7-177 ブルックス教授の研究不正摘発(ネカトハンティング)指南

2025年7月10日掲載 

白楽の意図:米国のロチェスター大学の生命科学系・教授のポール・ブルックス(Paul S. Brookes)は、10年以上前、匿名で多数の研究不正論文をブログで指摘したが、不正疑惑者から実名を特定され、裁判すると脅され、ブログを閉鎖した。しかし、その後も、研究不正摘発(ネカトハンティング)活動を続けた。

そのブルックスが、自分のつらい体験を土台に、ネカトハンティング方法を詳細に指南した「2025年3月のJournal of Law, Medicine & Ethics」論文を読んだ。この論文は、ネカトハンティングのバイブルである。長い論文なので部分的に紹介する。ネカトハンティングする人は原著も読むべし。

ブルックスは入っていないが、有名なネカトハンターたち10数人が執筆した27項目のハンティング方法を2025年6月に公開した。まとめたのは、米国のノースウェスタン大学(Northwestern University)・ポスドクのリース・リチャードソン(Reese Richardson)である。この27項目のダウンロード先を3章に加えた。

ネカトハンティング休止中の白楽が言うのもなんですけど、やはり、誰か、日本でネカトハンティング活動しませんか? 日本の学術界に必要な活動なのは確かなんです。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.ブルックスの「「2025年3月のJournal of Law, Medicine & Ethics」論文
3.誰でもできるネカトハンティングのツールキット
7.
白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【ブルックスの「「2025年3月のJournal of Law, Medicine & Ethics」論文】

★読んだ論文

●【論文内容】

本論文では、英語のままの方がわかりやすいと思える用語が多い。その場合は、英語のままにした。

1.背景

私(ブルックス)は、心臓発作の生化学を研究している現役の研究者です。研究は公平・公正に行なうべきだという信念から、研究不正の摘発に関心があります。

私(ブルックス)の今までのネカトハンター活動については、ここをお読みください。 → Crossing the Line: Pseudonyms and Snark in Post-Publication Peer Review | Gaming the MetricsMisconduct and Manipulation in Academic Research | Books Gateway | MIT Press

簡単にまとめると、2011 年、私(ブルックス)は助成金申請書に不正操作された画像を見つけた。その後、その研究者の論文に問題の画像を見つけた。

それで、研究公正局(ORI)に研究不正だと通報(告発)した。その結果、問題の個人は不正行為で有罪となった。

その頃、米国のMDアンダーソンがんセンターのバラット・アガワル(Bharat Aggarwal)の論文を含め、研究不正を指摘したブログがいくつかあった。
→ 2012年3月12日保存、ドイツのヨルグ・ツヴィルナー(Joerg Zwirner)のブログ:Abnormal Science Blog | a German blog on bad behaviour in science
→日本の11jigenのブログ:Blogger: ユーザー プロフィール: 11jigen

私(ブルックス)は アガワルの論文を詳しく調べ、75報の論文にわたり、140個以上の問題画像を特定し、研究公正局(ORI)に通報(告発)した。→ バラット・アガワル(Bharat Aggarwal)(米) | 白楽の研究者倫理

バラット・アガワル(Bharat Aggarwal)(米)

そして、2012年、私(ブルックス)は研究不正論文を指摘するブログ「www.science-fraud.org」を立ち上げた(以下はそのサイトの2012年9月5日の保存版

このブログは匿名で行なっていた。

研究不正疑惑を指摘する際、若干きつい用語を使うこともあり、疑惑者が反発した。

2013年、結局、疑惑者はブログ運営者である私の素性を探り出し、損害賠償で法的に訴えると脅迫してきた。それで、サイト「www.science-fraud.org」を閉鎖した。

この間、ブログで取り上げた274報の疑惑論文とブログで取り上げる予定だった220報の疑惑論文のその後を比較すると興味深い。

前者は後者の7倍も訂正または撤回されていた。→ 2014年4月3日論文:Internet publicity of data problems in the bioscience literature correlates with enhanced corrective action [PeerJ]

2021年時点でも、ブログでネカト疑惑を指摘した論文は、そうでない論文に比べ4倍も対応される可能性高かった。

つまり、ネカト疑惑を公に指摘することで、論文の撤回は4~7倍も増えていた。

とはいえ、私(ブルックス)がネカト疑惑を指摘したバラット・アガワル(Bharat Aggarwal)の75報の論文のうち、31報は現在も編集措置(撤回、訂正、懸念表明)を受けていない。この大学・研究所または出版社の怠慢は驚くべき事実で、注目に値する。

大学・研究所や出版社は、ネカト疑惑の通報(告発)を無視・放置しているのだ。

この無視・放置はたちが悪く、長年指摘されている問題なのだが、2025年現在、依然として改善されていない。

私は法的脅威を解決するために、多額の私費を負担した。というのは、私が所属していたロチェスター大学は、私のネカトハンティング活動を教員の職務外の活動とみなしたので大学の支援は受けられなかったからだ。

