1‐3‐2.日本の研究ネカト問題

2017年11月11日掲載。

ワンポイント:日本の研究ネカトに対処するには、以下の3点を実施する。
第一、ネカトを犯罪とするネカト防止法を制定する。有罪なら刑罰を科す。
第二、警察がネカトを捜査する。
第三、大学にネカト研究をする研究室、ネカト人材育成のコースを設ける。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
概略
1.【全体像と契機】
2.【日本がすべき3点】
3.【信用・信頼】
4.【英語圏から見た日本のネカト】
5.白楽の感想
6.主要情報源
7.コメント
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●【概略】

http://blog.ethics-and-integrity.net/?p=728

ネカトが行なわれるのは研究者個人の悪行という面と研究システム(ネカト対策システム)の貧困という2つの面がある。

白楽は、研究システム(ネカト対策システム)の改善を主眼にしている。

日本のネカト対策システムは、模範とする米国に20~25年遅れているが、米国にも問題は多い。米国の問題点を有効的に克服するシステムである以下の3点を、日本は実行して欲しい。

第一、ネカトを犯罪とするネカト防止法を制定する。有罪なら刑罰を科す。
第二、警察がネカトを捜査する。
第三、大学にネカト研究をする研究室、ネカト人材育成のコースを設ける。

なお、「日本の研究ネカト問題」の背景や各項目は、韓国のネカト研究者に説明する形で、以下に記載した。そちらを参照していただきたい。
→ 8‐1.韓国の研究倫理政策研究プロジェクトの質問に白楽が回答 | 研究倫理(ネカト)

●1.【全体像と契機】

★全体像

  • 国:日本
  • 日本の研究倫理は、「研究者」「大学・研究機関」「メディア」「官僚と政治家」「学術組織」のどのセクターをとっても、ここが優れているという点がない。
  • 国の専門管理組織:ない
  • 研究ネカト数:毎年約30人公表。内訳 → 2017年30人(2017年11月8日現在)、2016年31人、2015年30人、2014年34人:日本のネカト・クログレイ事件一覧 | 研究倫理(ネカト)
  • 研究ネカト対処公的機関:①大学・研究所。②各省庁・研究助成機関。
    各省庁(文部科学省が先導)はルールを作るが、実際の調査はしない。実際の調査は研究者の所属大学・研究所に任せている。
  • 研究ネカト対処私的機関:ない。外国の機関に依存している。例えば、①撤回監視(リトラクション・ウオッチ:Retraction Watch)。②パブピア(PubPeer)

★有名な事件と改革の契機

  • 有名な国内事件①:2000年、藤村新一の旧石器捏造事件が発覚した。分野は考古学。
  • 有名な国内事件②:2014年の小保方晴子事件。分野は生命科学。理化学研究所の若い女性研究員のデータねつ造事件。

2000年11月5日、民間の考古学研究者である藤村新一の旧石器ねつ造事件が発覚した。メディアがこのねつ造事件を大々的に報じた。
→ 旧石器捏造事件 – Wikipedia

この旧石器ねつ造事件が契機になり、その後、テレビや新聞が大学・研究所の研究ネカト(ねつ造・改ざん・盗用)事件と研究費不正事件を報道するようになった。(8‐1.韓国の研究倫理政策研究プロジェクトの質問に白楽が回答 | 研究倫理(ネカト)

http://inoues.net/netuzou.htm

2006年8月8日、文部科学省が「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて」を発表し、日本のネカト対策の基本方針が構築された。このガイドラインに問題はあるが、大きな礎石になったことは事実である。素晴らしい。

https://blogs.yahoo.co.jp/horton1485/40181202.html

2014年、理化学研究所の若い女性研究員だった小保方晴子のネカト事件が起こった。

まず、理化学研究所が、「リケジョの星」として、小保方晴子の研究成果の素晴らしさを大きくメディアに取りあげさせた。

その直後に、データねつ造疑惑が指摘され、アイドルの芸能スキャンダルのような扱いでメディアが熱狂した。

科学者も報道陣も、ネカトの実態や問題点を冷静に掘り下げることをしなかった。

2017年11月8日現在、小保方イベントは終わり、庶民とメディア(と政府と学術界)はネカト問題をすっかり忘れてしまった。

当時、提唱された理化学研究所の改革案はどうなったのか? 人々はもう関心がない。

ネカト問題を解決する方策で何が変化したか?

