ワンポイント:31歳で学長に就任したが28歳の時の博士論文の盗用がバレ、2014年、解任された
●【概略】
リディア・フィディキナ(Lidia Fedyakina、Федякина Лидия Васильевна、写真出典)は、ロシアのロシア社会科学大学(Russian State Social University)・学長で、専門は教育学だった。
2009年(28歳)、研究博士号(PhD)を取得した。その後、30歳で教授に就任し、31歳で学長に任命された。
2013年11月4日(33歳)、ロシアのディザーネットが、フィディキナの博士論文の盗用を暴露した。
2014年4月28日(33歳)、ロシアの教育科学大臣がフィディキナの学長職を解任した。なお、盗用は3年間の猶予期間(grace period)が過ぎているので、公式には、博士論文の盗用のためではないとした。
フィディキナが28歳で研究博士号(PhD)を取得したのは国際的に普通である。しかし、30歳で教授に就任し、31歳で学長に任命された。これは、ロシアでは普通のことなのか、白楽が何かを誤解しているのか?
なお、ロシア社会科学大学(Russian State Social University)は、「Times Higher Education」の大学ランキングでロシアの第13位以内にリストされていなかった(World University Rankings 2016 | Times Higher Education (THE))。
ロシア社会科学大学(Russian State Social University)。写真出典
- 国:ロシア
- 成長国:ロシア
- 研究博士号(PhD)取得:ロシア社会科学大学
- 男女:女性
- 生年月日:1980年10月24日
- 現在の年齢:43 歳
- 分野:教育学
- 最初の不正論文発表:2009年(28歳)
- 発覚年:2013年(33歳)
- 発覚時地位:ロシア社会科学大学・学長
- 発覚:ディザーネットの公益通報
- 調査:①ディザーネット
- 不正:盗用
- 不正論文数:少なくとも博士論文1報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:学長解任
●【経歴と経過】
経歴の主な出典:Федякина Лидия Васильевна (Fedyakina Lidia), дата рождения 24 октября – биография, семья, примечания
- 1980年10月24日:ロシア・ボロネシで生まれる
- 2000年(19歳):ロシア社会科学大学(Russian State Social University)で学士号:金融と信用
- 2002年(21歳):同、学士号:法学
- 2007年(26歳):ロシア社会科学大学・経済学・準教授
- 2009年(28歳):研究博士号(PhD)取得。教育学
- 2011年(30歳):ロシア社会科学大学・教授
- 2012年(31歳):ロシア社会科学大学・学長
- 2013年11月4日(33歳):ロシアのディザーネットにより、博士論文の盗用が暴露された
- 2014年4月28日(33歳):教育科学大臣により学長職を解任された
●【動画】
【動画】
インタビュー「«СЛОВО РЕКТОРА». В гостях Лидия Федякина, ректор РГСУ – YouTube」(ロシア語)22分47秒。
ПросвещениеТв Национальный образовательныйが2012/10/18 に公開
●【不正発覚の経緯と内容】
2013年11月4日(33歳)、ロシアのディザーネット(Dissernet)がフィディキナの博士論文が、T.S.Sumskoyの論文から盗用していることを発見・分析し、公表した(① FedyakinaLV2009 (保存版)、②Федякина Лидия Васильевна | Вольное сетевое сообщество «Диссернет»)。
★盗用:博士論文全体
ロシアのディザーネットのサイトの博士論文盗用分析表の全体像を以下に貼り付けた。数字は博士論文のページ番号である。ピンク、青色、赤色などの着色は、盗用があったページで、リンク先に具体的な盗用文章・被盗用文章が併記されている。
上記の盗用分析表のリンクは切れていた。以下に、見た目は少し異なるが、リンクが生きている同じ盗用分析表を貼り付けた。是非、着色したページ数をクリックして欲しい。例えば、「23」をクリックしてください。
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★盗用具体例1:博士論文の23ページ
