ワンポイント:専門は人類学だが米国・研究公正局がクロ判定した
●【概略】
メイラ・ワイス(Meira Weiss、写真出典)は、イスラエルのヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)の著名な教授だった。専門は人類学だが、米国・研究公正局がクロと判定した。それで、生命科学の枠で扱う。
2005年(55歳?)、不正研究の調査に協力しない代わりに、ヘブライ大学を辞職した。
- 国:イスラエル
- 成長国:イスラエル
- 研究博士号(PhD)取得:イスラエルのテルアビブ大学(Tel Aviv University)
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に、1950年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:74 歳?
- 分野:人類学
- 最初の不正論文発表:xxxx年(xx歳)
- 発覚年:20xx年(xx歳)
- 発覚時地位:ヘブライ大学・社会学部・教授
- 発覚:不明
- 調査:①ヘブライ大学・調査委員会。②米国・研究公正局?
- 不正:不明。ねつ造?
- 不正論文数:xx報
- 時期:研究キャリアの初期から?
- 結末:辞職
●【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に、1950年1月1日生まれとする
- 1972年(22歳?):イスラエルのヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)を卒業。学士号取得(社会学/教育学)。
- 1978年(28歳?):イスラエルのテルアビブ大学(Tel Aviv University)で修士号取得(社会学/人類学)。
論文名“The Bereaved Parent’s Position: Aspects of Life Review, Rebellion and Self Fulfillment”。指導教員:Shokeid M. と Deshen S. - 1986年(36歳?):テルアビブ大学(Tel Aviv University)で博士号取得(社会学/人類学)。
論文名“Infirmity and Identity: Handicapped Children as Perceived by their Parents”。指導教員:Shokeid M. と Deshen S. - xxxx年(xx歳):ヘブライ大学・社会学部・教授
- 2004年(54歳?):不正研究が発覚する
- 2005年(55歳?):ヘブライ大学を辞職。
- 2005年(55歳?):ヘブライ大学・「医学/科学/身体の人類学(Anthropology of Medicine, Science and the Body)」名誉教授
右は2002年のワイスの著書の表紙。『The Chosen Body The Politics of the Body in Israeli Society』(Cloth ISBN: 80804732727、Paper ISBN: 9780804750806)
●【不正発覚・調査の経緯】
不明点多し。
2004年(xx歳)以前、ワイスとワイスの所属大学するヘブライ大学は、ワイスの論文に研究不正があると公益通報された。
ヘブライ大学は、調査委員会を設け調査を開始した。
ヘブライ大学は、「ワイス教授の学術論文の信頼性に重要な疑惑が生じている。調査委員会を設置し、ワイス教授に問題点を伝え、公益通報内容および調査委員会の中間報告に書面で反論する機会をワイス教授に与えた。その後、ワイス教授の反論を慎重に検討した結果、委員会は、研究不正を否定するに足る根拠はなく、調査を受け入れ生データを提出するようワイス教授に勧告した」。
ヘブライ大学・調査委員会は、フィールド研究日誌、インタビュー記録、研究対象人物の名前と情報の提供をワイスに要求した。
ワイスは、生データの提出を拒否した。理由は、調査対象人物の情報を明かすのはアメリカ人類学会(American Anthropological Association)の倫理コードに違反するからだと述べている。また、イスラエル人類学会(Israel Anthropology Association)の当時の会長は、「いかなる状況であれ、フィールド研究日誌の閲覧要求は違法である」と述べている。なお、ワイスは、イスラエル人類学会の前・会長だった。
ヘブライ大学は、生データの提出を拒否するなら、早期退職の申し出を受け入れるよう勧告した。
2005年(xx歳)、ワイスは、不正研究の申立てに反論するには10万ドル(約1千万円)の費用がかかると査定されたことと、反論したところで、既に不正研究の噂が広まっていて、メンツを失っている。大学を辞職することで、調査を中止するという示談に応じた。
ヘブライ大学は、ワイスの研究不正の具体的な内容を明かしていない。
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以下は白楽の推量である。
パブメドで検索すると、ワイスの論文が4報ヒットした。
一例を挙げると、1997年に以下の論文がある。
- Signifying the pandemics: metaphors of AIDS, cancer, and heart disease.
Weiss M.
Med Anthropol Q. 1997 Dec;11(4):456-76.
この論文で、ワイス(1997)は、20世紀後半の3つの「大流行病」のエイズ、癌、心臓病の文化構築を分析している。研究は、1993-94年にイスラエルの75人の看護師と40人の医師、1993-95年にイスラエルの60人の大学生にインタビューしたデータを基にして、文化構築を次のように特徴づけた。
心臓病は、単に身体的欠陥で、資本主義の大量生産・大量消費の結果とみなされている。一方、エイズと癌は後期資本主義のポストモダンの病理の結果とみなされている。エイズは伝染性なので、不道徳と汚名のイメージが形成された。
以下の2001年の論文も、インタビューしている。
- The children of Yemen: bodies, medicalization, and nation-building.
Weiss M.
Med Anthropol Q. 2001 Jun;15(2):206-21.
ワイスの研究手法は、インタビュー・データを基に知見をまとめるという手法である。そして、論文には、当然ながら、インタビュー相手(調査対象者)の人数など、具体的な数値が記載されている。
この数値が架空の人物を含めた数値、つまり、データねつ造だったのではないだろうか? だから、調査対象人物の情報を明かせばデータねつ造がバレてしまう。調査対象人物の情報を明かすのは倫理コード違反だからという、もっともらしい理由をつけて、生データの提出を拒んだのではないだろうか?
そう言えば、心理学のマーク・ハウザー事件も同じような事件である。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、メイラ・ワイス(Meira Weiss)の論文を「Meira Weiss[Author]」で検索すると、2003年~2012年の4論文がヒットした。論文タイトルから、本記事のメイラ・ワイス(Meira Weiss)とは別人である。
「(Weiss M[Author]) AND Hebrew University of Jerusalem[Affiliation] 」で検索すると、1993年~2014年の6論文がヒットした。論文タイトルから、本記事のメイラ・ワイス(Meira Weiss)の論文は、1993年~2001年の4論文該当する。
2015年4月24日現在、撤回論文はない。
●【白楽の感想】
《1》不明点多し
どの論文の何が不正研究だったのか不明である。発覚の経緯も不明である。
米国・研究公正局ニュースレターに掲載されているので、米国・研究公正局で調査されたと思われるが、その内容も不明である。
そもそもイスラエルの大学の人類学教授が、米国・研究公正局で調査された理由さえ不明である。ワイスは、米国・NIHの研究費を受給していたのだろうか? NIH研究費のデータベースで検索してもヒットしなかった(サイト:Query Form – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results)。
2005年頃の事件は、情報が得にくい。地元メディアが報道しないと、状況がつかみにくい。
《2》情報源の非開示
ある種の業務(報道など)では、ワイスの主張するように情報源の秘匿は重要である。しかし、研究業務ではどうだろう? そして、データねつ造の疑念がある場合、調査委員会に生データの提供をすべきなのか、すべきではないのか?
ワイスのような研究では、情報源がわかっても、情報提供者に大きな犠牲(逮捕、失職、信用喪失など)がないと想定される。この場合、研究不正の調査を優先すべきである。もちろん、研究不正の調査以外に情報を外部に漏えいしませんという取り決めは必要だろう。
●【主要情報源】
① 2005年3月号の米国・研究公正局ニュースレターの7ページ:https://ori.hhs.gov/images/ddblock/vol13_no2.pdf
② 本人のウェブサイト:Professor Meira Weiss | (Auto)biography of body: Home