ファ・タン(汤华、唐華、Hua Tang)(中国)

2021年5月10日掲載 

ワンポイント:タンは天津医科大学(Tianjin Medical University)・教授である。2020年12月(59歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がブログと「パブピア(PubPeer)」でタンの45論文にデータねつ造・改ざんがあると指摘した。2021年5月9日現在、2001~2020年(40~59歳?)の20年間の53論文が問題視されている。撤回論文は2報。天津医科大学がネカト調査をしているかどうか不明で、タン及び室員は無処分である。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「13」に挙げられたので記事にした。国民の損害額(推定)は今のところ1億円(大雑把)。

【追記】
・2022年5月13日、中国国家自然科学基金(National Natural Science Foundation of China:NSFC)は、「2022年に調査したネカト行為の処分に関する決定(第1弾)」を発表し、タンを処分した:2022年5月13日の「国家自然科学基金委员会」記事:2022年查处的科研不端案件处理决定(第一批次)
・2021年6月24日記事:‘We apologize again for the inadvertent mistakes during the assembly of data due to our carelessness’ – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ファ・タン(汤华、唐華、Hua Tang、Hua Lucy Tang ORCID iD:?、写真出典)は、中国の天津医科大学(Tianjin Medical University)・教授・医師で、専門はがん細胞学(microRNAs)である。

2020年12月(59歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がブログと「パブピア(PubPeer)」でタンの45論文にデータねつ造・改ざんがあると指摘した。

2021年5月9日(60歳?)現在、「パブピア(PubPeer)」では2001~2020年(40~59歳?)の20年間の53論文が問題だと指摘されている。撤回論文は2報しかない。

どのような状況で誰が不適切な画像を発表したのか、状況は全くわからない。

仮に不正なデータねつ造・改ざんだとしても、タンがネカト犯ではなく室員がネカト犯かもしれない。

天津医科大学がネカト調査をしているかどうか不明で、タン及び室員は無処分である。

この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「13」に挙げられた。

天津医科大学(Tianjin Medical University)。写真出典

  • 国:中国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:南華大学(旧衡陽医科大学)
  • 研究博士号(PhD)取得:天津医科大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1961年1月1日生まれとする。1979年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:63 歳?
  • 分野:がん細胞学
  • 不正論文発表:2001~2020年(40~59歳?)の20年間
  • 発覚年:2020年(59歳?)
  • 発覚時地位:天津医科大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)
  • ステップ2(メディア):「Science Integrity Digest」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②天津医科大学が調査しているかどうか不明
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査しているかどうか不明
  • 大学の透明性:調査しているかどうか不明(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:「パブピア(PubPeer)」で2001~2020年(40~59歳?)に出版された53論文に疑念。撤回論文は2報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は今のところ1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:汤华 – 天津医科大学 – 基础医学院

  • 生年月日:不明。仮に1961年1月1日生まれとする。1979年に大学に入学した時を18歳とした
  • 1979.9-1984.8(18-23歳?):南華大学(旧衡陽医科大学)(University of South China)、臨床医学部、医学士
  • 1984.9-1987.7(23-26歳?):天津医科大学(Tianjin Medical University)で修士号取得:微生物学
  • 1987.8-1990.7(26-29歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:微生物学
  • 1990.8-1991.12(29-30歳?):天津医科大学・微生物学部・講師
  • 1992.1-1993.12(31-32歳?):上海医科大学、復旦大学、ウイルス学、ポスドク
  • 1992.10-1993.12(31-32歳?):上海医科大学、復旦大学、副教授
  • 1994.1-1997.5(33-36歳?):米国のハーバード大学・ポスドク、腫瘍学
  • 1997.6-2002.5(36-41歳?):米国のハーバード大学・講師
  • 2001.8-現在(40歳? -):天津医科大学・教授
  • 2020年12月(59歳?):エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が45論文のデータねつ造・改ざん疑惑を指摘した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★経緯