「官僚と政治家」は倫理教育・研修に予算を増やしたが、ネカト事件再発の有効な対策を立てた気配はない。「研究者」「大学・研究機関」「メディア」「学術組織」は事件前の意識・システムのままである。つまり、日本は、小保方晴子事件からは何も学んでいない。

ネカト事件の対処を日米で比べると、日本の貧困さがハッキリする。

米国がネカト問題に覚醒したのは、学問の中心地でのネカト行為だった。

1980年頃、ハーバード大学の天才的研究者のジョン・ダーシー(John Darsee)のデータねつ造事件が発覚した。ダーシーの所属研究室の教授はノーベル賞候補者のユージン・ブラウンワルド教授だった。

同じ時期、もう1つの有名なネカト事件が起こった。コーネル大学の天才的院生のマーク・スペクター(Mark Spector)のデータねつ造事件である。スペクターの所属研究室の教授も、ノーベル賞候補者のエフレイン・ラッカー教授だった。

そして、両大学とも米国の超一流大学である。

つまり、米国は、超一流大学の超一流研究者のネカト事件に正面からぶつかった。

その対策に米国は正面から取り組んだ。

結果として、事件前の意識・システムと大きく変わった。

長い話を端折るが、ネカトを異常な研究者が起こす特殊な行為ととらえず、普通の研究者が普通に起こす問題行為と意識が変わった。

システムとして、各大学にネカトに対処する研究倫理官の設置を義務化した。また、大学院でネカト教育を必修にした。そして、最大の対策はネカトを調査・教育する政府機関として研究公正局を設けたのである。

一方、日本は、前述したように、ネカトを低俗なスキャンダル扱いで報道した。

旧石器捏造事件では、藤村新一は会社に勤務しながら趣味の考古学で行なったねつ造事件である。

小保方晴子事件では、勤務先は理化学研究所と一流だが、メディアの扱いは、アイドルのスキャンダルという芸能ニュースとしてしまった。芸能人ファンと同じレベルの小保方ファンが小保方を擁護した。それで、アイドルと芸能事務所(理化学研究所)の確執や応酬という構図にしてしまった。そこには学問の深刻な病理ととらえる姿勢や哲学はみじんもなかった。

では日本では、学問の中心地にネカト行為がなかったかと問われれば、答えは「ノー」である。

例えば、つい最近でも、学問の中心地である東京大学医学部の有力教授たちのネカトが指摘されている。白楽はネカトだと思うが、東京大学・調査委員会はシロと結論してしまったのである。
→ 2017年8月18日の榎木英介の記事:Vol.174 東大研究不正調査発表~医学部教授をおとがめなしにした東大が失ったもの | MRIC by 医療ガバナンス学会

日本では超一流大学の事件に、関係者が真っ向から調査しない。自己保身の学長・副学長は御用委員を任命して調査してしまう。ネカトを学問の深刻な病理ととらえる姿勢や哲学がない。

だから、もちろん、研究システム(ネカト対策システム)は大きく変わってこない。

例えば、10年以上前から、白楽だけでなく研究倫理の専門家が改善策として提唱しているのに、2017年11月8日現在、日本に研究公正局は設置されていない。設置される雰囲気もない。

いろいろな人が「どうすればネカトが減らせますか?」ときく。「知恵を絞って」「汗をかいて」などという。

研究公正局設置は、米国から学べる最大のネカト対策システムで、誰の目から見ても明白な前進なのに、政治家も官僚も学術組織も日本に研究公正局を設置しようとしない。

●2.【日本がすべき3点】

制度は、一度、設ければ約30年は存続する。だから、日本の30年先にも機能しうる仕組みを設定しよう。

日本の研究ネカトに対処するには、以下の3点を実施する。

第一、ネカトを犯罪とするネカト防止法を制定する。有罪なら刑罰を科す。
第二、警察がネカトを捜査する。
第三、大学にネカト研究をする研究室、ネカト人材育成のコースを設ける。