しかし、その後も、ネカトハンティング活動を続けた。

2013年以降、数千報の疑惑論文を見つけ、通報(告発)してきた。

その結果、数百報の論文は撤回・訂正され、かなりの数の研究者は研究界を去った。

このような経験を踏んだ私のネカトハンティング活動だが、その方法と関連する注意点を次章以下で皆さんに教えよう。

2.ネカト発見

★ハードウェアとソフトウェア

論文の画像を分析するには、パソコン(PC or Mac)と大型モニター(27インチ以上)は必須である。

大型モニターは古い LCD(液晶ディスプレイ)タイプが必須で、最新のOLED(有機EL、有機発光ダイオード)タイプはよくない。

ソフトウェアは、①Adobe  Acrobat、②Microsoft PowerPoint、③Adobe Photoshop、④NIH ImageJ はすべて必須である。

この種の作業は高い機密性が必要なため、ハードドライブは暗号化し、デバイスには強力なパスワードで保護する。このようなコンピュータ セキュリティは必須である。

雇用主(所属大学・研究所)が提供するソフトウェアやクラウドベースのソフトウェア(Office 365 や Adobe Creative Cloud など)は可能な限り使わない。

デバイス自体に古いスタンドアロン・アプリをインストールすることで、より強力に保護をする。というのは、多くの所属大学・研究所の上層部は学内の告発者を特定しようと調査する。この時、学内のコンピュータシステムを経由したメールの送受信の記録は保存されていて、検索すると見つけられてしまう。それらから逃れるための手段は必要である)。

多くのソフトウェア・ツールでログインIDとパスワードが求められるため、パスワード・マネージャー(LastPass など)も必須である。

白楽のお節介:白楽は「LastPass」を使っていない。日本語の無料版の1つを使っている:【無料】パスワード生成・管理のソフト一覧 – 窓の杜

個人情報を漏らさずにコミュニケーションを取る場合、匿名のメールアカウントを使う。

但し、Gmailはバックアップメール用にリアルなアカウントが必要なことと、他にもプライバシー保護上の懸念がある。

protonmail.com 」はわずかな年会費で真の匿名メールを提供している。また、「10minutemail.com 」は、1回限りのメッセージ送信に使える使い捨てアカウントを提供している。

白楽のお節介:
2025年1月18日の日本語説明記事:匿名に特化したメールアドレス取得方法|yorushion夜紫音official
2024年11月17日の日本語説明記事:サインアップと無料の一時メールサービスに偽のメールを使用するための包括的なガイド – temp mail – temp email

ブラウジングには、プラグインを備えた安全なブラウザが推奨される。

Torブラウザは最も安全だが、大学のコンピュータでは禁止されていることがよくある。 → 白楽のお節介:Tor ブラウザの日本語説明記事:Tor Project | ダウンロード

Torブラウザの代替手段で許容できるのは、Cookieなし、保存されたパスワードなし、履歴なしの個人ブラウジングモードのFirefoxで、次のプラグインが可能なものだ: AdBlocker Ultimate、CanvasBlocker、ClearURLs、EFF Privacy Badger、PubPeer。

オンライン・セキュリティの入門については、ココを参照。 → ① COACH: Crash Override’s Automated Cybersecurity Helper、② A Few Simple Steps to Vastly Increase Your Privacy Online

VPN (Virtual Private Network)を使用すると、位置情報や IP アドレスを隠すこともできる。 → Virtual private network – Wikipedia(日本語)

最後に、メールで添付ファイルを送信するときは、送信者を識別できるメタデータを添付ファイルから削除することをお勧めする。PCでは、右クリック > プロパティ > 詳細タブ > プロパティと個人情報の削除 で実行できる。

白楽のお節介:この節では、いろいろなハードとソフトの導入を述べているが、最初から全部完璧に導入する必要はない。特に、白楽のように、①無所属で②顕名でネカトハンティングするなら、匿名化する必要はない。ただ、反撃・攻撃・脅迫はされる(白楽は何度も経験した)ので、対策を立てておく。
なお、ネカトハンティングする気がなくても、この節に記載されている知識はオンライン・セキュリティ上重要な点が多く、参考になる。

★オリジナルファイルと画像の抽出

研究論文は無料閲覧できる場合もあるが、多くの場合、有料閲覧で、大学・研究所がその学術誌の購読料を負担している。それで、学術界の外の人にとって、論文閲覧が難しい場合が多い。

この有料閲覧の制限を回避するのに、ゲリラ的な手法である「Sci-Hub」や「RemovePaywall」といったツールを利用できる。しかし、特定の法域ではこれらの使用は違法である。私(ブルックス)は、方法を示したけど、推奨しているわけではない。使用は自己責任で。

分析対象となる論文を入手したら、論文中の画像を分析する上で不可欠なステップを示す。

まず、入手可能な最高品質の画像ファイルを入手することだ。

PDFはファイルサイズを小さくするために画像を縮小していることが多い。その解決法として、出版社のウェブページから高解像度画像が入手できる場合もあるので試す。

論文から画像を抽出してMicrosoft PowerPointに取り込む。

Adobe Acrobatソフトウェアでは、「編集」>「スナップショット」メニューコマンドを実行すると、画面に表示されている解像度で画像がクリップボードにコピーされる。そのため、高解像度画像を抽出するには、大型モニターを使用し、文書の表示サイズを拡大することが不可欠である。

