Dec;63(6):904-8. doi: 10.1016/0002-9343(77)90544-7.

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年6月4日現在、パブメド(PubMed)で、ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)の論文を「Wilbert Aronow[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1996~2022年の27年間の884論文がヒットした。

「Aronow WS」で検索すると、1968~2022年の55年間の 1,298論文がヒットした。

2022年6月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

「Aronow WS」の1968~2022年の55年間の1,288論文を「Clinical Trial」のフィルターでパブメドの臨床試験論文を検索すると、1969~2018年の 88論文がヒットした。

★撤回監視データベース

2022年6月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)を「Wilbert Aronow」で検索すると、1論文が撤回されていた。

「2017年のAnnals of Translational Medicine」論文が2017年9月1日に盗用で撤回されていた。データねつ造・改ざんではない。

★パブピア(PubPeer)

2022年6月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)の論文のコメントを「authors: “Wilbert Aronow”」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》知る人すくない 

ウィルバート・アロノウ(Wilbert Aronow)の事件は研究公正局が設立される前の古い事件である。1980年前後に米国でネカト事件が脚光を浴びたが、アロノウ事件は研究不正の著書にはあまり取り上げられなかった。

米国の研究不正の著書に、 2つの重要な著書がある。

141211 71nAkax-AqL[1]1つ目は、1982年の書籍『Betrayers of the Truth』(写真出典)(ISBN-13: 978-0671447694)である。

著者のウィリアム・ブロード(William J. Broad)、ニコラス・ウェイド(Nicholas Wade)は、1981年のネカト事件までリストしているが、その事件リストにアロノウの事件は入れていない。

メディアがアロノウ事件を取り上げたのは1983年なので、ブロードとウェイドの上記の本の出版後だった。

2つ目は、1986年出版の アレクサンダー コーン(A. Kohn)著の『False Prophets: Fraud and Error in Science and Medicine』である。この本も掲載していない。 → Amazon | False Prophets: Fraud and Error in Science and Medicine | Kohn, A. | Science。 → 日本語版:科学の罠―過失と不正の科学史 | シヅ, 酒井, 雅弘, 三浦, アレクサンダー コーン, Alexander Kohn | – Amazon.co.jp

どういうことだ? と白楽は思った。

アロノウ事件を扱ったのは食品医薬品局や環境保護庁(EPA)だった。

所属はロングビーチ退役軍人省病院で、ハーバード大学やコロンビア大学などの有力大学でもなく、有名病院でもなかった。

それで、ネカト事件としては大きく扱われなかったのだろう、と考えたが、「Nature」がまともに事件を報じた。主要な一般新聞の「Washington Post」「New York Times」「Los Angeles Times」も事件を報じた。

アレクサンダー コーンが書かなかったのは、理由がわからない。

一般的に、英語の著書で紹介されないと、日本ではますます知られない。アロノウ事件はその例の1つである。

《2》誠実な不正者 

アロノウ事件はツッコミどころの多い事件である。

アロノウは、ネカト発覚後、ロングビーチ退役軍人省病院(Veterans Administration Medical Center in Long Beach)を辞職(解雇?)したが、研究者として生き延びた。

直ぐに、クレイトン大学医科大学院(Creighton University Medical School)・教授(?)に就任した。

そして、その後、米国の心臓病の臨床研究に大きな貢献をした。医者仲間から尊敬され、重要な役職についている。

2022年の過去数年以内にアロノウ事件が起こっていたら、米国では、確実に研究界から排除される。しかし、アロノウ事件は約40年前である。約40年前 ~20年前のネカト者は、そこそこ研究界に生き残れたようだ。

特に、アロノウのように、ネカト行為をしたのだが、監査を告げられると、自発的に、ネカト行為を告白した不正者は、ある意味、誠実な研究者として研究界は受け入れたのかもしれない。

根は真っ当な人間と捉える?

イヤ、小心者なので、監査でパニックになった?

