2018年8月18日掲載。
ワンポイント:17年前の2001年12月13日(33歳)、研究公正局は、ハーバード大学(Harvard University)・助教授(女性)のルッジェロの2報の論文、5件の研究費申請書にデータねつ造があったと発表した。5年間の締め出し処分を科した。ルッジェロはカナダ出身。国民の損害額(推定)は3億9300万円。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
カレン・ルッジェロ(Karen M. Ruggiero、女性、顔写真見つからない)は、カナダのマギル大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国のハーバード大学(Harvard University)の助教授になった。専門は心理学(社会心理学)だった。若く優秀との評判だった。
2000年(32歳)、ルッジェロがハーバード大学・助教授からテキサス大学オースティン校・助教授に移籍した。
移籍後、ハーバード大学のルッジェロ研究室の院生だった男性が、ルッジェロの2論文にデータねつ造があるとハーバード大学に通報した。
2001年12月13日(33歳)、研究公正局が、ルッジェロの2報の論文、5件の研究費申請書にデータねつ造があったと発表した。2論文で計600人のデータをねつ造したのである。2001年11月26日から5年間の締め出し処分を科した。
分野は心理学なので、本ブログでは「人文・社会科学・他」で扱ったが、研究公正局が調査しクロと結論したので「生命科学(米国)」の一覧表にもリストした。
- 国:米国
- 成長国:カナダ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのマギル大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。2001年12月9日の「Science」記事で33歳とあったので
- 現在の年齢:56 歳?
- 分野:心理学
- 最初の不正論文発表:1998年(30歳)
- 発覚年:2000年(32歳)
- 発覚時地位:テキサス大学オースティン校・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はハーバード大学のルッジェロ研究室の院生だった男性で、ハーバード大学に公益通報した
- ステップ2(メディア): 「Science」誌
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ハーバード大学・調査委員会。②学術誌・編集部。③研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:4報撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 5年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億9300万円。内訳 ↓
- ①研究者になるまで5千万円。
- ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。在職4年間x4500万円=1億8千万円。損害額は1億8千万円。
- ③外部研究費。外部研究費の助成を受けた研究でネカトをした場合、その研究費が無駄になる。1998年に387万円受給していた。損害額を400万円とした。
- ④調査経費。第一次追及の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円。研究公正局など公的機関は1件200万円。学術出版局は4件400万円とした。小計で1,900万円
- ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
- ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は共著が4報なので損害額は4,000万円。
- ⑦研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
- ⑧健康被害:不明なので損害額は0円とした。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。2001年12月9日の「Science」記事で33歳とあったので。カナダで生まれる
- 1990年(22歳):カナダのマギル大学(McGill University)で学士号取得:心理学(推定)。
- 1996年(28歳):カナダのマギル大学(McGill University)で研究博士号(PhD)を取得:心理学(推定)。
- 1996年(28歳):ハーバード大学(Harvard University)・助教授
- 2000年(32歳):テキサス大学オースティン校(University of Texas (UT), Austin)・助教授
- 2000年(32歳):不正研究が発覚する
- 2000年6月(32歳):テキサス大学オースティン校・助教授を辞職
- 2004年9月(36歳)-2018年(50歳)現在:テキサス州健康部・部長(Director , Texas Department of State Health Services)。学術誌「Behavioral Health」の編集長:Karen M. Ruggiero at State Comptroller Payroll | Government Salaries Explorer | The Texas Tribune
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★NIH研究費
カレン・ルッジェロ(Karen Ruggiero)は、NIH・国立精神衛生研究所(NIMH)から1998年に1件、計38,707ドル(約387万円)の研究費を受給していた。
★ネカト事件の詳細は不明
カレン・ルッジェロ(Karen Ruggiero)のネカト事件の詳細は不明である。
2000年(32歳)、ルッジェロがハーバード大学・助教授からテキサス大学オースティン校・助教授に移籍した。研究室開始費用として10万ドル(約1,000万円)付きのポストで「女性差別する文化・慣習・価値観」を研究する助教授に応募し採用されたからだ。
ところが、ルッジェロが移籍後、ハーバード大学のルッジェロ研究室の院生だった男性が、ルッジェロの2論文にデータねつ造があるとハーバード大学に通報した。
2000年6月(32歳)、ハーバード大学はルッジェロのネカトを調査しているとテキサス大学オースティン校に通知した。その事を伝えられたルッジェロはテキサス大学を辞職した。
2001年(33歳)、ハーバード大学・調査委員会は、ルッジェロのネカトを調査し、クロと判定し、研究公正局に伝えた。
2001年12月13日(33歳)、研究公正局は、カレン・ルッジェロ(Karen Ruggiero)にネカトがあったと発表した。2001年11月26日から5年間の締め出し処分を科した。
★ねつ造・改ざんの内容
カレン・ルッジェロ(Karen Ruggiero)は、2報の出版論文でねつ造データを発表した。その2論文の研究成果を5件の研究費申請書で使用した。
(1)ルッジェロは、以下の「1999年のJ Pers Soc Psychol」論文で240人が参加した3つの実験で参加者240人のデータをねつ造した。つまり、240人は架空の参加者なのだ。
- Less pain and more to gain: why high-status group members blame their failure on discrimination.