Adobe PhotoshopやPowerPointなどのソフトで画像を保存する際、ファイルサイズが大きくなるが、TIFなどの高画質形式を使用を推奨する。JPG形式を使用する場合は、ソフトで許可されている最高解像度(通常は300dpiまたは600dpi)を使用する。PowerPointの場合は、レジストリを編集することで、保存する画像の解像度をデフォルトの72dpiよりも高く設定できる。

★拡大とカラーマスキング

2枚の画像が同一の元画像を共有しているかどうかを判断するには、画像の小さな領域を拡大し、ピクセルレベルで比較する。

2枚の画像を比較するために、Adobe Photoshop用の一連のドロップレット(自動化されたワークフロー)を研究公正局(ORI)のウェブサイトから入手し、その手順に従うのが簡単である。→ Droplets | ORI

特に、オーバーレイドロップレットは各画像にカラーマスクと透明度を適用し、ソフトウェア内で重ね合わせて単一ピクセルレベルでの位置合わせを確認できる。蛍光顕微鏡に付属する多くの専用ソフトウェアパッケージでも、各画像を赤またはシアンのカラーチャンネルに割り当て、オーバーレイ機能を使って共通ピクセルを黄色で視覚化することで、同様の効果を実現できる。

★明るさ/コントラストの調整

コントラストと明るさを調整する簡単な方法は、使用しているモニターの傾きを調整する方法だ。

これは、古いLCDタイプのモニターやノートパソコンの画面では効果が高いが、新世代のOLED画面では効果がない。この方法は、グレースケールのウェスタンブロット画像における接合部の検出に特に効果的である。

Photoshop または PowerPoint に画像をインポートした後、コントラストと明るさを調整することで、画像内の分離している要素間の継ぎ目やその他の不連続性を強調できる。

PowerPoint では、「図の書式設定」>「補正」タブで、スライダーを使ってコントラストまたは明るさを調整できまる(ヒント:スライダーをより細かく制御するには、表示されるサイドバーを広くする)。

通常、不連続性を強調するために、コントラストを 50~75% 増加させ、明るさを 30~60% 減少させる。

あるいは、単一の画像(JPG、TIF など)を直接処理する場合は、ファイルを Adobe Photoshop で開き、「イメージ」>「色調補正」>「明るさ/コントラスト」メニュー機能を使用して明るさ/コントラストを調整する。

Photoshopでは、カーブ機能(メニュー:イメージ > 調整 > カーブ)を使用して同様の効果を実現できる。この機能を使用すると、画像内のグレースケールの各入力レベル(x軸)に対して出力レベル(y軸)を定義できる。

例えば、暗いピクセルを強調し、明るいピクセルを鈍くすることができる。単位線(対角線)は画像を変更しない(つまり、出力画像は入力と同じになる)。

図1に例を示す。画像に複数のカラーチャンネルがある場合、特定の色相のピクセルを強調するために、カーブを色別に適用することもできり(例:青を増やし、赤を減らす)。

図1。画像のさまざまなコンポーネント (シャドウ、ミッドトーン、ハイライト) の明るさを調整する Adobe Photoshop の曲線機能の例。

★PowerPoint または Photoshopでの色の変更

PowerPoint では、明るさとコントラストの調整に加えて、グレースケール画像の色を変えて([画像の書式] > [修正] > [画像の色] タブ)、画像間の類似点や相違点を視覚化したり、エッジの特徴を強調したりすることができる。

Photoshopの関連機能として、グラデーションマップ(メニュー:画像 > 色調補正 > グラデーションマップ)の適用がある。この機能は、画像内の各シェードに、メニューから選択したスペクトルに応じて新しい色を適用する。研究公正局(ORI)ドロップレットのページには、ダウンロード可能なカスタマイズされたグラデーションスペクトルが多数掲載されていて、特定の種類の科学画像に役立つ。 → Droplets | ORI – The Office of Research Integrity

図2に例を示す。

図2。Adobe Photoshopでカラーグラデーションマップを適用した例。左がオリジナルのウェスタンブロット画像、中央が色を変更した画像。右側はグラデーションオプションを選択するメニュー。

★ヒストグラム分析

図3だけ示し、白楽の解説を省略

以下、話がだんだん特化してくるので、節のタイトルを示すが、白楽の解説は省略。

★JPGエラー分析(JPG Error Analysis)
★自動スクリーニング(Automated Screening
★密度測定(Densitometry)
★非画像データ:端末数字解析(Non-Image Data — Terminal Digit Analysis)
★非画像データ:実現可能な数値(Non-Image Data — Feasible Numbers)

3.文書化と通報

★一般的なワークフロー

論文中の疑惑画像を文書化して通報(告発)する場合、分析プロセスの各ステップのコピー(論文の元PDF、疑惑画像、不正操作の証拠を示す画像(適用したグラデーション マップなど)、PowerPoint ファイルまたはその他の注釈付きドキュメント、および適切な関係者とのやり取りの書面によるレポート)が重要である。

