「セクハラ」:フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)(米)

2019年7月17日掲載

ワンポイント:【長文注意】。アヤラはスペインで生まれ育った。1961年(27歳)に渡米し、1964年(30歳)にコロンビア大学(Columbia University)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)の教授になった。専門は進化遺伝学である。1980年(46歳)に米国科学アカデミー会員に選ばれ、2011年(77歳)にワイン用ブドウ栽培で成功したお金・約10億円を大学に寄付した。つまり、研究成果・研究界の地位・寄付額で、大学が誇るスター教授だった。ところが、2017年(83歳)、カリフォルニア大学アーバイン校の女性院生、女性教員、女性職員の4人から長年にわたりセクハラ言動を受けていたと大学に訴えられた。2018年6月28日(84歳)、大学はアヤラが「身体を触る、ハグする、頬にキスする」などの行為と性的発言をしていたことで、セクハラ有罪と発表した。アヤラは、カリフォルニア大学アーバイン校を辞職した。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

【追記】
・2021年6月24日「Science 」記事:米国科学アカデミーの会員剥奪:National Academy of Sciences ejects biologist Francisco Ayala in the wake of sexual harassment findings | Science | AAAS

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

フランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala、写真出典)は、スペインのマドリッドで生まれ育ち、1961年(27歳)に米国に渡り、1964年(30歳)にコロンビア大学(Columbia University)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)の正教授になった。専門は進化遺伝学で、論文は700報以上、著書15冊を上梓し、この分野では著名な学者である。カリフォルニア大学アーバイン校に約10億円の寄付をし、アヤラを名前を冠した建物などがあった。また、多数の賞を受賞し、米国科学アカデミー会員に選ばれ、アメリカ科学振興協会の会長などの要職を務めた。

2017年(83歳)、カリフォルニア大学アーバイン校の助教授のジェシカ・プラット(Jessica Pratt)、学部長補佐のベネディクト・シプリー(Benedicte Shipley)、院生のミシェル・エレーラ(Michelle Herrera)、そして教授のキャスリーン・トレセダー(Kathleen Treseder)がアヤラのセクハラを大学に訴えた。

2017年11月-2018年5月(83-84歳)、アーバイン校はアヤラのセクハラを調査した。

2018年6月28日(84歳)、アーバイン校のハワード・ジルマン学長(Howard Gillman)が97ページの調査報告書を公表し、アヤラが「身体を触る、ハグする、頬にキスする」などの行為と性的発言をしたことで、セクハラ有罪と発表した。

数日後の2018年7月1日(84歳)、アヤラはカリフォルニア大学アーバイン校を辞職(resign)した。解雇ではないが、名誉教授の称号は与えられなかった。

なお、4人の被害者の内、1人は「不快だからやめて下さい」とアヤラに抗議したが、他の3人は怖くて抗議していなかった。

アヤラは「私がヨーロッパの紳士の良いマナーとして常に考えてきたこと、それは、女性の同僚に温かい挨拶をし、両頬にキスをして美しさを賛美することでした。その行為が同僚を不快にさせたことを私は深く遺憾に思います。私が彼女たちを不快にさせるつもりはありませんでした」と声明の中で弁解した。

人物の後ろがフランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala)夫妻の名前を冠した生物科学棟(Hana and Francisco J. Ayala School of Biological S ciences)。事件後、名称は変えられた。人物はFrank LaFerla 生物科学部・学部長。写真出典

カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)のフランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala)の名前を冠した図書館(Francisco J. Ayala Science Library)。事件後、名称は変えられた。(Photo by Alicia Robinson/The Orange County Register/SCNG)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:スペイン
  • 研究博士号(PhD)取得:コロンビア大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1934年3月12日。スペインのマドリッドで生まれた
  • 現在の年齢:87 歳
  • 分野:進化遺伝学
  • セクハラ行為:2004-2017年(70-83歳)の13年間
  • 最初に訴えられた:2015年(81歳)
  • 社会に公表年:2018年(84歳)
  • 社会に公表時地位:カリフォルニア大学アーバイン校・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の4人の女性で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「Los Angeles Times」紙など多くの新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア大学アーバイン校・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:2018年7月20日の「Science」記事は97ページの報告書にリンクしていたが、2018年8月17日の更新でリンクを切った。それで、2019年7月16日現在、「なし」(△)
  • 大学・処分のウェブ上での公表:あり①:UCI proposes new name for School of Biological Sciences, science library after internal investigation substantiates sexual harassment claims against signature donor | UCI News | UCI、(保存版)、②
    Important Message Regarding Francisco J. Ayala | Office of the Chancellor | UCI、(保存版
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:セクハラ
  • 被害者数:名前公表は4人の女性院生、女性教員、女性職員
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後は退職(Ⅹ)
  • 処分:名誉教授の称号なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:①: Francisco J. Ayala Curriculum Vitae、②:Francisco J. Ayala | Biography & Facts | Britannica.com、③:http://www.templetonprize.org/pdfs/2010_prize/A-FactSheet.pdf

