7-126 架空著者:トシユキ・バンギ(番木俊之、Toshiyuki Bangi)

2023年9月27日掲載

白楽の意図:「偽造著者(forged authorship)」シリーズ。2022~2023年に約10論文を出版した日本人の番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)の所属はシンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)である。しかし、南洋理工大学は、番木俊之は過去も現在も在籍していない、という。つまり、番木俊之は架空人物だ。中国の江南大学(Jiangnan University)のコン・ジャン副教授(Cong Zhang、张聪)が番木俊之を共著者に加えていた。2023年2月、コン・ジャン副教授は事件発覚後(発覚前?)に、江南大学を辞職した。この事件の全貌・動機を白楽は掴めていない。事件を解説したレベッカ・ソーン(Rebecca Sohn)の「2023年9月の撤回監視」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.ソーンの「2023年9月の撤回監視」論文
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源;
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★「偽造著者(forged authorship)」シリーズ共通の文書

「撤回監視(Retraction Watch)」の記事のカテゴリーの1つに「forged authorship」がある。

この「forged authorship」を白楽ブログでは「偽造著者」と訳した。

従来の「著者(オーサーシップ)」問題は、以下の3点である。

  1. 研究に貢献していないのに共著者になる。共著者になった人はこのことを知っている
  2. 研究に貢献したのに共著者にされない
  3. 論文の著者欄に記載された共著者の順序が不適切

それで、白楽は「著者(オーサーシップ)」問題を「著者在順」問題と命名し明確化していた。

4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating)

つまり、「著者在順」問題は数十年前からの古い問題で、基本的には、論文の共著者を不適切に示す(示さない)行為で、忖度、アカハラがベースで、著作権・名誉・金銭的損得などの問題になる。

「偽造著者(forged authorship)」は、次元が異なる著者問題に視点を合わせている。しかし、著者在順も含めた著者に関する全問題と捉えることもできる。

後で修正するかもしれないが、一応、以下のように考える。

「偽造著者(forged authorship)」は、特に、インターネット普及後に登場した問題で、著者在順での思考とは異なる手法・動機がある。

実行する人は金銭を得るのが動機と思えるが、白楽には動機がつかめないケースもある。

著者在順での思考とは異なる手法・動機は、以下のどれかだろう。

①論文工場で作った論文を売る(ビジネス)。買った人と執筆者は異なる。執筆者名は論文に載らないか、共著者になっている。
②乗取学術誌、捕食学術誌の質を上昇・維持するために実在の研究者を著者にした論文を出版する(ビジネス)。執筆者と論文の著者欄の人は異なる。
③出版論文数を高めるため論文を買い、自分が執筆していない論文を学術誌に掲載する(研究者)。
④被引用数を高めるために同上(研究者)。
⑤世界大学ランキングを上げるため、無断で高被引用者を共著者にした論文を出版する(大学)。
⑥愉快、イタズラ。狂気(金銭的な得はない)。

白楽は動機を十分掴めていないが、現在、以下の異常事態が発生している。

  1. 無許可共著・・・研究に貢献していない人を無許可で共著者にする。共著者にされた人はこのことを知らない
  2. なりすまし著者・・・実在する他人を単著者にした論文を出版する
  3. 架空著者・・・実在していない人を著者(単著・共著)にした論文を出版する ← 今回の事件

では、従来の「著者在順」と新手の「偽造著者(forged authorship)」は何が大きく異なるか?

著者の素性である。

前者は素性がわかる。

後者は素性が不明である。つまり、実際に執筆した人の「本当の氏名」「有効な連絡方法(電子メールなど)」「所属」が不明(含・虚偽)である。なお、素性がバレる場合もある。

なお、今回の事件では、実際に執筆した人はバレた。

●2.【ソーンの「2023年9月の撤回監視」論文】

★読んだ論文

2023年9月5日のレベッカ・ソーン(Rebecca Sohn、写真出典)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Eight papers retracted after author found to be fictional – Retraction Watch

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

●【論文内容】

★番木俊之は日本人

トシユキ・バンギ(Toshiyuki Bangi)の所属は、シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University、写真出典)・土木環境工学部(School of Civil and Environmental Engineering)である。

トシユキ・バンギ(Toshiyuki Bangi)の姓名から、この人は日本人の男性とされている。それで、本記事では「番木俊之」という漢字を使用した。

番木俊之は2022年以降、『Construction and Building Materials』、『Journal of Building Engineering』、『Case Studies in Construction Materials』という 3 つの学術誌に8論文を出版した。

