デイヴィッド・アガス(David Agus)(米)

2023年6月5日掲載 

ワンポイント:アガスは南カリフォルニア大学・ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)・教授・医師で作家、テレビコメンテイターも務める有名人で大金持ち。2023年3月6日(58歳)、ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者が、翌日出版予定のアガスの新著『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』に盗用があると新聞で報道した。10日後、他の著書にも盗用を見つけ、結局、2012~2023年(47~58歳)の4冊の本に盗用があると新聞で報道した。アガスは、代筆者(ゴーストライター、ghost writing)のクリステン・ローバーグ(Kristen Loberg)が盗用していたと弁明した。大学は調査中で今のところアガスは無処分。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

デイヴィッド・アガス(デイビット・アガス、David Agus、David B. Agus、ORCID iD:?、写真出典)は、米国の南カリフォルニア大学・ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)・教授・医師で、専門はがん治療学である。

アガスは、学歴、職業(医師で大学教授、作家)が素晴らしく、幸せな家族(妻、1女・1男)があり、テレビ(CBS)ニュースの定期的なコメンテイターを務める有名人で、豪邸に住むリッチな米国のエリートである。

2012~2023年(47~58歳)、4冊の本、『病気の終焉(The End of Illness)』(2012年10月16日)、『長生きのための短いガイド(A Short Guide to a Long Life)』(2014年12月30日)、『幸運な年: 素晴らしい健康の新世界を達成する方法(The Lucky Years: How to Thrive in the Brave New World of Health)』(2017年1月3日)、『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』(2023年3月7日予定)を出版した。

2023年3月6日(58歳)、ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者が出版前日に4冊目の本『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』に盗用を見つけ、新聞記事に掲載した。

それで、4冊目は、出版延期になった。

2023年3月17日(58歳)、最初の盗用報道の10日後、4冊目以外の他の上記3冊すべてに盗用が見つかった。

アガスは、自分は盗用していないと弁明し、すべて、代筆者(ゴーストライター、ghost writing)のクリステン・ローバーグ(Kristen Loberg)が盗用した、とローバーグを非難した。

盗用問題の専門家であるドイツのデボラ・ヴィーバー=ヴルフ教授(Debora Weber-Wulff)は、「あなたの名前が著者として表紙に載っているなら、あなたはその中身の全部に全責任を負います」と、責任逃れをするアガスの言動を批判した。

また、盗用問題の専門家であるジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)はアガス(または代筆者)の文章作法を分析し、執筆スタイルそのものに問題があると指摘した。

なお、アガスの研究論文に関しては盗用を含め、ネカトは指摘されていない。

南カリフォルニア大学ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:ペンシルベニア大学・ペレルマン医科大学院
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1965年1月29日
  • 現在の年齢:59歳
  • 分野:がん治療学
  • ネカト論文発表:2012~2023年(47~58歳)の12年間
  • ネカト行為時の地位:米国の南カリフォルニア大学・ケック医科大学院・教授
  • 発覚年:2023年(58歳)
  • 発覚時地位:米国の南カリフォルニア大学・ケック医科大学院・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者でロサンゼルス・タイムズ紙に公表
  • ステップ2(メディア):「ロサンゼルス・タイムズ紙」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①出版社のサイモン・シュスター社・編集部。②南カリフォルニア大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中(多分)
  • 大学の透明性:調査中(ー)
  • 不正:盗用
  • 不正数:著書4冊。研究論文での不正は指摘されていない
  • 盗用ページ率:?%
  • 盗用文字率:?%
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:著書出版の延期。実質的な処分なし。大学は調査中
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典: David Agus | LinkedIn

  • 生年月日:1965年1月29日
  • 1987年(22歳):プリンストン大学(Princeton University Kanpur)で学士号取得:分子生物学
  • 1991年(26歳):ペンシルベニア大学・ペレルマン医科大学院(University of Pennsylvania Perelman School of Medicine)で医師免許(MD)取得
  • 1991~2009年(26~44歳):ジョンズ・ホプキンス大学病院(Johns Hopkins Hospital)、スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)、NIHなどで医師・研究員
  • 2009年4月(44歳):南カリフォルニア大学・ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)・教授
  • 2012~2023年(47~58歳):4冊の本を出版:『The End of Illness』(2012年10月16日)、『A Short Guide to a Long Life』(2014年12月30日)、『The Lucky Years: How to Thrive in the Brave New World of Health』(2017年1月3日)、『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』(2023年3月7日予定)
  • 2023年3月(58歳):上記4冊の本の盗用が発覚
  • 2023年6月4日(58歳)現在:従来の大学教授職を維持:David B. Agus, MD | Keck School of Medicine of USC

