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ワンポイント:13論文が不正、55論文が疑念という29年前の研究ネカト事件
●【概略】
ロバート・スラツキー(Robert Slutsky、顔写真未発見)は、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院(UC San Diego School of Medicine)・助教授・医師で、専門は心臓放射線学だった。男性である。
1985年(38歳?)、上司がスラツキーを昇進させようとして提出させた業績リストを点検しているうちに、異常に気が付いた。大学が15か月かけて調査し、ねつ造・改ざんをみつけた。
米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院(UC San Diego School of Medicine)
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1946年頃。仮に、1947年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:77歳?
- 分野:心臓
- 最初の不正論文発表:1983年(36歳?)
- 発覚年:1985年(38歳?)
- 発覚時地位:カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院・助教授
- 発覚:上司
- 調査:①カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院・調査委員会。調査期間は1985年8月~1986年10月の15か月
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:13論文が不正、55論文が疑念
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:辞職
●【経歴と経過】
- 1946年?:仮に、1947年1月1日生まれとする。米国・ニューヨーク州のロングアイランドで生まれ育つ。
- 1969年?(22歳?):タフツ大学(Tufts University)を卒業
- 1974年?(27歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校・医学大学院(University of California, Los Angeles School of Medicine)を卒業。医師免許取得
- 1974年(27歳?):カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院で3年間の研修医を開始
- 1977年(30歳?):カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院で臨床から研究へ移行した。その後、助教授に昇進した
- 1970年代後半:X線を用いた心臓病の画期的な非侵襲的診断法を発見し、米国内で高い評判を得た
- 1985年(38歳?):不正研究が発覚する
- 1985年4月30日(38歳?):大学を辞職
- 1986年10月(39歳?):カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院が調査報告書を発表
●【不正発覚の経緯と内容】
アレクサンダー・コーン(酒井シズ、三浦雅弘訳):『科学の罠』、工作舎、1990年、から、以下を引用する。文章はウェブ上にない。酒井シズ、三浦雅弘訳では、スラツキーをスラトスキーと訳している。
1986年10月(39歳?)、カリフォルニア大学サンディエゴ校・医学大学院は、15か月の調査の結果、「スラツキーの13論文に不正な情報が含まれ、55論文は疑念があり(共著者が妥当性を証明できない)、79論文は問題なし」と公表した。
スラツキーは、統計値をごまかし、データを再使用し、実験動物数を改ざんした。実際にはしていない実験を論文に記載した。あるいはまったく研究に関与していない他の研究者の名前を本人に知らせずに共著者に加えた。
●【論文数と撤回論文】
2015年8月17日現在、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ロバート・スラツキー(Robert Slutsky)の論文を「Slutsky R [Author]」で検索すると、1978年と1986年の137論文がヒットした。内、1論文(1986年)は論文撤回通知である。
2015年8月17日現在、136論文中、1983年から1985年の18論文が撤回されている。
最新は以下の1985年論文である。
- In vivo validation of the thermal-green dye technique for measuring extravascular lung water.
Slutsky RA, Higgins CB.
Crit Care Med. 1985 May;13(5):432-5.
Retraction in: Peters RM, Friedman PJ. Crit Care Med. 1987 Mar;15(3):288.
最古は以下の1983年論文である。
- Radionuclide evaluation of the systolic blood pressure/end-systolic volume relationship: response to pharmacologic agents in patients with coronary artery disease.
Slutsky R, Watkins J, Costello D.
Am Heart J. 1983 Jan;105(1):53-9.
Retraction in: Brown MD. Am Heart J. 1986 Mar;111(3):623.
●【白楽の感想】
《1》事件は繰り返す
「ロバート・ガリス(Robert Gullis)(英)」でも書いたが、約30年前のスラツキー事件は米国の研究者社会が研究倫理への対策を論じている丁度その時代に起こった。
事件からしっかり学び、研究ネカト事件を防ぐことが重要だが、米国ではその後も事件が起こっている。対策を立てなければ、もっと起こっていただろう。
研究倫理事件は飲酒運転と同じで、わかっているけどしてしまう面がある。飲酒運転を減らした要因である「必ず発覚」「厳罰」「監視・非難の文化」をしっかりと続けることだろう。米国は、この3本柱を進めてきた。
一方、日本はこの3本柱を進めるどころか、3本柱が立っていない。日本では、これからも研究ネカト事件は今まで同様(以上?)に起こるだろう。
1986年10月31日の「サイエンス」記事。【主要情報源】④
●【主要情報源】
① 1987年4月30日、ジャニー・スコット(Janny Scott)の「ロサンゼルス・タイムズ」記事:At UC San Diego : Unraveling a Research Fraud Case – latimes
② 書籍。アレクサンダー・コーン(酒井シズ、三浦雅弘訳):『科学の罠』、工作舎、1990年、 312 ページ。
③ 書籍。1997年、Ellen Altman, Peter Hernon著、『Research Misconduct: Issues, Implications, and Strategies』、Greenwood Publishing Group, ページ数206 ページ、ISBN 1567503403, 9781567503401。一部無料閲覧可:Research Misconduct: Issues, Implications, and Strategies – Ellen Altman, Peter Hernon – Google ブックス
④ 1986年10月31日の「サイエンス」記事。Science “San Diego’s Tough Stand on Research Fraud” 234 (31 Oct 1986) 534-535。1ページのみ無料閲覧可:San Diego’s tough stand on research fraud
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