メラニー・ココニス(Melanie Cokonis)(米)改訂

2018年5月1日掲載。

ワンポイント:米国・サザン研究所(Southern Research Institute)のテクニシャン(技術員)だった若い女性。2014年6月21日(30歳?)、研究公正局がネカトと発表し、3年間の締め出し処分を科した。一般的に、テクニシャン(技術員)は論文を書かないし、研究費の申請もしない。それなのに、「どうして、研究ネカト?」。テクニシャンのネカト問題を考えよう。損害額の総額(推定)は4億4500万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

141020 pallansch-cokonis[1]メラニー・ココニス(Melanie Pallansch-Cokonis、 写真出典)は、米国・サザン研究所(Southern Research Institute)のテクニシャン(技術員)だった。

2011年(27歳?)(推定)、ネカトが発覚した。

2014年6月21日(30歳?)、研究公正局がネカトと発表し、3年間の締め出し処分を科した。

ココニスはテクニシャン(技術員)なので、自分で論文を書いていない(2008年の共著論文が1報ある)。また、NIHに奨学金も研究費も申請していない。

サザン研究所の上司(研究員)が獲得したNIHのコントラクト(N01-AI-30047 とN01-AI-70042)とグラント(U54 HG005034)で働いていた。その実験作業で、抗ウイルス物質の細胞保護機能の測定値を改ザンした。

サザン研究所(Southern Research Institute)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年にフッド大学を卒業している。この時を22歳とした
  • 現在の年齢: 34歳?
  • 分野:医薬品開発
  • 最初の不正論文発表:なし
  • 発覚年:2011年(27歳?)(推定)
  • 発覚時地位:サザン研究所(Southern Research Institute)のテクニシャン
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は上司(詳細不明)(推定)
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①サザン研究所・調査委員会。②研究公正局
  • 不正:改ザン
  • 不正文書数:論文は0報。研究費の報告書3通でデータ改ザン
  • 時期:キャリアの初期から
  • 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 損害額:総額(推定)は4億4500万円。内訳 → ①テクニシャンになるまで1千万円。②テクニシャンの給与・実験費など年間500万円が5年間=2500万円。③院生の損害額は不明。②に含めた。④外部研究費はコントラクト(N01-AI-30047)が約12億円で被害は10%として損害額は1億2千万円。他の2つの外部研究費の額は不明だが同じとして、損害額は計3億6千万円。⑤調査経費(研究所と研究公正局)が1千万円。⑥裁判経費なしで、損害額は0円。⑦論文出版・撤回作業なしで、損害額は0円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:辞職(Ⅹ)。
  • 処分: 辞職(28歳?)。NIHから3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年にフッド大学を卒業している。この時を22歳とした
  • 2002年(18歳?):メリーランド州フレデリックのフレデリック高校(Frederick High School)を卒業(推定)
  • 2005年(22歳?):メリーランド州フレデリックのフッド大学(Hood College)の4年生(推定根拠)。
  • 2006年(22歳?):同大学・卒業
  • 2006年(22歳?)(推定):サザン研究所(Southern Research Institute)に就職。2008年の論文での所属はサザン研究所
  • 2011年(27歳?)(推定):ネカトが発覚
  • 2012年6月(28歳?):サザン研究所(Southern Research Institute)を辞職
  • 2012年8月(28歳?):民間バイオ企業のImquest BioSciencesに転職
  • 2013年11月(29歳):民間バイオ企業のLife Technologies (now part of Thermo Fisher) に転職

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★サザン研究所(Southern Research Institute)

141020 southern-research_southside[1]
サザン研究所写真出典
メラニー・ココニス(Melanie Pallansch-Cokonis)が勤務していたサザン研究所(Southern Research Institute)は、1941年設立の所員550人強の非営利研究所である。アラバマ州バーミンガムを拠点とし全米に8施設がある。

政府の委託を受けて、医薬品開発、宇宙、環境、エネルギー、国防で研究開発を行なっている。

8施設の1つは、メラニー・ココニスの出身地のメリーランド州フレデリックにあり、感染病研究施設(Infectious Disease Research Facility)である。 141020 1198_preview[1] サザン研究所の化合物ライブラリー・スクリーニング・センターの2014年のスタッフ。もちろん、メラニー・ココニスは入っていない。こういう人たちのいる職場ということで参考に掲載した(参考にならない?)。写真出典

サザン研究所は、NIHの巨大プロジェクト「化合物ライブラリー・プログラム(Molecular Libraries Program)」(年間予算約100億円)を受託していた全米8施設の1つである。地球上の膨大な数の化学物質の医薬品活性を、ロボットを使って網羅的に検査するプロジェクトで、分野はケミカルバイオロジー、手法はハイスループット・スクリーニング(2000年の日本語解説 → ココ)である。

日本の後追い研究計画 → http://www.npd.riken.jp/jsps/images/minutes/20130212okabe.pdf 141020 eu-openscreen-1[1]ハイスループット・スクリーニング。写真出典

