2019年7月2日掲載
ワンポイント:研究博士号(PhD)を細胞生物学で取得し、その後、大学運営に20年以上の経験を持つレモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)・学長が、2018年10月27日(61歳)の入学式のスピーチで他人の言葉を引用せずに使用した。教員代表のマイケル・ロビンソン教授(Michael Robinson)が盗用と非難し辞任を要求した。ミラー学長は、文章を印刷配布していないので、適正な使用(fair use)だと反論した。結局、2019年9月1日(62歳)、辞任(予定)。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
アンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller、写真出典)は、米国のレモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)・学長である。20年以上、大学管理職をし、専門は大学運営だが、研究博士号(PhD)を細胞生物学で取得したので、生命科学に分類した。
2018年10月27日(61歳)、入学式のスピーチで他人の言葉を引用せずに使用し、盗用と非難された。
教員代表のマイケル・ロビンソン教授(Michael Robinson)が辞任を要求した。
しかし、文章を印刷配布していないので、適正な使用(fair use)だと反論した。
2019年6月18日(62歳)、大学評議会は、学長契約が切れる2019年9月1日、アンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller)は学長を辞任すると発表した。
レモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)。写真出典https://www.linkedin.com/school/lemoyne-owen-college/
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:アトランタ大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。2015年5月27日の新聞記事に58歳とあったので。
- 現在の年齢:67歳
- 分野:細胞生物学
- 最初の盗用スピーチ:2018年(61歳)
- 発覚年:2018年(61歳)
- 発覚時地位:レモイン=オーウェン大学・学長
- ステップ1(発覚):第一次追及者は教員代表のマイケル・ロビンソン教授(Michael Robinson)
- ステップ2(メディア): 「Daily Memphian」など
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①レモイン=オーウェン大学は調査委員会を設けていない。教授会は辞任を要求していない
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査なし
- 大学の透明性:大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:スピーチで盗用
- 不正数:1回
- 盗用ページ率:
- 盗用文字率:
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:評議会が辞任要求
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。2015年5月27日の新聞記事に58歳とあったので。
- 1976年(19歳):レモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)で学士号取得:生物学。19歳で大卒とは天才少女だったんですね。
- 19xx年(xx歳):アトランタ大学(Atlanta University)で研究博士号(PhD)を取得:細胞生物学
- 19xx年(xx歳):シンシナティ大学医科大学院(University of Cincinnati College of Medicine)でポスドク
- xxxx年(xx歳):いくつかの大学で管理職
- 2007年-2012年(50-55歳):ソウェラ・テクニカル・コミュニティ大学(Sowela Technical Community College)・総長
- 2012年(55歳):バトン・ルージュ・コミュニティ大学(Baton Rouge Community College)・総長
- 2015年9月1日(58歳):レモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)・学長
- 2018年10月27日(61歳):入学式のスピーチで盗用
- 2019年9月1日(62歳):学長辞任(予定)
●3.【動画】
【動画1】
ニュース動画(英語)2分7秒。
2018年11月30日
以下のサイト
→ Lemoyne-Owen College president accused of plagiarizing pastor | WREG.com
【動画2】
ニュース動画(英語)1分35秒。
2019年6月18日
以下のサイト
→ LeMoyne-Owen College searching for new leader following departure of president | FOX13
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★盗用
2015年9月1日(58歳)、アンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller)は58歳で自分の卒業したレモイン=オーウェン大学(LeMoyne-Owen College)の学長に就任した。
レモイン=オーウェン大学は学生数が1,000人に満たない小さな黒人の大学である。とはいえ、1862年創立の157年の伝統ある大学だ。卒業生が学長に就任するのは2人目で、女性が学長に就任したのは初めてである。歴史的な学長選任だった。
ミラーは、それ以前、いくつもの大学で学長・総長に就任し、数々の改革を行なってきた。大学に多額の資金をもたらしてきたヤリ手のスーパーウーマン大学経営者という評判だった(Super Women in Business: Dr. Andrea Lewis Miller, president of LeMoyne-Owen College. – Memphis Business Journal)。
