エネルギー工学:シーミン・ルー、呂錫民(Shyi-Min Lu)(台湾)

2017年6月20日掲載。

ワンポイント:国立台湾大学・研究助手(男性)で、2013年(56歳?)、同じ研究グループの院生から論文盗用が指摘され、大学から解雇された。2016 年(59歳?)、6論文が撤回されたのを「撤回監視(Retraction Watch)」が記事にし、台湾のメディアが大騒ぎした。損害額の総額(推定)は13億1200万円。トータル11論文が撤回。シーミン・ルー事件は、2016年ランキングの「ナイストライ:2016年の5大撤回科学論文」:2016年12月28日の第4位である
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

シーミン・ルー(Shyi-Min Lu、Hsyi-min Lu、呂錫民、写真出典)は、台湾の工業技術研究院(Industrial Technology Research Institute)・研究員(?)だったが、2008年(51歳?)、国立台湾大学(National Taiwan University)・応用力学研究所の研究助手(research assistant)になった。専門はエネルギー工学だ。

2013年8月(56歳?)、国立台湾大学・応用力学研究所の院生がシーミン・ルーの論文に盗用を見つけ、ファリン・チェン教授に伝えた。

2013年(56歳?)、国立台湾大学と工業技術研究院はシーミン・ルーの10論文の撤回を決定した。

2016 年1月11日(59歳?)、シーミン・ルーの6論文が撤回されたので、「撤回監視(Retraction Watch)」がシーミン・ルーの記事を書いた。この情報を台湾のメディアが取り上げ、大騒動となった。

シーミン・ルー事件は、2016年ランキングのLivescienceの「ナイストライ:2016年の5大撤回科学論文」:2016年12月28日の第4位である。

国立台湾大学(National Taiwan University)・応用力学研究所。写真出典

  • 国:台湾
  • 成長国:台湾
  • 研究博士号(PhD)取得:?
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。ファリン・チェン教授と同級生(國家型計畫 規模數百億// 台大研究助理 爆抄襲論文 – 焦點 – 自由時報電子報)。1975年8月にファリン・チェン教授が大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:60 歳?
  • 分野:エネルギー工学
  • 最初の不正論文発表:2007年(50歳?)
  • 発覚年:2013年(56歳?)
  • 発覚時地位:国立台湾大学・研究助手
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は国立台湾大学・応用力学研究所のファリン・チェン教授の院生である。シーミン・ルーの論文盗用を、ファリン・チェン教授に伝えた。ファリン・チェン教授が大学に通報
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①国立台湾大学・応用力学研究所のファリン・チェン教授。②国立台湾大学・調査委員会。③台湾の工業技術研究院・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:11報。11論文撤回(含・予定)
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 損害額:総額(推定)は13億1200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が20年間=4億円。③院生の損害が1人1000万円で6人=6千万円。④「国家エネルギー計画」の第一期予算200億台湾ドル(約751億円)の1%=7億5千万円。⑤調査経費(大学とと学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。 ⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。11報撤回=2200万円。⑧研究者(ファリン・チェン教授など)の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:解雇

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明

  • 生年月日:不明。仮に1957年1月1日生まれとする。ファリン・チェン教授と同級生(國家型計畫 規模數百億// 台大研究助理 爆抄襲論文 – 焦點 – 自由時報電子報)。1975年8月にファリン・チェン教授が大学に入学した時を18歳とした
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):台湾の工業技術研究院(Industrial Technology Research Institute)・研究員?
  • 2008年(51歳?):国立台湾大学(National Taiwan University)・応用力学研究所・研究助手(research assistant)
  • 2013年(56歳?):不正研究が発覚する
  • 2013年(56歳?):国立台湾大学が解雇
  • 2016 年1月11日(59歳?):「撤回監視(Retraction Watch)」がシーミン・ルーの論文の撤回の記事を書いた。この情報を台湾のメディアが取り上げ、大騒動となった。

