7-57 デタラメ論文と批判されたら

2020年6月22日掲載 

白楽の意図:自分の論文がデタラメ論文と強く批判された時、どのように対処すべきかを示したアンディ・テイ(Andy Tay、2017年夏に理研在籍)の「2020年6月のNature Index」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

白楽注:本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 単著者:アンディ・テイ(Andy Tay、Andy TAY Kah Ping)
  • 紹介:
  • 写真:http://blogs.nature.com/naturejobs/2017/07/14/an-overseas-research-interns-journey-in-japan/
  • ORCID iD:
  • 履歴:①:https://www.linkedin.com/in/andy-kah-ping-tay-8583268b/、②:Dr. TAY Kah Ping, Andy – Biomedical Engineering
  • 国:シンガポール
  • 生年月日:シンガポール。現在の年齢:29 歳?
  • 学歴:シンガポールのシンガポール国立大学 (National University of Singapore)で2014年に学士号(生物工学)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で2017年に研究博士号(PhD)取得
  • 分野:免疫工学
  • 論文出版時の所属・地位:2020年からシンガポール国立大学・助教授(Assistant Professor、National University of Singapore)

シンガポール国立大学・生物医学工学科(Department of Biomedical Engineering, National University of Singapore)。写真出典

●3.【日本語の予備解説】

なし

●4.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

《1》序論 

イスラエルの化学者・ダニエル・シェヒトマン(Daniel Shechtman、写真出典)は準結晶(quasi-crystals)の発見を論文発表した時、その後の批判の嵐に備える準備を何もしていなかった。

シェヒトマンが提唱した準結晶の概念は、「結晶は規則正しい繰り返す原子構造を持つ」という従来の結晶の概念に対する挑戦だった。

現在、イスラエル工科大学(Technion-Israel Institute of Technology)・名誉教授のシェヒトマンは、次のように述べた。

「私の研究成果を発表する前、私の発見を知っている科学者はほんの数人でした。そして、彼らの反応はさまざまでした。多くの人は適切なデータだと思っていましたが、一部の人はデタラメなデータだと思っていました」。

「私自身が私の最も辛らつな批評家として、自分の研究結果を繰り返し繰り返し確認しました。それで、私の研究結果は間違っていないと確信していました。それで、私の研究結果についての他人の批判を、私自身はあまり気にしませんでした」。

シェヒトマンは研究結果を「1984年のフィジカル・レビュー・レター(Physical Review Letters)」論文として発表した。

このとき以来、アメリカの結晶化学界の巨人・ライナス・ポーリング(Linus Pauling、1954年のノーベル化学賞受賞者)が率いる強力な反準結晶コミュニティがシェヒトマンの準結晶を激しく批判した。ポーリングの批判に賛同する人は多く、シェヒトマンは世界を敵にまわす格好になった。その批判は、ライナス・ポーリングが1994年に93歳で亡くなるまでの10年間続いた。
 → 2013年1月6日の「Guardian」記事:Dan Shechtman: ‘Linus Pauling said I was talking nonsense’

「反準結晶コミュニティの激しい批判の影響で、私の昇進は数回遅れました」と、シェヒトマンは回想する。

しかし、2011年、準結晶の発見により、シェヒトマンはノーベル化学賞を受賞した。とはいえ、彼を批判した多数の研究者は誰も彼に謝罪しなかった。

研究者は誰でも、学術的な議論に参加できる。その議論は、研究の妥当性に関する議論として、研究界では真っ当で健全な行為とみなされている。

しかし、他人からの批判に慣れていない若い初期キャリア研究者(ECR:early career researchers)は、強く批判されると、自信をなくし、研究をやめてしまうかもしれない。

特に、多くの研究者の目に触れるメディアで批判されると、ストレスはますます高くなる。例えばドイツのウイルス学者クリスチャン・ドロステン(Christian Drosten)は、最近の新型コロナウイルスの発言で、ドイツ最大の日刊新聞・ビルト (Bild)にひどく叩かれた。
 → 2020年6月2日の「Times Higher Education (THE)」記事:German ‘star virologist’ targeted in tabloid campaign

それで、研究の最前線にいる研究者が論争の的となる研究結果を発表した時の対処法を、次節以降、3つお教えしよう。

《2》対処法1.データの再現性を確保する 

シェヒトマンの準結晶に関する研究成果を最も声高に批判したライナス・ポーリングは、世界の化学界のアイドルでスーパースターだった。しかも、結晶化学で60年の研究経験があった。