盗用具体例を示す。上記の博士論文盗用分析表の「23」をクリックすると、以下の文字列が出てくる(示しているのは一部です)。左がフィディキナの博士論文23ページ目で、右が被盗用論文(T.S.Sumskoyの論文)の該当部分である。ピンク色が同一単語、つまり、盗用部分である。 このような分析を349ページの博士論文の各ページごとに行なっている。
★処分
2014年4月28日(33歳)、教育・科学大臣ドミートリー・リヴァーノフ(Dmitry Livanov、写真同)はフィディキナの学長職を解任した。
なお、盗用は3年間の猶予期間(grace period)が過ぎているので、博士論文の盗用のためではないとした。
●【論文数と撤回論文】
2015年5月17日現在、グーグル・スカラーで、リディア・フィディキナ(Lidia Fedyakina)の論文を「Lidia Fedyakina」で検索すると、21件がヒットした。
2015年5月17日現在、撤回論文はない(推定)。
●【事件の深堀】
《1》ロシアの学長
フィディキナが28歳で研究博士号(PhD)を取得したのは国際的に普通である。しかし、31歳で学長に任命された。これは、日本では考えられないし、欧米先進国でも珍しい。
ただ、日本の学長職も定年退官した教授が就任するのは、国際的に公然と「学長は傀儡です」と公言しているようなものだ。このシステムは、学長職を侮辱している。
定年教授では、学長の職務をまともに果たせるとは思えない。しかし、日本は長年、問題意識も、反省もなく、続けている。批判する知識人もほぼいない。どうしてか? 官僚にとって、都合がいいからである。
同じように、ノーベル賞受賞者が学長に就任するのも、一般的には異常である。有名人を学長にする風潮は、大学運営、ひいては日本の高等教育を冒涜していると思う。
学術を理解し、かつ、高等教育の哲学があり、組織運営能力の優れた人が、30代・40代から学長になればよいと、一般論としては以前から思っている。
フィディキナが31歳で学長に任命されたことは、ロシアでは、学長職は専門職というとらえ方の一例で、ロシアでは普通のことなのか? 白楽は勉強不足でチャンと把握できていません。
《2》盗用は3年間の猶予期間(grace period)
フィディキナが学長職を解任されたのは、博士論文の盗用のためなのは明白である。ただ、ロシアのルールでは、博士論文に3年間の猶予期間(grace period)があるということだ。
3年間の猶予期間(grace period)という意味は、博士論文に異議申し立てができるのは、博士号授与後3年以内という意味らしい。正確なルールを把握できていない。
出典を忘れたが、ドイツの博士論文にも同様なルールがあって、「3年グレース、5年で時効」だったハズだ。
韓国では「博士号は教育科学技術部(教科部)の指針に従って5年以内の不正行為に対してのみ取り消すことができる」(2013年2月21日記事:許泰烈氏、論文盗用を謝罪 : 東亜日報(保存版))。
米国・研究公正局では、博士論文に限定しないで、研究ネカト全部について、「発覚後、調査を開始しないで5年間が過ぎたら処分できない」ルールだったと思うが、出典を忘れた。正確ではない。
●【白楽の感想】
《1》ロシアの博士論文盗用
ここで多くを書かないが、ロシアの博士論文盗用には、唖然とする。
プーチン大統領の博士論文も盗用か代筆と言われているのである(Electronic Journal: ●ロシアのエネルギー戦略と博士論文(EJ第2327号)の保存版)。
ロシアの大学学長の博士論文の21%が盗用だとも報道されている(2015年11月23日 :21% of Theses Defended by Russian University Rectors’ Contain Plagiarism | News | The Moscow Timesの保存版)。
大学教授も研究ネカトまみれだと容易に想像がつく。若い院生・研究者が、この学術環境で研究ネカトしないで研究キャリアを積んでいくのは、大変だろう。「朱に交われば赤くなる」どころか、「朱の中で生きていくには、赤くなるしかない」。
●【主要情報源】
① ウィキペディア・ロシア語版:Федякина, Лидия Васильевна — Википедия
② 2014年4月29日の「Moscow Times」記事:Education Minister Fires University Rector for Plagiarism | News | The Moscow Times(保存版)
③ 2014年4月29日の「イズベスチヤ」記事:Дмитрий Ливанов уволил ректора РГСУ за плагиат в диссертации – Известия(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。