2020年2月18日掲載
ワンポイント:カリヤニ大学(University of Kalyani)・準教授が、「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文で図を自己盗用し、2015年(43歳?)に論文が撤回された。カリヤニ大学は盗用と結論し、5年間の昇給停止処分を科した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ケカ・サルカール(Keka Sarkar、ORCID iD:?、写真出典)は、インドのカリヤニ大学(University of Kalyani)・準教授で、医師ではない。専門は微生物学である。
「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文の図が自己盗用だと、学術誌「Biotechnol Lett.」に通報があった。
2015年7月(43歳?)、学術誌「Biotechnol Lett.」は上記論文を撤回した。撤回告知では、サルカールを意図的に自己盗用するネカト常習者だとしている。
カリヤニ大学は調査委員会を設置し、調査の結果、サルカールの盗用を認定し、5年間の昇給停止処分を科した。
カリヤニ大学・微生物学部(Department of MicrobiologyはDepartment of Molecular Biology & Biotechnologyと同じ建物と思う。University of Kalyani)。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:xx大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1999年にポスドクを始めた時を27歳とした
- 現在の年齢:52 歳?
- 分野:微生物学
- 最初の不正論文発表:2014年(42歳?)
- 不正論文発表:2014年(42歳?)
- 発覚年:2015年(43歳?)
- 発覚時地位:カリヤニ大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者の詳細は不明。学術誌「Biotechnol Lett.」へ公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②カリヤニ大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:調査報告書のウェブ公表なし(含・調査時点で削除されている)(△)
- 不正:自己盗用
- 不正論文数:2報撤回
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分: 5年間の昇給停止処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:KS.pdf
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1999年にポスドクを始めた時を27歳とした
- 19xx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- 1999年(27歳?)?:xx大学で研究博士号(PhD)を取得
- 1999-2002年(27-30歳?):ビスバ・バラティ大学・動物学科(Department of Zoology, Visva Bharati University)・ポスドク
- 2007年(35歳?):カリヤニ大学・微生物学部(Department of Microbiology, University of Kalyani)・助教授
- 2012年9月(40歳?):同・準教授
- 2014年(42歳?):後で撤回される「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文を発表
- 2015年(43歳?):上記論文が撤回
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚の経緯と反応
2015年7月(43歳?)、学術誌「Biotechnol Lett.」は、カリヤニ大学・微生物学部(Department of Microbiology, University of Kalyani)・準教授のケカ・サルカール(Keka Sarkar)の「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文を撤回した。
→ 撤回公告:RETRACTED ARTICLE: Surface-functionalized gold nanoparticles mediate bacterial transformation: a nanobiotechnological approach | SpringerLink
「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文の書誌情報は以下の通り。
- Surface-functionalized gold nanoparticles mediate bacterial transformation: a nanobiotechnological approach.
Chatterjee S, Sarkar K.
Biotechnol Lett. 2014 Feb;36(2):265-71. doi: 10.1007/s10529-013-1360-x. Epub 2013 Oct 8. Retraction in: Biotechnol Lett. 2015 Jul;37(7):1527-8.
学術誌「Biotechnol Lett.」の編集長でユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London, UCL)・教授のコリン・ラトレッジ(Colin Ratledge、写真出典)は「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えている。
ケカ・サルカール(Keka Sarkar)の研究をよく知る研究者が、彼女の論文、特に「Biotechnol Lett.」に発表した論文に問題があると連絡してきました。 彼らは、論文の図が重複使用されているという証拠を送ってきました。サルカールは別の論文の図をこの論文の図に流用していたのです。
第一著者で同大学・研究員のサプターシ・チャタジー(Saptarshi Chatterjee、写真出典)は、「撤回監視(Retraction Watch)」に問われ、以下のように「意図的な流用ではなく、間違えて使った」と弁明している。
この論文のアイデアではオリジナルです。 しかし、意図的ではないが、1つの図を間違えて使ってしまいました。また、他の論文を引用すべきだったところ、その引用を記入しそこないました。
論文というのは査読時以外、著者に質問すべきではないと、私は思います。意図しない間違いをトヤカク言うべきではありません。盗用ではなく、自分の論文のデータを使用しただけですし、単に引用し損ねただけです。
★カリヤニ大学からの処分
カリヤニ大学は調査委員会を設置し、調査の結果、ケカ・サルカール(Keka Sarkar)が盗用したと結論した。
学長は、サルカール博士の2回分のボーナス(?)の支給を停止し、5年間の昇給停止処分を行なった。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文
「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文の書誌情報を再度、以下に示す。2015年7月に撤回された。
- Surface-functionalized gold nanoparticles mediate bacterial transformation: a nanobiotechnological approach.