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
TED講演動画:「デイビット・アガス: がんとの戦いへの新しい戦略 – YouTube」(英語)23分44秒。
TED(チャンネル登録者数 2290万人)が2010/02/05に公開
日本語字幕付 → http://www.ted-ja.com/2014/05/david-agus-a-new-strategy-in-the-war-on-cancer.html
日本語字幕付 → https://www.english-video.net/v/ja/761

【動画2】
インタビュー動画:「Dr. Agus Shares the Secret to Living a Long Life – YouTube」(英語)3分28秒。
The Howard Stern Show(チャンネル登録者数 188万人)が2023/03/01 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★米国のエリートで有名人

デイヴィッド・アガス(David Agus)は、学歴(プリンストン大学卒、ペンシルベニア大学で医師免許取得)、職業(医師で大学教授、作家)、が素晴らしく、幸せな家族(妻、1女・1男)があり、テレビ(CBS)ニュースの定期的なコメンテイターを務める有名人で、豪邸に住むリッチな米国のエリートである。

NIHからの獲得研究費は2009~2016年に毎年1件獲得していた。研究費の獲得額はソコソコである。 → RePORT ⟩ “David Agus” UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA

1994年(29歳)、アガスは、女優のエイミー・ジョイス・ポヴィチ(Amy Joyce Povich、写真出典)と結婚し、現在まで離婚していない。

妻エイミー・ジョイス・ポヴィチの両親はテレビ・ショーの司会者を務めるモーリー・ポヴィッチ(Maury Povich – Wikipedia)とフィリス・ミンコフ(Phyllis Minkoff)である(写真出典)。

アガスがテレビ出演したから妻エイミー・ジョイス・ポヴィチと知り合ったのか、エイミー・ジョイス・ポヴィチと結婚したからアガスがテレビ出演するようになったのか、白楽は把握していないが、いずれにせよ、アガスはテレビ(CBS)ニュースの定期的なコメンテイターを務め、米国の有名人の健康相談番組のホストになっている。 → The Checkup with Dr. David Agus (TV Mini Series 2022– ) – IMDb

アガスはアップル社を創業したスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)など有名人の主治医でもある(あった)。

2020 年 8 月 25 日(55歳)の記事では、アガスはそれまで住んでいたビバリーヒルズの豪邸(右の写真出典)から、2千万ドル(約20億円)で購入したサンタモニカの豪邸に引っ越したとある。 → Dr. David Agus Buys $20 Million Santa Monica Mansion – DIRT(下の写真出典同、保存版

★盗用発覚と釈明

2023年3月7日(58歳)、この日、アガスの著書『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』(表紙出典はAmazon)はサイモン・シュスター社(Simon and Schuster)から出版される予定だった。

ところが、その前日の2023年3月6日(58歳)、スキャンダルが発覚した。

ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者が、アガスのこの著書『動物の秘密の本』には少なくとも 95箇所の盗用があると報じたのだ(以下画像上の出典保存版)と画像下の出典保存版))。

サイモン・シュスター社(Simon and Schuster)は、ロサンゼルス・タイムズ紙の記事を受け、この著書『動物の秘密の本』の出版を延期した。

アガスは盗用を認め、謝罪した。

但し、後述するようにアガス自身は盗用していないと弁明した。

★スキャンダルの上塗り

最初の報道の10日後、2023年3月17日(58歳)、盗用スキャンダルの上塗りが報道された。

ロサンゼルス・タイムズ紙は、アガスの最初の3冊の本『The End of Illness』(2012年10月16日)、『A Short Guide to a Long Life』(2014年12月30日)、『The Lucky Years: How to Thrive in the Brave New World of Health』(2017年1月3日)も、盗用だらけだと、報じたのだ。 → 2023年3月17日:Plagiarism found in more of USC Dr. David Agus’ books – Los Angeles Times(本の表紙も)