  • 1934年3月12日:スペインのマドリッドで生まれた
  • 1955年(21歳):スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(University of Madrid)で学士号取得:物理学
  • 19xx年(xx歳):スペインのサラマンカ大学(University of Salamanca)で神学を学ぶ
  • 1960年(xx歳):ドミニカの司祭に任命。同年、神職を止めた
  • 1961年(27歳):米国に移住
  • 1964年(30歳):米国のコロンビア大学(Columbia University)で研究博士号(PhD)を取得:遺伝学。指導教授:テオドシウス・ドブジャンスキー(Theodosius Dobzhansky)
  • 1965-1967年(31-33歳):プロビデンス大学(Providence College)・助教授
  • 1967-1971年(33-37歳):ロックフェラー大学(Rockefeller University)・助教授
  • 1968年5月27日(34歳):結婚
  • 1971年(37歳):アメリカ国籍を取得
  • 1974-1987年(40-53歳):同・教授
  • 1980年(46歳):米国科学アカデミー会員
  • 1985年(51歳):再婚
  • 1989年(55歳):カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・教授
  • 1993-1996年(59-62歳):アメリカ科学振興協会(AAAS)の会長
  • 2001年(67歳):アメリカ国家科学賞(National Medal of Science)・受賞
  • 2010年(76歳):テンプルトン賞(Templeton Prize)・受賞
  • 2011年(77歳):カリフォルニア大学アーバイン校・生物科学部に1千万ドル(約10億円)寄付した
  • 2017年(83歳):セクハラしたとカリフォルニア大学アーバイン校に訴えられた
  • 2017年11月-2018年5月(83-84歳):カリフォルニア大学アーバイン校がセクハラ調査。97ページの報告書を作成した
  • 2018年6月28日(84歳):カリフォルニア大学アーバイン校のハワード・ジルマン学長(Howard Gillman)がアヤラがセクハラで有罪と発表した
  • 2018年7月1日(84歳):カリフォルニア大学アーバイン校を辞職(resign)。名誉教授の称号なし

●3.【動画】

【動画1】
2018年10月16日のカリフォルニア大学アーバイン校のハワード・ジルマン学長(Howard Gillman)がアヤラ事件を説明している動画:「UCI Chancellor Howard Gillman on Francisco J. Ayala Case – YouTube」(英語)6分29秒。
Daniel Tsangが2018/10/24 に公開

●4.【日本語の解説】

★2018年7月28日:船守美穂(国立情報学研究所):セクハラで訴えられた教授の名を冠した研究科から、名前を除去

出典 → ココ、(保存版

セクハラをされたという複数の女性からの訴えにより、カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の遺伝学教授Francisco J. Ayala氏が辞職しました。これに伴いUCI大学当局は、Ayala氏の名前を冠していた研究科名を、”Francisco J. Ayala School of Biological Sciences” から “UCI School of Biological Sciences” にすると発表しました。その他、同氏の名前を冠する奨学金や学術プログラム、寄付講座などからも、同氏の名前は外されます。Ayala氏は2011年、ワイン用ブドウ栽培ビジネスで得た利益から1000万ドルを、UCIの生物学研究科に寄付をしていました。

スペインからUCIに来た、元ドミニコ会修道士のAyala氏は、「自分が、ヨーロッパ紳士の良いマナーであると思っていた、女性に暖かく挨拶し、両頬にキスし、美しさを称賛するという行為が、同僚を不快な気持ちにさせていたことは申し訳なく思っている。(不快にさせようという)意図があってやっていたわけではない」と、セクハラの事実を否認していますが、大学当局を相手に裁判を起こす予定はなく、静かに大学を去る予定だそうです。

