6-2 論文販売(Papers for Sale)、著者在順販売(Authorship For Sale)、論文工場(Paper Mill)、学位工場(Degree Mill)

2023年12月30日掲載 

ワンポイント:【長文注意】。論文販売(Papers for Sale)、著者在順販売(Authorship For Sale)、論文工場(Paper Mill)、学位工場(Degree Mill)の実態は一部分しかつかめていない。本記事では、白楽が把握した日本語の個人・組織、また、外国語の個人・組織、そして、利用した研究者、について整理した。これらの不正は、クログレイ枠で扱った「代筆(ゴーストライター)・論文代行」と重複する面があるが、別記事にした。日本も外国も、これらの不正の実態をつかみ、明確な規制ルール、摘発組織の設立と摘発・処罰、などの改善策を検討すべきだ。現状のままだと、学術論文体系がメチャメチャになる、という気がしている。国民の損害額(推定)は膨大(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.はじめに
2.日本語の個人・組織
 《1》論文販売(Papers for Sale)
 《2》著者在順販売(Authorship For Sale)
 《3》論文工場(Paper Mill)
 《4》学位工場(Degree Mill)
3.外国語の個人・組織
 《1》研究論文販売(Research Papers for Sale)
 《2》著者在順販売(Authorship For Sale)
 《3》論文工場(Paper Mill)
 《4》学位工場(Degree Mill)
4.対策
5.白楽の感想
6.コメント
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●1.【はじめに】

本記事で、論文販売(Papers for Sale)、著者在順販売(Authorship For Sale)、論文工場(Paper Mill)、学位工場(Degree Mill)について、日本と世界の現状を整理した。

なお、「・・販売」や「・・工場」としたが、買う人がいるから作り・売る。それで、買う人も扱った。

2023年12月30日に記事を掲載したが、それ以降、断りなく、追加・訂正をしていく。

クログレイ枠で扱った「4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating)」と重複する部分がある。記述内容を調整せずに、別記事にした。

4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating)

最初に軽く説明する。

論文販売(Papers for Sale)の論文(Papers)は、「学術誌の研究論文」(”Research” Papers )を主眼にした。ただし、日本では学部生のレポートや卒業論文などの売買が主流なので、そのまま記述した。

著者在順販売(Authorship For Sale)は、著「者」権の販売で、著「作」権の販売ではない。

論文販売は完成した論文をウェブサイトに値段と共に示し、購入者がそれを買うケースと、購入者が分野と内容を指示して販売業者に論文を作ってもらうケースがある。その違いは、あたかも、「建売住宅」と「注文住宅」というか、別の例で言うと、「既製服」と「オーダースーツ」の違いである。

販売された論文を買った場合、著「作」権も買ったことになる。

販売業者に論文を作ってもらうケースは、論文代行(contract cheating)と同じである。

著者在順販売(Authorship For Sale)は、既に掲載が決まっている論文原稿の第x場目の共著者枠に、お金を払って自分の名前を共著者として加えてもらうことである。

論文販売(Research Papers for Sale)と著者在順販売(Authorship For Sale)は別の概念だが、白楽記事では、著者在順売買を論文売買の1つの形態と位置づけている。それで、著者在順売買を論文売買の枠で扱うこともある。

論文工場(Paper Mill)は、論文をたくさん作って売る行為なので、論文販売(Papers for Sale)と著者在順販売(Authorship For Sale)と重複するが、項目として独立させた。

学位工場(Degree Mill)は、学士号、修士号、博士号などの学問学位、医療資格や法務博士などの専門職学位の売買である。実在する大学の学位を偽造したもの、または、非認定大学の正式な学位、を売買する行為である。