第一と第二は2016年12月5日掲載の以下の記事に詳しく書いた。
→ 1‐5‐5.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 研究倫理(ネカト)

米国の研究公正局は1989年に発足し、約30年経過している。白楽は日本にも研究公正局を設けるべきだと主張していたが、現在設置しても米国の30年遅れである。日本は、30年先を見越して、もっと高機能な組織を設けるべきだ、と数年前に考えを変えた。

現在、日本では、ネカト疑惑の調査は、疑惑を受けた研究者が所属する大学・研究機関が行なっている。米国の研究公正局もおおむねこのスタイルである。しかし、これは、設計ミスである。利害関係のない第三者機関が調査しなければ、公正が保てないのは自明である。

岡山大学の田中智之(たなか さとし)教授も第三者機関の設置が必要だと説いている。
→ 2016年6月10日の田中智之(たなか さとし)の記事:研究不正への対応はこのままで良いのか – 誠実な生命科学研究のために

組織は身内をかばう。また、組織内から不正者が出れば、大学・研究機関は大きな損害を受ける。信用が失墜する。政府からの助成金が減る。入学希望者が減る。だから、自分の大学・研究機関の研究者が不正をしたとき、当然ながら、その大学・研究機関はシロと判定するよう偏向する。

ネカトで死者も健康被害者も出ているし、研究(者)への信用が失墜している。不当な昇進・昇給、不当な金銭受領もある。どう見てもネカトは犯罪なのに、依然として、ネカトを犯罪として扱っていない。ネカトは犯罪と同等なのだから、そのような法律を作り、第三者機関である警察が捜査するというのが、「第一」と「第二」である。

日本の国家公務員法・第九十九条に「信用失墜行為の禁止:職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」がある。

ネカトは明らかに「信用失墜行為」である。

ネカト防止法を制定し、罰則を設ける。

現在の日本ではネカトを刑事事件として扱わないが、かつて、犯罪として扱われていたこともあった。

例えば、1986年、東京外語大学の吉沢典男教授が自分の著書に他人の文章を「盗用」した事件は、著作権法違反で東京・麹町署に告訴されている。
→ ココ

1977年9月26日、読売新聞

もう一例挙げる。

1977年、日本分析化研の大里宏二部長が放射能分析データを「ねつ造」した事件が裁判になった。

1977年9月26日の読売新聞によると、東京地裁刑事部の桑田裁判長は「私利私欲による事件ではないが、多額の国費に損害を与え。原子力行政に対する国民の信頼を失墜させた責任は大きい」と、懲役2年、執行猶予2年の有罪判決を下している。

さて、日本にも研究公正局を設けるべきだと主張していたが、考えを変えた、と前述した。

米国の研究公正局の問題点を克服するシステムの設置を日本には提案したい。

米国の研究公正局の大きな欠点は、①処分が研究費申請不可だけで甘すぎる。どんなにひどいネカトでも、刑事告発できない。②調査が遅い。③NIH研究費受給者しか調査対象にできない。④実際のネカト調査は、所属大学・研究機関にまかせ、第三者調査ができていない。と批判されている。

米国のネカト対策システムにはさらに大きな欠点がある。⑤研究公正局はNIH管轄のネカトしか対処できない。同じ健康福祉省のネカトでも医薬品だと食品医薬品局(FDA)が対処する。また、科学一般と工学は別省庁の科学庁(NSF)が対処する。⑥そして、各部局のネカト処理基準や結果公表などがバラバラで、全米の統一基準はない。そのために、ネカト処罰もバラバラである。

つまり、米国は、全米のネカトを一手に引き受ける機関がなく、各省庁のネカト処理はバラバラである。現在の日本のネカト処理よりもバラバラである。
→ 1‐3‐3.米国の研究ネカト問題

これら米国のネカト対策システムの欠点を、日本の組織では全部カバーしよう。

それが、「第一」と「第二」の提案の背景に含まれている。

警察がネカトを捜査するということは、現在の警察組織の1つにネカト取締部を設けるということになる。例えば、麻薬取締官のようなイメージでネカト取締官を設ける。麻薬取締官は現行では、警察庁の組織ではなく、厚生労働省の麻薬取締部に属するが、ネカト取締部は科学警察研究所などと同等の警察庁の組織の1つとするのが妥当だろう。