クラリベイト社の「Web of Science」によると、番木俊之の8論文は 47 回引用されていた。

以下に8論文の内の3論文を示す。

  1. “Investigation of SAP content on the shrinkage and tensile properties of ultra-high performance concrete”
    Construction and Building Materials, July 2022
    Zhihui Yu, Lishan Wu, Cong Zhang, Qingzuo Chen, Toshiyuki Bangi
  2. “Design approach, mechanical properties and cost-performance evaluation of ultra-high performance engineered cementitious composite (UHP-ECC): A review” Construction and Building Materials, May 2022
    Li-Shan Wu, Zhi-Hui Yu, Cong Zhang, Toshiyuki Bangi
  3. “Shrinkage and tensile properties of ultra-high-performance engineered cementitious composites (UHP-ECC) containing superabsorbent polymers (SAP) and united expansion agent (UEA)”
    Construction and Building Materials, May 2022
    Li-Shan Wu, Zhi-Hui Yu, Cong Zhang, Zhen Yuan, Toshiyuki Bangi

下線のCong Zhangは全8論文の連絡著者(Corresponding author)である。

★番木俊之は架空人物?

驚いたことに、南洋理工大学の研究公正官(research integrity officer)のロデリック・ベイツ準教授(Roderick Bates、写真出典)が、番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)は、南洋理工大学に過去も現在も在籍していない、と証言した。

つまり、番木俊之は架空人物らしい。

南洋理工大学のサイトで検索しても、番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)はヒットしない。 → Search Results | NTU Singapore

「撤回監視(Retraction Watch)」が番木俊之の電子メールに連絡したが、応答はなかった。

架空人物と最初に見抜いた人物の正確な記載はないが、白楽は、ベイツ準教授が架空人物と見抜いた人物だと思う。

★論文撤回

南洋理工大学は、論文著者の1人が「架空」だったという理由で、学術誌(エルゼビア社)に論文撤回を要請した。

それで、学術誌は番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)の9論文(上記の8論文から1論文増えた)を撤回した。

撤回公告はどの論文でも同じで、次のようだ。 → 撤回公告

シンガポール・ナショナル工科大学(National Technical University (NTU) of Singapore)の研究公正官からの通報を受け、調査の結果、本論文の共著者の「番木俊之」は架空人物であることが判明した。

連絡著者が論文出版の過程で「番木俊之」を共著者に加えた。シンガポール・ナショナル工科大学はこの詐欺に一切関与しておらず、架空の共著者である番木には「hotmail.com 」の電子メール・アドレスが割り当てられていた。

偽造著者は出版規範に対する重大な違反で、研究記録を歪曲し、研究のあらゆる側面に疑問を投げかける。

連絡著者(corresponding author)は虚偽を認め、撤回の必要性を理解している。

撤回公告では「シンガポール・ナショナル工科大学(National Technical University (NTU) of Singapore)」とあるが、南洋理工大学(Nanyang Technological University (NTU) )と同じだと、白楽は理解した。

★コン・ジャン副教授(Cong Zhang、张聪)

番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)の全論文の連絡著者(corresponding author)は、中国の江南大学(こうなんだいがく、Jiangnan University)・環境土木工学院(School of Environmental and Civil Engineering)のコン・ジャン副教授(Cong Zhang、张聪、写真出典)である。

以下、因果関係がハッキリしないが、事態を経時的に示す。

2019年、コン・ジャン副教授はプロジェクトリーダーとして、国家自然科学財団から25万元(約500万円)の助成金を受け取った。

2023年4月17日、江南大学は、偽造著者を告発する手紙を受け取り、コン・ジャン副教授の偽造著者疑惑の調査を開始した。

[白楽注:誰が江南大学に通報したのか不明。シンガポールの南洋理工大学が中国の江南大学に通報したとすると、誰が南洋理工大学に通報したか? この通報者は不明である。それで、白楽は、ベイツ準教授が自分で見つけたと推測した]

2023年6月、コン・ジャン副教授は江南大学を辞職した。[ 白楽注:偽造著者だと大学が知る前の2023年 2月に辞職した、という記事もある]

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★スコーパス(Scopus)

2023年9月26日現在、スコーパス(Scopus)で、トシユキ・バンギ(番木俊之、Toshiyuki Bangi)の論文を「Toshiyuki Bangi」で検索した。2022~2023年の2年間の16論文がヒットした。この16論文には5件の撤回公告を含むので、実質は11論文である。

★撤回監視データベース

2023年9月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでトシユキ・バンギ(番木俊之、Toshiyuki Bangi)を「Toshiyuki Bangi」で検索すると、9論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年9月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、トシユキ・バンギ(番木俊之、Toshiyuki Bangi)の論文のコメントを「”Toshiyuki Bangi”」で検索すると、2019~2023年の10論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》偽造著者 

