7-46 グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード

2020年1月28日掲載 

白楽の意図:2019年ネカト世界ランキングの「2」の「7」に挙げられたので記事にした。ネカト事件ではなく、ニセ科学事件である。ペットフード業界は、科学的な証拠もないのに、グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードが犬に良いと宣伝し販売していた。ところが、2018年、米国・食品医薬品局(FDA)が、犬の拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)の原因ではないかと発表した。今のところ病気との因果関係は不明だが、ニセ科学批評家のスティーブン・ノベラ(Steven Novella)がこの問題を解説した「2019年8月のNeuroLogica Blog」記事を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

論文に概要がないので、省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 単著:スティーブン・ノベラ(Steven Novella)
  • 紹介:Steven Novella – Wikipedia
  • 写真:About The Author – Steven Novella, MD | NeuroLogica Blog
  • ORCID iD:
  • 履歴:
  • 国:米国
  • 生年月日:米国。現在の年齢:60 歳
  • 学歴:1991年に米国・ジョージタウン大学医科大学院(Georgetown University School of Medicine)で医師免許(MD)を取得
  • 分野:臨床神経学とニセ科学批評
  • 論文出版時の所属・地位:イェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)・助教授。ニセ科学批評家

イェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)。写真出典

【動画1】
インタビュー動画:「かつて詐欺だったものが代替医療になりました」(”What Used to be Fraud is Now Alternative Medicine”: Doc-to-Doc with Steve Novella) – YouTube」(英語)14分46秒。
F. Perry Wilson, MDが2017/06/28に公開

●3.【日本語の予備解説】

★2018年5月16日:ドッグフード兄さん(ペットフードメーカー社員):グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードはいいフード?

出典 → ココ、(保存版) 

犬に穀物は必要ない?

グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードが目につくようになってから4~5年ほど経つでしょうか。専門店のペットフード売場を見ると、価格が高めのフードの棚の多くは「グレインフリー」が占めるようになってきましたね。インターネットでおすすめフードを検索してみても、グレインフリーのフードがたくさん挙がってきます。こんなにも多くのグレインフリーフードが販売されているということは、穀物が犬の体に悪いということなのでしょうか?

こんな話をされると「確かにそうだなあ」と思ってしまいますよね。でも、ここでちょっと考えてみましょう。

農耕の歴史を辿っていくと、稲作(米)が始まったのはいまから約1万年前の中国・長江流域、また、現在のシリア周辺の遺跡で発見された世界最古クラスのライ麦の農耕跡は約1万1千年前のものとされています。こうした農耕文化がはじまる前、私たち人間も米や麦、とうもろこしなどの穀物を常食していたわけではなく、狩猟採集で得た食糧(野生動物の肉や木の実など)を食べていました。

では、元々穀物を食べていなかった私たち人間にとって、いまも最適な食事はグレインフリーなのでしょうか? そんなことはありませんよね。農耕文化の発達とともに人間の主食は穀類となり、その消化吸収にも適応してきました。そして、ここで注目してほしいのは、犬の起源はこの農耕文化がはじまったのと同じ約1.5~1万年前と言われていることなのです。

グレインフリードッグフードの「嘘」

一般的なドッグフードは”カリカリ”とも呼ばれるドライフードのこと。このドライフードを製造するためには「デンプン」が欠かせません。デンプンがないとドライフードの粒の形が作れないからです。さて、穀物の主成分が「デンプン」というのはすでに述べたとおりですが、では穀物不使用であるグレインフリーのフードはどのようにして粒の形を作っているのでしょうか?

実は、グレインフリーのドッグフードにもデンプンが豊富に含まれています。繰り返しになりますが、デンプンがないとドライフードを作ることができないからです。では、グレインフリーフードの原材料でデンプン源となっているのは何でしょう? それは、ジャガイモやタピオカなどのイモ類、あるいは各種の豆類です。穀類ではないデンプン源を使って作られているのがグレインフリーのドッグフード。単に穀類がイモ類や豆類に置き換えられただけで、成分的には変わりありません。

まとめ

肉食動物のオオカミを祖先に持つ犬にとって最適なドッグフード=グレインフリーという噂は誤り。グレインフリーのドッグフードの中にも良い商品もあれば、そうでもない商品もあります。ドッグフードの製造には必ずデンプン(穀類、イモ類、豆類)が必要ですから、大事なのは、穀物を使っているかどうかではなく、デンプン源となっている原材料の質。犬にとって消化しやすいデンプン源、血糖値の上がりづらい低GIのデンプン源を使用したフードがおすすめです。

★2019年6月8日:Dog Partner 世界・国内のドッグフード事情&犬の幸せに繋がる情報サイト:【2019年最新情報】グレインフリードッグフードの真実

出典 → ココ、(保存版) 

