2017年6月2日掲載。
ワンポイント:【長文注意】。2017年現在、ミツバチが大量に消滅する現象が世界中で起こっているが、原因はつかめていない。2015年、米国・農務省・農業研究局の研究員・ラングレンが農薬・ネオニコチノイドの危険性を告発した。この告発に対して、農業研究局の上司がコクハラをした(コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))。
【追記】
・2018年5月15日記事:The Neonic Ban: A Scientific Fraud Becomes Enshrined In EU Regulatory Law | Science 2.0
・2018年6月21日記事:Viewpoint: EU’s neonicotinoid ban is a ‘scientific fraud’ and won’t protect bees | Genetic Literacy Project
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
2006年秋から2017年現在まで、大量のミツバチが消滅する現象が指摘されている。この現象は蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)と呼ばれ、米国だけでなく、欧州、アジア(含・日本)でも同様な現象が見られている。
原因は不明である。
農産物の受粉をミツバチに依存している世界中の農家が大打撃を受けている。
実は農作物の35%はミツバチの受粉によって実をつけています。世界の食糧の90%にあたる約100種類の作物のうち71種類までがそのミツバチ受粉の恩恵を受けているものなのです。
イチゴだけでなくリンゴ、オレンジ、イチゴ、玉ねぎ、ニンジンなど、ミツバチはたくさんの作物の花粉媒介の役目を担っています。(ミツバチが減少!?ネオニコチノイドが原因で全世界食糧危機へ! | 神様の食材)
2017年4月27日、長野県のナシの人工授粉(白楽撮影)。ミツバチはいません。 写真をクリックすると写真は大きくなります。
蜂群崩壊症候群の原因は不明だが、可能性の1つとして農薬・ネオニコチノイド殺虫剤の影響が指摘されている。
2000年頃から徐々に、オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど欧州各国はネオニコチノイド殺虫剤の使用を禁止し始めた。
一方、米国・農務省は、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だと主張し、米国はネオニコチノイドの使用を禁止していない。
米国・環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)も関係省庁だが、同じ主張をしている。
本記事では、農務省に絞り、環境保護庁には触れない。
2015年、米国・農務省・農業研究局(USDA・ARS(Agricultural Research Service))・統合作物システム研究所の昆虫学者・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)は、ネオニコチノイド殺虫剤がミツバチの消滅の原因だとする研究結果を論文発表し、講演会や新聞メディアでも発表した。組織内部からの告発という形になった。
この発表は農務省・農業研究局の方針に異を唱える内容なので、農業研究局の上司は激怒し、告発に対する報復・コクハラをした(コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))。
具体的には、研究グラントの不採択。研究遂行の妨害。論文の共著者になることの禁止。論文発表の妨害。外部での話の禁止。30日間の停職処分(後に14日間に減)である。
2015年、コクハラ被害者のジョナサン・ラングレンが、連邦メリットシステム保護委員会(United States Merit Systems Protection Board)にコクハラを訴えた。
2016年(?)、ラングレンは農業研究局を辞職した。
もう1人のコクハラ被害者はジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)である。
ペティスは、農務省・農業研究局のベルツヴィル研究所(Beltsville)の部長だった。
2014年4月(ペティスは61歳)、議会・下院・農業委員会で、「たとえ明日、寄生虫・ミツバチヘギイタダニを全部駆除できても、蜂群崩壊症候群問題はまだ解決できません。ミツバチにとって、農薬・ネオニコチノイドが新たな危険となる懸念があります」と答え、証言した約2か月後、管理権限をすべてはく奪され、降格された。
2017年6月1日現在、蜂群崩壊症候群の原因は依然として不明である。ネオニコチノイド殺虫剤が原因なのか、そうでないのか、誰もわからない。
蜂群崩壊症候群は、地球温暖化と並んで、世界中の作物・果樹生産に巨大な損失をもたらすと想定されている。
本ブログの主対象はネカト問題なので、蜂群崩壊症候群の問題は状況を把握できる程度しか解説しない。ポイントを、米国・農業研究局(の担当者)のラングレンへのコクハラに絞り、ペティスへのコクハラを少し加える。
農務省・農業研究局の平原地帯部門の統合作物システム研究所(Integrated Cropping Systems Research)。サウスダコタ州ブルッキングス(Brookings)にある。写真出典
- 国:米国
- 集団名:農務省・農業研究局
- 集団名(英語): U.S. Department of Agriculture(USDA), ARS(Agricultural Research Service)
- 集団の解説:農務省・農業研究局の職員数は約2,700人。予算11億ドル(約1100億円、2014年)。①ウェブサイト:https://www.ars.usda.gov/、② Agricultural Research Service – Wikipedia
- 分野:農業
- コクハラ最初の年:2015年
- 発覚年:2015年
- 加害者人数:?
