2017年8月28日掲載。
ワンポイント:インドのスリ・ヴェンカテスワラ大学・教授(男性)で、2007年(42歳?)、学術誌に投稿した論文が盗用だとバレ、調査の結果、トータル15報が撤回された。研究室の弟子の院生2人とグルになって、論文盗用を繰り返していた。大学から解雇・休職などの処分を受けず、2017年8月27日現在(52歳?)、同大学・化学科・教授である。損害額の総額(推定)は8千万円。撤回論文数の15報は、かつて、「撤回論文数」ランキングの上位30位以内に入っていた。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
パッティウム・チランジーヴィ(Pattium Chiranjeevi、写真出典、保存版)は、インドのスリ・ヴェンカテスワラ大学(Sri Venkateswara University)・教授で、専門は化学(分析化学)だった。
2007年(42歳?)、チランジーヴィの投稿原稿の査読者が、盗用だと学術誌編集長に伝え、盗用が発覚した。
2008年2月23日(43歳?)、スリ・ヴェンカテスワラ大学が調査し、チランジーヴィの論文盗用を発表した。また、同時にチランジーヴィの盗用を最初に見つけた学術誌「Analytica Chimica Acta」も、チランジーヴィの盗用を発表した。
撤回論文数は15報で、かつては、「撤回論文数」ランキングの上位30位以内にランク入りしていた。その後、30位が16報に上がり、2017年8月27日現在、ランク外である。
なお、スリ・ヴェンカテスワラ大学は、「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第284位の大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。
インドのスリ・ヴェンカテスワラ大学(Sri Venkateswara University)。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド?
- 研究博士号(PhD)取得:所持
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。2017年7月18日に閲覧した履歴書に26年間の経験とあり、2年前作成の履歴書として、28年前に24歳で修士生になったとした。
- 現在の年齢:59 歳?
- 分野:化学
- 最初の不正論文発表:?
- 発覚年:2007年(42歳?)
- 発覚時地位:スリ・ヴェンカテスワラ大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は学術誌「Analytica Chimica Acta」の査読者。査読者が編集長でテキサス大学アーリントン校教授のパーネンドゥ・ダスグプタ(Purnendu Dasgupta)に通報し、ダスグプタがスリ・ヴェンカテスワラ大学に通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Analytica Chimica Acta」・調査委員会。②エルゼビア社の調査。③スリ・ヴェンカテスワラ大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:盗用
- 不正論文数:撤回論文数は15報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は8千万円。内訳 → ①研究者を廃業していないので、研究者になるまでの5千万円は無駄になっていない。⑤調査経費(学術誌出版局と大学)が5千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。15報撤回=3000万円。
- 結末:辞職なし。管理職禁止処分
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。2017年7月18日に閲覧した履歴書に26年間の経験とあり、2年前作成の履歴書として、28年前に24歳で修士生になったとした。
- xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
- xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
- xxxx年(xx歳):スリ・ヴェンカテスワラ大学(Sri Venkateswara University)・教授。化学
- 2007年(42歳?):論文盗用が発覚する
- 2008年2月(43歳?):スリ・ヴェンカテスワラ大学が盗用と発表。学術誌が論文撤回発表
- 2017年8月27日現在(52歳?):同大学・化学科・教授
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★論文盗用の発表
2008年2月23日(43歳?)、パッティウム・チランジーヴィ(Pattium Chiranjeevi)の所属するスリ・ヴェンカテスワラ大学が、チランジーヴィの論文盗用を発表した。
また、同時にチランジーヴィの盗用を最初に見つけた学術誌「Analytica Chimica Acta」も、チランジーヴィの盗用を発表した。
以下は、その不正発覚の経緯と内容である。
★不正発覚の経緯と内容
パッティウム・チランジーヴィ(Pattium Chiranjeevi)は、2004~2007年の4年間に70報の論文を出版した。2か月で3報出版のペースである。
米国のテキサス大学アーリントン校(University of Texas at Arlington)のパーネンドゥ・ダスグプタ教授(Purnendu Dasgupta、写真出典)は学術誌「Analytica Chimica Acta」の編集長を務めていた。
2007年、チランジーヴィは学術誌「Analytica Chimica Acta」に論文を投稿した。ダスグプタ編集長はチランジーヴィの原稿を、外部の査読者に査読を依頼した。すると、査読者から、この原稿は日本人が既に出版した論文とよく似ていると、回答があった。
ダスグプタ編集長は「実際には、測定されている化学物質の名称を変えただけで、他の部分は全く同じでした」と述べている。
