無罪:シリアック・フィリップス(Cyriac Philips)(インド)

2022年1月2日掲載 

ワンポイント:【長文注意】。エルナクラム・メディカル・センター(Ernakulam Medical Centre)・医師であるフィリップスは、ハーバライフ社(Herbalife)のサプリメントの有害成分で肝臓病を患った24歳の女性の症例を「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文に発表した。すると、フィリップスと「J Clin Exp Hepatol.」誌は、ハーバライフ社から何度も攻撃され、結局、「J Clin Exp Hepatol.」誌は、「法的な理由」でフィリップスの論文を撤回した。この事件は、有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がブログに取り上げた、「カネが勝ち、科学が負けた」典型例と批判した。白楽は記事をまとめていて怒りがこみあげてきた。フィリップスは被害者でネカトしていない。国民の損害額(推定)は100億円(大雑把)。この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「5」に挙げられた。
この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:企業にとって不都合な論文を、カネの力で削除させた「カネが勝ち、科学が負けた」典型例。削除したエルゼビア社の姿勢を疑う。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.問題発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

シリアック・フィリップス(Cyriac Philips、Cyriac Abby Philips、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-9587-336X、写真出典)は、インドのエルナクラム・メディカル・センター(Ernakulam Medical Centre)・医師で、専門は消化器病である。

2018年8月(36歳)、フィリップスは「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を発表した。

肝臓病を患った24歳の女性が服用していたハーバライフ社(Herbalife)のサプリメントと同様のハーバライフ社製品のサプリメントを調べると、重金属、バクテリア、有毒化合物、向精神薬が含まれていた、と論文で述べた。

それまでも、世界各国(イスラエル、スペイン、スイス、アイスランド、アルゼンチン、および米国)の病院は、ハーバライフ社製品を使用した人の肝障害をたくさん報告していた。

しかし、ハーバライフ社は自社に都合の悪いフィリップスの「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を強く攻撃した。あの手この手で学術誌から削除する工作(というか脅迫)をした。

2020年1月28日(37歳)、結局、エルゼビア社の学術誌「J Clin Exp Hepatol.」は、フィリップスの「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を、「法的な理由」(表向きの理由)で撤回(というか削除)した。

このフィリップス事件では、削除された論文の著者であるシリアック・フィリップス(Cyriac Philips)に不正はなく、不正は、エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌にある。

有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がこのフィリップス事件をブログで取り上げ、「カネが勝ち、科学が負けた」典型例で、これは間違っている、と糾弾している。

エルナクラム・メディカル・センター(Ernakulam Medical Centre)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:ニルラタンサーカー医科大学
  • 医学博士号(DM)取得:肝臓胆道科学研究所
  • 男女:男性
  • 生年月日:1982年8月14日
  • 現在の年齢:39 歳
  • 分野:消化器病
  • 紛糾論文発表:2018年(36歳)
  • 紛糾開始年:2018年(36歳)
  • 発覚時地位:エルナクラム・メディカル・センター・医師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②エルナクラム・メディカル・センターは調査していない
  • 病院・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 病院の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:フィリップスに不正なし。エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌に不正あり
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人: 滝川 一(Takikawa Hajime)(帝京大学・教授)、2021年4月の共著論文在り

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は100億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Welcome to Philip Augustine Associates Pvt. Ltd

  • 1982年8月14日:インドで生まれる
  • 2007年(25歳):インドのセントジョンズ医科大学(St. Johns Medical College)で学士号取得
  • 2012年(30歳):インドのニルラタンサーカー医科大学(Nilratan Sircar Medical College)で医師免許(MD)取得:内科医
  • 2016年(34歳):インドの肝臓胆道科学研究所(Institute of Liver and Biliary Sciences)で医学博士号(DM)を取得:肝臓学および移植医学
  • 2018年8月(36歳):後で問題視される「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を発表
  • 2019年(37歳):上記論文が紛糾
  • 2020年1月28日(37歳):上記論文が撤回

●3.【動画】

フィリップスの動画はたくさんある。事件そのもののニュース動画はない。

【動画1】
インタビュー動画。事件のことに少し触れている?:「Integrative Medicine Or Integrative Fraud | Dr. Cyriac Abby Philips | Dr Beena Kayaloor – YouTube」(英語)21分46秒。
Kerala Freethinkers Forum – kftf が2021/04/04に公開