購入者はその学位に応じた、専門の知識・技術・経験がない。それで、実害は大きい。

●2.【日本語の個人・組織】

日本語で宣伝している個人・組織を示す。組織の所在地は日本とは限らない。検索でヒットした組織を適当に並べた。網羅的ではない。

断わっておくが、英文校正の個人・組織以外、白楽はどの個人・組織も推奨しない。

日本人の購入者も示した。実際はもっと多数いると思われるが、報道されないとわからない。

【論文販売(Papers for Sale)】

日本語の「研究論文販売」サイトは見つからなかった。それで「研究論文」の「研究」を除いた「論文販売」を探った。

論文販売のサイトは多数あった。大学・学部生向けのレポートや卒業論文が対象である。

サイトを2つ示す。

購入者は日本全国の大学・学部生で、日本人だけでなく、外国から日本に来た留学生も多いと思われる。

紛らわしいのは、院生・研究者レベルの研究論文を有料で添削する行為である。

院生の場合、指導教員が行う行為である。院生がこのような有料サイトに論文添削を依頼するのは少しヘンである。

研究者の場合、日本人研究者が英語論文を書いた時、英語の修正は必要な人が多い。白楽は、肯定的である。

★Reportsell(レポートセル):卒論やレポート

サイト:https://www.reportsell.com/

以下はサイトから抜粋(赤字・リンクはサイトのママ)

  • 卒業論文やレポートの販売
  • 創業17年
  • 購入後は自由に利用・加工・編集できます。
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  • 値段:1万円~3万円

購入者

  • 卒論が書けない。(大学生)
  • テーマは決まっているが、小論文の課題がなかなか進まない…(学生)
  • 子供が卒業論文を書いておらず、卒業できそうにない!(親)

販売している論文リスト一覧表:論文一覧 Reportsell

【白楽の解釈】
2万字の卒業論文が3万円。
院生・研究者レベルの論文ではない。
高等教育を破壊する行為 → 法律で禁止すべき。

★卒論ショップ:卒論

サイト:https://soturon-shop.com/

以下はサイトから抜粋

  • 卒論価格は一律20,000.-円(税別)となります。
  • 英語論文の価格は一律10,000.-円(税別)となります。
  • サイトの方針として、購入した卒論をそのまま大学に提出することは支持しておりません。もしそのまま提出されたとしても、当サイトは一切の責任は負いかねます。

【白楽の解釈】
2万字の卒業論文が2万円。
院生・研究者レベルの論文ではない。
高等教育を破壊する行為 → 法律で禁止すべき。

★ 研究論文の英文校正:エナゴ

英語論文の英語を添削している。論文販売していないが、添削が行き過ぎると、行為はスレスレになる。

サイト:https://www.enago.jp/

以下はサイトから抜粋

  • 英語論文の英文校正・英文校閲・論文校正から投稿サポートまで、 学術研究論文に特化したトータルソリューションを提供

【白楽の解釈】
院生・研究者レベルの論文。
英語論文作成の支援なので、学術界は肯定的である。

【著者在順販売(Authorship For Sale)】

★中国のサイエディット社(Sciedit)

元記事はココ → 7-131 論文と著者在順を売る中国の業者

2023年11月7日にサイエディット社(Sciedit)のサイト「https://www.sci-edit.com/ja」にアクセスしたら、以下の日本語が表示されていた。

ということは、日本人の顧客がかなりいるということ?

★購入者

著者在順を買った日本人はいると思うが、ここ10年間で、数十人なのか数千人なのか数万人なのか、白楽はわからない。

推定だが、アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン) は買ったと思う。引用カルテルにも参入していたと思われる。但し、購入先と引用カルテルを白楽は特定していない。

アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン)

【論文工場(Paper Mill)】

日本の運営者は見つからなかった。

【学位工場(Degree Mill)】

日本では学位工場が学位を授与する行為・販売する行為は犯罪である。学位を買った人が、学位を公的に使用した場合も犯罪である。

文部科学省「国際的な大学の質保証に関する調査研究協力者会議」の配布資料に「ディプロマ(ディグリー)・ミル」問題について、がある。しかし、2003年11月28日と古いのが難点。