以下略。

★2010年5月5日:MikSの浅横日記:道徳の起源 [海外メディア記事]

出典 → ココ、(保存版

セクハラ事件の報道ではなく、研究絡みの記事である。

カリフォルニア大学アーバイン校の進化生物学の教授であるフランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)は、道徳を進化の偶然の副産物であると見なしている。倫理的な振る舞いは、自然淘汰によって直接説明することはできないと、彼は専門誌『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences 』に書いている。

道徳は、アヤラにとっては、人間に直接的な恩恵をもたらす環境への適応ではなく、むしろ外適応(Exaptation) なのである。進化生物学者は、ある形質が本来の目的とは別の目的に創造的に転用されるという自然現象をそう呼ぶのである。「外適応」の例は多く、たとえば羽がそうである。羽が発達したのは、まず動物の体温を保つためであった。その後、鳥は、飛ぶために羽を利用したのである。

外適応の主張によって、アーバイン校の進化生物学者は、道徳の発生を進化によって直接的に説明しようとする多くの同僚の見解に異を唱えてきた。「人間はつねに社会的に生きてきたし、社会的生活とはルールに従う生活のことを意味する」と、たとえばフランクフルト大学のユルゲン・ベライター-ハーン(Jürgen Bereiter-Hahn)は述べる。「そこに私は道徳の起源を見るのです ―― 道徳は進化上の利点を直ちに産み出すことができるのです」。

フランシスコ・アヤラはこうした主張を疑問視する。「道徳的な感覚は私たちがもろもろの行為を正しいあるいは間違っていると判断することを可能にします」。アヤラによると、道徳的判断の能力それ自体が、同種の他のメンバーに対して一つの利点になったとは考えにくい。とりわけ更新世の時の自然選択の目標は、むしろ知的能力の発展だった、というのである。

知性は属性として選択されたとアヤラは書いている。そして、知性のおかげで、人間は道具を作ったり使ったりして、以前にもます成功を勝ち得ることができたのだという。こうしてますます発達していった人間の大きな知的能力に、アヤラは道徳的な感覚を帰着させる。「知的能力のおかげで、私たちは、自分の行動の結果を予測し、その結果を評価し、それに応じた行動を選択することができるのです」。人間の合理性が、道徳的な判断を産み出すのである。

以下略。

★2009年8月5日:トムソン・ロイター:マラリア、起源はチンパンジーの可能性=米研究

出典 → ココ、(保存版

セクハラ事件の報道ではなく、研究絡みの記事である。

[ワシントン 3日 ロイター] 米研究チームが3日、マラリアはエイズと同様に、もともとチンパンジーからヒトに感染した可能性があると報告した。カリフォルニア大学アーバイン校のフランシスコ・アヤラ氏のチームが「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表した。

研究チームでは、ほとんどのマラリア感染例の原因となっている寄生虫がチンパンジーにみられる寄生虫と遺伝子的に類似しているという証拠を発見。遺伝子分析の結果、ヒトの寄生虫はチンパンジーの寄生虫から直系の派生であることが示されたという。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)の人生

フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala、写真出典)は世界的に著名で、米国のトップクラスの進化遺伝学者である。

スペインのマドリッドで生まれ育ち、1961年(27歳)に米国に渡り、1964年(30歳)にコロンビア大学(Columbia University)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)の正教授となった。専門は進化遺伝学で、論文は700報以上、著書15冊を上梓し、この分野では著名な学者になった。また、多数の賞を受賞し、米国科学アカデミー会員に選ばれ、アメリカ科学振興協会の会長などの要職を務めた。

私生活では、1960年代後半、アヤラはメアリー・ヘンダーソン(Mary Henderson)と出会い、1968年5月27日に34歳で結婚した。Francisco José(1969年生まれ)とCarlos Alberto(1972年生まれ)の2人の息子をもうけた。しかし、離婚した。

1985年(51歳)、アヤラは生態学者のハナ・アヤラ(Hana Ayala (née Lostakova)、写真出典)と再婚した。2019年7月16日現在、離婚していない。