これで、①大学・研究機関、民間研究機関を問わず、日本全体の研究ネカトを対象にできる。②統一基準の調査と処分ができる。③ネカト調査専門家が誕生するのでスキルが向上する。④ひどいネカト者を刑事告発できる。⑤所属大学・研究機関に協力を依頼しても、警察が調査するので、実質的に第三者調査になる。⑥大学・研究機関が所属の教授を集めてネカト調査委員会を設置していたが、教授はネカト調査の素人である。分析も判断も大学上層部の言いなりの御用委員になるしかなかった。これを廃止できる。大学・研究機関の負担も減る。

第三の提案についても少し補足しよう。

日本では、ネカトの実態や検出方法、ネカトの社会学、心理学、犯罪学など、ネカトに関する考え方・知識・方法がとても貧弱である。

例えば、現在、日本で毎年どれだけネカトが発生しているのかのデータはない。算出方法もわからない。だから、政府がどんなネカト対策を立てても、その有効性を検証する方法がない。

それなのに政府は、素人的な発想で、ネカト研修を増やしている。データはないが、ネカト研修を増やしてもネカトは減らないだろう。

ネカト研修ではなく、まず、ネカト研究をする大学研究者を増やすべきなのだ。

この研究者にまた、大学内の研究倫理官の機能を果たさせ、学内のネカト相談と調査、さらには学部生・院生のネカト教育を担当させる。また、学部生・院生の専門教育コースの1つにネカト専門教育コースを設けることで、ネカト人材を育成し社会に送り出す。

ネカト専門教育コースの修了者は、第二で提案したネカト取締官、従来日本に欠落していた大学・研究機関での法令遵守(コンプライアンス)を担う人材、企業、国・地方行政組織、出版・学術の法令遵守(コンプライアンス)を担う人材になるだろう。

そのためには大学にネカト研究室を設け、さらに、学部生や院生をネカト人材として育成するネカト専門教育コースを設ける必要がある。

●3.【信用・信頼】

ネカトは何が悪いかというと、ズルする行為なので、さまざまな社会秩序を破壊する。健康被害、死者、事故も引き起こす。経済損失も大きい。知的財産システムも破壊する。

そして、ネカトは明らかに国家公務員法・第九十九条に違反する「信用失墜行為」である。人々の「信用・信頼」を失くす。

研究成果がどんなに優れていても、「信用・信頼」がなければ、人々は科学成果を無視する。「信用・信頼」を失えば、科学研究は機能しなくなり、知識社会はガタガタになる。

この「信用・信頼」は社会でとても重要な価値である。

日本の原子力は、専門家がいかに「原子力は安全だ」と説こうとも、国民はその専門家の言葉を信用しなくなってしまった。組み換え遺伝子食品が安全だといっても、どうだろう、国民は「信用・信頼」しない。

となると、学問、科学、研究、専門性は、まるで無力になる。

★欺瞞まみれの日本

現在の日本は、欺瞞まみれである。

学術界を取り巻く日本社会にねつ造・改ざんが蔓延している。それも、日本社会のいわゆる偉い人が平然とウソをつき、ネカトしている。
→ 0‐2.研究以外のねつ造・改ざん事件一覧(日本) | 研究倫理(ネカト)

社会全般が欺瞞まみれである状況を改善しなければ、学術界のネカトだけを改善することはできない。

まず、筆頭は政治家と官僚である。長い年月に渡って、政治家と官僚の最高権力者たちは公正とは思えない言動を押し通してきた。出典:「嘘の答弁」森友問題で佐川国税庁長官ら刑事告発

産業界の最上位陣も公正とは程遠い行動をしてきた。

https://pbs.twimg.com/media/DL7FVzKWAAAnLpA.jpg

学術界の最上位陣(著名大学の学長や旧帝大の医学部教授たち)も欺瞞まみれである。
→ 2017年8月14日(月)の詫摩雅子 の記事:論文不正の告発を受けた東京大学(3) 告発通りに図版の誤りはあったが……(詫摩雅子) – 個人 – Yahoo!ニュース(保存版)
→ 2016年10月29日の「知識連鎖」記事:東大不正、渡邊嘉典教授のみ捏造認定は忖度か?医学系は全部シロ判定
→ 2016年9月22日(木)の記事(以下の写真出典):看過できない?東大医学系の不正22論文 ( 化学 ) – blog化学 – Yahoo!ブログ