3 冊の本は、他の人が書いた書籍、科学誌の記事、科学ブログ、オンライン記事、ウィキペディア記事、などから多量の文章を流用していた。そして、その流用文章のほぼすべてに出典が記載されていなかった。つまり、盗用だった。

ただ、アガスは、盗用については知らなかったし、自分は盗用していないと弁明した。

盗用と指摘された部分はすべて、代筆者(ゴーストライター、ghost writing)のクリステン・ローバーグ(Kristen Loberg、写真出典)が書いた、と述べた。

盗用問題の専門家であるドイツのデボラ・ヴィーバー=ヴルフ教授(Debora Weber-Wulff)は、「あなたの名前が著者として表紙に載っているなら、あなたはその中身の全部に全責任を負います」と、責任逃れをするアガスの言動を批判した。

★盗用発覚の経緯

一般的に、盗用発見の新聞記事は、新聞記者が盗用を見つける場合と、別の人が盗用を見つけ新聞記者に伝える場合のどちらかである。学術色が濃い論文や本だと後者が多いが、一般書だとほぼ前者である。

今回は、ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill、写真出典)記者が盗用を見つけた。

パーティル記者は、編集部の許可を得て、盗用検出ソフトを300 ドル(約3万円)で購入した。そのソフトでアガスの著書『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』のPDF版を解析し、盗用を見つけたのだ。

パーティル記者は「そのプロセス全体にかかった時間はたったの15分でした」と言った。

白楽は、簡単な盗用をチェックしなかったサイモン・シュスター社(Simon and Schuster)・編集部にとても驚いた。拍子抜けするような脇の甘さ、というか、脇じゃなくて、正面の甘さ、ですね。

★大学の対応

アガスが勤務している南カリフォルニア大学(USC)は、盗用を非常に深刻に受け止め、この問題を調査していると述べている。

2023年6月4日(58歳)現在、それ以上のコメントを出していない。調査結果も発表していない。

★ローバーグの謝罪と説明

盗用者のクリステン・ローバーグ(Kristen Loberg、写真出典)は自分のブログで盗用を謝罪し、事情を説明している。 → KRISTIN LOBERG、(保存版

なお、ローバーグは健康分野でたくさんの本を書いてきた著名な科学ライターである。 → Kristin Loberg – Instructor | UCLA Extension、(保存版

最近、私が盗用したと申し立てられました。 私はこの申し立てを非常に深刻に受け止めています。それは私だけでなく、私が一緒に仕事をしている著者や出版業界全体にも悪い影響を与えています。

最初にはっきりさせておきますが、私は他人の作品を意図的に無断で使用したことはありません。

「どうしてこうなったのか?」、「それは意図的でしたか?」、「どのように修正しますか?」との質問を受けましたが、いくつかの要因が関係し、単純ではありません。

ローバーグは次のように説明している。要約すると以下のようだ。

著者と一緒に原稿を作成する際、準備として、他の人が書いた書籍、科学誌の記事、科学ブログ、オンライン記事、ウィキペディア記事など、あらゆるところから、膨大な量の資料、大量のデータ、未加工のコンテンツを集める。と同時に、著者(ここではデイヴィッド・アガス)自身が発表した文書・著書・資料や調査中・発表予定の文書も集める。それらを全部一緒にして、著者(アガス)と共同で執筆と編集を行なう。

この時、文章(時には、全部の章)が行き来し、著者と何度もやり取りを繰り返す。その間、編集者からのコメントが入る。そのたびに、文章(時には、全部の章)が行き来し、著者(アガス)を含め編集者と何度もやり取りを繰り返す。多くの場合、執筆は、企画の提案から始まり、何年もかけて文章をまとめる。

『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』では出版まで6年間もかかった。その途中でパンデミックが発生し、作業は何度もスタートとストップを繰り返した。

