「白楽の感想」集:2016年7-12月

2021年10月31日掲載 

「白楽の研究者倫理」の2016年7月~2016年 12月記事の「白楽の感想」部分を集めた。

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《1》特殊なケース?

サス事件を調べると、ヴェロニカ・サスが著名な政治家の娘で、写真を見ると(Getty Images【主要情報源】②)、ドイツの有名人で、金持ちで、社交界の花形女性という印象を受ける。

ドイツの金持ちの娘がどのような倫理観をもった育ち方をするのか、白楽は実態を知らない。韓国の「ナッツリターン」の趙顕娥(チョ・ヒョナ)や朴槿恵大統領がらみの崔順実(チェ・スンシル)の娘のような、育ち方をするのだろうか?

そういう人だと、「論文の盗用はイケマセン」と言っても、盗用防止に有効な気がしない。

リビアのカダフィ大佐の次男のサイフ・アル=イスラーム・カッザーフィー(Saif al-Islam Gaddafi、1972年生まれ)の博士論文は、代筆でしかも盗博だった。こういう人にも、「盗用はイケマセン」と言っても、通用しないだろう。
→ 4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 研究倫理(研究ネカト)

《2》防ぐ方法

ヴェロニカ・サスの盗博を防ぐには、どうするとよかったのか?

博士論文指導教授による博士論文のチェックは必要だろうが、指導教授は通常、論文に示された研究成果の質と論文の構成や文章をチェックする。しかし、博士論文の内容や文章が盗用かどうかはチェックしない。盗用していないという前提で読む。指導教授が、院生の論文を自分で盗用検出ソフトにかけることはない(だろう)。

以上の前提であっても、指導教授、あるいは、大学院として、院生に盗用してはいけないことと、提出された論文の盗用をチェックすることを伝えておくと、いくらかの抑止力になるだろう。

なお、サス事件で、指導教授、あるいは、大学院がどのような盗用防止対策をしていたのか、白楽は把握していない。

ドイツ大学院連合会(あるかどうか知りません)などの半公的機関、あるいはドイツ連邦政府の連邦教育研究省(Bundesministerium für Bildung und Forschung; BMBF)(日本の文部科学省に相当)が、博士号の管理をし、その一環として盗博を強力に取り締るのはどうだろう。

次項に示すように、ドイツでは「学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある」。盗博したら、博士号はく奪だけでなく、学術称号の不正使用とみなし、「1年の懲役刑か厳しい罰金刑」を科す。そして、院生にそのように周知すれば、かなりの盗博は防げるだろう。

しかし、実際はそうなっていない。それで、盗博がはびこった。

憂えた多くの大学教授・研究者が集団となって、盗博を取り締る活動をはじめ、2011年、「ヴロニプラーク・ウィキ」の設立にたどり着いた。

結局、盗用検出ソフトを利用した学者集団のボランティア活動がステップ1「第一次追及者」になり、ステップ2「マスメディア」で盗博を大々的に報道した。このことで、ドイツの盗博は現在は減少していると思われる。
→ 1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 研究倫理(研究ネカト)

ただ、ステップ3「当局(オーソリティ)」のドイツ当局は「厳罰」を科していない。盗博が明白でも、博士号をはく奪しないケースがそこそこある。

また、ドイツの博士論文不正の指摘は、3年グレース、5年で時効というルールがあると聞いている(十分調べていない)。時効ルールに一理あると思うが、盗博の抑止力を弱めてしまう。

《3》ドイツの博士号

ヴェロニカ・サスの盗博は、ヴロニプラーク・ウィキが最初に指摘した盗博である。そして、ドイツでは、2016年12月25日現在、ヴロニプラーク・ウィキが178人指摘し、その他を含め全部で、既に180人以上の盗博が指摘されている。
→ ドイツの盗用博士論文の事件一覧(主にヴロニプラーク・ウィキ) | 研究倫理(研究ネカト)

上記の指摘は、主に、2000年以降の博士論文が分析対象になっているが、それ以前の19世紀・20世紀の論文を分析したら(方法は至難?)、もっと多くの盗博が見つかるだろう。つまり、ドイツの博士号や論文に対する文化風習に盗博をもたらす要因があるに違いない。

2016年11月18日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」記事によると、ドイツでの博士号への感覚が日本とは大きく異なる(博士尊ぶドイツ、「偽物」は許さない – グノシー)。

ドイツでは博士の称号が重視されている。アンゲラ・メルケル首相も博士号を取得しているし、国会議員の約5人に1人、それに企業幹部の半数近くが博士号を持っている。ドイツの大手食品会社は「ドクター・エトカー」の名前を冠している。フランクフルトには「ドクター・ミューラー」というポルノショップもある。

称号へのこだわりは奇妙な規則や慣習を生み出した。例えばドイツでは、学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある。さらには、学歴詐称や学術論文での剽窃行為など学問の世界の不届き者を探し回る匿名の自警団も誕生した。

・・・中略・・・

職場で博士号の称号をどう扱うかについては厳しい規則がある。ドイツの連邦労働裁判所は1984年、従業員の学術称号を間違えたり、正式な肩書を使用しなかった場合、従業員の人格権の侵害に当たるとの判断を下した。

「The Impostor」(詐欺師)の芸名で活動するフランクフルトのマジシャン、シュテファン・スプレンジャーさんは2012年、グルーポンで売られている肩書で「一番ばかばかしい」と思った「不死に関する名誉博士」という学位を購入した。「誰も本気にはしないだろう」と思ったそうだ。

しかし2人の警察官が捜索令状を持ってやってきた。捜査関係者は既に、スプレンジャーさんがマジシャンとしての自己紹介にこの肩書を掲載したソーシャルネットワークサイトを徹底的に調べていたという。

スプレンジャーさんは「名誉博士号」の証明書を引き渡し、結局、約1000ユーロを支払って和解した。検察官のユラ・ヒンスト氏によると、警察の捜査を受けた人のうち、スプレンジャーさんの他におよそ70人が和解金を支払って法的手続きを終わらせた。

ドイツでは、博士号という称号が大事にされ、違反者を厳格に取り締まっている。だから、逆に、ズルしてでも博士号を得ようとするのだろう。

ドイツではないが、「(Dr.は)英語圏において、博士号保持者および医師に対して用いられる敬称。名前の前に置かれる。博士号保持者に対してMr.やMs./Miss/Mrs.を用いるのは不適当とされる(ドクター – Wikipedia

一方、日本では、博士号保持者に対して、一般的には白楽博士などと呼ばない。呼ばれるのは、冗談・軽口の場合だけだ。

医者の意味のドクターだと思うが、日本の街では、博士号保持者でも医師でもないドクターを見ることがそこそこある。一例をあげると、「Dr.Drive(ドクタードライブ)」だ。言葉の乱用を取り締まってほしい。

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《1》盗用の基準

2014年6月5日版で書いたが、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」は盗用の基準をどう設定しているのだろう?

178人の内、盗用ページ率の最多は100%でVP74、VP92、VP113の3人がいる。最少はVP39の15.4%だ。

盗用ページ率15.4%、これを15%として、15%を盗用の判定基準にしてよいか? つまり、15%以上を盗用とし、以下を盗用ないでよいか? 答えは「ノ―」だろう。

盗用ページ率15.4%の博士論文でも、盗用部分のバーコードの「明るい赤:盗用が75%以上」を見ると、文章の流用は明白である。単純に全体に占める割合では判定できない。

ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が告発すると、多くの大学は博士号を取り消した。しかし、少数の大学は、盗用と認めなかった(博士論文の40~70%のページが他人の文章と酷似していても)。

ウルズラ・フォンデアライエンは、1990年にハノーバー医科大学から授与された研究博士号(PhD)が盗用ページ率43.5%の盗博だった。全62頁の博士論文の27頁(27頁目ではない)に盗用があった。

しかし、現職のドイツの国防大臣だったためと思われるが、2016年3月、なんと、ハノーバー医科大学は「過失があったが、意図的な不正ではない」として、博士号をはく奪しなかった。
→ 独国防相の博士号取り消さず 論文盗用疑惑で出身の医科大「意図的な不正ではない」 – 産経ニュース(保存済)

この場合、ハノーバー医科大学側のネカト専門家(または弁護士?)とヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)側(こちらも法的専門家がいるに違いない)の「盗用」の判断が異なる。

つまり、ドイツの盗用の公式基準が不明確だということだ。ドイツと書いたが、米国でも日本でも不明確だ。

米国マサチューセッツ州 ボストンの私立大学・サフォーク大学(Suffolk University)の学生は1単語で盗用とされ、さすがにこれは非難された(2016年11月1日の記事:Student accused of cheating for writing ‘hence’ | Fusion保存版))。

インドでは、10単語連続で同じ場合を盗用と定義しようという話がある。

もちろん、そういう基準を明確にしたくない勢力があるに違いない。盗用と判定するかどうか、裏側で、盗用判定をダシに、カネと権力と体面のぶつかり合いの陰謀策術・権謀策術のバトルがあるのに違いない。

《2》日米英の政治家の盗博

日本の政治家で博士号を持っている人はごくわずかなので、日本の政治家が盗博で告発されることはほとんどないだろう。今まで事例がない。

修士論文を調査・分析できれば、政府官僚も対象になるが、修士論文を入手するのは簡単ではない。また、修士論文を博士論文と同等に扱うかどうか、確立していない。ヴロニプラーク・ウィキでも盗用を問題視した修士論文は1件だけである。

日本での盗博の主な対象者は元・院生、大学教員・研究者である。

米国と英国の政治家は告発対象になりにくい。博士号を持っている人が少ないからである。

2011年の『エコノミスト』誌によると、メルケル首相を含めドイツ連邦下院議員の20%、114人が博士号を持っている。一方、米国議会は3%の18人しか、英国議会・庶民院は650議員の3.2%の21人しか博士号を持っていない。(2014年5月23日のBill Bowringの「openDemocracy」記事:「Putin’s dissertation and the revenge of RuNet 」、(保存版))

イヤ、人数が少ないので、全員を徹底的に調べてしまう? それがいいかも。

《3》日本は導入しないのか?

ドイツの盗博事態は深刻だが、日本は「対岸の火事」として良い状況ではない。日本はヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のような告発システムを持っていない。

盗用と限らず、ねつ造・改ざんを含めた研究ネカトを告発するシステム(ヴロニプラーク・ウィキのようなシステム)が日本に生まれると研究公正はよりよく保たれるだろう。しかし、日本にはない。

盗用を含め、研究ネカトの定義・判定基準について、日本国内ではあまり議論がない。ドイツより、もっと、悪い状況に置かれている気がする。

日本では、2013年4月1日以降、博士論文はウェブ上に公表することが義務化された。盗博のチェックは容易になった。

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《1》告発されてもクジケナイ

ポール・ターラー弁護士が言うように「研究ネカトの嫌疑がかけられたが、潔白が証明された研究者はたくさんいる」。

データは少し古いが、米国・研究公正局にネカトと通報された81%はガセネタ・誹謗中傷、他省扱い、または情報不足で、調査に入らなかった。通報数の19%しか調査に入らない。そして、調査の結果、19%の半分はシロで半分がクロだった。つまり、クロは通報数の約1割でしかなかった(出典:Lawrence J. Rhoades, 2004年:https://ori.hhs.gov/sites/default/files/Investigations1994-2003-2.pdf)。

つまり、大半の通報は調査されない通報である。そして。本調査しても半分はシロなのだ。

だから、研究ネカトと告発されてもクジケない。ただ、非常に消耗するだろうし、研究キャリアに大きなダメージになる。

どうすべきかというマニュアルが欲しい。科学技術振興機構(略称JST)が作るわけにもいかないだろうから、どこでしょうか・・・。

また、相談窓口も欲しい。無料法律相談や消費者相談と同じように、気軽に相談できる組織、サポートする組織が必要です。科学技術振興機構(略称JST)に相談できないだろうから、どこでしょうか・・・。

とにかく、1‐5‐9.研究ネカトで自殺者をだすな! | 研究倫理(研究ネカト)

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《1》10年間のネカト

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出典不明

「パブピア(PubPeer)」の指摘をみると、論文の画像ねつ造は明白だ。調査報告書が公表されていないので、見ていないが、実行者はロバート・ライアン(Robert Ryan)なのだろう。

「パブピア(PubPeer)」は「2006年のMolecular Microbiology」論文にデータねつ造疑惑を指摘している。2006年の論文がデータねつ造なら、ライアンは2005年に研究博士号(PhD)を取得しているので、博士論文もデータねつ造ではないだろうか?

2006年からネカトをしていたのに、10年後の2016年に発覚とは、発覚が遅すぎる。その間、研究費、賞、院生、同僚、学術出版など周辺に多大な損害が及んだ。もっと早く発見するシステムを作るべきだ。

《2》秘匿されすぎ

ネカト・ブロガーのレオニッド・シュナイダーが批判しているが、この事件は、情報が秘匿されすぎだ。情報公開と透明性は、調査の公正と事件の再発防止に必須である。ダンディー大学と英国政府は改善すべきだ。

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●【防ぐ方法】

経歴詐称を防ぐ方法は、基本を実行することだ。

医師として採用するなら、医師免許の確認と犯罪歴の確認(犯罪歴の確認は難しい?)、そして医師としての評判を聞く。

研究者として採用するなら、学歴・職歴の確認と犯罪歴の確認。研究論文リストの確認、獲得研究費の確認、セクハラの確認(匿名報道なので難しいが)、研究ネカトの有無の確認をする(日本なら、研究者の事件一覧(日本))。

事務員として採用するなら、学歴・職歴の確認と犯罪歴の確認、そして可能なら、事務員としての評判を聞く。

《1》学歴詐称と仕事の能力

blogspan仕事の能力は人並み以上に優れているのに、マリリー・ジョーンズは学歴を詐称していた。この場合、どうなんでしょう? 採用後10年経過したら時効にする、などの方策を導入した方が良いでしょうかね?

無免許で10年間も自動車を運転していた。一度も交通事故や交通違反をしていない。免許を与えたらどうだろう?

無資格で10年間も患者を治療していた。一度も治療をミスっていない。患者からはスバラシイ医師だと慕われている。免許を与えたらどうだろう?

「資格なし者を10年で有資格者にする」という方策。実利面では、一見、妥当な気もするが・・・。

「しません!」てか、やはり、妥当じゃないですね。10年経てばそれなりにうまくできても、それまでに危険がいっぱいだ。また、資格制度を根本から破壊してしまう。国民不安が増大する。

一方、自動車免許を持っているのに自動車事故を頻繁に起こす人がいる。医師免許を持っているのに何人も患者を死なす人がいる。

もちろん、トンデモないことをすれば医道審議会が医師免許を取り消す。なお、トンデモないことには研究ネカトは含まれない。しかし、

医道審議会は医師等に対するチェック機関として設置されているが、実際にはその役割をあまり果たしてはおらず、問題行為を繰り返す医師等に甘く、本来なら行うべき免許剥奪の措置を行うことが非常にまれであり、それによって医師等による悪徳行為を事実上助長し、結果として被害者を増やしている、と批判されることがある。(医道審議会 – Wikipedia

3年間で11件の医師免許取消の処分が下る」(医師免許取消処分の怖さ|医師紹介会社研究所保存版))は少なすぎないか?

