ルチ・ヴァシーシト(Ruchi Vashisht)(インド)

2017年9月30日掲載。

ワンポイント:ヴァシーシトは、ナショナル歯科大学の上級講師・歯科医師(女性)で、2013年の論文が、2015年(40歳?)に盗用という理由で撤回され、大学を解雇(辞職?)された(推定)。ヴァシーシトは、2012年に査読した他人の論文を不採択にし、自分で盗用したのである。盗用ページ率は約100%(推定)で、盗用文字率は約95%(推定)。損害額の総額(推定)は3億1200万円。2016年ランキングの「Livescienceの「ナイストライ:2016年の5大撤回科学論文」:2016年12月28日」の第2位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ルチ・ヴァシーシト(Ruchi Vashisht、写真出典)は、インドのデラ・バシー(Dera Bassi)にあるナショナル歯科大学(National Dental College)・歯保存/歯矯正学科の上級講師・歯科医師で、専門は歯学だった。

2013年(38歳?)、2012年に査読した他人の論文原稿を掲載不可にしておいて、その論文原稿を逐語盗用、ほぼ全文盗用し自分の論文として「J Conserv Dent.」誌に発表した。

2015年(40歳?)、「J Conserv Dent.」編集長のヴィラユータム・ゴーピクリシュナ教授(Velayutham Gopikrishna)が論文の盗用を見つけ、調査した。

2016年(41歳?)、ルチ・ヴァシーシト(Ruchi Vashisht)は盗用を否定したが、ゴーピクリシュナ編集長は、編集長権限で論文を撤回した。

2017年9月13日現在、ルチ・ヴァシーシトはナショナル歯科大学・歯保存/歯矯正学科の教員サイトに載っていない。辞職(解雇)したようだ。

ヴァシーシト事件は、2016年ランキングの「Livescienceの「ナイストライ:2016年の5大撤回科学論文」:2016年12月28日」の第2位である。

ナショナル歯科大学(National Dental College)は「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)にリストされていない(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking)。なんかヘンですね。

ナショナル歯科大学(National Dental College)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 歯科医師免許(DDS)取得:インドのタミル・ナードゥ Dr.M.G.R医科大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。写真の印象で
  • 現在の年齢:42 歳?
  • 分野:歯科学
  • 最初の不正論文発表:2013年(38歳?)
  • 発覚年:2015年(40歳?)
  • 発覚時地位:ナショナル歯科大学・上級講師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は「J Conserv Dent.」編集長のヴィラユータム・ゴーピクリシュナ教授(Velayutham Gopikrishna)
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「J Conserv Dent.」・編集部。②ナショナル歯科大学は調査委員会を設置してない?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は3億1200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が13年間=2億6千万円。③院生の損害なし。④外部研究費は不明だが、0円とする。⑤調査経費(学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減は0円
  • 結末:辞職(解雇?)

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。写真の印象で
  • xxxx年(xx歳):インド・チェンナイのタミル・ナードゥ Dr.M.G.R医科大学(Tamil Nadu Dr. M.G.R. Medical University)を卒業
  • 2010年(35歳?)以前:ラガス歯科大学・病院(Ragas Dental College and Hospital)・教員(?)。2010年にここから論文発表
  • xxxx年(xx歳):ナショナル歯科大学(National Dental College)・歯保存/歯矯正学科の上級講師
  • 2013年(38歳?):「2013年のJ Conserv Dent.」論文を出版した
  • 2015年(40歳?):「2013年のJ Conserv Dent.」論文の盗用が発覚
  • 2016年(41歳?):「2013年のJ Conserv Dent.」論文が撤回
  • 2017年(42歳?)以前:ナショナル歯科大学を辞職(解雇?)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2016年3・4月、ルチ・ヴァシーシトの「2013年のJ Conserv Dent.」論文が撤回された。

学術誌「J Conserv Dent.」は、インド・チェンナイのタミル・ナードゥ Dr.M.G.R医科大学(Tamil Nadu Dr. M.G.R. Medical University)を拠点とする学術誌で、編集長のヴィラユータム・ゴーピクリシュナ(Velayutham Gopikrishna、写真出典)は、ミル・ナードゥ Dr.M.G.R医科大学・教授である

ミル・ナードゥ Dr.M.G.R医科大学はルチ・ヴァシーシトが卒業した大学なので、ゴーピクリシュナ教授は、ルチ・ヴァシーシトを知っていたに違いない。というよりも、直接の指導教授である可能性が高い。

ゴーピクリシュナ編集長の主張によると、「2013年のJ Conserv Dent.」論文は以下の論文の盗用である。

著者のエイカット・イェトキン(Aykut-Yetkine)はトルコのエイカット・イェトキン大学(Aykut-Yetkiner University of Ege)の研究者である。

