2022年3月22日掲載
ワンポイント:2022年3月8日(71歳?)、発覚から1年後(早いですね)、研究公正局は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・研究担当副学長で殊勲教授のマグナソンに盗用があったと発表した。2021年3月(70歳?)の1件の研究費申請書に盗用があった。2022年2月25日から約2年間の監督期間を科した。記事執筆時点では、撤回論文はゼロ。研究公正局が盗用でクロとするのは珍しい。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
【追記】
・2022年4月xx日記事:Vice Chancellor Blames Pressure for Plagiarism; Resigns After Faculty Pushed for Accountability | Health Care Compliance Association (HCCA) – JDSupra
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
テリー・マグナソン(Terry Magnuson、ORCID iD:、写真出典)は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・研究担当副学長、殊勲教授で、専門は遺伝学である。
ネカト発覚の経緯は不明だが、発覚時期は、2021年3月(70歳?)以降と推定される。
誰が見つけたのか不明。
2022年3月8日(71歳?)、発覚から1年後(早いですね)、研究公正局は、マグナソンの2021年3月(70歳?)の1件の研究費申請書に盗用があったと発表した。
研究公正局が公表した2日後の2022年3月10日(71歳?)、マグナソンは研究担当副学長を辞任した。殊勲教授は維持している。
研究公正局 は、2022年2月25日(71歳?)から約2年間の監督期間をマグナソンに科した。約2年間の監督期間は少し軽い処分である。なお、監督期間を科す処分は今回が初めてで、2022年から始めた制度と思われる。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得::コーネル大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2007年1月22日の記事に 56歳とあったので
- 現在の年齢:73 歳?
- 分野:遺伝学
- 不正論文発表:2021年(70歳?)
- 発覚年:2021年(70歳?)
- 発覚時地位:ノースカロライナ大学チャペルヒル校・研究担当副学長、殊勲教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」「Scientist」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ノースカロライナ大学チャペルヒル校・調査委員会。②研究公正局
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:盗用
- 不正論文数:研究公正局の特定は、2021年3月(70歳?)の1件の研究費申請書
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に発覚時の地位を辞任したが(▽)、殊勲教授は続けた
- 処分: NIHから約2年間の監督期間
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Genetics chief rallying UNC’s research troops – Triangle Business Journal
- 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2007年1月22日の記事に 56歳とあったので
- 1972年(21歳?):レッドランズ大学(University of Redlands)で学士号を取得
- 1978年(27歳?):コーネル大学(Cornell University)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学
- 1982年(31歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ(University of California, San Francisco)・ポスドク
- 19xx年(xx歳):ケース・ウェスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)・教授
- 2000年1月(49歳?):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・教授
- 2007年(56歳?):アメリカ芸術科学アカデミー(American Academy of Arts and Sciences, 略称: AAAS)の会員
- 2012年(61歳?):全米医学アカデミー(National Academy of Medicine ; NAM)の会員
- 2014年6月20日~2016年10月31日(63~65歳?):「NIH委員会評議会(Council of Councils)」のメンバー(出典:研究開発戦略センター(CRDS))
- 2016年7月1日(65歳?):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・研究担当副学長
- 2021年(70歳?)(推定):研究不正が発覚
- 2022年3月8日(71歳?):研究公正局がネカトと発表
- 2022年3月10日(71歳?):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・研究担当副学長を辞任、殊勲教授は続けた
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
大学紹介の動画:「UNC Research | Vice Chancellor for Research Terry Magnuson – YouTube」(英語)1分3秒。
UNC-Chapel Hill チャンネル登録者数 1.25万人が2018/11/06に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★重要人物
2000年、テリー・マグナソン(Terry Magnuson)は、米国のノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・教授に着任し、2016年2月、研究担当副学長になった。
マグナソンは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校に10億ドル(約1000億円)以上の助成金をもたらした大功労者である。「Grantome: Search」で検索すると1997~2021年の172件のグラント受給がヒットした。全部、NIHからである。
2021年8月にも50万ドル(約5千万円)のNIH 研究費を得ていた:UNC Awarded a NIH Supplement
学術界での名声も高い。
- 2007年にアメリカ芸術科学アカデミー(American Academy of Arts and Sciences, 略称: AAAS)の会員
- 2012年に全米医学アカデミー(National Academy of Medicine ; NAM)の会員
- 2014年6月20日~2016年10月31日(37歳?):「NIH委員会評議会(Council of Councils)」のメンバー(出典:研究開発戦略センター(CRDS))
マグナソンは高給で、2019年の年収は$624,526(約6245万円)だった。 → Terry Magnuson R | GovSalaries
★ネカト
テリー・マグナソン(Terry Magnuson)は、上述したように、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の要職に就いている。しかも、学術界の重鎮である。
そんな偉い研究者が71歳(?)で研究公正局に盗用と認定された。
ネカト発覚の経緯は不明だが、2021年3月1日の研究費申請書の盗用が指摘されているので、発覚時期は、2021年3月(70歳?)以降と推定される。
誰が見つけたのか記載がない。特定できない。
2022年3月8日(71歳?)、発覚から1年後(早いですね)、研究公正局は、1件の研究費申請書でマグナソンが盗用していたと発表した。
2022年2月25日から約2年間の監督期間を科した。約2年間の監督期間は軽い処分である。
1件の研究費申請書は以下の通りで、2021年3月(70歳?)の申請書である。研究公正局の発表のママ、ほとんど英語でゴメン。
- 研究費申請書 R01 CA267946-01A1, “Genome-wide dynamics of chromatin modifiers,” submitted to NCI, NIH, on March 1, 2021 (hereafter referred as “R01 CA267946-01A1”)
被盗用文書は以下の4件で、2017-2021年(66-70歳?)の約5年間の4文書で、研究費申請書(R01 CA267946-01A1)に盗用した。以下は、研究公正局の発表のママ、英語でゴメン。
- Comprehensive Guide to Understanding and Using CUT&Tag Assay. November 4, 2020. https://www.activemotif.com/blog-cut-tag (hereafter referred as “Blog cut&tag 2020”).