★ネカトの内容

米国・研究公正局の報告書(NOT-OD-14-117: Findings of Research Misconduct)によればメラニー・ココニスの不正は以下のようだ。

ココニスは、サザン研究所の上司(研究員)が獲得したNIHのコントラクト(N01-AI-30047 とN01-AI-70042)とグラント(U54 HG005034)で働いていた。その実験作業で、抗ウイルス物質の細胞保護機能の測定値を改ザンした。

改ザンデータは、論文に発表したのではなく、NIHへの研究費報告書に記載されたのである。

NIHのコントラクト(N01-AI-30047 とN01-AI-70042)】

コントラクト(N01-AI-30047)
課題:A–In Vitro Antiviral Screening Program – Hepatitis C&B Virus
契約日:2003年9月30日
契約額:11,592,440ドル(約12億円)
研究者:上司のMichael Murraが主任研究者(PI)、Colleen B. Jonssonが副主任研究者(Co-PI)
契約者:サザン研究所。

このコントラクト(請負研究)は、C型とB型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬のスクリーニングである。

助成金で得た成果として2008年の論文がある。抗A型インフルエンザ薬を10万種類の化学物質からスクリーニングした論文である。

著者は全員、バーミンガムのサザン研究所所属である。副主任研究者(Co-PI)のColleen B. Jonssonが最後著者だが、メラニー・ココニスは、この論文の著者に入っていないし、謝辞にも挙げられていない。

NIHのグラント(U54 HG005034)】

このグラント(U54 HG005034)は、前述した「化合物ライブラリー・プログラム(Molecular Libraries Program)」のグラントである。

グラントとあるが、共同研究(Cooperative Agreements)(Activity Codes Search Results)である。サザン研究所のColleen B. Jonssonが代表者だ。

共同研究は、受託研究より自由だが、受託研究と似ている。

助成された資金で得た成果の2011年発表の論文がある。著者は全員、バーミンガムのサザン研究所所属である。

この論文にも、メラニー・ココニスは著者に入っていないし、謝辞にもない。

★改ザンの内容

研究公正局の報告書によると、データ改ザンは論文ではなく、研究費報告書である。

生の測定データ(8X12 SoftmaxPro matrix files)を集計表に転記した際、実際は、その測定はうまくできなかったのだが、206個の測定値をうまく測定できたかのような数値に改ザンして転記した。測定値は、ウイルス感染の細胞に薬物を与えた時の障害細胞数とその対照実験での細胞数である。

白楽はデータを見ることができないので、皆さんに、具体的な数値をここで示せません。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年4月30日現在、パブメド(PubMed)で、メラニー・ココニス(Melanie Pallansch-Cokonis)の論文を「Melanie Pallansch-Cokonis[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008年の1論文がヒットした。

ただし、31人の共著論文で名前は23番目である。この論文でココニスは、ヒト検体の生化学的測定に貢献したようだ。この論文はネカト論文と判定されていないので、撤回されていない。

★パブピア(PubPeer)

省略

【事件の深堀:テクニシャンのネカト】

一般的論として、テクニシャンのネカトを理解しよう。

テクニシャンは理系大卒で博士号はもっていない。研究費申請書は書かない。基本的には論文も書かないし、学会発表もしない。「基本的には」と書いたが、論文を書くテクニシャンもいる、共著者に入るテクニシャンもいる。学会発表するテクニシャンもいる。ボスは、有能ならドンドン使う。

但し、博士号がなければ、独立した研究者にはなれない、自分が代表になって研究費を申請することはできない。

ボス(研究者)から指示された作業をするのがテクニシャンの仕事で、それが論文にならなくても責任はない。つまり、実験作業の結果に責任はない。 実験作業の結果はボスの責任であり、成果でもある。それがノーベル賞をもらった実験作業でも成果はボスのものである。

ノーベル賞をもらうような実験作業ならやりがいはあるだろうが、そうでなくても、とにかく、実験作業の結果に責任はない。

だから、テクニシャンは研究ネカトをする必要がない。「どうして?」研究ネカトをしたのだろうか?

★テクニシャンのネカト件数

研究公正局のローレンス・ローデス(Lawrence J. Rhoades)の論文「ORI Closed Investigations into Misconduct Allegations Involving Research Supported by the Public Health Service: 1994-2003」は、米国・研究公正局の1994~2003年の10年間の分析を記載している。

その10年間に、研究公正局に研究ネカトの告発が1,777件あり、調査に入ったのが274件で、調査の結果、クロが133件だった。 階級別に分類すると、調査に入った274件の内、テクニシャンは47件(17%)で準教授に次いで多く、クロは31件(24%)だった。職階別でネカトを比べると、テクニシャンが最も多かったのである。

階級 調査件数 割合(%) クロ 割合(%)
教授 44 15 6 5
準教授 55 20 24 16
助教授 30 11 13 10
ポスドク 44 16 27 20
研究助手 22 8 17

13

院生・学生 22 8 14 11
テクニシャン 47 17 31 24
不明 13 5 1 1
274 100 133 100

日本ではテクニシャンという職種が発達していないので、ネカト問題では軽視されがちである。

上記の表を眺めると、白楽の日本のネカト事件の調査結果(拙著:『科学研究者の事件と倫理』)と大きな違いがあることに気が付く。

ネカト者を職階別に比べると、米国ではテクニシャンが最も多いが、日本では50代後半の医学部教授が最も多いのである。この違いは日米間で際立っている。

★テクニシャンの研究ネカトの理由

では、米国で、テクニシャンが「どうして?」研究ネカトをするのだろうか?