つまり、セクハラ事件を起こした時、独身ではなく、結婚していた。

【フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)のセクハラ事件】

★セクハラ事件:全体像

被害者側の弁護士であるミカ・リバティ(Micha Liberty)によると、何人もの教員や院生が「アヤラに身体を触られ、性的発言および性差別的な発言を受けた」とカリフォルニア大学アーバイン校に訴えていたが、大学は長年、これらの訴えを無視してきた。

2015年(81歳)、例えば、被害者の1人(プラット助教授)は、アヤラのセクハラを大学に訴えたが、大学は調査しなかったし、彼を制裁しなかった。大学はただ「アヤラに近づかないで」と言っただけだった。アヤラは学者として大成功した人で、カリフォルニア大学アーバイン校に多額の寄付をしてくれた。つまり、アヤラは「大学の宝」だった。だから、セクハラの苦情を受けても、大学は何とかもみ消そうとしたのだ。

しかし、2017年10月5日にハーヴェイ・ワインスタインの数十年のセクハラ行為が新聞で糾弾され、時代の流れが変わってきた。「#MeToo(ミートゥー)」時代の幕開けである。

2017年(84歳)、アヤラのセクハラ被害者も大学に公式に訴えた。訴えた被害女性は下の4人である。写真(出典)の左から、助教授のジェシカ・プラット(Jessica Pratt)、学部長補佐のベネディクト・シプリー(Benedicte Shipley)、院生のミシェル・エレーラ(Michelle Herrera)、そして教授のキャスリーン・トレセダー(Kathleen Treseder)である。

2017年11月-2018年5月(83-84歳)、カリフォルニア大学アーバイン校がアヤラのセクハラを調査した。

2018年6月28日(84歳)、7か月の調査の結果、カリフォルニア大学アーバイン校のハワード・ジルマン学長(Howard Gillman)はアヤラがセクハラで有罪と発表した。数日後の2018年7月1日、アヤラはカリフォルニア大学アーバイン校を辞職(resign)した。解雇ではないが、名誉教授の称号は与えられなかった。

アヤラは「私がヨーロッパの紳士の良いマナーとして常に考えてきたこと、それは、女性の同僚に温かい挨拶をし、両頬にキスをして美しさに賛美することでした、その行為が同僚を不快にさせたことを私は深く遺憾に思います。私が彼女たちを不快にさせるつもりはありませんでした」と声明の中で弁解した。
→ 声明:UCI faculty support Ayala

★アヤラのセクハラ言動

アヤラの主なセクハラ言動は、「身体を触る、ハグする、頬にキスする」などの行為と性的発言となっている。

具体的な行為を以下に示す。

アヤラは妊娠していた女性教授・トレセダーに「あなたはとても巨大だ(you’re so huge)」と言ったり、生き生きと講演した時、「オーガズムを感じてた?」と話しかけた。後に、セクハラ告発書を読んだアヤラは、これはウソだと発言を否定した。

アヤラは定期的にシプリー学部長補佐(女性)のジャケットの内側に手を入れ、上下にこすった。「ジャケットの内側に手を入れ」たのは、ハグに見せかけて抱き合う時に行なった。勿論、普通のハグでは「ジャケットの内側に手を入れない」。外側から抱くのである。また、普通のハグでは「上下にこすらない」。

ミーティングで、若手女性教員のプラット助教授に「私の膝の上に座って」と言った。

2018年5月(84歳)、97ページのアヤラのセクハラ調査報告書が完成した。その報告書によると、61人がアヤラのセクハラ行為を目撃していた。その目撃したシーンがすべて記載されていた(2019年7月16日現在、ウェブから削除されていて、白楽は入手できなかった)。

そして、アヤラのセクハラ行動は2004年から目撃されていた。となると、証人の証言があるだけでも、2004-2017年(70-83歳)の13年間にわたって、セクハラしていたことになる。

2017年11月(83歳)、カリフォルニア大学アーバイン校はアヤラのセクハラ調査を開始したが、それ以前にも、セクハラを止めるようアヤラに何度も警告していた。例えば、2015年のセクハラ告発を受け、大学はアヤラにセクハラをやめるよう警告していた。ところが、その警告を無視して、アヤラはセクハラ言動を続けていたのである。