通常、PowerPoint または Adobe Illustrator を使用して注釈付き画像を作成し、問題箇所を矢印、色付きボックス、適切なテキストで示す。受信者が元画像を見つけやすいように、各画像に DOI、PMID、またはその他の論文識別子を記載する。

PowerPointファイルはサイズが大きく、複雑なメタデータが含まれている場合が多く、作成者を特定できる可能性がある。そのため、匿名性が必要な場合は、レポートファイルをPDFに変換し、メタデータを削除する。

★分類と定量

複数の論文や画像を扱う場合、データベース化して、画像操作の分類体系を作ると便利である。

この情報は、パターンの特定(例えば、特定の学術誌や著者において、特定の種類の画像問題の発生率が予想以上に高いように見えるかなど)と、他者とのコミュニケーション(例えば、研究結果を当該大学や他の画像分析者と共有するなど)の両方に役立つ。

表1に、問題画像のデータベースで私(ブルックス)が使っている分類体系の例を示した。画像データの種類、画像操作の種類、および結果の背景を網羅している。

分類体系は、操作の数と範囲をカタログ化することで、特定の画像操作の悪質さを定量化するという困難な作業にも役立つ。この表1は、私(ブルックス)が使っている分類表だが、各人は、これをたたき台に、各人の研究分野に合わせた分類表を作ればよい。

表1。私(ブルックス)が使用している分類法(生命科学論文における画像操作の典型的な例を網羅)

★因果関係の帰属

公開された論文の画像の疑惑を通報(告発)する時、原因と動機の特定に細心の注意を払うこと。

おかしな画像が偶発的(誠実な間違い)または許容可能の可能性がある場合、不正行為だと主張しないこと。

ただ、「間違い」であっても「間違い」が繰り返される場合は注意が必要である。

例えば、論文の1つの図に全く同じ顕微鏡画像が重複して使用されている場合、図の作成時にコピー&ペーストした際の「間違い」、あるいは元のデータセットのファイル名や記録の不備が原因だと思われる。

しかし、画像が左右反転、サイズ変更、色の変更などが施された状態で2つの論文にまたがって重複掲載されている場合、「誠実な間違い」の可能性はほぼない。意図的な不正操作の証拠である可能性が高い。

一般的に、重複画像間で加えられた操作回数が多いほど、操作が偶然に行なわれた可能性は低い。

私(ブルックス)の経験では、画像のインデックス回転(つまり、90°の倍数ではない角度での回転)は、意図的な操作を強く示唆している。

単一の論文内、または単著者による画像操作の数が多いほど、偶発的な「間違い」の可能性は低い。

ある著者が1つか2つの重複画像を使用した場合、許容可能かもしれないが、複数年の複数の論文、多くの異なる共著者の論文で、同じタイプの画像問題が一貫して見られる場合、意図的な不正操作の可能性が高い。

クログレイ行為(疑わしい研究慣行、QRP)の複数例が不正行為に相当するかどうかについては、本稿では議論しないが、クログレイ行為が不正行為への前兆のように思えたなら、クログレイ行為も調査すべきである。

個々の研究者や個々の研究室でクログレイ行為が繰り返された場合は、特に注意すべきである。

なお、こうした問題を通報(告発)する際には、 「研究不正だ」という断言するような通報(告発)をしないように。私(ブルックス)はそのような通報をして、大変ヒドイ攻撃を受けた。

ネカトハンティングで10年の経験を持つ私(ブルックス)は、控えめに述べる方が有益だとアドバイスします。

エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の言葉は、私(ブルックス)にとって人生の指針となっています。 「これらの画像は、偶然とは思えないほど類似しています。著者の方、ご説明いただけますか?(These images are more similar than would be expected by chance; can the authors explain?)」。

このような質問を投げかけられると、著者は驚くほど確実に、自らさらに深い穴を掘るようです。

★誰に通報(告発)するか?

論文に疑惑画像を見つけた時、通報先は5つある。(i) 著者に直接、(ii) 著者の所属機関、(iii) 論文を掲載した学術誌、(iv) 論文の資金提供機関、(v) オンラインウェブサイト、ブログ、またはソーシャルメディア。

それぞれ以下に簡単に説明する。「(v) オンラインウェブサイト、ブログ、またはソーシャルメディア」については次節で説明する。

(i) 著者に直接

多くの学術誌、特にNature系の学術誌は、画像操作の疑いがある場合、著者に直接伝えることを推奨している。

しかし、著者に直接伝えるのはリスクが伴う。

不正行為の疑いを著者に直接伝えると報復される恐れがあり、危険である。特に若手研究者には研究キャリア上の危険が生じる。

さらに、著者に直接伝えると、伝えられた著者はファイルなどの証拠の破棄・ねつ造・改ざんをする。また、仲間内に談合などの機会を与え、不正行為を隠蔽する。このことで、後々のネカト調査が困難になる。