この間、間違いを防ぐためだけでなく、参考文献や引用にも、常に最善を尽くしてきたけれど、編集プロセスは厄介で、細部が見過ごされて、今回の盗用を招いた。

最後に謝罪している。

著者、出版社、適切にクレジットされていない文章の執筆者、およびこれらの本で取り上げられている重要な公衆衛生上の問題に関心のある人々に謝罪します。

そして、ローバーグもサイモン・シュスター社(Simon and Schuster)も今回のエラーは対処・修正可能なので、必要な修正を行ない、2023年9月26日に『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』を出版すると述べている。

★ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)の指摘

盗用問題の専門家であるジョナサン・ベイリー(Jonathan  Bailey)はロサンゼルス・タイムズ紙の最初の記事が報道された翌日の2023年3月7日にブログ記事を書いている。

以下はその記事の要点からジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)の視点を抽出した。 → 出典:2023年3月7日の「Plagiarism Today」記事:Explained: the David Agus Plagiarism Scandal – Plagiarism Today

以下にデイヴィッド・アガスの盗用比較図を示す(ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)の記事から白楽が作成)。

左側がデイヴィッド・アガスの『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』(2023年3月7日予定)で右が被盗用文章である。同じ単語を黄色で示した。

盗用比較図でわかるようにテキストの大部分は逐語盗用である。逐語盗用ではない部分の多くは単純に元の単語を類義語に交換したものだった。

つまり、アガス(または代筆者)は、被盗用文章を自分の意図に合うように「言い換え、変更、編集」をして、自分の文章としていた。

繰り返すと、このアガス(または代筆者)の文章作法は、まず外部の文章をコピペし、その文章の「言い換え、変更、編集」を繰り返して、自分の「オリジナル」な文章とし、適切な出典を示さずに自分の著書とするスタイルである。

ハッキリ言って、この文章作法は、「オリジナル」な文章を執筆する方法ではない。

このスタイルで作成されたものは何であれ、元の情報源からの派生物であって、独自の作品ではないことは明白だ。

アガス(または代筆者)の盗用は、執筆過程で単に他人の文章の出典を記載し忘れたレベルのエラーではなく、文章作法に根本的な欠陥がある。

さらに、サイモン・シュスター社(Simon and Schuster)の編集はもっと恥ずかしい、とジョナサン・ベイリーは、批判している。

サイモン・シュスター社は、今回、盗用検出ソフトで盗用が検出された『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』を著書として出版するところだった(出版前日に発覚したので出版していない)。

ということは、今回は発覚したが、サイモン・シュスター社の他の著書も、同じ程度の盗用をしている可能性は高く、今まで、盗用をしっかりチェックせずに出版してきたということだ。

これはまともな出版社としてはあり得ないレベルの編集業務で、サイモン・シュスター社の編集プロセス全体に深刻な疑問と懸念が生じる、と批判した。

【盗用の具体例】

「ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)の指摘」に盗用の具体例を既に示したので、その部分は再掲しない。

以下は別の人の指摘である。

―――――――以下はEric Topol (2023年3月7日)のツイッター―――

―――――――以下はShelby Grad (2023年3月7日)のツイッター―――

以下の図の出典:https://twitter.com/shelbygrad/status/1632789917419073536
、(保存版

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年6月4日現在、パブメド(PubMed)で、デイヴィッド・アガス(David Agus、デイヴィッド・アガス(David Agus、David B. Agus)の論文を「David B. Agus[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2001~2023年の23年間の69論文がヒットした。

2023年6月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年6月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでデイヴィッド・アガス(David Agus、David B. Agus)を「David B. Agus」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年6月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、デイヴィッド・アガス(David Agus、David B. Agus)の論文のコメントを「David B. Agus」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》エリートの有名人 

デイヴィッド・アガス(David Agus)は、学歴、職業(医師で大学教授、作家)が素晴らしく、幸せな家族(妻、1女・1男)があり、テレビ(CBS)ニュースの定期的なコメンテイターを務める有名人で、豪邸に住むリッチな米国のエリートである。

そのエリートの有名人が出版した4冊は代筆(ゴーストライター、ghost writing)だった。

エリートの有名人の大学教授が、裏でこんないい加減なことをしていた。

代筆者のクリステン・ローバーグ(Kristen Loberg)が盗用していたことより、代筆でのうのうと有名人になっているアガスに唖然とした。

こんなのあり?

