電気工学:クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)(米)

2018年4月13日掲載。

ワンポイント:電気自動車ワールドワイド社(Electric Vehicles Worldwide、EV Worldwide LLC、EVW)の科学者・上級副社長で、専門は電気工学(蓄電池製造)である。米国・運輸省(U.S. Department of Transportation)から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金を受給したが、2006年(46歳?)、運輸省の監査でデータねつ造・改ざんが発覚した。FBIの捜査が入り刑事告訴され、2011年(51歳?)、裁判で、6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」で有罪。6か月の監視下保釈、連邦交通局(FTA)に10万ドル(約1000万円)の賠償が科された。損害額の総額(推定)は8億5千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson、顔写真見つからない)は、米国の電気自動車ワールドワイド社(EVW社と呼ぶ。Electric Vehicles Worldwide、EV Worldwide LLC、EVW)の科学者・上級副社長で、専門は電気工学(蓄電池製造)だった。

EVW社は、米国政府向けに電気バスや輸送用電気トラックを製造する会社で、1999年にマサチューセッツ州のピッツフィールド(Pittsfield)に設立された。

2000-2005年、電気自動車の中枢である蓄電池の開発のために、 EVW社は、米国・運輸省(U.S. Department of Transportation)から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金を受け取った。

2006年の春(46歳?)、米国・運輸省(U.S. Department of Transportation: DOT)はEVW社を監査した。この監査で、EVW社の研究費申請にデータねつ造・改ざんが見つかり、ウィルソン、EVW社、最高経営責任者(CEO)はマイケル・アーミテージ(Michael Armitage)は刑事告発された。

2011年6月(51歳?)、ウィルソンは6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」で有罪とされた。

2011年11月(51歳?)、ウィルソンは、6か月の監視下保釈、連邦交通局(FTA)に10万ドル(約1000万円)の賠償が命じられた。

運輸省のネカト事件だからなのか、運輸省とは関係ないのかわからないが、メディアは事件を報道していない。クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)の写真、経歴は見つからない。研究公正局の処理するネカト事件と状況が大きく異なる。

EVW社の写真は見つからなかった。充電中の電気自動車。写真By User:JuergenG, CC BY-SA 3.0, Link

  • 国:米国
  • 成長国:米国?
  • 研究博士号(PhD)取得:?
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日とする。2000年にEVW社の科学者・上級副社長に転職した時を40歳とした
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:電気工学
  • 最初の不正:2004年(44歳?)
  • 発覚年:2006年(46歳?)
  • 発覚時地位:電気自動車ワールドワイド社・科学者・上級副社長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は米国・運輸省(U.S. Department of Transportation: DOT)の監査
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①米国・運輸省(U.S. Department of Transportation: DOT)・監査。②FBI。③裁判所
  • 企業・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 企業の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正数:6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は8億5千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が15年間=3億円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生はいないので損害額はゼロ円。④外部研究費は米国・運輸省(U.S. Department of Transportation)から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金。⑤調査経費(米国・運輸省、FBI)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。論文撤回はないので損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円だが、該当しないので損害額はゼロ円。
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: 6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」で有罪。6か月の監視下保釈、連邦交通局(FTA)に10万ドル(約1000万円)の賠償。

●2.【経歴と経過】

ほぼ全く不明

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日とする。2000年にEVW社の科学者・上級副社長に転職した時を40歳とした
  • xxxx年(xx歳):xx大学で学士号取得
  • 2000年11月(40歳?):電池製造会社「Energizer」からEVW社の科学者・上級副社長に転職
  • 2000‐2005年(40‐45歳?):米国・運輸省(U.S. Department of Transportation)から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金を受け取った
  • 2006年(46歳?):ねつ造が発覚
  • 2011年6月(51歳?):6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」で有罪
  • 2011年11月(51歳?): 6か月の監視下保釈、連邦交通局(FTA)に10万ドル(約1000万円)の賠償が命じられた

●5.【不正発覚の経緯と内容】

クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)は、米国の電気自動車ワールドワイド社(Electric Vehicles Worldwide、EV Worldwide LLC、EVW)の科学者・上級副社長で、専門は電気工学(蓄電池製造)だった。