そのため、著者に直接伝えるのを、私(ブルックス)は推奨しない。

(ii) 著者の所属機関

論文著者の所属機関(大学など)への通報(告発)は、安全な手段である。多くの場合、匿名で行なうことができる。私(ブルックス)は推奨する。

所属機関(大学など)の窓口担当者の典型例は、各大学に1人はいる研究公正官(RIO:Research Integrity Officer)である。

大学のウェブサイトによっては、誰が研究公正官(RIO)なのか見つけにくい場合がある。

その場合、研究公正官協会のウェブサイトhttps://www.ariohq.org/が役立つ。

研究公正官(RIO)は、連邦政府ガイドラインに準拠した不正行為の取り扱いについて、特別な訓練を受けている。イドラインには、機密保持や調査の期限などが規定されている。

しかし、多くの研究公正官(RIO)は大学の学部長または学術担当副学長が兼任している。これらの役職は、大学の財政の安定を含め、大学の利益を守る義務が伴う。

つまり、研究公正官(RIO)は二足のわらじを履いていて、同僚の不正行為を調査する際に利益相反が生じる。

特に、被告発者が多額の研究助成金を受領していて、大学に多額の資金をもたらしている場合、研究不正解明よりも大学の評判・収入を守る方を優先し、不正を隠蔽・捻じ曲げるる可能性がある。

(iii) 論文を掲載した学術誌

論文を掲載した学術誌への通報(告発)も重要である。私(ブルックス)は推奨する。

しかし、通報の結果は学術誌(出版社)によって大きく異なるので、あまり期待しない方が良い。

学術出版業界の団体である出版規範委員会(COPE)は、学術誌・編集者は不正行為の通報(告発)をどのように扱うべきか、数多くのガイドラインと手順を定めている。

しかし、このガイドラインは実質的な執行力がなく、しばしば無視される。 → COPE: Nothing more than a useless trade association | PSBLAB

私(ブルックス)が知る限りでは、出版規範委員会(COPE)は、ガイドラインに従わない学術誌(出版社)の会員資格を取り消したことが一度もない。

2004年、マイク・ロスナー(Mike Rossner)は、画像操作に関する事実上の標準(JCBガイドラインとして広く知られている)を起草した。 → What’s in a picture? The temptation of image manipulation | Journal of Cell Biology | Rockefeller University Press

2024年、そのマイク・ロスナーは、「不正画像対処の米国の20年」について論文を出版したが、その論文中に出版規範委員会(COPE)の役割について何も言及していないのが、出版規範委員会(COPE)の存在感のなさを物語っている。 → 7-161 不正画像対処の米国の20年 | 白楽の研究者倫理

7-161 不正画像対処の米国の20年

多くの学術誌は有料の不正画像検出ソフト・「Proofigr」などの疑わしいツールを使っているが、全く使っていない学術誌もある。

注目すべき事例として、オーストラリアの出版社IvySpringが発行する一連の学術誌がある。

IvySpring社の学術誌は、著者に標準的な論文掲載料(APC)に加え、出版後、論文の訂正を掲載する場合、著者に対してさらに50%の手数料を課している。 → Instructions for Authors

このやり方だと、学術誌・編集者は問題のある画像やデータを出版前に見つけ修正する意欲が損なわれるだろう。

なぜなら、出版後に修正することで利益が得られるからだ。

ところが、このような不当な金銭上の動機を喚起するシステムは、急速に成長している学術出版業界に蔓延している。

もう一つ注目すべきなのは学術誌「FASEB J」の方針だ。

学術誌「FASEB Journal」は、ネカト疑惑と通報(告発)する人は追跡可能な身元を示さなければならず、匿名の個人がネカト疑惑を通報(告発)しても、一切調査しない。

似たケースとして学術誌「J Clin Invest.」は、研究不正行為の告発を強く批判する論説を発表した。これは、告発者が、ネカト疑惑がある告発した論文の関連製薬会社の株式を空売りし、大儲けした事態が起こったからである。 → 2022年11月1日記事:Conflicting interests: when whistleblowers profit from allegations of scientific misconduct

私(ブルックス)は、告発の内容ではなく、告発者の身元や資格に焦点を当てるのは、不正行為への対処として、大きな欠陥だと思う。

(iv) 論文の資金提供機関

不正行為の疑いがある場合、研究資金提供機関に通報(告発)することも、問題に対処する確実な方法の1つである。

米国では通常、連邦政府の研究公正局(ORI)がNIHの資金提供を受けた研究を監督し、科学庁(NSF)の監察総監室(OIG)が科学庁(NSF)の資金提供を受けた研究を監督している。

しかし、多くの研究財団や民間機関が資金提供した研究は上記の管轄外である。

連邦レベルのネカト調査には時効がある。

資金提供を受けたプロジェクトの終了または研究の出版後6年の時効も適用されるので、それ以前に出版されたネカト疑惑論文の多くは、連邦レベルの調査の対象にならない。

また、研究公正局(ORI)は実際には事件を調査するのではなく、著者の所属機関が行なったネカト調査を監督し、正しい手順が踏まれていることを確認するだけだということにも留意すべきだ。

研究公正局(ORI)への通報の際、匿名希望なら、通報者が匿名希望と申請しなければならない点である。申請しない場合、告発内容は多くの場合、告発者の詳細とともに被告発者の所属機関に転送される。

