2017年4月6日掲載。
ワンポイント:盗博サイトのヴロニプラーク・ウィキの57番目。1991年(35歳)にギーセン大学で法学の博士号を取得し、政治家になった。22年後の2013年10月(57歳)、ドイツ連邦議会議員の時に盗博がバレたが、ギーセン大学の「研究善行基準委員会」がシロと結論し、ギーセン大学は博士号をはく奪しなかった。その2か月後の2013年12月17日(57歳)、ドイツの外務大臣に就任した。そして、ナント、本日の18日前の2017年3月19日(61歳)、ドイツの大統領に就任した。ドイツの正義はどうなっているんでしょう?
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.盗用解析
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier、写真出典)は、1991年(35歳)にギーセン大学(Justus-Liebig-Universität Gießen、英語:University of Giessen)で法学の博士号を取得した。その後、政治家になった。
2013年9月29日(57歳)、博士号を取得22年後、盗用ハンターでドルトムント工科大学(Fachhochschule Dortmund)のウベ・カムネンツ教授(Uwe Kamnenz)が、シュタインマイアーの博士論文の60ページに盗用があると指摘した。
2013年10月11日(57歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は、シュタインマイアーの盗博情報を発表した。57番目の盗博事件である。
→ 1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
2013年11月5日(57歳)、ところが、ギーセン大学のオンブズマン組織「研究善行基準委員会」(Committee for Safeguarding Academic Practices)が調査し、シュタインマイアーはシロと結論した。
それで、シュタインマイアーは盗博したのに博士号ははく奪されず、盗博発覚2か月後の2013年12月17日(57歳)にドイツの外務大臣に就任した。
そして、本日の18日前(2017年3月19日)、ドイツの大統領に就任した。
ドイツの倫理観はどうなっているんでしょう?
ギーセン大学(Justus-Liebig-Universität Gießen、英語:University of Giessen)。写真出典。By Ralf Lotys (Sicherlich) – Own work, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=254143
- 不正:盗博(盗用博士論文)
- 国:ドイツ
- 成長国:ドイツ
- 研究博士号(PhD)取得年月日:1991年(35歳)
- 研究博士号(PhD)取得大学:ギーセン大学(Justus-Liebig-Universität Gießen、英語:University of Giessen)
- 分野:法学
- 博士論文タイトル:Bürger ohne Obdach. Zwischen Pflicht zur Unterkunft und Recht auf Wohnraum
(日本語訳):避難所のない市民(ホームレス)。宿泊施設・住宅に対する権利と義務 - 博士論文審査教授: Prof. Dr. Brun-Otto Bryde, Prof. Dr. Helmut Ridder.
- 公開: Bielefeld, 1992. → Nachweis Deutsche Nationalbibliothek → ISBN 978-3-8391-6672-7
5. November 2013: Universität Gießen stellt das Verfahren ein – Weder Täuschungsabsicht noch wissenschaftliches Fehlverhalten festgestellt, lediglich “Formulierungsübereinstimmungen mit anderen Veröffentlichungen in einem bestimmten quantitativen Umfang, verschiedene Verstöße gegen Zitierregeln sowie einzelne Stellen ohne Quellenangabe, bei denen ein Versehen nicht ausgeschlossen werden kann” → Pressemitteilung der Universität Gießen - 盗博発覚年月日:2013年10月11日(57歳)
- 盗用ページ率:24.3%
- 盗用文字率:約9%
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪なし
- 男女:男性
- 生年月日:1956年1月5日
- 現在の年齢:68 歳
- 発覚時地位:ドイツ連邦議会議員。元・ドイツ副首相 、元・ドイツ外務大臣
- ステップ1(発覚):第一次追及者はドルトムント工科大学のウベ・カムネンツ教授(Uwe Kamnenz)
- ステップ2(メディア):「New York Times」、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ギーセン大学のオンブズマン組織「研究善行基準委員会」(Committee for Safeguarding Academic Practices)が調査
- 結末:博士号はく奪なし。解雇なし
