ワンポイント:中国人がカナダで不正
●【概略】
ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang、写真出典)は、中国で生まれ育ち、カナダのモントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)の研究員になった。専門は心臓不整脈の生化学だった。医師ではない。
モントリオール心臓研究所はモントリオール大学の1つの研究所である。
なお、「Times Higher Education」の大学ランキングでは、モントリオール大学はカナダ第5位の大学である(World University Rankings 2014-15: North America – Times Higher Education)。
ワンは、中国政府が海外在住の優秀な中国人(あるいは外国人)を中国に帰国・定住させる「China’s Thousand People Plan」(2008年に開始)に選べれるほど著名な科学者だった。
2011年(42歳?)、研究ジャーナル編集部の判断で2報の論文が撤回された。ねつ造・改ざんということで、2011年9月に同研究所を解雇された。
- 国:カナダ
- 成長国:中国
- 研究博士号(PhD)取得:
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に、1969年1月1日とする。
- 現在の年齢:55歳?
- 分野:生化学
- 最初の不正論文発表:2007年(38歳?)
- 発覚年:2011年(42歳?)
- 発覚時地位:モントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute)・研究員
- 発覚:
- 調査:①研究ジャーナル編集部。2011年春。②モントリオール心臓研究所・調査委員会。2011年6月末~2011年8月
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:撤回論文が7報
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:解雇
●【経歴と経過】
不明点多い
- 生年月日:不明。中国で生まれた(推定)。仮に、1969年1月1日とする。
- 19xx年(xx歳):中国のxx大学を卒業(推定)
- 2002年?(33歳?):カナダのモントリオール心臓研究所(Montreal Heart Institute:MHI)・研究員
- 2011年(42歳?):論文データのねつ造・改ざんが発覚する
- 2011年9月(42歳?):モントリオール心臓研究所を解雇される
- 2011年(42歳?):中国に帰国。中国で何をしているのか不明。
●【不正発覚・調査の経緯】
2011年6月末(42歳?)、研究ジャーナル(Journal of Biological Chemistry:JBC)編集部の判断で、ワンのJBC論文が2報撤回された。
2011年6月末(42歳?)、モントリオール心臓研究所は論文撤回を受け、すぐに調査委員会を設け、大急ぎで調査した。
2011年9月2日(42歳?)、モントリオール心臓研究所長のジャン=クロード・ターディフ(Jean-Claude Tardif 、写真出典同)は、記者会見を行ない、ワンの研究ネカトを公表した(Montreal Heart Institute | The Montreal Heart Institute withdraws the privileges of a fundamental research scientist)。
モントリオール心臓研究所は、調査の結果、ワンの論文は、研究所の研究行動基準から逸脱していたと結論した。但し、調査委員名及び報告書はマル秘扱いで公表していない。
「ワンは医師ではないので、患者の治療をしていない。研究所では基礎研究を担当し、患者の治療に用いる医薬品試験には関与していない。それで、今回の不正行為が患者の被害に及ぶことはない」とも述べている。
該当の研究ジャーナル(Journal of Biological Chemistry: JBC)も調査委員会も、ワンの論文のどの個所が不正なのかを公表していない。
チャールズ・トラン(Charles Tran)は、以下のウエスタンブロット像のバンド(囲った部分)が酷似しているので、不正部分はここであろうと述べている。つまり同じ画像の使いまわし(ねつ造)である。(Cracks in the Foundation | IMMpress Magazine)
上記のウェスタンブロットは、2007年のJBC論文 (Xiao et al.,)の図2C(左)と図3A(右)である。写真出典
ワンは事件が決着つく前に、中国に帰国した。その後、中国で何をしているのか不明である。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ジーグオ・ワン(Zhiguo Wang)の論文を「Zhiguo Wang[Author]」で検索すると、2002年~2015年の14年間の153論文がヒットした。
2015年4月20日現在、2007~2008年の7論文が撤回されている。
最新(2008年)の論文。
- Down-regulation of miR-1/miR-133 contributes to re-expression of pacemaker channel genes HCN2 and HCN4 in hypertrophic heart.
Luo X, Lin H, Pan Z, Xiao J, Zhang Y, Lu Y, Yang B, Wang Z.
J Biol Chem. 2008 Jul 18;283(29):20045-52. doi: 10.1074/jbc.M801035200. Epub 2008 May 5.
Retraction in: J Biol Chem. 2011 Aug 12;286(32):28656.
最古(2007年)の論文。
- MicroRNA miR-133 represses HERG K+ channel expression contributing to QT prolongation in diabetic hearts.
Xiao J, Luo X, Lin H, Zhang Y, Lu Y, Wang N, Zhang Y, Yang B, Wang Z.
J Biol Chem. 2007 Apr 27;282(17):12363-7. Epub 2007 Mar 7.
Retraction in: J Biol Chem. 2011 Aug 12;286(32):28656.
●【白楽の感想】
《1》 不明点多し
事件の全貌がつかみにくい。
モントリオール心臓研究所は調査委員も調査報告書も公表していない。研究ジャーナル編集部(Journal of Biological Chemistry:JBC)も不正部分を公表していない。
ワンは中国に帰国し、中国での状況がつかみにくい。
科学メディアも大衆メディアも事件の詳細を報道しない。
これでは、事件の全貌がつかみにくい。不正防止や社会改善にならない。情報の不開示を罰する法律が必要だ。
ジーグオ・ワン、王志国(Zhiguo Wang)、出典:Chinese scientist Wang Zhiguo investigated for misconduct|WantChinaTimes.com
《2》 不正の王国・中国
中国で生まれ育ち、欧米で研究する研究者は膨大な人数に登る。だが、中国は不正の王国と認識されている。渡航先の欧米で不正をする研究者は多い。欧米流な研究規範を尊重することが重要だという価値観・研究文化が、中国には充分に育っていないからである。
ただ、研究規範の改善に取り組んでいる人ももちろんいる。
有名な人は、サイエンスライターのゾウジ・ファン(方舟子、Fang Zhouzi、写真by 美国之音海涛拍?、出典)である。彼は、2000年からウェブ上で、中国の研究ネカトを記事にし、批判してきたが、ヒドイ攻撃も受けている(China’s Scientific & Academic Integrity Watch)。
なお、ゾウジ・ファン(方舟子、Fang Zhouzi)は、1967年9月28日に中国に生まれ育ち、1990年に中国科学技術大学を卒業した。1995年に米国・ミシガン大学で生化学の研究博士号(PhD)を取得している。(Wikipedia, the free encyclopedia)
●【主要情報源】
① ◎2011年8月8日以降のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事群:zhiguo wang Archives – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2011 年9月4日、ラリー・ハステン(Larry Husten)の「Forbes」記事:Montreal Heart Institute Researcher Fired After Investigation of Retracted Papers