私(ブルックス)は、かつて、このことを身をもって知らされた。

研究公正局(ORI)に初めて通報した時、疑惑論文の筆頭著者の上司から、私(ブルックス)の調査結果に感謝するメールが届いたのだ。

ビックリした。

もし、私(ブルックス)がもっと経験が浅く、被告発者が私(ブルックス)の研究分野の権力者だったら、私は非常に困難な状況になっていたかもしれない。

★疑惑画像のオンライン指摘

論文中の画像データに関する問題をオンラインで公開し、質問する方法は、この10 年間で進化を遂げ、今やデフォルトとなっている。

研究不正のあらゆる問題について語るブログやウェブサイトは多数があるが、今のところ最も人気のあるサイトはパブピア(PubPeer)だ。 → https://www.pubpeer.com.

2013 年に設立された PubPeerでは、デジタル識別子 (通常は DOI または PMID) を持つ公開済み論文に対して、誰でもオンラインで質問できる。

投稿は、①自分の名前と検証可能な電子メール アドレスを使用する、②匿名アカウントを使用する (この場合はラテン語の種の学名がユーザー名としてランダムに割り当てられる)、③完全に匿名で投稿する (この場合は、公開前にモデレーターの承認が必要) という 3 つのオプションのいずれかで行なう。

PubPeer は毎週数百の論文と数千のコメントを処理している。

自分の論文がオンラインで議論されていることを論文の著者に電子メールで知らせるオプションもある。

PubPeerの斬新とサービスの1つに学術誌ダッシュボード(journal dashboard)がある。

学術誌(出版社)は API アクセス料金を払ってダッシュボードにアクセスし、サイト上で自社が出版した論文がフラグ付けされた際に通知を受け取ることができる。

同様に、機関ダッシュボード(institutional dashboards)は、その機関に所属する研究者の論文がフラグ付けされた際に通知を受け取ることができる。大学・研究所の研究公正官などは、自分の大学・研究所に所属する研究者の論文に不正疑惑のコメント付いたのを網羅的に知ることができる。

さらに、Firefox/Chrome/Safari 用の PubPeer ブラウザ・プラグインを利用する誰でも、ウェブサイト上の論文を自動的に識別し、PubPeer上でその論文が議論されているというフラグを自動的に付けてもらうこともできる。

このツールは科学文献の公正に関心のある人にとって不可欠であり、すべての大学のウェブブラウザに自動的にインストールされるべきだ。

同様に、Zotero文献管理プラットフォーム(日本語解説:文献管理ツール「zotero」の便利な使い方を詳しく解説)を使用しているユーザーは、アプリ用の PubPeer 拡張機能を使用して、論文の参考文献リストを作成する際に問題のある論文に自動的にフラグ付けすることができる。

ソーシャルメディアは、上記のウェブサイトのユーザーグループ以外にも、画像疑惑を発信する上で役立つ。

X(旧Twitter)にはたくさんの研究公正・研究不正に関するコミュニティがあるが、イーロン・マスク(Elon Musk)が同サイトを買収し、かつ、同氏の政治的言動を嫌い、多くの人が代替の発信場所を求めた。

研究公正・研究不正コミュニティの著名なプレイヤーの多くがX(旧Twitter)を嫌い、Blueskyプラットフォームに移行し、研究公正・研究不正に関する重要な意見やニュースを投稿している。研究公正に特化したアカウント向けのBluesky「スターターパック」も利用できる。 → スターターパック — Bluesky

論文の撤回に関するニュースに特化したウェブサイト「撤回監視(Retraction Watch)」は、研究不正をめぐる多くの問題を幅広く取り上げている。研究公正・研究不正に関するあらゆる側面(内部告発者、訴訟の被告側弁護士、学術誌編集者など)からの論説記事が頻繁に掲載され、この分野の論説に不可欠な多様性をもたらしている。

★匿名か顕名か?

不正疑惑を通報(告発)する時、匿名で通報するか、顕名で通報するか?

顕名で通報するのは、権力構造で影響を受ける弱い立場の研究者、特に院生・ポスドクなどの若手研究者にとって難しい。

匿名でする大きな理由の1つは、不正疑惑者からしばしば厳しい反発・報復を受ける可能性があるからだ。

私(ブルックス)が不正疑惑を指摘した「2013年のPLOS Biology」論文では、「愚か者(stupid)」「あまり賢くない(not very bright)」と侮辱的に呼ばれ、「栄養補助食品業界で働いているに違いない(working for the dietary supplements industry)」と非難されるなど、激しい個人攻撃の嵐に発展した。 → PubPeer

このような攻撃に耐えるには、強い意志が必要だ。

研究不正疑惑を何度も指摘した人々の多くは、殺害するなどの脅迫、個人的暴力、その他オンラインでの言語道断で不適切な攻撃を受けてきている 。 →  2024年4月30日記事:The academic sleuth facing death threats and ingratitude

