ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)(米)

2017年12月14日掲載。

ワンポイント:出版前の投稿論文のデータ改ざんが指摘された珍しいケース。、2014年5月29日(34歳?)、研究公正局が発表した。ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のポスドクだったヘレン・フリーマン(女性)の「2014年のNature」投稿論文にデータ改ざんがあった。処分期間は3年である。その少し前、英国政府の医学研究局(Medical Research Council: MRC) の調査委員会は、英国のオックスフォード大学(Oxford University)で院生だった時に発表したヘレン・フリーマンの「2006年のCell Metabolism」論文にデータ改ざんがあったと発表した。両方ともネカトは2013年(33歳?)に発覚したと思われ。英国時代の発覚経緯は不明である。米国時代は、ボスのブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)が通報者だと思われる。損害額の総額(推定)は2億200万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman、
顔写真見つからない)は、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のポスドクで、専門は遺伝学だった。

2013年(33歳?)頃、データねつ造・改ざんが発覚した。

2014年(34歳?)、英国政府の医学研究局(Medical Research Council: MRC) の調査委員会は、英国のオックスフォード大学(Oxford University)で院生だった時に発表したヘレン・フリーマンの「2006年のCell Metabolism」論文にデータ改ざんがあったと発表した。

2014年5月29日(34歳?)、研究公正局はヘレン・フリーマンの「2014年のNature」投稿論文にデータ改ざんがあったと発表した。処分期間は3年である。

なお、オックスフォード大学とハーバード大学は、「Times Higher Education」の2018年大学ランキングでそれぞれ、世界第1位と世界第6位の超名門大学である。World University Rankings 2018 | Times Higher Education (THE)

ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)。写真By Tim PierceOwn work, CC BY 3.0, Link

  • 国:米国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のオックスフォード大学(Oxford University)
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。最初の論文を2006年に発表した。この時を26歳とした
  • 現在の年齢:38 歳?
  • 分野:遺伝学
  • 最初の不正論文発表:2006年(26歳?)
  • 発覚年:2013年(33歳?)
  • 発覚時地位:ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のポスドク
  • ステップ1(発覚):「2006年のCell Metabolism」論文のネカトを最初に追及した人(詳細不明)は英国政府の医学研究局(Medical Research Council: MRC)に公益通報したと思われる。「2014年のNature」投稿論文は、出版前の投稿原稿のネカトなので、ネカトと気が付いた人は同じ研究室内の研究者だろう。つまり、ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)への通報者はボスのブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)と思われる。
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①英国・医学研究局(Medical Research Council: MRC)・調査委員会。②ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)・調査委員会。③学術誌出版局。④研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:3報。1報撤回。1報は投稿原稿
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は2億200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が3年間(推定)=6千万円。③院生の損害が1人1000万円だが、人数は不明で、額は②に含めた。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(英国・医学研究局、大学、学術誌出版局、研究公正局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:辞職。3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明

  • 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。最初の論文を2006年に発表した。この時を26歳とした
  • xxxx年(xx歳):英国のオックスフォード大学(Oxford University)で研究博士号(PhD)を取得した
  • xxxx年(xxxx歳):米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のポスドク
  • 2014年(34歳?):英国政府の医学研究局(Medical Research Council: MRC) の調査委員会がクロと結論
  • 2014年(34歳?):米国のポスドク解雇
  • 2014年5月29日(34歳?):研究公正局は、フリーマンの「2014年のNature」投稿論文にデータ改ざんがあったと発表した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)は英国のオックスフォード大学(Oxford University)のフランシス・アシュクロフト教授(Frances Ashcroft、写真出典)の院生だった。

フランシス・アシュクロフト教授(Frances Ashcroft、写真出典

アシュクロフト教授の専門は生理学で、イオン・チャネルの研究では世界的に著名である。

ロジャー・コックス教授(Roger Cox)

ただ、実際に研究していたのは、英国のMRCハーウェル研究所(MRC Harwell )のロジャー・コックス教授(Roger Cox、写真出典)の研究室だっだ。

その後(2009年頃?)、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)のポスドクになった。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2006年のCell Metabolism」論文

ネカト発覚の経緯は不明だが、ネカト発覚の時期は、撤回時期から推察して、2013年頃だろう。

ブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)

ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)は英国のオックスフォード大学で博士号を取得し、ネカトが発覚した2013年頃、米国のハーバード大学医科大学院/ベス・イスラエル・ディコネス病院のブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell、写真出典)のポスドクになっていた。

ヘレン・フリーマンが2006年に英国のオックスフォード大学の院生だった時に発表した「2006年のCell Metabolism」論文が2014年2月に撤回された。
→ RETRACTED: Nicotinamide nucleotide transhydrogenase: A key role in insulin secretion

撤回公告に、図2Bおよび図S3に問題があったと指摘されている。

図2Bで、Gckのウェスタンブロットの画像データが示されているが、実際にはアクチンのウェスタンブロットの画像データが使用されていた。以下、図2Bをみてみよう。

しかし、図2Bを見ていてもどの部分がネカトなのかわからない。

ネカト箇所は「Gckのウェスタンブロット画像の代わりにアクチンのウェスタンブロット画像が使用されていた」と説明されても、内情を知らない第三者には、図2Bを見てもネカト箇所はわからない。

別のネカト箇所はどうだろうか?

