企業:抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib):アサータ・ファーマ社(Acerta Pharma)(米)

2017年10月30日掲載。

ワンポイント:2016年8月、抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib)の「2015年のCancer Research」論文のデータに異常があると外部研究者から指摘され、アサータ・ファーマ社は調査を開始した。2017年10月、社内研究員の著者の1人が臨床前データを改ざんしたことをアサータ・ファーマ社が認めた。ネカト者の名前を公表せず、ネカト者は退社(解雇?)した。このデータ改ざんで死者や健康被害者は報告されていない。損害額の総額(推定)は1億円(あてずっぽう)。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

アサータ・ファーマ社(Acerta Pharma)は2012年にアラード・カプテン(Allard Kaptein)とティアード・バーフ(Tjeerd Barf)が設立した非上場バイオ医薬品企業で、本社は米国・カリフォルニア州にある。オランダにも拠点がある。

癌関連の医薬品を開発する小さな企業で、2015年の従業員は150人だった。

2015年12月17日、世界規模の大きな製薬企業である英国のアストラゼネカ社(AstraZeneca)に買収され、2016年2月、アストラゼネカ社(AstraZeneca)の傘下に入った。

2016年8月、アサータ・ファーマ社の研究員が発表した抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib)の「2015年のCancer Research」論文に、データ異常があると外部研究者から指摘された。アサータ・ファーマ社は、社内研究員の著者の1人が、臨床「前」データを改ざんしたことを突き止めた。ネカト者の名前を公表せず、ネカト者は退社(解雇?)した。

なお、、臨床「前」データに改ざんはあったが臨床データそのものに改ざんはなく、患者の健康へのリスクはないとアサータ・ファーマ社は述べている。

2017年1月、アサータ・ファーマ社は改ざん事件の最終調査報告書を食品医薬品局(FDA)に提出した。この最終調査報告書は公表されていない。

2017年8月、食品医薬品局(FDA)は、抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib)の新薬承認申請を受理し、優先審査に指定した。

このデータ改ざんで死者や健康被害者は報告されていない。

アサータ・ファーマ社(Acerta Pharma)。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:アサータ・ファーマ社
  • 集団名(英語):Acerta Pharma
  • ウェブサイト(英語):http://www.acerta-pharma.com/
  • 集団の概要:2012年に設立された癌関連の医薬品を開発する小さな企業で、2015年の従業員は150人だった。2016年2月にアストラゼネカ社(AstraZeneca)の傘下に入った。
  • 事件の首謀者:名前が公表されない。不明
  • 分野:医薬品開発
  • 不正年:2015年
  • 発覚年:2017年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はアサータ・ファーマ社外の研究者で、アサータ・ファーマ社の研究員へデータの異常を通報
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①アサータ・ファーマ社の調査。②米国・食品医薬品局
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:1報。撤回された
  • 被害(者):死者や健康被害者はいない
  • 損害額:総額(推定)は1億円(あてずっぽう)。
  • 結末:ネカト者1人の退社(解雇?)

●2.【日本語の解説】

ネカト事件の解説はなかった。アサータ・ファーマ社の動静の記事である。

★2015年12月22日:化学業界の話題、「AstraZeneca、買収による事業拡大」

出典 → ココ(保存版)

AstraZenecaは12月17日、オランダとカリフォルニアに拠点を持ち、癌関連の薬を開発する私企業 Acerta Pharma の株の過半を40億ドルで買収することで合意した。

先ず、Acertaの55%を25億ドルで買収する。

Acertaの開発している血液癌治療用の薬 acalabrutinib が米国で承認された時、又は2018年末に、15億ドルを支払う。

AstraZenecaは更に、欧州と米国での同剤の承認後に、残りの株を30億ドルで買収するオプションを持つ。

同社では、同剤の年間売上高が世界中で50億ドルを超えると期待している。

★2017年 8月 04日:アストラゼネカ社、「アストラゼネカのACALABRUTINIB、米国食品医薬品局(FDA)が承認申請を受理、優先審査に指定」

出典 → ココ(保存版)

アストラゼネカ(本社:英国ロンドン、最高経営責任者(CEO):パスカル・ソリオ[Pascal Soriot]、以下、アストラゼネカ)および当社の血液がん領域における中核的研究開発拠点であるAcerta Pharmaは、2017年8月2日、米国食品医薬品局(FDA)が、acalabrutinibの新薬承認申請を受理し、優先審査に指定したことを発表しました。acalabrutinibは、高い選択性を有する強力なブルトンチロシンキナーゼ(BTK)阻害剤です。

acalabrutinibについて

acalabrutinibはブルトンチロシンキナーゼ(BTK)に対する選択的かつ、強力な共有結合型阻害剤であり、非特異的作用が非常に小さいことが認められています8,9,10。この新規薬物はB細胞性リンパ腫をはじめとする複数のがん種に対する治療薬として現在、開発が進められています。

すなわち、acalabrutinibの開発プログラムでは、慢性リンパ球性白血病(CLL)、MCL、ワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、および多発性骨髄腫に対する単剤療法および併用療法として、さらに固形がんにおける単剤療法および併用療法として検討されています。

acalabrutinibの臨床試験は、2000名超を対象とする計25以上の試験が現在進行中または完了しています。acalabrutinibは、2015年9月にFDAよりMCLの治療薬として、2016年3月に欧州委員会よりCLL、MCLおよびWMの治療薬として、希少疾病用医薬品の指定を受けました。acalabrutinibは、最低1回の前治療を受けたMCL患者さんの治療薬として2017年8月にFDAによる画期的治療薬指定を受けました。acalabrutinibは現在開発中の未承認薬です。

8. Covey T, Barf T, Gulrajani M, Krantz F, van Lith B, Bibikova E, et al. Abstract 2596: ACP-196: a novel covalent Bruton’s tyrosine kinase (Btk) inhibitor with improved selectivity and in vivo target coverage in chronic lymphocytic leukemia (CLL) patients. Cancer Res. 2015;75(15 Supplement):2596.

