2018年2月15日掲載。
ワンポイント:アキュニャは、ペルー人である。2009年(57歳)、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で教育学の研究博士号(PhD)を取得した。ペルーのラ・リベルタ県(La Libertad)・知事になり、2016年のペルー大統領選で有力な大統領候補になった。しかし、大統領選が始まった2016年1月26日(63歳)、人類学者のサンドラ・ロドリゲス(Sandra Rodríguez)に盗博が指摘された。盗博スキャンダルはまたたく間に広がり、さらに、学士論文、修士論文にも重大な欠陥が指摘され、金銭的不正の発覚が続き、大統領選出馬を禁止された。学位授与した3つの大学は調査に乗り出した。2018年2月14日現在、スペインの裁判所で盗博の裁判が継続中である。損害額の総額(推定)は10億円(当てずっぽう)。この事件は、「2016年ネカト世界ランキング」にランクした「「iThenticate」誌の2016年のトップ「盗用」スキャンダル:2017年2月27日」の第4位である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
セザール・アキュニャ(César Acuña、写真出典)は、ペルー人である。ペルーのトルヒーリョ市・市長に在任中の2009年(57歳)、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で教育学の研究博士号(PhD)を取得した。2015年(63歳)、ペルーのラ・リベルタ県(La Libertad)・知事になり、2016年のペルー大統領選での有力な大統領候補になった。
2016年1月(63歳)、大統領選の序盤で、盗博が発覚し、その後、他の金銭的不正の発覚と合わせ、大統領選への出馬が禁止された。
なお、2016年に行なわれたペルーの大統領選は以下の結果になった。
2016年4月10日に大統領選挙1回目と議会選挙の投票が行われ、大統領選ではケイコ・フジモリ氏が1回目の投票で1位となったが、大統領の当選に必要な過半数に達していないため、6月5日にケイコ・フジモリとペドロ・パブロ・クチンスキーによる決選投票が行われれ、クチンスキーが当選者となった。2016年ペルー総選挙 – Wikipedia
アキュニャは、盗博の発覚後、学士、修士の各学位論文にも深刻な欠陥が見つかった。
学位授与した3つの大学は調査に乗り出した。修士号ははく奪されなかったが、学士号がはく奪されたかどうか、白楽は把握できていない。
2018年2月14日現在、盗博はスペインで裁判になっていて決着がついていない。結果によっては博士号がはく奪されるだろう。
アキュニャ盗用事件は、「2016年ネカト世界ランキング」にランクした「「iThenticate」誌の2016年のトップ「盗用」スキャンダル:2017年2月27日」の第4位である。
スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)。写真出典 http://blog.uniplaces.com/ucm-complutense-university-guide/
- 国:ペルー
- 成長国:ペルー
- 研究博士号(PhD)取得:スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)
- 男女:男性
- 生年月日:1952年8月11日
- 現在の年齢:72 歳
- 分野:教育学
- 博士論文タイトル:Teacher competence and student achievement at the private university in Peru
(日本語訳):ペルーの私立大学における教員の能力と学生の成績 - 博士論文指導教授: ?
- 博士論文提出:2009年(57歳)
- 盗博発覚年月日:2016年(63歳)
- 盗用ページ率:不明、かなり多い印象。博士論文は359ページある
- 盗用文字率:不明、かなり多い印象
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪なし?
- 最初の不正論文発表:1995年(43歳)
- 発覚時地位:ラ・リベルタ県・知事から、有力なペルー大統領候補になった
- ステップ1(発覚):第一次追及者は人類学者のサンドラ・ロドリゲス(Sandra Rodríguez)が見つけ、ツイッターに投稿
- ステップ2(メディア): ペルーの多数の新聞・テレビなど
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①スペインのマドリード・コンプルテンセ大学・調査委員会。②ペルーのトルヒーリョ国立大学・調査委員会。③ペルーのリマ大学・調査委員会。
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)
- 不正:博士論文と修士論文で盗用。学士論文は深刻な「欠陥」
- 不正論文数:学士、修士、博士の各学位論文で計3報
- 時期:キャリアの中期から
- 損害額:総額(推定)は10億円(当てずっぽう)。内訳 → ①研究者ではないので研究成果上の損害はないが、盗博は明白である。政治家としてその国と政界の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界・高等教育界に損傷を与えかつ腐敗環境を助長した。普通の国の現職大統領は1000億円、閣僚は100億円、知事・大統領候補は10億円(当てずっぽう)。
- 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)。学位取消は不明。
- 処分:大統領選への出馬が禁止
●2.【経歴と経過】
- 1952年8月11日:ペルーで生まれる
- 1995年(43歳):ペルーのトルヒーリョ国立大学(National University of Trujillo)で学士号取得:化学工学
- xxxx年(xx歳):コロンビアのロス・アンデス大学(Universidad de los Andes in Colombia)で修士号取得:教育管理学
- xxxx年(xx歳):ペルーのリマ大学(University of Lima)でも修士号取得:教育管理学。
- 2007年1月 – 2014年4月(54 –61歳):トルヒーリョ市(Trujillo)・市長
- 2009年(57歳):スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で研究博士号(PhD)を取得
- 2015年1月 –2015年10月(62 –63歳):ラ・リベルタ県(La Libertad)・知事
- 2015年(63歳):大統領候補、2番人気
- 2016年1月(63歳):盗博が発覚する
- 2016年3月(63歳):大統領選への出馬が禁止
●3.【動画】
【動画1】
ニュース動画:「セザール・アキュニャ:政府計画に盗用はあったのか?(César Acuña: ¿hubo plagio en su plan de gobierno? – YouTube)」(スペイン語)1分59秒
Latina.peが2016/01/22 に公開
【動画2】
ニュース動画:「セザール・アキュニャの盗用(Plagio y más sorpresas de César Acuña) – YouTube」(スペイン語)20分55秒
Panoramaが2016/01/31 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
アキュニャは、ペルーの3つの私立大学を所有している大富豪である。
2015年(63歳)、ペルーのラ・リベルタ県(La Libertad)・知事になり、2016年のペルー大統領選での有力な大統領候補になった。
★盗博
2009年(57歳)、アキュニャは、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で359ページの博士論文「ペルーの私立大学における教員の能力と学生の成績(Teacher competence and student achievement at the private university in Peru)」を提出し、教育学の研究博士号(PhD)を取得した。
2016年1月26日(63歳)、人類学者のサンドラ・ロドリゲス(Sandra Rodríguez)がツイッターで、「アキュニャの博士論文要旨の2ページ目に盗用を見つけた」とアキュニャの盗博を指摘した。 → ココ
アキュニャは大統領の有力候補で、大統領選が実質的に始まっていたので、このツイッターは瞬く間に広がった。翌日の朝刊にはアキュニャの盗博が新聞記事になった。
→ 2016年1月27日の「El Comercio Perú」記事:Acuña: denuncian presuntos plagios en su tesis de doctorado | Política | Elecciones | El Comercio Perú
それで、多くの人が、アキュニャの博士論文を盗用検出ソフトにかけた。そして、確かに盗用があると指摘しだした。
大統領選のキャンペーンでは、アキュニャは教育に重きを置いていたが、盗博が暴露されてはたまったものではない。
選挙管理委員会は、盗博で博士号がはく奪された場合、アキュニャを大統領選の候補者として認めないと発表した。
但し、スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)が盗博の調査委員会を設けたかどうか、白楽は把握できていない。
★学士論文
1995年(43歳)、アキュニャは、ペルーのトルヒーリョ国立大学(National University of Trujillo)で化学工学の学士号を取得していた。
盗博騒動に懸念を感じ、トルヒーリョ国立大学はアキュニャの学士号を調査した。
2016年2月(63歳)、その結果、アキュニャの学士論文「天然ガス処理プラントにおける分離装置の設計(Design for Separation Equipment in a Natural Gas Treatment Plant)」には深刻な「欠陥」がある、と結論した。
→ 2016年2月8日記事:Chemical Engineer Running For President Of Peru Could Be Disqualified | February 8, 2016 Issue – Vol. 94 Issue 6 | Chemical & Engineering News
但し、それでトルヒーリョ国立大学はアキュニャの学士号をはく奪したかどうか、白楽は把握できていない。