一方、 「医道審議会・医師法違反を私たちが強力サポート」(医道審議会.com保存版))という弁護士たちもいる。もちろん、違反する人の味方となる弁護士も必要だし、ビジネスとして儲かるのだろうが、違反する人の味方が堂々としているのもなあ。

免許・資格と実力に関して、社会の仕組み、チェックの方法、取り消しの方法を再考した方がいい。

博士号は免許・資格ではなく称号だが、大学が授与するので、不祥事があると、その大学がはく奪する。つまり、各大学の専権事項だから、医道審議会のように全国統一した処分はない。

研究者としてドンデモない行為をした場合、つまり、重度の研究ネカト違反した場合、どの大学が授与しようが、その人の博士号をはく奪する仕組みがあってもいいと思う。

なお、博士号を取得していなくても大学教授になっている人もいる。これは、博士号は大学教授の資格ではないからOKだ。大学教授は実力で選任される(ハズだ)。

《2》経歴詐称のペナルティ

マリリー・ジョーンズは28年間も勤務し、学歴詐称がバレた時点で、入学事務部の事務長を辞職した。辞職は素早く潔いとほめる記事もあった。

しかし、学歴詐称しなければ、ジョーンズはマサチューセッツ工科大学に採用されなかったと思われる。この時点で、本来採用されるはずの人の職を奪っている。採用後にも別の学歴詐称を加え、行為は悪質だ。

「悪い奴ほど出世する」かどうか知らないが、事務長に昇進した。この昇進も本来昇進するはずの人の昇進を奪っている。だから、現職を単純に辞職するだけでは社会的に不公平である。

見つからなければ「経歴詐称はトク」であるが、単純に辞職では、見つかっても「経歴詐称はトク」だ。これでは「正直者がバカをみる」。

事件から8年後に振り返った2015年のインタビュー記事では、ジョーンズは秘密に耐えられないほどだったとある。「学歴詐称に向き合わねばならなかった。これを、何とか修復したい。奇跡を呼びたかった」などと述べているが、まったくいい気なもんだ。

2015年時点では、コンサルタント業をしていて、経歴詐称のペナルティが軽すぎる印象を持つ。

「1‐5‐4.研究ネカト飲酒運転説」で主張したように、ネカト抑止には「必厳罰」が必要だが、経歴詐称を抑止するにも、「必厳罰」が必要だ。見つかっても「経歴詐称はトク」では、まったくおかしい。「経歴詐称はソン」にしなければならない。

経歴詐称が発覚した時点で、現在の地位を辞職するだけでなく、28年間も「不当な厚遇」を受けていたのだから、28年間分の給料の3割返還などのペナルティを科すべきではないだろうか?

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《1》警察の捜査

一般的に、研究倫理学者や学術誌編集委員は、米国・研究公正局や大学・研究所の研究ネカトの調査に限界を感じている。

つまり、いくら活動しても研究ネカトは減少しない。
被害は数十億円の研究費の無駄、多数の死亡者に及ぶこともある。研究ネカトは詐欺犯罪や金融犯罪ともいえる。

その欠点を大きく改善するのは警察が捜査することだ。

2012年、フスコ事件は警察が捜査した。

そして、警察が捜査していることが伝わった2013年以降、研究ネカトに関心を持つ多くの学術誌編集者・識者は、「警察が研究ネカトの捜査をすればよい」と主張した。白楽は、それに賛同し、記事を書いた「1‐5‐5.研究ネカトは警察が捜査せよ!」。

警察が捜査し始めてから5年10か月が経過している。それなのに、アルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)は逮捕されず、大学を辞職せず、研究を続け、論文を発表している。

警察は捜査の結果を発表していない。大学も調査結果を発表しない。反応は唯一、イタリア研究審議会(Consiglio Nazionale delle Ricerche)がフスコへの公的研究助成金を打ち切ったことだ。

警察の捜査が問題なのか、イタリアという国の国民性なのか、大学も調査結果を発表しない。処分もしない。

一方、パブメドではアルフレド・フスコ(Alfredo Fusco)の65論文にコメントがついている。65論文のネカト調査に多大の時間はかかるだろうが、それにしても捜査・調査が異常に遅い。警察も大学も早く処理すべきでしょう。

フスコの年齢を考え(2016年12月現在で64歳)、当初から、実質上、見逃すつもりだったのだろうか?

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●【事件後の人生】

2015年秋、ヨーテボリ大学のスヴェン=オロフ・オロフセン教授の後始末のための残務処理グループは解散した。

2015年12月31日、ボーストラムはカロリンスカ医科大学(Karolinska Institute)を辞職した(解雇された?)。その後、海外の大学で研究しているとの情報があったので、所属先を探したが、2016年11月12日現在、所属不明である。学術界から放逐されたと思える。

pontusボーストラムはハーバード大学のブルース・シュピーゲルマン教授(Bruce Spiegelman)の過去の研究室員にリストされているが(写真出典)、2016年12月7日現在の研究室員にはリストされていない。

2015年12月31日、欧州研究会議(ERC)は、ボーストラムへのグラント(採択期間2013-01-01~2017-12-31)を停止した。採択総額1,999,433ユーロ(約2億4千万円)の内、666,858ユーロ(約8千万円)は使用されていた。

欧州研究会議(ERC)は、666,858ユーロ(約8千万円)の返還を要求しないのですかね?

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2016年12月7日現在、パブメド(PubMed)で、ポンタス・ボーストラム(Pontus Boström)の論文を「Pontus Boström [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2005~2016年の12年間の31論文がヒットした。

2016年12月7日現在、パブメドの論文リストでは撤回論文はない。

データ・ネカトが明白な例として示した「2010年のDiabetes」論文と「2007年のNat Cell Biol.」論文も撤回されていない。

「パブピア(PubPeer)」ではポンタス・ボーストラム(Pontus Boström)の5論文にコメントされている:PubPeer – Results for Pontus Boström

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正の指導の効果

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ポンタス・ボーストラム(Pontus Boström)。出典:http://www.ssmf.se/stipendiater-forskare/pontus-almer-bostrom

ボーストラムの博士論文の指導教授はスヴェン=オロフ・オロフセン教授である

同じようにオロフセン教授の指導を受け、現在は、サルグレンスカ・アカデミー教授になっているヨン・ボリアムは、オロフセン教授のことを次のように評している(本文の記載を再掲)。

このような問題は難しいけれども、透明性を保って状況を処理し、研究ネカトを隠そうとしないことがクリティカルだと思います。私達は誤りから学ばなければなりません。このことは、私の院生時代の師である故・スヴェン=オロフ・オロフセン教授から学びました。オロフセン教授は、常々、科学公正と正直さは研究遂行では重要だと述べていました。調査により、オロフセン教授の研究ネカト疑惑が完全に晴れたことをうれしく思います。

ヨン・ボリアム教授の言葉を信じれば、故・オロフセン教授は研究公正の指導も身をもって示していた。しかし、弟子のボーストラムはネカトをした。

研究室で院生に研究公正の指導をしてもネカトを防げない。このようなケースはどれだけあるのだろうか? もっと定量的に、研究室での指導効果はどれだけあるのだろう?

教員の研究公正指導は無力なのだろうか?

ボーストラムは、いつ、どこで、研究ネカトする価値観を身につけたのか? どこを修正すれば、身につけた研究ネカトする価値観を変えられるのだろうか?

《2》早期発見

「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。

ボーストラムの場合、たまたま博士論文の指導教授(スヴェン=オロフ・オロフセン教授)が死亡したのが発端だ。残務処理グループが、不採択だった論文原稿を完成させようと、実験し直し、データを精査したから、当時院生だったボーストラムのネカトにたどり着いた。

当時、ボーストラムはNatureやCellに論文を出版し、この分野の権威であるハーバード大学のブルース・シュピーゲルマン教授のポスドクから戻ってきたばかりである。

ところが、2016年12月7日現在、そのNatureやCellの論文にもネカトが見つかっている。

もし、不採択だった論文原稿を2012年に精査しなければ、ボーストラムはスウェーデンの超優秀な若き研究者として、取り返しのつかないほど大きなネカトを積み重ねたに違いない。

ネカト・ブロガーのシュナイダーが指摘しているが、スウェーデンは研究ネカトにひどく甘い。対応が愚鈍である。ノーベル賞委員会を抱える国でもあることだし、研究ネカトにもっと敏感で厳格であってほしい。

と、批判したが、白楽の住む日本は、スウェーデンよりも研究ネカトに甘い。ネカト者が学術界から排除されない。

《3》レオニッド・シュナイダーはスバラシイ!

qys45zzaレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider、マンガ出典)はドイツの研究ネカト・ブロガーだが、彼の記載はわかりやすい。事件の全貌をつかみやすい。また、自力でも関係者に問い合わせ、関係者の証言も書き、調査報告書など客観的な資料を収集・公開している。

シュナイダーを非難する人もいるが、ネカト・ブロガーは、事実を冷静に書いたとしても、基本的に非難・攻撃される。

研究ネカト者から、その知人・友人から、ネカト処理の間違いを指摘された大学・機関・調査委員、助成機関から、嫌われ、非難・攻撃される。

御用学者にならないで政策・施策をお粗末と指摘するから、官僚や行政官からも、嫌われ、無視され、非難・攻撃される。

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★学術界は聖域ではない

一般社会は、科学研究者や大学教授は人格的に高潔で、不正とは無縁な人たちと思うかもしれないが、白楽は、一般社会がどうしてそう思うのか常々不思議に思っている。科学研究者や大学教授の人格は普通の人とおなじである。

というのは、科学研究者や大学教授は専門分野の研究業績で選任され、昇格するが、「人格」では選任・昇格されない。「人格」形成に関する教育や修養も受けていない。専門分野の研究業績と「人格」は無関係である。

専門性のある職種は、科学研究者や大学教授だけではない。ほぼすべての職種に専門がある。八百屋は野菜の専門家だし、運転手は運転の専門家だ。だから、専門性のある職種に就いていることと「人格」は別である。

科学研究者や大学教授は、一般人と同じように、人生に悩み、健康を懸念し、金銭名誉欲や性的欲望を抱える悩み多き人間である。白楽は、一般社会がどうして「人格的に高潔」と思うのか不思議に思っている。

★研究者は論文を疑って読む

さらに不思議に思うのは、一般社会は、論文は正しく、正確で、間違いはなく、重要な発見・発明が記載されていると思っている点である。そういう論文は、もちろんあるが、現実には少数である。ロクデモナイ論文、クズ論文はゴマンとある。統計的には出版された論文の半分がロクデモナイ論文、クズ論文だ(データを確認していない)。

白楽は、大学院生の頃から、論文を吟味しながら読む習慣がある。というか、研究者として育成される過程で、そのような精読法を叩き込まれた。まともな研究者は全部そうだろう。論文をハナから信じることはない。むしろ、間違っている点はどこか、不備な点・足りない点はどこかと疑って読む。そうでなければ、その論文を越える研究はできない。

他の研究者の研究成果は、まず、吟味する。しつこく、徹底的に吟味する。イヤラシイほど吟味する。そして、ほとんどの場合、間違っている点・不備な点・足りない点を見つけてしまう。

だから、基本姿勢として、「論文は正しく、正確で、間違いない」とは思はない。まったくその逆で、「論文には不備な点・足りない点があり、間違いがある」と読む前から思う。そもそも、完全な研究はないし、これで終わりという研究もない。

★不正は必要悪?

「ビジネス界の倫理・規範が徹底すると、ビジネス界は衰退する」、という都市伝説がある。

「研究倫理・規範が徹底すると、学術界(研究活動)は衰退する」、だろうか?

世間には「清濁併せ飲む」とか「悪いヤツほど出世する」という価値観や、「水清ければ魚棲まず 」という故事成句がある。

権力の座にいるのは、巧みに嘘(うそ)をつく、ナルシストで利己的なリーダーばかり。(悪いヤツほど出世する [著]ジェフリー・フェファー [訳]村井章子 – 梶山寿子(ジャーナリスト) – ビジネス | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト)

【書評】『悪いヤツほど出世する 』 ~その共通点と成功者の性格と特長が書かれた真実の書~ – かえるくん総合研究所(保存版)

研究ネカトを厳罰化すると、研究者は委縮するだろうか? 研究活動は衰退するだろうか?

と、時々、自問する。

答えは、イエスの面とノーの面の両方がある。

イヤ、それよりも、不正が減り、適正な人が研究者に採用され昇格し、研究費が有効に使われ、研究活動は今より活発になると期待している。

だから、もっともっと、研究ネカトを減らすべきだと思っている。というわけで、警察が研究ネカトを捜査し、クロに刑事罰を与えよう。

11keizi
https://www.npa.go.jp/saiyou/npa_html/keisatukan/voice/naibu.html

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《1》根っからのネカト者

cet-side1撤回された最古の論文は2000年(31歳?)に出版した論文である。所属・身分は米国・ジョージア医科大学(Medical College of Georgia)・ポスドクである。

エル=レメスィーは、その前年の1999年(30歳?)に、エジプトのマンスーラ大学(Mansoura University)・薬学部で研究博士号(PhD)を取得した。

推定になるが、エル=レメスィーは、エジプトの院生時代から、データねつ造・改ざんをしていたに違いない。

エジプトの大学院が、研究規範についてどのような教育をしているのか白楽は把握していないが、教育が不十分な可能性がある。

さらにもう一点は、米国で最初に論文を発表する時、米国でのボスが、エル=レメスィーの研究成果だけでなく研究規範についてもチェックし、指導すべきだったと思う。

撤回された最古の論文は2000年(31歳?)だから、エル=レメスィーは、2014年(45歳?)に発覚するまでの15年間、研究ネカトしていたと思える。

2016年12月1日現在、4論文が撤回されているが、パブピアではそれらの論文以外に、「2010年のAm. J. Pathol.」論文と「2013年のPlos One」論文(5章で取り上げた)にもコメントがついている。

精査すれば、出版した74論文の内、相当数にネカトが見つかるに違いない。

それにしても、15年間も、研究ネカトが発覚しなかったとは、どういうことだ?

米国・NIHから複数回、計約3億円以上のグラントを受給しているので、研究公正局が現在・調査中だと思われる。NIH以外からの研究費、大学の経費、エジプトの教育費なども合わせると十数億円分がゴミとなったと思われる。米国の損失、人類の損失である。

《2》長期ネカト者を許容

15年間、研究ネカトが発覚しなかった理由を考えた。

1つ目は、エル=レメスィーは、研究ネカトする知識・スキル・経験を積んだのだろう。 → 特殊ではない。

2つ目は、エル=レメスィーに、人望があるのだろう。→ 特殊ではない。

3つ目は、人種差別と女性差別もあるだろう。エル=レメスィーの写真のヒジャブから推察して、エル=レメスィーはイスラムである。そして、女性である。米国のジョージア州はディープサウスで、人種差別がきつい州だ。ということで、逆に、下手にエル=レメスィーを告発すると、人種差別と女性差別の両方の叱責を受けかねない。学内から、研究ネカトで告発しても、「誠実な間違い」と処理され、告発者がみじめになる公算が高い。

しかし、論文だけ見れば、イスラムも男女も関知しない。パブピアは論文だけを見て、その図表の異常を指摘したのだろう。

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《1》対策がズレてる

日本では研究ネカト対策で一番多くされていることが「研修」である。「こういうことをしてはいけません」という注意である。自動車免許の更新での講習と同じである。

「教育」は高校生・大学生・大学院生には研究規範を習得させる意味で必修科目にすべきだと思われる。これは重要である。

ところが、自前の常勤教員で、高校生・大学生・大学院生に研究倫理を必修科目(授業・講義)にしている高校・大学はほとんどないと思われるし、大学院もほんの少ししかないと思われる。研究倫理の専門家は日本全体で数人なので、ナマで教育することはほぼ不可能である(飛躍的に増加させるべし)。大学院生へのインターネット教育で必修にしている。

2012年から2017年までの5年間、文部科学省は研究倫理のインターネット教育のために、「研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開(CITI Japan プロジェクト)」を助成した。目的は、大学院生の研究倫理教育をシステムとして確立するためである。経費は数億円かかった(推定)。

しかし、日本の研究ネカト専門家を大幅に育成する動きはない。

一方、出来上がった研究者にする「研修」もされている。「研修」は、「関心」を維持する効果はあるが、研究ネカト防止効果は小さいと思う。

国は、「教育」や「研修」が好きである。

しかし、白楽は、もっと重要な施策は、「必見」「必厳罰」だと思う。

欧米で「必見」に大きく貢献しているのは、ネカト・ハンターや第一次追及者である。日本では、公益通報者が保護されずに報復される。メディアは独自に取材し追及することをほとんどしない。日本版の「パブピア」も「撤回監視(Retraction Watch)」もない。このあたりを改善すべきでしょう。

そして、ネカト者への処分の甘さが、ネカト行為を許容(助長?)している。大学・研究機関に調査・処分を任せないで、第三者機関を設け、「必厳罰」しなければ、研究ネカトは減らないでしょう。

大学・研究機関に調査・処分を任せるから、学長や有力教授の研究ネカトでは、「シロ」的な結論と甘い処分になる。

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《1》汚れた過去

パーヴォ・バリシックは何回か事件を起こしている。事件になるほどの不正をしないと、教授や大臣になれないのだろうか?pavo-barisic6

また、どうして過去が汚れた人を、国会議員、国の委員、重要な役職に選任するのだろう。

白楽は、この手の事件が起こるたびに思うのだが、候補者を選ぶ過程で(公表する前に)、どうして与党側は、自分たちで候補者を十分に調査をしなかったのだろう?
→ 教育学:「著者在順」:ミョンス・キム、金明洙、김명수(Myung Soo Kim)(韓国) | 研究倫理(研究ネカト)

また、問題が発覚し、職務に必要なリーダーシップが発揮できないのは明白なのに、役職を辞任しない・させないのは、どうしてなのだろう?