141020 dskornfeld[1]コロンビア大学名誉教授(精神医学)のドナルド・コーンフェルド(Donald S.Kornfeld写真出典)が2012年の論文に書いている (「Perspective: Research Misconduct: The Search for a Remedy」 Academic Medicine: July 2012 – Volume 87 – Issue 7 – p 877?882、doi: 10.1097/ACM.0b013e318257ee6a)。

テクニシャンが血液サンプルを集めた時刻の記録が、実際に集めた時刻ではなかった。なぜ改ザンしたか? テクニシャンは、プロトコルに記載されたスケジュール通りに血液サンプルを集められなかったからだ。

テクニシャンに能力以上の仕事量が割り当てられていたと、米国・研究公正局の調査委員会は結論している。また、そのテクニシャンは血液サンプルを集めた時刻が重要だとは知らなかったと述べている。

この場合、ボス(研究者)の指示が不適切、あるいは、ボスとのコミュニケーションが不適切だと、白楽には思える。

ボスがテクニシャンに作業を指示する時、「採血時刻は重要だ」と伝えるべきだし、作業量は多すぎないか(少なすぎないか)をチェックするのはボスの仕事である。

ましてや、ネカトがあったとしても、実験をやり直すなどして研究室内で処理すべきだろう。研究室外の研究公正局に研究ネカトを告発してしまうなんて、白楽には異常な気がする。

ドナルド・コーンフェルドは、

テクニシャンは科学界のメンバーではない。職業規範の感覚は低く、研究結果と自分の収入は無関係である。そして、ネカトすることの重大さと、その後自分の身に降りかかる不幸の重大さを理解していない。そのような状況なのに、もっとデータをだすようにという圧力を強くかけられている。

と書いている。

これが実態なら、「米国の生物医学で研究ネカトをする職階は、テクニシャンが最も多い」のに納得する。

●7.【白楽の感想】

《1》テクニシャンの役割と上司の役割

研究所であれ、大学であれ、研究室の上司がテクニシャンに作業を指示する。この場合、どんな理由であれ、テクニシャンが、測定値をねつ造・改ざんしたら、上司も責任重大ではないのだろうか?

とくに、ココニスのようにまだ20歳代の実験経験が浅いテクニシャンだったら、上司はデータをハイハイと受け取って、そのまま外部の報告書に記載する方がおかしい気もする(そうしたかどうかは不明)。

上司はデータの正確さを確認すべきである。その過程で、上司はねつ造・改ざんに気がつくべきでしょう。

白楽の場合、研究室の学生・院生がおかしなデータを持ってきたら、そのまま、学会発表や論文発表をさせたことはない。

少しでも疑念があれば、生データをもってこさせ、逐一操作過程を確認し、白楽が納得するまで実験のすべての詳細を検討した。その時、学生・院生がヘンに嫌がれば、追求は中断したが、そのデータで学会発表や論文発表をしたことはない。

メラニー・ココニスのデータ改ざんは、論文ではないから、外部の人がデータ改ざんを見つけたわけではない。コントラクトとグラントの報告書でのデータ改ざんだから、気がついたのは、サザン研究所の同僚か上司しかいない。ここでは、上司としよう。

研究所内部の社員教育の不備、上司の部下の指導・指示の失敗だと思うが、そうなら、研究所は上司に注意し、テクニシャンをクビにして終わりにするのが普通だと思う。それを、ワザワザ、外部の研究公正局にデータ改ざんだと告発するのは、白楽には異常な気がする。多分、データ改ざんに気が付いたのは、報告書を出した後だったのだろう。そして、単純な訂正では済まない段階だったのだろう。

《2》ボスが無責任すぎる

テクニシャンの研究ネカト事件は、大事件にならないので、米国ではあまり注目されない。しかし、実際は、「米国の生物医学で研究ネカトをする職階は、テクニシャンが最も多い」のだから、米国はなんとかすべきでしょう。

それにしても、テクニシャンの問題というより、研究機関とボスの問題という気がする。

とはいえ、日本は、ここから、何を学べるか?

日本も米国と同じと考えて、テクニシャン(及びテクニシャン予備軍である学部生)にも研究規範を教育することだ。

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●8.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2014年6月21日(ファイルの日付は23日)Federal Register | Findings of Research Misconduct。(2)2014年6月30日:NOT-OD-14-117: Findings of Research Misconduct
② 2014年6月21日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Research technician faked NIH-funded research: ORI | Retraction Watch
③ 旧版:2014年10月31日
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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