【動画2】
研究説明動画(だと思う)。事件の動画ではない(と思う)。:「Potential health risks of alternative medicine | Ayurveda | Homeopathy | Cyriac Abby Philips – YouTube」(マラヤーラム語だと思う)21分46秒。

Kolambiが2021/10/01に公開

●5.【問題発覚の経緯と内容】

★発端

2018年8月(36歳)、インドの消化器病専門医であるシリアック・フィリップス(Cyriac Philips)はサプリメントを服用した後に肝臓病を患った24歳の女性に関する2018年8月の論文を発表した。

印刷版は2019年に出版されたので、正式には「2019年3・4月のJ Clin Exp Hepatol.」論文だが、騒動は直ぐに起こっているので、本ブログでは電子版が公開された年月に依り「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文とする。

論文で女性が服用していたのはハーバライフ社(Herbalife)のサプリメントで、同様のハーバライフ社製品のサプリメントを調べると、重金属、バクテリア、有毒化合物、向精神薬が含まれていた、と述べた。

2019年4月29日、「Examine.com」が「ハーバライフ社製品に重金属、バクテリア、有毒化合物、向精神薬が含まれているのが見つかった」という内容の次のツイートをした。

なお、ハーバライフ社製品は日本語版ウィキペディアに次のようにある。

ハーバライフは、栄養を補助する食品やスキンケア製品を扱っているダイレクトセリングの会社であり、そのブランド名である。

2004年に経済産業省が連鎖販売取引業者として定義している。(出典:ハーバライフ – Wikipedia

ハーバライフ社製品は、白楽ブログではイグナロ事件でイグナロが宣伝していた企業である。 → ルイ・イグナロ(Louis Ignarro)(米) | 白楽の研究者倫理

ハーバライフ社製品が肝障害を起こすという知見はフィリップスが最初に発見・発表したものではない。

肝障害を起こす論文は既に多数発表されていた。以下に3例をあげる。

  1. 2007年論文:Herbal does not mean innocuous: ten cases of severe hepatotoxicity associated with dietary supplements from Herbalife products – PubMed
  2. 2007年論文:Association between consumption of Herbalife® nutritional supplements and acute hepatotoxicity – Journal of Hepatology
  3. 2010年論文:Acute liver injury induced by weight-loss herbal supplements – PMC

★ハーバライフ社の攻撃1回目

フィリップスが「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を出版すると、フィリップスは、論文の主張を裏付ける証拠を提供するようハーバライフ社の従業員から要求された。

フィリップスは、「私は、すべての証拠は査読され公開された論文に示しています」と答えた。

フィリップスは、さらに次のように述べている。

その後、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」のラダ・ディマン編集長(Radha K Dhiman)は、カナダのグエルフ大学(University of Guelph)でハーバライフ社の資金を得ているスティーブン・ニューマスター教授(Steven Newmaster、写真出典)からのメールを私に転送してきました。

ニューマスター教授は、「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文に関する問題を書き連ねたリストを作り、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」に論文を撤回するように要求していたのです。

リストを対して1つ1つ回答する様式で返信するよう、ディマン編集長は私にアドバイスしてきました。

そして、フィリップスは、「1つ1つ回答する様式」で回答をまとめ、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」のラダ・ディマン編集長(Radha K Dhiman、写真出典)に返信した。

なお、ディマン編集長はインドのチャンディガルにある医学教育研究大学院(PGIMER:Postgraduate Institute of Medical Education and Research)の教授で肝臓病の専門家である。

以下は回答の冒頭部分(出典:同)。全文は24ページ → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Reply-to-Steven-Newmaster-Philips-et-al-2019.pdf

★ハーバライフ社の攻撃2回目

2019年(37歳)、その後、エルゼビア社の学術誌「J Clin Exp Hepatol.」のラダ・ディマン編集長は、症例報告に批判的な「レター論文」原稿を受け取った。

今度は、ブラジルのコンサルティング会社であるプラニトックス社(Planitox)のフラビ・ザンブローネ(Flávio A.D. Zambrone、写真出典)らから、フィリップスの論文に批判的な原稿である。

