シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)(シンガポール)

2021年9月28日掲載 

ワンポイント:チュアは、2014年(29歳)、北海道大学・医学部皮膚科に1か月、研究滞在したことがある。その後、ウン・テンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital)の皮膚科医になった。チュアの20015~2016年(30~31歳)の4論文は、共著者が架空人物だったことで、2020年9月~2021年8月に撤回された。2020年8月(35歳)、医師登録が取り消された。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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白楽の研究者倫理
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

シャンジャ・チュア(Shunjie Chua、ORCID iD:?、写真出典(p30))は、シンガポールのウン・テンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital、黄廷芳総合病院、ンー・テンフォン総合病院)・医師で、専門は皮膚科学だった。

チュアは、2014年(29歳)、北海道大学・医学部皮膚科に1か月、研究滞在したことがある。

20015~2016年(30~31歳)のチュアの4論文は、共著者が架空人物だったことで、2020年9月~2021年8月に撤回された。

2020年春(35歳)頃、共著者不正が発覚したと思われるが、経緯は不明である。発覚時、医師登録しておらず、無職だったと思われる。

チュアは架空共著者の論文を出版したこと以外にも、事件を起こしている。

2020年8月18日(35歳)、最高裁判所(High Court of Singapore)は、シンガポール医療評議会(Singapore Medical Council:SMC)のチュアの医師登録の取り消し支持した。

ウン・テンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital、黄廷芳総合病院、ンー・テンフォン総合病院)。写真出典

事件が発覚した2020年春(35歳)頃の所属は、「2020年の論文」によると、大学でも病院でもなく自宅のようだ。Jurong East St21 Blk288A #03-358, Singapore, Singapore, 601288。写真出典

  • 国:シンガポール
  • 成長国:シンガポール
  • 医師免許(MD)取得:デューク=シンガポール国立大学・医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2020年8月18日の報道で35歳とあったので
  • 現在の年齢:39歳
  • 分野:皮膚科学
  • 不正論文発表:20015~2016年(30~31歳)
  • 発覚年:2020年(35歳)
  • 不正時地位:ウン・テンフォン総合病院・医師
  • 発覚時地位:無職?
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「Straits Times」、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①シンガポール医療評議会(Singapore Medical Council:SMC)・苦情調査委員会。②最高裁判所(High Court of Singapore)
  • 所属機関・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 所属機関の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:ねつ造(架空人物の共著者)、経歴詐称
  • 不正論文数:20015~2016年の4論文が、2020年9月~2021年8月に撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:医師登録剥奪
  • 日本人の友人: 清水宏(しみず ひろし)(p33)(北海道大学・皮膚科・名誉教授

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2020年8月18日の報道で35歳とあったので
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • xxxx年(xx歳):シンガポールのデューク=シンガポール国立大学・医科大学院(Duke-NUS Graduate Medical School)に入学
  • 2014年(29歳):日本の北海道大学・医学部皮膚科に1か月、研究滞在
  • 2015年7月(30歳):シンガポールのデューク=シンガポール国立大学・医科大学院(Duke-NUS Graduate Medical School)で医師免許(MD)を取得
  • 2015年7月(30歳):医師の仮登録
  • 2015年7月(30歳):国立大学病院(National University Hospital)・勤務医
  • 2015年7月(30歳):ウン・テンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital、黄廷芳総合病院、ンー・テンフォン総合病院)・所属という、記載もある
  • 2016年5月20日(31歳):患者の守秘義務違反で停職
  • 2016年12月(31歳):医師の仮登録・失効。医師職は失職
  • 2020年(35歳):架空共著者不正が発覚
  • 2020年8月18日(35歳):最高裁判所が医師登録剥奪支持:Supct | Case Summaries

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★不明

シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)の経歴は不明部分が多い。

次節で不正事件を解説するが、経歴不明が多いこともあって、不正発生の理由・状況はわかりにくい。

なお、チュアは、2014年(29歳)、日本の北海道大学・医学部皮膚科に1か月、研究で滞在していた(以下出典(p30))。

★架空の共著者:4件

2015年11月(30歳)、シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)は以下の論文を発表した。

この論文の共著者マーク・ピッツ(Mark Pitts)とピーター・レマーク(Peter Lemark)は米国のシカゴ大学に所属しているとある。

実は、マーク・ピッツ(Mark Pitts)とピーター・レマーク(Peter Lemark)は実在しない架空人物だと言うことが発覚した。

架空人物だと発覚した経緯は不明である。発覚時期は2015年出版の論文だが、2020年春頃だ。

2020年9月1日、論文は撤回された。

このような架空共著者の論文が他に3報あって、全部撤回された。

まとめると、20015~2016年出版された4論文が、架空共著者という理由で2020年9月~2021年8月に撤回された。

★所属の虚偽:3件

2015年8月(30歳)、シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)は英国皮膚科学誌の論文で、所属先を偽装し、国立皮膚センター(National Skin Centre)の所属とした。

また、彼は別の学術論文でも所属先を偽装した。

さらに、履歴書にはシンガポール総合病院(Singapore General Hospital)に在職していたと経歴詐称をしていた。

★患者の守秘義務違反:1件

チュアは、ウン・テンフォン総合病院(Ng Teng Fong General Hospital、黄廷芳総合病院、ンー・テンフォン総合病院)・医師として勤務していた時、守秘義務違反事件を起こしている。