なお、セクハラ調査報告書に記載されたセクハラ言動の大半をアヤラは否定している。被害者と称する一部の女性はウソをついていると主張した。また、他の言動はセクハラではないと否定した。

また、アヤラが挨拶の際にの両頬にキスをすることと、容姿を褒めることは学内で頻繁だったようだ。メール・ルームやエレベーターで女性院生と出会うと、とても頻繁にこのスタイルの挨拶と喜びを表現した。それで、女性院生はアヤラの誉め言葉を「メール・ルームのコメント(the mail room comment)」とか「エレベーターのコメント(elevator comment)」と呼んでいたそうだ。容姿を褒められることを不快に感じる女性院生や女性スタッフがソコソコいる現実を、アヤラは認識できなかったのである。

★学部長補佐のベネディクト・シプリー(Benedicte Shipley)

ベネディクト・シプリー(Benedicte Shipley、50歳)とフランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala、84歳)。写真:(Allen J. Schaben and Gary Coronado / Los Angeles Times。出典

学部長補佐のベネディクト・シプリー(Benedicte Shipley)はキャンパスの会議室で新聞記者の取材に応じた。

カリフォルニア大学アーバイン校に28年間勤務しているシプリーは、アヤラに不快だという自分の気持ちを伝えなかったことを認めたが、「不快だと伝えることで、コクハラ(告発ハラスメント)され、キャリアが危険にさらされることを恐れていました」と語った。彼女は彼女のやり方で対処していたのだ。

「アヤラが高い地位にあり、強大な権力を持っていることは、彼のオフィスに飾られている写真で明らかです。アメリカ大統領と一緒の写真、スペイン女王と一緒の写真が飾られています。それに数々の国際的な賞、2ダース以上の名誉学位がある人です」。

アヤラの行為に抗議すれば、たとえ彼女の主張が正当だと認められても、同僚から反発をくらうことになり、結局、仕事を失うか、昇進できなくなると恐れていた。

上の写真でわかるようにシプリーのオフィスは殺風景である。大学にセクハラ告発後、何人かの教員から脅迫されているように感じた。それで、オフィスに置いてあったすべての個人的な写真とアイテムを整理したそうだ。

2018年の教職員宛ての手紙で、アーバイン校・教務部長(プロボースト:学長に次ぐ地位)のエンリケ・ラヴェルニア(Enrique Lavernia、写真出典)は、大学執行部はこの件について「継続的な会話」を歓迎するが、セクハラ被害と名乗り出た女性の「対決行動」を歓迎しないと述べたのである。

全米アカデミーズの最近の報告によれば、男性が支配的な学術界でセクハラ被害を訴えないのはコクハラ(告発ハラスメント)が障壁になっているためだと結論している。

★ジェシカ・プラット助教授(Jessica Pratt)

下の2枚の写真は、2014年、ジェシカ・プラット(Jessica Pratt)(33歳)がアーバイン校で進化生物学の研究博士号(PhD)取得し、アーバイン校・院生代表で卒業生答辞を述べたときである(出典)。

壇上から来賓のオバマ大統領に謝意を示している。

2014年、オバマ大統領に祝福される卒業生答辞を述べたジェシカ・プラット(Jessica Pratt)(33歳)。

プラットは院生代表で答辞をのべたように、とても優秀で、2014年に卒業後、同校の助教授に採用された。

2015年(81歳)、ミーティングで、アヤラは若い女性であるジェシカ・プラット助教授(Jessica Pratt)に、「私の膝の上に座って」と言った。

後に、アヤラは調査員に、「まことに遺憾な発言で、正常な判断を欠いていました」とこの発言を認めたが、このケースは1回限りだと弁解した。

ただ、他の女性院生は、アヤラが委員を務めた博士論文審査委員会で、会議中、彼女も膝に座るようアヤラに誘われたと述べている。

プラット助教授は当時の学科長に不適切な発言だと申立てた。学科長はアヤラにプラット助教授に謝るように伝え、アヤラはプラット助教授のオフィスに行き、「姪や孫娘が演説している時のような遊び心のつもりで発言してしまい、大変申し訳なかった」とプラット助教授に「深く謝罪した」。