以下は「ディプロマミル – Wikipedia」からの説明である。白楽記事では、ディプロマミルと学位工場を同じとみなす。

日本における法的問題

日本の学校教育法では、大学の設立には文部科学大臣の認可が必要であり、それ以外の教育施設が大学や大学院を名乗る事は禁止されている。これに違反した場合、10万円以下の罰金が科される。

また学位授与の権限は、上記の条件に適う大学と、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構にのみ認められている。ディプロマミルは上記の条件を充たす教育機関ではないから、日本国内でディプロマミルが大学や大学院を名乗ったり、それが学位を授与することは違法行為となる。また、ディプロマミルの修士号や博士号を公的に使用していた場合、称号詐称の罪(軽犯罪法第1条15項)で処罰される可能性もある。

「軽犯罪法第1条15項」の条文は以下である。

官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者(軽犯罪法 | e-Gov法令検索

★運営者

日本の運営者は見つからなかった。

★購入者

学位を買った日本人は、ここ10年間で、数十人なのか数千人なのか数万人なのか、白楽はわからない。勢いで書いたけど、数千人とか数万人とかはいないと思う。

なお、博士号は300万円、500万円、800万円などが相場との話があった(額の真偽は不明)。(出典:2005年5月20日記事:博士号を買う? -お世話になります。正規の博士号取得がいかに大変かを- 大学・短大 | 教えて!goo

記事アップ後、KS鋼さんが以下のツイッター。

●3.【外国語の個人・組織】

英語で扱っている個人・組織を調べた。断わっておくが、白楽は売買を推奨しない。

【研究論文販売(Research Papers for Sale)】

「研究論文販売」の英語「Research Papers for Sale」でグーグル検索をすると、かなりの数のサイトがヒットした。 → Research Papers for Sale – Google 検索

2例示す。

★エデュバーディ社(EduBirdie)

手順は以下の通り。

  1. 注文フォームに記入
  2. 執筆者を選ぶ・・・サイトに顔写真付きで執筆者の経歴がリストされている
  3. 執筆者と論文の作成手順・内容・希望を交渉・調整し、価格を決める
  4. 支払う
  5. 論文を受け取る
  6. 論文を読んで、希望通りであることを確認する

単純に計算すると、30ページの論文は約4万2千円。

★ スタディクラーク社(Studyclerk.com)

手順は上記のエデュバーディ社(EduBirdie)と同じ

★ グローバルフリーランサー社(Global Freelancers)

【著者在順販売(Authorship For Sale)】

販売組織は数十組織、販売者個人は数万人、購入者は数十万人いると思われる。

日本人購入者は、ここ10年間で、数十人なのか数千人なのか数万人なのか、白楽はわからない。

以下はごく少数例で、網羅的なリストではない。売買が実際に行なわれていることを具体的に示すため、例としてあげた。

★販売組織:ロシアの国際出版社

  • ロシアの国際出版社
  • サイト:http://123mi.ru/
  • 2017年以降の5年間に、学術誌に掲載された4,000 以上の論文の著「者」権を、20,000 人以上に1回最低5万円で売った。

詳しくは → 7-129 著「者」権を販売するロシアの業者

7-129 著者在順を売るロシアの業者

★販売組織:ラトビアのシア科学出版社(SIA Science Publisher)

詳しくは → 7-132 論文と著者在順を売るイランとラトビアの業者

7-132 論文と著者在順を売るイランとラトビアの業者

★ツイッターで指摘された販売者たち

サイト →  Authorship for sale(@author_for_sale)さん / X

販売者を指摘するツイートは、2023年1月から開始された。

以下、指摘している2例示す。

1例目:2023年12月19日、ツイッターで指摘。この投稿は851件目の投稿である。

2例目:2023年7月22日、ツイッターで指摘。

★販売者:モスタファ・ハラヒアン(Mostafa Jarahian)(ドイツ)

以下の記事に書いたので、そちらをご覧ください。

犯罪「論文売買」:モスタファ・ハラヒアン(Mostafa Jarahian)(ドイツ)

★販売者:ハムザ・クザール(Hamzah Kzar)

