2021年4月4日掲載
ワンポイント:フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)・準教授(カプラン)と助教授(ブルック)の「2015年のJ Biol Chem.」論文が2報、2017年に撤回された。科学庁(NSF)所管のデータねつ造事件で詳細は不明。2人は大学を去り民間に移籍した。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan、Daniel L. Kaplan、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0003-2760-7745、写真出典)は、米国のフロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)・準教授で医師免許所持者。専門はゲノム学だった。
イリーナ・ブルック(Irina Bruck、ORCID iD:?、写真出典)は、カプラン研究室の助教授だった。
ブルックが第一著者でカプランが最後著者の「2015年1月の J Biol Chem.」論文と「2015年11月の J Biol Chem.」論文の2報が2017年6月16日に撤回された。撤回理由は、画像のねつ造だった。
2人共、2017年8~9月にフロリダ州立大学を解雇(辞職?)された。その後、2人共、民間企業で研究活動を続けた。
白楽は、この事件を、2017年7月3日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事で知り、続報を待った。
フロリダ州立大学はネカト調査し、研究公正局に報告したと思った。
しかし、その後、3年9か月が経過したが、続報はなく、事件の詳細は不明だ。
これ以上待っても仕方がないので、記事にしようと調べた。
調べると、撤回された論文は、NIHではなく、科学庁(National Science Foundation)の助成を受けた研究だった(Grant 1265431、カプランが受給者)。だから、研究公正局の案件ではなく、科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General)の案件だ。
科学庁の案件はほとんど報道されない。闇の中に埋もれてしまう。
フロリダ州立大学は、2人が辞職する代わりに、ネカト情報を公表しない、という示談でケリをつけたと思われる。
2人は夫婦でネカトは共犯だと白楽は思う。
フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)。写真出典
- 国:米国
- 分野:ゲノム学
- 不正論文発表:2011~2017年の7年間
- 発覚年:2017年
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②フロリダ州立大学・調査委員会。③科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2人共、2報撤回、1報訂正
- 時期:2人共、研究キャリアの中期から
- 職:2人共、事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
- 処分:2人共、なし? 解雇?
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
★ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan)
出典:Daniel Kaplan | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。1984年9月に大学に入学した時を18歳とした
- 1984年9月-1988年5月(18-22歳?):バージニア大学シャーロッツビル校(University of Virginia, Charlottesville)で学士号取得:化学
- 1988年9月-1992年1月(22-26歳?):イェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)で医師免許取得
- 1994年9月-2000年8月(28-34歳?):イェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物物理学と生化学
- 2000年9月– 2005年8月(34-39歳?):ロックフェラー大学(Rockefeller University)・ポスドク
- 2005年9月– 2012年8月(39-46歳?):ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授
- 2012年8月 – 2017年8月(46-51歳?):フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)・準教授
- 2017年6月16日(51歳?):論文撤回
- 2017年9月(51歳?):インヴィトロ細胞研究社(InVitro Cell Research、LLC)・主任研究員
★イリーナ・ブルック(Irina Bruck)
出典:①Irina Bruck | LinkedIn、②CV: http://www.fsu.edu/cvdb/IBRUCK.rtf
- 生年月日:不明。仮に1966年1月1日にロシアで生まれたとする。1988年にマイアミ大学で学士号取得した時を22歳とした
- 1988年(22歳?):マイアミ大学(University of Miami)で学士号取得:微生物学および免疫学
- 1993年(27歳?):南カリフォルニア大学(University of Southern California)で修士号取得:分子生物物理学
