シラディチア・セン(Shiladitya Sen)(米)

2018年6月18日掲載。

ワンポイント:インドで修士号を取得後、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)で研究博士号(PhD)を取得し、同大学のポスドクになった。「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文と博士論文にネカトがあったことで、2016年6月3日、オハイオ州立大学はセンの博士号をはく奪した。2018年5月23日(33歳?)、研究公正局は、センにねつ造・改ざんがあったと発表し、3年間の締め出し処分を科した。損害額の総額(推定)は2億5400万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

シラディチア・セン(Shiladitya Sen、写真出典)は、インドで修士号を取得後、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)で研究博士号(PhD)を取得し、同大学のポスドクになった。専門は化学(タンパク質工学)だが、研究公正局がクロと判定したので本ブログでは生命科学の枠で扱った。

発覚は2015年(30歳?)だろう。同じ研究室の研究者が、センが出した熱溶融データに異常を見つけた。

2016年6月3日(31歳?)、オハイオ州立大学は調査し、「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文と博士論文にネカトがあったことで、センの博士号をはく奪した。また、調査結果を研究公正局に伝えた。

2018年5月23日(33歳?)、研究公正局は、センの2015年の2論文と2つの研究費申請書にねつ造・改ざんがあったと発表した。3年間の締め出し処分を科した。

cbec-slide-01-680-375オハイオ州立大学の化学生物分子工学・化学棟の完成図(Chemical and Biomolecular Engineering and Chemistry (CBEC) Building)。写真出典:CBEC | chemistry.osu.edu

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:オハイオ州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年、インド工科大学カラグプル校に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:33歳?
  • 分野:化学
  • 最初の不正論文発表:2013年(28歳?)
  • 発覚年:2015年(30歳?)?
  • 発覚時地位:オハイオ州立大学・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ研究室の研究員で、大学に公益通報(推定)
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①オハイオ州立大学・調査委員会。②研究公正局。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報。2報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は2億5400万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が3年間=6千万円。③院生の損害は②に含めた。④論文はNIHの研究費を受給している(例えば、共同県研究者Schultz PGのグラント:Project Information – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results)。損害額は推定で5千万円。⑤調査経費(大学と研究公正局と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。2報撤回=400万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。
  • 処分: NIHから 3年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年、インド工科大学カラグプル校に入学した時を18歳とした
  • 2003 – 2008年(18 – 23歳?):インド工科大学カラグプル校(Indian Institute of Technology, Kharagpur)で学士号・修士号取得:工業化学
  • 2008年 – 2013年(23-28歳?):米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)で研究博士号(PhD)を取得:化学
  • 2013年(28歳?):オハイオ州立大学・ポスドク
  • 2013年(28歳?):後で問題となる「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文を発表
  • 2015年(30歳?)?:不正研究が発覚する
  • 2016年(31歳?):オハイオ州立大学・辞職
  • 2016年6月(31歳?):オハイオ州立大学はセンの博士号をはく奪
  • 2018年5月23日(33歳?):研究公正局は、センにねつ造・改ざんがあったと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★博士号はく奪

シラディチア・セン(Shiladitya Sen)はインドで修士号を取得後、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)のトーマス・マグレリー準教授(Thomas J. Magliery、写真出典)の研究室で研究博士号(PhD)を取得し、同研究室のポスドクになった。

センはインド在住の時の2009年(23歳?)に第二著者で人生最初の論文を出版している。

マグレリー準教授の研究室で「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文を第二著者として出版した。この論文はセンの人生で2番目の論文だった。スクリプス研究所(Scripps Research Institute)との共同研究で、大きな成果だった。
→ 2013年3月4日の「スクリプス研究所」記事:Researchers Solve Mystery of Mutations in Antibodies

そして、この「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文にネカトが見つかった。

2015年ごろ、ネカトを見つけた人は不明だが、上記の論文とは無関係の研究遂行中に、オハイオ州立大学のシラディチア・センが出した熱溶融データの異常を見つけた。

オハイオ州立大学は調査委員会を設け、調査した。

2016年6月3日(31歳?)、オハイオ州立大学は「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文と博士論文でセンがネカトをしたと結論し、2013年に授与したセンの博士号をはく奪した。
→ 2016年6月3日記事:Ohio State University continues comprehensive fee freeze for second year | The Ohio State University

センの博士論文のタイトルは「ハイスループットおよびコンビナトリアル法を用いたタンパク質安定性向上のエンジニアリング(Engineering Proteins for Enhanced Stability using High-throughput and Combinatorial methods)」である。
→ OhioLINK ETD: Sen, Shiladitya

