盗博:国際関係学:モニカ・クローリー(Monica Crowley)(米)

2017年6月11日掲載。

ワンポイント:2000年(31歳)にコロンビア大学で国際関係学の研究博士号(PhD)を取得した政治コメンテーター、ロビーストである。2016年12月19日(48歳)、大統領に選出されたトランプが、クローリーを国家安全保障会議の戦略広報部長の候補者に指名した。2017年1月9日(48歳)、17年前の博士論文に盗用が発覚し、1週間後、戦略広報部長への就任を辞退した。2017年6月10日現在(48歳)、博士号ははく奪されていない。盗用ページ率は4%で、盗用文字率は約?%である。損害額の総額(推定)は?万円。

【追記】
・2019年12月20日記事:盗用はあるがネカトではないとコロンビア大学が結論:Columbia Inquiry Found Plagiarism in Monica Crowley’s Dissertation – The New York Times
・2019年4月18日記事:財務長官の広報官に就任:Steve Mnuchin Reportedly Plans to Hire Fox News’ Monica Crowley

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

モニカ・クローリー(Monica Crowley、写真出典)は、2000年(31歳)にコロンビア大学で国際関係学の研究博士号(PhD)を取得した政治コメンテーター、ロビーストである。1996から2017年までテレビのFOXニュースのコメンテーターだった。

2016年12月19日(48歳)、大統領に選出されたトランプが、クローリーを国家安全保障会議の戦略広報部長の候補者に指名した。

2017年1月9日(48歳)、政治メディアのポリティコ(Politico)がクローリーの博士論文に盗用があったと発表した。

2017年1月17日(48歳)、国家安全保障会議の戦略広報部長に就任しないと表明した。

2017年6月10日現在(48歳)、コロンビア大学はクローリーの博士号をはく奪していない。

クローリーは他にも著者での盗用が発覚したが、本ブログは研究者の事件を扱い、学術的である盗博に焦点を絞る。

コロンビア大学・国際関係・行政大学院(Columbia University – School of International and Public Affairs (SIPA) )・卒業式。写真出典

コロンビア大学・国際関係・行政大学院(Columbia University – School of International and Public Affairs (SIPA) )。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:コロンビア大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1968年9月19日
  • 現在の年齢:55 歳
  • 分野:国際関係学
  • 博士論文タイトル:Clearer Than Truth: Determining and Preserving Grand Strategy: The Evolution of American Policy Toward the People’s Republic of China Under Truman and Nixon
    (日本語訳):真実より明白:大規模戦略の決定と保存:中華人民共和国に対するトルーマン政権とニクソン政権下のアメリカの政策の進化
  • 博士論文指導教授: リチャード・ベッツ(Richard K. Betts、写真出典
  • 公開: 書籍
  • 盗博発覚年月日:2017年1月9日(48歳)
  • 盗用ページ率:4%
  • 盗用文字率:約?%
  • 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪なし
  • 最初の不正文章発表:1999年(31歳)
  • 発覚時地位:国家安全保障会議の戦略広報部長の候補者
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は政治メディアのポリティコ(Politico)で、盗博を記事にした
  • ステップ2(メディア): 「ポリティコ(Politico)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①なし
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:2つの著書と博士論文
  • 時期:キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は?億円
  • 結末:博士号はく奪なし。国家安全保障会議の戦略広報部長への就任辞退

●2.【経歴と経過】

主な出典:Monica Crowley | bio- married, husband, height, sister, engaged

  • 1968年9月19日:米国・アリゾナ州で生まれる
  • 1990年(22歳):ニューヨーク州のコルゲート大学(Colgate University)を卒業
  • 1990年7月3日-1994年(21-25歳):リチャード・ニクソン元大統領の助手
  • 1996-2017年(27-48歳):テレビのFOXニュースに就職。国際関係や政治を担当。後にコメンテーター
  • 1996年頃(27歳頃):ニューヨーク・ポスト紙のレギュラー・コラム執筆
  • 2000年(31歳):米国・コロンビア大学で研究博士号(PhD)を取得。国際関係学
  • 2016年12月(48歳):国家安全保障会議の戦略広報部長の有力候補者になる
  • 2017年1月7日(48歳):著書の盗用が発覚
  • 2017年1月9日(48歳):博士論文の盗用が発覚
  • 2017年1月17日(48歳):国家安全保障会議の戦略広報部長に就任しないと表明