しかし、当時の学科長がプラット助教授の苦情をアヤラに最初に伝えた時、アヤラは彼女を「嘘つき」と呼んだのである。それで、プラット助教授はアーバイン校の機会均等多様性事務局(Office of Equal Opportunity and Diversity)に非公式の苦情を申し立てた。

また、プラット助教授は「アヤラが自分の容姿をほめ続けるので、自分は容姿で評価されているだけで、研究では評価されていないと感じました。そして、科学者としての自分の長所に疑問を持つようになりました」と調査員に伝えていた。

プラットの苦情の結果、キルステン・クアンベック副学長(Kirsten Quanbeck)は、アヤラに「あなたの行為は人びとに歓迎されないし、大学の規則に反しています。女性に対する言動に注意するように」と警告した。 セクハラ調査報告書によると、学科長もアヤラに同様の警告を与えた。

しかし、アヤラは言動を改めなかった。

★アヤラ事件は過剰反応?

カリフォルニア大学アーバイン校の調査結果によると、アヤラに褒められたり、両頬にキスされたという10人の女性のうち、2人が不快に感じたが、8人は感じなかったと述べていた。ただ、アヤラの行動を目撃した他の人々の多くは、それらを不適切だと感じていたそうだ。

ブラウン大学(Brown University)でジェンダー問題を専門とするローズ・マクダーモット教授(Rose McDermott、写真出典)は、「年配の女性よりも若い女性の方が同じ行為に対してハラスメントと受け取る傾向が強い」。「不適切な言動と本物のハラスメントの境界線の位置は、女性自身も意見がまちまちです。境界線上の言動は折り合いをつけるのが難しくなっています」と述べている。

アヤラと同じ大学のエリザベス・ロフタス心理学教授(Elizabeth Loftus)は、アヤラを支持している。

エリザベス・ロフタス(Elizabeth F. Loftus, 1944年10月16日 – )は、アメリカ合衆国の認知心理学者。記憶と目撃証言に関する研究の第一人者である。ロフタスは2002年、20世紀で最も影響力のある100人の心理学研究者の58番目に選出され、女性では最高位であった。(写真を含めた出典:エリザベス・ロフタス – Wikipedia

ロフタス心理学教授は、「調査報告書を読みましたが、些細な言動に対する行為を告発していて、私たちが処罰したい明らかに悪いセクハラ言動からはほど遠いです。この程度で告発されると、「ハイ、次の人(Who’s next?)」と、次々とセクハラで告発されかねませんね」と語った。

カリフォルニア大学アーバイン校および世界中の100人以上の学者は、「アヤラの言動は礼儀正しく挨拶したことを女性が誤解している。アーバイン校のアヤラへの処分は「大きな過剰反応」である」と、懸念表明の声明に署名している。声明 → UCI faculty support sanctions against Ayala

この声明に署名したアヤラと同じ大学のクリステン・モンロー政治学教授(Kristen Monroe、1946 年生まれ、写真)は、自分は女性に同情的なフェミニストだと前置きし、アヤラに対する大学の処分は厳しすぎた。指導の停止と再研修で十分だと批判した。「#MeToo運動は行き過ぎています」とのことだ。

ボストン大学の学務担当副学部長であるキャンディス・ヘッツナー(Candace Hetzner、写真出典)は、アヤラのような事件がセクハラ改革の進歩を危うくする可能性があると心配していると語った。「多くのフェミニストは、セクハラ問題があまりにも複雑で強引になってきたと困惑しています。強姦や強制セックスは凶悪です。しかし、 「私の膝の上に座って」は凶悪ではありません。セクハラ範囲を安易に広げると、私たちの多くが何年もの間、セクハラ問題の解決で勝ち取った成果が反発される危険があります」。

一方、アヤラの所属しているアーバイン校・生物科学部の38人の同僚(テニュア準教授・教授)は、キャリアへのリスクにもかかわらずセクハラ被害を訴えた女性たちを支持するという文書を公表した。
→ UCI faculty support sanctions against Ayala

彼らは、「アヤラの言動は、昔の礼儀・習慣だから、と許容することはできません。アヤラは現代のセクハラ・ルールを知っているのに、それを破ることを選んだのはアヤラ自身です」。「強い権力を持つ男性が職場で若い女性同僚に不適切な性的言動をしたことで、彼女らの自信とヤル気を損ないました。この種の嫌がらせに長期間さらされるのは、昇進の見返りに性的関係を要求されるのと同じくらい、精神の健康に害を与える可能性があります」と述べている。