《2》訂正すれば盗用は無罪?

パーヴォ・バリシックの「2008年のSynthesis philosophica」論文は初版・2版・3版と3回出版していて、初版には盗用があったが、2版・3版は訂正したとバリシックが述べている。だから、盗用ではないと主張した。

この場合、盗用はあったとするのか、ないとするのか?

pavo-barisic1あったとすべきでしょう。

物を盗んでおいて、盗みを指摘されたら返した。だから、盗みはない、という理屈は、かなりヘンだ。

日本の政治家も同じで、不正なお金を貰っても、返せばいいという振舞だ。返しても済まないでしょう。それを済ませてしまう日本社会も腐っている。

クロアチアの国家機関らしい高等教育倫理委員会(higher education ethics committee)、裁判所、3つの大学の倫理委員会は「盗用ナシ」と結論した。かなりヘンだ。

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《1》全体

  • いろいろなことが、日本とよく似ている。①処分が甘い。②匿名報道する。
  • 新聞記事は日本より格段と優れている。米国の新聞と似ていて、記者は取材し、事件を詳しく記述する。
  • 研究倫理の意識・価値観から抜本的に改革しないと、欧米先進国から研究結果や論文が信用されなくなる。また、欧米に留学した院生が相変わらず盗用事件を起こし、欧米で研究する韓国人ポスドク・研究者が、欧米でネカト事件を起こすでしょう。

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《1》嫉妬

looking-back-chaudhry事件の詳細は不明だが、新聞記事は「停職中の教授は学術的嫉妬でスケープゴート」という文字を掲載している。

チョウダリ準教授は、同僚の学術的嫉妬でスケープゴートにされた、と世論(新聞記者)は受け止めている。

今回の事件は「エイズ研究での学術不正(academic misconduct in the HIV research)」で、研究ネカトではないが、研究ネカトの場合も、事件の裏側では、研究者の嫉妬が渦巻くことがあるだろう。

一般的に、研究者の事件は、学外の研究者仲間、および、同じ大学の教員からの学術的嫉妬でスケープゴートにされた例がたくさんあるように思える。出る杭をたたく。自分より優秀な研究者を引きずりおろせば、研究費も地位も自分に回ってくるからだ。

ただ、その実態を、具体例で示すことや数値で示すことは難しい。公的な調査記録や新聞記事では、そういうドロドロした面(事件の裏事情)を記録・記事にしない・できないからだ。

しかし、それらの記録・記事がなければ、外部の人間はそのような内部事情を知るすべがない。

《2》集団心理・集団無思考

imagesxhecnyrn今回の事件は、エイズ研究での安全性の問題を、デマや流言、極度の風評被害を真に受けて、集団心理・集団無思考に陥り、チョウダリ準教授をスケープゴートにしたと思われる。

チョウダリ準教授がパキスタン出身の男性で、フェイ・ハンセン(Fay Hansen)は白人女性である。記事にはないが、人種差別の臭いもする。エイズ研究していたチョウダリ準教授の多額の獲得研究費に嫉妬したのかもしれない(推定)。

「オークランドポスト(Oakland Post)」紙が20年ぶりにチョウダリ事件を記事に取り上げた機会に、フェイ・ハンセン(Fay Hansen)は、チョウダリ教授に謝罪すべきだったと思う。

自分の信念として正しいと思って行動したことでも、結果として、そうではなかったことは、長い人生では誰にもあることだ。

フェイ・ハンセンとその賛同者は、当時、エイズに関するデマや流言、極度の風評被害に踊らされていた烏合の衆だったのは明らかだ。それで、チョウダリ教授の人生は大きく損傷したのである。

写真でみるとフェイ・ハンセンは高齢である。人間としてなかなかできないことだろうが、この機会を逃しては、オークランド大学に教授で在籍中に、もう謝罪する機会はないだろう。

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《1》著者在順

院生の修士論文を、キム教授が学術誌に出版した時、キム教授が第一著者になり、院生を共著者にした。教育学分野の「常識」に精通していないが、生命科学分野では、これは「盗用」ではない。著者在順違反である。

《2》 盗用の定義

野党の主張に、「盗用の定義は、他人の学術論文中の6連続単語を引用なしに複製使用することであると定義されている」とある(下線は白楽)。

この定義は、きわめてわかりやすい。しかし、今まで、欧米や日本の盗用の定義で、この基準を見たことがない。

この定義は韓国での定義なのか、世界的な定義だと韓国の野党議員が勘違いしたのか、不明である。

《3》 韓国メディアは常軌を逸しがち

韓国メディアは、感情的すぎる気がする。本文中の引用文を再掲する。

ある教育関連団体関係者は「以前の慣行の類型があるが、引用文の出処を明らかにしなかったり、弟子の論文に自分の名前を第2著者として入れる程度だ。 弟子に書けと言って自分の名前で発表したり、弟子の論文を書き写して自身を主著者にするパターンは最も悪質な事例」と指摘した。

上記の指摘は的を得ているが、以下はどうだろう。

教え子がいくら了解したといっても教え子の論文に自身の名前を載せるだけでは足らず研究実績を自分のものとして持っていくのは非倫理的だ。

共著の場合、各人の研究論文への貢献度はあいまいである。教え子の論文は修士論文である。修士論文は単名で提出しなければならない。修士論文は学内書類としての役割が大きく、通常は、いわゆる学術論文として、学外では扱われない。誤解を恐れずハッキリ言えば、まったく新発見がなくても、修士論文として合格する。

しかし、それを、論文として通用する学外の学術誌に投稿する時は、いわゆる論文としての内容とスタイルのすべてが要求される。この時、正当な著者在順も必要だ。指導教授が、より多く貢献していれば、キム教授が第一著者になるのは正当だ。

実際はどうだったか知る由もないが、修士論文の内容を学外の学術誌に論文として投稿する時、指導教授が第一著者になってもおかしくない。

このことは、教え子も了解していると新聞記事に記載されている。この「了解」が仕方なしの了解なのか、実態を理解した上での「了解」なのかわからないが、メディアはキム教授を何とか悪者にしようと、バイアスをかけすぎている印象を受けた。

それに、共著者が2人の論文で、第一著者になったからといって、記事で「研究実績を自分のものとして持っていく」と記述するのは、間違った理解を読者に与えていると思う。

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《1》ネカト・ブロガーを脅す場合はクロ

profil10_jpg_1320826ティナ・ウェンツ(Tina Wenz)は、ケルン大学が調査に入った初期に、法律事務所の弁護士を雇ったようだ。研究ネカト・ブロガーのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の動きに、法律事務所が警告している。警告を受けたシュナイダーは脅迫と感じた。

そのためか、シュナイダーはブログのタイトルを「弁護士は研究ネカトの調査に影響があるのか? ティナ・ウェンツ事件(Can lawyers influence a misconduct investigation? Case of Tina Wenz)」とした。

タイトルを疑問形にしたが、シュナイダーはイエス・ノーを明白に記述していない。しかし、事件全体を眺めてみると、白楽は、答えは「イエス」で「影響はあったと」思う。

研究者はこのような事件の法的対応に無知であるばかりか、事態を甘く見がち、あるいは逆に深刻にとらえがちである。事件の嫌疑を受けたらなるべく早く弁護士に相談することを勧める。
→ 研究ネカト被告発者が後悔する8つの無知:カラン・シュタイン(Callan Stein)、2015年8月13日 | 研究倫理(研究ネカト)

ただし、現実の研究ネカト事件で弁護士が登場した場合、本人がクロになったケースばかりだ。本人に不正をした自覚があるから弁護士を雇うのだろう。ネカト・ブロガーである白楽は、弁護士が登場すると、「クロ」と判断してしまう。

2016年8月17日の時事ドットコムの記事によれば、日本の信州大学・池田修一副学長は、ねつ造と指摘されたのに反発し、名誉棄損と東京地裁に訴えた。クロなんでしょうか?
→ 信州大副学長、月刊誌を提訴=子宮頸がんワクチン研究めぐり-東京地裁:時事ドットコム

2016年11月3日、信州大学は調査結果をシロとした。副学長だった人に日和見的な判断を下したのでしょう。

しかし、よく、裁判所に訴えましたね。裁判所は副学長だからと言って好意的になる度合いは低いでしょう。裁判は藪蛇な気がしますが・・。

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《1》「間違い」じゃなく、「間違い」なく盗用でしょう

christopher-s-collins11回目の論文は、「間違えて引用せずに使用(was mistakenly used in the Introduction without proper reference to the original source)」とある。

白楽から見れば、というか、一般的に、この行為は、明白な盗用に思える。しかし、本人はもちろん、学術誌もコリンズが所属するアズサ・パシフィック大学も「間違い」で押し通した。

しかし、2回目、3回目となると、どう見てもコリンズは連続盗用者としか思えない。

本記事では示していないが、酷似部分の文章を併記すれば、誰の目から見ても盗用が明白になると思える。

アズサ・パシフィック大学はどう決断するのでしょう?

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《1》中国に戻った?

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出典不明

事件の詳細は不明である。モフィットがんセンター研究所が調査しているのか? 研究公正局は調査しているのか? 不明である。

当局(オーソリティ)である学術誌「J. Biol. Chem.」が論文撤回したことで、「撤回監視(Retraction Watch)」が事態をキャッチし、記事にした。

事件発覚後、ジン・チェンはモフィットがんセンター研究所を退職した。不正画像を見ると、明らかにクロである。どのみち解雇になると踏んで、辞職し、中国に戻ったのだろうか? まだ56歳(?)とリタイアするには若い。

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《1》急転直下の理由

profile_400x400ブレイロックは院生として、2011年に2報、2012年に3報、と2年間に計5報も論文を出版している。内、2報は第一著者である。研究公正局はそれら5報の論文のネカトを指摘していない。従って、5報の論文にネカトはなかったのだろう。2016年11月1日現在、パブピアにもコメントはない

5報も論文を出版し、そこに研究ネカトがないなら、研究のあり方・研究規範を習得していたと思われる。

論文出版数から判断すると、院生としては、超優秀である。

それが、2013年にネカトをした。華やかな表舞台から、ジェットコースターで急降下である。ブレイロックの人生に、何があったのだろう。5報の論文にネカトがないなら、そのまま、研究を続けていけば、研究者として将来有望である。院生として、陽の当たる道を歩いてきたように思える。

研究公正局の報告書には、もちろん、人生上の激変の記載はない。しかし、出版論文での不正ではなく、ポスター発表や研究室ミーティングの発表での研究ネカトである。

指導教授のネイダーが公益通報したに違いないが、若い美人女性が急変した裏に何があったんだろう? 2年間で5報も論文を出版していたので、研究環境は申し分なかったはずだ。となると、個人的事情が事件の背景にあるのだろう。

例えば、ネイダー教授との不倫が発覚した? イエイエ、ないも記載はありません。

実験で麻薬を使用しているが、実験用麻薬を自分に使用して麻薬中毒になった? イエイエ、ないも証拠はありません。

米国の大学でありがちなレイプ事件の被害者となり、学術界に嫌気がさした? イエイエ、ないも記載はありません。

両親の経済的破綻?(これは、米国の院生はほぼ経済的に独立しているので影響しないだろう)。

研究ネカト事件発生の本当の理由は、実は研究そのものとは別のところにある、ということが数割程度はあるだろうと、白楽は想定している。

《2》不正の初期

「研究上の不正行為」は、初めて不審に思った時、徹底的に調査することだ。

「研究上の不正行為」は、知識・スキル・経験が積まれると、なかなか発覚しにくくなるし、不正行為の影響も大きくなる。

ブレイロックの場合、院生の時、すでに5報の出版論文があったが、ポスター発表で2回、研究室ミーティングで複数回、研究グラントの進捗報告書での不正を見つけられて処分された。出版論文でのネカトがなくて、学術界の被害は少ない。

ごく初期に問題視したネイダー教授はエライ。

というべき面もあるが、自分の指導下の院生なら、表沙汰にする前に、チャンと指導すべきだという見方もある。

ブレイロックのように超優秀なら、特にそうだ。とはいえ、どこまで指導するか、どこから表沙汰にするか、線引きは難しい。

白楽は、一般的には、院生のネカトは指導教授に大きな責任があると考える。院生は未熟だから教育を受けている。その未熟さをつついて表沙汰にすれば、院生は育たない。

もちろん、ケース・バイ・ケースで、指導教授の指導に従わない院生の多いこと多いこと。強く指示すればアカハラと訴え、弱く指示すれば教育してないと訴える。

ブレイロックは、すでに5報の出版論文がある。研究規範を知っている(と思える)。知っていてズルした(のだろう)。この場合、早く表沙汰にするのは正解だ。

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《1》非ネカト事件の分析

このブログでは、研究ネカトの防止や対策の研究のために研究ネカト事件を詳細に分析しているが、この手法には大きな欠点がある。それは、ネカトのケースしか調べられず、非ネカト(研究ネカトにあらず。シロ)のケースが分析できないことだ。米国の研究公正局はクロしか報告しないし、新聞・雑誌などのマスメディアもクロしか記事にしない。

しかし、実際は、疑念がもたれたが調査に入らなかった(非)ネカト事件、あるいは、調査した結果、シロだった事件、などがクロのケースの10倍ほどあるだろう(推定)。

シロを詳細に分析し、クロと比較しないと、シロとクロの境界がわからないし、クロの発生要因もわからない。

しかし、シロを詳細に分析、意味あるデータとして比較できるのは、研究ネカト事件を多量に調査する組織でかできない。つまり、学術誌出版局または研究公正局である。

今回のオレシ事件は、比較的多くの情報が得られる「シロ」のケースと期待して分析を始めた。しかし、どこでシロクロを線引きするかという視点の判定内容が示されているわけではなかった。白楽の期待が過剰だった。

ここで、シロ・クロとわかりやすく書いたが、実際の事件のほとんどは、シロ・クロがハッキリしない。というか、研究ネカト事件は、ほぼすべてシロとクロの中間であって、真っシロも真っクロもないだろう。「薄いグレイ~濃いグレイ」のグレイ度を判定し、結果としてシロまたはクロと判定しているわけだ。それに、調査する前は、「薄いグレイ~濃いグレイ」のグレイ度は、見えない。

調査のどの時点で決断を下すのかという決断時期の研究では、一般的に人間は、分析してから判断するのではなく、調査の開始時点(あるいは開始前)に、シロ・クロの判定をしてしまう。調査はこの開始時点(あるいは開始前)の決断に合うもっともらしい証拠・事実を集め、論理的に整理する作業でしかない。つまり、一般的に人間は、「結論ありき」の調査をする。

オレシ事件は本当は「濃いグレイ」なのに調査委員会がシロと無理やり結論づけた印象を、白楽は分析途中から感じ始めた。

例えば、オレシは170報も論文を発表しているのに、なぜ、1つの論文しか調査しないのか?

なぜ、カイ・シモンズ名誉所長やカリ・ライヴィオ名誉学長の意見に強く否定的なのか?