このような深刻な「信用失墜行為」をしてきた「偉い人」が平然と偉いままの国・文化・慣習の場で、院生・研究者だけに公正な研究を強いるのは、土台無理がある。

★日本人の生活上の価値

日本人・日本社会の良い点としてよく言われるのは、一般的に、日本人・日本社会は礼儀正しい、犯罪が少ない、規則を守るなどがある。

現代の日本人の生活上の価値はなんだろう?

かつて、武士の生きる哲学だった7つの徳目は、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」である。白楽は武士道を基本的に良しとしていないが、中学生の時、街の柔道場に毎日通い、8段の師範に武道の心得・躾・行動規範を叩き込まれた。その影響が今もある。生きる哲学の徳目として武士道に親和性を感じる。

https://blogs.yahoo.co.jp/mqhdq538/63992848.html

しかし、現代の日本人は「金(富)」「権力」「名声」に大きな価値を置いている。その3つは相互に関係していて、金があれば、権力と地位も手に入る。逆も真なりである。

現代日本人の生活上の価値として徳目は低く、道徳はすたれている。

そして、現代の日本人研究者の価値として「公正」はほとんど聞かない。「論文」「出世」「研究費」「賞」ばかりだ。

2015年、クルーズ船でハワイを旅した時、マウイ島のラハイナ・カフルイという田舎町のモールに寄った。ブラブラ歩いていると、「INTEGRITY」という文字が飛び込んできた。
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米軍の軍人志願者受付事務所の窓に貼ってあったポスターだった。

アメリカ軍は精神的価値に「公正(integrity、インテグリティ)」を入れているのである。他に、「名誉(honor、オナー)」「尊敬(respect、リスペクト)」などもある(Army Values)。

上の写真は見にくいので、「公正(integrity、インテグリティ)」のポスターをウェブ探って以下に貼り付けた。
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欧州人に自宅で泊まってもらい、話し込んだ経験や、白楽が外国を旅して思うが、多くの国でも道徳はすたれている。しかし、ハワイで「公正(integrity、インテグリティ)」の文字を見たように、他国でも道徳的な価値観を示す文字を目にしたことがある。

数年前、オーストラリアのパースにある西オーストラリア大学キャンパスを歩いていたら、講義室の壁に格言「Know thyself (己を知れ)」が刻み込まれていた。

日本の大学構内の壁に「公正」の文字を埋め込んでおこうではないか。

●4.【英語圏から見た日本のネカト】

外国では日本のネカトをどう見ているのか? 英語で記載された文章を探った。ただし、著者が日本人名の場合、日本人の見方を英語で述べた可能性が高いので却下した。また、日本の英字新聞記事も同様な理由で却下した。小保方晴子事件は除外した。

日本のネカトに関心を寄せる外国人ネカト研究者は、当然ながら、とても少ない。日本政府はこういう研究に資金を提供し支援したらどうだろう。

★2017年6月26日:パブロ・ペレグリーニ(Pablo A. Pellegrini)、「科学は名誉の問題:日本では告発された科学者はどう科学ネカトと取り組むか(Science as a Matter of Honour: How Accused Scientists Deal with Scientific Fraud in Japan)」
論文書誌情報:Pellegrini, P.A. Sci Eng Ethics (2017). https://doi.org/10.1007/s11948-017-9937-8
DOI https://doi.org/10.1007/s11948-017-9937-8
→ ココ。閲覧が有料なので、白楽は要旨しか読んでいない。

この論文では、日本の科学者が科学ネカトの告発にどのように対処しているかを分析している。 その目的のために、日本での一連の科学ネカトを、さまざまな情報源によって再構築した。これらの事例を分析することによって、科学ネカトの社会的基盤を分析した。また、日本人科学者がネカトと告発された時に反応する日本的な文化的価値観や伝統、ならびに日本人科学者が深く関わる名誉の概念を分析した。