ニューヨーク州のアン・オリベリアス弁護士(Ann Olivarius写真)は、サイエンス誌の要請で報告書を読み、次のコメントした。「多くのセクハラ教員が女性学生と性交したり、性交を強要しています。そのようなセクハラ者とは異なり、アヤラはその境界を越えませんでした。しかし、彼は明らかに複数の女性に気分を悪くさせました。大学・管理職が、このような行動をやめるように彼に警告しましたが、彼は続けました」。

「アヤラの公的な処罰は時代が変わったという大きなシグナルです。ハラスメントが、従来のレイプ・キス・触るなどの強制的な性的行動だけを意味する時代が終わったのというシグナルです」とオリベリアス弁護士は加えた。

アヤラは、セクハラと訴えた女性のうち、ジェシカ・プラット助教授(Jessica Pratt)しか彼の行為に抗議してくれなかったことに悩んだ。

「残念ながら、私が礼儀として行なった行為を、4人の女性はセクハラ行為だと解釈していたのです」。 「私のことを知っている人の大半は、私のマナーをとても紳士的でとても適切だと言っておりました。私は女性も男性も最大限の敬意を持って扱ってきております」

自分の行為に抗議してくれたら、彼はすぐにそれを止めたと述べている。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2019年7月16日現在、パブメド(PubMed)で、フランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala)の論文を「Francisco J. Ayala [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、どういうわけか1970~2019年の50年間の149論文がヒットした。

「Ayala FJ[Author]」で検索すると、1965~2019年の55年間の385論文がヒットした。

2019年7月16日現在、「Ayala FJ[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
.
★撤回論文データベース

2019年7月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでフランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala)を検索すると、0論文がヒットした。

★パブピア(PubPeer)

2019年7月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、フランシスコ・アヤラ(Francisco J. Ayala)の1論文に賛辞のコメントをしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》境界線

「身体を触る、ハグする、頬にキスする」などの行為と性的発言をしたことで、アヤラはセクハラで有罪とされた。

しかし、ローズ・マクダーモット教授(Rose McDermott)が「不適切な言動と本物のハラスメントの境界線の位置は、女性自身も意見がまちまちです。境界線上の言動は折り合いをつけるのが難しくなっています」と述べているように、セクハラの線引きは難しいと白楽は思った。

文化・習慣に大きく影響されるだろう。

米国で、挨拶として両頬にキスするのをしばしば見た。白楽も相手の女性が顔を近づけてきたときは観念しておとなしく受け入れた。一般的だと思う。

なお、読者はご存じだと思うが、挨拶で両頬にキスをする時は、お互いの頬を触れ、唇を頬につけづに、チュッという音を立てる行為である。

ハグも米国では一般的だと思う。ただ、日本では一般的ではない。

お茶の水女子大学時代の弟子で、日本で医師になり、スウェーデンで研究者になっている女性がいる。大柄で妖艶な女性だが、8年前、日本に来た時、研究室を訪ねてきた。10数年ぶりに会ったアラフォーの大柄で妖艶な女性が、会った最初に、「先生、ハグして、ハグ」と両手を広げて駆け寄ってきたときは、さすがの不肖・白楽、タジタジと後ずさりした。ゴメン、ハグしてあげられなくて。けど、スウェーデンではハグは一般的なんでしょうね。

女性から両頬にキスする挨拶を受け入れたことがあると書いたが、外国人(欧米ではない)の男性にされた時はとまどった。頬をグイグイと白楽の頬に押し付けられビックリした。ただ、その国の男性同士の挨拶として頬をグイグイ押し付けてくるのは友情のあかしで、むしろ好感すべきなのかもしれない。

文化習慣の背景が異なるので、アヤラのセクハラ言動の悪質度が白楽にはイマイチわかりません。

また、文字で「身体を触る」と書いてあっても、性的な触り方なのか、そうでない触り方なのか、わからない。ましてや、相手がどの程度嫌がっているのか(好んでいるのか)、わからない。