- 被害(者):①農務省・農業研究局の昆虫学者・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)。②農務省・農業研究局の昆虫学者・ジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)。③蜂。④養蜂業者。⑤農家
- ステップ1(発覚):コクハラ被害者のジョナサン・ラングレンが、連邦メリットシステム保護委員会(United States Merit Systems Protection Board)に訴えた。
- ステップ2(メディア): 「Washington Post」紙のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者が熱心に報道。多数の新聞メディアが追従している
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①連邦メリットシステム保護委員会
- 不正:コクハラ(告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))
- 不正数:告発に対する報復行為を数回。①ジョナサン・ラングレンに対して「研究グラントの不採択。研究遂行の妨害。論文の共著者になることの禁止。論文発表の妨害。外部での話の禁止。30日間の停職処分(後に14日間に減)」。②ジェフリー・ペティスにたいして「管理権限をすべてはく奪し、降格」。
- 結末:告発者・ラングレンは辞職。ペティスは在職。コクハラ者・コクハラ機関は無処分
【動画】
講演、日本語字幕付き:「Marla Spivak: Why bees are disappearing 」(英語)15分57秒
日本語翻訳:Hidehito Sumitomo、校正:Wataru Narita
TED が2013/09/17 に公開
日本語の解説は多数ある。それらを「修正」引用する。それで、事件の全体が詳細に理解できる。写真は白楽が加えた。
★2016年5月10日:マザーアースニューズ「科学の崩壊: 食品と農業の調査の既得権益」
出典 → ココ 保存済
→ 原典:Corruption in Science: Vested Interests in Food and Agricultural Research
By Joanna Poncavage, April/May 2016
トウモロコシ地帯サウスダコタ州の合衆国農務省(USDA) の科学者が最近、利害対立に直面しなければならなかったのは、不思議ではない。
2015年秋、昆虫学者のジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren) は、サウスダコタ州ブルッキングスの農業研究サービス (Agricultural Research Service) 研究室での仕事を2週間中止させられた。米国科学アカデミー の会議で話すために旅行した時、旅行許可書の事務処理間違いを犯したからだ。少なくともそれが彼の上司が主張したことだ。
州の公有地供与の大学のサウスダコタ州立大学学長は、除草剤と遺伝子組換え種子の世界の主要な供給社のひとつ、モンサントの取締役だ。多くの人がラングレンが停職になったのは、その行事で、殺虫剤を生物多様性に置き換えるように主張し、農学者が勧めた化学薬品を使った作付け地で収穫が減ったと話した農家の力強い引用文で話を終えたからではないかと思った。
別件でラングレンの上司は、トウモロコシに広く使われているネオニコチノイド殺虫剤の影響について彼が共著した論文のしかるべき出版許可を取り損ねたと言った。ラングレンは典型的な手順に従ったし、実際に攻撃を受けたと言う。彼の研究が、殺虫剤のクロチアニジンが益々危険に曝されている種、オオカバマダラを害すると発見したからだ。
●3.【事件の経過と内容】
●【予備知識】
★蜂群崩壊症候群
以下の文章の出典:蜂群崩壊症候群 – Wikipedia
蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)とは、ミツバチが原因不明に大量に失踪する現象である。
2006年秋から現在にかけてセイヨウミツバチが一夜にして大量に失踪する現象が米国各地で発生、その数は米国で飼われているミツバチの約4分の1になった。ヨーロッパの養蜂家においても、スイス、ドイツでは小規模な報告ではあるが、他にもベルギー、フランス、オランダ、ポーランド、ギリシア、イタリア、ポルトガル、スペインにおいて同様の現象に遭遇している。また、CCDの可能性のある現象は台湾でも2007年4月に報告されている。
CCDの正確なメカニズムはいまだ不明であり、原因も一部をのぞいて特定されていない。
原因には疫病・ウイルス説(イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)など)、栄養失調説、ネオニコチノイド(イミダクロプリドなど)の農薬・殺虫剤説、電磁波説、害虫予防のための遺伝子組み換え作物説、「ミツバチへの過労働・環境の変化によるストレス説」などが唱えられている。
これらのほかに飢餓、病原体や免疫不全、ダニや真菌、養蜂上の慣習(例えば抗生物質の使用や、養蜂箱の長距離輸送)なども指摘される。
一つの要素が原因であるか、複数の要素の組み合わせが原因であるか、またCCDの影響を受けた異なる地域において独立におきるのか、関連して発生するのかは分かっていない。
フランスでの禁止。
2006年4月、フランス最高裁の判決を受け、ネオニコチノイド系農薬ガウチョは正式に使用禁止となる。2016年7月、フランス国民議会はネオニコチノイド系農薬の使用禁止などを盛り込んだ生物多様性法案を可決。2018年9月からネオニコチノイド剤は一部の例外を除き使用禁止となる。2020年7月からは例外使用規定が廃止され、全面禁止となる予定である。