研究不正疑惑を指摘した人への悪質な攻撃は、指摘した人の信用を失墜させようとする意図で行なわれることが多い。

このような場合、真の問題は、疑惑論文の著者の地位・名声や告発者の地位・名声はどうでもよく、論文データが示すことだけだということを、忘れてはならない。

従って、万が一、小学生がノーベル賞受賞者の論文データに問題点を指摘した場合でも、議論はデータそのものについてであって、両者の相対的な地位・名声は無関係である。

疑惑論文の著者が「キミ、ワシが誰だか知っておるのか?(Do you know who I am?)」と述べているのをオンライン上の議論で頻繁に見るが、こうした言葉を使う人はもっと謙虚になるべきだ。

白楽のお節介。日本には「発信者情報開示命令」で誹謗中傷者を特定し示談や謝罪させることが可能である。経費は数千円程度。 → 2025年5月28日記事:SNSで誹謗中傷を受けた医師が投稿者20人超を特定。「発信者情報開示命令」の流れを分かりやすく紹介

前節で指摘したが、匿名の通報(告発)には対応しないという時代遅れの方針をとっている学術誌(出版社)がいくつかあるが、この方針はおかしい、変更すべきだ。

メッセージはその内容が重要なのであって、通報者の身元の重要性は二の次だ。

前々節で、学術誌「J Clin Invest.」は、金銭上の利益相反を理由に研究不正行為の告発者を強く批判する論説を発表した。 →2022年11月1日記事:Conflicting interests: when whistleblowers profit from allegations of scientific misconduct

しかし、このケースでは、研究不正疑惑が指摘された科学者・ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)は、その後、連邦詐欺罪で起訴された。 → 2024年6月28日記事:U.S. levels fraud indictment at CUNY scientist who helped Alzheimer’s drug developer | Science | AAAS

ホァウヤン・ワン(Hoau-Yan Wang)、リンゼイ・バーンズ(Lindsay Burns)、キャッサバ・サイエンシズ社(Cassava Sciences, Inc.)(米)

この事実は、研究疑惑を通報(告発)した人の正当性を示している。

研究不正で富を築いた人の数は、研究不正を通報(告発)することで何らかの収入を得ている人の数をはるかに上回っている。

不正行為を通報(告発)した人の動機が問われるは、通報(告発)内容が証明されたかどうかが明らかになった後だろう。

★法的影響

不正疑惑者が弁護士を雇って、損害賠償などで通報(告発)者を法的に訴えるという最近の傾向を踏まえると、いくつかの重要な点を明確にしておく必要がある。

第一に、データは決して嘘をつかない。
第二に、真の研究者に弁護士は必要ない。

私(ブルックス)自身、不正疑惑の通報(告発)をきっかけに訴訟を起こされた経験から、ネカトハンティング活動する人を守るために役立つ重要なポイントをいくつか挙げる。

その1、弁護士を雇う

不正行為を通報(告発)すると、疑惑者が告発者を法的に訴えるのは、不快な事実である。

頼れる地元の弁護士がいれば、軽率な訴訟に反論することができ、非常に貴重な助力になる。少額の着手金を支払う価値は十分にある。

その2、関連する法律を習熟する

不正行為の通報(告発)に関連する法律は、主に名誉毀損(中傷、名誉毀損など)に関する法律である。この法律は管轄区域によって大きく異なる。それで、名誉毀損に関する州法または国法をよく理解しておくこと。[白楽注:日本では日本の法律のその箇所をよく理解する]

その3、脅しと実行

[白楽注:以下は(も?)米国の話]

訴訟を起こすと脅すことと、実際に裁判所に訴訟を起こすことの間には決定的な違いがある。

前者の経費は約100 ドル(約1万円)だが、後者は10万ドル(約1,000万円)から始まる。

実際に訴訟を起こす研究者はほとんどいないが、不正行為の通報(告発)者を脅して屈服させようとメールする研究者、社交メディア(Xなど)に書き込む研究者はかなり多い。

不正行為の通報(告発)者に対する訴訟は、通常、スラップ訴訟(SLAPP suits: Strategic lawsuit against public participation) と呼ばれる。

多くの司法管轄区には強力な反スラップ法があり、スラップ訴状を受け取った人は、「私が通報(告発)した内容が真実でないなら、それを証明してください」と要求することができる。 → Public Participation Project

反スラップ判決に応じるには、研究者は証拠開示手続き(実験ノート、元データ、電子メール、ハードドライブ) を受け入れる必要があるが、この時点で多くのスラップ訴訟は取り下げられ、消滅する。

近年、法曹界が研究不正事件に介入するようになった結果、いわゆる「ストライサンド効果(Streisand effect)」と呼ばれる効果もある。これは、オンライン上で注目されたことを訴訟で抑えようとした結果、より多くの注目を引き起こしてしまう効果のことだ。
ストライサンド効果 – Wikipedia

顕著な例として、ウェイン州立大学(Wayne State University)の研究者・フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)のネカト事件を挙げよう。 → フォジュルル・サルカール(Fazlul Sarkar)(米) | 白楽の研究者倫理