- Complete Guide to Understanding and Using ATAC-Seq. February 9, 2021. https://www.activemotif.com/blog-atac-seq (hereafter referred as “Blog ATAC-Seq 2021”).
- Illumina CATCH-IT. https://www.illumina.com/science/sequencing-method-explorer/kits-and-arrays/catch-it.html (hereafter referred as “Illumina Catch-it”).
- Modeling Physiological Events in 2D vs. 3D Cell Culture. Physiology (Bethesda) 2017 Jul;32(4):266-277; doi: 10.1152/physiol.00036.2016 (hereafter referred as “Physiology (Bethesda) 2017”).
★監督期間(Supervision Period)
研究公正局は、テリー・マグナソン(Terry Magnuson)に約2年間の監督期間(Supervision Period)という処分を科した。
監督期間(Supervision Period)という処分は、今回が初めてである。2022年から従来の「Voluntary Exclusion Agreement (Agreement)」を止めて、監督期間(Supervision Period)という処分に変えたようだ。
監督期間(Supervision Period)の処分は次のようだ。
監督期間中、ネカト者を雇用しているすべての機関は、公衆衛生局(PHS)の資金の各申請に関して、ネカト者が関与するレポート、原稿、要約について次のことを証明する書類を提出すること。
提示したデータは実際の実験に基づいているか、合理的に導き出されている。そして、データ、手順、方法論は正確に記載され、かつ盗用はない。
★マグナソンの説明
2022年3月11日(71歳?)、マグナソンは今回のネカトで研究担当副学長を辞任したが、その翌日、学内向けに事態を説明する文書を発表した → Message to Campus and a Word of Thanks – UNC Research、保存版
ポイントを抽出してみよう。
私が研究担当副学長の職務を引き受けたとき、私は遺伝学研究室の主宰(PI)も続けました。私は自分の研究室で行なっている研究と研究室員に深くかかわっています。この二刀流は、実際的な課題を理解するのに非常に役立ちましたが、両方の役割を引き受けることで私は非常に多忙でした。
2019年に私はNIH・国立がん研究所に研究費申請をしました。それは好意的に審査されました。2020年3月、新型コロナ・パンデミックが国と大学を襲ったちょうどその時、私はその申請が良い評価を受け、採択されそうだということを知りました。
しかし、約6か月後、不採択という通知を受けました。パンデミックに直面していた大学と世界は、その時点で新型コロナに対処すべき差し迫った状況で、上級管理職として超多忙でした。
しかし、私の研究室員は、不採択だったけれども、申請した研究プロジェクトには研究する価値があると、研究費を再申請するようにと私を促しました。それで、申請書を再提出するために受け取ったコメントのいくつかを、2021年の再提出の締め切り直前の短い期間に整理し始めました。
しかし、申請書書きに 30分間費やすと、大学の上級管理職としての日々の職務にシフトしなければなりませんでした。申請書を書き続けることができませんでした。たまたま30分間ほどの空きが見つかった場合にのみ、申請書書きに戻れたのです。
実験方法の技術的な詳細を申請書に書く過程で、私は間違いを犯しました。
ラボで日常的に行なわれている手法について記述するために、ウェブサイトに公開されていた文章が役立つと思い、その文章を保存し、自分の申請書に挿入しました。そして、上級管理職の職務から、申請書書きに戻ってきた時、私は、「うっかり」「間違って」自分が編集した箇所を見失い、出典を引用し損ねてしまったのです。
●【盗用の具体例】
2022年3月8日の研究公正局の発表では、1件の研究費申請書でマグナソンが盗用していたと発表した。
盗用比較図はみつからなかったので、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年3月21日現在、パブメド(PubMed)で、テリー・マグナソン(Terry Magnuson)の論文を「Terry Magnuson [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の102論文がヒットした。
2022年3月21日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年3月21日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでテリー・マグナソン(Terry Magnuson)を「Terry Magnuson」で検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年3月21日現在、「パブピア(PubPeer)」では、テリー・マグナソン(Terry Magnuson)の論文のコメントを「Terry Magnuson」で検索すると、5論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》全論文・全文書
ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」
「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメント欄に「Randomletterssays: March 12, 2022 at 5:27 am」が、テリー・マグナソン(Terry Magnuson、写真出典)の全論文・全文書の盗用を調べるべきだとコメントしている。白楽もそう思う。
ただ、マグナソンが学内向けに2022年3月11日に発表した文書を読むと、今回発覚した盗用は1件の研究費申請書なのだが、たまたま、「うっかり」「間違って」引用し忘れただけだと釈明している。
本当にそうかもしれない。
でも、「「うっかり」「間違って」引用し忘れただけ」の行為に対して、研究公正局は盗用でクロと認定するだろうか?