プラニトックス社はハーバライフ社と関係した会社である。

学術誌「J Clin Exp Hepatol.」は、ザンブローネらの「レター論文」を掲載した。

ディマン編集長は、再び、フィリップスに「レター論文」に対して、1つ1つ反論を書いて、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」に掲載することを提案した。

フィリップスはそれに応じ、「レター論文」と返事の両方が学術誌に出版された(以下の内容)。後に、両方とも学術誌から削除され、掲載論文の複製は保存されていない。以下の書式は少し特殊である。

以下は「レター論文」と反論の冒頭部分(出典:同)。全文(8ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/ZambroneletterandPhilipsreplyHerbalife-1.pdf

2019年7月30日、著者のザンブローネらは、「レター論文」を取り下げた(withdrawn)(以下)。

★ハーバライフ社の攻撃3回目

2019年10月17日(37歳)、フィリップスは、インドの法律事務所であるDSKリーガル社(DSK Legal)から、論文を裏付ける証拠を提出するよう、再び要求された。

以下はその冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Legal-notice-from-DSK-Legal-India.pdf

2019年11月12日(37歳)、上記の1か月後、DSKリーガル社は再び、フィリップスに要求してきた。 → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Legal-notice-by-Herbalife-directed-to-the-Editor-in-Chief.pdf

2019年11月19日(37歳)、フィリップスはスリークマー・アソシエイツ法律事務所(Sreekumar Associates)を通してDSKリーガル社に返事をした。

以下はその冒頭部分(出典:同)。全文(5ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Reply-from-Authors-through-proper-channel-to-legal-notice.pdf

フィリップスは次のように述べている。

ハーバライフ社の人が、私たちの背後で、学術誌・編集長、編集助手、学会とその会長などに複数の法定書簡を送っていることを私はほとんど知りませんでした。

ディマン編集長は、電話で、出版規範委員会(COPE)ガイドラインに従って、研究公正に沿って論文を再検討したい、と述べました。

私は、同意しました。

それで、ディマン編集長は、患者の詳細を記録した肝生検の報告書を含む患者の元データを提供するように私に依頼してきました。私は患者の元データを送りました。

ディマン編集長は、研究公正の観点から論文の再検討を始めました。

しかし、結局、再検討の結果を何も通知してきませんでした。研究公正上の問題、不正なデータ、盗用などがあれば、私に通知してきたはずです。私たちの論文は叩いてもホコリがでなかったのです。きれいな論文だったのです。

★ハーバライフ社の攻撃4回目

研究公正上のアラさがしをしたけど、ネカトが見つからなかった。

それで、ハーバライフ社さらに別の攻撃を仕掛けてきた。

今度は、事後通達だった。

フィリップスは、エルゼビア社のこの地域の担当役員であるサミール・グプタ(Sameer Gupta)から、「法的な理由」でフィリップスの論文を撤回したという電子メールを受け取った。

公式の撤回理由は、「法的な理由」だが、フィリップスが受け取った電子メールは、そうではなかった。

電子メールを示すが、その前に、その内容の意訳を先に示そう。

「J Clin Exp Hepatol.」(「JCEH」)の2019年3月・4月号に掲載されたこの論文は、「J Clin Exp Hepatol.」・編集長とインド肝臓学会(Indian National Association for the Study of the Liver (INASL))の要請により削除されました。

科学的方法論と論文の基礎となるデータの分析・解釈は、導き出された結論に対して不十分で、論文は信頼できなくなりました。それで、インド肝臓学会と「J Clin Exp Hepatol.」誌は、論文の内容と結論をサポートできなくなりました。

以下は電子メールのほぼ全文(1ページ) →
https://www.jcehepatology.com/article/S0973-6883(18)30654-6/pdf

ハーバライフ社は自分たちの主張を擁護するメールを「撤回監視(Retraction Watch)」にも送ってきた(以下)。

フィリップス博士らの論文の主張は誤りで、根拠がありません。エルゼビア社の論文撤回に関する規則によると、「非常に限られたケースで、・・・論文が明らかに中傷的である場合、他人の法的権利を侵害している場合、裁判所の命令の場合、論文内容が実行された場合に深刻な健康リスクをもたらす可能性がある場合、論文は削除される(may be removed)。」とあります。

フィリップス博士らの論文には、多数の欠陥、不適切な分析方法、および不完全な研究プロトコルが含まれていました。私たちは、3つの独立した国際研究所に論文内容を評価してもらい、その調査結果を出版社に提示しました。