日本では残留ネオニコチノイドの許容基準値がEUよりも大幅に緩く、アセタミプリドの場合、EUでは0.01ppm以下に規制されるのに対して日本では500倍の5ppmが許可されている。
★ネオニコチノイド(neonicotinoid)
ネオニコチノドは、浸透性殺虫剤(systemic)である。ネオニコチノドでコート(被膜)された種子は、その後、成長した植物組織にもネオニコチノドが残存する。微量とはいえ、花粉や蜜にもネオニコチノドが残存する。
以下の文章・図の出典:ネオニコチノイド – Wikipedia
ネオニコチノイド(英: neonicotinoid)は、クロロニコチニル系殺虫剤の総称。ニコチン様物質を意味し、イミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテフランなどが該当する。
ネオニコチノイド系殺虫剤は、各国において一般家庭のガーデニング用から農業用、シロアリ駆除、ペットのシラミ・ノミ取り、ゴキブリ駆除、スプレー殺虫剤、新築住宅の化学建材など広範囲に使用されている。
農薬として世界100カ国以上で販売されている。これまで使用されてきた有機リン系殺虫剤に比べ、人体への安全性が高く、また植物体への浸透移行性があり残効が長い利点があり、殺虫剤の散布回数を減らせるため、現在では世界各国において最も主流の殺虫剤となっている。一方で、ミツバチなどの減少の原因の一つであると指摘する声もある。
昆虫に対する毒性は強く、また植物体への浸透移行性を持ち、さらに残効も長いことから殺虫成分が植物体内に長期間残る(葉面散布では2週間から1ヶ月程度。粒剤処理や灌注処理では3ヶ月程度。それに対し有機リン剤は3日程度)。
——以下の図は別の出典。
論文出典 → PDF
赤色はネオニコチノイド系農薬の相対的濃度で、植え付け後最大3週間、害虫から大豆を守る。青色は大豆アブラムシの相対的濃度で、大豆アブラムシのような後発の害虫には効果がない。 (Purdue Agricultural Communication graphic/Dan Annarino)。
——以上、ここまで
害虫予防や殺虫剤の散布回数削減のためにはこうした残効の長さは利点となるが、殺虫成分は葉や果実だけでなく花粉や蜜にまで移行するため、これらを餌とするミツバチなどの有用昆虫も長期に渡って巻き込まれる恐れもあるのではないかと危惧されている。
1990年代初めから、世界各地でミツバチの大量死・大量失踪が報告され、すでに2007年春までに北半球から4分の1のハチが消えたとされている。 ミツバチ大量死は、2010年現在、カナダやアメリカ、中国、台湾、インド、ウルグアイ、ブラジル、オーストラリア、そして日本など、全世界的な広がりをみせている。
各国での研究報告では、ネオニコチノイド系農薬はこうした「蜂群崩壊症候群」(Colony Collapse Disorder, CCD) の原因の一つではないかと指摘されている。
なお、同じネオニコチノイド系農薬でもミツバチに対する毒性は商品により大きく異なる。クロチジアニン・イミダクロプリド・チアメトキサム・ジノテフランなどはミツバチへの急性毒性が高いが、アセタミプリド・チアクロプリドなどは毒性が低い。
アメリカ
農務省の見解では、さまざまなストレスと病原体が組み合わさって蜂群崩壊症候群が起きているとされ、ネオニコチノイド系の農薬については、特に規制を行っていない。
★2013年9月20日:松永和紀「ミツバチとネオニコチノイド系農薬、「予防原則」で思考停止にならないために…」、FOOCOM.NET
出典 → ココ
欧州食品安全機関(EFSA)に2012年春、ネオニコチノイド系農薬5種類の評価が依頼された。EFSAはいくつかの論文を精査し、5種類のうちチアクロプリドとアセタミプリドについてはリスクの懸念がないとして外し、残った3種についてさらに検討して、2013年1月にリスク評価を出した。
これを受けて欧州安全委員会は3種類の農薬の「2年間の使用制限」を決めた。
米国は、このハチの問題に対してまた別のアプローチをしている。もともと、ミツバチの減少は「蜂群崩壊症候群」(CCD)が起きているとして、2006年から07年にかけて米国などで大きな注目を集めるようになった経緯がある。
米国農務省は2012年、各分野の研究者や養蜂家などのステークホルダーを集めた会議を開き、13年5月に報告書を出している。それを読むと、さまざまなストレスと病原体が組み合わさってCCDを引き起こしているというのがコンセンサスであり、ダニやウイルス、微生物が引き起こす病気、遺伝的要因、栄養不足、それに農薬の影響などが原因として挙げられている。米国は今のところ、ネオニコチノイド系農薬にかんする特別な規制は講じていない。
★米国の化学薬品会社と種子会社
1990年代後半、ネオニコチノド殺虫剤が農薬として大幅に使用されるようになり、ネオニコチノドの農薬市場での世界シェアは、2008年には約25%、25億ドル(約2500億円)に急増した。
2009年の売上額上位3社は、バイエル社(Bayer CropScience)が11億ドル(約1100億円)、シンジェンタ社(Syngenta)が6億ドル(約600億円)、住友化学株式会社が4億ドル(約400億円)である。
日本は3位の住友化学株式会社に続いて、日本曹達株式会社が4位、三井化学株式会社が6位と、しっかり食い込んでいる。
また、遺伝子組み換え種子の世界シェアを90%も持つモンサント社(Monsanto)が、農薬・ネオニコチノイド処理した種子を販売している。
●【コクハラ事件1:ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)】
コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント)
★ジョナサン・ラングレン(Jonathan Lundgren)
この事件でコクハラを受けた主役のジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren、写真出典)は、イリノイ大学(University of Illinois)で研究博士号(PhD)を取得した昆虫学者である。
2004年(28歳)、農務省・農業研究局(USDA , ARS(Agricultural Research Service))の平原地帯部門の統合作物システム研究所(Integrated Cropping Systems Research)の研究員になり、その後、11人のスタッフを抱える研究グループ長になった。統合作物システム研究所はサウスダコタ州ブルッキングス(Brookings)にある。
2005年(29歳)以降、サウスダコタ州立大学(South Dakota State University)の教授も兼任している。
2011年(35歳)、農務省の「Presidential Early Career Awards for Scientists and Engineers」を受賞した。ラングレンは優秀な科学者と思われる。
2017年6月1日現在、パブメド(PubMed)で、ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)の論文を「Jonathan Lundgren [Author]」で検索した。2004~2016年の13年間の25論文がヒットした。
2016年の「ワシントン・ポスト」紙(【主要情報源】③)では、、ラングレンは40歳で。100報近くの論文を出版し、著書を一冊上梓し、数十の論文審査をしたとある。
★共著者名の削除:クログレイ
2015年5月、サウスダコタ大学・経済学教授のスコット・ファウスチ(Scott W. Fausti、写真出典)が以下の「2015年のEnvironmental Science & Policy」論文を単著で発表した。
- The causes and unintended consequences of a paradigm shift in corn production practices
Environmental Science & Policy
Volume 52, October 2015, Pages 41–50
Scott W. Fausti
https://doi.org/10.1016/j.envsci.2015.04.017
この「2015年のEnvironmental Science & Policy」論文には、以下の奇妙な脚注がついていた。上記PDFの1ページ目、下から6行目からの文章を以下に意訳しよう。
「私はジョナサン・ラングレン博士の論文への貢献を認めたいと思います。 ラングレン博士は農務省・農業研究局(ARS)の昆虫学者です。 しかし、農業研究局は、この論文の実質的な共同執筆者であるラングレン博士の名前を著者から削除するよう求めてきました。それで、著者欄にジョナサン・ラングレン博士の名前がありません。この行為は、科学研究での政治的中立について深刻な問題を提起すると、私は、考えます」。
つまり、農務省・農業研究局は、「2015年のEnvironmental Science & Policy」論文の内容が意に沿わないので、農業研究局の研究者・ラングレンに共著者になることを禁じたのである。ファウスチ教授は、奇妙な脚注をつけて、その行為への抗議を表明した。
それで、多くの科学者は、ラングレンが勤めている農務省・農業研究局は、研究公正に重大な欠陥があることを知るにおよんだ。
この事件は著者在順(クログレイ)問題である。実際に研究に貢献した人を著者から除くよう、「研究機関」が求めたのである。「研究機関」が公然とクログレイ問題を起こすとは、アキレタ。このような著者在順事件はとても珍しい。
なお、ファウスチは17年間も正教授として勤めたサウスダコタ大学を2016 年5月に辞め、同年8月からカリフォルニア州立大学モントレー・ベイ校(California State University Monterey Bay)の準教授になっている。農務省・農業研究局のラングレンへのコクハラに抗議して辞任したのだろう。たまたま移籍しただけかもしれないが。
★コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント):ラリー・チャンドラー平原地帯長
2012年、農務省・農業研究局の研究員・ラングレンは、「2012年のJournal of Pest Science」論文を発表した。米国で汎用されている農薬・ネオニコチノイドが大豆の収量を上げないとことを見つけ、論文に発表したのだ。
- Effects of neonicitinoid seed treatments on soybean aphid and its natural enemies
MP Seagraves, JG Lundgren
Journal of Pest Science 85 (1), 125-132, 2012
2013年、ラングレンは、新しい農薬であるRNAi農薬を導入するには、新たなリスク評価手段が必要だという論文を発表した。
- RNAi-based insecticidal crops: potential effects on nontarget species
JG Lundgren, JJ Duan
Bioscience 63 (8), 657-665, 2013