9. Byrd JC, Harrington B, O’Brien S, Jones JA, Schuh A, Devereux S, et al. Acalabrutinib (ACP-196) in relapsed chronic lymphocytic leukemia. N Engl J Med. 2016;374(4):323–32.

10. Harrington BK, Gulrajani M, Covey T, Kaptein A, Van Lith B, Izumi R, et al. ACP-196 is a second generation inhibitor of Bruton tyrosine kinase (BTK) with enhanced target specificity. Blood. 2015;126(23):2908.

Acerta Pharma社について

Acerta Pharma社はアストラゼネカグループに属し、がんおよび自己免疫疾患の治療を目的とする新規の選択的治療薬を創製しています。Acerta Pharma社は、その株式の過半数を取得したアストラゼネカの血液がん領域における中核的研究開発拠点となっています。詳細は、http://www.acerta-pharma.comをご覧ください。

●3.【事件の経過と内容】

アサータ・ファーマ社の医療安全・品質・法令順守・担当副社長のエドウィン・タッカー(Edwin Tucker、写真出典)は、「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように述べている。

2016年8月に外部の研究者からアサータ・ファーマ社の研究員に、「2015年のCancer Research」論文の臨床「前」データにおかしい点があると連絡を受けた。

それで、私たちは、調査を開始した。

「2015年のCancer Research」論文の書誌情報は以下の通りで、著者は9人いる。

内部調査を始めると、臨床「前」データの改ざんが見つかった。

ただ、タッカー副社長は「抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib)の臨床データは公正で患者の健康へのリスクはない」と述べている。

データ改ざんをした研究員は既にアサータ・ファーマ社を退社しており、タッカー副社長はネカト者の名前を挙げるのを拒否した。著者が9人もいるので、当局が名前を挙げなければ、ネカト者を特定するのは困難である。それで白楽は、本事件を「組織の研究関連事件」と扱った。

2016年10月、アサータ・ファーマ社はデータ改ざんの調査をすると食品医薬品局(FDA)に報告した。

https://www.europeanpharmaceuticalreview.com/news/39167/orphan-drug-designation-recommended-for-acalabrutinib/

2017年1月、アサータ・ファーマ社は最終調査報告書を食品医薬品局(FDA)に提出した。

2017年8月、食品医薬品局(FDA)は、抗癌剤・アカラブルチニブ(acalabrutinib)の新薬承認申請を受理し、優先審査に指定した。
→ 2017年8月記事:US FDA Accepts Regulatory Submission for Acalabrutinib and Grants Priority Review

【改ざんの具体例】

問題の「2015年のCancer Research」論文の書誌情報を以下に再掲する。

タッカー副社長は以下のように述べている。

アサータ・ファーマ社は論文中の数値の元データを調査した。すると、いくつかの元データの出所が確認できなかった。また、元データと異なる数値が論文で使用されていた。

この説明では、どのデータがどの程度改ざんされたのか不明である。しかし、白楽の知っている情報はここまでである。

●4.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明である。どのデータがどの程度改ざんされたのか不明である。ネカト者が誰かも不明である。

だから、どうしてねつ造・改ざんをしたのか? 見つけた外部研究者は誰で、どう見つけたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

アサータ・ファーマ社と食品医薬品局(FDA)がネカト者を秘匿したので、このネカト者は何食わぬ顔で他社または学術界で研究職を得て、再びネカトをすることが可能である。アサータ・ファーマ社と食品医薬品局(FDA)はそういう意味で、ネカト者を育成している。

食品医薬品局(FDA)はどうしてネカト者の名前を公表しないのか、白楽はとても不思議に思う。

http://www.acquisitionsdaily.com/2015/12/14/astrazeneca-continues-ma-run/

ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

科学 ブログランキングへ
ーーーーーー

●5.【主要情報源】

① ウィキペディア・オランダ語版:Acerta Pharma – Wikipedia
② 2017年10月5日のヴィクトリア・スターン(Victoria Stern)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Early data on potential anti-cancer compound now in human trials was falsified, company admits – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2017年10月10日のアレックス・キーオン(Alex Keown)記者の「BioSpace」記事:Bay Area Acerta Pharma Falsified Early Data on a Cancer Compound, Now in Clinical Trials | BioSpace、(保存版
④ 2017年10月14日のイワン・ウィザーズ(Iain Withers)記者の「Telegraph」記事:Cancer drug study data was falsified, says AstraZeneca、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

Subscribe
更新通知を受け取る »
guest
0 コメント
Inline Feedbacks
View all comments