化学:プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)、クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna Bhattacharyya)(インド)

2020年1月16日掲載 

ワンポイント:2019年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた査読盗用(peer review pirates)事件。グワーハーティー大学(Gauhati University in Jalukbari)のチョードリー院生(推定)とバタキャリヤ教授が査読中の論文の内容と図を盗用し、自分たちの「2017年のCrystalEngComm」論文として発表した。査読盗用(peer review pirates)が発覚し、2019 年1月、論文は撤回された。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-6368-9533、顔写真は見つからなかった)とクリシュナ・バタキャリヤ(Krishna Bhattacharyya、Krishna G. Bhattacharyya、ORCID iD:?、写真出典)は、インドのグワーハーティー大学(Gauhati University in Jalukbari)に所属し、チョードリーは院生(推定)で、バタキャリヤは教授だった。なお、バタキャリヤは、事件発覚前に退職していて、協力教員(Associated Faculty)になっていた。専門は化学(触媒学)である。

[最初にお断り:本事件の問題論文の著者はチョードリー院生(推定)とバタキャリヤ教授の2人である。2人のうちのどちらが査読盗用(peer review pirates)の実行犯なのか不明である。両者が共犯、つまり、2人ともが実行犯として話を進めた]

2019年1月28日、チョードリー院生(院生は推定だが、以下、院生とする)とバタキャリヤ教授の「2017年のCrystalEngComm」論文が撤回された。

撤回理由は、査読した論文の内容と図表を盗用し、自分たちの論文として発表したからである。なお、この種の盗用を査読盗用と呼ぶ。英語の「peer review pirates」を直訳すると“査読海賊”だが、“査読盗用”とした。

グワーハーティー大学は調査委員会を設け、査読盗用(peer review pirates)と結論した。チョードリー院生を退学処分(推定)にしたが、バタキャリヤ教授は既に退職し、協力教員(Associated Faculty)だった。協力教員を外す処分をした。

2019年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた査読盗用事件。

グワーハーティー大学・化学科棟(Department of Chemistry – Gauhati University)。写真出典

★プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)

  • 国:インド
  • 成長国:インド(?)
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし(?)
  • 男女:不明
  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2015年に最初の論文を発表している。その前年に大学院に入学したとして、その時を22歳とした
  • 現在の年齢:29 歳?
  • 分野:化学
  • 最初の不正論文発表:2016年(24歳?)
  • 不正論文発表:2017年(25歳?)
  • 発覚年:2019年(27歳?)
  • 発覚時地位:グワーハーティー大学・院生(?)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国王立化学会の学術誌・編集者(詳細不明)と思われる
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②グワーハーティー大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:査読盗用(peer review pirates)
  • 不正論文数:2報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: 大学院を退学処分(?)
  • 日本人の弟子・友人:不明

★クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2016年4月に大学を退職した時を65歳とした
  • 現在の年齢:70 歳?
  • 分野:化学
  • 最初の不正論文発表:2016年(65歳?)
  • 不正論文発表:2017年(66歳?)
  • 発覚年:2019年(68歳?)
  • 発覚時地位:グワーハーティー大学・教授を退職し、協力教員(Associated Faculty)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国王立化学会の学術誌・編集者(詳細不明)と思われる
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②グワーハーティー大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:査読盗用(peer review pirates)
  • 不正論文数:2報撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。事件が発覚した時、既に退職し、協力教員(Associated Faculty)だった
  • 処分:協力教員を外す処分をされた(と思われる)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)

ほとんど不明。

  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2015年に最初の論文を発表している。その前年に大学院に入学したとして、その時を22歳とした
  • 2014年(22歳?):インドのグワーハーティー大学・院生(?)。指導教授:クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)
  • 2019年1月(27歳?):査読盗用(peer review pirates)が発覚
  • 2019年(27歳?):大学院を退学処分(?)

★クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)
出典:①:Krishna Gopal Bhattacharyya | Walnut Publication

  • 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2016年4月に大学を退職した時を65歳とした
  • 19xx年(xx歳):インドのxx大学で学士号取得:化学
  • 19xx年(xx歳):英国のインペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London, ICL)で研究博士号(PhD)を取得:化学
  • 1975年7月(24歳?):インドのグワーハーティー大学・教員、のちに教授
  • 2016年4月(65歳?):同大学を退職
  • 2019年1月(68歳?):査読盗用(peer review pirates)が発覚

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★論文発表

インドのグワーハーティー大学(Gauhati University in Jalukbari)・化学科のプリヤダルシ・ロイ・チョードリー院生(Priyadarshi Roy Chowdhury)(院生は推定だが、以下、院生とする)とクリシュナ・バタキャリヤ教授(Krishna G. Bhattacharyya)の2人の研究者が、英国王立化学会が運営する学術誌「CrystalEngComm」に2017年7月に論文を発表した(以下)。

  • Chowdhury, Priyadarshi & Bhattacharyya, Krishna. (2017).
    Typical and interstratified arrangements in Zn/Al layered double hydroxides: an experimental and theoretical approach.
    CrystEngComm. 10.1039/C7CE00216E.

★論文撤回

ネカト発覚の経緯は不明だが、内容から推察すると、英国王立化学会の学術誌・編集者が気が付いたものと思われる。

2019年1月28日、この「2017年のCrystalEngComm」論文が撤回された。
 → 2019年1月28日の撤回告知:Retraction: Typical and interstratified arrangements in Zn/Al layered double hydroxides: an experimental and theoretical approach – CrystEngComm (RSC Publishing) DOI:10.1039/C9CE90019E

撤回理由は、査読した論文の内容と図表を盗用し、自分たちの論文として発表したからである。この行為を査読盗用(peer review pirates)と呼ぶ。英語の「peer review pirates」は直訳すると“査読海賊”だが、“査読盗用”とした。

学術誌「CrystalEngComm」・編集部は、「2017年のCrystalEngComm」論文が、イランのアザーバイジャン・シャヒッド・マダニ大学(Azarbaijan Shahid Madani University)の研究者が出版した「2017年のDalton Transactions」論文(以下)に非常によく似ていることに、気が付いた。

  • New insights into the interstratification phenomenon in layered double hydroxides (LDHs): a comparison of experimental and computational results for ZnAl-LDH containing bis-tetrazole
    R. Ghiyasi and Z. Rezvani, Dalton Trans., 2017, 46, 9565–9576

調査すると、「2017年のDalton Transactions」論文をバタキャリヤ教授またはチョードリー院生に査読してもらっていた。この査読中に論文内容が盗まれたと判断した。

撤回告知には、査読したのはチョードリー院生なのかバタキャリヤ教授なのか、記載はない。

「撤回監視(Retraction Watch)」は、チョードリー院生のパブロン(Publons)のプロフィール(https://publons.com/researcher/1316404/priyadarshi-roy-chowdhury/ リンク切れ)には13論文の査読経験があると指摘していて、チョードリー院生が査読盗用したことを暗示している。

★処分

学術誌から盗用の報告を受けたグワーハーティー大学は調査委員会を設け調査した。

調査委員会はチョードリー院生とバタキャリヤ教授の「2017年のCrystalEngComm」論文と、被盗用論文とされた「2017年のDalton Transactions」論文を徹底的に比較した。

そして、チョードリー院生とバタキャリヤ教授が「2017年のDalton Transactions」論文の内容、スタイル、そして、図のいくつかをコピーし、加工し、「2017年のCrystalEngComm」論文に使用した、つまり盗用したと結論した。

2人の処分の記述を見つけっられなかったが、チョードリー院生は退学処分になったと思う。

クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)は、事件が発覚する前の2016年2月13日時点では教授にリストされていた(2016年2月13日保存:Gauhati University)。

同じく事件発覚前だが、2018年1月27日時点で、退職教授だが協力教員(Associated Faculty)になっていた(Gauhati University )。