シェヒトマンは、論文が批判を浴びた初期キャリア研究者へのアドバイスとして、「実験結果が再現できることを確認し、自分の判断を信頼する。たとえ研究結果の妥当性が議論されても、実験結果が再現できれば、あなたは自分の研究成果を守る準備はできている」と述べた。

そして、「自分の研究公正を保ち、自信を持って自分の研究成果を主張せよ」、と。

《3》対処法2.感情を抑え学術的な議論を繰り広げる 

2015年、中国の中国科学院・合肥物理科学研究所(Hefei Institutes of Physical Science of Chinese Academy of Sciences)のカン・シエ教授(Can Xie、写真出典)は、マグアール(MagR:magnetic receptor)と呼ばれるタンパク質を特定した(以下の論文)。
 → 2015 年11月16日の「Nature Materials」論文:A magnetic protein biocompass

マグアール(MagR)は磁気を感じるタンパク質で、今まで不明であった生物の磁気感知を説明できそうだ。例えば、オオカバマダラ(蝶の一種)、サケ、コウモリ、渡り鳥などの動物が地球の磁場をどのように感知できるかの仕組みが解けそうである。

シエ教授は、磁気遺伝学(magnetogenetics)と呼ぶ新しい学問領域を提唱している。光遺伝学(optogenetics)では光で脳の活動を制御するのと同じように、磁気遺伝学では磁場を利用して細胞とタンパク質を制御できるのと考えている。

シエ教授の論文は強く批判された。カリフォルニア工科大学のマーカス・マイスター教授(Marcus Meister、男性、写真出典)とマサチューセッツ工科大学(MIT)のポーリナ・アニキバ準教授(Polina Anikeeva、女性、写真出典)は、2016年、シエ教授の研究成果を疑問視する論文を別々に発表した(以下)。
 → 2016年のマーカス・マイスター教授の論文:Physical limits to magnetogenetics | eLife
 → 2016年のポーリナ・アニキバ準教授の論文:Magnetogenetics: Problems on the back of an envelope | eLife

一方、中国の北京計算科学研究センター(Beijing Computational Science Research Center)の院生・ダーウー・シャオ(Da-Wu Xiao、肖大武、写真出典)が第一著者の「2020年3月のフィジカル・レビュー・レター(Physical Review Letters)」論文は、シエ教授の主張を支持している。

シエ教授は、「研究成果への批判は、私の昇進や助成金申請にマイナスだったが、自分の研究が広く認知され、別の大きなサポートが得られた」と語った。

シエ教授は、「若い科学者への私のアドバイスは、自分が強く関心を抱く科学的課題の解決に集中し、他の研究者の感情的な批判にあまり動揺しないことです」と述べた。

マイスター教授は、「研究成果を批判する場合、議論は思い込みや感情的ではなく、学術的にすることが重要です。私たち全員が正答を求めて正答誤答の中で模索しているので、誤答を見つけたときは誤答を修正する必要があります。学術的な議論の結果、誠実な間違いが見つかったら、それを認め、学び、次に進むことが最善です。誠実な間違いは大したことではありません」と述べている。

《4》対処法3.反論するプラットフォームを慎重に選択する 

マイスター教授は、初期キャリア研究者に、自分の研究成果が批判されたら、公開されるプラットフォームで専門的に反論するようアドバイスしている。

社交メディア(ツイッターなど)は人気のあるプラットフォームで、そこで学術的な討論をする研究者も多数いる。しかし、文字数が数百文字に制限されているプラットフォームで反論の議論をすべきではない。

マイスター教授は、学術誌の編集者に手紙を書くことも最善の方法ではないと考えている。手紙を書く代わりに、プレプリント出版またはブログ投稿を推奨している。この2つのプラットフォームは、記述を柔軟に制御できる。また、経験上、読んで欲しい研究者に自分の主張をより効果的に伝えることができる。

一方、学術的「PLOS ONE」のヨーグ・ヒーバー編集長(Joerg Heber、写真出典)は、「編集者として、私たちは、私たちが公開した科学的記録の管理人であり、すべての深刻な懸念をフォローアップすることは私たちの責任です」と、研究者が学術的な議論の一部として編集者に手紙を書くことを歓迎している。

●5.【関連情報】

なし

●6.【白楽の感想】

《1》誤解 

論文表題のまともな日本語訳は「研究が攻撃の的になったときの対処法」である。

白楽は、「攻撃の的」というのは「ネカト攻撃」と誤解した。本論文では、ネカト攻撃も含むが、主眼は、考え方や論点の相違による学問上の攻撃だった。誤解は、白楽の早とちりのせいで著者・アンディ・テイ(Andy Tay)のせいではない。

なお、本記事は、「ネカトと攻撃された」時の対処に、それなりに、役に立つ。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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