それに、チョッと注意するレベルではなく、監督期間(Supervision Period)を約2年間も科すだろうか?
マグナソンは弁解の上手い、盗用の確信犯なんでしょう。自己改革に約2年間が必要という判断なんでしょう。
《2》監督期間(Supervision Period)という処分
以下本文と重複する。
2022年から研究公正局は、従来の「Voluntary Exclusion Agreement (Agreement)」という処分を止めて、監督期間(Supervision Period)という処分 に変えたようだ。
監督期間(Supervision Period)の処分は次のようだ。
監督期間中、ネカト者を雇用しているすべての機関は、公衆衛生局(PHS)の資金の各申請に関して、ネカト者が関与するレポート、原稿、要約について次のことを証明する書類を提出すること。
提示したデータは実際の実験に基づいているか、合理的に導き出されている。そして、データ、手順、方法論は正確に記載され、かつ盗用はない。
この変更は大きな変化をもたらす気がする。
この処分は、ネカト者を学術界から排除する従来の処分とは大きく異なり、ネカト者を再教育し、学術界にとどまらせることになる。
処分が甘いためにネカト抑止力は落ちるだろう。
今後、どのような状況になるのか、現時点では読めない。
《3》盗用は珍しい
テリー・マグナソン(Terry Magnuson)のネカトは盗用という不正だが、研究公正局は、通常は盗用を扱わない。勿論、研究公正局は盗用を研究不正の1つとしているが、それでも、扱わない。
白楽が調べてみると、研究公正局は、過去10年間(2013~2022年)で以下の3件しか盗用事件を発表していない。
2020年の「ラフール・ジャヤント(Rahul Dev Jayant)(米) | 白楽の研究者倫理 」。この事件に盗用はあるが、ねつ造・改ざんもある。
2018年の「ラケッシュ・シュリヴァスタファ(Rakesh Srivastava)(米) | 白楽の研究者倫理」。この事件も盗用だが、論文での盗用ではなく研究費申請書での盗用である。
2013年の「プラティマ・カーニック(Karnik, Pratima)」は、白楽としては、まだ事件を解説していないが、研究費申請書での盗用である。
つまり、研究公正局が扱った盗用は純粋に論文だけの盗用は1件もない。ねつ造・改ざん絡みが1件、他の2件は研究費申請書での盗用である。
皆さんは把握していると思うが、だから、単純に、生命科学では盗用が少なく、ねつ造・改ざんが多いと判断しないように。
どうして、研究公正局は、盗用を扱わないのかと言えば、盗用論文は知的財産権上の問題はあるけど、論文に基づいて治療や診断をしても健康被害につながらない。つまり、重要度・深刻度が低いという理由だと思う。
ただ、研究費申請書での盗用だと、盗用者に研究費も盗まれることになるので、それは防止する。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2022年3月8日:Case Summary: Magnuson, Terry | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年3月11日の連邦官報:FRN 2022–05217 -Magnuson.pdf 。(3)2022年3月17日 の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年3月17日:NOT-OD-22-097: Findings of Research Misconduct
② 2022年3月8日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:UNC-Chapel Hill vice chancellor admits to plagiarism – Retraction Watch
③ 2022年3月10日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:UNC-Chapel Hill vice chancellor resigns post after admitting to plagiarism – Retraction Watch
④ 2022年3月10日のケイト・マーフィー(Kate Murphy)の「myrtlebeachonline.com」記事:UNC professor cited for plagiarism research misconduct | Myrtle Beach Sun News
⑤ 2022年3月11日のナタリア・メサ(Natalia Mesa)の「Scientist」記事:UNC Research Chief Admits to Plagiarism, Resigns | The Scientist Magazine®
⑥その他大勢
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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