論文の欠陥を示した調査結果に基づいて、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」およびインド肝臓学会(INASL)は「科学的方法論と論文の基礎となるデータの分析・解釈は、導き出された結論に対して不十分で、論文は信頼できなくなりました」と結論し、両者の要請に応じて、エルゼビア社は、論文を削除するという並外れた措置を講じました。

★フィリップスの反撃

2020年6月1日(37歳)、フィリップスと彼の同僚は激怒し、①エルゼビア社のグプタ(Sameer Gupta)、②学術誌「J Clin Exp Hepatol.」・編集長、③インド肝臓学会、の不当な対応を裁判所に訴えると伝えた。

論文撤回は「非常に中傷的(highly defamatory)」であり、「職業規範(professional ethics)と自然的正義(natural justice)に反する」と主張し、論文を1週間以内に元に戻すか、または代償として1億ルピー(135万ドル、約1億3500万円)を払うよう要求した。

以下はその冒頭部分(出典:同)。全文(9ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Legal-notice-sent-by-authors-to-Elsevier-and-Journal-regarding-false-retraction-notice.pdf

2020年6月12日(37歳)、フィリップス が発送した11日後、①エルゼビア社のグプタ(Sameer Gupta)は「クレームを検討している」とフィリップスに返事をしてきた。

しかし、②学術誌「J Clin Exp Hepatol.」・編集長、③インド肝臓学会は、フィリップスに何も返事をしてこなかった。

以下は2020年6月12日のグプタ(Sameer Gupta)の返事の冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/Elseviers-half-baked-reply-to-our-legal-notice.pdf

2020年12月22日(38歳)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事では、フィリップスと彼の同僚はまだ訴訟を起こしていなかった。この時点、つまり、本記事掲載の約1年前、フィリップスは次のように述べている。

学術誌「J Clin Exp Hepatol.」は出版規範委員会(COPE)のガイドラインに完全に違反しています。それで、事件仲裁のために内容を詳細な記述した電子メールを出版規範委員会(COPE)に送信しました。

編集委員でもないインド肝臓学会・会長が私たち及び学術誌「J Clin Exp Hepatol.」の了承もなしに乗り出してきて、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」の編集を牛耳り、論文撤回を強制したのです。

出版規範委員会(COPE)が私たちの論文を元のように掲載させるための道を切り開くことができない場合、私たちは法的手段取るかもしれません。

なお、2021年3月(38歳)、フィリップスは別の論文・「Clin Res Hepatol Gastroenterol.」論文を発表した。

そのタイトルを日本語に訳すと、ナント、「若い女性の急性肝障害の奇妙な原因は、サプリメントだったことを「忘れないように」」とある。負けていません。

ただ、その後、フィリップスはいろいろな攻撃や迫害を受けていると、新聞で報道されている。

2022年1月1日現在(39歳)、「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文は削除されたままである。

2022年1月1日現在(39歳)、フィリップスは裁判を始めていない(推定)。

【エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が乗り出す】

有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)が、この問題をブログに取り上げた。

以下の内容は、そのブログから抽出し、白楽が加筆・加工した。 → 2020年12月20日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Paper about Herbalife®-related patient death removed after company threatens to sue the journal – Science Integrity Digest

【ハーバライフ社】

ハーバライフ社(ハーバライフニュートリション、Herbalife Nutrition)は、減量のための植物ベースの栄養補助食品を開発および販売している国際的な企業である。

1980年、米国のロサンゼルスで設立したのに、既に、世界中に従業員が9,900人と急速に発展した巨大な企業である。もちろん、日本法人もあり、日本でも製品を販売している。 → ハーバライフ・オブ・ジャパン(株)

  • 1992年11月 ハーバライフ・オブ・ジャパン株式会社がハーバライフ・インターナショナル社の日本法人として設立され、翌年営業を開始。本社-東京都港区赤坂(ハーバライフ – Wikipedia

日本語版ウィキペディアには書いてないが、英語版ウィキペディアには、ハーバライフ社の問題点がシッカリ書かれている。

[脇道:一般的に、日本語版ウィキペディアは悪い点を書かない。書くと削除される。それで、事件絡みの記事は偏向記事になり、要注意である]