電気自動車ワールドワイド社をここでは、EVW社と呼ぶ。EVW社は、米国政府向けに電気バスや輸送用電気トラックを製造する会社で、1999年にマサチューセッツ州のピッツフィールド(Pittsfield)に設立された。最高経営責任者(CEO)はマイケル・アーミテージ(Michael Armitage、写真出典)だった。
→ EV Worldwide LLC: Private Company Information – Bloomberg

クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)の写真、経歴は見つからなかった。

★蓄電池の開発

1999年10月、マサチューセッツ州の議員は、EVW社が研究提案する電気自動車での大量輸送の技術開発(蓄電池の開発)は、ピッツフィールド地区の環境にやさしい「グリーン」な雇用をもたらすと考えた。

連邦政府・運輸省の外局である連邦公共交通局(Federal Transit. Administration: FTA)は、研究開発資金をピッツフィールド経済開発局(Pittsfield Economic Development Authority:PEDA)を通して、最終的にEVW社に配分することを了承した。この了承は、2000年-2005年に430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金を配分する「7050合意」としてまとめられた。

2000年11月(40歳?)、クリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)は、EVW社の科学者・上級副社長として、それまで勤めていた電池製造会社「Energizer」から転職した。ウィルソンは、すぐに大量輸送のための充電式電池の開発を開始した。

EVW社は、2000年12月から2005年3月まで、27件の請求書を会計処理会社・PVTAに提出した。

2002年後半(42歳?)、ところが、EVW社の蓄電池開発は技術的問題に直面した。そのことで、2003年と2004年に従業員を解雇した。ウィルソンのプロジェクト・マネージャーは未完成の請求書をウィルソンに託して、2004年中頃に退職した。

ウィルソンは後の証言で、「自分は会計処理の経験がなく、訓練も受けておらず、連邦公共交通局(FTA)との協定書、連邦公共交通局(FTA)の連邦資金規制などを読んだこともありませんでした。自分はプロジェクト・マネージャーがしたことを単にコピーしようとしただけでした」と述べている。

ウィルソンはEVW社の経費と連邦公共交通局(FTA)の支払いを説明しやすいように、請求書を表面的に修正することを会計処理会社・PVTAに提案した。しかし、会計処理会社・PVTAはウィルソンにそうしないように指示した。

2005年初頭(45歳?)、EVW社は技術的な問題を克服できないまま、研究開発契約「7050合意」が終了した。同社は資金を使い果たした。

ウィルソンは、技術的な問題を克服できないことを連邦公共交通局(FTA)に開示せずに(ねつ造・改ざん)、ジョン・オルバー下院議員(U.S. Rep. John Olver, D-Amherst、写真出典同)に継続的な資金提供を依頼し、2005年7月に新たな協定を締結することに成功した。 この合意(「7101合意」)はMA–26–7101と番号が付けられ、7050合意に取って代わるものだった。

7101合意は、7050合意のおかげでEVW社の畜電池開発は再び開発資金を手にした。但し、合意前に発生した費用はカバーしなかった。

ウィルソンは、2005年末までに、7101合意に基づき5件の請求書を会計処理会社・PVTA(そして最終的には連邦公共交通局(FTA))に提出した。 これまでのように、各請求書は、EVW社が費用を特定し、請求書日付までに連邦公共交通局(FTA)から引き出され、保留されている総経費の割合を記載した書類である。

2006年の春(46歳?)、連邦交通省(DOT)はEVW社を監査した。ウィルソンと最高経営責任者(CEO)はマイケル・アーミテージ(Michael Armitage)が監査チームに対応した。

連邦交通省監査員のメアリー・トーマス(Mary Thomas)は裁判で、「監査の結果、EVW社がお金を払ったかのように見えるように請求書をねつ造した、とウィルソンが認めました」と述べている。監査ではさらに多数の異常が見つかった。

