国研:「コクハラ」:農薬・ネオニコチノイド(neonicotinoid):ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren) 対 農務省・農業研究局(USDA・ARS(Agricultural Research Service))(米)

2017年6月2日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。2017年現在、ミツバチが大量に消滅する現象が世界中で起こっているが、原因はつかめていない。2015年、米国・農務省・農業研究局の研究員・ラングレンが農薬・ネオニコチノイドの危険性を告発した。この告発に対して、農業研究局の上司がコクハラをした(コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))。

【追記】
・2018年5月15日記事:The Neonic Ban: A Scientific Fraud Becomes Enshrined In EU Regulatory Law | Science 2.0
・2018年6月21日記事:Viewpoint: EU’s neonicotinoid ban is a ‘scientific fraud’ and won’t protect bees | Genetic Literacy Project

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

http://www.march-against-monsanto.com/suspended-scientist-blows-the-whistle-on-usda-for-censoring-research-on-bee-killing-pesticides/

2006年秋から2017年現在まで、大量のミツバチが消滅する現象が指摘されている。この現象は蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)と呼ばれ、米国だけでなく、欧州、アジア(含・日本)でも同様な現象が見られている。

原因は不明である。

農産物の受粉をミツバチに依存している世界中の農家が大打撃を受けている。

実は農作物の35%はミツバチの受粉によって実をつけています。世界の食糧の90%にあたる約100種類の作物のうち71種類までがそのミツバチ受粉の恩恵を受けているものなのです。

イチゴだけでなくリンゴ、オレンジ、イチゴ、玉ねぎ、ニンジンなど、ミツバチはたくさんの作物の花粉媒介の役目を担っています。(ミツバチが減少!?ネオニコチノイドが原因で全世界食糧危機へ! | 神様の食材

2017年4月27日、長野県のナシの人工授粉(白楽撮影)。ミツバチはいません。 写真をクリックすると写真は大きくなります。

蜂群崩壊症候群の原因は不明だが、可能性の1つとして農薬・ネオニコチノイド殺虫剤の影響が指摘されている。

2000年頃から徐々に、オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど欧州各国はネオニコチノイド殺虫剤の使用を禁止し始めた。

一方、米国・農務省は、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だと主張し、米国はネオニコチノイドの使用を禁止していない。

米国・環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)も関係省庁だが、同じ主張をしている。

本記事では、農務省に絞り、環境保護庁には触れない。

2015年、米国・農務省・農業研究局(USDA・ARS(Agricultural Research Service))・統合作物システム研究所の昆虫学者・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)は、ネオニコチノイド殺虫剤がミツバチの消滅の原因だとする研究結果を論文発表し、講演会や新聞メディアでも発表した。組織内部からの告発という形になった。

この発表は農務省・農業研究局の方針に異を唱える内容なので、農業研究局の上司は激怒し、告発に対する報復・コクハラをした(コクハラ:告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))。

具体的には、研究グラントの不採択。研究遂行の妨害。論文の共著者になることの禁止。論文発表の妨害。外部での話の禁止。30日間の停職処分(後に14日間に減)である。

2015年、コクハラ被害者のジョナサン・ラングレンが、連邦メリットシステム保護委員会(United States Merit Systems Protection Board)にコクハラを訴えた。

2016年(?)、ラングレンは農業研究局を辞職した。

http://www.startribune.com/south-dakota-scientist-says-usda-censored-pesticide-research/338164501/

 

もう1人のコクハラ被害者はジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)である。

ペティスは、農務省・農業研究局のベルツヴィル研究所(Beltsville)の部長だった。

2014年4月(ペティスは61歳)、議会・下院・農業委員会で、「たとえ明日、寄生虫・ミツバチヘギイタダニを全部駆除できても、蜂群崩壊症候群問題はまだ解決できません。ミツバチにとって、農薬・ネオニコチノイドが新たな危険となる懸念があります」と答え、証言した約2か月後、管理権限をすべてはく奪され、降格された。

2017年6月1日現在、蜂群崩壊症候群の原因は依然として不明である。ネオニコチノイド殺虫剤が原因なのか、そうでないのか、誰もわからない。

蜂群崩壊症候群は、地球温暖化と並んで、世界中の作物・果樹生産に巨大な損失をもたらすと想定されている。

本ブログの主対象はネカト問題なので、蜂群崩壊症候群の問題は状況を把握できる程度しか解説しない。ポイントを、米国・農業研究局(の担当者)のラングレンへのコクハラに絞り、ペティスへのコクハラを少し加える。