学術誌「J Conserv Dent.」が調査すると、上記「2014年のJ Clin Pediatr Dent.」論文の原稿は、2012年、最初に「J Conserv Dent.」誌に投稿された。その時、ルチ・ヴァシーシトが原稿の査読者で、原稿は、掲載拒否された。

「J Conserv Dent.」編集長のヴィラユータム・ゴーピクリシュナ教授は自分の大学出身のルチ・ヴァシーシトをよく知っていて(直接の指導教授?)、2012年に投稿された原稿の査読をルチ・ヴァシーシトに依頼したに違いない。

ルチ・ヴァシーシトはその時の原稿を盗用し、著者の名前を変え、4人の共著者をみつくろって、以下の「2013年のJ Conserv Dent.」論文として出版した。

学術誌「J Conserv Dent.」のゴーピクリシュナ編集長がルチ・ヴァシーシトに盗用の件を問い合わせても、返事が得られなかった。それで、2016年3・4月、編集長の判断で論文を撤回した。

「2013年のJ Conserv Dent.」論文のルチ・ヴァシーシト以外の4人の共著者は、共著者になっていたことも、論文が出版されていたことも知らなかった。

なお、ルチ・ヴァシーシトは盗用を否定しているが、「撤回監視(Retraction Watch)」の質問に次のように答えている。

私は文章を盗用したと言われましたが、私が査読した原稿を読むずっと前に私の研究は終わっていました。・・・。なお、事情があって、私はメールに返信できませんでした。

【盗用解析】

ルチ・ヴァシーシトの「2013年のJ Conserv Dent.」論文(盗用論文)は5ページの論文である。無料で全文閲覧できる。

一方、被盗用論文は冒頭部分しか無料で閲覧できない。本文は有料なので閲覧していない。

以下、無料閲覧可能な部分の文章を比較した。着色部分が同じ単語である。

盗用論文出典:Role of casein phosphopeptide amorphous calcium phosphate in remineralization of white spot lesions and inhibition of Streptococcus mutans?
被盗用論文出典:Does Casein Phosphopeptid Amorphous Calcium Phosphate Provide Remineralization on White Spot Lesions and Inhibition of Streptococcus mutans? | Journal of Clinical Pediatric Dentistry

冒頭部分しか比較していないが、逐語盗用で、ほぼ全文盗用だ。

●6.【論文数と撤回論文】

2017年9月29日現在、パブメド(PubMed)で、ルチ・ヴァシーシト(Ruchi Vashisht)の論文を「Ruchi Vashisht [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2010年と2013年の2論文がヒットした。

2017年9月29日現在、以下の「2013年のJ Conserv Dent.」論文が2016年3・4月に撤回されていた。

2017年9月29日現在、グーグル・スカラーで、ルチ・ヴァシーシト(Ruchi Vashisht)の論文を「”author:Ruchi Vashisht”」で検索すると、上記の2論文を含め、7論文がヒットした。

ただし、2016年以降の論文はなかった。

●7.【白楽の感想】

《1》唖然

ヴァシーシト事件の盗用は、論文題名を変えただけのほぼ全文盗用である。

それも、自分の出身大学のヴィラユータム・ゴーピクリシュナ教授が編集長をしている学術誌に投稿した。

ヴィラユータム・ゴーピクリシュナ教授は多分、ルチ・ヴァシーシトをよく知っている。だから、2012年に投稿された原稿の査読を依頼したに違いない。

同じ分野の論文で、上記のような状況なら、論文題名を変えても、まず、確実に盗用は発覚する。そうと知りつつ、盗用する行為に唖然とする。

「そうと知りつつ」と書いたが、発覚しないと考えていたなら、それにも唖然とする。

ルチ・ヴァシーシトはナショナル歯科大学の上級講師で、2012年の著書『Caries Prevention – A Paradigm Shift in Dentistry』(表紙出典)、2014年の著書『Re-Mineralization of Artificial Enamel』(表紙出典)と著書が2冊もある。

それなのに、この事件で学者としてキャリアを積むことはもうできないだろう。ネカトで人生を棒に振ってしまった。

2017年9月13日現在、ルチ・ヴァシーシトはナショナル歯科大学・歯保存/歯矯正学科の教員サイトに載っていない。辞職(解雇)したようだ。

《2》大学

ヴァシーシト事件ではヴァシーシトが所属するナショナル歯科大学(National Dental College)が調査したという記述が見当たらない。

学術誌「J Conserv Dent.」編集部はナショナル歯科大学に盗用の件を知らせたはずである。

ナショナル歯科大学は何も調査しなかったのだろうか?

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●8.【主要情報源】

① 2016年4月13日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Peer reviewer stole text for her own dentistry paper, says journal investigation – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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