それで、レモイン=オーウェン大学でも大胆な改革をし始めた。改革では、教員を解雇し、かつ、自分の一存で教員の採用を断行した。それで、一部の教員の不評を買い、2017年、教員から学長罷免の投票がされた。罷免は成功しなかったが1回目の危機だった。
★スピーチで盗用
2018年10月27日(61歳)、入学式のスピーチでミラー学長はメガチャーチ牧師ジョエル・オスティーン(Joel Osteen)の言葉を盗用した。
盗用がどのようなものか、ミラー学長のスピーチがユーチューブにアップされていた。しかし、残念ながら白楽のアクセスが遅く、既に削除されてしまった。以下は残骸です。
メガチャーチ牧師ジョエル・オスティーン(Joel Osteen)のスピーチはユーチューブに残っていました。比較の片方が欠いていては意味がないけど、一応アップしておきます。
探したら、以下の記事に動画があった。
→ 2018 年11月29日のルディ・ウィリアムズ(Rudy Williams)記者の「Local Memphis」記事:LeMoyne-Owen College President Accused Of Plagiarizing Speech By Using Sermon By Pastor Joel Osteen
テキストで比較すると以下のようだ。着色部分は同じ単語。
オスティーン牧師は、「What’s interesting is the same storm came to both people, the just and the unjust. If the story ended right there, you would think, doesn’t make a difference to honor God」
ミラー学長は、「What’s interesting is that the same storm came to both people: the just and the unjust, If the story stopped there, you’d think that it doesn’t make a difference whether we honor God.」
盗用部分は短いけど、明白な盗用です。
この盗用で学内から学長辞任の声が再び高まった。2回目の危機だ。
教員代表のマイケル・ロビンソン教授(Michael Robinson)は「他人の褌で相撲をとる権利はありません」と学長を非難している。
マイケル・ロビンソン教授(Michael Robinson)。出典:2018 年11月29日のルディ・ウィリアムズ(Rudy Williams)記者の「Local Memphis」記事:LeMoyne-Owen College President Accused Of Plagiarizing Speech By Using Sermon By Pastor Joel Osteen
ロビンソン教授は「大学は学生に盗用を許していません。学生が盗用すれば、学則違反であり、停学または退学処分の可能性があります。学長は大学の管理責任者です。また、学長は大学で最高の地位にある人で、最高の学術水準に縛られるべきです。従って、今回の盗用で学長は辞任すべきです」と主張している。
被盗用者のメガチャーチ牧師ジョエル・オスティーンは、レモイン=オーウェン大学のような機関が金銭的利益を得るために流用したのでない限り、自分の言葉を使ってもかまわないと、流用を許容している。
ロビンソンは「オスティーンが流用を許容しているかどうかは問題の本質ではありません。これはレモイン=オーウェン大学とその学長の品位の問題なのです」と反論している。
ミラー学長はオスティーンの言葉をスピーチで使ったことを認めたが、文章を印刷配布していないので、適正な使用(fair use)だと以下のように反論した。
「私は、公正使用(fair use)の範囲内でジョエル・オスティーンのスピーチを使用しました。私は、テキストをコピーまたは印刷し配布しておりません。スピーチではオスティーンにクレジットしなかったというミスをしましたが、教員や学生に課しているような重大な学術基準の違反ではありません。教授会は私の辞任を要求しておりません」
★辞任?
2019年2月(62歳)、学生自治会はミラー学長が義理の息子を優遇していると批判した。また、レモイン=オーウェン大学・学生寮の衛生管理が悪いと批判した。
この2つの理由で、学生自治会はミラー学長の辞任を求める手紙を配布した。3回目の危機だ。
★辞任
2019年6月18日(62歳)、大学評議会は、学長契約が切れる2019年9月1日、アンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller)は学長を辞任すると発表した。直接的な辞任理由は2017年の学長罷免の投票で約半数の教員が学長のリーダーシップに不満だったからだ。しかし、2018年のスピーチ盗用事件が大きく影響したのも事実だろう。 → 2019年6月18日記事: LeMoyne-Owen College parting ways with president Miller | WREG.com
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年7月1日現在、パブメド(PubMed)で、「Andrea Lewis Miller [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。
アンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller)の論文を「Miller AL[Author]」で検索すると、825論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
研究博士号(PhD)を取得したアトランタ大学(Atlanta University)所属の論文を「(Miller AL[Author]) AND Atlanta University[Affiliation]」で検索した。0論文がヒットした。
ポスドクをしたシンシナティ大学医科大学院(University of Cincinnati College of Medicine)所属の論文を「(Miller AL[Author]) AND University of Cincinnati College of Medicine[Affiliation]」で検索した。4論文がヒットした。その4論文は2015―2019年出版なので、本記事で問題にしている研究者以外の論文と思われる。
なんかヘンである。アンドレア・ミラーは院生の時もポスドクの時も論文を出版していない?