サルカールは、自分の論文に不正疑惑があると通報(告発)した人を訴えようとした。 → Cancer researcher who once tried to sue critics is up to 40 retracted papers – Retraction Watch

その結果、このネカト事件が脚光を浴び、サルカールのミシシッピ大学への栄転が失敗し、挙句、米国から国外へ移住することになった。

不正疑惑者が論文撤回した学術誌を法的に訴えると脅迫する事例もある。

学術規範に関することを弁護士に任せるのは残念だが、これは、研究成果を誠実に議論しない人のすることだ。

名誉毀損訴訟に対する究極の防御策は事実の追求である。

私(ブルックス)の経験では、「私が述べたことのどこが事実ではないのかを示してください」と要求しただけで、訴訟をちらつかせていた研究者の多くが沈黙した。

[白楽注:日本では、記載が事実であっても、名誉棄損罪になる。ネカト通報の場合、公益性が重要である。以下参照]

人の社会的評価を低下させるような事実が公然と摘示されたのであれば、それが真実かどうかに関係なく、名誉毀損にあたることになるのです。
(出典:名誉毀損とは?具体例や訴える条件をわかりやすく解説 | 刑事事件の相談はデイライト法律事務所

以下の3つの条件を満たしている場合は、たとえ事実の摘示があっても名誉毀損が成立しません。

    1. 挙げた事実に公共性がある
    2. 公益目的での行為である
    3. 情報の内容が真実であるか真実と信じるに足りる相当な理由がある

(出典:事実の内容で名誉毀損が認められる理由とは?成立しない3つの条件|ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)

★学術誌と大学はどう対応すべきか?

この節は、学術誌・編集委員や大学の管理者にとって重要な事項が記載されている。

記事が長くなっているし、白楽ブログの読者向きではないと考えて、白楽の解説を省略する。しかし、学術誌・編集委員や大学の管理者は原著論文のこの節をシッカリ読むことをお勧めする。

4.おわりに

研究不正疑惑の通報(告発)を公に行なう時代が、既に始まっている。

このスタイルは、2010年代初頭に少数の匿名ブロガーから始まったが、2025年現在、研究不正が明るみに出る主な経路がブログと社交メディアという時代へと確実に移行した。

こうした活動を封じ込めようとする初期の試みは、法的脅迫も含め、失敗に終わった。

AIの登場で、不正疑惑のある画像を見つけるスピードは飛躍的に向上したが、①事実の検証、②通報(告発)、③学術誌・編集側の実際の対応(撤回、訂正など)は、依然として大きなボトルネックになっている。

学術文献の信頼性を確保するには、各段階への多大な投資が不可欠である。

●3.誰でもできるネカトハンティング術キット

ポール・ブルックス(Paul S. Brookes)は入っていないが、有名なネカトハンターたち10数人が協力し、ネカトハンティング方法を他の研究者に教えるためのガイドブックを作成した。 →OSF | Collection of Open Science Integrity Guides Wiki

まとめたのは、2024年に博士号を取得した米国のノースウェスタン大学(Northwestern University)・ポスドクのリース・リチャードソン(Reese Richardson、写真出典)である。

2025年6月現在、27個のネカトハンティング術を公開している(最終更新日は2025年6月4日)。

最初にダウンロード先を示す。

  • 27個のハンティング術すべてをまとめたハンティング術のPDF(155ページ)のダウンロード。 → ココ
  • 27個のハンティング術ごとに分かれたPDFのダウンロード。 → 27個まとめてココ

以下は各ジャンルごとに分けたハンティング術の名称とPDFのダウンロード先。

1.基礎編

2.一般的ガイド(英語のまま示す)

3.生物学と医学(英語のまま示す)

4.材料科学と工学(英語のまま示す)

5.数学、統計学、コンピュータサイエンス(英語のまま示す)

●7.【白楽の感想】

《1》バイブル 

この論文は、ネカトハンティングのバイブルである。

長い論文なので部分的に紹介したが、ネカトハンティングする人は原著を読むことをおススメする。

《2》ネカトハンティング活動 

白楽は、ネカトハンティング活動を2024年12月から半年続け、2025年5月に休止した。その後始末は続行中である。 → 白楽の卓見・浅見24 【日本の研究不正疑惑を10件告発・2件深堀して思う】 | 白楽の研究者倫理

本論の著者・ポール・ブルックス(Paul S. Brookes)が次のように書いている。

ブログでネカト疑惑を指摘した論文はそうでない論文に比べ4倍も対応される可能性高く、ネカト疑惑が公に指摘されることで、訂正・撤回措置が強化される可能性が高い。

白楽は、①外国のネカト事件の解説、②外国語のネカト論文の解説、をしながら、③日本のネカトハンティング活動をしたが、時間・体力・能力の限界だった。

現在、①も②も全体の数%~10数%しかできていない。今後もできないだろう。

それでも、ブルックスが言うような効果があるなら、ネカトハンティング活動を再開した方が日本のためになるのかもしれない、と強く思う。

ただ、再開するには、何か工夫をしないと、白楽の身が持たない。

休止中の白楽が言うのもなんですけど、やはり、誰か、日本でネカトハンティング活動しませんかねえ。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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