出典:7-134 ニック・ワイズが著者在順の売買者を摘発 | 白楽の研究者倫理

ハムザ・クザール(Hamzah H Kzar、写真出典)は、イラクのアル=カシム・グリーン大学(Al-Qasim Green University)・獣医学部の助教授。

★販売者:サリム・カレル(Salim Kallel)

出典:7-134 ニック・ワイズが著者在順の売買者を摘発 | 白楽の研究者倫理

白楽は、サリム・カレルの顔写真、国、所属など、属性を特定できなかった。仮名かもしれない。

★販売者:ガセム・サルガジ(Ghasem Sargazi)

出典:7-136 フロンティアーズ社は多数の売買論文を撤回 | 白楽の研究者倫理

ガセム・サルガジ(Ghasem Sargazi、写真出典)はイランのバム医科大学(Bam University of Medical Sciences and Health Services)・助教授である。

著者在順の販売をニック・ワイズに指摘されたが、サルガジ助教授は、自分は被害者だと主張した。

論文が撤回され、「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように述べている。

私たちの論文は科学的な観点から見て最高レベルで、著者たちはそれぞれの役割に応じてこの研究に貢献しました。しかし、編集者は私たちに何の説明も求めずに論文を撤回しました。非常に残念です。

★購入者:ザンナ・ガルダノバ(Zhanna Gardanova)+2人

以下の3人の出典:犯罪「論文売買」:モスタファ・ハラヒアン(Mostafa Jarahian)(ドイツ) | 白楽の研究者倫理

  1. ザンナ・ガルダノバ(Zhanna Gardanova)はロシアのピラゴフ・ロシア国立医学研究大学(Pirogov Russian National Research Medical University)に所属。
  2. ナヴィド・ショマリ(Navid Shomali、写真出典)はイランのタブリーズ医科学大学(Tabriz University of Medical Sciences)・所属の院生。ショマリは不正をしていないと主張している。 → 7-136 フロンティアーズ社は多数の売買論文を撤回 | 白楽の研究者倫理
  3. アレクセイ・ユマシェフ(Alexey Yumashev、写真出典)はロシアのモスクワ国立セチェノフ第一医科大学(Sechenov First Moscow State Medical University)・教授。

 

 

★購入者:マリア・ジェイド・カタラン・オピュレンシア教授(Maria Jade Catalan Opulencia)

以下の出典:7-134 ニック・ワイズが著者在順の売買者を摘発 | 白楽の研究者倫理

アラブ首長国連邦のアジュマーン大学・経営学のマリア・ジェイド・カタラン・オピュレンシア教授(Maria Jade Catalan Opulencia、写真出典、教授ではないかも)。

実は、オピュレンシアは2021年まで、論文をほとんど発表していなかった。

それが、驚いたことに、2022年に突然50本以上の論文を発表した(スコーパスでは以下に示すように49本。2023年12月2日現在は62本)。パブメドだと、2021年まで0報で、2022年に23報、2023年に5報だった(Maria Jade Catalan Opulencia – Search Results – PubMed )。

出典:Opulencia, Maria Jade Catalan – 著者詳細 – Scopus Preview

オピュレンシアが著者のほとんどの論文は、その著者在順が売られていた、とニック・ワイズが指摘している。 つまり、オピュレンシアは62本の論文を買ったのだ。 → パブピアでオピュレンシアの50論文にコメントがある:PubPeer – maria opulencia

撤回論文データベースによると、オピュレンシアの2022年の8論文が撤回されていた。 → Retraction Watch Database

驚いたことに、オピュレンシアの撤回論文は、癌生物学、燃料電池、ナノエレクトロニクスに関する研究論文で、内容が多岐にわたり、というか、多岐過ぎて、とても1人の研究者、それも経営学の研究者がカバーできるとは思えない。

★購入者:エルサイード・タグ・エルディン教授(Elsayed Tag Eldin)