農務省・農業研究局の平原地帯部門の統合作物システム研究所(Integrated Cropping Systems Research)。サウスダコタ州ブルッキングス(Brookings)にある。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:農務省・農業研究局
  • 集団名(英語): U.S. Department of Agriculture(USDA), ARS(Agricultural Research Service)
  • 集団の解説:農務省・農業研究局の職員数は約2,700人。予算11億ドル(約1100億円、2014年)。①ウェブサイト:https://www.ars.usda.gov/、② Agricultural Research Service – Wikipedia
  • 分野:農業
  • コクハラ最初の年:2015年
  • 発覚年:2015年
  • 加害者人数:?
  • 被害(者):①農務省・農業研究局の昆虫学者・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren)。②農務省・農業研究局の昆虫学者・ジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)。③蜂。④養蜂業者。⑤農家
  • ステップ1(発覚):コクハラ被害者のジョナサン・ラングレンが、連邦メリットシステム保護委員会(United States Merit Systems Protection Board)に訴えた。
  • ステップ2(メディア): 「Washington Post」紙のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者が熱心に報道。多数の新聞メディアが追従している
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①連邦メリットシステム保護委員会
  • 不正:コクハラ(告発に対する嫌がらせ(ハラスメント))
  • 不正数:告発に対する報復行為を数回。①ジョナサン・ラングレンに対して「研究グラントの不採択。研究遂行の妨害。論文の共著者になることの禁止。論文発表の妨害。外部での話の禁止。30日間の停職処分(後に14日間に減)」。②ジェフリー・ペティスにたいして「管理権限をすべてはく奪し、降格」。
  • 結末:告発者・ラングレンは辞職。ペティスは在職。コクハラ者・コクハラ機関は無処分

【動画】
講演、日本語字幕付き:「Marla Spivak: Why bees are disappearing 」(英語)15分57秒
日本語翻訳:Hidehito Sumitomo、校正:Wataru Narita
TED が2013/09/17 に公開

【動画】
講演:「Jonathan Lundgren, Ph.D. Keynote」(英語)43分29秒
Beyond Pesticides が 2016/05/10 に公開

ペンシルベニア州の養蜂家でペティスの長年の友人であるデイブ・ハッケンバーグ(Dave Hackenberg)は、「降格の正式な理由は、管理者としてのパフォーマンスが悪いからだと告げられた、とペティスは言っていた。しかし、 本当の理由は彼の議会証言だと思う」と述べている。

ペティスは、農務省のお偉方が不利になる事実を公表したくないらしい。降格の理由・状況に対する意見をを公式には一度も発表していなかった。

しかし、ハッケンバーグが記者に話したので、「私はハッケンバーグといろいろな話をしています。でも、私が降格された時、私が彼に何を話したか覚えていません」と、ペティスは記者に語った。

ペティスは、農務省の事務局から、下院・農業委員会での証言は寄生虫・ミツバチヘギイタダニに限定して欲しいと指示されていた。

ペティスは、「私は素朴に、蜂群崩壊症候群のさまざまな問題はそれぞれ担当する人がいて、私は大勢の1人だろうと思っていました。でも、実際は、私の証言が蜂群崩壊症候群の問題の全体像として議会で使用されているようです」と述べた。

ジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)。写真:Stephen Ausmus/USDA-ARS。写真出典

●4.【白楽の感想】

《1》コクハラ

大量のミツバチが消滅する蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん、Colony Collapse Disorder、CCD)の原因は、2017年6月1日現在、つかめていない。

農薬・ネオニコチノイドが原因だという説があり、欧州では、農薬・ネオニコチノイドの使用を禁止している。一方、米国では禁止していない。

写真出典:https://www.mprnews.org/story/2015/10/28/bee-expert

この状況で、米国の責任部局の本丸である農務省・農業研究局は、配下の統合作物システム研究所の研究員・ジョナサン・ラングレン (Jonathan Lundgren) が農薬・ネオニコチノイド原因説を発表したことでコクハラした。

同じく配下のベルツヴィル研究所(Beltsville)のミツバチ実験部長のジェフリー・ペティス(Jeffrey Pettis)が議会で農薬・ネオニコチノイド原因説に言及したことでコクハラした。

農業研究局の組織的なコクハラである。

研究組織の方針の間違いを告発する研究者の言動を組織はどうとらえるべきなのだろうか?