これらの論文はメディアの関心を集めた。
ラングレンの上司である統合作物システム研究所(Integrated Cropping Systems Research)所長のシャロン・パピエニク(Sharon Papiernik)、そのさらに上司の平原地帯長(Plains Area Director、研究所長のような地位)・ラリー・チャンドラー(Larry Chandler、写真出典)に、ラングレンと一緒に講演してくれないかと電話がかかってきた。
驚いたラリー・チャンドラー平原地帯長は、ラングレンに「事前に許可を得ないでメディアに話すな!」と命じた。
2014年、ラングレンは雑誌「Boulder Weekly」の取材を受けた。(白楽注:事前に許可を得たかどうか不明)
その10日後、不正行為疑惑でラングレンは調査された。
不正行為というのは、オフィスの周りで踊り、椅子にぶつかるふりをした行為。同じ名前の職員を卑猥な言葉の略号で区別した行為。年配の女性職員にナポレオンとデートしたかい、とからかった行為。などである。そして停職3日間の処分が科された。
ワシントン・ポスト紙のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者がラングレン研究室のスタッフ11人全員に連絡し取材を申し込むと、複雑な状況が見えてきた。8人は匿名を要求し、1人は会話の記録を要求し、2人は取材を拒否した。
ラングレン研究室のスタッフの意見をまとめれば、「ラングレン研究室の研究環境を緩やかで、時には子供じみた面もあったが、グループ全体はまとまっていた」。 彼らは、協力して、ラングレンの処分を非難する手紙を書き、農務省・農業研究局・上層部に渡そうとしていた。
研究室のスタッフが報復されるのを危惧し、ラングレンは、上層部に手紙を渡さないようにとスタッフに伝えた。
手紙には、「ラングレンの行為を研究室管理上の不正行為とされましたが、ラングレン研究室のスタッフ一同は、彼の行為を不快に思ったことはありません」と書いてあった。
フォルク記者の問い合わせに、ラリー・チャンドラー平原地帯長はノーコメントだった。
農業研究局のスポークスマンは、「上層部はラングレン研究室のスタッフから苦情を受けたので調査し、ラングレンに処分を科した。雑誌「Boulder Weekly」の取材やラングレンの研究内容とは関係はありません」と述べた。
ジャネット・ファーゲン(Janet Fergen、写真出典)は、農業研究局で30年、ラングレン研究室のラボ・マネージャーとして10年間勤務し、退職した。
ファーゲンは、「農薬・ネオニコチノイドが大豆の収量を上げないとことを発見し、ラングレンは変わりました(「2012年のJournal of Pest Science」論文)。ラングレンがどのように研究していたのかと、最近、上層部から質問されました。こんな質問は、今まで受けたことはありません」と言う。
また、ファーゲンは、農業研究局がラングレンの不正行為疑惑を調査した時期にも疑問を抱いた。「彼らが尋ねた行為は、何か月も前に起こったことです。本当に深刻な不正なら、その時、どうして緊急に調査しなかったのでしょう」。
★コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント):シャロン・パピエニク研究所長
2015年初め、ラングレンは、上司である研究所長のシャロン・パピエニク(Sharon Papiernik、写真出典)に論文原稿を提出し、クロチアニジン(clothianidin、別のネオニック農薬)がオオカバマダラ蝶にどのような影響を及ぼしているかを説明した。
パピエニク所長は論文原稿に小さな改訂を加え、返してくれた。
ラングレンは、要求された改訂をし、標準的な所内手続の後、その論文原稿を科学雑誌に投稿した。 その後、論文が出版される前に、彼は記者にインタビューされ、論文原稿の内容について話した。
すると、直ぐ、農業研究局の有害生物管理・国家プログラムリーダーから、詳細な情報を提供してほしいという電子メールがラングレンに届いた。
2週間後、パピエニク所長は「明らかに怒って」、ラングレンのオフィスにやってきた。「承認されていない論文内容を、なぜインタビューで話したのか?」と詰問した。
ラングレンは、「パピエニク所長に事前に論文原稿をお見せしました。パピエニク所長は論文原稿に小さな改訂を加え、返してくれたではないですか」、と返事した。
以下は、パピエニク所長と共著の2015年論文(学会要旨)である。
- Industrial oilseeds bolster” hub” crop yields when used in rotation
Russell Gesch, Frank Forcella, Sharon Papiernik, Carrie Eberle, Walter Riedell, Jonathan Lundgren, Kristine Nemec, Sharon Weyers, Jane Johnson, Matthew Thom
Meeting Abstract, 19, 2015
こういうイジメが旅費の書類でも起こり、ラングレンは農業研究局のイジメの対象になっていった。
★ラングレンは戦い始める
2016年2月10日(ラングレン40歳)、その研究成果を学術誌に投稿した。2016年7月14日にオンライン出版された。
- Neonicotinoid-contaminated pollinator strips adjacent to cropland reduce honey bee nutritional status.
Mogren CL, Lundgren JG.
Sci Rep. 2016 Jul 14;6:29608. doi: 10.1038/srep29608.