以下の出典:7-135 超多量の論文出版で大儲けのMDPI社 | 白楽の研究者倫理

エルサイード・タグ・エルディン教授(Elsayed Tag Eldin、写真出典)は、カイロ(エジプト)のフューチャー大学(University of the Future)・工学部・学部長である。

エルディン教授は、実は、それまでほとんど論文を発表してこなかった。しかし、論文数が多いことが重要なら、ということで、2022年と2023年(2023年10月時点)で418報の論文を発表した。

白楽が、2023年11月9日、スコーパスで調べると、2021年までほぼ0~2報程度だったのが、2022年に39報、2023年に5報を出版していた。スコーパスで418報より論文数が少ないのは、 スコーパスに索引付けされている学術誌はそれなりの基準を満たしているからである。 → Tag-Eldin, Elsayed Tag – 著者詳細 – Scopus Preview(データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、上記の数値より増えている(ことがある))

エルディン教授の論文の内容は、新型コロナウイルス感染症、ソーラーパネル、ナノ流体、農業、サイバー攻撃など、あらゆる種類のトピックについて毎日1報出版していた。まともな研究をしているとはとても思えない。しかし、彼は世界で最も多くの論文を発表している研究者である。

★購入者:ケリー=アン・アレン(Kelly-Ann Allen)

出典(含・写真):2023年12月18日記事:Psychology professor earns retractions after publishing with ‘repeat offenders’ – Retraction Watch

ケリー=アン・アレン(Kelly-Ann Allen)はオーストラリアのモナシュ大学(Monash University)・準教授で専門は心理学。

2023年に発覚し、2論文が撤回された。 → Retraction Watch Database

【論文工場(Paper Mill)】

★運営者:マジッド・ハヤトネザド(Majid Khayatnezhad)

マジッド・ハヤトネザド(Majid Khayatnezhad、写真出典)は、イランのイスラミック・アザッド大学(Islamic Azad University)・環境科学工学科(environmental science and engineering department)・教員だったが、辞職(解雇?)した。

2023年12月12日の記事によると、イランの論文工場の首謀者の1人らしい。

★求人広告:執筆者求む!

論文工場では論文執筆する人が必要である。それで、求人広告もする(以下)。

【学位工場(Degree Mill)】

英語圏の世界では学位工場がたくさん稼働している。「Buy a College Degree」と「Buy a Doctoral Degree」でグーグル検索をしたら、多数のサイトがヒットした → ①:Buy a College Degree – Google 検索、②:Buy a Doctoral Degree – Google 検索

学位工場(Degree Mill)から学位を買う人は毎年数十万人いる(いた)。

日本人購入者は、ここ10年間で、数十人なのか数千人なのか数万人なのか、白楽はわからない。

最初に、運営者が逮捕・投獄された米国のスポケーン学位工場(Spokane diploma mill)事件を述べる。

次いで、かなりの数の英国人が購入したパキスタンの学位工場「エイクザクト社(Axact)」を解説する。

その後、たくさんある「学位購入」サイトから適当に選んで、1つ示す。

★スポケーン学位工場(Spokane diploma mill)

スティーブ・ランドック(Steve Randock)と妻のディキシー・ランドック(Dixie Ellen Randock、写真出典)は、米国のワシントン州のスポケーンで学位工場(Spokane diploma mill)を運営していた。

1999年から少しずつはじめ、2005年頃にはかなり大規模にビジネスを展開していた。

ランドック夫妻の他に、ウェブサーバーの運営、不正なゴム印や印鑑を製造などを担当する従業員が6人いた。

スポケーン学位工場は、高校や大学の偽の学位、そして修士号や博士号など、多量に販売し、730万ドル(約7億3千万円)を売り上げた。

121校の架空の大学・大学院のウェブサイトを作って、購入者に信用させていた。

購入者は約1万人で、その中には、米国の軍、政府、教育界に従事する人が、少なくとも数百人いた。

学位販売は、学位の不正販売というだけの単純な犯罪ではない。

この学位をオンラインで購入した外国人は、学位を利用して米国の「H1-B」ビザ発給資格が得られる。テロリストは購入した学位で、合法的に米国へ入国できるのだ。

つまり、米国という国の安全保障に問題が生じる。

実際、秘密諜報員が「モハメッド・サイード(Mohammed Syed)」という偽名でジェームズ・モンロー大学(James Monroe University)の化学エンジニアの学位を買っていた。値段は1,277ドル(約12万7700円)だった。

