コンピューター学:チャオ・シオン、熊超(Chao Xiong)(中国)

2019年7月23日掲載

ワンポイント:常州工科大学(中国語:常州工学院、英語:Changzhou Institute of Technology in China)・準教授で、2018年1月(34歳?)、盗用が見つかり、7論文が撤回された。被盗用者のインドのタパー大学(Thapar University)のルパリ・バードワジ助教授(Rupali Bhardwaj)が通報した。2009年にも1論文が撤回されていて、トータル8論文が撤回。大学は調査しない模様。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。チャオ・シオン事件は、「2018年ネカト世界ランキング」の「1」の8番目の事件である。

【追記】
・ 2020年5月15日の「大紀元」記事:世界的学術誌、中国からの論文33本取り下げ 盗作や画像の無断複製で

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

チャオ・シオン、熊超(Chao Xiong、写真出典)は、中国の常州工科大学(中国語:常州工学院、英語:Changzhou Institute of Technology in China)・準教授で、専門はコンピューター学である。

2018年1月(34歳?)、シオンの論文が学術誌「Multimedia Tools and Applications (MTAP)」に掲載された。ところが、その論文は、インドのタパー大学(Thapar University)のルパリ・バードワジ助教授(Rupali Bhardwaj)が、同じ学術誌「MTAP」に投稿し却下された論文を盗用した論文だった。バードワジ助教授が盗用されたことに気が付いて、学術誌に連絡した。

学術誌「MTAP」は調査の結果、シオンのその論文を盗用と判定しただけでなく、さらに、2018年1~2月のシオンの他の6論文も盗用論文と認定し、それら計7論文を撤回した

しかし、2019年7月22日現在に至るまで、常州工科大学は論文盗用の調査をしていない。従って、正確にはシオンが盗用者と確定されていない。

とはいえ、7撤回論文に共通の著者はチャオ・シオン(Chao Xiong)1人しかおらず、しかも連絡著者である。

本記事では、チャオ・シオンが盗用者だと仮定して記事を執筆した。もし、盗用者が別人とわかれば、訂正する。

常州工科大学(Changzhou Institute of Technology in China)。写真出典

  • 国:中国
  • 成長国:中国
  • 研究博士号(PhD)取得:華南理工大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2011年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 現在の年齢:40歳?
  • 分野:コンピューター学
  • 最初の不正論文発表:2009年(25歳?)
  • 発覚年:2018年(34歳?)
  • 発覚時地位:常州工科大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者。インドのタパー大学(Thapar University)のルパリ・バードワジ助教授(Rupali Bhardwaj)
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Multimedia Tools and Applications (MTAP)」・編集部。②常州工科大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:8論文が撤回。多分もっと多いと思われる
  • 盗用ページ率:
  • 盗用文字率:
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇):教师名录
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明<

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:①:(3) xiong chao | LinkedIn、②:光伏材料制备技术专业(“3+2”与常州工学院分段培养项目) | 常州工程职业技术学院

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2011年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 2011年7月(27歳?):華南理工大学(South China University of Technology)で研究博士号(PhD)を取得:マイクロエレクトロニクスとソリッドステートエレクトロニクス
  • 2012年1月-2013年9月(28-29歳?):華南理工大学(South China University of Technology)・講師
  • 2015年3月-2015年10月(31-31歳?):ニュージーランドのオークランド大学(University of Auckland)で研究
  • 2017年(33歳?):常州工科大学(Changzhou Institute of Technology in China)・準教授、新エネルギー工学科長
  • 2018年(34歳?):ネカト論文が発覚
  • 2019年7月22日(35歳?)現在:常州工科大学・準教授職を維持:教师名录

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2016年12月、インドのタパー大学(Thapar University)のルパリ・バードワジ助教授(Rupali Bhardwaj、写真出典)はコンピューター学の研究者で、研究成果をまとめた論文原稿を学術誌「Multimedia Tools and Applications (MTAP)」に投稿した。