英語版ウィキペディアの内容を要約あるいは単純に翻訳すると、以下のように、ハーバライフ社を紹介し、問題点を指摘している。 → Herbalife Nutrition – Wikipedia

ハーバライフ社の製品には、減量用のプロテインシェイクのほか、プロテインバー、お茶、アロエ、ビタミン、スポーツの水分補給、エネルギー、パーソナルケア製品がある。

シェイク、プロテインバー、お茶、その他の製品の58%は米国と中国の会社所有の製造施設で製造されているが、残りはサードパーティの請負業者によって製造されている。

同社のオリジナル製品は、大豆ベースの代替食シェイクであるF1プロテインシェイクである。この製品は1980年に登場し、2015年時点では、総売上高の30%近くを占める同社のベストセラー製品になった。

ところが、イスラエル、スペイン、スイス、アイスランド、アルゼンチン、および米国の病院は、ハーバライフ製品を使用した多くの患者の肝障害を報告している

2008年、ハーバライフは、いくつかのハーバライフ社の製品に含まれる鉛のレベルがカリフォルニア州法を超えており、長期間にわたって肝臓の問題を引き起こす可能性があると訴えられた。

【フィリップスの「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文】

フィリップスの「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を以下に再掲する。

この論文は、現在、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」から削除されている。

内容は、BMIが32.1(肥満)のインドの若い女性が、ハーバライフ社のやせる製品を使ったことで肝障害を発症したという症例報告である。

女性は、インドのケララ州の栄養クラブ(nutritional club)で製品を購入した。後にケララ州政府がこの店を閉鎖した。

製品を使用して2か月後、彼女は黄疸を発症し、病院に入院し、肝臓の壊死と診断された。そして、肝移植の順番待ちリストに載っている間に亡くなった。

なお、論文によると、インドはハーバライフ製品が世界で最も急成長している国である。

【ハーバライフ製品の分析】

フィリップスらは、毒物学分析のために家族から残りのやせる製品を入手しようとしたが、できなかった。それで、インドのケララ州の同じ売り手とオンラインストアから同様のハーバライフ製品を購入した。

合計8つの製品を、ガスクロマトグラフィー、質量分析、その他の化学的・微生物分析にかけた。

化学分析では、カドミウム、水銀、鉛などの重金属、その他の有毒化学物質が、8つの製品のすべてに検出された。

さらに、16S rRNA遺伝子シーケンシングにより、ほとんどの製品にさまざまな細菌汚染物質が含まれていることが明らかなった。

著者フィリップスらは、肝毒性のある他のハーバライフ製品を使用した患者の同様の症例報告と合わせ、ハーバライフ製品の重金属および細菌汚染が、未知の有毒な植物化学成分と組み合わさり、肝障害を引き起こした可能性を指摘した。

【ハーバライフ社の脅迫】

ハーバライフ社に協力している教授たちや関連会社は、フィリップスらの「2019年3月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を撤回するよう、手を変え品を変え要求した。

この経緯は既に記述したので詳細は省略するが、ポイントを繰り返すと、以下である。

ハーバライフ社の懸念が学術誌に送られ、著者フィリップスは学術誌・編集長からハーバライフ社の懸念に対する科学的反論を書くように求められ、反論を提出した。

ハーバライフ社の懸念と著者フィリップスの反論の両方が学術誌に掲載されたが、その後、削除された。

次に、法律事務所が法的措置をとると学術誌を脅迫し、その結果、学術誌は明確な科学的理由なしに論文を撤回することを決定した。

【論文の完全な除去】

学術誌は出版規範委員会(COPE)ガイドラインに違反し、論文に発行番号が割り当てられていたにもかかわらず、フィリップスの「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文を完全に削除した。

出版規範委員会(COPE)ガイドラインでは、論文撤回の場合、「撤回」というマークをしつつも、元の論文は引き続き閲覧可能な状態にとどめるとしている。

ところが、エルゼビア社は論文を削除し、代わりに、次の短い撤回告知の文章と置き換えてしまったた。

「Journal of Clinical and Experimental Hepatology(「JCEH」)の2019年3月・4月号に掲載されたこの論文は、学術誌「J Clin Exp Hepatol.」およびインド肝臓学会(INASL)の要請により削除されました。学術誌「J Clin Exp Hepatol.」およびインド肝臓学会(INASL)は、科学的方法論と論文の基礎となるデータの分析・解釈は、導き出された結論に対して不十分で、論文は信頼できなくなりました」