図S3のSDS-PAGEゲルの画像のネカトは、「別に行なった実験の分子量マーカーを切貼りし同時に行なったかのようにねつ造した」と説明されている。さらに、「非特異的なバンドが削除されていた」とも説明されている。

「図S3のSDS-PAGEゲルの画像」はココ →  http://www.cellmetabolism.org/cgi/content/full/3/1/35/DC1/ にあると書いてあるが、スンマセン、見つかりません。

英国政府の医学研究局(Medical Research Council: MRC) の調査委員会は調査の結果、第一著者のヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)が単独でデータねつ造・改ざんを行なったと結論した。

★研究公正局の結論

こちらのネカト発覚の経緯と時期も不明だが、2014年2月、英国で「2006年のCell Metabolism」論文のネカトが確定し、米国の研究室で、フリーマンのネカト行為に注意が向けられたと思われる。

それで、ボスのブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)は、フリーマンの出版前の投稿原稿を精査し、ネカトを見つけ、所属機関に通報者したと思われる。

ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)・調査委員会が調査し、フリーマンをクロと結論した。

報告を受けた研究公正局も調査した。

2014年5月29日(34歳?)、研究公正局は、フリーマンの「2014年のNature」投稿論文(以下)にデータ改ざんがあったと発表した(【主要情報源】①)。

“Inhibition of UCP2 Prevents Neurodegenerative Diseases in Mice”
Freeman, H.C., Kong, D., Sidman, R.L., & Lowell, B.

ネカトの具体的な内容はどんな点だろうか?

投稿原稿なので、白楽を含め第三者は原稿を閲覧できない。パブピアで指摘されるハズもない。研究公正局の報告では以下の点の改ざんが記載されている。

図6とその説明で、使用したマウスの数とマウスの年齢が改ざんされた。

図4、補足図3、および補助映画1とその説明で、UCP2をノックアウトすると、pcd3J – / – マウスの運動失調症表現型が救済されたとあるが、これは改ざんである、

白楽を含め第三者は、図6、図4、補足図3、および補助映画1がどんなものかわからない。ただ、説明から電気泳動図のねつ造・改ざんではなかったようだ。

★もう1つのネカト事件:アシュクロフト研究室のシャオソン・マ(Xiaosong Ma)

アシュクロフト教授が著者になっていて、フリーマンが著者になっていない2つの論文にもデータ異常が指摘され、論文が撤回されている。

「2007年の Journal of Neuroscience」論文と「2008年の Proceedings of the National Academy of Sciences」論文の2報で、両方とも2011年に撤回された。

2報とも、第一著者はポスドクのシャオソン・マ(Xiaosong Ma、男性)だった。

同じアシュクロフト教授が著者になっている事件で、同じ時期に同じ研究室で起こったネカト事件に思える。

しかし、フリーマンが実際に研究していたのは、MRCハーウェル研究所(MRC Harwell )のロジャー・コックス教授(Roger Cox)の研究室だっだ。

上記の2論文に関して、オックスフォード大学・調査委員会はシャオソン・マがネカト者で、彼以外の著者はシロだと推論した。つまり、フリーマンはシャオソン・マ(Xiaosong Ma)事件には関与していない(著者に入っていないから当然と言えば当然だ)。

なお、シャオソン・マは中国に帰国し、オックスフォード大学・調査委員会のネカト調査はとん挫し、最終結論が出でていない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年12月13日現在、パブメド(PubMed)で、ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)の論文を「Helen C. Freeman [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが2006年の1論文がヒットした。

「Helen Freeman [Author]」検索すると、5論文がヒットしたが、本記事で問題にしている研究者の論文は2006年の2報と2008年の1報の計3報である。、

「Freeman HC[Author]」で検索すると、1959~2009年の51年間の98論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者の論文ではない論文が多いと思われる。

英国での指導教授、オックスフォード大学(Oxford University)のフランシス・アシュクロフト教授(Frances Ashcroft )との共著論文を「Freeman HC[Author] AND Ashcroft F[Author]」で検索すると、2005年と2006年の各1論文、計2論文がヒットした。