2018年1月3日、投稿から1年1か月も待たされたあげく、学術誌「MTAP」・編集部から論文却下の返事が来てガッカリした。

2018年1月8日頃、却下の返事を受け取って約5日後、自分の投稿論文とよく似た論文が学術誌「MTAP」に掲載されていて、ビックリした。著者は中国の研究者である。

その書誌は以下の通りである。

 

第一著者は、中国の常州工科大学のチャオ・シオン(Chao Xiong)である。シオンの論文は、2017年12月6日に投稿され、同年12月14日に受理され、2018年1月7日にオンライン出版されていた。

どれほど似ているか、以下に比べてみよう。

【バードワジ助教授の投稿論文の要旨】黄色は同じ単語、紫色は単語と語順を言い換えた部分。
In encrypted image based reversible data hiding (EIRDH), image provider is responsible for encryption of the image to maintain its confidentiality, data hider is responsible for data embedding into encrypted image in a reversible manner and receiver is responsible for extraction of secret message and recovery of original image in a lossless manner. Encrypted image based reversible data hiding through difference expansion (EIRDH-DE) is presented in this paper. Proposed algorithm solved overflow problem with embedding capacity of one bit per grey pixel (embedding capacity is same as size of cover image). Finally, experimental results reveal that proposed algorithm has much payload and high image quality than traditional ones based on EIRDH.

【シオンの「2018年のMTAP」論文の要旨】
The reversible information hiding based on image encryption (eirdh), the image provider is responsible for image secure data hiding and encryption for data receiver embedded into image encryption in a reversible charge in a lossless manner and restore the original image to extract the secret information. Image based hidden encryption through differential expansion of reversible data (eirdh-de) is proposed in this paper. The algorithm solves the overflow problem of one bit embedding capacity of each gray pixel (the embedding capacity is the same as the coverage image size). Finally, experimental results show that the proposed algorithm has more efficient and high-quality images than the traditional eirdh based ones.

単語と語順を言い換えているが、文章構築と論旨は同じで、明白な加工盗用(ロゲッティング)である。

どこで盗用されたか? 研究室は交差していないし、国も違う。最もあり得る可能性は、著者がバードワジ助教授の投稿論文の査読者で、査読の時に盗用した可能性だ。出版社はその方向で考えているとのことだ。

学術誌「MTAP」が調査すると、チャオ・シオン(Chao Xiong)のグループが学術誌「MTAP」に発表した他の5つの論文も盗用であることが判明した。全部、2018年1~2月に出版されていた。

フロリダ・アトランティック大学(Florida Atlantic University)・教授のボルコ・ファート「MTAP」編集長(Borko Furht、写真出典)は2018年1~2月の7盗用論文を撤回した。

7盗用論文に共通の著者は1人で、学術誌「MTAP」の連絡著者であるチャオ・シオン(Chao Xiong)だけだった。

7盗用論文の内の3論文に関して、チャオ・シオンは1つの論文の撤回に同意したが、他の2つの論文の撤回には同意しなかった。3つの論文は同じトピックを扱った論文で、ほぼ同時に投稿されていた。ということは3論文とも同じ状況なのに、1つの論文の撤回に同意し、他の2つの論文の撤回には同意しない理由は不明だが不可解である。

★2人目の被害者

7盗用論文が見つかったといううことは、被盗用者はインドのルパリ・バードワジ助教授だけではない。

2人目の被盗用者はマレーシアのマレーシア・サインズ大学(Universiti Sains Malaysia)のビーイー・ホー準教授(Bee Ee Khoo)だった。