セントレジス大学(Saint Regis University)の「学位」の半分は、実際、海外にオンラインで販売され、大部分はサウジアラビアの「学生」が購入した。

2005年、連邦捜査機関はスポケーン学位工場の8人を逮捕した。

2008年8月、裁判の結果、運営者のスティーブ・ランドックとディキシー・ランドック(Steve and Dixie Randock)は、3年の刑務所刑が科された(写真出典)。

 

購入者

米国のスポケーン学位工場(Spokane diploma mill)事件では、約1万人の購入者リストがあった。

電子メールアドレスから、米国の軍関係者が35人、教育界が39人、政府が17人がいたことがわかっている。 → 2008年7月29日記事:List identifies buyers of fake college degrees | The Spokesman-Review

そのリストにのっていた人物の5人は、以下である。

  1. ティモシー・フランシス・ゴーマン(Timothy Francis Gorman): NASA 職員。ジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)の電子メール・アカウントを使って電気工学の学位を購入した
  2. フランク ・ガヴァン(Frank S. Govern): 米国健康福祉省の腫瘍学の専門家
  3. デビッド・バーデン(David W. Barden ):国家安全保障局(National Security Agency)の職員
  4. バリー・ヘスター(Barry A. Hester):国家安全保障局(National Security Agency)の職員でコンピュータのウェブ教官。1187ドル(約12万円)で情報システム技術の学位購入
  5. エリック・コール(Eric Gregory Cole):中央情報局(Central Intelligence Agency)の契約社員。3,801ドル(約38万円)で情報システム管理の学位購入

学位購入では個人アドレスを使う人の方が圧倒的に多いので、軍・教育界・政府関係者の学位購入者は、もっとずっと多いと推定されている。

この項の情報源は以下である。

  1. 2005年8月17日の「Seattle Times」記事:Alleged Spokane-area diploma mill could have aided potential terrorists | The Seattle Times
  2.  U.S. Attorney Press Release – US v. Randock, et al. (Diploma Mill Fraud Case)
  3. 2008年6月29日のダイアナ・スキーモ(Diana Jean Schemo)記者の「New York Times」記事:Diploma Mill Concerns Extend Beyond Fraud – The New York Times
  4. 2008年8月6日の「Spokesman-Review」記事: Diploma mill sentence 3 years | The Spokesman-Review
  5. 2008年10月30日のビル・モーリン(Bill Morlin)記者の「Seattle Times」記事:Diploma mill webmaster gets 4 years for fraud, porn | The Seattle Times 

★会社:エイクザクト社(Axact)

この項の出典:2018年1月16日記事:‘Staggering’ trade in fake degrees revealed – BBC News

学位工場の学位を買う人は、勿論、米国人だけではない。

2018年1月16日、数千人の英国人がパキスタンの学位工場「エイクザクト社(Axact)」から偽の学位を買っていたと、英国のBBCが報道した。

英国のBBCラジオ4(BBC Radio 4)のファイル・オン・フォー番組( File on Four)でも伝えた。 → 2018年1月21日、ラジオ(音声、英語、40分):BBC Radio 4 – File on 4, Degrees of Deception

修士号も博士号も、そして医療資格も購入していた。

エイクザクト社(Axact)から医療資格を買った英国人には、眼科医、看護師、心理学者、臨床スタッフ、医療コンサルタントがいた。

例えば、ロンドンの教育病院のコンサルタントだった人は、2007年にニセ大学であるベルフォード大学から内科の医療資格を購入した。発覚後、この医師は有罪判決を受けた。