- 1996年(30歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:分子生物物理学
- 1997年(31歳?):ロックフェラー大学(Rockefeller University)・ポスドク。Dr. Mike O’Donnell
- 2005年(39歳?):ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授。ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan)研究室
- 2012年8月 – 2017年9月(46 – 51歳?):フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)・助教授
- 2017年6月16日(51歳?):論文撤回
- 2017年9月(51歳?):フロリダ州立大学医科大学を辞職
- 2017年10月(51歳?):コロンビア大学(Columbia University)・研究員
- 2018年11月– 2020年7月(52–54歳?):NJファーマシューティカルズ社(NJ Biopharmaceuticals LLC)・主任科学者
- 2021年4月3日(55歳?)現在:所属不明
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★グラント
ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan)は、2011年、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)時代に科学庁(NSF)から1件のグラントを受給し、フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)に移籍した時、それを引き継いだ。その後、2015年にNIHから1件のグラントを受給した。
グラントの受給数はすくない。
イリーナ・ブルック(Irina Bruck)は2017年にNIHから1件のグラントを受給した。この年、フロリダ州立大学医科大学を辞職(解雇?)しているので、このグラントをほとんど使っていないと思われる。
★発覚
ネカト発覚の経緯は不明である。
2017年6月16日、著者が撤回を申し出て、ブルックが第一著者でカプランが最後著者の「2015年1月の J Biol Chem.」論文と「2015年11月の J Biol Chem.」論文の2報が撤回され、「2011年4月の J Biol Chem.」論文が訂正された。
「2015年11月の J Biol Chem.」論文の撤回理由は、図4Aは図4Bのイムノブロットのコピーだった。学術誌が調査した結果、図4Aおよび図4Bの共免疫沈降実験は適切に行なわれていないかった。 → 2017年6月16日の撤回公告
「2015年1月の J Biol Chem.」論文の撤回理由も画像の重複使用、つまり、データねつ造だった。
フロリダ州立大学の研究担当副学長であるゲイリー・オストランダー(Gary K. Ostrander)は、「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに次のように答えている。
私たちは論文撤回を認識しております。フロリダ州立大学の規則に従ってこの問題を処理しております。 現時点では、これ以上のコメントはありません。
学術誌「J Biol Chem.」のデータ公正部長(Data Integrity Manager)のカオル・サカベ(Kaoru Sakabe、写真出典)は次のように述べた。
私たちは、一部の実験が適切に行なわれなかったことを確認しました。私たち学術誌は、著者から提供された情報とデータに基づいて学術情報を修正することが仕事です。不正行為があったかどうかを判断するのは、著者の所属機関の仕事です。
★その後
フロリダ州立大学はネカト調査をしたと思われる。2人共、2017年8~9月にフロリダ州立大学を解雇(辞職?)された。その後、2人共、民間企業で研究活動を続けた。
撤回論文の研究助成をしたのはNIHではなく、科学庁(National Science Foundation)だった(Grant 1265431、カプランが受給者)。それで、フロリダ州立大学は科学庁に調査報告書を送付したハズだ。
しかし、その後、3年9か月が経過したが、続報はなく、事件の詳細は不明だ。
フロリダ州立大学は、2人が辞職する代わりに、ネカト情報を公表しない、という示談でケリをつけたと思われる。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★「2015年11月の J Biol Chem.」論文
「2015年11月の J Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年6月16日に撤回された。
- The Replication Initiation Protein Sld3/Treslin Orchestrates the Assembly of the Replication Fork Helicase during S Phase.
Bruck I, Kaplan DL.
J Biol Chem. 2015 Nov 6;290(45):27414-24. doi: 10.1074/jbc.M115.688424. Epub 2015 Sep 24.
撤回理由は、図4Aは図4Bのイムノブロットのコピーだった。
一応に図4Aと図4Bのイムノブロットの画像を示す(画像出典は原著論文)。
白楽は、どの画像が不正なのかわからなかった。
皆さん、わかります?
