7-18.9割の研究者が研究クログレイ

2018年10月7日掲載

白楽の意図:研究者はどのくらい研究クログレイをしているのか? 研究クログレイはネカトと異なり多くの大学はルール違反としていない。それで、告発されないことが多い。だから、研究者がどのくらいクログレイ行為をしているのか、定量的に把握しにくい。それで、クログレイ行為の頻度を調べた論文読んだ。読み始めて気が付いたが(論文表題に書いてあるのだが、あまり気にせず読み始めてしまった)、医療者教育学(health professions education :HPE)という新しい研究分野が対象だった。2018年4月のアルティーノ論文を紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.白楽の感想
5.関連情報
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

国際的な医療者教育学(health professions education :HPE)研究者を対象に、43項目の研究クログレイ行為(questionable research practices:QRPs)について、したことがあるかどうかを、2017年にアンケート調査した。590人の回答者は平均年齢が46歳(SD = 11.6)で、在住は、米国(26.4%)、ヨーロッパ(23.2%)、カナダ(15.3%)だった。最も頻繁に報告された3つのクログレイ行為は、①著者の基準を満たさない人を著者に加えた(60.6%)、②読んでいない論文を引用文献にした(49.5%)、③編集者や査読者に喜んでもらうための論文引用をした(49.4%)。また、言葉の誤発表(6.7%)、盗用(5.5%)、結果の改ざん(5.3%)、説明せずに特定データを削除(3.4%)、データねつ造(2.4%)もあった。590人の回答者の内533人(90.3%)が少なくとも1回は研究クログレイ行為をしていた。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

●3.【論文内容】

【1.序論】

従来、研究ネカトと研究クログレイの頻度を知るために、多くの異なるアプローチが用いられてきた。例えば、ネカト・クログレイの事件数、撤回論文数、政府研究助成機関が報告する事件数、を数える方法などである。しかし、これらの方法は、発見されたネカト・クログレイ数を数えているのであって、現場の研究者が行なったネカト・クログレイの行為数ではない。

発見されたネカト・クログレイ数は、実際に実行されたネカト・クログレイ数に比べ著しく少ないと思われる。

そして、ネカト・クログレイ行為を実際に実行したことを知っているのは、研究現場の研究者だけである。

それで、研究現場の研究者に直接質問するアンケート調査でネカト・クログレイの頻度調査が行なわれてきた(文献4,6,16,17)。

本論文では、医療者教育学(health professions education :HPE)の研究者を対象に研究クログレイ行為の頻度を調査した。

医療者教育学研究者を対象にしたネカト・クログレイの頻度調査は今まで発表されておらず、この論文が最初である。

★医療者教育学(health professions education :HPE)

医療者教育学の研究者を対象にアンケート調査したのだが、医療者教育学という学問は新しい学問で白楽はなじみが薄い。調べると以下のようだ。

医療者教育学(health professions education :HPE)は、比較的新しい学問である。目標は、人間の健康を改善するための医療従事者を教育する方法と方法論を教育し研究する学問である。多くの医療従事者(医師、看護師、歯科医など)と、教育心理学者、基礎科学者、言語学者、生物統計学者、および情報科学者が研究していて、学問も研究者も多様性に富んでいる。

エルゼビア社(Elsevier)が学術誌「Health Professions Educatio」を出版している。但し、この学術誌は編集者が中東系である。

2003年に全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)の米国医学研究所(Institute of Medicine ; IOM)が「Health Professions Education: A Bridge to Quality 」を出版している。つまり、学問としては確立しているようだ。閲覧無料だが白楽は未読。

【2.アンケート回答者】

1,840人の医療者教育学の研究者に電子メールを送付し、590人の有効回答が得られた。

590人の素性を表1に示した。

回答者は平均年齢が46歳(SD = 11.6)である。

回答者は、米国(26.4%)、ヨーロッパ(23.2%)、カナダ(15.3%)の研究者が多いが、アジア(6.3%)やアフリカ(6.3%)の研究者もいた。日本人も含まれていると思われるが、アジア域内は国別に集計されていないので日本人数は不明である。

研究領域は社会科学(49.7%)、臨床医学(28.3%)が多い。職階は正教授(23.7%)から院生(7.1%)・ポスドク(3.9%)と幅広い。

表をクリックすると表は大きくなる。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できる。


【3.研究クログレイ行為の頻度】

590人の回答者の集計結果である。研究クログレイ行為を4枠・43項目で質問した。

  • 「データ収集と保存」で1-9の9項目
  • 「データ分析」で10-22の13項目
  • 「成果発表」で23-36の14項目
  • 「著者在順」で37-43の7項目

43項目のそれぞれについて、次の選択肢から、自分が行なった頻度を回答してもらった。

  • 一度もしていない(never)
  • 一度した(once)
  • 時々した(occasionally)
  • 50%くらいの頻度でした(sometimes)
  • 頻繁にした(frequently)
  • ほとんどいつもしている(almost always)
  • 自分の研究には該当しない(not applicable to my work)