研究体制の再編というフィンランドの国策・政治的動きの中で、クサイもの(研究ネカト)に蓋をしたかったのではないか。

《2》身内に甘い

米国・研究公正局のような大学外の調査機関がない日本では、一般的に、日本の大学の調査委員会が最終判定組織になっている。しかし、その委員会が公正に調査する保証は全くない。

米国では大学がいい加減な調査をすれば、統括する研究公正局は当該大学を処分する(法的処分が可能なシステムになっている、と聞いている)。

しかし、日本では、研究公正局がないので、大学の調査委員会が最終判定組織になっていて、そこでいい加減な調査をしても、糾弾し処分できる上位組織はない。文部科学省は上位組織だが、文部科学省に調査機能はない。

大学の調査を、メディア(新聞、テレビ、ウェブなど)が批判する場合もあるが、日本のメディアは自力取材がおざなりで、追及する力は弱い。

そして、当然ながら、当該大学が設置した調査委員会は大学の不利になるような結論を出さない。

委員会と委員の本質は、政治的な利害集団である。各委員は、公正という仮面が剝がされない範囲で、自分の利益を高めようと考えながら判断する。

委員は自大学を不祥事に巻き込みたくない。協議・談合し、みんなで渡れば怖くない方式で、基本的には、シロと判定したい。シロとするには無理があるときだけ仕方なくクロとする。これは、仕組みとしてそうなっている。

もちろん、調査委員会の委員は真面目に判断している(と思う)。しかし、その委員を選ぶ人は大学上層部である。委員の日頃の言動から判断して、委員を選定するが、選定時点で、結論は、ほぼ見えている。基本的には御用委員会である。白楽のような、何を言うかわからない人(へそ曲がりで、権力やカネにすり寄れない)は委員に選ばれない。

つまり、調査の公正を担保する仕組みができていない。むしろ、調査を偏向する仕組みができている。それなのに、日本では、社会・マスコミだけでなく研究者までも、調査委員会の結論を公正であるかのように受け入れる。白楽は、違和感を感じる。

もちろん、自己保身・体制ベッタリ志向・みんなで渡れば怖くない体質は、研究者の世界に限ったことではない。人間社会に共通の特徴である。例えば、法的公正の番人である警察官でも身内に甘い処分をしている。
→ 2016年4月1日の袴田貴行、安達恒太郎の毎日新聞記事:北海道警:身内に甘い処分…ひき逃げや横領、懲戒せず – 毎日新聞

人間というものは、自己保身・体制ベッタリ志向・みんなで渡れば怖くない体質なのだと承知の上で、では、どんなシステムが有効なのだろうか?

当該大学が設置する調査委員会は、仕組み上、信頼性に問題がある。

少なくとも利害関係のない外部組織が調査すべきだろう。踏み込んで言えば、警察などのように悪いことをしているという前提で捜査する専門組織が適格と思える。

《3》透明性

オレシ事件では、調査結果やオレシの記述がウェブ上で6編も閲覧できる。本ブログでは1編しかアップしていないが、オレシ事件は、非ネカト事件としては、情報が多く、比較的、透明性が高い。珍しい。

新聞記事だと、記者の質問に熟慮する余裕なくコメントする場合も多く、記者の思い込みや印象で記事が曲がることがある。

その点、オレシ事件でオレシ本人が答えた文章もウェブ上で閲覧できる。結論がシロであれクロであれ、透明性が高いことはとても良い。

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《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

ローズィー・シンは、どうしてデータねつ造・改ざんをしたのか? 証拠が明白なのに不正を認めないのはなぜか?(損なのか?) ローズィー・シンの個人生活は? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

《2》全キャリアでの調査が必要

シカゴ大学・助教授の時のネカトだから、シカゴ大学が調査した。それはよい。

しかし、それ以前に所属したスローン・ケタリング記念癌研究所で、2000-2005年の6年間にリチャード・コレスニック(Richard N. Kolesnick)の指導下で6論文を出版している。そのうちの2004年に出版した論文が2013年に撤回されている。

スローン・ケタリング記念癌研究所の論文にもネカトがたくさんあるのではないだろうか? 博士論文もネカトだろう。

ところが、スローン・ケタリング記念癌研究所は調査していない。スローン・ケタリング記念癌研究所が調査しないから、研究公正局も調査しない。なんかヘン。

研究ネカトでクロの場合、研究者の全キャリアでの調査が必要である。

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《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

パーヴェスは、どうしてデータねつ造をしたのか? パーヴェスの姿かたちは? 個人生活は? 教授との関係はどうだったのか? 同僚はどんな内容の公益通報をしたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

なお、事件の詳細がわかったとしても、35年前の事件から現代でも学べる点がどの程度あるのか、これまた、わかりません。

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《1》ボスも同罪

撤回監視サイトでは、ボスのスティーヴィン・グラント教授を同罪にすべきという意見が多い。その理由の1つは、ダスマハパトラが共著になっていない論文にも疑念がもたれていることもある。

白楽も、同意する。ただし、自分で実証作業をしていないので、表層的な意見である。

《2》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

ダスマハパトラは、どうしてねつ造・改ざんをしたのか? ダスマハパトラの姿かたちは? 個人生活は? グラント教授との関係はどうだったのか? 匿名者はどんな内容の公益通報をしたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

この事件は地方紙「Daily Progress」が新聞記事として掲載している。しかし、事件を何も掘り下げていない。研究公正局の発表を繰り返しているだけである。それで、研究ネカト問題の改善に役立つ知見はほとんど得られない。

また、ダスマハパトラ自身が、ウェブ上の自分の痕跡を積極的に削除した(ように思える)。それで、ますます、情報が得にくい。

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《1》全キャリアでの調査が必要

ゲラエツは、オランダのマーストリヒト大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国・メリーランド大学医科大学院(University of Maryland School of Medicine)・ポスドクになった。

オランダで研究博士号(PhD)を取得するまで8報の論文を発表している。内、6報は第一著者である。かなり優秀だったと思われる。

ところが、米国・メリーランド大学医科大学院・ポスドクの最初の論文(第一著者)でデータ改ざんをした。2つ目の第一著者論文でもデータ改ざんをした。この2つの論文は撤回されたが、マーストリヒト大学に在籍していたときの論文もデータ改ざんしていたに違いない。博士論文もネカトだろう。

しかし、マーストリヒト大学は調査する様子がない。マーストリヒト大学に調査を強要するシステムもない。

研究ネカトでクロの場合、研究者の全キャリアでの調査が必要である。

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《1》釈然としない

2006年にデータ盗用を本人も認めている。しかし、大学を移籍できた。つまり、研究ネカトを承知で教授に迎える大学が韓国にはあった。そして、3年後、再び、論文盗用が発覚する。韓国研究財団は学術界から排除すると宣告した。しかし、この大学はキム教授を解雇しなかった。

そして、2016年10月14日現在(54歳)、キム教授は、いくつもの学術誌編集委員長を務め、韓国の糖質生物学の大教授になっている。

148_10960_1412762044ネカトのし得で、出世した。釈然としません。米国では研究ネカト者は学術界から排除される。

米国基準からすれば、韓国のシステムは批判の対象になる。が、同じことが日本でもごく普通に起こっている。日本の大甘な処分も、米国基準とは大きく異なり、もちろん、白楽は、釈然としていません。

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《1》データの一部

臨床試験のデータをねつ造・改ざんしてでも、開発している医薬品に大きな治療効果があるとしたいのはヤマヤマだろう。

しかし、その結果、使用した人々に健康被害が出る。あるいは、効果のない医薬品を購入した経済的被害が出る。

製薬会社としては、禁じ手だ。

2002年、英国のグラクソ・スミスクライン社(GlaxoSmithKline)のパクシル事件が有名である。うつ病の治療薬「パクシル」の臨床試験データのねつ造・改ざんで、少なくとも450人が自殺し、600件の出産障害が報告された。

2011年、日本で高血圧の治療薬であるディオバンも大事件になった。

ところが、ハーコネン事件では、臨床試験のデータにねつ造・改ざんはない。臨床試験のデータは正しい。その正しいデータの一部を取り出して医薬品の効能の判断をした。つまりデータの解釈が問題視され、刑事事件となり、刑務所刑になるところだった。

では、一般的に、データの一部を取り出して、肯定できることを肯定するのは、研究公正に欠けるだろうか?

白楽は、欠けないと思う。スタンフォード大学の小児科医で生物統計学者のスティーブン・グッドマン教授と同意見である。

でもどうして、FBIや司法省がハーコネンの行為を犯罪と見なし、乗り出してきたのか、状況がわからない。ただ、FBIや司法省を相手に戦うのは・・・、ウーンである。FBIや司法省といっても、相手は人間なのだが・・・、腰を据えて徹底的に戦うことになるだろう。

ハーコネン事件でのFBIや司法省の判断に対して、学術界で大きな議論をしないのが、なんかヘンである。

《2》通信詐欺(Wire Fraud)

本文に書いた文章を再掲する。

通信詐欺(Wire Fraud)は日本にはない犯罪類型だが、「他人から金銭や財産を奪う目的で、詐欺のスキームや策略を考え、その実行のために、州際(米国内で州と州をまたぐこと)又は国際的な配達手段や電子通信を使用する行為を処罰するもの」(出典:2014/05/14の荒井喜美・弁護士:米司法省のトヨタ摘発でも使われた「郵便・通信詐欺」とは何か – 法と経済のジャーナル Asahi Judiciary

「通信詐欺(Wire Fraud)の本質は、詐欺の計画自体を処罰すること」だそうだ。

この法律を研究ネカトの「ねつ造・改ざん」そのものに適用できないのだろうか?

話は変わるが、この法律を日本にも導入したとして、オレオレ詐欺に、最大20年間の刑務所刑と25万ドル(約2,500万円)の罰金を科すのはどうだろう? 被害額の3倍の罰金刑でもいいけど。

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《1》詳細は不明

この事件は韓国の事件で、事件の詳細は不明である。特に、ユン・パク(Yung Park)の人物情報はほとんど得られなかった。

以下、「カーク・スパーバー(Kirk Sperber)(米)」の記事に書いたことと同じです。

どうして盗用をしたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

本ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。

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《1》困惑

著者在順・代筆・論文代行の問題は、かなり困惑する問題である。

医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)が現実に合わない基準を決めているのに、生命科学分野の著者在順・代筆・論文代行に関するバイブルとなっている。正面切って批判・反論する人はとても少ない。

少ない批判の例として、薬害オンブズパースン会議のT氏が、2012年2月2日、「ゴーストライター」問題の対処に不十分だと指摘している。 → 26年間使われているICMJEガイドラインは「ゴーストライター」問題の対処に不十分 | 薬害オンブズパースン会議 Medwatcher Japan

著者在順・代筆・論文代行が長いこと問題視されているのに、十分議論されないものだから、未だに解決しない。もちろん、いくつかの改善策が示されている。つまり、改善策が示されても、オーソリティ、つまり、政府、学術誌編集局、大学・研究機関、学会は改善しようとしない。

白楽が、貢献度数導入という素晴らしい改善策を示したので(手前みそです)、今度こそ、導入してください。日本発ですが、日本も世界も前進しましょう。

《2》製薬企業ベッタリ

生物医学論文の基準となる医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)の統一投稿規定「ICMJE Recommendations(旧 Uniform Requirements)」が、堂々と「大鵬薬品工業株式会社」と文字があるサイトで公開されている(投稿 | 【Ronbun.jp】医学論文を書く方のための究極サイト | 大鵬薬品工業株式会社)。

「大鵬薬品工業株式会社」が助成しているのを堂々と示すのはフェアーだと言えば、隠すよりはフェアーだが、企業に助成されていること自体、研究倫理が歪んでしまう。

無神経である。そのセンスが不快である。

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《1》杜撰な研究

alc-pol-david杜撰な研究プラン・実施方法・解釈だった。その論文にネカトはなくても、研究結果に「間違い」がある。

多くの人(含・研究者)は、研究の過程を精査しないで、論文の結論を「正しい」と受け取る。つまり、論文の「間違った」結論が独り歩きしてしまう。

だから、意図的なねつ造・改ざんでなくても、杜撰な研究は学術界・社会に害毒を垂れ流す。

白楽は、「杜撰」「間違い」も程度によって、ネカトと同レベルの不正と扱うべきだと思う。

トラックの運転手が、「杜撰」な運転で運転を「間違」え、交通事故を起こし、死者を出す。業務上過失致死罪は、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死亡させる犯罪をいう」とある。

つまり、研究者も運転手と同じで「業務上必要な注意を怠る=杜撰」で、結果として「間違い」(意図的でない)が生じ、学術界や社会に害悪を及ぼす。

研究者は、自分の富が増え、メンツが満たされるから、「杜撰」「間違い」の研究でも、論文として発表し、論文数を増やそうとする。

「杜撰」「間違い」の研究論文にペナルティが必要だと白楽は思う。

ただ、現実問題、人間は「杜撰」「間違い」が多い。白楽のこのブログでも、「杜撰」「間違い」があちこちにある。気が付けば直すが、膨大である。「杜撰」「間違い」の発表にペナルティ科す場合、しっかりとした基準作りが必要だろう。

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《1》処分が甘い

6-5イ教授(Lee HC)はクロなのだから、停職2か月の懲戒処分では甘すぎる。というか、こういう処分をするから研究ネカトを根絶する文化が育たない。

「2000年のNature」論文のお陰で、李教授は、ファイザー医学賞、今月の科学技術者賞、科学技術優秀論文賞、仁村(インチョン)賞(科学部門)などを受賞し、2007年には延世大学から年間3000万ウォンの助成を受け、碩座教授(大学が基金を財源に教授として迎え入れた、学問的業績に優れた人物)級の「アンダーウッド教授」に任命された。(【4.日本語の解説】で引用した「東亜日報」の記事)

処罰として、受賞した賞金、獲得した研究費の数倍のお金を罰金として返納させる。名誉や昇進や碩座教授も金額に換算し、数倍にして返納させる。

そうしなければ、これでは、どう見ても、ネカト得です。

と、韓国の処分の甘さを指摘したが、日本も同様かそれ以上に甘い。大阪大学の事件では教授の処分は、わずか停職14日である。

《2》正直者がバカをみる

%e3%83%92%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%81%e3%83%a7%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%82%a42イ教授チームのハン研究員が「2000年のNature」論文の結果を再現できないことから、イ教授に問題点を指摘した。結果として、ハン研究員は解雇された。

その後、ハン研究員がデータねつ造・改ざんと延世(ヨンセ)大学に公益通報したことで、延世(ヨンセ)大学は研究倫理真実性委員会を設置し調査した。

第一追及者のハン研究員はその後、どんな人生を送っているのかわからない。

しかし、公益通報という正しいことをしたのに、ハン研究員は報われなかった。一方、不正をしたイ教授は定年まで大学教授にとどまり、その後、病院を開設している。世の中のあり方として、ひどく、おかしくないか?