PMID:27412495
また、問題点をメディアに積極的に話すようになった。
なお、農務省・農業研究局はそのウェブサイトで、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だという立場をとっている。
→ index : USDA ARS
農薬・ネオニコチノイドが原因という説を否定してはいないが、健康なミツバチのコロニーを農薬・ネオニコチノイドで処理しても崩壊はなかったので、ネオニコチノイド説を重視していない。
それで、ネオニコチノイド処理した種子は米国では販売できる。一方、欧州では販売が禁止されている。
ラングレンは、農業研究局の農薬・ネオニコチノイド対する見解と幾分異なる研究を行ない、メディアに話し、研究論文として発表していた。ある意味、農業研究局を告発していたのである。
ラングレンは「米国の農業は危機にある。農業の多様性が欠け、農薬企業の推奨する栽培方法一辺倒になり、ミツバチや蝶による作物受粉が大きく減っている。しかし、今までは、果物や葉物などの食品の3分の1が、ミツバチによって受粉されていた。その300億ドル(約3兆円)の養蜂業ビジネスが脅威にさらされている。研究結果が社会活動に大きな影響を与えるほど重要なら、連邦政府の科学者はそのことを社会にオープンに伝えるべきで、それは価値のある戦いだ」と述べている。
コクハラ(告発に対する嫌がらせ)が増強した。ラングレンは、農業研究局の上司から「論文発表の妨害」「外部でその話をするな」など研究を妨害だけでなく、農務省から研究グラントが採択されないイヤガラセを受けた。ついには、上司から30日間の停職を科されるというコクハラを受けた(後に停職期間は14日間に減)。
なおコクハラ、告発に対する嫌がらせ(ハラスメント)は、白楽の造語である。
2015年10月28日、ラングレンは、農業研究局の上司からコクハラを受けたと連邦メリットシステム保護委員会(United States Merit Systems Protection Board)に訴えた。
訴えは、環境責任公務員団体(Public Employees for Environmental Responsibility (PEER))の支援を受けた。環境責任公務員団体は、環境問題について行動する雇用者を守る国家的な非営利団体である。
連邦メリットシステム保護委員会に提出された訴状で、ラングレンは、農業研究局の上司が1年以上前から研究遂行・発表を妨害するようになったと述べている。
ラングレンは、また、以前、農業研究局が政治的理由で、彼の研究上の発見を外部で話すことを妨害し、他の科学者の研究をラングレンが審査するのを妨害したと主張した。
農業研究局は、ラングレンが農業研究局の承認なしに研究論文を学術誌に発表したこと。また、フィラデルフィアとワシントンで講演した際の旅費の書類に不正があったと主張した。
この主張に対して、ラングレンは、研究論文は、広範に使用されているニコチンベースの農薬・クロチアニジンのモオオカバマダラ(蝶の一種)への非標的効果に関するもので、発表が不適切とは言えない。また、旅費の書類はたまたま間違えただけだと反論している。
2016年x月x日、ラングレンは農業研究局を辞めた。2015年に就任したエクダイシス財団(ECDYSIS Foundation)会長、また、ブルー・ダッシャー・ファーム(Blue Dasher Farm)を設立し、農薬の昆虫への悪影響について研究と社会活動を続けている。
【動画】
ドキュメンタリー:「Tom Theobald looks at Neonicotinoid insecticides and the mass-death of bee colonies」(英語)25分21秒
Muhaht268 が 2011/09/22 にアップロード
この事件でコクハラを受けたもう1人の研究者・ジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)がいる。
「もう1人」と書いたが、実際はコクハラされた研究者が他にもいると思われる。そして、多数の研究者が迫害を恐れて、口をつぐんでいるようだ。
問題点を軽くおさらいしよう。
米国・農務省は、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だと主張している。
しかし、農薬・ネオニコチノイドがミツバチの減少に大きく寄与する論文が発表されている。例えば、英国、フランス、日本、イタリアの研究者は、殺虫剤でミツバチが病気にかかりやすくなり、ミツバチの死亡率が上昇すると報告している。農薬・ネオニコチノイドはまた、ミツバチの記憶と航行能力に悪影響を及ぼしていると報告している。
ミツバチにネオニコチノイドを摂食させると、検出できないほど低い量でさえ、ミツバチが病原菌に感染しやすくなる。
ところが、米国・農務省は、殺虫剤の可能性を除外したいらしい。「ミツバチの病気と寄生虫」が原因だとしたいらしい。化学薬品産業と種子産業のロビー活動で、農務省は、産業寄りの政策を施行しているという憶測がある。
つまり、企業と官僚が結託した不正だと指摘する声もある。
ジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis、写真出典)は、2005年から米国・農務省・農業研究局(USDA・ARS)のベルツヴィル研究所(Beltsville)のミツバチ実験部の部長である。
ペティスは、大量のミツバチが2006年に消滅した現象を指摘し、この現象を蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)と命名した科学者である。ミツバチの研究で著名な昆虫学者である。