「グレインフリーのフードなら安心」と思っている飼い主も多いのではないでしょうか。アメリカでは、現在このニュースが大きく取り上げられています。しかし、実際はグレインフリーであることが犬猫の食事に最適であるとは言えません。穀類を入れていないだけで、じゃがいもや豆類などを大量に入れることでフードの全体量を増やし、さも安全であるかのように謳い、犬猫が満足できる量になるよう穀類の代わりにそれらを使用しているフードが多くあるためです。そのようなフードが犬猫に与える危険性がどのくらい高いものであるか?という深刻なニュースとして世界中で議論されています。

●4.【論文内容】

《1》はじめに 

ロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)が、「RealClearScience」誌の2019年の最大ガラクタ科学の第7位に「グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード」を取り上げたので記事にした。ネカト事件ではない。。
 → 2019年ネカト世界ランキングの「2」の「7」。
 → 2019年12月17日のロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)記者の「RealClearScience」記事:The Biggest Junk Science of 2019 | RealClearScience

ロス・ポメロイがガラクタ科学として選んだ要点は以下のようだ。

犬は本質的にオオカミであり、オオカミは純粋な肉食動物であるため、犬に穀物を与えるべきではないという考えで、グレインフリー(穀物不使用)のドッグフードが正当化されている。しかし、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードは狂気の食餌で、犬を殺すかもしれない。

というのは、犬はオオカミではない。犬は何万年も前にオオカミから分かれ、栄養要件はオオカミとは異なる。

ところが、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードが犬に良いとのニセ科学に基づいた説が流行した。一方、同時期、米国・食品医薬品局(FDA)は犬の拡張型心筋症が急増していることに気が付いた。拡張型心筋症は、左心室が肥大し弱くなっているため、心臓が十分な血液を送り出せない。調査では、報告された症例の91%は、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードを与えられた犬に起こっていた。

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードはニセ科学に基づいた食餌である。

日本語の予備解説で、2018年5月16日に「ドッグフード兄さん(ペットフードメーカー社員)」が指摘している通りの事態が起こっている。

日本でのドッグフードの宣伝をググルと、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードが高い評価・人気商品になっている。
 → ドッグフード おすすめ – Google 検索

《2》「Grain-Free Dog Food」論文 

取り上げた論文はスティーブン・ノベラ(Steven Novella)の「Grain-Free Dog Food」記事で、本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いたが、学術論文ではなくブログ記事である。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文はここから開始

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードを飼い犬に与えている愛犬家は、科学的に間違った考えと証明されていない仮説に基づいたドッグフードを与えることで、トンデモナイ悲劇をまねいている。

もし、あなたがペットの飼い主なら、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードまたはキャットフードの最近の流行に気付いているでしょう。この流行を正当化した考えは、犬は本質的にオオカミであり、オオカミは純粋な肉食動物なので、犬に穀物を食べさせてはならないという間違った考えだ。

多くの肉食動物は、植物性物質を摂取する必要があり、獲物として食べた草食動物の胃からそれを摂取している。また、オオカミは一般的に穀物を食べないが、時折、サプリメントとして野イチゴを食べる。

現代の犬は生物学的にオオカミと密接に関連しているが、野生のオオカミとは異なる。犬は1万5千〜4万年前に野生のオオカミから進化的に分かれた。それ以来、犬の食餌は大きく変わった。犬は集団で狩りをせず、長い間、人間社会の残飯を食べてきた。

そして、犬はその食餌に適応した。

つまり、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード理論には大きな欠陥がある。

また、理論だけに基づいたドッグフードを推奨すべきではない。グレインフリー(穀物不使用)が犬の健康に実際に優れているという証拠を集めるべきだった。

しかし、逆に、グレインフリー(穀物不使用)が犬の健康の害になるという証拠が集まり始めている。

2018年7月、米国・食品医薬品局(FDA)は、犬の拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)が急増していることに気が付いた。2017年までは年間1〜3件の報告だったのが、2018年には320件も報告され、2019年はこれを超える勢いである。
 → 2018年7月(2019年6月更新)の米国・食品医薬品局(FDA)の記事(含・以下の図):FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy | FDA

数百件の症例数は、米国の数百万匹の愛犬と比較すると、ごくごく少数だが、症例数は、かなり過少に報告されている可能性がある。多分、氷山の一角しか報告されていない。

そして、なんと、拡張型心筋症の91%はグレインフリー(穀物不使用)の食餌を与えられた犬に発症していた。拡張型心筋症に罹患した犬の平均死亡年齢は6.6歳だ。

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードは、ドッグフード製造に必用なデンプンとして、トウモロコシや小麦などのグレイン(穀物)の代わりに、エンドウ、レンズ豆、またはジャガイモを加えている。

現在、獣医師は拡張型心筋症の発症と食餌の関係を研究している。つまり、グレインフリー(穀物不使用)のエキゾチックな食材を使ったBEG食(boutique diets and those with exotic ingredients)を食べている犬について、発症との関係を調べている。