自分で告白したのにその翌年には、いろいろ弁解している。この自己弁護も人間らしい。

4年後の環境保護庁(EPA)のネカト委員会報告に対しては反駁している。ネカト慣れして結構、ふてぶてしくなったようだ。

ただ、そのような経験を経て、過去の過ちが自分の人生の糧になって、アロノウは、むしろ、人間として研究者として、大きく育っていった印象を受けた。

つまり、ネカト者の処罰はどうあるべきか、なかなかむつかしい。

《3》論文撤回

繰り返すが、アロノウ事件はツッコミどころの多い事件である。

アロノウへのプラゾシン(prazosin)研究は「Circulation」に論文が掲載された。

しかし、食品医薬品局(FDA)の臨床調査部門長のアラン・リスック(Alan Lisook)は、ねつ造・改ざんデータとは別のデータがあって、そのデータが論文全体の結論を裏付けている、という論理で、論文撤回を要求しなかった。

まるでおかしい。

ねつ造・改ざんはその時点でアウトであって、論文の結論とは別である。

論文読者は、論文の結論だけでなく、論文中のデータそのものを利用することもある。そのデータがねつ造・改ざんならマズイでしょう。

飲酒運転は、結果として事故を起こした・起こさなかったで判断されず、飲酒運転自体が違反である。

《4》学術誌

アロノウ事件はツッコミどころの多い事件と書いたが、まだある。

食品医薬品局(FDA)のアラン・リスック(Alan Lisook)はマズいけど、学術誌「Circulation」のエリオット・ラパポート編集長(Elliot Rapaport)も大マズである。

ラパポート編集長は「論文のデータに誤りがあったのに、食品医薬品局(FDA)は私たちに通知しなかった。これは、誠に不適切な行為だと言わざるを得ない」と述べている。

ある意味、スジ論である。

そして、食品医薬品局(FDA)が通知してこなかったので論文は撤回しないと述べた。結局、2022年6月4日現在、「Circulation」論文は撤回されていない。

このスジ論はある意味で正しいけど、基本的には間違っている。

食品医薬品局(FDA)がどんな判断をしようが、どれほどマズい対応をしようが、ネカト論文を撤回しないのは、学術誌「Circulation」としてスジが通らない。マズイでしょう。編集長としてもスジが通らない。マズイでしょう。

《5》他論文

4つの異なる薬物の5つ臨床試験でデータねつ造・改ざんが見つかったとある。

本文で、3つの薬物の臨床試験論文をリストしたが、全部で10報がヒットした。

ネカトの法則:「ネカトはネカト常習者の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」。

アロノウのネカト行為は臨床試験論文に限られる理由がない。

アロノウはネカト発覚前の1688~1980年の13年に164報の論文を出版している。調査されていないが、そのほとんどにデータねつ造・改ざんがあるのではないだろうか?

《6》メディア

アロノウ事件は今から約60年前の1980年前後の事件である。

この時代、研究公正局はまだ設立されていない。もちろん、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」は萌芽さえもない。

そして、「Nature」がまともに事件を報じている。主要な一般新聞の「Washington Post」「New York Times」「Los Angeles Times」も事件を報じている。

2022年現在とは、ネカトを報道するメディアが違う。

2022年現在、「撤回監視(Retraction Watch)」は報道するが、「Washington Post」「New York Times」「Los Angeles Times」は普通のネカト事件は報道しない。かなり大きなネカト事件しか報道しない。

となると、逆に、「Washington Post」「New York Times」「Los Angeles Times」が報じないので、一般社会人は学術界でネカト事件が頻繁に起こっていることを知らないことになる。

これは、今後、米国の社会文化にどんな影響を与えていくのだろうか?

ウィルバート・アロノウ(Wilbert S. Aronow)、https://www.intechopen.com/profiles/164597

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 1983年3月23日のモートンミンツ(Morton Mintz)記者の「Washington Post」記事:Wave of False Medical Experiments – The Washington Post
② ◎1983年4月14日のスティーブン・ブディアンスキー(Stephen Budiansky)記者の「Nature」記事:Nature. 1983 Apr 14;302(5909):560:Data falsification: Food and drag data fudged | Nature
③ 1983年6月7日のフィリップ・シャベコフ(Philip Shabecoff)記者の「New York Times」記事:CARBON MONOXIDE STUDY IS FLAWED, E.P.A. IS TOLD – The New York Times
④ 1984年9月27日:RCED-84-201 Status of EPA’s Air Quality Standards for Carbon Monoxide
⑤ 1987年4月29日のロバート・スタインブルック(Robert Steinbrook)記者の「Los Angeles Times」記事:Fraud on Rise : Faking It in Biomedical Research – Los Angeles Times保存版
Data Falsification: Food and Drug Data Fudged

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