★大統領選
2016年3月(63歳)、アキュニャは、大統領選の序盤で、大統領選への出馬が禁止された。盗博も原因だと思われるが、公式には、別の理由である。
アキュニャは、リマの市場で、大統領になったら2,800ドル(約28万円)の壁を作ってあげると小売店に約束した。また、車椅子の障害者に医療費として1400ドル(約14万円)をあげた。これらの行為は、選挙キャンペーン中の金銭的な贈与で、2015年11月に議会が選挙法違反と制定した行為に該当した。
→ 2016年2月15日記事:Peru: Cesar Acuña accused of vote buying in Lima
→ 2016年3月4日のコリン・ポスト(Colin Post)の「Peru Reports」記事:Peru bars president candidate Cesar Acuña from 2016 elections
なお、その後行なわれたペルーの大統領選は以下のようになった。
2016年4月10日に大統領選挙1回目と議会選挙の投票が行われ、大統領選ではケイコ・フジモリ氏が1回目の投票で1位となったが、大統領の当選に必要な過半数に達していないため、6月5日にケイコ・フジモリとペドロ・パブロ・クチンスキーによる決選投票が行われれ、クチンスキーが当選者となった。2016年ペルー総選挙 – Wikipedia
★盗修
xxxx年(xx歳)、アキュニャは、ペルーのリマ大学(University of Lima)で教育管理学の修士号を取得した。なお、リマ大学だけでなく、コロンビアのロス・アンデス大学(University of Los Andes )でも教育管理学の修士号を取得している。
盗博騒動に懸念を感じ、リマ大学もアキュニャの修士号を調査した。
2016年9月、その結果、アキュニャの修士論文の4種類の盗用があった、と発表した。
→ 2016年9月21日記事:César Acuña: Universidad de Lima comprueba plagio en tesis de maestría | LaRepublica.pe
委員会は、調査結果を検察庁に送付し、正当なものであれば刑事告発を進めるとした。さらに、盗用の証拠を大学教育の国家監督官に報告した。
ただし、当分の間、修士号のはく奪はしない。大学規則に明確な規定がなく、法的根拠がないので、検察庁の調査結果を待つ必要があるからだ。
★裁判
スペインのマドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)が盗博の調査委員会を設けたかどうか、白楽は把握できていない。
しかし、盗博がスペインで裁判になっている。
→ 2017年10月18日の「El Comercio Perú」記事:Juez de España pide declaración de César Acuña por plagio de tesis | Política | El Comercio Perú
2017年12月17日、マドリッドのエスカロニーラ・モラレス裁判官(Escalonilla Morales)は、盗用だと結論づける十分な証拠はないと述べている。オイオイ、証拠は十分あったんでないの?
→ 2017年12月17日の記事:La denuncia por plagio a César Acuña se archiva otra vez | Diario Correo
モラレス裁判官は「盗用だと結論づける十分な証拠はない」と、シロと裁決した。しかし、控訴された。
2018年2月14日現在、アキュニャの博士号がはく奪されたかどうか、白楽は把握できていない。
●6.【論文数と撤回論文】
政治家なので省略。
●7.【白楽の感想】
《1》なんかヘン
アキュニャは大富豪とあるが、学歴はなんかヘンである。
1995年(43歳)で、ペルーのトルヒーリョ国立大学で化学工学の学士号を取得したとある。中年になってから化学工学の学士号を取得してどうすんの?
2007年1月 – 2014年4月(54 –61歳)は、トルヒーリョ市(Trujillo)・市長である。ところが、この市長在任中の2009年(57歳)にスペインのマドリード・コンプルテンセ大学で研究博士号(PhD)を取得した。
常識的に、市長の仕事と他国での院生生活は無理である。論文提出して博士号を取得できる博士号(論文博士)は日本にしかない制度だ。スペインにはない。
市長在任中に他国で研究博士号(PhD)を取得するって、どうなってるの?
2017年10月18日の「El Comercio Perú」記事によると、盗博がスペインで裁判になっている。これも不思議だ。盗博が裁判になったケースは他にもあるが、珍しい。
→ 化学:「博士号はく奪?」:スヴィ・オーア(Suvi Orr)(米) | 研究倫理(ネカト)
白楽はペルーに滞在したことがない。ペルーの文化を知らない。白楽がこの事件のどこかを読み間違えているのだろうか?
《2》人気者
【動画3】
アキュニャのモノマネ芸人がいる。盗博までネタにしている。アキュニャは人気者? 単にバカにされているだけ?
Al Estilo Julianaが2016/02/10 に公開
【動画4】
PERÚ HOY 2 が2016/04/11 に公開だが、後に削除された → https://www.youtube.com/watch?v=TBycBrSkxM4
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:César Acuña Peralta – Wikipedia
② 2016年1月28日の「Reuters」記事:Peru may bar presidential candidate for plagiarism、(保存版)
③ 2016年3月4日のコリン・ポスト(Colin Post)の「Peru Reports」記事:Peru bars president candidate Cesar Acuña from 2016 elections、(保存版)
④ 2017年10月18日の「El Comercio Perú」記事:Juez de España pide declaración de César Acuña por plagio de tesis | Política | El Comercio Perú
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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