一般的に、組織はイエスマンばかりの部下では衰退する。組織にとってイヤな意見を述べる部下を、厚遇しなくてもいいけど、最低線、許容すべきだろう。それが、組織の健全性を保つ仕組みである。

特に、研究を業務とする組織では、組織にとってイヤな意見を述べる部下は貴重である。しかも、研究では反対意見を自由に議論できる雰囲気や文化風土が必須である。

告発者ではなく、むしろ、コクハラする人間を排除すべきである。彼(女)らこそ、健全な研究環境を破壊する害毒だ。研究の発展を本質的に阻害し研究組織の衰退を招く。コクハラをセクハラ、パワハラと同等に規則で禁止し、コクハラ人間を処分すべきだ。

《2》白楽の体験

白楽は、1996年に書籍『アメリカの研究費とNIH』を上梓し、日本の研究費配分の問題点を指摘した。当時、官僚が何人も白楽の研究室を訪れ、日本の研究費配分システムの改善のために米国のシステムを聞きに来た。何人もの官僚が「『アメリカの研究費とNIH』は霞が関のバイブルです」と言っていた。

そして、政治家から、自民党本部で講演するように依頼され、講演した。その講演の席で、元大臣の政治家が白楽の主張を盾に、文科省の研究費担当・官僚を叱責した。以来、白楽は文科省の官僚からコクハラを受け、文科省関連の研究グラントが採択されないという経験をしている。

それ以前に、ある学会が企画した研究費配分システムの講演会で講演をした。講演者は2人で、他の人は、文科省の科研費配分担当の官僚だった。彼が日本の研究費の実態について講演し、私が米国の研究費の実態について講演した。当時、日本は米国の研究費配分システムに無知だったし、研究費配分システムは、米国に大きく遅れていた。

文科省の科研費配分担当の官僚は、私の講演内容が衝撃的だったらしく、講演後、「そんな改革を公言して、あなた方研究者が困るんじゃないですか」と私を脅迫するような態度で威嚇した。細かいことは省くが、コクハラである。

白楽は日本のためと思って米国の研究費配分システムの調査をし本を出版したが、改善すべき当の文科省は感謝するどころか、嫌がらせをしたのである。とてもオドロイタ。

なお、日本はそれから数年かけて、『アメリカの研究費とNIH』に記述した改革案をかなり取り入れ、日本の研究費制度を大きく改善した。

《3》なぜ?

蜂群崩壊症候群の原因として農薬・ネオニコチノイドに言及すると、米国・農務省は、なぜ、コクハラするのか?

オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど欧州各国はネオニコチノイド殺虫剤の使用を禁止している。一方、米国では禁止していない。

欧州の研究者が農薬・ネオニコチノイドの可能性を指摘しているのだから、当然、米国の研究者も検討する。

しかし、米国・農務省は、蜂群崩壊症候群の原因を主に「ミツバチの病気と寄生虫」だと主張している。その意向に沿わない言動の研究者を排除したい。

なぜか?

ネオニコチノド殺虫剤を製造販売している化学薬品会社が裏にいるからだろう。2008年と統計は古いが、化学薬品会社は、ネオニコチノド殺虫剤を25億ドル(約2500億円)、売上げた。

また、ネオニコチノド処理した種子を販売する企業・モンサント社も裏にいるだろう。

これらの企業は収入を失いたくない。それで、ロビー活動で蜂群崩壊症候群の原因を「ミツバチの病気と寄生虫」にしているのだろう。

もし、蜂群崩壊症候群の原因が「ミツバチの病気と寄生虫」でなく、農薬・ネオニコチノイドだとなれば、養蜂業者から多額の損害賠償が要求されるに違いない。会社が倒産するほどの賠償金を払うことになるだろう。

だから、原因はミツバチのせいであって農薬のせいにしたくない。このまま、ミツバチは全滅してしまえば、農薬・ネオニコチノイド原因説は霧散する。

会社が倒産するほどの賠償金は、大げさだろうか?