著者のパブロ・ペレグリーニ(Pablo A. Pellegrini、写真出典)はアルゼンチンのキルメス国立大学(Universidad Nacional de Quilmes)・科学技術研究所(Instituto de Estudios sobre la Ciencia y la Tecnología)の助教授である。

どうやら、論文の流れは、日本の科学技術者は研究上の非難に対して、死んで責任を取った例がいくつもあり、日本は、現代も、ネカトの責任を「死んでお詫びする」価値観があるとしたようだ。

自死で責任を取った例

★2014年1月13日:日本のJ-ADNI(ジェイ・アドニ)事件に絡んだ「撤回監視」でのスゴイ(Sugoi!)氏のコメント

出典 → ココ、(保存版

J-ADNI(ジェイ・アドニ)は、2007年に政府が主導し、製薬会社を巻き込んで33億円を調達し、東京大学など日本各地の研究機関・病院38施設で大規模な臨床実験を行ったアルツハイマー病研究プロジェクトである。2014年にデータ改ざんがあると告発された。(参考:J-ADNI – Wikipedia

コメントした人の名前は「スゴイ(Sugoi!)」で、この名前は仮名だと思う。国名・所属・専門性は不明だが、「撤回監視」にコメントしたのだから、ネカトに関心のある人だ。

英語圏から見た日本のJ-ADNI(ジェイ・アドニ)事件のネカトに対して、乱暴だが辛口のコメントをしている。仮名なので本音である。最初の部分だけ選択引用しよう。

多くの西洋人には知られていませんが、日本は詐欺や腐敗のたくさんの歴史がある。

政府と大手製薬会社の間の悲しい関係についての理解を深める絶好の機会になるかもしれません。 日本の納税者が怒っていることを願っています。

私たちは、カメラのフラッシュを浴びて、偽善的な謝罪の言葉で深く頭を下げることを望んでいません。 私たちは本当の正義を見たいと思っています。解雇、給料や研究費の返還、博士号のはく奪などの正義です。守れないなら、刑務所刑に科すのはどうですか?  私は大物弁護士がトコトン彼らを追求し、とっちめるのを願ってやみません。

Kobe Steel President and CEO Hiroya Kawasaki bows as he meets with Ministry of Economy, Trade and Industry’s Director-General of Manufacturing Industries Bureau, Akihiro Tada at the ministry in Tokyo, Japan, October 12, 2017. REUTERS/Toru Hanai – RC148A81C980 https://www.businesslive.co.za/bd/companies/industrials/2017-10-16-kobe-steel-scandal-adds-to-japans-tarnish/

以下略

●5.白楽の感想

《1》部分と全体

「日本の研究ネカト問題」の背景・歴史から現状、そして解決策を全体のバランスを保って丁寧に記述するのは、大仕事である。1冊(数冊?)の本になる。本ブログでは、それは無理だ。

2017年11月8日現在、伝えたい点を中心に記述した。

《2》30年先の人口減

ネカトで日本の膨大な研究費が無駄になっている。研究者の採用・昇進でも「悪貨が良貨を駆逐し」、優秀な人材が無駄になっている。

30年先を想定すれば、日本の生産年齢人口は現在から3000万人減って、5000万人になる。

質の良い研究開発と質の良いシステムしか、日本を支え発展させることができない。だから、無理してでも、改革するしか道はない。前に進むしかない。

日本の生産年齢人口の推移:総務省|平成25年版 情報通信白書|超高齢社会がもたらす課題

《3》倫理的な環境

白楽は、研究システム(ネカト対策システム)の改善を主眼にしている。

しかし、研究者としてあるべき徳目・道徳も重要だと思っている。

2年前、米国・カリフォルニア州のさびれた街・サンペドロを歩いていた。歩道わきにメリーマウント・カリフォルニア大学(Marymount California University)の出入口があり、道路に落書きがあった(黄色の矢印で示した)。

落書きを大きくすると以下のようだ。

「Imagination is more important than knowledge.・・・Albert Einstein」。訳すと「想像力は知識よりも重要である・・・アルバート・アインシュタイン」

このブログに「知識」として記述していなくても、「想像力」で、アナタの考えを深く・鋭く・大きくしてね。

●6.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Scientific misconduct – Wikipedia・・・対応する日本語サイトは問題が多すぎる。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●7.コメント

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