Ruggiero KM, Marx DM.
J Pers Soc Psychol. 1999 Oct;77(4):774-84. Retraction in: Ruggiero KM. J Pers Soc Psychol. 2001 Aug;81(2):178.
この実験は、1997年9月にNIH・国立精神衛生研究所(NIMH)に申請した研究費申請書「1 R03 MH58586-01」にも記載していた。ルッジェロは、データねつ造を認めている。ルッジェロの要請で、「1999年のJ Pers Soc Psychol」論文は撤回された。
(2)ルッジェロは、以下の「2000年のPersonality and Social Psychology Bulletin」論文で360人が参加した2つの実験でデータをねつ造した。つまり、この360人も架空の参加者なのだ。
- Why did I get a ‘D’?” The effects of social comparisons on women’s attributions to discrimination.
Karen Ruggiero, Jennifer Steele, Anne Hwang, David M.Marx
Personality and Social Psychology Bulletin 26(10):1271-1283, 2000
この実験も、1997年9月にNIH・国立精神衛生研究所(NIMH)に申請した研究費申請書「1 R03 MH58586-01」にも記載していた。ルッジェロは、データねつ造を認めている。ルッジェロの要請で、「2000年のPersonality and Social Psychology Bulletin」論文は撤回された。
上記2論文のねつ造に基づく研究成果は、ルッジェロが指導教授となり、2000年8月に申請したポスドク奨学金「F32 MH12868-01」と「F32 HD41874」にも使用した。また、1999年7月と2000年7月に科学庁(National Science Foundation)に申請した研究費申請書にも使用した。他に1件の研究費申請書にも使用した。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年8月17日現在、パブメド(PubMed)で、カレン・ルッジェロ(Karen M. Ruggieroの論文を「Karen Ruggiero [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の3論文と2017年の訂正公告2件の計5論文がヒットした。
「Ruggiero KM[Author]」で検索すると、1997~2018年の22年間の8論文がヒットした。8論文の内1論文は撤回公告である。
2018年8月17日現在、「Ruggiero KM[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
- Now you see it, now you don’t: explicit versus implicit measures of the personal/group discrimination discrepancy.
Ruggiero KM, Mitchell JP, Krieger N, Marx DM, Lorenzo ML.
Psychol Sci. 2000 Nov;11(6):511-4. Retraction in: Ruggiero KM, Mitchell JP, Kreiger N, Marx DM, Lorenzo ML. Psychol Sci. 2002 Mar;13(2):197. - Less pain and more to gain: why high-status group members blame their failure on discrimination.
Ruggiero KM, Marx DM.
J Pers Soc Psychol. 1999 Oct;77(4):774-84. Retraction in: Ruggiero KM. J Pers Soc Psychol. 2001 Aug;81(2):178.
2001年12月9日の「Science」記事によると、4論文撤回とある。つまり、上記以外に2論文を撤回しているハズだ。
→ 2001年12月9日のコンスタンス・ホールデン(Constance Holden)記者の「Science」記事:Psychologist Made Up Sex Bias Results | Science | AAAS
以下の2論文である。
→ 2011年1月18日のサンジェイ・スリヴァータヴァ(Sanjay Srivastava)記者の「The Hardest Science」記事:karen ruggiero – The Hardest Science
- Ruggiero, K.M., Steele, J., Hwang, A., & Marx, D.M. (2000). Why did I get a ‘D’? The effects of social comparisons on women’s attributions to discrimination. Personality and Social Psychology Bulletin, 26, 1271-1283.
- Ruggiero, K.M. & Major, B.N. (1998). Group status and attributions to discrimination: Are low- or high-status group members more likely to blame their failure on discrimination? Personality and Social Psychology Bulletin, 24, 821-838.
★パブピア(PubPeer)
省略
●7.【白楽の感想】
《1》詳細は不明
この事件の詳細は不明です。
2001年頃の事件は新聞記事になったような大きな事件を除いて詳細は不明である。17年も経過しているので当時の資料は簡単には見つからない。ましてや、インターネットは今ほど発達していなかったので、ネット上の情報はそもそも少なかった。
ネカト防止策は、この事件からは学べない。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 2001年12月13日、研究公正局の報告:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT
② 2001年12月9日のコンスタンス・ホールデン(Constance Holden)記者の「Science」記事:Psychologist Made Up Sex Bias Results | Science | AAAS
③ 2010年7・8月号のマイケル・プライス(Michael Price)記者の「Monitor」記事:Sins against science、(保存版)
④ 2014年5月22日のトマシュ・ウィトコフスキ(Tomasz Witkowski)記者の「Psychology Gone Wrong」記事:From the Archives of Scientific Fraud – Karen M. Ruggiero | Psychology Gone Wrong、(保存版)
⑤ 2011年1月18日のサンジェイ・スリヴァータヴァ(Sanjay Srivastava)記者の「The Hardest Science」記事:karen ruggiero – The Hardest Science、(保存版)
⑥ 2011年8月10日のジェニファー・ヤコブソン(Jennifer Jacobson)記者の「Chronicle of Higher Education」記事(有料記事で白楽は未読):A Psychology Professor Resigns Amid Accusations of Research Fraud at Harvard – The Chronicle of Higher Education
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●コメント