「撤回監視(Retraction Watch)」記者の質問に、ホー準教授は以下のように答えている。

盗用者がどのようにしてコンテンツを入手したのかわかりません。以前、会議論文をSpringer社から出版しました。後で私たちはこの論文の拡張版を他のいくつかの学術誌に投稿し、査読されました。そのうちの1つの原稿が盗用された論文で、MTAPに投稿しましたが、採択が却下された論文です。盗用者が私たちの原稿の査読者の1人だったと私たちは疑っていますが、確信は持てません。盗用論文はさまざまな方法で論文の文章を改変していますが、技術的な部分は変えようがないためか、私たちの文章と全く同じです。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

論文数は不明。

★撤回論文データベース

2019年7月22日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでチャオ・シオン(Chao Xiong)を検索すると、8論文がヒットし、8論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年7月22日現在、「パブピア(PubPeer)」はチャオ・シオン(”Chao Xiong”)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》所属大学

チャオ・シオン(Chao Xiong)(左から3人目)。http://news.cz001.com.cn/2017-05/18/content_3326047.htm

今回問題なった論文はチャオ・シオン(Chao Xiong)が34歳(?)の時の2018年の論文である。被盗用者である インドのルパリ・バードワジ助教授が自分の論文の被盗用に気が付いて学術誌に通報した。

盗用は加工盗用(ロゲッティング)なので、盗用検出ソフトで検出されない。

学術誌が調べ、盗用と判断し、撤回した。ところが、盗用論文はルパリ・バードワジ助教授が指摘した論文だけではなかった。そして、2018年1~2月に学術誌「MTAP」で発表した計7論文が盗用だと判明し、編集長の判断で論文を撤回した。

このネカト事件で、チャオ・シオン(Chao Xiong)の所属する常州工科大学に学術誌は連絡しているハズだが、常州工科大学はネカト調査を行なっていない。中国のメディアは何も記事にしていない。

撤回論文が2018年1~2月に学術誌「MTAP」に発表した7論文ということは、学術誌「MTAP」が調査した結果だ。常州工科大学はネカト調査を行なっていないので、「MTAP」以外の学術誌に発表したシオンの論文のネカトを誰も調べていない。

法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」

なお、2018年1~2月の「MTAP」7論文以外にも、シオンが25歳(?)の時に出版した2009年の論文が撤回されている。撤回理由は書かれていないが、「出版ルールに違反」とあるので、ネカトだろう。
→ 撤回告知:Notice of Retraction: Tracking Moving Vehicle Based on Mean Shift Algorithm – IEEE Conference Publication

ということは、シオンは2009年、25歳(?)の時から10年もネカトをし続けている可能性がある。誰かが調査しないとマズイだろう。

現状では常州工科大学が調査すべきだが、ネカト調査を所属大学に任せているのは異常である。大学にとって利益相反で、子供の悪行を親が調査するみたいで、正当に調査されない。文句を言われなければ隠蔽したいだろう。

《2》中国

中国のネカトは深刻で、2019年2月、中国・教育省の広報官・シューメイ(Xu Mei、写真出典)は学術界のネカトを厳罰で挑むゼロ・トレランス方式(zero tolerance)で行なうと発表している。
→ 2019年2月15日記事:Education ministry vows zero tolerance for academic misconduct – People’s Daily Online

しかし、掛け声倒れにならないだろうか? 中国のネカト対策は過去にも同じような厳罰方針が表明されたが、なかなか上手に運用されない。

国家の統治体制として中国が民主集中制を採用している限り、大きな不正や腐敗は除去できても、ネカトのような上級国民の小さな不正は除去しにくいだろう。

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●8.【主要情報源】

① 2018年8月2日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A journal waited 13 months to reject a submission. Days later, it published a plagiarized version by different authors – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

注意:お名前は記載されたまま表示されます。

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FT
FT
2019年7月31日 3:53 PM

「チャオ・シオン、熊超(Chao Xiong)」は「趙熊」ではないかと存じます。

FT
FT
Reply to  haklak
2019年8月2日 10:00 AM

公式にそうなっているのであれば当方の推量の間違いだと存じます。差し出口申し訳ありませんでした。前のコメントを含め削除していただいてかまいません。