ファ・タン(汤华、Hua Tang、写真出典)のネカト状況はほとんど不明である。

2020年12月(59歳?)、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がブログと「パブピア(PubPeer)」でタンの45論文のデータねつ造・改ざんを指摘した。

タンは7件の指摘に回答し、8報の論文を訂正し、1報を撤回した。

タンは、「間違いをご指摘いただき、誠にありがとうございます。出版用に原稿を作成していた時、写真を間違って準備してしまいました。正しい写真に更新します」と答えている。

白楽は、この手の不適切な画像は、ほぼ確実に「データねつ造・改ざん」だと思う。しかし、「間違えました」と謝罪されると、これ以上、不正を追及できない。

仮に不正なデータねつ造・改ざんだとしても、タンがネカト犯ではなく室員がネカト犯なのかもしれない。

天津医科大学がネカト調査をしているかどうか不明で、タン及び室員は無処分である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

ファ・タン(汤华、唐華、Hua Tang)の疑念論文をパブピアで探ったが、53論文もあるので全部は示せない。

以下に、どの論文と示さないが、不正画像を3セット、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の記事から選んで貼り付けた。 出典は → 2020年12月28日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Forty five papers from Tianjin Medical University – Science Integrity Digest

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年5月9日現在、パブメド(PubMed)で、ファ・タン(汤华、Hua Tang)の論文を「Hua Tang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の609論文がヒットした。

2021年5月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

「Tang H」で検索すると、 9,779論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。

2021年5月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、7論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年5月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでファ・タン(汤华、Hua Tang)を「Hua Tang」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、 2論文が撤回されていた。

「2013年6月のPLoS One」論文が2020年5月に、「2016年2月のDNA Cell Biol.」論文が2021年1月に、撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年5月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ファ・タン(汤华、Hua Tang)の論文のコメントを「”Hua Tang”」で検索すると、2001~2020年(40~59歳?)の20年間の53論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》「間違い」

以下は、「ツンユー・ワン(王存玉、Cun-Yu Wang)(米) | 白楽の研究者倫理」に書いたのと基本的に同じである。

ネカトと思われるのに、ネカト犯が「間違えました、スミマセン、論文を訂正します」と対応すると、現在のルールでは、それ以上、追求しなくてもよい状況がある。

「間違えました、スミマセン、論文を訂正します」と対応されても、実際はネカトであることがかなりある。ネカト調査の結果、「間違い」ではなく「ネカト」と判定することもできる。調査主体である大学の胸先三寸で決まる。

ファ・タン(汤华、唐華、Hua Tang)の疑惑論文のほとんどは、この「間違いでした」で済ませている。

イインだろうか?

「間違い」は全部、ネカトハンターの指摘に対しての回答である。自発的に「間違い」に気がついての訂正ではない。

白楽が思うに、意図的な “間違い”(早い話、「ねつ造・改ざん」)なので、著者は最初から“間違い”(ねつ造・改ざん)を知っている。その“間違い”(ねつ造・改ざん)が他人に気付かれなければ、そのままにしておきたい。だから、自発的に「間違い」に気付くということはあり得ない。それで、ネカトハンターに指摘されると、その都度、「間違い」を謝罪し、論文を訂正する。

このスタイル、不正に分類すべきだと思う。

ファ・タン(汤华、唐華、Hua Tang) http://news.haiwainet.cn/n/2019/0923/c3544358-31633523.html?nojump=1

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① 天津医科大学のファ・タン(Hua Tang)のサイト:汤华 – 天津医科大学 – 基础医学院保存版
② 2020年12月28日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Forty five papers from Tianjin Medical University – Science Integrity Digest
③ 2021年1月7日の記事:这所大学知名教授近五成SCI论文涉嫌学术不端,有待进一步调查_汤华保存版
④ 微博:学术不端:天津医大教授汤华43篇论文被疑造… 来自哈勃观察员 – 微博保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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Mr.
Mr.
2021年5月13日 10:46 AM

この前、中国の友人(現役大学教授)と論文不正の話しをしたら、彼が言うのは、論文ねつ造が文化になっている、当局からは調査しない。