●3.【動画】

動画はたくさんある。

【動画】
事件ニュース「After Plagiarism Reports Monica Crowley Won’t Take White House Job 」(英語)3分6秒
Aban News 2017/01/17 に公開:https://www.youtube.com/watch?v=K96-GOE3DnI → リンク切れ

【動画】
事件が起こる前の講演。演題「ニクソン大統領のために働いたモニカ・クローリー(Monica Crowley on Working for President Nixon)」(英語)43分13秒
Richard Nixon Foundation が 2012/07/18 に公開

●4.【日本語の解説】

この事件の日本語解説はたくさんあったが1つだけ引用する。

★2017年01月17日:AFPBB News「トランプ新政権、安保幹部候補が辞退 盗用疑惑相次ぎ」

出典 → ココ (保存版

【1月17日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)次期米大統領が国家安全保障会議(NSC)の戦略広報部門トップへの起用を発表していた保守系作家・コメンテーターのモニカ・クローリー(Monica Crowley)氏が、同ポスト就任を辞退する意向を表明した。クローリー氏をめぐっては、ベストセラーとなった著書の重要部分を他の文献から盗用した疑惑が取り沙汰されていた。

 FOXニュース(Fox News)の元コメンテーターであるクローリー氏は、かつてオンラインオピニオンの編集に携わっていた保守系紙ワシントン・タイムズ(Washington Times)を通じて就任辞退を発表。一方で、自著の盗作疑惑に関しては一切触れなかった。

 CNNテレビは今月7日、クローリー氏著書の数十か所で盗用が判明したと報道。これを受けて出版元のハーパーコリンズ(HarperCollins)は同著を回収した。

 次いで政治ニュースサイト「ポリティコ(Politico)」も、同氏が2000年、コロンビア大学(Columbia University)で米中関係をテーマに書いた博士論文でも、複数の盗用箇所が見つかったと指摘していた。(c)AFP

●5.【不正発覚の経緯と内容】

クローリーの盗用文書は1999年と2017年の2回発覚している。

博士論文は2000年に執筆したので、1999年の1回目の盗用発覚では対象外だった。

2017年の著書での盗用で盗博が発覚した。

本ブログは、研究ネカトが主題なので、盗博を主に扱い、1999年の文書での盗用発覚は軽く記載する。

なお、以下は予備知識である。

クローリーは学生時代にリチャード・ニクソン元大統領(大統領の任期は1969年1月20日 – 1974年8月9日)に手紙を書いた。それが縁で、リチャード・ニクソンは、1990年、彼女が22歳の時に研究助手として彼女を雇った。

クローリーはニクソンが最後に執筆した2冊の本を編集し、さらに、ニクソンの死後(1994年4月22日没)、彼について2冊の本を出版した。

クローリー(21-25歳)とリチャード・ニクソン元大統領。1990年7月3日-1994年の写真。出典

盗用発覚1回目:1999年

1999年(31歳)、クローリーはウォール・ストリート・ジャーナルに書いたリチャード・ニクソンに関するコラム「ニクソンがさよならと言った日(The Day Nixon Said Goodby)」で盗用が発覚した。

11年前の1988年にポール・ジョンソン(Paul Johnson)が書いた「リチャード・ニクソンを讃えて(In Praise of Richard Nixon)」の文章と酷似していると非難された。

クローリーは、ニューヨーク・タイムズ紙で、「確かに、文章には明確な類似点があります。ビックリしましたが、正直言って、私はポール・ジョンソンの文章を読んでいません。私は、資料を引用しないで使用するなどはしていません」と反論している。
→ 1999 年8月16日の記事:Media Talk; Journal Article on Nixon Conjures Deja Vu

盗用発覚2回目:2017年

2017年1月7日(48歳)、CNNが、クローリーの2012年の書籍「What the(Bleep)Just Happened」の盗用を発表した。約50か所盗用があった。