2008年5月(48歳?)、政府は、詐欺と虚偽請求で、マイケル・アーミテージを刑事告発した。

2009年4月(49歳?)、被告にウィルソンとEVW社を追加した。

2010年3月(50歳?)、地裁はウィルソンとアーミテージを別々に審問するとした。

2011年6月4日(51歳?)、起訴状に、ウィルソンに9件の「通信詐欺(Wire Fraud)」(18 USC§1343)、7件の「虚偽請求(false claims) 」(18 USC §287)、連邦当局者に対する1件の「虚偽記述(false statements) 」(18 USC §1001(a)(2))、1件の「共謀罪 (conspiracy)」(18 USC § 371)の罪が記載された。

弁護士は、ウィルソンは会計士ではなく科学者であると反論した。ウィルソンの請求書における個々の不正は、適切な会計慣行、無実の過ち、またはその両方に精通していなかったことの結果であったと主張した。

2011年6月21日(51歳?)、しかし、結局、ウィルソンは6件の「通信詐欺(Wire Fraud)」、4件の「虚偽請求(false claims) 」、1件の「共謀罪 (conspiracy)」で有罪だと、陪審に告げられた。この時点で、最高百数十年の刑務所刑と、1件につき最大25万ドル(2500万円)の罰金が科される可能性があった。

2011年11月(51歳?)、ウィルソンは、刑務所刑がなく、6か月の監視下保釈、連邦交通局(FTA)に10万ドル(約1000万円)の賠償が命じられた。

【ねつ造・改ざんの具体例】

結局、ウィルソンはデータねつ造・改ざんで、米国運輸省から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金をだまし取ったことになる。

では、どのデータのどの部分をねつ造・改ざんしたのか?

スミマセン、具体的な資料を見つけられませんでした。

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》運輸省・助成金でのデータねつ造・改ざん

米国運輸省(U.S. Department of Transportation)から430万ドル(約4億3千万円)の研究助成金が支給されたが、その受給でデータねつ造・改ざんがあった。

運輸省・助成金でのデータねつ造・改ざんは、珍しい。白楽のブログで解説したのはハイファン・ウェン事件だけだ。ただ、ハイファン・ウェン事件では科学庁(NSF)を含め他4省庁からの助成金を受給していたので、運輸省の事件の特徴は見つけにくかった。
→ 土木工学:ハイファン・ウェン(Haifang Wen)(米) | 研究倫理(ネカト)

ウィルソン事件は運輸省でのネカト事件の典型例かどうかわからないが、生命科学系のネカト事件とは以下の点で大きく異なる。

  1. 本人であるクリストファー・ウィルソン(Christopher D. Willson)の写真、経歴が見つからない。
  2. メディア(新聞、テレビ)が事件を報道しない。
  3. FBIが捜査し刑事告訴し、裁判で有罪。

3番目の「FBIが捜査・・・」は、生命科学系のネカト事件でも、少数だが、ある。運輸省のネカト事件では、必ず「FBIが捜査・・・」するのだろうか?

また、事件を知る方法としてFBIの記録や裁判の記録を頼ったことによるのかもしれないが、ウィルソン事件を調べても、ネカトを防止する方法を学べない。当然かもしれないが、FBIの記録や裁判の記録には、ネカトを防止するにはどうしたらよいのかという視点はない。

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●8.【主要情報源】

① 2011年6月22日の「FBI」記事: FBI — Former Massachusetts Scientist Convicted of Fraud Scheme Involving a Multi-Million-Dollar Federal Research Grant、(保存版)
② 2011年6月23日のパトリック・ジョンソン(Patrick Johnson)記者の「The Republican」記事:Christopher Willson, partner of Michael Armitage, found guilty of fraud, conspiracy in federal court | masslive.com、(保存版
③ 2011年11月29日の「Department of Justice」記事: Former Massachusetts Scientist and Businessman Sentenced to Prison for Federal Grant Fraud | OPA | Department of Justice、(保存版
④ 2013年2月15日の裁判記録(United States Court of Appeals,First Circuit.):(1)UNITED STATES v. WILLSON | FindLaw、(2)https://cases.justia.com/federal/appellate-courts/ca1/11-2446/11-2446-2013-02-15.pdf?ts=1410913471
⑤ 2010年10月20日のステファニー・バリー(Stephanie Barry)記者の「The Republican」記事:Michael Armitage, former Berkshire Power owner, pleads guilty to tax evasion, fraud other charges | masslive.com、(保存済)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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