7-1.ねつ造医学論文を出版する捕食出版社:クロエ・コスタ(Chloe Costa)、2015年5月15日

【ワンポイント】:とんでもない医学論文でも出版できるシステムがある

【注意】:「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介ですし、白楽の色に染め直してあります。

【書誌情報】
論文名:Why Medicine is Plagued with Fake Research (医学が偽研究に悩まされる理由)
著者:Chloe Della Costa
掲載誌:The Cheat Sheet
発行年月日:2015年5月15日
ウェブ:http://www.cheatsheet.com/business/why-medicine-is-plagued-with-fake-research.html/?a=viewall
保存用ウェブ:https://archive.is/Odhin
PDF:

★著者
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  • 第一著者:クロエ・デラ・コスタ(Chloe Della Costa
  • 国:米国
  • 学歴:米国・ニューヨーク州のバード大学(Bard College)、学士号
  • 分野: writing and film
  • 所属・地位:ライター・編集者: an experienced writer and editor, currently working as a staff writer at The Cheat Sheet and a contributing editor for iMedia Connection.

【1.ねつ造論文も出版できる】
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以下は科学ライターのジョン・ボハノン(John Bohannon)の「サイエンス誌の2013年論文」である(Who’s Afraid of Peer Review?)。

ボハノンは、ねつ造論文や不正論文を出版してくれるオンライン・ジャーナルがどのくらいあるか、実際に調べてみた。

論文をねつ造し、その原稿を世界中の305のオンライン・ジャーナルに投稿してみたのである。そしたらナント、半数以上のオンライン・ジャーナルが「出版します(出版受理)」と返事してきたのだ。

下図は少し見にくいが、赤丸が出版「受理」で、青丸が「拒否」である。インタラクティヴサイトは → http://scicomm.scimagdev.org/

図1この図が示すように、米国にも赤丸がかなりある。

日本の赤丸(出版「受理」)は、神戸大学医学部の発行している「Kobe Journal of Medical Sciences」だった。いい加減な運営をしていたものだから、とんだ、汚ジャーナルになってしまった。
Journal: Kobe Journal of Medical Sciences
Publisher: Kobe University School of Medicine, Kobe

ねつ造論文をどうして出版「受理」するかというと、ねつ造論文の原稿でも、出版すれば、出版費用を払ってもらえるので、商売になるからだ(Some Online Journals Will Publish Fake Science, For A Fee : Shots – Health News : NPR)。

これらの出版社は、英語で「predatory publisher」と呼ばれている。日本語で捕食出版社(ほしょくしゅっぱんしゃ)と呼ぼう。

【2.とんでもない原稿も出版】

捕食出版社(predatory publisher)は、ヒマ・カネのかかる適切な査読システムを使わないし、オンラインなので出版に経費がさほど掛からない。出版費用をもらえるなら、とんでもない原稿でも出版しようということになる。

現在、そういう論文出版を禁止する法律はどこの国にもない。

「とんでもない原稿」の実例を示そう。

例1.

2014年、3人の著者「Maggie Simpson」「Edna Krabappel」「Kim Jong Fun」 の科学論文が2つの捕食出版社で出版「受理」された(A paper by Maggie Simpson and Edna Krabappel was accepted by two scientific journals – Vox)。

英語名だと日本人にはなじみがないかもしれないが、3人の著者名は以下のようだ。

無題「Maggie Simpson」は米国の超有名テレビアニメ「ザ・シンプソンズ」の登場人物「マージ・シンプソン」で、いわば、日本で例えると、『サザエさん』の「磯野ワカメ」みたいなものだ。

1918892「Edna Krabappel」も「ザ・シンプソンズ」の登場人物エドナ・クラバーペルでシンプソン家の長男・バートの担任である。『サザエさん』で例えると「フグ田マスオ」みたい、少し違う?

「Kim Jong Fun」は、北朝鮮のトップ・金正恩(Kim Jong-Un)の名前をもじった名前(?)。

例2.