エイクザクト社(Axact)は、2005年頃(推定)から営業し、2015年に米国のニューヨーク・タイムズ紙で暴露され、関係者が逮捕されるまで営業していた。

なお、逮捕前の1年間、約 21万5千件のニセ学位を世界中で売って、その1年間だけで、5,100万ドル(約51億円)の収入を得ていた。

エイクザクト社(Axact)は数百校のニセ大学のウェブサイトを作り、その大学の学位を販売していた。

例えば、ニクソン大学(Nixon University)やブルックリンパーク大学(Brooklyn Park University )という名前の大学で、実際にその大学が存在するかのように、笑顔の学生の画像や、大学を称賛する記事を掲載していた。

以下はニクソン大学(Nixon University)のウェブサイト(http://www.nixonuniversity.com/)である。2023年12月29日現在はリンク切れ(サイトが削除されたと思われる)。2018年8月16日の保存版はココ(以下の画像出典)。

BBC記者が試しに、学位(経営学修士号)の購入を電話で依頼した。すると、ニクソン大学(Nixon University)の学位の値段が3,600ドル(約36万円)と提示された。

学位記は以下のように立派である。[白楽注:このような詐欺の場合、通常、本物の学位記よりも立派である]

なお、2023年12月29日現在でも、ウェブサイトは美しく精巧に作られ、グーグル検索で多数ヒットし、口コミの評判も良く、ニクソン大学は実在しているような気がしてくる。

大学らしい荘厳な建物の写真もヒットする。

それに、2023年12月22日、白楽がニクソン大学の画像を「Nixon University」でグーグル検索したら、かなりの画像がヒットした。以下2023年12月22日現在の画像(出典はココ)。

2015年5月18日、米国のニューヨーク・タイムズ紙がエイクザクト社(Axact)の不正を暴露した。 → 2015年5月18日記事:Fake Diplomas, Real Cash: Pakistani Company Axact Reaps Millions – The New York Times

1年7か月後、2016年12月19日、エイクザクト社(Axact)の米国シニアマネージャーのウマイル・ハミッド副社長(Umair Hamid、写真出典)が米国で逮捕された。

8か月後、2017年8月28日、米国の裁判所はハミッドに21か月の刑務所刑を宣告した。 → ①:2017年8月28日記事:Southern District of New York | Pakistani Man Sentenced To 21 Months In Prison In Axact Diploma Mill Scam | United States Department of Justice、②:2017年8月29日記事:Axact VP sentenced to 21 months in prison by US court in diploma mill scam – World – DAWN.COM

2015年5月18日、エイクザクト社(Axact)のショアイブ・シャイク社長(Shoaib Ahmed Shaikh、写真出典)もパキスタンで逮捕された。

★大学学位教育社(University Degree Education)

2023年12月29日現在、営業している。

  • サイト:University Degree Education
  • 値段:学士号は390ドル(約3万9千円)、修士号は490ドル(約4万9千円)、博士号は590ドル(約5万9千円)、
  • 学位:実在する大学の本物の認定学位(Accredited Degree)
  • 納期:数日
  • 備考:試験を受けたり勉強したりする必要はない

【白楽の解釈】
怪しげです。
サイトを信用しない方がよさそうです。

●4.【対策】

論文販売(Papers for Sale)、著者在順販売(Authorship For Sale)、論文工場(Paper Mill)、の3つを法律で禁止している国はない(らしい)。

学術界も、明文化した規則でこれら3つを禁止していない。

しかし、欧米の大手出版社は防衛策を施し始めた。

「撤回監視(Retraction Watch)」は頻繁に記事に掲載している。

なお、購入した場合、つまり、研究者が論文や著者在順を購入し、大学・研究所に自分の業績として記載・提出したのが発覚すれば、詐欺行為なので、何らかの処罰が科される。

一方、学位工場(Degree Mill)は上記3つと異なり、ニセ学位を販売しているので、販売そのものが犯罪になる。

学位を購入した研究者も、その学位を資格として使用したり、大学・研究所の文書に記載・提出したのが発覚すれば、処罰が科される。

日本では「軽犯罪法第1条15項」が学位の詐称を違法としている。しかし、その処罰である「拘留又は科料」になったケースを白楽は知らない。

★出版規範委員会(COPE)