タバコの訴訟で、タバコ会社は総額42兆円の和解金を39州政府に払っている。
→ 2008年記事:最新たばこ情報|海外情報|米国におけるたばこ訴訟の和解について保存版

《4》研究論文を単純に信用するな

再掲するが、ウィキペディアによると、蜂群崩壊症候群の原因は以下のように解説されている。

以下の文章の出典:蜂群崩壊症候群 – Wikipedia

原因には疫病・ウイルス説(イスラエル急性麻痺ウイルス(IAPV)など)、栄養失調説、ネオニコチノイド(イミダクロプリドなど)の農薬・殺虫剤説、電磁波説、害虫予防のための遺伝子組み換え作物説、「ミツバチへの過労働・環境の変化によるストレス説」などが唱えられている。

これらのほかに飢餓、病原体や免疫不全、ダニや真菌、養蜂上の慣習(例えば抗生物質の使用や、養蜂箱の長距離輸送)なども指摘される。一つの要素が原因であるか、複数の要素の組み合わせが原因であるか、またCCDの影響を受けた異なる地域において独立におきるのか、関連して発生するのかは分かっていない。

これらの原因を評価する時、多くの人は、科学論文中のデータを事実として扱うだろう。ところが、ネカト研究者の白楽は、科学論文中のデータにねつ造・改ざんがあるかもしれないと思う。

とくに、企業が絡む場合は、助成金バイアス(Funding bias、sponsorship bias)があり、ねつ造・改ざんの可能性が高くなる。

今回だと、化学薬品会社や種子会社から助成を受けた研究者は、農薬が原因ではないとする研究論文を発表するだろう。そして、どこから研究助成を受けたか明記しない論文や、利益団体との関係を明示しない論文もある(多い?)だろう。

つまり、出版された科学論文は、ほぼすべて、助成金による研究偏向があるかもしれないと思って読むしかない。

そういう配慮なしに、科学論文のデータを「素直」に事実と受け取ると、悪者の思うつぼで、偏向した知識を助長してしまう。

蜂群崩壊症候群の論文では、化学薬品会社や種子会社の助成金が大きい。従って、「ミツバチの病気と寄生虫」原因説と「農薬・ネオニコチノイド」原因説を五分五分に比較しない方がいい。「農薬・ネオニコチノイド」原因説は大きく抑圧されているハズだ。

【動画】
ドキュメンタリー「Killing Bees: Are Government and Industry Responsible? 」(英語)27分18秒
Beyond Pesticides が2012/09/18 に公開

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●5.【主要情報源】

① 2015年10月29日のジョセフィーン・マルコッティ(Josephine Marcotty)記者の「StarTribune」記事:South Dakota scientist says USDA censored pesticide research – StarTribune.com保存版
② 2015年10月28日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Washington Post」記事:Suspended USDA researcher alleges agency tried to block his research into harmful effects of pesticides on bees, butterflies – The Washington Post保存版
③ 2016年3月3日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Washington Post」記事:Was a USDA scientist muzzled because of his bee research? – The Washington Post (保存版)④ 2016年3月3日のジョン・エンティン(Jon Entine)記者の「Genetic Literacy Project」記事:Jonathan Lundgren says USDA is censoring him for criticizing neonicotinoids: What’s the truth? | Genetic Literacy Project保存版
⑤ 2016年4月28日のデーヴィッド・グティエレス(David Gutierrez)記者の「NaturalNews」記事:USDA silencing researchers who try to warn about pesticides harming pollinators… Every agency silences its own scientists! – NaturalNews.com保存版
⑥ 2016年4月8日のキャロル・グリーヴ(Carol Grieve)記者の「Food Integrity Now」記事:Dr. Jonathan Lundgren: USDA Whistleblower – Food Integrity Now保存版
⑦ 2015年10月29日のニック・マイア(Nick Meyer)記者の「March Against Monsanto」記事:USDA Whistleblower Reveals Shocking Truth Behind Massive Bee Die-Off | March Against Monsanto保存版
⑧ 2017年2月16日のスティーブ・フォルク(Steve Volk)記者の「Discover」記事:Buzzkill: Will America’s Bees Survive? | DiscoverMagazine.com保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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