2019年5月24日掲載
ワンポイント: 3万2千人の所員と3,800億円の予算をもつフランス最大の研究組織・国立科学研究センター(CNRS)の暫定総裁に、ピーロシュは、2017年11月に45歳(?)で就任した。その1か月後、2001-2012年のピーロシュの5論文に画像の改ざんがあるとパブピア(PubPeer)で指摘された。2018年1月18日(46歳?)、就任3か月後、暫定総裁を解任された。2018年5月、ピーロシュの論文に6件の「改ざん」を含む22件の不正行為があったと結論された。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche、写真出典)は、フランスのフランス国立科学研究センター(CNRS、仏:Centre national de la recherche scientifique)・暫定総裁で、専門は細胞生物学だった。
なお、フランス国立科学研究センター(CNRS、仏:Centre national de la recherche scientifique)は、「フランス最大の政府基礎研究機関である。教職員総数31,637人(うち正規教職員24,552人、正規研究者11,137人、博士課程学生1,639人)。予算は約33億ユーロ」(出典:フランス国立科学研究センター – Wikipedia)。
2017年10月24日(45歳?)、アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)はフランス国立科学研究センター・暫定総裁に就任した。
2017年11月(45歳?)、暫定総裁に就任した1か月後、パブピア(PubPeer)が2001-2012年の5論文について画像の改ざんを指摘した。この指摘がネカト発覚の端緒である。
→ PubPeer – Search publications and join the conversation.
2018年1月18日(46歳?)、暫定総裁に就任した3か月後、ピーロシュはフランス国立科学研究センター・暫定総裁を解任された。
2018年10月8日(46歳?)、フランスのニュース誌・レクスプレス(L’Express)は、「2018年 5月、フランス科学アカデミー(French Academy of Sciences)は調査の結果、アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)がネカトをしたと結論した」、と発表した。ピーロシュの論文に6件の「改ざん」を含む22件の不正行為が含まれていて、論文原稿の執筆時点で 、ピーロシュは部分的にネカトに関与していた責任がある、と結論していた。
フランス国立科学研究センター(CNRS、仏:Centre national de la recherche scientifique)。写真:Par Celette — Travail personnel, CC BY-SA 4.0, Lien
- 国:フランス
- 成長国:フランス
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ピエール・マリー・キュリー大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1999年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 現在の年齢:52 歳?
- 分野:細胞生物学
- 最初の不正論文発表:2001年(29歳?)
- 不正論文発表: 2001-2012年(29-40歳?)
- 発覚年:2017年(45歳?)
- 発覚時地位:フランス国立科学研究センター・暫定総裁
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)がパブピア(PubPeer)で指摘
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①フランス科学アカデミー・調査委員会
- 研究機関・調査報告書のウェブ上での公表:あり。Translation Peyroche Report 390384581 for-Academie-des-Sciences – Google ドキュメント
- 研究機関の透明性:所属機関の事件への透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:改ざん
- 不正論文数:5報。3報が撤回勧告されたが、現在、2019年5月23日現在、撤回されておらず、撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:暫定総裁の解任
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1999年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
- 1994年(22歳?):エコール・ノルマル・シューペリウール(高等師範)カシャン校(École normale supérieure Paris-Saclay)で学士号取得:生化学と生物工学
- 1995年(23歳?):フランスの学位・DEA(diplôme d’État d’ambulancier)取得:細胞と分子生物学
- 1999年(27歳?):ピエール・マリー・キュリー大学(l’université Pierre-et-Marie-Curie、パリ第6大学)で研究博士号(PhD)を取得:細胞と分子生物学
- 1999年(27歳?):フランス原子力庁(CEA)・研究員、その後、部長?
- 2013年(41歳?):フランス国立科学研究センター・分子遺伝学研究所・所長?
- 2016年1月(41歳?):フランス国立科学研究センター・科学局長代表
- 2017年10月24日(45歳?):フランス国立科学研究センター・暫定総裁
- 2017年11月(45歳?):パブピア(PubPeer)が論文のネカトを指摘
- 2017年11月(45歳?):フランス科学アカデミー・調査委員会が発足
- 2018年1月19日(46歳?):フランス国立科学研究センター・暫定総裁を解任された
- 2018年5月(46歳?):フランス科学アカデミー・調査委員会がクロと結論した報告書を作成
- 2018年10月8日(46歳?):フランスのニュース誌・レクスプレス(L’Express)が調査結果を記事に発表
●3.【動画】
【動画1】
以下の記事にマクロン大統領が演説している動画がある。
→ 2018年10月11日の記事:フランス国立科学研究センター| 科学的偽造:もう1つのスキャンダル!:CNRS | Falsification scientifique : un scandale de plus ! | Stop Mensonges
以下は事件の動画ではない。
【動画2】
2017年12月のインタビュー動画:「Anne Peyroche – Train du Climat – Gare de l’Est – YouTube」(フランス語)5分40秒。
Train du Climatが2018/01/04 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2017年10月24日(45歳?)、アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)はフランス国立科学研究センター・暫定総裁に就任した。
この就任が切っ掛けとなって、ネカトハンターたちがピーロシュの身体検査をし始めた。
2017年11月(45歳?)、暫定総裁に就任した1か月後、パブピア(PubPeer)が2001-2012年の5論文の画像に改ざんがあると指摘した。この指摘がネカト発覚の端緒である。
→ PubPeer – Search publications and join the conversation.
フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA、英語:French Alternative Energies and Atomic Energy Commission、仏語:Commissariat à l’énergie atomique et aux énergies alternatives)は、フランス科学アカデミー(French Academy of Sciences)に調査を依頼した。
免疫学者のジャン=フランソワ・バッハ(Jean-François Bach、写真出典)を委員長とする5人の調査委員会が発足した。
一方、ネカトを指摘されたピーロシュは病気になって入院してしまった。
2018年1月18日(46歳?)、暫定総裁に就任した3か月後、仕事にならないピーロシュはフランス国立科学研究センター・暫定総裁を解任された。但し、懲戒処分はされていない。
→ 2018年1月23日記事:Interim CNRS President Removed, Faces Data Manipulation Allegations | The Scientist Magazine®
2018年5月(46歳?)、フランス科学アカデミーの調査委員会は31ページの報告書を完成させた(仏語の報告書をレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がウェブに公開し、グーグル英語訳版も公開した)。以下の手紙は報告書のカバーレター。
その報告書で、ピーロシュの論文に6件の「改ざん」を含む22件の不正行為が含まれていて、論文原稿の執筆時点で ピーロシュが少なくとも部分的にネカトに関与していた責任がある、と結論した。また、3論文の撤回を勧告した。
この時、フランス政府の研究大臣は、生化学者だった女性のフレデリック・ヴィダル(Frédérique Vidal、写真出典)だった。ヴィダル研究大臣はピーロシュを擁護し、フランスの原子力・代替エネルギー庁・副長官のダニエル・ヴェルワルデ(Daniel Verwaerde)にピーロシュに対するすべての制裁を延期するよう要求した。
それで、フランス国立科学研究センターも原子力・代替エネルギー庁もフランス科学アカデミーの調査結果の公表をとどまっていた。
なお、新聞記者の問いわせに、研究省はヴィダル研究大臣の関与を否定している。
結局、5か月後の2018年10月8日、フランスのニュース誌・レクスプレス(L’Express)は、フランス科学アカデミー(French Academy of Sciences)が調査の結果、2018年 5月に、アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)がネカトをしたと結論していた、と発表した。
→ 2018年10月8日記事:Le rapport accablant contre l’ex-patronne du CNRS – L’Express
●【ねつ造・改ざんの具体例】
パブピア(PubPeer)が指摘した画像の改ざんを見てみよう。
★「2009年のMol Cell.」
「2009年のMol Cell.」論文の書誌情報を以下に示す。フランス原子力庁(CEA)時代の論文である。2019年5月23日現在、撤回されていない。
- Hsm3/S5b participates in the assembly pathway of the 19S regulatory particle of the proteasome.
Le Tallec B, Barrault MB, Guérois R, Carré T, Peyroche A.
Mol Cell. 2009 Feb 13;33(3):389-99. doi: 10.1016/j.molcel.2009.01.010.
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2017年11月4日、Amphilophium Elongatumが図2Aの電気泳動バンドの図は途中で切って貼り合わせたと、指摘した「Amphilophium Elongatum (commented November 4th, 2017 6:18 AM and accepted November 4th, 2017 5:01 PM)」。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/8604B82FAF5283F08A1F86A24DE1EE#2
Hoya Camphorifoliaが図2Eの電気泳動バンドの図も途中で切って貼り合わせたと、指摘した「Hoya Camphorifolia (commented November 4th, 2017 7:09 PM and accepted November 4th, 2017 7:09 PM)」。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/8604B82FAF5283F08A1F86A24DE1EE#3
Sinochaitophorus Maoiが上記と同じ図2Eの電気泳動バンドの画像は同じ著者の「2007年のMol Cell」論文からの流用だと指摘した。(commented November 7th, 2017 3:12 AM and accepted November 7th, 2017 4:58 AM」。以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/8604B82FAF5283F08A1F86A24DE1EE#5
どれも微妙ですね。画像を改ざんしたかどうか、画像を見ただけでは、判定しにくい。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年5月23日現在、パブメド(PubMed)で、アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)の論文を「Anne Peyroche [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2014年の12年間の8論文がヒットした。
「Peyroche A[Author]」で検索すると、1996~2014年の19年間の12論文がヒットした。
2019年5月23日現在、「Peyroche A[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回論文データベース
2019年5月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでアンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)を検索すると、0論文がヒットした。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。
★パブピア(PubPeer)
2019年5月23日現在、「パブピア(PubPeer)」はアンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)の5論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》微妙
パブピア(PubPeer)が指摘した画像の改ざんは、画像を操作したのかどうか、微妙である。
操作したなら、加工は巧妙である。
フランス科学アカデミー(French Academy of Sciences)の調査結果が、6件の「改ざん」を含む22件の不正行為と判定したのだから、「改ざん」なんだろう。白楽は、調査報告書を精査していない。
《2》嫉妬
アンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)は45歳(?)でフランス国立科学研究センター・暫定総裁に就任した。論文を調べると、全部で、1996~2014年の19年間に12論文しか出版していない。
白楽は、研究業績が優れている人が組織の長にふさわしいとは全く思っていない。むしろ、ふさわしくないと思っている。ただ、研究業績が普通の人が組織の長の就任するのを強く嫉妬する日本人はとても多い。
フランスの嫉妬文化はどのようなのか、白楽は、よくは知らないが、ピーロシュも嫉妬され、身体検査され、叩かれ、ほこりが出てきたのだろう。結局、3か月で暫定総裁をクビにされた。
もちろん、マクロン大統領を含め、ピーロシュを取り巻く政治抗争もあったに違いない。ピーロシュをめぐるスランス政界の抗争を、白楽は、調べていません。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア仏語版:Anne Peyroche — Wikipédia
② レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のアンヌ・ピーロシュ(Anne Peyroche)に関するブログ記事:Anne Peyroche – For Better Science
③ 2018年1月24日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Questions swirl around CNRS director’s decision to step down early – Retraction Watch、(保存版)
④ 2018年10月15日のジェフ・アクスト(Jef Akst)記者の「Scientist」記事:Report: Former CNRS President Guilty of Fraud | The Scientist Magazine®、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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