「正直者がバカをみる」。ここを、是非、変えていただきたい。

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《1》監察・法科学分析の報告書のねつ造・改ざん

この事件は、監察医・法科学分析官の杜撰でいい加減な行為を示す事件である。報告書のねつ造・改ざんは新聞記事では少ししか書かれていないが、事件は相当深刻だと思える。

犯罪からみの死体の検視で多数のねつ造・改ざんが起こった。証拠品の法科学分析では数千件のねつ造・改ざんがあった。

監察医が解剖し検視した後、死体は焼却処分される。監察医が組織ぐるみでいい加減な検視をした場合、検視報告書のねつ造・改ざんをチェックする人がいない、方法がない、システムがない。また、対象となる死体は一体しかないし、既に焼却処分されていて、一緒に検視した仲間がグルだと、すべてが闇の中で、打つ手がない。

証拠品の法科学分析も同様だ。そもそも、証拠品保管室の中の薬物はどの犯罪の証拠品なのかわからなくなっている。その状況で、証拠品の化学分析をチャンとしても、どの犯罪と関連しているかチェックする方法がない。しかも、証拠品の化学分析もいい加減だった。証拠品が証拠にならない。すべてが闇の中で、打つ手がない。

カレリー事件はそういう事件だ。

事件の深刻さに恐れ、裁判も新聞記事も監察・法科学分析の報告書がねつ造・改ざんだと強くは追求しなかった。追及しても、単に混乱をもたらすだけで、取り返せない。それで、大々的には掘り返さないことにした。

このような、1回だけしか観察・試験できないケースの報告書のねつ造・改ざんを防ぐシステムは、どう構築できるのだろう?
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《2》犯罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざん

以下は「フレッド・ザイン(Fred Zain)(米)」と同じである。

犯罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざんは米国では何件も事件になっている。一方、日本では2012年12月17日の1件のみしか報道されていない。

2012年12月17日「科捜研職員を書類送検 和歌山県警、鑑定データ捏造容疑:日本経済新聞」を修正引用する。

和歌山県警科学捜査研究所(和歌山市)の男性主任研究員(50)による鑑定データ捏造(ねつぞう)問題で、和歌山県警は[2012年12月]17日、証拠隠滅、有印公文書偽造・同行使の疑いで、研究員を書類送検した。

県警は17日、停職3カ月の懲戒処分にし、研究員は同日、依願退職した。

研究員は2010年5月~12年1月、交通事故や無理心中など6つの事件の捜査で、繊維や塗膜片の鑑定結果を上司に報告する際、一部に過去の鑑定データを流用し所長決裁を受けた疑いが持たれている。

県警は過去の事件についても、さかのぼって捜査。研究員が関わった約8千の事件を調べ、うち19事件にデータ流用の疑いがあったが、いずれも時効が成立していた。

しかし、実際はもっと多発しているのではないだろうか?

《3》犯罪関連のデタラメな検視行為

糾弾 日本の政治改革 変死体の監察医 殺人天国日本」に以下のデタラメな監察医の記述がある。信用できる内容かどうか、白楽は確かではない。

不思議なのは神奈川県のわずか3人しかいない監察医だ。 

下の表はその一人伊藤順通(まさみち-東邦大名誉教授)と言う日本の解剖医学会の権威者のでたらめな検死の数だが神奈川県内での変死者の半数以上が伊藤の検死で、まさに異常というほかない。

年度  変死者数  伊藤の検死数  解剖数  得ていた収入(推定)
1996年  5076  3010  69  6,227万円
1997年  5534  3286  71  6,785万円
1998年  6590  3529  72  7,274万円
1999年  7182  3419  62  7,024万円

通常は解剖の多い監察医でも検死数は年間 500体前後で、時間的にそれ以上検死、解剖する事は不可能だと言う。 

ベテランでも死因を特定するための解剖には少なくとも30分から1時間はかかり、平均的な解剖率は変死体の25%~30%と言うが、伊藤はわずか 2%程度しか解剖してない。

東邦大医学部教授だった95年、オウム事件で殺害された弁護士の坂本堤さんの遺体の司法解剖をした事でも知られているが、裁判の中で「解剖は95年9月8日午後2時から9時半ごろまでかかった。」と述べている。 実に7時間半もかけたと言う。

しかし明らかに「頭がい底粉砕骨折」を「窒息死」と判定し、裁判の中で弁護士に「あなたの証言が一貫しないのは、どういうわけですか。」などと言われている。 つまりこの時も解剖などしてないのだ。

神奈川県はまさに殺人天国と言える。 伊藤監察医は外見だけ見て「心筋梗塞」「脳梗塞」「自殺」などの死因をつけ、ほとんど死体に触れることなく検死を終えていた。

日本は、科学捜査の鑑定結果の真偽の担保にどんな対策がとられているのであろうか?

白楽は、絶対的信頼や強い威信・権威のある個人・組織が研究ネカトをすると考えている。その場合の社会の被害と影響は甚大である。社会システムの根幹を揺るがす事態にも発展する。

「絶対的信頼」「強い威信・権威」の個人・組織をチェックするシステムが絶対に必要である。日本にどんなシステムがあるのだろうか? それとも、まったくないのだろうか?

《4》米国の類似事件

米国では、罪関連の科学鑑定書のねつ造・改ざん事件がたくさん起こった。しかし、米国社会は事件からしっかり学んだようには思えない。その後も事件が多発している。

以下の事件は既に解説した。
フレッド・ザイン(Fred Zain)(米)」は、約30年前の大事件。
アニー・ドゥーカン(Annie Dookhan)(米)」は、最近(2012年)の大事件。

以下の事件は、いずれ、記事として解説する予定だ。
・ジェームス・ボールディング(James Bolding)(米)
・デヴィッド・コフォード(David Kofoed)(米)

以下のたくさんの事件も起こっている(こちらは、記事にしない予定)。
Joyce Gilchrist
Dee Wallace
Garry Veeder
Elizabeth Mansour
Anne Marie Gordon
Charles Smith
James E. Price,
Deborah Madden
上記を含めたリスト →  http://www.corpus-delicti.com/forensic_fraud.html

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《1》経歴詐称に大甘

2002年にどのような経緯で金泉(キムチョン)科学大学が、チャンハ・イを教授に採用したのかわからないが、高卒の学歴しかない人を、よくも教授に採用したもんだ。この時点で履歴書のチェックをしていなかった。

その時、既に、チャンハ・イは、テレビの人気者でかつ建築会社とインテリアデザイン会社を所有していた。だから、大学は、有名人が教授に来て下さるという、大歓迎の状況だった。

教授採用なのに、論文などの学術業績を問わなかったのだろうか? 建築や芸術などの実学系は、教授採用時でも作品などで判断される傾向が、韓国だけでなく、日本でもあるような気がする。

そして、学歴詐称が発覚し、大学を辞職しても、金泉(キムチョン)科学大学のLee Eun-jik学部長は、チャンハ・イが建築会社とインテリアデザイン会社を所有し、学生のフィールド研究と就職に役立つので、チャンハ・イを、客員教授として迎えたいと述べている。

大学としての規範や公正はどこにあるのだ?

ssi_20160710175657_vテレビ局の関係者も、学歴詐称発覚後でも、チャンハ・イを褒める。人柄と建築・デザインの技能は高かったのだろう。

とはいえ、2度離婚し、49歳で23歳の女性と結婚し、55歳の時に眺望権などをめぐり法廷闘争し、2016年の60歳の時、大宇造船海洋の不正事件の関係者として新聞記事に名前があがっている。何かと事件が多い韓国の有名人である。

《2》社会の公正性

チャンハ・イを含め、学歴詐称が発覚した韓国の有名人が発覚前の職を維持している例がたくさんある。中には、「学歴詐称で何が悪い」と居直る人々もいる。
→ Most academic fakes still in the same job-INSIDE Korea JoongAng Daily

12044046写真は、左から、ラジオの人気パーソナリティのLee Ji-young(37歳)、有名女優のミヒ・チャン(Mi-hee Jang、49歳)、本記事のチャンハ・イ、コメディアンのGang Seok。写真出典

こういう、有名人の学歴詐称を許容してしまう文化が、社会の公正性をむしばんでいくことを、韓国社会は認識していないようだ。

日本では、研究ネカト発覚処分後に大学教員を続けている人は多いが、学歴詐称ではさすがに解雇になっている。例えば、2009年の昭和女子大学の准教授、2015年の西九州大学の専任講師がいた。

大学教授以外の職業でも、アウトである。

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《1》国際ネカト調査

5777810166934a424ed9396a4bcf96c4_400x400NIHポスドクの研究ネカトが発覚した。しかし、研究公正局が調査した論文は、NIHから発表した論文だけだ。カリネインは英国のバーミンガム大学で24歳で博士号を取得し、その後そこで研究し、29歳になってNIHポスドクに来た。

NIHポスドクになる前の英国のバーミンガム大学での論文は、研究公正局は調査しない。

しかし、状況から判断して、ネカト癖はバーミンガム大学で身につけたと思われる。バーミンガム大学でも調査が必要だ。所属機関や所属国だけでの研究ネカト調査では、ネカトの原因や有効な改善策が見いだせにくい。所属機関や所属国を越えた国際ネカト調査システムが必要だ。

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《1》なぜ? 御用学者の「成り行き説」

韓国政府の疾病管理本部が2011年8月に、加湿器殺菌剤を肺損傷のリスク要因と発表している。もちろん、その発表に科学的根拠がある。Donguk Park et al. (2014-09-02)の論文、Dirk W. Lachenmeier (2015)の論文が示されている。

それなのに、この2人の教授は、企業から依頼されて、改めて、安全性試験をした。安全性試験の結果、加湿器殺菌剤が危険だというデータを自分で得た。ところが、企業が有利になるように、危険だというデータを改ざんし「加湿器殺菌剤と肺疾患の因果関係は明確ではない」と、安全に味方する報告をした。

どうして、そんなことをしたのだろう?

検察の告発には、見返りとして、1200万ウォン(日本円で110万円相当)を受け取ったとある。しかし、韓国の大学教授にとって、危険を冒す大金とはとても思えない。1200万ウォン(日本円で110万円相当)は、もちろん、検察が証拠としてつかんだ表に出ている金額である。

実際は、オキシー・レキットベンキーザー社が加湿器殺菌剤を販売した2001年前後から、現金と便宜供与を受けていたのだろう。推察すれば、公表された現金110万円の10倍・20倍の金額を受け取っていただろう。10倍で1,100万円、20倍で2,200万円である。それでも、この金額だけで、大学教授が動いたと思えない。お金よりも人間関係だろう。

韓国政府の疾病管理本部がリスク要因だと発表しても、安易にオキシー・レキットベンキーザー社側の擁護をする御用学者なのだ。それで、成り行きで、会社に都合のよいようにデータを改ざんをし、報告した。つまり、10年以上の腐れ縁がある御用学者の「成り行き説」である。

《2》匿名・実名は、なぜ?

本文中に書いたが、この事件の報道では、実名報道もあるが、チョ教授、ユ教授の2人を匿名にし顔写真をボカす報道が多い。なぜ実名・匿名の混在報道なのか?

韓国の事件報道では、実名が多いが、匿名もそこそこある。しかし、1つの事件で実名・匿名の混在報道である。珍しい。どうしてなのだ?

また、ユ教授の名前は姓(Yoo)しか報道されていない。ところが、湖西(ホソ)大学(Hoseo University)の毒性学にYoo教授はいない。毒性学研究者で同じ読みのYu教授(Il Je Yu)はいる。

このYu教授を隠蔽するためにYoo教授という英語名を使用したと思える。

しかし、韓国の毒性学の分野の研究者なら、所属大学と姓の読み方がわかれば人物を特定できる。姓名の名を隠しても意味がないと思えるのだが、どういう意図なのだろう?

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《1》組織責任と個人責任

ゲッティンゲン大学・調査委員会は、リンゲルト教授に不正はなく、「2000年のNature Medicine」論文の第1著者のアレキサンダー・クグラー(Alexander Kugler)がクロと、調査結果を発表した。

それなのに、DFG-ドイツ研究振興協会(Deutsche Forschungsgemeinschaft)は、リンゲルト教授が論文の責任著者、臨床試験の責任者、泌尿器科主任教授なので、研究公正違反の責任をリンゲルト教授に科し、懲戒処分した。

アレキサンダー・クグラーは泌尿器科の医師・研究員で、調査が始まるとゲッティンゲン大学を辞めてしまい、以後、臨床医として病院に勤務し、研究活動をしていない。それで、ゲッティンゲン大学もDFG-ドイツ研究振興協会もクグラーを処分できなかった。

しかし、その代わりにリンゲルト教授が処分されるのは変だ。

こういう組織責任論を日本でもしばしば見受けるが、これは、米国の研究ネカト事件ではありえない。やったら、確実に裁判になり、まず、負ける(推定)。

研究ネカトの処分では、個人責任論と組織責任論はどちらがまともだろうか?

今回のように組織責任者を処分すると、では、リンゲルト教授の所属している学部長の指導責任はどうなのか、さらには学長の管理責任は? と上部上部の責任が追及される。そして、挙句の果てに、不正行為の本当の責任があいまいになる。とどのつまり、研究ネカト・システムの改善点を見失う。

組織責任論は進歩がない。やめた方がいい。

ただ、院生は別だ。院生は研究者として1人前ではないから教育され訓練を受けている。教育訓練の項目の1つに研究規範もある。だから、院生は研究規範の習得が十分ではない。

院生が研究ネカトをした場合、それまでの教授の教育・指導が適切であったなら、教授に責任はないが、そうでない場合、教授にも責任がある。というより、教授の方に大きな責任があり、処分も大きくすべきだろう。

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《1》反省しないネカト者

2012120600121_0カン教授は同じ幹細胞分野での有名な黄禹錫(ウソク・ファン、写真左、出典)が2005年に学術界から追放された以降、韓国の幹細胞研究者として最も期待されていたそうだ。

カン教授は、自分の研究ネカトが発覚しても、他人(弟子の院生)のせいにしようとした。

撤回論文は2008年から2013年と期間も長く、2010年にねつ造が指摘された以降も、ネカトを続け、反省していない。言動から判断すると、心根が腐っている。

《2》詳細は不明

20120416_01110137000005_01L_jpg_1334477520この事件の詳細は不明である。特に、カン教授の人物情報はほとんど得られなかった。

どういう育ち方をしてきたのか、どういう教育を受けてきたのか、どういう経緯でソウル大学教授になったのかなど、わかりません。

女性なので、若い時からの庇護者がいて、甘やかされてソウル大学教授になったのかな、と推察したが、情報はありません。

また、どうして研究ネカトをしたのか? 共同研究者や院生との関係は? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

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《1》どうして?

事件の詳細は不明だが、どうして、他人の論文の画像を盗用したのだろう? 発覚するし、発覚した時に言い訳が成り立たないだろうに。今なら、ほとんどの研究者は確実にそう思う。

ところが、この時代は、まだ研究ネカトのすべてがあいまいで、いい加減な時代だったようだ。だから、不正をするほうも、結構うっかり(気楽に?)、不正をしたのだろう。

《2》ドイツの研究ネカト対処のキッカケ

この事件は、ドイツ学術界が研究ネカト問題を真剣に対処するキッカケを与えた事件だそうだ。

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キ厶・チイン先生に白楽の感想を求められたわけではないが、感想を書く。

白楽から見ると、韓国の研究倫理事件は、文化的に根が深い。例えば、9年前の2007年の新聞記事を読むと、学歴詐称者を解雇していない。
→ Most academic fakes still in the same job-INSIDE Korea JoongAng Daily
http://koreajoongangdaily.joins.com/news/article/article.aspx?aid=2882622(保存版)

4年前の2012年の新聞記事では、世界が「韓国は盗用天国」と認識してしまう。
→ Plagiarizers‘ paradise
http://www.koreatimes.co.kr/www/news/opinon/2012/04/137_108333.html(保存版)

上記2つの新聞記事を読むと、韓国の研究倫理の改善にはかなりの熱意と年月がかかるだろう、と感じる。

なお、日本も多数の研究ネカト者を解雇していない。また、日本は「ネカト天国」ではないと思いたいが、事実として「ネカト地獄」にはなっていない。

キ厶・チイン先生の質問に答えながら、研究倫理では、日本も韓国と同じ問題を抱えていると感じた。韓国の問題を日本の問題ととらえ、韓国の改善を日本も学べるといいなと思った。

最後になるが、キ厶・チイン先生の質問のおかげで、研究倫理の問題を異なる視点から考える良い機会になった。質問してくれたキ厶・チイン先生に感謝する。

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《1》研究公正局は?