番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)は南洋理工大学に所属していなかった。

架空人物なので、リアル社会では、当然、どこにも所属していない。

「偽造著者」事件である。

架空著者を設定した犯人は中国の江南大学(Jiangnan University)のコン・ジャン副教授(Cong Zhang、张聪)だった。犯人の身元が掴めているので、「偽造著者(forged authorship)」の定義から少し外れる。

ただ、本来、コン・ジャン副教授は自分が本当の執筆者だと発覚しない前提で架空著者を設定したハズだ。

それが、全論文の連絡著者になっていたので、本当の執筆者はコン・ジャン副教授だと容易にバレた。

江南大学は教育部直属の国家「211プロジェクト」の重点大学で、コン・ジャン副教授はソコソコの研究費を得ていた。

だから、なんで、コン・ジャン副教授は番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)という架空人物をでっち上げ、共著者に加えたのか?

理由がわからない。

論文販売をしたのだろうか? 

顧客から、番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)を共著者に入れるよう要請があったのだろうか? その場合、実在の顧客が自分の名前でなく架空人物の名前を共著者に入れるよう要請するのはヘンである。これはナイ。

ウ~ン、理由がわからない。

白楽が把握していない闇の部分があるのだろうか?

どなたか、教えて下さい。

ーー追記(2023年9月27日午後)ーー

「Kan KIMURA No.3」さんが、「国際共著論文にするために、外国人著者を架空ででっち上げたんだ」と教えてくれた。 → ココ

そう思って、全8論文を確かめると、番木俊之(シンガポール)以外の共著者の所属国は全員、中国だった。

なるほど、です。

思いつきませんでした。感謝。

ーーーー

《2》論文撤回 

同じ「偽造著者(forged authorship)」の架空著者だが、番木俊之(トシユキ・バンギ、Toshiyuki Bangi)の論文は9報も撤回された。

一方、ドラガン・ロドリゲス(Dragan Rodriguez)は15~18報の論文を出版しているが、1報も撤回されていない。

7-125 架空著者:ドラガン・ロドリゲス(Dragan Rodriguez)

架空著者の場合、論文に記載された所属大学は虚偽である。

番木俊之の場合、シンガポールの南洋理工大学が当局(オーソリティ)として、ネカト調査し、架空人物と特定し、学術誌に撤回を要請した。

一方、ドラガン・ロドリゲス(Dragan Rodriguez)の場合、米国のケース・ウェスタン・リザーブ大学は調査していない。それで、当局(オーソリティ)から学術誌への撤回要請がない。

架空著者の所属先に選ばれたシンガポールの南洋理工大学はいい迷惑だったろうが、南洋理工大学・研究公正官のロデリック・ベイツ準教授はとても適切は対処をした。

《3》架空人物

実在していない架空人物の顔写真を、クリック1つで作成できるサイトがある。 → https://thispersondoesnotexist.com/

そのサイトで、今回、右の番木俊之を作ってみた。男性日本人の顔を選んだ。

この顔がもしあなたの顔にそっくりだったら、ゴメン。ご連絡ください。別の顔を作ります。

《4》中国メディア

番木事件では、架空著者を設定した犯人は中国の江南大学(Jiangnan University)のコン・ジャン副教授(Cong Zhang、张聪)だった。

中国メディアはこの番木事件をたくさん報道している。

中国人が犯人の「偽造著者(forged authorship)」だからとはいえ、今まで、中国は研究不正に寛容でメディアの報道は少なかった。

2023年初夏、白楽は中国科学新聞から取材された。そのこともあり、中国の研究界は研究不正に強い関心をもち始めたと、白楽は感じている。今後、しっかり改革する方向なのかもしれない。

8‐4 中国の王兆昱・記者の質問に白楽が回答

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●8.【主要情報源】

① 2023年9月5日のレベッカ・ソーン(Rebecca Sohn)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Eight papers retracted after author found to be fictional – Retraction Watch
② 2023年7月3日の「网易订阅」記事:虚构作者!8篇被撤论文披露造假套路,某高校教授承认学术欺骗|撤稿|文献|学术论文|science_网易订阅
③ 2023年7月20日の著者名不記載の「捜狐」記事:江南大学回应“捏造作者被撤8篇论文”:已报国家自然科学基金委_张聪_相关_事件
④ 2023年7月4日の「贾利略、孙雯雅、李瑞阳」記者の「中国科学新聞」記事:江南大学8篇论文被撤回:虚构作者,海外高校投诉—新闻—科学网
⑤ 2023年7月3日の「萧百尺」記者の「知乎」記事:虚构作者!8篇被撤论文披露造假套路,某高校教授承认学术欺骗 – 知乎
⑥ 2023年7月13日の「孟凌霄」記者の「手机新浪网」記事:“捏造”合著者  8篇论文撤稿了_手机新浪网

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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