2017年9月(32歳?)、「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文は撤回された。

★研究公正局

2018年5月23日(33歳?)、研究公正局は、センが、以下の論文、博士論文、ポスター発表、指導教授の研究費申請書でねつ造・改ざんをしたと発表した。

  • PNAS 110(11):4261-4266, 2013 (hereafter referred to as “PNAS 2013”); retracted in PNAS 114(37):E7855, 2017 Sep
  • Sen, S. “Engineering Proteins for Enhanced Stability using High-Throughput and Combinatorial Methods.” OSU Doctoral Dissertation, 2013 (hereafter referred to as “thesis”)
  • poster presented at the Annual Symposium of the Protein Society in 2012 (hereafter referred to as “Poster 2012”)
  • R01 GM083114 and R01 GM083114-A1

ネカトの内容が、博士論文、ポスター発表、指導教授の研究費申請書のココですと記載されているが、これらを見ることはできない。見ることができるのは「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文だけである。

「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文でねつ造・改ざんデータを見てみよう。

研究公正局は、「2013年の Proc Natl Acad Sci U S A」論文の10個の図(図2A、2C、S2、S5など)、2つの表(表S3とS4)、関連テキストで、抗体93F3およびOKT3の体細胞変異の熱力学的効果のHTTSデータをねつ造・改ざんしたと指摘した。

論文の図2は以下である。しかし、ねつ造・改ざんだという図2A、2Cを見ても、どこがねつ造・改ざんなのかわからない。

論文の2つの表(表S3とS4)は以下である。しかし、こちらも、ねつ造・改ざんだという表S3とS4を見ても、どこがねつ造・改ざんなのかわからない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年6月17日現在、パブメド(PubMed)で、シラディチア・セン(Shiladitya Sen)の論文を「Shiladitya Sen [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2014年の6年間の5論文と2018年の撤回公告が1つヒットした。

2018年6月17日現在、「Shiladitya Sen [Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、以下の2論文が撤回されていた。

  1. Mutational analysis of 48G7 reveals that somatic hypermutation affects both antibody stability and binding affinity.
    Sun SB, Sen S, Kim NJ, Magliery TJ, Schultz PG, Wang F.
    J Am Chem Soc. 2013 Jul 10;135(27):9980-3. doi: 10.1021/ja402927u. Epub 2013 Jun 26. Retraction in: J Am Chem Soc. 2018 Feb 7;140(5):1976
  2. Somatic hypermutation maintains antibody thermodynamic stability during affinity maturation.
    Wang F, Sen S, Zhang Y, Ahmad I, Zhu X, Wilson IA, Smider VV, Magliery TJ, Schultz PG.
    Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Mar 12;110(11):4261-6. doi: 10.1073/pnas.1301810110. Epub 2013 Feb 25. Retraction in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Sep 12;114(37):E7855.

★パブピア(PubPeer)

2018年6月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シラディチア・セン(Shiladitya Sen)の論文のコメントはない: PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》数値のねつ造・改ざん

https://www.linkedin.com/in/shiladitya-sen-08b18b23/

電気泳動画像のねつ造・改ざんは第三者が見つけやすい。しかし、今回のような数値のねつ造・改ざんは第三者が見つけることはとても難しい。共同研究者が見つけて告発してくれないと表に出ない。

ということは、一般的に、数値のねつ造・改ざんはたくさん起こっていて、事件として表に出るのは、氷山に一角ということだ。

発覚しないとなると、ネカトは増える。

うまく検出するシステムや方法を確立すべきだろう。

《2》グズな研究公正局

2016年6月3日(31歳?)、オハイオ州立大学はセンがネカトをしたと判定し、2013年に授与したセンの博士号をはく奪した。

この時点で、オハイオ州立大学は調査報告書を研究公正局に提出したはずだ。

それなのに、それから2年も経った2018年5月23日(33歳?)に、研究公正局は、センのネカトを発表した。

調査にどうして2年も必要だったのか? 例によって、研究公正局の調査が遅すぎると非難されている。白楽も、遅すぎだと思う。

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●8.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)  2018年5月23日:Case Summary: Sen, Shiladitya | ORI – The Office of Research Integrity、(2) 2018年6月8日:NOT-OD-18-189: Findings of Research Misconduct
② 2017年9月1日以降の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Shiladitya Sen” – Retraction Watch
③ 2018年5月26日のジニー・バウマン(Jeannie Baumann)の「Bloomberg Law」記事:Former Ohio State Grad Student Fakes Lab Tests
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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