ただ、大学はアヤラにセクハラ言動をやめるよう警告していたのに、その警告を無視して、アヤラはセクハラ言動を続けていたのは大きな問題だろう。

《2》56年間

アヤラのセクハラ事件が表沙汰になったのは2017年に被害女性が大学に訴えたからである。

アヤラはその時、83歳である。

そして、「私がヨーロッパの紳士の良いマナーとして常に考えてきたこと、それは、女性の同僚に温かい挨拶をし、両頬にキスをして美しさに賛美することでした」と弁解した。

ということは、1961年にアヤラが27歳で米国に移住して以来ズッーーーと、56年間もそのマナー(セクハラ行為)をしてきたことになる。挨拶だから、不快だと感じた被害者は4人どころか、4百人、4千人、イヤ4万人というレベルでいたでしょう。

誰かがもっと早く、つまり、アヤラがまだ若い偉くない時、「境界線上の言動」だと軽くでも、しっかり伝えるべきだった。ただ、「境界線上の言動」を注意するのは難しいけど。

また、大学はアヤラのセクハラ行為期間を2004-2017年(70-83歳)の13年間と公表したが、実際はもっと前からではないでしょうか?

《3》死ぬまで研究

アヤラがセクハラ事件でカリフォルニア大学アーバイン校・教授を辞任したのは、2018年6月28日で、アヤラが84歳の時である。米国には定年がないとはいえ、84歳で現役の教授というのも、なんというか、米国はスゴイですね。

セクハラ事件を起こさなくても、トットと辞職したらどうでしょう、と思いました。

白楽が、1980年代・1990年代、米国に滞在した時、テクニシャンのダティ(女性)がアラフィフでNIHを退職した。3歳年上の実兄が病気で亡くなり、このまま自分も働いていると、仕事をしたまま死んでしまう。もう老後の生活に困らないお金があるので、人生をエンジョイするために退職するとのことだった。つまり、ハッピー・リタイアメントという人生の生き方である。

ビルゲイツのようにお金がたまれば仕事を辞めて好きなことをする。このハッピー・リタイアメントという老後の生き方の概念が米国にはあるのだなと実感した。

ところが、「老後の生活に困らないお金がある」アヤラは84歳で現役の教授。ハッピー・リタイアメントの生き方はどこ行った?

そういえば、白楽の米国時代の直属のボス、ケネス・ヤマダ(Kenneth M. Yamada)は、1944年9月生まれなので2019年7月16日現在、75歳だが、まだNIHの部長で現役の研究者である。

白楽のボスのボスのアイラ・パスタン(Ira Pastan)は1931年6月1日生まれなので2019年7月16日現在、88歳。それなのに依然として、NIH・国立がん研究所・分子生物学部の現役の研究者である(Ira Pastan, M.D. | Center for Cancer Research – National Cancer Institute)。

セクハラの概念が30年前と変わったように、老後の生き方の概念も変わったようだ。30年前は若くしてハッピー・リタイアメントが米国人の望む生き方だったが、現代では、死ぬまで現役で研究するのが米国の研究者の望む生き方のようだ。

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フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)。写真出典

●8.【主要情報源】

① ウィキペディア。(1)事件のことが書いてある英語版:Francisco J. Ayala – Wikipedia、(2)事件のことは書いてない日本語版:フランシスコ・アヤラ – Wikipedia
② フランシスコ・アヤラ(Francisco Ayala)セクハラ事件の「Vox.」記事:Francisco Ayala, former UC Irvine professor, sexual misconduct allegations
③ 2018年6月29日のメレディス・ワドマン(Meredith Wadman)記者の「Science」記事:Prominent geneticist out at UC Irvine after harassment finding | Science | AAAS、(保存版
④ 2018年6月29日のコーネリア・ディーン(Cornelia Dean)記者の「New York Times」記事:Francisco J. Ayala, Famed Biologist, Resigns After Sexual Harassment Inquiry – The New York Times、(保存版
⑤ 2018年7月20日のメレディス・ワドマン(Meredith Wadman)記者の「Science」記事:Report gives details of sexual harassment allegations that felled a famed geneticist | Science | AAAS、(保存版
⑥ 2018年10月13日のテレサ・ワタナベ(Teresa Watanabe)記者の「Los Angeles Times」記事:Banishment of an acclaimed UC Irvine professor sparks debate over whether #MeToo can go too far – Los Angeles Times、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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