07165a0「2001年のBlood」論文の画像の重複使用は、白楽から見ると、明らかにねつ造・改ざんだが、レイエス本人が「誠実な間違い」だと主張している。そして、それが通っている。

「間違いの原因は、ミネソタ大学のいい加減な教育とデジタル画像に関する明確なネカト基準がなかったためです」と、ねつ造・改ざん間違いの原因を大学になすりつけている。

これに対して、ミネソタ大学は弱腰である。ミネソタ大学の調査報告書は非公開なので読めないが、調査がズサンだった印象がある。

ただ、研究公正局にも届け出ているハズだ。研究公正局はミネソタ大学の調査結果を認めたのだろうか? 研究公正局は調査結果を発表していない。ということは、シロと判定したのだろうか? なんか、変だ。

「2001年のBlood」論文をベースにした有名な「2002年のNature」論文は撤回されず、訂正で済んでいる。「2002年のNature」論文は、レイエスが第1著者というわけではない。著者が16人いる中の7番目である。ほとんど責任はない位置である。

レイエスは、「間違い」だと言いとおし、事件を起こした大学と別の大学であるワシントン大学・助教授になっていたが、ワシントン大学を解雇されなかった。だが、この騒動で、いろいろ「シマッタ」と思ったに違いない。

こういう経験を通してレイエスは、その後はクリーンな研究人生を送っているのだろうか? それとも、ネカトは研究者の体質的問題で、現在も、ネカト研究生活をしているのだろうか? 性犯罪者の再犯率データと同じように、研究ネカト者の研究ネカト再犯率のデータが欲しいところです。

《2》うやむや?

M_Reyes_「間違い」だから、レイエスは学術界から排除されるようなペナルティを受けなかった。2016年9月2日現在、ワシントン大学・助教授として研究している。

ミネソタ大学での指導教授だったボスのヴァーフェイルは、2006年、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KUL)に移籍してしまった。

事件が発覚し、ミネソタ大学が調査しているとき、当時者であるレイエスもヴァーフェイル教授もミネソタ大学には既にいなかった。そんな状況だったので、ミネソタ大学はネカト調査をしたくなかっただろう。クロと出ても、他大学の教員を辞職させる権限はない。

こういう状況の調査、そして調査報告書の非開示、調査結果に対して当事者の2人の強い批判など、この事件は、調べていて、どうも、スッキリしません。

ただ、2016年9月2日現在、ワシントン大学のレイエスの研究室員は、レイエスの「間違い」事件を知っているのだろうか? 知らないとすると、知っていたらレイエス研究室を選ばなかっただろうか? 選んだ後に事件を知ったら、レイエスの指導を受ける気が無くなるだろうか? レイエス研究室には、9人の室員がいる(下の写真)。大半は、院生・ポスドクだろう。

photo%20of%20my%20lab%202009ワシントン大学のレイエス研究室員。右から5人目がレイエス助教授。写真出典

《3》ネカトGメン:調査委員の無能

事件記事を読むと、レイエスはハッキリと「ミネソタ大学の調査委員が無能」だと述べているし、ヴァーフェイル教授も調査委員の記述に反論している。無能な調査委員とは、ハッキリ言えば、研究担当副学長のティモシー・ムルカイ委員長である。

一般的に思うのだが、米国でも無能な調査委員はそれなりの割合を占めると思われる。日本ではもっと多いだろう。しかし、米国も日本も調査委員は審判という立場なので、めったに批判・非難されない。これってどうなんでしょう?

審判という立場の調査委員が公正な判断ができない場合、どうするのが適切だろう? その前に「公正な判断ができない」のを誰がどう判定するのだ?

研究倫理学者が、政府の委託を受けて、大学の調査を無作為抽出し、調査側(調査委員の人選、調査の内容、調査委員の言動、機密保持、利益相反など)を検討することも必要ですね。ネカトGメンが静かに働くというのはどうでしょう。

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《1》クマールと大学の示談の推察

Kumarクマールと大学は示談した。示談内容は秘密である。

事実として、クマールは解雇(辞職)されていない。大学は調査報告書を発表していない。

何がどう進行し決着したのか、外部にはわからない。大学は、クマールに損害金を払ったのかどうかもわからない。

ただ、大学は調査報告書を発表していない。研究ネカト調査結果を終了しないでクマールを停職処分、院生指導禁止、学科長降格をした。これはマズいでしょう。調査の結果、シロとでたらどうするんだ? クロが確実なら、公表しないのはおかしい。学長・副学長の大学運営の失敗に思える。だから、クマールに訴えられたのだろう。

そして、クマールが雇った弁護士ポール・ターラーが優秀で、ジョージ・ワシントン大学のヘマを突いたのだと、白楽は推察する。

大学は、クマールの研究ネカト調査をヤメたのだろうか? もしそうなら、調査をヤメることは研究公正局から了解を得たのだろうか? しかし、クマールは研究室の若者が実行したと述べているから、研究ネカトはあったのだ。

どうする?

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《1》研究公正局の調査が遅い

2010年9月17日にマウントサイナイ医科大学の調査は終了した。

ところが、研究公正局が調査結果を発表したのはそれから6年後だった。

遅すぎる。

研究公正局は、同じ研究室のポスドクのリー・チェン(Li Chen)のデータねつ造・改ざんと、ジーユ・リー(Zhiyu Li)のデータねつ造・改ざんの調査を同時に進めていたと思われる。

2014年4月25日にリー・チェンのデータねつ造・改ざんを発表したのに、ジーユ・リーのは発表しなかった。どうして、さらに2年間も必要だったのだろうか?

調査に年数がかかりすぎることは、研究公正局の機能の欠陥である。研究倫理システムとして大きな問題になる。どうして改善しない(できない)のだろうか?

マウントサイナイ医科大学の調査でクロと判定した人を、6年後、もしシロと判定したらどうなってしまうのだ。

調査は正確であるべきだが、迅速でもあるべきだ。

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《1》大金がらみの研究の中立性

遺伝子組換え食品の研究結果の受けとめ方が難しい。

schermata_2015-09-08_alle_10_03_06「安全」と言えば、賛成派からの支援を受けているとされ、「危険」と言えば、反対派からの支援を受けているとされる。それぞれ、大きなお金が絡む。

どちらの派でも、事実を捻じ曲げてでも金銭的な利益を優先しようと画策することは容易に想像がつく。

遺伝子組換え食品に反対の立場で結果を捻じ曲げた「ジル=エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)(仏)」の事件もあった。

今回のフェデリコ・インファシェーリも、遺伝子組換え食品に反対の立場で結果を捻じ曲げた。

ところが、遺伝子組換え食品に賛成の立場で結果を捻じ曲げたという研究ネカト事件は報道されていない。賛成派の論文に研究ネカトはないのだろうか? それとも、賛成派の論文は反対派の論文ほど詮索されない、あるいは発覚しても火事にならないうちに消され、隠蔽されてしまうのか?

そもそも、大金が絡む研究テーマ、政治色が濃い研究テーマは、中立の研究が成り立たないのだろうか?

研究するには研究費が必要で、その出所は、政府助成金を含め、最初から賛成・反対の色がついている。

《2》論争テーマの論文はクリーン?

論争となる研究論文は相手側陣営から精査され、研究ネカトは詳細にチェックされる。少しの疑念でも指摘され・糾弾される。

となると、論争となる研究テーマでは、一般的に、出版された研究論文の研究ネカトは少ないかもしれない。

研究ネカトを含め、本旨と異なるところで足を引っ張られたのでは、主張が通らなくなる。

それで、研究内容の質はともかく、それ以外のことではクリーン度が高いだろう。それは、ある意味、良い面でもあるだろう。

ただ、非難する時、重箱の隅にあった些細な間違いを針小棒大に指摘しているのか、あるいは、相手の圧力・攻撃に負けずに事実を誇張せずに主張し続けているのか、第三者にはわかりにくい(わからない)。

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《1》お詫び

本記事では、研究ネカト疑惑者の自殺を正面から取り上げ、事例をなるべく多く収集し、記録に残し、できれば分析しようとした。

ところがどっこい、分析は非常に難しい。事件の全体像を理解するのも難しいし、事件をある程度理解しても、自殺の分析はとてもむつかしい。事実ではなく推論になってしまう。

それで、【どこをどうすれば自殺を防げたか?】の答えを記述できないケースが大半になってしまった。

各事件の詳細を分析してから、記事を修正する形で、再度、アップするかもしれないが、分析できないかもしれない。

《2》自殺の調査

「当局」である大学・研究機関は研究ネカトを公式に調査し、調査内容を公表する。ところが、研究ネカト疑惑者の自殺に関しては、日本の大学・研究機関は公式に調査しない。もちろん、調査しないのだから、どういう理由で・どういう過程で自殺したかわからない。

だから、予防策の工夫も提言もない。

研究ネカトと自殺と比べれば、事の重大さに比べられないほど、自殺の方が大きいことは多くの人が同意するだろう。

自殺に関しては、日本の大学・研究機関は公式に調査しないのはおかしくないか? 本人のせいであって、大学・研究機関はなんら悪い点がない? 調査しなくてもそうだと結論できるの? 小中高でのイジメによる自殺と同じでしょう。

【どこをどうすれば自殺を防げたか?】を、各大学は調査してほしい。

《3》日本の隠蔽体質

研究ネカト疑惑者の自殺で、日本と外国を比べると、日本は匿名、顔写真なし。大学は箝口令をしく。一方、外国は、箝口令はよくわからないが、実名報道で、顔写真がある。

日本は隠蔽体質が強い。この隠蔽体質を変えるべきだ。

白楽は、正確な事実に基づいて、自殺を分析しようとした。一方、自殺のあちこちを隠蔽しようとしている人たちがたくさんいる。「不都合な真実」だから、隠蔽される。

これでは、集めた事実は偏り、全体的視点からの正確さを欠く。【どこをどうすれば自殺を防げたか?】の答えは得にくい。自殺の予防策を進歩させられない。

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《1》調査は不毛

以下、以前と同じ文章(自己盗用)。

この事件では、本人が意図的に経歴詐称しているが、韓国全体に詐称文化がまん延しているので、個々の事件がなぜ起こったのかを調べても、研究ネカト改善のヒントは得にくい。

《2》同級生や教員が気が付かない?

中学・高校・大学の卒業がねつ造だとすると、オクラン・キムは高校も卒業していないのだろうか? 別の高校を卒業したけど、京畿(キョンギ)女子中学・高校・卒業と履歴をねつ造したのだろうか? 同じように、別の大学を出たけど梨花(イファ)女子大学・英語英文学科・卒業と履歴をねつ造したのだろうか?

どちらにせよ、韓国人が韓国国内の中学・高校・大学の卒業を詐称すれば、同級生や教員が気が付くと思うのだが、どうなっているのだろう?

《3》学術キャリア形成が遅い

それにしても39歳で、米国・パシフィックウエスタン大学を卒業、55歳で韓国・成均館(ソンギュングァン)大学で修士号を取得と学術キャリアの形成が遅い。20代・30代は何をしていた人なのだろうか?

58歳で、韓国・檀国大学(Dankook University)・経営大学院芸術経営学科・教授に就任し、翌年の59歳で研究博士号(PhD)を取得というのも、日本の感覚ではありえない。

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右がキム。写真出典

韓国では大学教授になりたい博士号所持者は余っているハズだ。教授就任時に博士号を持っていない人は文系では珍しくない。しかし、教授に昇進ではなく新採用で58歳である。表に出てこない(出せない)、特別の理由があるのだろうか?

《4》裁判官の判断に疑問

裁判所の判決に、白楽ごときが疑念を表明するのは、不遜であるが、審判の判定に疑念を表明してしまう。

裁判官も審判も人間である。間違いはあるし、偏見・知識不足はある。

日本の裁判での一般論だが、裁判官は、科学技術や学術研究に対して偏った意見・間違った知識を持っている人が「とても」多い。生命科学がらみの裁判で、あり得ない判決に、しばしば驚くことがある。

「法律的な正義」と言いくるめようが、自然界の法則は変えられない。人間が生きていくには、「法律的な正義」や社会ルールよりも自然法則を優先するしかない。社会ルールは自然法則に矛盾しない形で制定するしかない。そのことが理解できないらしい。

オクラン・キム事件では、学歴詐称が明白で、修士号・博士号がはく奪された。それらの学歴が正しい前提での教授就任である。学歴をちゃんとチェックしなかった大学にも責任の一端はあるだろう。しかし、何が悪いかといえば、もともと、オクラン・キムが意図的に学歴詐称をしたから事件になっているのだ。その出発点の根本の不正行為を糾弾しないとは、裁判官は何を勘違いしたのだ。

裁判官にも学歴詐称人間がいて、発覚した時に有罪になるのを恐れて、学歴詐称事件の最初の判決で、オクラン・キムを無罪にしたっていうことだろうか? と、ゲスの勘繰りをしたくなる。

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《1》ネカトの測定

ネカトの発生数と発覚数を何とか測定できないものだろうか? と随分前から思案した。発覚数は新聞記事のネカト事件を数えればわかると考え、学生・院生とともに日本の事件を調べた。かなり長い年月がかかったが、途中、学会で数度発表し、最後は、本にまとめた(白楽ロックビル、『科学研究者の事件と倫理』、講談社、2011年9月)。

しかし、新聞は、別の大きな事件があればネカトを報道しない。また、ネカトという行為が報告されても、文部科学省や大学・研究機関は必ずしも公表しない。さらに、新聞記事は独自取材ではなく、文部科学省や大学・研究機関の発表を記事にしているだけだ。

だから、ネカトの発覚数を数えるのに新聞記事の限界は目に見えている。正確ではない。しかし、他に、測定方法が見つからなかった。

さらに、ネカトという行為の発生数はもっとわからない。だから、発生しているのだが、発覚に至らない割合は全く不明である。もっとも、何をもって「ネカトという行為の発生」と定義するのかも難しい。

このことに関連するが、ネカトを研究し、記事を書いたり講演したりすると、ネカトの巧妙化を促進してしまうのではないか、という危惧を抱く。

つまり、ネカトをしてしまった(発生した)が、それを発覚しない方法、発覚しても、ねつ造・改ざんではなく「間違い」でかわせる方法を教えている、という危惧を抱く。

ネカトを防止するつもりが促進している。ということはないのだろうかと。

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《1》能力と学歴

26歳で一流新聞に論説を書き、その論説が、米国の主要な政治家に引用された。ということは、エリザベス・オバギーの取材力や分析力に超一流の実力があることは確かだ。

しかし、修士号しか取得していないのに「Dr. Elizabeth O’Bagy」と称した。つまり、学歴詐称した。

それで、戦争研究所のキンバーリー・ケイガンは、オバギーを解雇した。しかし、「オバギーの研究はしっかりしている。今回の件は悲劇だったが、オバギーは非常に有能で、将来の成長する可能性もとても大きかった」と述べている。

勿論、学歴は能力を保証しない。特に、優れた能力とは無縁である。学歴が保証するのは最低ラインである。

シリア分析では世界一優秀だったのだろう。オシイ。

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写真出典

《2》米国は動きが早い

エリザベス・オバギーは、シリア情勢の分析で主要なテレビに出演し人気の政治コメンテーターになっていた。

2013年8月30日に、エリザベス・オバギーは、ウォールストリート・ジャーナル紙に論文を発表した。米国の主要な政治家がその論文を引用した。

有名・超有名になると、人々はその人の経歴・好み・生活・人生のすべてに興味を持つ。監視の目が強化される。研究ネカト飲酒運転説で述べるように研究ネカト対策には「必見」が重要である。

学歴詐称がバレて、2週間もたたないうちに、戦争研究所は、エリザベス・オバギーを解雇した。動きが早い。

その2週間後、ジョン・マケイン議員がオバギーを自分の事務所に雇用した。この動きも早い。

米国の動きの早さは素晴らしい。

研究ネカトも経歴詐称も対処の鉄則は、すぐに暴いて、すぐに処分することだ。

韓国では学歴詐称が多いが、これまた、学歴詐称してから30年後に発覚(告白)では、社会システムがおかしくなる。日本も研究ネカトに関して、速攻で「必見」し、速攻で「必罰」処分すべきだ。

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写真出典

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《1》自分の身は自分で守る方針

白楽が「研究ネカトを通報する方法」で示しているポイントは、たまたま、他人の研究ネカトに遭遇しても、自分の研究キャリアを無駄にしないことが主眼である。

再掲するが。そもそも、「通報しても自分にとって得なことはない。報復される。法律も社会も守ってくれない。自分の将来と自分の身は自分で守るしかない。安全を優先した方がいい」。

ただ、研究者として一生過ごすなら、約10回以上、研究ネカトに遭遇する(多分)。学部生・院生も遭遇するが、学部生・院生時代に、その対処に多大の時間・エネルギーを割けば、研究者として大きく育つのが困難になる。

一方、自分が(准)教授や研究室主宰者になってから、研究室員の研究ネカトに遭遇したとする。この時、研究ネカトを軽視したり、対処を間違えると、(准)教授や研究室主宰者としての指導能力や管理能力に疑念が呈され、失職するかもしれない。だから、研究ネカトに適切に対処しなければならない。

《2》通報者への報奨

研究ネカトを通報しても、なんら報奨がない。あるのは報復だけである。となると、通報はバカバカしい。

しかし、内部告発は研究ネカト摘発で、最重要ともいえるほど重要である。学術研究はある意味、密室の行為である。盗用は、外部に出てきた研究論文である程度見つけることができる。しかし、研究ネカトのねつ造・改ざんを外部に出てきた研究論文で見つけることは、かなり難しい。

ウェスタンブロットなどの画像は、研究論文あるいは投稿原稿でそこそこ解析できるが、解析限界を越える加工を行なえば、外部の人間は見破れない。

ましてや、測定値の数値を改ざんする、データを不適切に選択する、などは実験ノートと突き合わせなければわからない。

測定値の数値を実験ノートに記載する時点で変えて記載されれば、実験ノートを見ても、ねつ造・改ざんはわからない。

そもそも、特定の結果に合うように研究対象を意図的に選べば、観察・記録・測定値にねつ造・改ざんがなくても、ねつ造・改ざんであるが、その場合、生データや実験ノートを見てもわからない。

これらがねつ造・改ざんだと断定できるのは、本人と共同研究者しかいない。内部者が証拠を保全し、通報してくれなければ、不正は永遠に闇の中である。

「1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説」で以下のように述べたが、内部告発者はとても重要である。

ステップ1「第一次追及者」・・・研究ネカトは内部告発者またはネカト・ハンターが最初に見つけ、通報する。第一次追及者がいなければ、研究ネカト事件は発覚していない。

研究ネカト摘発には、内部告発でしか発見できない面がとても多い。

しかし、内部告発の見返りは報復だけである。となると、通報はバカバカしい。

同じような状況は他にないだろうか?