●3.【動画】

【動画】
事件ニュース「學術之恥! 台大研究助理爆抄襲」(中国語)1分38秒
中華電視公司が2016/01/12 に公開

【動画】
事件ニュース「【2016.01.13】台大學術醜聞 國家型計畫爆抄襲」(中国語)2分6秒
udn tv が2016/01/13 に公開

●4.【日本語の解説】

日本語解説はなかった。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★不正発覚の経緯

撤回監視の記事によると、シーミン・ルーの論文共著者である国立台湾大学・応用力学研究所・教授のファリン・チェン(陳發林、Falin Chen、写真出典)は、発覚の経緯を次のように語っている。

2013年8月、英国ダラム大学に3か月の研究滞在した時、私の院生が、シーミン・ルーの論文「台湾の緑の交通インフラ(Green Transport Infrastructure of Taiwan)」は、私の院生・Yu-Shun Huangの修士論文「台湾内陸輸送の省エネルギー分析と可能な計画(Energy Saving Analysis and Potential Schemes for Taiwan Inland Transportation)」を盗用している、と教えてくれた。

帰国後すぐにシーミン・ルーの全出版物を調査するチームを編成し、調査した。

すると、シーミン・ルーは、共著者になることの了承も得ず、多数の原稿を勝手に投稿していた。

結局、シーミン・ルー自身が、10論文で研究倫理に違反したと告白した。

研究倫理に違反した内容は、①二重投稿、②盗用、③共著者の承諾なしの投稿だった。

ファリン・チェン教授の指摘を受け、国立台湾大学は調査委員会を設け、調査した。

2013年(56歳?)、国立台湾大学と工業技術研究院はシーミン・ルーの10論文の撤回を決定した。

2015年11月(58歳?)、シーミン・ルーの「2008年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」論文、「2010年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」論文が撤回された。著者にファリン・チェン教授も入っていた。著者にファリン・チェン教授が入っていない「2013年のOJEE」論文も撤回された(共著者の承諾なしの投稿)。

他にも撤回論文が報告された。

2016 年1月11日(59歳?)、シーミン・ルーの6論文が撤回されたので、「撤回監視(Retraction Watch)」がシーミン・ルーの記事を書いた。ファリン・チェン教授とのやり取りも記載した。

2016 年1月11日(59歳?)以降、「撤回監視(Retraction Watch)」記事を台湾のメディアが取り上げ、大騒動となった。

★不正の内容

シーミン・ルーが不正をした10論文は、以下の論文である。
→ 2016年2月17日記事:政府補助數百億,台大助理呂錫民論文抄襲,執行長陳發林不知情 @ Life the Dog :: 痞客邦 PIXNET ::

最古は2007年(50歳?)が1報で、2013年の論文が7報あるが。2007年から不正していたことになる。

★「2015年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」論文

不正の内容を調べよう。

上記の図にリストしたようにシーミン・ルーが告白した不正論文は10報である。

それ以外に、以下のシーミン・ルーの単著論文「2015年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」が盗用で撤回された。この論文の不正の内容を調べよう。

「2015年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」論文には14個の図がある。全体の半分の7つの図を盗用した。
→ 2016年10月記事:Retraction notice to: “A global survey of gas hydrate development and reserves: Specifically in the marine field”

書誌情報は以下である。

A global survey of gas hydrate development and reserves: Specifically in the marine field
Renewable and Sustainable Energy Reviews, Volume 41, January 2015, Pages 884-900
Shyi-Min Lu
PDF (5799 K)

図1と図2は他人の「2009年のEnvironmental Research Letters」論文の図を引用なしに使用した。

図1

図2

図4と図5は「2006年のTerrestrial Atmospheric and Ocean Sciences」論文の図を引用なしに使用した。

図4。赤字に「RE」は撤回論文を示す英語の一部で、論文の図ではない。

図5。赤字に「RETRACT」は撤回論文を示す英語の一部で、論文の図ではない。

図6、7、8も不正だが、似たような図なので省略する。

★事件の影響

シーミン・ルー事件は、台湾では、新聞・テレビが大騒ぎである。

シーミン・ルーは台湾の有力科学者ではないし、盗用論文が社会に与える影響が小さい。

ではどうしてメディアが大騒ぎしたのか?