実質的指導教授はMRC HarwellのRoger Cox教授とのことなので、「Freeman HC[Author] AND Cox R [Author]」でも検索した。上記の2論文がヒットした。

ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)との共著論文を「Freeman HC[Author] AND Lowell B[Author]」で検索すると、0論文がヒットした。

所属組織のベス・イスラエル・ディコネス病院「(Freeman HC[Author]) AND Beth Israel Deaconess Medical Center[Affiliation]」で絞っても、0論文がヒットした。
2017年12月13日現在、「Freeman HC[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、撤回論文はゼロだった。

論文を個別にチェクすると、「2006年のCell Metabolism」論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2017年12月13日現在、「パブピア(PubPeer)」はヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)の「2006年のDiabetes」論文にコメントがあった:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》大学院・研究初期

ヘレン・フリーマンの経歴がハッキリしないのだが、最初にネカトをした「2006年のCell Metabolism」論文は院生の時だった。院生の時の指導の甘さがフリーマンの研究スタイルにネカトを身に着けさせてしまったのだろうか? それとも、院生以前のどこかで研究公正観が欠けるスタイルを身に着けていたのか?

一般に、研究者はどの時点、どのような事象で研究スタイルにネカトを取り込んでしまうのか? これを解析した研究がないので不明だが、実際には、院生の時の論文にネカトが見つかるケースは多い。

どちらにしろ、大学院・研究初期で、研究のあり方を習得するときに、研究規範をしっかり習得させることはネカト防止に有効だろう。

ロジャー・コックス(Roger Cox)。https://www.linkedin.com/in/roger-cox-90a92410/

ヘレン・フリーマンの場合、キーパーソンは英国・MRCハーウェル研究所(MRC Harwell)のロジャー・コックス教授(Roger Cox)だ。ここで規範をしっかり躾けられていれば、「研究上の不正行為」をしない研究人生を過ごせたかもしれない。

さらに言えば、「2006年のCell Metabolism」論文のネカトをもっと早く検知できていれば、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)/ベス・イスラエル・ディコネス病院(Beth Israel Deaconess Medical Center)のポスドクになれなかっただろう。そうなれば、「2014年のNature」投稿論文のデータ改ざんもあり得なかった。

法則:「ネカトでは早期発見・適切処分が重要である」。

院生が第一著者で論文を出版すると、最後著者の指導教授も利益を享受するのだから、院生が犯した論文ネカトは、その対価として、指導教授に何らかのペナルティを科すべきだろう。

そうしないから、研究室での研究公正のシツケ教育が徹底しないのだ。

《2》投稿原稿のネカトは珍しい

「2006年のCell Metabolism」論文のデータねつ造・改ざんは普通のねつ造・改ざん事件だけれども、「2014年のNature」投稿論文の場合、「投稿論文」のデータ改ざんなので、その指摘はとても珍しい。

投稿原稿のネカトなので、出版されていない。ネカトと気が付いた人は同じ研究室内の研究者で、通報者はボスのブラッドフォード・ローウェル教授(Bradford Lowell)と思われる。

ローウェル教授は、どの時点で投稿原稿にネカトがあると気が付いたのだろうか?

もし、投稿前に気が付いていたなら、投稿させておいて、後から、ネカトを大学に通報したことになる。これは、指導者としておかしい。

おそらく、投稿後に気が付いていたのだと思うが、それなら、ネカトを大学に通報せずに、投稿原稿を取り下げて、ポスドクのヘレン・フリーマンを厳しく注意・教育するのが順当ではないのだろうか?

ポスドクは訓練生である。一人前の研究者ではない。ローウェル教授は指導の一環として、フリーマンに研究公正を指導すべき立場である。考え方にもよるが、「投稿論文」のネカトの場合、学術界から排除する告発よりも研究者として育成する責務を果たすべきだ。

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●8.【主要情報源】

① 2014年8月7日、研究公正局の報告:NOT-OD-14-114: Findings of Research Misconduct。2014年5月29日、官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct
② 2014年2月5日のamarcus41記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Misconduct at Oxford prompts retraction of insulin paper – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2014年5月29日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Serial fakery: Researcher found to have committed misconduct at Harvard and Oxford – Retraction Watch at Retraction Watch
④ 2014年2月13日のポール・ジャンプ(Paul Jump)記者の「Times Higher Education」記事:Former member’s misconduct causes third retraction for lab | Times Higher Education (THE)(保存版)
⑤ 2017年12月13日現在、「パブピア(PubPeer)」はヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)の「2006年のDiabetes」論文にコメントがあった:PubPeer – Search publications and join the conversation.
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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