論文タイトル:“Cuckoo for Cocoa Puffs?”  (カッコーのココアパフ)
論文副題:「手術と癌における朝食シリアル中のカカオ抽出物の役割(The surgical and neoplastic role of cacao extract in breakfast cereals.)」
著者:Pinkerton A. LeBrain and Orson Welles (オーソン・ウェルズ(Orson Welles)はハリウッドを代表する映画監督、脚本家、俳優)

論文の中身は、英文を無茶苦茶につくるサイトで作成したそうだ(Random text generator – Get random text for web or typography)。

無題2“Cuckoo for Cocoa Puffs?”  (カッコーのココアパフ)。出典http://www.theskepticsguide.org/cuckoo-for-cocoa-puffs-accepted-by-17-medical-journals

上記のねつ造論文原稿が17の捕食出版社で出版「受理」された(Why A Fake Article Titled “Cuckoo for Cocoa Puffs?” Was Accepted By 17 Medical Journals | Fast Company | Business + Innovation)。

捕食出版社は出版費用として500ドル(約5万円)要求してきた。500ドル(約5万円)は論文掲載料としては相場の値段である。高く吹っかけてきた値段ではない。

500ドル払ったら、論文が出来上がった。論文の例(http://b.fastcompany.net/asset_files/-/2015/02/08/CocoaPuffsStudy2.pdf
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【3.増える捕食出版社(predatory publisher)】

steamboat米国・コロラド大学・図書館司書のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)の調査では、捕食出版社(predatory publisher)は、2013年に225社だったのが、2015年には693社と2年間で3倍以上に増えている(Beall’s List of Predatory Publishers 2015 | Scholarly Open Access)。

【4.「論文汚染」(publication pollution)】

Arthur_L-1__Caplan__Ph_D__106ニューヨーク大学・医学倫理部・部長のアーサー・キャップラン教授(Arthur L. Caplan, PhD、写真上)が、2015年4月に「論文汚染」(publication pollution)の3原因を挙げ、コメントしている(Science and medicine have a ‘publication pollution’ problem)。

  1. 捕食出版社(predatory publisher)そのものの存在
  2. 捕食出版社がオープン・アクセス・ジャーナルの25%も占めること
  3. 研究ネカト

「これら3つの論文汚染は、科学者や医師が、どの論文を読めば信頼できる知識が得られるのかという経験知をダメにする。また、本物の科学の価値をおとしめ、科学者の発見能力を徐々に損なう。そして、出版過程に莫大なコストを課す。さらには、間違い論文に基づいた検査、診察、治療だった時、患者が傷害や死にいたるという意味で大きな損害をもたらす」

キャップラン教授は、科学と医学にかかわる代表者がすべて集まる全国協議会を設け、「論文汚染」(publication pollution)に対処する方策をたてるべきだと提案している。

【白楽の感想】

《1》捕食出版社を取り締る

研究ネカトを減らすには、従来、研究システムや研究者側を対象に対策をたててきた。白楽も、「①研究ネカトをほぼ100%発見する」「②不正者を厳罰に処分する」の2セットで対応すべきだと主張してきた。なお、日本はどちらも「いい加減」なのが問題だが、本題とズレるのでここでは触れない。

しかし、世の中にねつ造論文・不正論文でも出版する捕食出版社(predatory publisher)がたくさんあるとなると、研究システムや研究者側とは別次元の取り締まりが必要だ。

捕食出版社に原稿を送付するのは研究者である。捕食出版社が増加しているということは、そういう研究者が増加しているということだ。だから、研究者側を対象に対策をたてるのも効果はあるが、出版社側を対象に対策をたてることもしないと、研究ネカトは減らないだろう。

そもそも、捕食出版社の存在だけでも、社会からも学術界からも論文と研究(者)への信頼が大きく損なわれる。

アーサー・キャップラン教授が提案するように、関係者は早急に対策をたてるべきだろう。

例えば、論文出版母体を自由に設置させず、認定制にするのはどうだろう。あるいは、研究助成機関・大学・研究機関は、助成金申請書や人事書類に、指定したジャーナル以外の論文を論文業績リストに記入してはいけないという制度をつくる、などだ。

【追記】

★2015年9月27日
研究ジャーナル「Journal of Threatened Taxa」が、捕食ジャーナルの論文を引用しないようにと、具体的な対策を始めた。
Curbing academic predators: JoTT’s policy regarding citation of publications from predatory journals | Raghavan | Journal of Threatened Taxa

捕食ジャーナルのリスト。
LIST OF PUBLISHERS | Scholarly Open Access

捕食ジャーナル可能性が高いリスト。
LIST OF STANDALONE JOURNALS | Scholarly Open Access

★2015年10月2日
2014年に捕食ジャーナルが出版した論文数は40万報だった。巨大な数字である。
Predatory journals published 400,000 papers in 2014: Report – Retraction Watch at Retraction Watch

★2015年10月20日
とんでもない論文も150ドルで出版できる。
Journal Accepts Paper Reading “Get Me Off Your Fucking Mailing List” | IFLScience