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1956年1月5日
- 1975年(19歳):ギーセン大学、入学
1982年(26歳):司法修習生 - 1986年(30歳):国家司法試験合格
19xx 年(xx歳): ギーセン大学で政治学(公法)の助手 1991年(35歳):ギーセン大学で研究博士号(PhD)取得 1991年(35歳):ニーダーザクセン州首相府に勤務 1999年7月31日 – 2005年11月22日(43 – 49歳):第1次シュレーダー内閣・第2次シュレーダー内閣・首相府長官 2005年11月22日 – 2009年10月28日(49 – 53歳):第1次メルケル内閣 ・外務大臣 - 2013年9月(57歳):22年前の盗博が発覚
- 2013年11月(57歳):ギーセン大学のオンブズマン組織「研究善行基準委員会」が、盗博はシロ、博士号はく奪なしとした
- 2013年12月17日 – 2017年1月27日(57 – 61歳):第3次メルケル内閣 ・外務大臣
2017年3月19日(61歳):ドイツの大統領に就任。任期5年間
●3.【動画】
【動画1】
事件ニュース。フランク=ヴァルター・シュタインマイアーの盗博を伝えている。第一次追及者のウベ・カムネンツ教授(Uwe Kamnenz)も登場する。
「SKB HD | PLAGIATSVORWURFE GEGEN STEINMEIER- YouTube」(ドイツ語)2分23秒。
SKB | TV – NEWS – BRANDENBURG が 2013/10/03 に公開
●4.【日本語の解説】
不思議なことに、シュタインマイアーの盗博を伝える日本語記事はない。政治の記事ばかりである。
★2017年2月12日:日本経済新聞「ドイツ新大統領にシュタインマイヤー氏選出 」
【ベルリン=共同】ドイツ連邦大会議が12日、首都ベルリンで開かれ、メルケル首相の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と中道左派、社会民主党(SPD)の連立与党統一候補、シュタインマイヤー前外相(61)を新大統領に選出した。ガウク大統領(77)の後任。
シュタインマイヤー氏はSPD出身で、2度にわたって計約7年間、外相を務め、ウクライナ危機の仲介役としても知られる。当初はSPDの候補に内定していたが、CDU・CSUの候補者選びが難航し、統一候補となった。
大統領はドイツの国家元首で任期は5年。政治的実権は首相にあるが、大統領は演説を通して目指すべきドイツの姿を示すなど国民の精神的支柱として影響力がある。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
1992年(36歳)、フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)は、ギーセン大学で法学の博士号を取得し、政治家になった。
2013年9月29日、盗用ハンターでドルトムント工科大学(Fachhochschule Dortmund)のウベ・カムネンツ教授(Uwe Kamnenz、写真出典)が、シュタインマイアーの博士論文の60ページに盗用があると指摘した。
→ 2013年9月29日の雑誌「Focus」の記事:„Umfangreiche Indizien“ in Doktorarbeit: Plagiatsvorwürfe gegen SPD-Fraktionschef – FOCUS Online
この時、シュタインマイアーは57歳で、22年前の盗用を否定した。身分は、ドイツ連邦議会議員だが、すでにドイツ副首相 とドイツ外務大臣を経験した大物政治家だった。
→ Senior Social Democrat Steinmeier facing plagiarism allegations | News | DW.COM | 29.09.2013
2013年10月11日(57歳)、フランク=ヴァルター・シュタインマイアーの博士論文の盗用を、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が発表した。盗用ページ率は24.3%である。
2013年10月28日(57歳)、これらの指摘を受け、ギーセン大学のオンブズマン組織「研究善行基準委員会」(Committee for Safeguarding Academic Practices) は、調査を始めた。
→ 2013年10月28日のギーセン大学の記事:Universität Gießen im Zeitplan bei der Prüfung der Dissertation von Dr. Frank-Walter Steinmeier — Justus-Liebig-Universität Gießen
2013年11月5日(57歳)、「研究善行基準委員会」は、調査の結果、シュタインマイアーには「引用に関して技術的に弱い面があったが(”technical weaknesses” when it came to citations)、意図的な不正の証拠はない(no evidence of “fraudulent intent or academic misconduct” )」、つまり、シロ、と発表した。「ギーセン大学は博士号をはく奪すべきではない」とも付け加えた。
→ German university rejects plagiarism allegations against Steinmeier | News | DW.COM | 05.11.2013、(保存版)
それで、ギーセン大学はシュタインマイアーの博士号をはく奪しなかった。
●6.【盗用解析:博士論文】
フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)の博士論文のタイトルは 「Bürger ohne Obdach. Zwischen Pflicht zur Unterkunft und Recht auf Wohnraum
(日本語訳):避難所のない市民(ホームレス)。宿泊施設・住宅に対する権利と義務」である。
博士論文の盗用分析図は以下の5色のバーコードである。博士論文の本文は395ページ、盗用ページ率は24.3%で、盗用文字率は約9%と算定されている。
なお、元の盗用分析図では、バーコードがページ毎の盗用分析にリンクしている。→ http://de.vroniplag.wikia.com/wiki/Fws
★イラスト表示
以下はページ毎に色分けしたイラスト表示である。
盗用の色分けは、灰色= 逐語盗用(コピペ、文献提示なし)、赤色 = 加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)、黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)、 青色 = 翻訳盗用、である。
ページ換算の盗用ページ率は24.3%で、文字換算の盗用文字率は約9%と少ないので、イラスト表示では黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)が大半で、赤色 = 加工盗用(ロゲッティング、文献提示なし)が少しである。
★各ページの盗用分析
フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)の博士論文の各ページ毎に盗用分析がされている。盗用があるページは青色で、盗用がないページは赤色である。青色をクリックすると、各ページが開く。
【201ページ目】
1例として、201ページ目(つまり、201)をクリックすると、盗用比較図が出てくる。以下はその1部分を示した。201ページ目はイラストで黄色 =流用部分が曖昧な盗用(文献提示あり)である。
左側がフランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)の博士論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である。
これは、明白な盗用ですね。
●7.【白楽の感想】
《1》わからないこと多し
フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)の盗用率は低いが、ネカト学者の白楽の判断では、盗博である。
いままで、ドイツの盗博を何件も分析してきた。しかし、どうして盗博したのか、どこに原因があるのか、どうすれば今後の盗博を防げるのか、ドイツ人が分析している文章が見当たらない。ただ、英語の文章はなくても、ドイツ語ではあるのかもしれない。
《2》意図的な不正?
「研究善行基準委員会」の結論はおかしい。
「引用に関して技術的に弱い面があったが(”technical weaknesses” when it came to citations)、意図的な不正の証拠はない(no evidence of “fraudulent intent or academic misconduct” )」ので、シロとした。
この理由が通用するなら、大多数の盗用はシロである。
「引用に関して技術的に弱い」、つまり、盗用規範の知識・スキルがない博士論文でも合格とし、博士号を授与してしまうのはおかしい。
「引用に関して技術的に弱い」なら、博士論文でも学術論文でも基準以下の不良品で、不合格や不採択で、多くの場合、不正行為(盗用)と判定される。
また、「意図的な不正の証拠はない」のは理由になりません。
ネカトでクロと判定された事件の大半は「意図的な不正の証拠」はありません。本人が否定していれば、「意図的な不正の証拠」を示すことはほぼ不可能だからです。
意図的であろうがなかろうが、基準・規範に違反したら不正なんです。
《3》ドイツの精神がゆがむ
シュタインマイアーは、本日の18日前の2017年3月19日(61歳)、ドイツの大統領に就任した。
ドイツにおける大統領の機能は、ドイツ国民の精神的支柱だとある。
「ドイツ国民の精神的支柱」に盗博者を選ぶとは、ドイツはどうなっているんだろう? ドイツの精神はゆがまないのだろうか? もうゆがんでますって?
写真出典不明
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●8.【主要情報源】
① ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のフランク=ヴァルター・シュタインマイアー(Frank-Walter Steinmeier)サイト:Fws | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
② ウィキペディア日本語版:フランク=ヴァルター・シュタインマイアー – Wikipedia
③ 2013年9月30日のメリッサ・エディセプト(MELISSA EDDYSEPT)記者の「New York Times」記事:German Politician Faces Plagiarism Accusations – The New York Times、(保存版)
④ 2013年11月5日の「DW.COM 」記事:German university rejects plagiarism allegations against Steinmeier | News | DW.COM | 05.11.2013、(保存版)
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