多分、結婚して姓を変えたのだろう。
★撤回論文データベース
省略
★パブピア(PubPeer)
省略
●7.【白楽の感想】
《1》スピーチでの盗用
スピーチで他人の言葉を引用せずに使用することと、学術論文などに他人の文章を引用せずに使用することは次元が異なる、と白楽は思っていた。
今回のアンドレア・ミラー(Andrea Lewis Miller)のスピーチは、オスティーンにクレジットすべきだったと思うが、許容範囲だと思っていた。
しかし、日本の著作権法10条1項に「講演その他の言語の著作物」を著作物としている。
そして、スピーチを文章に「固定」しなくても、スピーチそのものが日本では著作物だそうだ。
なお、「映画の著作物」を除き、著作物とされるためには、「固定」(録音、録画、印刷など)されている必要はありませんので、「原稿なしの講演」や「即興の歌」なども保護の対象となります。(文化庁:著作権なるほど質問箱)。
だから、スピーチの盗用は日本の著作権法ではアウトである。白楽自身がスピーチをすることはもうないと思うが、皆さんは注意してください。
なお、米国ではスピーチそのものは著作物ではない、と聞いたが、しっかり調べていない。
ここまで書いて誤解を与えるといけないので次も書いておく。
今回のようなスピーチでの盗用は、日本の著作権法ではアウトだが、文部科学省のネカト規則ではセーフである。
文部科学省の「研究活動の不正行為等の定義」では、「発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造と改ざん、及び盗用」である(研究活動の不正行為等の定義:文部科学省)。
つまり、入学式のスピーチは「発表された研究成果」ではない。従って、スピーチで他人の言葉を流用しても「研究活動の不正行為」として処分されることはない。
《2》他の事例
欧米の学術界でスピーチの盗用が糾弾されることは珍しいが、「2011年、アルバータ大学・医学部長(男性)(61歳?)が卒業スピーチで他人のスピーチを使い、学部長辞任、4か月休職の処分を受けた。教授職は保持できたが、結局、他大学に移籍した」事件を記事にした。
→ フィリップ・ベイカー(Philip Baker)(カナダ) | 研究倫理(ネカト、研究規範)
「スピーチは、自分の妻は2回流産し、初めて生まれた赤ん坊は動脈疾患を抱えていた。それを救ってくれたのが医学だった、という内容だ。とても、個人的な内容だが、実は、その話はベイカー医学部長自身の経験ではなかった。つまり自分の妻や子供ではなく、被盗用者のガワンディ外科教授の妻や子供のことだったのだ」(出典:上記)。
この場合、日本の文部科学省のルールではセーフでも、社会通念としてはアウトだろう。
一応、スピーチでの盗用として話を進めたが、自分の話ではないのに自分の話のように語っている。つまり、ねつ造というかウソ・虚偽の内容だからである。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 2018年11月30日のパトリック・ラントリップ(Patrick Lantrip)記者の「Daily Memphian」記事:LeMoyne-Owen faculty members call for president to resign amid plagiarism accusations – The Daily Memphian、(保存版)
② 2018年12月3日のエマ・ウィットフォード(Emma Whitford)記者の「Inside Higher Ed」記事:President of LeMoyne-Owen college accused of plagiarism
③ 2019年2月18日のトニア・ウェザーズビー(Tonyaa Weathersbee)記者とジェニファー・ピニョレ(Jennifer Pignolet)記者の「commercial appeal」記事:LeMoyne-Owen president, Andrea Lewis Miller, talks about what’s driving calls for her to quit.、(保存版)
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●9.【コメント】
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