それで、学術誌「Analytica Chimica Acta」を出版しているエルゼビア社は、チランジーヴィの過去の論文を調べ、チランジーヴィの13論文を盗用と認定し、撤回した。
チランジーヴィは自分の研究室の院生が「チランジーヴィ」と名乗って盗用論文の原稿を送付したのだと弁解した。電子メール・アドレスも自分は知らないと弁解したが、大学の調査で、電子メール・アドレスは本人のアドレスであることがわかった。
チランジーヴィは自分の弟子である院生を非難したことに加え、院生に学位を授与するたびに金を要求していた。
なお、彼の複数の院生(弟子)はチランジーヴィの不正を知っていたし、加担していたのである。
事件当時、チランジーヴィの元・院生のカイラサ・クマール(Kailasa Suresh Kumar、写真出典)は、韓国の全北(チュンブク)大学のポスドクになっていた。また、元・院生のカンジ・スバルダン(Kanji Suvardhan)は奨学金をもらってシンガポール・ナショナル大学(NUS)に留学していた。この2人が、盗用候補になる論文を探し出して、先生であるチランジーヴィに渡していたと言われている。2人は、チランジーヴィと共著の論文が50報もあった。
スリ・ヴェンカテスワラ大学のある教授は、「チランジーヴィと院生の不正行為は何度も大学に通報されていたが、大学は何も対処してこなかった」と大学の無対応さを批判した。
★大学の処分
スリ・ヴェンカテスワラ大学のラトナム学長(Choppala Ratnam)は、、「チランジーヴィ教授が論文中で使用したと書いた吸光分光器と原子発光分析装置は当大学にはありません」と述べている。そして、チランジーヴィ教授を化学科長などの管理職に就任できない処置をした。
2017年8月27日現在、チランジーヴィはスリ・ヴェンカテスワラ大学・化学科の教授のままである(::Sri Venkateswara University::)。
この事件では辞職・解雇はなかったし、本人が体面を気にして他大学に移籍する、ということもなかった。
●6.【論文数と撤回論文】
パッティウム・チランジーヴィ(Pattium Chiranjeevi)は、2004~2007年の4年間に70報の論文を出版した。2017年8月27日現在、出版論文の総数は不明である。
2017年8月27日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl= en)で、パッティウム・チランジーヴィ(Pattium Chiranjeevi)の撤回論文を「(retraction OR retracted) author:”chiranjeevi p”」で検索すると、36(撤回)論文がヒットした。
撤回監視は、チランジーヴィの撤回論文数を15報とカウントしている。この数字の方が信頼できる。
15報の撤回論文があるチランジーヴィは、かつては、「撤回論文数」ランキングの上位30位以内にランク入りしていた。その後、30位が16報に上がり、2017年8月27日現在、ランク外である。
●7.【白楽の感想】
《1》教授と院生がグル
チランジーヴィ事件では、教授と院生がグルになっていた。院生が盗用候補となる論文を探し、論文を盗用し、自分たちの出版論文を量産していた。
この場合、悪いのはどう見ても、教授の方だ。元々、院生は研究室に入るまで、盗用の意図はなかっただろう。しかし、教授から盗用を持ちかけられたら、院生は加担するか、研究室を出ていくかの2者択一になる。加担者になるのは何割か、白楽は、一般的なデータを知らないが、数割に及ぶと思う。
白楽は世界中のネカト事件をたくさん調べてきたが、大学当局が、教授と院生がグルだったと結論したケースはなかった(とても少ない)。
どうしてだろうか?
教授をクロと判定した場合、実際は院生が加担していたとしても、院生は被害者でもあるので、意図的に院生をシロと結論するのだろう。
一方、日本の加藤茂明事件では、研究室の院生や教員を6人も共犯として処分している。これはまっとうな処分なのだろうか? ある意味、院生は被害者ではないのか?
《2》大甘な処分
インドのネカトで、調査が適切で処分も適切と感じる事件もある。しかし、チランジーヴィ事件は全くヒドイ。大学はまともに調査した形跡がないし、処分は「管理職に就任できない処置」で、解雇どころか休職もない。
2017年8月27日現在、チランジーヴィは、同じ大学の化学科・教授である。一緒にネカトした当時の2人の元・院生のうち1人は、インドの大学の助教授になっている。
これでは、盗用はなくならない。盗用した方が得である。
ネカト者をクビにせよ!
と、白楽は主張する。
インドに正義はないのか?
ただ、お前の国はどうなんだと言われると、スンマセンと謝るしかない。
日本よ、もっとチャンとして欲しいぜ。
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●8.【主要情報源】
① 2008年2月25日の「Medical Writing, Editing & Grantsmanship」記事:“Massive Case of Fraud” – 70 papers over 4 years | Medical Writing, Editing & Grantsmanship、(保存版)
② 2008年3月25日、キルウディ・ジャヤラマン(Killugudi Jayaraman)記者の「Chemistry World」記事群:Chemistry’s ‘colossal’ fraud | News | Chemistry World、(保存版)
③ 2008年2月23日の「Daily News & Analysis」記事:Indian professor guilty of plagiarism | Latest News & Updates at Daily News & Analysis、(保存版)
④ 2008年2月23日の「Hindu」記事:Plagiarism issue rocks SV varsity – ANDHRA PRADESH – The Hindu、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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