ペティスは、前述のジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)と同じ農業研究局(USDA・ARS)の研究者だが、場所も組織上も全く別の研究所に所属し、ラングレンと直接の関係はない。但し、同じ、農薬・ネオニコチノイドでコクハラを受けた。
2014年4月(ペティスは61歳)、ペティスは、米国議会の下院・農業委員会(House Agriculture Committee)で、蜂群崩壊症候群の原因について証言した。
ペティスは、自分が開発した方法で農薬・ネオニコチノイドがミツバチの免疫系を危険にさらすことを見つけていた。しかし、下院・農業委員会では、ミツバチが死ぬ主な原因として、化学薬品会社が頻繁に主張する寄生虫・ミツバチヘギイタダニ(varroa mite、写真出典)の脅威に焦点を当てて話した。
ところが、委員長のオースティン・スコット議員(Austin Scott)が、「ミツバチヘギイタダニを全部駆除すれば問題は解決するか?」と質問した。
その質問に、ペティスは、「たとえ明日、寄生虫・ミツバチヘギイタダニを全部駆除できても、問題はまだ残っています。ミツバチにとって、農薬・ネオニコチノイドが新たな危険となる懸念があります」と答えた。
2014年6月、下院で証言した約2か月後、ペティスは、ベルツヴィル研究所(Beltsville)の部長としての管理権限をすべてはく奪され、降格された。
【動画】
「Naming a Bee Epidemic」(英語)4分36秒
The Beekeeper が2014/03/18 に公開
●4.【白楽の感想】
《1》コクハラ
大量のミツバチが消滅する蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)の原因は、2017年6月1日現在、つかめていない。
農薬・ネオニコチノイドが原因だという説があり、欧州では、農薬・ネオニコチノイドの使用を禁止している。一方、米国では禁止していない。
写真出典:https://www.mprnews.org/story/2015/10/28/bee-expert
この状況で、米国の責任部局の本丸である農務省・農業研究局は、配下の統合作物システム研究所の研究員・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren) が農薬・ネオニコチノイド原因説を発表したことでコクハラした。
同じく配下のベルツヴィル研究所(Beltsville)のミツバチ実験部長のジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)が議会で農薬・ネオニコチノイド原因説に言及したことでコクハラした。
農業研究局の組織的なコクハラである。
研究組織の方針の間違いを告発する研究者の言動を組織はどうとらえるべきなのだろうか?
一般的に、組織はイエスマンばかりの部下では衰退する。組織にとってイヤな意見を述べる部下を、厚遇しなくてもいいけど、最低線、許容すべきだろう。それが、組織の健全性を保つ仕組みである。
特に、研究を業務とする組織では、組織にとってイヤな意見を述べる部下は貴重である。しかも、研究では反対意見を自由に議論できる雰囲気や文化風土が必須である。
告発者ではなく、むしろ、コクハラする人間を排除すべきである。彼(女)らこそ、健全な研究環境を破壊する害毒だ。研究の発展を本質的に阻害し研究組織の衰退を招く。コクハラをセクハラ、パワハラと同等に規則で禁止し、コクハラ人間を処分すべきだ。
《2》白楽の体験
白楽は、1996年に書籍『アメリカの研究費とNIH』を上梓し、日本の研究費配分の問題点を指摘した。当時、官僚が何人も白楽の研究室を訪れ、日本の研究費配分システムの改善のために米国のシステムを聞きに来た。何人もの官僚が「『アメリカの研究費とNIH』は霞が関のバイブルです」と言っていた。
そして、政治家から、自民党本部で講演するように依頼され、講演した。その講演の席で、元大臣の政治家が白楽の主張を盾に、文科省の研究費担当・官僚を叱責した。以来、白楽は文科省の官僚からコクハラを受け、文科省関連の研究グラントが採択されないという経験をしている。
それ以前に、ある学会が企画した研究費配分システムの講演会で講演をした。講演者は2人で、他の人は、文科省の科研費配分担当の官僚だった。彼が日本の研究費の実態について講演し、私が米国の研究費の実態について講演した。当時、日本は米国の研究費配分システムに無知だったし、研究費配分システムは、米国に大きく遅れていた。
文科省の科研費配分担当の官僚は、私の講演内容が衝撃的だったらしく、講演後、「そんな改革を公言して、あなた方研究者が困るんじゃないですか」と私を脅迫するような態度で威嚇した。細かいことは省くが、コクハラである。
白楽は日本のためと思って米国の研究費配分システムの調査をし本を出版したが、改善すべき当の文科省は感謝するどころか、嫌がらせをしたのである。とてもオドロイタ。
なお、日本はそれから数年かけて、『アメリカの研究費とNIH』に記述した改革案をかなり取り入れ、日本の研究費制度を大きく改善した。
《3》なぜ?
蜂群崩壊症候群の原因として農薬・ネオニコチノイドに言及すると、米国・農務省は、なぜ、コクハラするのか?
オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど欧州各国はネオニコチノイド殺虫剤の使用を禁止している。一方、米国では禁止していない。
欧州の研究者が農薬・ネオニコチノイドの可能性を指摘しているのだから、当然、米国の研究者も検討する。
しかし、米国・農務省は、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だと主張している。その意向に沿わない言動の研究者を排除したい。
なぜか?