【カネが勝ち、科学が負けた】(Money wins, science loses)

論文に不満を持つ強力な企業が、出版社を脅迫した。すると、出版社は、すぐに、科学的な理由もなく、突然、論文を撤回した。

これは間違っている。

科学は真実を見つけることが最優先でなければならない。

【問題の具体例】

問題となったのはシリアック・フィリップス(Cyriac Philips)の「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文である。2020年1月28日に撤回された。

公式の撤回理由は、「法的な理由」で、論文にねつ造・改ざん・盗用などの不正は見つかっていない。

今まで説明してきたように、ハーバライフ社(Herbalife)のサプリメントで肝臓病を患った24歳の女性について、「2018年8月のJ Clin Exp Hepatol.」論文に発表した。

それで、ハーバライフ社があの手この手で自社に不都合な論文を学術誌から削除する工作を行ない、結局、エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌は、「法的な理由」でフィリップスの論文を撤回した。

実際は、ハーバライフ社のカネにエルゼビア社がヒヨった、「カネが勝ち、科学が負けた」事件である。

フィリップスに不正はなく、不正は、エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌にある。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年1月1日現在、パブメド(PubMed)で、シリアック・フィリップス(Cyriac Abby Philips)の論文を「Cyriac Abby Philips[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2010~2021年の12年間の84論文がヒットした。

2022年1月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年1月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシリアック・フィリップス(Cyriac Abby Philips)を「Philips, Cyriac A」で検索すると、本記事で問題にした「2018年8月のSci Rep」論文・1論文が2020年1月28日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年1月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シリアック・フィリップス(Cyriac Abby Philips)の論文のコメントを「Cyriac Abby Philips」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のSci Rep」論文・5論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》「カネが勝ち、科学が負けた」 

このフィリップス事件では、削除された論文の著者であるがシリアック・フィリップス(Cyriac Philips、写真出典)に不正はなく、不正は、エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌にある。

ハーバライフ社があの手この手で自社に不都合な論文を学術誌から削除する工作を行ない、結局、エルゼビア社の「J Clin Exp Hepatol.」誌は、「法的な理由」でフィリップスの論文を削除した。

「法的な理由」は納得できるものではない。

実際は、ハーバライフ社のカネにエルゼビア社がヒヨった、「カネが勝ち、科学が負けた」事件である。

こんな不当なことが、昔ではない、ここ2~3年内に起こっていた。

学術界、出版界は断固として戦うべきだ。

欧米のネカト事件にしか興味を示さない日本人研究者は多いが、このフィリップス事件はインド特有の事件ではない。

「カネが勝ち、科学が負けた」事件で学術出版の基本は何かと問う事件である。

といっても、日本の「科学」はとても弱く、カネに負け、権威に負け、情に負け、お上に負ける、ことが、時々~頻繁に起こる。

《2》謹賀新年 

謹賀新年。

2022年の新年そうそう、不条理で暗い話である。

とはいえ、ネカトブログの対象がそうなので、今年も不条理で暗い話しばかりになる。

今年も、老骨に鞭打って、イヤイヤ、老骨をさすって、「ネカト・クログレイ・性不正・アカハラ」事件が激減するよう、活動します。

皆さんの応援(コメント、クリック、引用、言及など)が励みです。よろしくお願いします。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Herbalife Nutrition – Wikipedia
② 2020年12月20日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Paper about Herbalife®-related patient death removed after company threatens to sue the journal – Science Integrity Digest
③ 2020年12月22日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:After legal threats from Herbalife, Elsevier journal retracts — and then removes — a paper – Retraction Watch
④ 2021年6月11日のプリツー・ナア(Preetu Nair)記者の「Times of India」記事:Kerala: Doctor sees bid to defame him using ‘toolkit’ | Kochi News – Times of India
⑤ 2021年9月21日のシュバンギ・ミスラ(Shubhangi Misra)記者の「Print.」記事:AYUSH ministry threatens Kerala doctor with defamation, for ‘denigrating’ Ayurveda
⑥ 2021年12月21日の「撤回監視(Retraction Watch)」が書いた「Scientist」記事:The Top Retractions of 2021 | The Scientist Magazine®保存版
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