倫理違反でしょう。

大学教授の資格なし。

テレビ出演もクビ!

《2》盗用発覚とメディア

今回は、ロサンゼルス・タイムズ紙のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill、写真出典)記者が盗用を見つけた。

盗用検出ソフトで著書『動物の秘密の本(The Book of Animal Secrets)』のPDFを解析して、盗用を見つけた。

パーティル記者は「そのプロセス全体にかかった時間はたったの15分でした」と言った。

本文で、サイモン・シュスター社(Simon and Schuster)・編集部の無能さにとても驚いたと書いたが、アガスが2012~2023年(47~58歳)の12年間に出版した(含・予定)4冊の著書に盗用があった。

どうして、いままで誰も、盗用に気がつかなかったのか、不思議である。

この4冊の被盗用者は多数いたと思われる。読者も多数いた。12年間も放置されていた。

それでも、新聞記者がネカトを指摘した。マー、発覚できてよかったという面はある。

今回のように、欧米では新聞記者がネカトを指摘するケースがしばしばある。

しかし、日本では、新聞記者がネカトを指摘するケースはマレである。

毎日新聞は時々スクープするが、全体的にみると、日本のメディア記者がネカトを調査し報道することはとても少ない。白楽が情報提供しても尻込みする。

報道の自由度が低いためなのか?

確かに、2023年の報道の自由度は世界68位と惨憺たるレベルである。

日本の報道の自由度はG7の中で最も評価が低い。(世界報道自由度ランキング – Wikipedia

ただ、「自由度」の低さが原因とは思いにくい。

政治家は「先進国と共通の価値観を共有している日本は」と唱えるが、研究者倫理では、日本は共通の価値観を共有していない。日本は、かなり異質である。かなり遅れていると言っていいのかもしれない。

つまり、日本は先進国と異なり、研究界を良くしようという文化意識がとても低い。日本のメディアの無能ぶりは、これが原因だと思う。

《3》盗用問題の専門家のコメント

デボラ・ヴィーバー=ヴルフ教授(Debora Weber-Wulff)は、「あなたの名前が著者として表紙に載っているなら、あなたはその中身に全責任を負います」とアガスを批判した。

ジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)は、アガス(または代筆者)の文章作法に根本的な問題があると指摘した。

アガス(または代筆者)の文章作法は、まず外部の文章をコピペし、その文章を編集と変更を繰り返して「オリジナル」な文章とし、適切な出典を示さずに自分の著書とするスタイルである。

ベイリーは、このスタイルで作成されたものは何であれ、元の情報源からの派生物であって、独自の作品ではないと指摘している。

盗用問題の2人の専門家はなかなか視点が鋭い。

デイヴィッド・アガス(David Agus)。DAVOS/SWITZERLAND, 25JAN13 – David B. Agus, Professor of Medicine and Engineering, USC Center for Applied Molecular Medicine, USA; Global Agenda Council on Personalized & Precision Medicine reflects during the session ‘Global Risks 2013: The Dangers of Hubris to Human Health’ at the Annual Meeting 2013 of the World Economic Forum in Davos, Switzerland, January 25, 2013.
Copyright by World Economic Forum
swiss-image.ch/Photo Michael WuertenbergBy World Economic Forum – Flickr: Global Risks 2013: The Dangers of Hubris to Human Health: David B. Agus, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24190697

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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:David Agus – Wikipedia
② 2023年3月6日のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者の「Los Angeles Times」記事:USC oncologist David Agus’ new book is rife with plagiarism – Los Angeles Times
③ 2023年3月7日のジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)記者の「Plagiarism Today」記事:Explained: the David Agus Plagiarism Scandal – Plagiarism Today
④ 2023年3月17日のコリーヌ・パーティル(Corinne Purtill)記者の「Los Angeles Times」記事:More David Agus books have instances of plagiarism – Los Angeles Times
⑤ 2023年3月20日のライアン・フォンセカ(Ryan Fonseca)記者の「Los Angeles Times」記事:How a Times reporter found a pattern of plagiarism in a USC doctor’s books that his publisher missed – Los Angeles Times
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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