1つは、名門の国立台湾大学の研究者が起こした事件だからである。2007年のネカト論文は、移籍前の所属していた工業技術研究院(Industrial Technology Research Institute)で発表した論文もあるが、国立台湾大学の研究者が起こした事件だけのせいではない。

もう1つは、日本の文部科学省に相当する科技部(Taiwan’s Ministry of Science and Technology (MOST))の国家的事業「国家エネルギー計画」の第一期研究プロジェクトで不正が起こったからである。

プロジェクト執行長は、国立台湾大学・応用力学研究所のファリン・チェン教授である。シーミン・ルーの撤回論文の中にチェン教授が共著になった論文がいくつもあったのだ。

「国家エネルギー計画」の第一期研究プロジェクトの予算は5年間で200億台湾ドル(約751億円)と巨額で、プロジェクト全体の長は国立台湾大学の前・学長のリー・シ=チェン(Lee Si-chen、李嗣涔)である。それで、ニュースで科技部次長の林一平(Jason Yi-Bing Lin)が記者会見した。
台大爆國家型計畫抄襲論文 科技部回應 – 新唐人亞太電視台

科技部次長の林一平(Jason Yi-Bing Lin)が記者会見しているのがメディアに報道されている。写真出典

●6.【論文数と撤回論文】

シーミン・ルーの総論文数は把握できていない。

シーミン・ルーが10論文で不正をしたと告白しているので、10論文が撤回されるハズだ。それ以外に、本記事で示した「2015年のRenewable and Sustainable Energy Reviews」論文が撤回されているので、合計11論文が撤回される(た)ハズだ。

2016年1月11日の撤回監視記事では6論文が撤回(予定)とある。

2017年6月19現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、シーミン・ルー(Shyi-Min Lu)の撤回論文を「(retraction OR retracted) author:”Lu SM”」で検索すると、870論文がヒットした。

870論文は多すぎる。別人の論文が混入していて、チャンと検索できていない。

シーミン・ルーの総撤回論文は把握できていない。

●7.【白楽の感想】

《1》大事件?

クリストファー・ワンジェク(Christopher Wanjek)が、2016年ランキングのLivescienceの「ナイストライ:2016年の5大撤回科学論文」:2016年12月28日の第4位にあげた。

そんなに大事件だろうか? ワンジェクが問題視するポイントはなんなのだろう?

シーミン・ルーは文章ではなくデータ(図)を盗用した。自己盗用もして、繰り返し再使用した、と指摘している。撤回論文数が10論文と多い点がポイントらしいが、白楽には、「2016年の5大撤回科学論文」の第4位にあげる大事件とは思えなかった。逆に言うと、2016年はこの程度の不正しかなかったということか。

盗用はねつ造・改ざんと異なり、論文が社会に与える影響は小さい。極論すれば、ネカト者本人がズルして得するだけである。それに、シーミン・ルーは台湾でも有名科学者ではないし、ネカト発覚と論文自身の影響力は小さい。

なんで大事件なのだろうか?

《2》台湾の大騒ぎ

シーミン・ルー事件は、台湾では、新聞・テレビが大騒ぎである。

撤回監視の英語記事を新聞・テレビでも取り上げた。

日本は、どうでしょう、今まで、撤回監視の英語記事を新聞・テレビで取り上げたことがあるだろうか?

また、この程度の研究倫理事件で、文部科学大臣や官僚がニュースに登場するだろうか? ウン? 小保方晴子事件では登場しましたね(してない?)。

《3》学ぶ点

この事件は、不明点多く、防ぐ方法を考える上でなにを学ぶべきか、参考にしにくい。

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●8.【主要情報源】

① 2016 年1月11日以降。シャノン・パルス(Shannon Palus)などの「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Shyi-Min Lu – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2016 年1月14日のSean Lin記者とChen Wei-han記者の「自由時報電子報TAIPEI TIMES」記事:《TAIPEI TIMES 焦點》 Researcher guilty of plagiarism – 焦點 – 自由時報電子報
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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