しばらく見てたが、頭がクラクラしてきた。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年4月3日現在、パブメド(PubMed)で、ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan、Daniel L. Kaplan)の論文を「Daniel L. Kaplan[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の37論文がヒットした。
37論文中、2008年以降、24論文がイリーナ・ブルック(Irina Bruck)と共著である。
イリーナ・ブルック(Irina Bruck)の論文を「Irina Bruck [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の29論文がヒットした。
29論文中、2008年以降、25論文がダニエル・カプラン(Daniel Kaplan)と共著である。
2021年4月3日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
ブルックが第一著者でカプランが最後著者の「2015年1月の J Biol Chem.」論文と「2015年11月の J Biol Chem.」論文の2報が2017年6月16日に撤回された。
★撤回監視データベース
2021年4月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでダニエル・カプラン(Daniel Kaplan、Daniel L. Kaplan)を「Daniel L Kaplan」で検索すると、 1論文が訂正、0論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。
「2015年1月の J Biol Chem.」論文と「2015年11月の J Biol Chem.」論文の2報が2017年6月16日に撤回された。また、「2011年4月の J Biol Chem.」論文が2017年6月16日に訂正された。
3論文とも、イリーナ・ブルック(Irina Bruck)が第一著者でカプランが最後著者の著者2人の論文だった。
★パブピア(PubPeer)
2021年4月3日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ダニエル・カプラン(Daniel Kaplan、Daniel L. Kaplan)の論文のコメントを「”Daniel L. Kaplan”」で検索すると、3論文にコメントがあった。
3論文とも、イリーナ・ブルック(Irina Bruck)が第一著者でカプランが最後著者の「J Biol Chem.」論文だった。
イリーナ・ブルック(Irina Bruck)の論文のコメントを「”Irina Bruck”」で検索すると、上記と同じ3論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》なかったかのようなネカト事件
この事件は、2017年7月3日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事で事件を知り、続報を待った。
フロリダ州立大学はネカト調査をし、研究公正局に報告したと思った。
しかし、その後、3年9か月が経過したが、続報はなく、事件の詳細は不明だ。
これ以上待っても仕方がないので、記事にしようと調べた。
調べると、撤回された論文は、NIHではなく、科学庁(National Science Foundation)の助成を受けた研究だった(Grant 1265431、カプランが受給者)。だから、研究公正局の案件ではなく、科学庁・監査総監室(NSF、OIG:Office of Inspector General)の案件だ。
実際は、事件の詳細があいまいな、このようなネカト事件はたくさんある。
特に、科学庁(NSF)の所管になったネカト事件は、まるで、「なかったかのようなネカト事件」になることが多い。
《2》イサギ良い
著者であるダニエル・カプラン(Daniel Kaplan、写真左出典)、イリーナ・ブルック(Irina Bruck 、写真右出典)が自分たちの論文のネカトを申しでた。それで、論文が撤回された。
2人共、フロリダ州立大学医科大学(Florida State University College of Medicine)を辞職(解雇?)して、民間の研究所に移籍した。
データねつ造をしてしまったが、否を認め、自分たちで身を退いたのだと思う。
イサギ良いと感じた。
非を認めないネカト犯が多い。
日本だと、官僚と政治家はほぼ全員、「記憶にございません」という。日本は徳が極端に低く、精神が歪んだ人が偉くなる不思議な国だ。
官僚と政治家がヒドイだけではない。研究者と大学もヒドイ。
野呂瀬崇彦が博士論文で盗用したのを、名古屋大学の調査委員会が「不正なし」とし、盗用を隠蔽しようとしている。つまり、「盗用」博士論文を「改ざん」博士論文にすり替えようとしている。 → (1):5C 名古屋大学・博士論文の盗用疑惑事件:② 隠蔽工作?、(2)③ 疑惑の証明
これには、驚いた。
これほど明白に不誠実なことを行ない、組織的に研究公正を歪めている。ところが、日本の学術研究者とメディアは研究不正を追及しない。
つまり、学術界もメディアもネカトを許容する研究不正大国の体質にドップリなのだ。桜が散った空を仰いで、ため息が出ている。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2017年7月3日のビクトリア・スターン(Victoria Stern)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Some experiments were not performed appropriately:” Florida researchers lose two papers – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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