出版規範委員会(COPE: Committee on Publication Ethics)が次の文書で注意を喚起している。

筑波大学・大森悠生(おおもりゆうき)が2022年10月27日の「E2550 – 「論文工場(paper mill)」へ取るべき行動:COPE報告書 | カレントアウェアネス・ポータル」で、出版規範委員会(COPE)の報告書を日本語で説明している。

以下は抽出引用である。

2022年6月,英国の非営利団体である出版倫理委員会(COPE)は国際STM出版社協会と共同で行った「論文工場」問題に関する調査の報告書を公開した。

「論文工場」の影響は分野・地域を問わず広まっており,ある出版社は「論文工場」の標的となった2つのジャーナルに対し,70か国以上から疑わしい論文が2年間で約2,000件投稿されたことを報告している。

出版社から得たデータを元にした調査結果を示した上で,今後取るべき行動を以下の5点にまとめ,適切に対応するよう提言している。

以下の5点の見出しは以下である。各見出しの後に説明があるがここでは省略した。説明は元論文を参照されたい。

●研究者のインセンティブの見直し
●製造された論文を検出するシステムへの投資
●編集者・査読者に対する教育活動
●プロトコルの調査
●調査・撤回プロセスの見直し

★フロンティアーズ出版社(Frontiers)

7-136 フロンティアーズ社は多数の売買論文を撤回

2023年9月4日、フロンティアーズ社は、著者在順の売買を防ぐ規則を導入した。

著者変更を希望する場合、従来、申請書を提出するだけだった。新規則では、原稿採択後の著者変更を原則として認めないとした。 → Frontiers implements new policy to counter ‘Authorship-for-sale’ – Science & research news | Frontiers 

●5.【白楽の感想】

《1》対処すべし

論文販売(Papers for Sale)、著者在順販売(Authorship For Sale)、論文工場(Paper Mill)、学位工場(Degree Mill)の問題は、ネカト問題をはるかに越える問題である。

学術体制の根幹が揺らぐ問題だが、日本では危機意識が薄い。

日本も外国も、これらの不正の実態をつかみ、明確な規制ルール、摘発組織の設立と摘発・処罰、などの改善策を検討すべきだと思う。

現状のままだと、学術論文体系がメチャメチャになる、という気がしている。

《2》日本のニセ大学

日本にも国際信州学院大学(https://kokushin-u.jp/)というニセ大学があったことを、白楽ブログの読者を憶えていることと思う。 → 化学:アリレザ・ヘイダリ(Alireza Heidari)(米)架空 | 白楽の研究者倫理

日本に国際信州学院大学の修士号や博士号をお持ちの方、いますよね、結構な数。イヤイヤ、いないでしょう。

でも、とにかく、

使うとアウトですよ。

《3》査読工場(Review Mill)、著者在順工場「Authorship  Mill」

論文工場(Paper Mill)や学位工場(Degree Mill)と似た用語に査読工場(Review Mill)もある。 → #ReviewMill – 検索 / X

査読工場(Review Mill)を本記事では紹介しなかったが、査読偽装(Fake Review)と同じである。スペインのセビリア大学(Universidad de Sevilla)のオビエド=ガルシア教授(M. Ángeles Oviedo-García、マーケティング学)が提唱している。

論文に絡む不正売買は今後「○○ Mill」という用語に統一されていくかもしれない。

著者在順売買も「著者在順工場(Authorship  Mill)」と呼んだ方がいいと白楽は思う。現在、徐々に解明されている引用カルテルも「引用工場(Citation Mill)」と呼んだ方がいい。両方とも、まだ、誰も使っていないけど。

どなたか、「Authorship  Mill」や「Citation Mill」のタイトルで英語論文を書きませんか? インパクトあるので論文は採用され、命名者になれますよ。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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