ありました。証券取引での不正を内部告発するケースだ。

この場合、報奨金を出している。

米国の証券取引委員会(SEC)は、2011年から、内部告発者に報奨金を払っている(Whistleblower Program – CFTC)。

それも、自分の地位と職を賭して見合う額を払っている。内部告発で防げた損害額の30%が上限である。下記の告発のケースでは、告発者に1700万ドル(約18億2000万円)も払っている。
→ 2016年6月10日のMatt RobinsonとNeil Weinbergの記事: 米証券取引委、内部告発者の有力情報に懸賞金18億円-過去2番目の額 – Bloomberg

2016年7月14日、「The Canadian Press」は、カナダでも告発者に報奨金を払う制度を導入したと報道している。
出典 → 2016年7月14日の「The Canadian Press」記事:「BlackburnNews.com – OSC launches whistleblower program」。 (保存版)

日本の証券取引等監視委員会は報奨金を出していない。
→ ◎情報提供窓口等:証券取引等監視委員会

ただ、日本の警察庁は報奨金を出している。
→ 捜査特別報奨金制度の実施|警察庁

研究ネカト通報者にも、報奨金を出したらどうだろう。

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《1》研究公正局と大学と学術誌

研究公正局(政府組織)は、調査し、改ざんと判定し、数年間の締め出し処分を科したところで、チェギニ本人は既にリタイアしているので、どのみち、研究費の申請はない。学術界から排除する処分を科しても、すでにリタイアしてので、学術界にすでにいない。

大学は、すでに退職している教授の論文を調査し、改ざんと判定しても、解雇して新たな教授を雇えるわけでもない。名誉も回復するわけではない。ヒト・カネ・時間の無駄と感じるだろう。

研究公正局と大学は、退職教授(つまりチェギニ)のデータねつ造・改ざん調査に意欲がわかないだろう。

ただ、学術誌(民間組織)は、改ざんデータの論文を自分の学術誌に掲載しておくわけにはいかない。不良品を売り続けることになるからだ。

それで、「撤回」マークをつけるためにも、論文が研究ネカトかどうか、シロクロをつけなくてはならない。学術誌は無報酬でこのややこしい作業をこなさなければならない。

なんか、ヘンだなあ。

《2》院生等はどうした?

Nasser Chegini9論文が撤回されているが、すべてチェギニが最後著者である。院生等(含・ポスドク・研究員)が実験データを出し、チェギニが論文を執筆したのだろう。その執筆時に、チェギニがデータを改ざんしたのだろう。

この場合、実験データを出した院生等が論文のデータと自分のデータが異なることに、どうして気が付かなかったのだろうか? 院生等は、自分が著者になった論文が出版されたら、うれしくて、穴のあくほどしっかり読む。それで、気が付かない?

イヤ、気が付いたハズだ。

気が付いたけど、多くの院生等は、研究ネカトだと申し立てなかった。申し立てれば、正義は通るけど、自分の論文が撤回されるので、大損になる。

多くの院生等は申し立てなかったけど、ごく少数が申し立てて、発覚したのだろう。

改ざんの例で示した棒グラフは、部外者には改ざんとはわからない。生データと参照する必要がある。

学術誌編集部は、申し立てを受け、チェギニに生データの提出を求めたのだろう。それを、チェギニが拒否し、学術誌編集部は、改ざんがあったと判定し、論文撤回したのだろう(推定)。

多くの院生等が申し立てるシステムや文化を構築するのが研究ネカト改善の一策だと思える。しかし、どうやって? ウ~ン。

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《1》同級生や教員が気が付かない?

Mieheejang韓国の有名女優が、高卒なのに、韓国内の大学を卒業したと偽り、長年、女優を続けた。さらに、大学教授になり、芝居映像学科で授業を受け持っていた。

どうしてこんなことが可能なのか、不思議でならない。

ミヒ・チャンは、「特別入学」で大学に在籍し、授業を受けたと述べているが、大学には在籍記録がない。「特別入学」とは何なのか? 日本なら、入試を受けずに授業を受けるだけの聴講生でも大学に記録は残る。

他国の大学(例えば、エジプトのカイロ大学)に留学したと偽るならならいざ知らず、自分の国の東国(トングク)大学・仏教学科を卒業したと偽った。

実際に授業を受ければ、女優だから美人で目立っただろう。東国大学・仏教学科の卒業生に聞けば、教室にいたかどうかすぐわかる。クラスメートに既に女優としてデビューしていたミヒ・チャンがいれば、学生間で話題になる。多分、「そんな人はいなかった」とバレるだろう。

東国大学の教員も容易に気が付くはずだ。白楽の勤めたお茶の水女子大学・生物学科でも、スチワーデスになった卒業生や美人コンテストに入賞した卒業生は、数年間は(もっと長期間?)、教員の間でも噂になっていた。現役の女優なら多くの教員は覚えているだろう。

また、卒業したとされる「奨忠(ジャンチュン)女子高」は、実在しないらしい。これが事実なら、架空の高校を卒業したと言え(書け)ば、さすがに、架空か実在か、すぐにわかるだろう。韓国はどうなっているのだ?

なお、グーグルで「奨忠女子高」と検索しても、「奨忠女子高」はヒットしない。「奨忠高校」はヒットした。

《2》論点のずれ

ミヒ・チャンは、大学教授としての授業は学歴ではなく自分のキャリア・経験に基づいた内容が評価されていると、言い訳している。

この言い訳がおかしい。授業内容の質を問題視しているのではない。学歴詐称を問題にしているのだ。

言い訳がおかしいことに、本人も韓国社会も気が付かないのだろうか?

また、大学教授は授業だけでなく、研究も業務の1つだ。英語論文が1つもないことからも、ミヒ・チャンは、研究活動を全くしていないようだ。

《3》大学は解雇せず、芸能界から追放されず

明知大学(ミョンジだいがく、Myongji University)は、経歴詐称したミヒ・チャンを解雇していない。ミヒ・チャンも辞職していない。

この状況は、学歴詐称するのは大した問題ではありません、と明知大学が態度で示していることになる。学歴を与える大学が、学歴を軽視するとは、まったくおかしい。

ミヒ・チャンもミヒ・チャンなら、明知大学も明知大学である。

20131220000448ce8そして、2007年に大騒動になったのに、韓国テレビ・映画界は、翌2008年にミヒ・チャンをテレビ・ドラマ(KBSドラマ「母が怒った、엄마가 뿔났다」)に起用した。韓国芸能界では飲酒運転、常習賭博などの犯罪を犯しても芸能界に簡単に復帰しているそうだ(過去に不祥事を起こした韓国芸能人♪ 謹慎期間はどのくらい? – 韓国芸能情報。上記写真も同じ出典保存版))。

倫理違反者や犯罪者は芸能界から追放されるべきでしょう。そうしないと、国民に倫理違反や犯罪は大した問題ではありませんと教育していることになる。

でも、韓国のテレビ・映画界は追放しなかった。映画振興委員会の委員も辞めさせていない。

つまり、韓国人個人(ミヒ・チャン)の倫理観だけでなく、韓国の学術界・芸能界の倫理観が、ひどくいい加減だということだ。

jigwangそれだけではない。別件だが、仏教界の著名な高僧である智光(チグァン)上人(Ven. Jigwang、写真出典)は、韓国最高学府のソウル大学・英文学科を卒業したとの学歴詐称を2007年8月に告白した。実際に卒業したのは、ソウル大学ではなく韓国放送通信大学だった(2007年8月19日の記事:News & Issues | Scandal Widens Over False Academic Credentials保存版)、智光(チグァン)上人の経歴:NungIn Sunwon保存版))。

こういう社会だと、「正直者がバカをみる」のは明らかだ。社会が朱だから赤く染まるのは当然で、多くの人が「見つかっても構わないから、とにかく、経歴詐称する」ことになる。悪事をしないと、偉くなれない。悪事が見つかってもペナルティが軽いので、トータル、したほうが得だ。

《4》調査・改善策の模索は不毛

この事件では、本人が意図的に経歴詐称しているが、韓国全体に詐称文化がまん延している。記事を読んでいると、抜本的に改革する意志が、韓国社会に感じられない。

となると、個々の事件がなぜ起こったのかを調べてもむなしい。研究ネカト改善の方策を考えるのがバカバカしい。

実は、この8月、韓国の研究倫理学者からインタビューを受けることになっている。それで、このところ、集中的に、韓国の研究ネカト事件を調べている。しかし、韓国の腐敗は根が深い。改善するのは大変だろう。

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《1》根っからの盗用者

2012年4月21日の東亜日報記事では、「今まで執筆した論文5本とも疑惑」とある。

論文の盗作疑惑は博士論文にとどまらなかった。ネットユーザーの暴露によると修士論文も盗作した可能性が極めて高く、今まで執筆した論文5本とも疑惑の可能性があるという。(論文盗作疑惑の文大成氏、国民大学の「盗作」発表時刻と合わせて離党 : 東亜日報

盗博なら、修士論文も「そうだろう」と納得してしまう。

つまり、デソン・ムンにとって、論文はそのように作るものという考えを身につけてしまった。修士論文も盗用なら、卒業論文、イヤ、学部時代に教授に提出したレポートも、ほぼ、全部、同じように作っていたのだろう。

となると、ムンを育てた大学の雰囲気・価値観、指導教授の責任も大きい。

韓国の事情を知らないが、日本だと、最初にまともに書く論文は卒論なので、この時、「盗用はご法度」の掟を身につけさせるべきだった。

《2》根っからの盗用者ではない?

2012年4月、ムンは盗博を指摘されて、「すべて自分が悪うございました(Everything is my fault)」と最初は盗用を認めていた。

しかし、数日後には、論調を変えている。

「博士論文は盗用ではありません。私の博士論文は実験を記載した論文で、実験は自分で行ないました。博士論文で博士号が授与されたのは、論文に記載した実験法と実験で発見した結果の独創性に対して与えられたものです」。

「ただ、読者がわかりやすいように、理論的背景の説明に過去論文を引用しました。理論的背景の説明に過去論文を引用するのは学術論文ではとてもよくあることです。違法ではありません。その時、私は間違いをしてしまいました(白楽注:正統な引用をしなかったという意味らしい)。学術研究とスポーツ練習の両方を十分にこなすのは過酷です。当時、注意力散漫になったことを、今は、悔いています。しかし、私が盗用をしたと誰も判断してはいけません。」(Second plagiarizing IOC member leaves political post – tribunedigital-chicagotribune)。

これは、ただの言い訳なのか、本当に単なる「間違え」なのか? 印象としては「言い訳」に聞こえるのだが・・・。

《3》スポーツ選手の学業問題

デソン・ムンの場合、優秀なスポーツ選手だから、学業に問題があることは想像に難くない。一般的に言えば「スポーツ選手の学業問題」だ。

例えば、オリンピック金メダル候補の学生が、練習が忙しいという理由で授業に出席しない、試験も受けない場合、教授は落第させられるか?

多分できない。

そういう優秀なスポーツ選手を甘やかす環境で、デソン・ムンは大学を卒業し、修士号を取得し、そして、今回は博士号を取得した。つまり、ハチミツ漬けの結果、金メダリストの国民的英雄である自分にはどんなことも許される環境だったろう。

さて、指導教授は、オリンピック金メダリストの国民的英雄の博士論文が盗用だと気が付いた場合、どうするだろう? どうできるだろう?

論文執筆の途中で、デソン・ムンが「実はこの部分は盗用なんです」とは言わない。論文は書き上げるまで、他人に見せない。

書き上げた時点で、教授はチェックするだろうけど、教授は、一般的には、その学術的内容や論文の形式に関してチェックするのであって、研究ネカトをチェックするのではない。

デソン・ムンが書き上げた時点で、指導教授は、博士論文をチェックしたハズだ。そして、教授に高い能力があれば、関連論文に目を通しているハズだから、「まてよ、別のあの論文によく似ているな」という勘と知識から、盗用ではないかと疑い始める可能性はある。

しかし、被盗用論文は別の大学の博士論文である。これはむつかしい。別の大学の博士論文は、自分が博士論文審査委員になるか、相当有名な博士論文以外、まず、他大学の教授は読まない。だから、指導教授は、実際は、盗用かもしれないと思いもしなかっただろう。

実際、指導教授は盗博を発見できなかった。でも、もし発見していたら、どうしただろう?

《4》遅すぎ!

博士論文は2007年8月に提出したものだ。

その5年後の2012年3月に疑念がもたれ、2012年4月20日、予備調査で盗博と発表。

その2年後の2014年3月に正式に盗博と発表し、博士号をはく奪。

さらにその2年後の2016年7月、国際オリンピック委員会(IOC)が、IOC委員の職務停止を科した。

なんか、どの組織も、判定が異常に遅くないか?

盗博は、被盗用論文と盗用論文を並べれば、誰が見ても、盗用が明白だ。つまり、証拠はハッキリとして、素人でもわかる。

調査・結論に年数がかかりすぎると、関係者は長期間苦痛であるし、関連機能が減速・停止・歪曲せざるを得ないことになる。大幅な遅延は不当だと感じる。

それなのに、どうして、こんなに遅いのだろう? いろいろな裏工作をしていたと推察されるが、裏工作で事件の調査結果をねつ造・改ざんしていないだろうな!

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《1》唖然!