Chatterjee S, Sarkar K.
Biotechnol Lett. 2014 Feb;36(2):265-71. doi: 10.1007/s10529-013-1360-x. Epub 2013 Oct 8. Retraction in: Biotechnol Lett. 2015 Jul;37(7):1527-8.
撤回告知によると数個の図を自己盗用していた。なお、論文の閲覧は有料なので、自己盗用した図を、白楽は具体的に示せない。
→ 2015年7月の撤回告知:Retraction Note to: Surface-functionalized gold nanoparticles mediate bacterial transformation: a nanobiotechnological approach | SpringerLink
図2Cが「2011年のJ Nanobiotechnology」(書誌情報は以下)の図3と、図7が同論文の図7と同じだった。つまり、自己盗用である。
- Effect of iron oxide and gold nanoparticles on bacterial growth leading towards biological application.
Chatterjee S, Bandyopadhyay A, Sarkar K.
J Nanobiotechnology. 2011 Aug 23;9:34. doi: 10.1186/1477-3155-9-34.
「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文の図2A、図2C、図4も、サルカールが著者になっている別の論文の図と同じだった。
撤回告知で、学術誌「Biotechnol Lett.」の編集部は、サルカールが他の論文のデータを重複使用し、他の論文のデータと数値を盗用しているので、サルカールは意図的に自己盗用するネカト常習者だという認識に達した、と述べている。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年2月17日現在、パブメド(PubMed)で、ケカ・サルカール(Keka Sarkar)の論文を「Keka Sarkar [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2019年の9年間の13論文がヒットした。
「Sarkar K[Author]」で検索すると、1929~2020年の90年間の397論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
2020年2月17日現在、「Sarkar K[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
本記事で問題にしている「2014年2月のBiotechnol Lett.」論文と別に、「2014年11月のAnal Biochem.」論文も2016年5月に撤回されていた。
- Localized surface plasmon resonance-based DNA detection in solution using gold-decorated superparamagnetic Fe3O4 nanocomposite.
Bandyopadhyay A, Sarkar K.
Anal Biochem. 2014 Nov 15;465:156-63. doi: 10.1016/j.ab.2014.07.025. Epub 2014 Aug 1. Retraction in: Anal Biochem. 2016 May 15;501:82. - Surface-functionalized gold nanoparticles mediate bacterial transformation: a nanobiotechnological approach.
Chatterjee S, Sarkar K.
Biotechnol Lett. 2014 Feb;36(2):265-71. doi: 10.1007/s10529-013-1360-x. Epub 2013 Oct 8. Retraction in: Biotechnol Lett. 2015 Jul;37(7):1527-8.
★撤回論文データベース
2020年2月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでケカ・サルカール(Keka Sarkar)を「Sarkar, Keka」で検索すると、2論文がヒットし、2論文が撤回されていた。パブメド(PubMed)撤回論文と同じ論文である。
★パブピア(PubPeer)
2020年2月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ケカ・サルカール(Keka Sarkar)の論文のコメントを「Keka Sarkar」で検索すると0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》またか!
インド人研究者のネカト事件を見つけると、「またか!」と思う。
インド人研究者のネカト事件をネカト・ブログにもう書かないようにしようと、時々、思う。
しかし、やはり、世界のネカト実態を知るには、そして、ネカト予防法を学ぶには、インド人研究者のネカト事件からも学ぶ点はたくさん(いや、「たくさん」はないな。少し)ある。
やはり、時々、書きましょう。
現実の世界では、こういう確信犯的ネカト者が多い。インドだけではなく欧米先進国にも多い。そして、日本にも少なくない。そういう、現実に直面しましょう。そして、どうすれば、そういう確信犯的ネカト行為を予防できるのか、考えましょう。
《2》あいまい
自己盗用は、盗用なのか? 盗用ではないのか? 一般的には、あいまいである。出版界は盗用と認定する出版社が多いが、学術界では判断が分かれている。
一方、研究公正局や文科省は自己盗用を盗用と認めていない。
早く、ちゃんと線引きしてください・・・、ネ!。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2015年8月14日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Gold nanoparticle paper crushed by “deliberate and fraudulent use of data” – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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