2017年1月9日(48歳)、上記の2日後、政治メディアのポリティコ(Politico)がクローリーの2000 年の博士論文に数十か所の盗用があったと報告した。

博士論文の盗用を詳しく見ていこう。

分野は国際関係学で、博士論文のタイトルは「Clearer Than Truth: Determining and Preserving Grand Strategy: The Evolution of American Policy Toward the People’s Republic of China Under Truman and Nixon」
(日本語訳):真実より明白:大規模戦略の決定と保存:中華人民共和国に対するトルーマン政権とニクソン政権下のアメリカの政策の進化

出版されているので、Google ブックスでヒットした(論文写真)。
以下に3例の盗用比較図を示す。

左側がクローリーの博士論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である(出典:【主要情報源】②)。

3つの盗用比較図を示したが、他に、4-5頁、22頁、24頁、177頁、181頁、453頁、182-3頁、355-356頁、 420-21頁での盗用比較図が示されている。

示された盗用部分が盗用のすべてとし、頁数を合算すると、17頁になる。

博士論文の本文は493頁ある。分析対象ページ数(表題、目次、表、図、文献、付録などを除いた部分)を9割とすると444ページになる。444ページ当たりで盗用ページ率を算出すると、17/444=0・038で4%となる。盗用文字率は算出していない。

【事件後の人生】

2017年1月16日(48歳)、盗博発覚の7日後、クローリーは、国家安全保障会議の戦略広報部長に就任しないと表明した。

2017年6月10日現在(48歳)、コロンビア大学はクローリーの博士号をはく奪していない。

なお、別人だが、コロンビア大学は以前、博士号をはく奪したことがある。はく奪そのものへの敷居は高くないと思われる。
→ 「博士号はく奪」:ベング・シゼン(Bengü Sezen) (米)

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》有名人の論文指導

大学院・研究初期で、研究のあり方を習得するときに、研究規範を習得させるべきだった。

そういう意味では博士論文指導教授のリチャード・ベッツ(Richard K. Betts)にある程度の責任がある。

ただ、クローリーの場合、既に、1990年に22歳でリチャード・ニクソン元大統領の助手になり、その後、テレビのFOXニュースに就職。国際関係や政治を担当、1996年頃(27歳頃)にはニューヨーク・ポスト紙のレギュラー・コラムを執筆していた。

博士論文を提出した2000年には、既に、有名人でメディアや政治の世界で大活躍していた。

そういう人に、学術的な論文の「指導」をするのは、難しい。本人が素直に聞かない。

ここだけの話だが、白楽も元NHKテレビのアナウンサーで現職の参議院議員を大学院生として研究指導したことがある。しかし、相手は、こちらの指導を素直に聞かない。つまり、指導が成り立たなかった。

ベッツ教授に「ある程度」の責任があると書いたが、「ある程度」はほぼゼロに近いだろう。

というわけで、有名人の論文を分析すれば、いろいろな問題が見つかるだろうと思う。

《2》博士号はく奪

2017年6月10日現在、コロンビア大学はクローリーの博士号をはく奪していない。

しかし、学術的な公正さから判断して、博士号をはく奪すべきだろう。

大学は弱腰なので、現政権の有力者に厳格な処分が科せない。学長は報復が怖いってことだろう。ッタク!

《3》盗用の再犯率

盗用の再犯率はどのくらいなのだろうか? 研究データはないと思う。

クローリーの場合、1999年(31歳)に、ウォール・ストリート・ジャーナルに書いたリチャード・ニクソンに関するコラムで盗用が指摘された。2000年に博士論文を提出しているので、丁度その頃、博士論文を執筆していたと思われる。

この時、ほとんどペナルティが科されていない。

それにしても、この時、どうして、クローリーはもう2度と盗用をしないと、自分を律せられなかったのか? それとも、盗用は不治の病で、再犯してしまうのだろうか?

ペナルティが科されなかったので、盗用を甘く見るようになったのかもしれない。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Monica Crowley – Wikipedia
② 2017年1月9日。アレックス・カトン(Alex Caton)とグレース・ワトキンス(Grace Watkins)の「POLITICO」記事:Monica Crowley Plagiarized Parts of Her Ph.D. Dissertation – POLITICO Magazine、(保存版
③ 2017年1月9日。マーガレット・ハートマン(Margaret Hartmann)の「nymag」記事:Trump Pick Monica Crowley Plagiarized Ph.D. Dissertation Too、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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