2016年4月(31歳)、架空共著者と経歴詐称とは別に、この時、彼が発行した診断書について、患者の雇用主から質問され、患者の同意なしに病状を開示したのである。

★処分

シンガポール健康省・訓練評価基準委員会(Training and Assessment Standards Committee of the Ministry of Health (“the MOH”))はチュアの上記の問題に対処するようにと、シンガポール医療評議会(Singapore Medical Council:SMC)・苦情調査委員会(Complaints Panel)に付託した。

シンガポール医療評議会はチュアの医師登録の取り消しを決めて、最高裁判所(High Court of Singapore)に審理を求めた。

2020年8月18日、最高裁判所(High Court of Singapore)は、チュアの医師登録の取り消しを支持した。シンガポール医療評議会(Singapore Medical Council:SMC)が原告でチュアが被告である。

このような案件を最高裁判所が審理するのはシンガポールでは初めてである。

なお、チュアの弁護士は、チュアの医師仮登録は2016年12月に失効し、それ以来、チュアは医療をしていないので、いまさら、登録取り消し処分を認める意味はないと、懲戒処分の法的根拠について疑問を呈した。

以下は最高裁判所の裁判記録の冒頭部分(出典:同)。全文41頁は → https://www.supremecourt.gov.sg/docs/default-source/module-document/judgement/-2020-sghc-239-pdf.pdf

【不正の具体例】

上記したように論文の共著者に架空人物を書いたこと。論文の所属で経歴詐称したことである。

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年9月27日現在、パブメド(PubMed)で、シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)の論文を「Shunjie Chua[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2014~2020年の7年間の19論文がヒットした。

「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年9月27日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシャンジャ・チュア(Shunjie Chua)を「Shunjie Chua」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、 4論文が撤回されていた。

20015~2016年出版された4論文が、2020年9月~2021年8月に撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2021年9月27日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)の論文のコメントを「Shunjie Chua」で検索すると、3論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》調査がズサン 

シャンジャ・チュア(Shunjie Chua、写真出典)は、架空人物(マーク・ピッツ(Mark Pitts)とピーター・レマーク(Peter Lemark))を共著者にした論文を発表し、4報撤回された。

しかし、調査がズサンである。

パブメド(PubMed)で、シャンジャ・チュア(Shunjie Chua)の論文は19論文がヒットした。その中に、共著者マーク・ピッツ(Mark Pitts)の論文は、撤回された4報以外に4報ある。

この4報も撤回すべきだろう。

こんな単純なことをどうして見落としているのだろう?

《2》根っからのネカト者? 

シャンジャ・チュアは架空共著者以外に、いろいろ問題を起こしている。

《1》で「調査がズサン」と指摘したが、架空の共著者について、白楽が論文を軽く調べた。すると、さらに疑惑論文がデテきました。

シャンジャ・チュアは2014年に最初の論文を出版している。

共著者は中国の江蘇大学附属病院(Jiangsu University Affiliated Hospital)の「Jing Li」だとある。この人はウェブでは実在する人物である。写真出典 → Affiliated Hospital of Jiangsu University

しかし、論文の「Jing Li」の連絡先を以下に赤枠で囲ったが、ナント、「chuashunjie@nus.edu.sg」である。つまり、シャンジャ・チュア本人だ(以下)。

「Jing Li」本人はこの論文の共著者なのを承知しているのだろうか? 

本人に無断で、勝手に共著者にしたのではないだろうか?

「Jing Li」が共著者の論文はシャンジャ・チュアの19論文中、7論文もある。

推測するに、シャンジャ・チュアは根っからのネカト者で、彼の論文はほぼ全部おかしいのではないか?

《3》ネカトは?

《1》で「調査がズサン」と指摘したが、データのねつ造・改ざん、文章やデータの盗用はなかったのだろうか?

これだけ不祥事を起こしているのだから、論文の中身にもネカトがあると思うのが普通だろう。

それに、シンガポールは国全体として、研究ネカトに対してゼロ・トレランス(zero-tolerance)だったと思ったが・・・。

ゼロ・トレランス(zero-tolerance)は、シンガポール国立大学だけだったのかな?

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●9.【主要情報源】

① 2020年8月18日のセリーナ・ラム(Selina Lum)記者の「Straits Times」記事:SMC seeks to strike off doctor who submitted research papers with bogus co-authors while a houseman, Courts & Crime News & Top Stories – The Straits Times
② 2020年8月19日のセリーナ・ラム(Selina Lum)記者の「Straits Times」記事:SMC seeks to strike off man who listed fake co-authors in research, Courts & Crime News & Top Stories – The Straits Times
③ 2020年10月21日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Researcher faked the names of Duke and University of Chicago co-authors – Retraction Watch
④ 2021年8月4日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Researcher who faked co-authors earns two more retractions, publication ban following Retraction Watch coverage – Retraction Watch
⑤ 2020年12月10日:Singapore Medical Council v. Chua Shunjie – Global Legal Chronicle
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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