ネオニコチノド殺虫剤を製造販売している化学薬品会社が裏にいるからだろう。2008年と統計は古いが、化学薬品会社は、ネオニコチノド殺虫剤を25億ドル(約2500億円)、売上げた。
また、ネオニコチノド処理した種子を販売する企業・モンサント社も裏にいるだろう。
これらの企業は収入を失いたくない。それで、ロビー活動で蜂群崩壊症候群の原因を「ミツバチの病気と寄生虫」にしているのだろう。
もし、蜂群崩壊症候群の原因が「ミツバチの病気と寄生虫」でなく、農薬・ネオニコチノイドだとなれば、養蜂業者から多額の損害賠償が要求されるに違いない。会社が倒産するほどの賠償金を払うことになるだろう。
だから、原因はミツバチのせいであって農薬のせいにしたくない。このまま、ミツバチは全滅してしまえば、農薬・ネオニコチノイド原因説は霧散する。
会社が倒産するほどの賠償金は、大げさだろうか?
タバコの訴訟で、タバコ会社は総額42兆円の和解金を39州政府に払っている。
→ 2008年記事:最新たばこ情報|海外情報|米国におけるたばこ訴訟の和解について。保存版
《4》研究論文を単純に信用するな
再掲するが、ウィキペディアによると、蜂群崩壊症候群の原因は以下のように解説されている。
以下の文章の出典:蜂群崩壊症候群 – Wikipedia
原因には疫病・ウイルス説(イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)など)、栄養失調説、ネオニコチノイド(イミダクロプリドなど)の農薬・殺虫剤説、電磁波説、害虫予防のための遺伝子組み換え作物説、「ミツバチへの過労働・環境の変化によるストレス説」などが唱えられている。
これらのほかに飢餓、病原体や免疫不全、ダニや真菌、養蜂上の慣習(例えば抗生物質の使用や、養蜂箱の長距離輸送)なども指摘される。一つの要素が原因であるか、複数の要素の組み合わせが原因であるか、またCCDの影響を受けた異なる地域において独立におきるのか、関連して発生するのかは分かっていない。
これらの原因を評価する時、多くの人は、科学論文中のデータを事実として扱うだろう。ところが、ネカト研究者の白楽は、科学論文中のデータにねつ造・改ざんがあるかもしれないと思う。
とくに、企業が絡む場合は、助成金バイアス(Funding bias、sponsorship bias)があり、ねつ造・改ざんの可能性が高くなる。
今回だと、化学薬品会社や種子会社から助成を受けた研究者は、農薬が原因ではないとする研究論文を発表するだろう。そして、どこから研究助成を受けたか明記しない論文や、利益団体との関係を明示しない論文もある(多い?)だろう。
つまり、出版された科学論文は、ほぼすべて、助成金による研究偏向があるかもしれないと思って読むしかない。
そういう配慮なしに、科学論文のデータを「素直」に事実と受け取ると、悪者の思うつぼで、偏向した知識を助長してしまう。
蜂群崩壊症候群の論文では、化学薬品会社や種子会社の助成金が大きい。従って、「ミツバチの病気と寄生虫」原因説と「農薬・ネオニコチノイド」原因説を五分五分に比較しない方がいい。「農薬・ネオニコチノイド」原因説は大きく抑圧されているハズだ。
【動画】
ドキュメンタリー「Killing Bees: Are Government and Industry Responsible? 」(英語)27分18秒
Beyond Pesticides が2012/09/18 に公開
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●5.【主要情報源】
① 2015年10月29日のジョセフィーン・マルコッティ(Josephine Marcotty)記者の「StarTribune」記事:South Dakota scientist says USDA censored pesticide research – StarTribune.com(保存版)
② 2015年10月28日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Washington Post」記事:Suspended USDA researcher alleges agency tried to block his research into harmful effects of pesticides on bees, butterflies – The Washington Post(保存版)
③ 2016年3月3日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Washington Post」記事:Was a USDA scientist muzzled because of his bee research? – The Washington Post (保存版)④ 2016年3月3日のジョン・エンティン(Jon Entine)記者の「Genetic Literacy Project」記事:Jonathan Lundgren says USDA is censoring him for criticizing neonicotinoids: What’s the truth? | Genetic Literacy Project(保存版)
⑤ 2016年4月28日のデーヴィッド・グティエレス(David Gutierrez)記者の「NaturalNews」記事:USDA silencing researchers who try to warn about pesticides harming pollinators… Every agency silences its own scientists! – NaturalNews.com(保存版)
⑥ 2016年4月8日のキャロル・グリーヴ(Carol Grieve)記者の「Food Integrity Now」記事:Dr. Jonathan Lundgren: USDA Whistleblower – Food Integrity Now(保存版)
⑦ 2015年10月29日のニック・マイア(Nick Meyer)記者の「March Against Monsanto」記事:USDA Whistleblower Reveals Shocking Truth Behind Massive Bee Die-Off | March Against Monsanto(保存版)
⑧ 2017年2月16日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Discover」記事:Buzzkill: Will America’s Bees Survive? | DiscoverMagazine.com (保存版)
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