さらに、遺伝的にリスクのある犬の系統とない犬の系統にBEG食を与えたときの拡張型心筋症の発症を調べている。

また、タウリン(taurine)は、心機能に重要なアミノ酸なので、タウリン量が少ない食餌と通常の食餌を比べ、拡張型心筋症の発症に差が出るか研究している。つまり、BEG食はタウリンが少ないため、犬が拡張型心筋症になるというアイデアである。

しかし、現在見られているほとんどの拡張型心筋症の犬では、測定されたタウリンレベルは低くない。従って、タウリンをサプリメントとして補給しても、BEG食が犬に拡張型心筋症を引き起こすのを阻止できない。

今のところ、拡張型心筋症の原因となる食餌の、その組成の何がいけないのか、まだわからない。タウリン量だけでなく、複数のメカニズムが働いている可能性がある。

とはいえ、一貫している原因はBEG食である。従って、防止法は、BEG食を止めて、従来の食餌、実績のあるメーカーの伝統的なドッグフードを犬に与えることだ。

伝統的なドッグフードは犬にとって安全で健康的だという実績がある。

国民の「きれいな食餌(clean eating)」を求める風潮を利用して、一部のペットフード会社とペット・ストアが、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードやBEG食を流行に乗せようと画策したのだ。ニセ科学に基づいた未テストの製品を宣伝し、ナンセンスなことに、全く不要な犬の健康問題を引き起こしたのだ。

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードによって犬に拡張型心筋症が急増している因果関係はまだはっきりしないが、現時点での最善のアドバイスは、単純に、安全性が試験済みの従来の食餌をペットに与えることだ。

誇大広告を信じてはいけない。お金の無駄である。しかも、お金の無駄だけでなく、最悪の場合ペットに害を及ぼす可能性がある。

●5.【関連情報】

たくさんの動画と記事がある。以下、一部だけ。

【動画1】
ニュース動画:「Should you take your dog off of a grain-free diet? – YouTube」(英語)2分40秒。
KOMO Newsが2019/06/27に公開

【動画2】
ヨダー獣医師の解説動画:「Is Grain Free Dog Food Bad? – YouTube」(英語)3分6秒。
P.E.T.S. Low Cost Spay & Neuter Clinicが2018/06/25に公開

【動画3】
ニュース動画:「Warning about grain-free dog foods has pet owners worried – YouTube」(英語)2分31秒。
CityNews Torontoが2019/07/05に公開

①  2019年11月18日の「wptv」記事:FDA investigates possible link between grain-free dog food & canine heart disease

●6.【白楽の感想】

《1》日本では? 

ロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)が、「RealClearScience」誌の2019年の最大ガラクタ科学の第7位に「グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード」を取り上げたので記事にした。
 → 2019年ネカト世界ランキングの「2」の「7」。
 → 2019年12月17日のロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)記者の「RealClearScience」記事:The Biggest Junk Science of 2019 | RealClearScience

それで、調べたが、米国のメディアはグレインフリー(穀物不使用)ドッグフードを犬に食べさせないよう、盛んに報道している。

白楽は犬を飼っていないので関心がなかったが、日本のメディアはどう対応しているのだろう? グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードを大きく取り上げている? いない?

そして、日本の犬の飼い主はこの問題を知っている? いない?

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードのショッピングをGoogle 検索すると、たくさんの商品がリストされている。 → グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード – Google 検索

日本では問題があまり伝えられていない気がする。日本の犬の飼い主はこの問題を知っているのだろうか? いないのだろうか?

《2》ニセ科学 

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードが良いと、そもそも、誰がどのように主張したのか? 

本ブログが対象にするデータねつ造・改ざんは主に学術論文の中のデータねつ造・改ざんである。その場合、対象となる学術論文が発表され、その論文が検討対象にある。

ところが、今回の事件では、グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードが良いと報告した学術論文はない。ドッグフード業界がもっともらしい理屈をつけ、宣伝し、金儲けをしている。最初に誰がどこで言い出したのかわからないが、その理屈に大衆がダマされている。

ダマされただけで実害がなければ、そのまま流布しているのだろうが、犬の拡張型心筋症が急増し、どうやらグレインフリー(穀物不使用)ドッグフードが原因らしいと、米国・食品医薬品局(FDA)が発表した。

それで、米国では大問題になった。

しかし、もし、実害がなければ、米国・食品医薬品局(FDA)は取り上げなかっただろう。

その場合、いい加減なデタラメ話はだれがどう否定・修正するのだろうか? 

イヤイヤ、一般的に、デタラメ話を否定・修正する公的機関はない。日本では、いまだに公然と血液型で性格診断する記事が雑誌に掲載される。

なお、明治大学の石川幹人・教授(いしかわ まさと、科学基礎論)などが、ニセ科学を指摘するサイトを運営している。エライ! 
 → 疑似科学とされるものの科学性評定サイト  → 2020年3月から Gijika.com

グレインフリー(穀物不使用)ドッグフードは、いずれ、そのサイトで取り上げられるかもしれない。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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