16ジョンア・シンの最終学歴は高校卒である。博士号を取得していると経歴詐称して助教授になっても、学識がないし、研究方法を知らない。論文を書けないし、講義もできない。それを、青瓦台(大統領府)政策室長をセックスで操り、虎の威を借りる女狐で、大学の助教授と著名な美術館の学芸員主任になった。

58歳の青瓦台(大統領府)政策室長も、自分の権力をかさに、若い女性を食い物にするとは、ほとほとあきれる。韓国の腐敗ぶりは深刻だ。

日本にはこんな腐敗はないだろう、イヤ、あるわけがない。韓国とは違う。

と思いを巡らすと、イヤイヤ、若い女性の色香とオッサンの組み合わせの小保方事件がありましたな。

《2》唖然! その2

ジョンア・シンの経歴詐称は本格的である。イェール大学(Yale University)の大学院副院長のパメラ・シャーマイスター(Pamela Schirmeister)のサインをコピーペーストし、自分で博士号証書を偽造した。まるでニセ札造りである。そこまでするのは、スゴイ。

ただ、まだ驚いてはいけない。

さらに、その偽造博士号証書をパメラ・シャーマイスターに送付して、「博士号取得は事実です」という確証まで得ている。スパイ大作戦である。

残るは、イェール大学のサーバーに侵入し、入学記録と博士号授与記録に自分のことを電子的に書き加え、クリスティン・メーリング教授を毒殺すれば、ほぼ完ぺきだったろう。

日本では、卒業証書や学位証書を偽造する経歴詐称があるんだろうか? あるんですね(①大学の卒業証明書類を偽造・販売するブローカー : 大学プロデューサーズ・ノート、②+ 何でも便利屋24時 + 東京・アリバイ・その他証明(在籍確認のお手伝い・勤務先アリバイ・架空身分証明書・架空卒業証書・架空卒業証明書・架空学位記作成etc・在籍確認のお手伝い・勤務先アリバイ)(便利屋))。

もっとも、通常は、簡単に偽造できない。

普通に考えて複写可能な形式であるFAXで学位証明書を出すっておかしいんですが。少なくとも大学の名前入りの書式で郵送してくるのでは? 

エール大学だと、文書にエンボスくらい押してあるかも知れん。日本の大学なら文書の右肩に当然割印を押してある。(証明書発行簿に割印を押すのが普通)。(出典:天漢日乗

《3》経歴詐称で刑務所?

経歴詐称で金庫18か月の刑は、日本にも取り入れたらいい。

と最初思ったが、そうではなかった。経歴詐称で刑務所刑が科されたわけではなかった。ソンゴク美術館から約3億2千万ウォン(約3,000万円)を横領した罪だった。

多数の研究ネカト事件を調べていると、ねつ造・改ざん・盗用しただけで、刑事罰を科す方がスッキリする。

経歴詐称しても刑事罰が科せないと、ただ謝って、活動を休止し、ほとぼりが冷めた頃、復帰する。つまり、ゴメンと謝って済ませてしまう。

誤解させてはいけないので、書いておく。経歴詐称は、日本では、軽犯罪法違反や詐欺罪・私文書偽造罪になる可能性がある(学歴詐称 – Wikipedia)。ジョンア・シン

ただ、経営コンサルタントのショーンKのように、法的にはおとがめなし、となる場合が多い。これじゃ、「正直者が馬鹿を見る」わけだ。だから、まだまだ、韓国でも日本でも経歴詐称をするでしょう。した方が得なんだから(見つからなければ)。

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《1》韓国研究文化

韓国は2005年末にウソク・ファンの研究ネカト事件で大騒動をおこした。今回のテグク・キム事件は、そのほとぼりが冷めないうちの事件である。

「韓国はどうなっているのだ!」、と思いたいが、日本も欧米でも研究ネカト事件が連続して起こっている。だから、同じ国で連続して起こることは、普通である。韓国の特徴ではない。

しかし、あれだけの事件を起こしたウソク・ファンは、2011年頃から実験に復帰し、クローン動物を作り始めている。韓国は建前上は研究界から追放したとしているが、なんか、おかしい。

「韓国の学会では論文の盗用やねつ造は珍しくない。最近でも、有名な学者が論文を盗用した事件が相次いでいます。しかし、数年したら何もなかったかのように現場復帰するはずです。よくいえば生命力が強いし、悪く言えば無責任と言いますか……。韓国には権力のある人間がスキャンダルを起こしても、生き残れる社会構造がある。財閥の人間が捕まっても恩赦で許されるのと同じ構造です」(韓国大手紙記者)(出典:2015年1月2日の中川武司の記事:2004年にES細胞をねつ造した韓国の教授 現在も医学会に健在 – ライブドアニュース

韓国の研究ネカトを調べると、韓国の研究文化は国際的な研究ネカト規範と異質な印象だ。

2012年の米国の新聞に、「韓国は盗用天国(”plagiarizers’ paradise”)」だと書かれている。 →  Another plagiarist on IOC? – Chicago Tribune

韓国の研究ネカト腐敗は大きく深い。早急に何とかすべきだ。

《2》国外逃亡

調査委員と会談した数日後、テグク・キムは韓国から米国(推定)に逃亡した。米国に留学していたから米国在住の友人もいるだろう。お金も不自由しないだろう。高い知的能力があるし、犯罪者ではないので、雇用する人もいるだろう。

研究ネカトは犯罪でないので、調査結果が出る前でも後でも、出国できる。しかし、今まで数百件の研究者の事件を調べてきたが、調査開始直後に国外逃亡した被疑者は珍しい。

所属機関から解雇されるだろうが、調査委員会は研究ネカトを公正に調査できず、結局、事実に基づく正確な結論を出せない(推定)。

日本で被疑者が国外逃亡したらどうなるのだろうか?

【追記:2016年7月30日】
「世界変動展望」さんが、「日本で被疑者が国外逃亡」例を詳しく述べてくれた。ありがとうございます。 → 研究不正の調査後に国外逃亡した例 – 世界変動展望

《3》改善点の指摘

「Nat Chem Biol.」編集局は論文で、事件の対処について、韓国先端科学技術院(KAIST)に改善点を指摘している(【主要情報源】⑤)。

韓国先端科学技術院(KAIST)及び韓国の学術界は傾聴した方がいい。

  1. 調査委員会の最終報告を速やかに行なう
    学術誌編集局はできるだけ早く論文を処置(撤回、訂正、懸念表明)したい。読者が知らずに正しいと思って論文を読むと、科学的な悪影響を与える。ところが、韓国先端科学技術院は数か月も経過するのにグズグズして最終報告書を公表しない。
  2.  世間への公表前に、報告内容を関係部局(学術誌編集局)と事前に調整する
    2008年2月29日、韓国先端科学技術院は予備調査の結果をマスメディアに公表した。しかし、学術誌編集局には事前に知らせなかった。そことで、公表内容に正確さを欠く恐れがあると、「Nat Chem Biol.」編集局は論文で叱責している。
  3. 透明性を高める
    研究ネカトでは、①大学・研究機関の調査過程、②何が悪かったか、③著者、の3点の透明性をもっと高めるべきである。
  4. 事件の全容を学術誌編集局に提供する
    韓国先端科学技術院・調査委員会が審議を終えたら、学術誌編集局は事件のあらましを世界に広く英語で伝えるので、韓国先端科学技術院は事件の全容を学術誌編集局に提供すべきだ。

日本も学びましょうね。

大学は、文部科学省だけに報告するのではなく、関連する学術誌編集局及びマスメディアにも詳細に伝えて下さいね。

くれぐれも、研究ネカト者を匿名としないでくださいね。まるで、大学が、悪い人をカバっている、秘匿している(極端に書くと、研究ネカト者を擁護している)ように受け取れます。

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《1》4ステップ説で事件が見える

「研究ネカト事件対処の4ステップ説」で、事件が見えてくる。どこをどのようにすると改善できるのかを把握できる。

日本は米国に比べると、4ステップのどれも弱体だが、特に、「第一次追及者」の重要性がまるで理解されていないことが分かる。

一方、ステップ4「後始末」の「大学・研究機関の研究倫理教育」が重視されていることが分かる。教育・研修は必須ではあるが、研究ネカト事件の対策としては、あまり有効ではないと、白楽は考えている。

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《1》事件内容がほとんど見えない

2016年7月19日現在、カンの撤回論文数は22報で、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文世界キングの第16位である(研究者の事件ランキング)。The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch

しかし、22撤回論文の内の4論文しか特定できていない。1論文は自己盗用、3論文は引用し忘れである。18撤回論文はどの論文なのか、撤回理由は何なのか、不明のままである。

特定できた4論文の学術誌は、パブメドの分析対象ではない。そういうマイナーな学術誌に“いい加減”な論文を多数出版し、内、22論文を撤回したと思われる。

ただ、カンの論文が研究ネカトだという報道はない。もっとも、この事件の英語報道が全くない。不思議だ。韓国語の記事は調べていない。

ギルソン・カン本人が論文撤回を学術誌編集局に申し出ているので、4論文の問題点はギルソン・カン本人またはギルソン・カン研究室の室員が見つけたと思われる。

しかし、22報も撤回論文があるのは、単なるミスを通り越している。所属大学が調査すべきだろう。

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《1》幹細胞研究はギャンブル?

ミタリポフ事件は小保方事件の1年前に起こったのだが、小保方さんもそうだが、ミタリポフもメディアへの露出が激しい。なんなのだろう? 幹細胞分野の特徴なのだろうか? そうなら、どうしてなのだろうか? じっくり積み上げて研究成果を出すというより、思い付きで一攫千金を狙うギャンブル的研究スタイルだからなのだろうか?

マー、メディアへの露出が激しくてもいいけど、幹細胞分野では、次々と、ねつ造・改ざん事件が、イヤ、今回は「間違い」事件ですが、起こっている。ナンなんでしょう?

《2》間違い3回で、合わせて不正1本?

ミタリポフ事件は「間違い」事件とされたが、2016年7月13日現在、5論文も訂正している。「2009年のネイチャー」論文と今回の「2013年のセル(Cell)」論文は2論文とも立花真仁が第一著者の訂正論文である。なんかヘンだ。

「間違い」は、大学入試を含め各種試験では1回も許されず不合格です。一般社会では、許されたとしても1回でしょう。百歩譲っても「仏の顔も三度まで」で3回です。

柔道の「ワザアリ2回で、合わせて一本」のように、学術界も「間違い3回で、合わせて不正1本」というのはどうでしょう。もちろん「間違い」の内容によります。

しかし、「間違い」が5回も許されるのはヘンです。10回でも、100回でも、1000回でも、ノー・ペナルティで、許されるんでしょうか?

《3》「ねつ造・改ざん」と「間違い」の境界

「間違い」が5回は「ヘン」だが、「ヘン」は置いときます。では、「ねつ造・改ざん」と「間違い」の境界はナンなんでしょう?

第一著者の立花さんは、日本経済新聞の記者の質問に「(ミタリポフ)博士や大学側と相談しないとコメントできない」と回答している。詮索して悪いけど、「ねつ造・改ざんはしてません。間違いです」って、どうして答えられないのだろうか? 子供の使いじゃあるまし、30代の第一著者の研究者(東北大学・助教)の回答としては、なんかヘンだ。

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ピクニックでのミタリホフと立花真仁(たちばな まさひと)。出典

ボスのミタリポフが「メディアへの対応はワシが一手に引き受けるから、お前は何も言うな」と指示したのだろうし、それは不当でも違法でもない。複雑で微妙な問題になれば、ポスドクは正確に答えられない。一方、優れた記者はきわどい質問をする。

しかし、日本の記者の質問に、30代の第一著者の研究者が「不正はしてません」とも言わないのは、普通に考えてヘンだ。

穿って深読みすると、「シマッタ!」と思う部分があったために(推定)、「(ミタリポフ)博士や大学側と相談しないとコメントできない」と回答したのだろう。

とはいえ、ミタリポフは対応が早かった。動画を見ると、メディアへの対応が上手で、人柄が良いという印象を受ける。

つまり、「対応が上手で、人柄が良い」場合、学術界それに社会一般は「間違い」で処置してくれる、という、印象を持ってしまう。この基準、好きになれません。

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《1》他の論文は?

schwarzenbacher_5052355本文で、「他の研究室がタンパク質を精製し、シュワルツェンバッハーの研究室に送ってくる。シュワルツェンバッハーはそれを結晶化し、構造解析する」と書いた。

となると、「2010年のJournal of Immunology」論文1報だけが問題視されたが、他の論文にもデータねつ造があるだろう(推定)。

シュワルツェンバッハーの全論文に疑念がある。しかし、それらを精査する機関・予算・必要・意志はないように思える。

精査しなくても、研究者はシュワルツェンバッハーの全論文を信用しない。これで実害なしということだろうか?

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《1》非学術的な文章の盗用基準

Alejandro Zaera-Polo1 本文中に書いたが、【盗用した文章と被盗用の文章の比較表が見つからない。ウェブから削除されたようだ。従って、白楽自身が、盗用なのかどうか判断しにくい。】

ザエラ=ポロの主張する「学術的な文章と非学術的な文章では、盗用の基準は異なる」は、一般論としては、どうだろう? そうかもしれないが、そうでないかもしれない。「盗用の基準」のどこを指しているかに依る。

非学術的な文章でも、引用しなければ、盗用に該当する。そして、建築展のカタログの文章は、専門性の高い文章であり、「学術的」文章だ。なお、再度述べるが、白楽は「盗用した文章と被盗用の文章の比較表」を見ていないので、正確な判断はできない。

それにしても、どうして、「盗用した文章と被盗用の文章の比較表」が見つからないのだろう?

通常は、有利な方が、匿名でリークしてでも、ウェブにアップすると思うのだが、プリンストン大学側に不都合な真実があるのだろうか?

《2》研究ネカトの確定

研究ネカトでは、どの段階で、研究ネカトだと確定するのか?

一般的には、白楽の「研究ネカト対処の4ステップ説」で示すように、研究ネカトの確定は、「ステップ3の当局(オーソリティ)」が確定する。

通常はそれでよいのだが、問題は、当局(オーソリティ)が評価・処分を間違えたときどうするかである。なにせ、当局(オーソリティ)の決定を修正する仕組みは、本来は修正の必要がないので、十分には発達していない。当局(オーソリティ)の決定が簡単に覆る、あるいは、修正されるたぐいのものではないからだ。

とはいえ、裁判でも三審制である。裁判官が間違える仕組みを組み込んである。

今回の事件では、プリンストン大学が「当局(オーソリティ)」である。そして、当局(オーソリティ)が間違えた(箇所があるらしい)。

調査委員会などの正式調査をしないで学長が乗り出し、処分を急ぎすぎた。さらに、疑惑の“盗用”は、本当に盗用が妥当だった、過剰反応だったのか? 関係者の利害が絡み、微妙な問題になっている。

ザエラ=ポロの調査要求や情報公開をプリンストン大学が却下した理由がわからない。オンライン・フォーラム「Architect」の投稿内容を、事実かどうかの調査もせずに、アイスグルーバー学長が信じた印象がある。

プリンストン大学のアイスグルーバー学長はプリンストン大学の物理学科出身だが、後に、法学に進み法務博士(JD)も取得している。理系と文系の両方をカバーできる人物と思われる。思うに、学部長(ザエラ=ポロ)と学長の学内政治抗争が裏にあるのだろう。

しかし、一般的に、当局(オーソリティ)の決定と言えども、当局(オーソリティ)の“人間”が決定している。人間は間違える。人間は欲得でねつ造・改ざんをする。当局(オーソリティ)の決定を修正する仕組みが必要だ。

仕組みの1つは、今回のように研究者や知識人の意見である。研究者や知識人の意見が修正を引き起こす可能性がある。そして、もう1つは、大学とは別の当局(オーソリティ)、科学的問題を専門的に精査・裁定する国家機関が必要だと思う。そういう組織は米国にもないので、ここでは、裁判所が、今回の決着をつける事になるのだろう。

《3》実業界と学術界

一般的には、アレハンドロ・ザエラ=ポロ(Alejandro Zaera-Polo)のように、建築という実業界では世界的に著名で、なおかつ、プリンストン大学・学部長という学術界での主要なポストを占める場合、学術界からは、排斥されがちだ。

実業界と学術界の2つのスタイルの間で衝突が起きやすい。

通常、実業界の人間が学術界にくると、研究公正の知識・スキルが不足していて、研究ネカトを起こしがちである。研究ネカトは、大学院で習得する知識・スキルなので、そこをスキップして学術界に入ってくる実業界出身の人は研究ネカトのポイントを理解していない。

日本では、このようなケースが多い。日本では、官僚が大学教授に天下る。また実業界の人間が産学連携、観光学などの教授に採用される。一般的に、この人たちの研究ネカトの意識・知識・スキルが低い。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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