この事件でバタキャリヤ教授が協力教員(Associated Faculty)から外されたと思う。ただ確証はない。というのは、「Department of Chemistry – Gauhati University」(http://www.gauhati.ac.in/chemistry.php)のサイトにアクセスできなくなったからだ(以前はできた気がする)。

この査読盗用事件は、2019年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)

★パブメド(PubMed)

2020年1月15日現在、パブメド(PubMed)で、プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)の論文を「Priyadarshi Roy Chowdhury」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2014~2019年の6年間の20論文がヒットした。

20論文の内、2014~2019年の6年間の5論文がクリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)と共著の論文だった。

2020年1月15日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

しかし、論文リストを見ると、以下の「2016年のRSC Adv」論文・1論文が2019年2月19日に撤回されていた。

  • Roy Chowdhury P, Bhattacharyya KG.
    Synthesis and characterization of Mn/Co/Ti LDH and its utilization as a photocatalyst in visible light assisted degradation of aqueous Rhodamine B.
    RSC Adv. 2016;6(113):112016-112034. doi: 10.1039/c6ra24288j. Epub 2016 Nov 21. PMID: 30112172; PMCID: PMC6089547.

★撤回論文データベース

2020年1月15日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでプリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)を「Chowdhury, Priyadarshi Roy」で検索すると、2論文がヒットし、2論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

2撤回論文の内の1報は本記事で述べた「2017年のCrystalEngComm」論文が2019年1月28日に撤回されたもので、もう1報は上記した「2016年のRSC Adv」論文が2019年2月19日に撤回されたものである。

★パブピア(PubPeer)

2020年1月15日現在、「パブピア(PubPeer)」では、プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)の論文のコメントを「Priyadarshi Roy Chowdhury」で検索すると4論文にコメントがあった。全部、クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)と共著の論文だった。

★クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)

180報以上の論文を発表したとある。

★パブメド(PubMed)

2020年1月15日現在、パブメド(PubMed)で、クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)の論文を「Krishna G. Bhattacharyya」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004~2019年の16年間の25論文がヒットした。

「Bhattacharyya KG」で検索すると、2004~2019年の16年間の27論文がヒットした。

2020年1月15日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

2020年1月15日現在、「Corrected and Republished Article」のフィルターでパブメドの論文訂正リストを検索すると、0論文が訂正されていた。

★撤回論文データベース

2020年1月15日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでクリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)を「Bhattacharyya, Krishna G」で検索すると、2論文がヒットし、2論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

2撤回論文の内の1報は本記事で述べた「2017年のCrystalEngComm」論文が2019年1月28日に撤回されたもので、もう1報は上記した「2016年のRSC Adv」論文が2019年2月19日に撤回されたものである。

★パブピア(PubPeer)

2020年1月15日現在、「パブピア(PubPeer)」では、クリシュナ・バタキャリヤ(Krishna G. Bhattacharyya)の論文のコメントを「Krishna G. Bhattacharyya」で検索すると6論文にコメントがあった。6論文の内4論文は、プリヤダルシ・ロイ・チョードリー(Priyadarshi Roy Chowdhury)と共著の論文だった。

●7.【白楽の感想】

《1》査読盗用 

査読盗用(peer review pirates)事件は、査読者が査読中の論文の内容を盗むのだから、非常に狭い分野の競合研究者による盗用である。従って、被盗用者が気が付く可能性はかなり高い。それなのに、どうしてするんだろう?

「撤回監視(Retraction Watch)」(【主要情報源】の①)が今回の事件以外の査読盗用事件をいくつか挙げている。本ブログで記事にしていない事件ばかりだった。いずれ記事にするかもしれない。英語のママだが、以下に流用した。

「撤回監視(Retraction Watch)」のリストにはないが、本ブログで記事にした査読盗用(peer review pirates)事件を以下にあげる。

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●9.【主要情報源】

① 2019年2月8日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Chem journal yanks paper because authors had stolen it as peer reviewers – Retraction Watch
② 1980年6月27日のブロード(J. Broad)記者の「Science」記事: Would-Be Academician Pirates Papers | Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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