43項目を英語のまま示す(表2のデータ)。

★「データ収集と保存」で1-9の9項目

★「データ分析」で10-22の13項目

★「成果発表」で23-36の14項目

★「著者在順」で37-43の7項目

【4.頻度上位10項目と特記項目】

クログレイ頻度の多い上位10項目を以下に示す。上位3項目はカッコ内に一度でもした人の割合を記入した。上位10項目はすべて20%以上だった。

  1. 著者の基準を満たさない人を著者に加えた:名誉著者(60.6%)
  2. 読んでいない論文を引用文献にした(49.5%)
  3. 編集者や査読者に喜んでもらうための論文引用をした(49.4%)
  4. 機密性の高い研究データ(例えば、個人識別可能な情報を含むデータ)を不適切に保存した
  5. 自分の論文の引用数を上げるために自分の論文を選択的に引用した
  6. データの解釈で同僚が示した疑念を無視した
  7. 治験審査委員会(IRB:Institutional Review Board)の承認なしに、教育コースまたはカリキュラムのデータを研究のために収集した
  8. 機密性の高い研究データ(例えば、個人識別可能な情報を含むデータ)を不適切に電子メールで送信した
  9. 名誉著者の依頼を受け入れた
  10. サラミ論文を出版した

なお、驚いたことに、盗用(5.5%)、結果の改ざん(5.3%)、説明せずに特定のデータ削除(3.4%)、データねつ造(2.4%)などのネカトをしたと回答した研究者がそれなりにいた。

【5.撤回監視のインタビュー】

撤回監視が、第一著者のアンソニー・アルティーノ・ジュニア(Anthony R. Artino Jr)と最後著者のローレン・マッジョ(Lauren A. Maggio)にインタビューした。

最後著者のローレン・マッジョ(Lauren A. Maggio)(左)と第一著者のアンソニー・アルティーノ・ジュニア(Anthony R. Artino Jr)(右) https://twitter.com/mededdoc/status/927678651461709824

質問:9割の研究者が研究クログレイしていることに驚きましたか?
回答:とても驚きました。

質問:主要な結果のどこに驚きました? その理由は?
回答:データをねつ造した人が14人(2.4%)もいたことに驚きました。14という数字は大きな数字ではないけれども、1人でもいたら驚きです。

質問:9割の研究者が研究クログレイしていることはヒトの健康に問題を起こしますか?
回答:起こします。例えば、不適切な研究結果に基づいた内容を医学教育者が使った場合、ヒトの健康と福祉に著しく悪い影響を与える可能性があります。

質問:結局、どのように改善?
回答:若手に研究公正教育をすることから始めたい。例えば、著者になる基準を満たしていない場合は著者にならないように教育するなどです。
研究公正教育を最初にあげましたが、しかし、結局のところ、研究クログレイは研究文化だと思うのです。そして、経営学者・ピーター・ドラッカー(Peter Drucker)の「どんな戦略も文化にはかなわない(culture eats strategy for breakfast)」のとらえ方が重要です。単に規則を教えても根本的な改善には至らないと思います。研究クログレイの文化と文脈上の複雑さに焦点を当てる必要があると思っています。それで、私たちは、医療者教育学における研究公正の文化的側面を掘り下げる研究もしています。

●4.【白楽の感想】

《1》曖昧

この論文では、医療者教育学(health professions education :HPE)の研究者を対象に研究クログレイ行為の頻度を調査した。

ただ、対象者が多様過ぎて、結論の信頼度が低い。

例えば、米国(26.4%)の研究者とアジア(6.3%)やアフリカ(6.3%)の研究者では、文化習慣の違いが大きく、研究クログレイ行為の許容度はかなり違うと思う。それを一緒にした数値を出しても、その数値のもつ意味が弱い。焦点が絞れない。

研究領域として、社会科学(49.7%)、臨床医学(28.3%)も一緒にしている。

職階も正教授(23.7%)と院生(7.1%)やポスドク(3.9%)では、違いが大きすぎると思う。

また、医療者教育学(health professions education :HPE)の研究者を対象に行なったアンケートだが、医療者教育学という研究分野に特有の回答なのか、他分野でも同じ回答なのか、焦点が絞れない。なお、分野間の比較は興味深いと、白楽は思う。

《2》アンケート

この論文では、1,840人に電子メールを送付し、590人の有効回答者が得られたとある。アンケートで悪い行為を自己申告させる方式は、無理がある。調査が破綻していると思う。

1.悪い行為をしている人は回答したくないので、回答しない。
2.研究倫理に関心のある人は回答するが、研究倫理に関心のある人は、印象としてネカト・クログレイをしていない人が多い。

上記の2点を考えれば、回答しなかった1,250人のネカト・クログレイ行為は回答した590人と異なり、もっと、高頻度でネカト・クログレイ行為をしていると思われる。

となると、有効回答者590人の回答内容を分析しても母集団の実際の状況を反映していないと思われる。

《3》定点観測

《2》でネカト・クログレイ行為のアンケート調査に否定的な意見を書いた。

しかし、日本では、この手の調査が全くない。おざなりの調査はカネの無駄だが、どこかの誰かが本気で日本の実態調査をした方がいい。調査項目として参考になる先行研究は十分蓄積している。

例えば、定点観測、つまり、毎年(あるいは2年や5年に一度)、同じ母集団に対して、同じような質問事項のアンケート調査をすれば、10年、20年経過した時、経年変化は動向としての事実をつかめると思う。

そして、うがった見方だが、アンケート調査を通して、研究者に効率的にネカト・クログレイ教育ができる。白楽は、実は、この教育効果は大きいと思っている。

●5.【関連情報】

① 2018年3月2日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Ethical shades of gray:” 90% of researchers in new health field admit to questionable practices – Retraction Watch

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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